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2016
01.21

恋の予感は突然に 28

司はマンションの入り口でオートロックを解除しながら考えた。
女と親しくなる手段として思い浮かぶものはなんだ?
それも手っ取り早く・・・
女と言っても相手は名目上では妻だ。
となればやっぱりセックスだよな?
何故かって?やっぱり気持ちいいはずだろ?
あいつあのとき気持ちよかったのか?


誰もいないロビーは静かで空調が効いており暖かかった。
司はエレベーターが到着するまでのあいだ、靴の踵に重心を乗せ点滅を繰り返しながら変わっていく階数表示をぼんやりと眺めていた。
ただ、俺たちの出会いはセックスで始まってるけどあいつは気持ちいい的なことは度外視した目的の為だった。
あくまでも目的は子供を作ることで、俺には興味がなかった女だぞ?

それも人生で初めての経験が俺。決して自惚れるわけじゃないけど初めてが俺でよかったよな?女にとっての初めては大事なものなんだろ?
あの女がスレた女なら誘惑して身体の関係に持ち込むという手もあるが、あいつはそんな女じゃないから迂闊にそんなことして・・・また関係をこじらせたくない。
その気にさせて、いい気持にさせてってのはいいと思ったんだが無理だな。
二人の出だしは散々だったが俺の気持ちは意図せずしてあいつに傾いていった。
まったく34にもなるってのに女のことで不安を持つなんておかしいよな。

考えてみれば今まで付き合った女とはどこか距離をおいて付き合ってきた。
それ以上踏み込むなと言う目に見えないラインがどこかに引いてあったはずだ。
それは若い頃から女に追いかけ回され、新聞、雑誌にあることないこと書かれれば他人と距離を置きたくなるってもんだろ?
けど、あの女はその目に見えないラインなんて関係ないって感じで踏み込んできた女だ。
ある意味自分の信じる道を突き進んでくる女だよな・・・
なんだ、そんなところは俺と似てるんじゃねぇか?
ちょっと、いや大分常識から外れていると思うが、あの女の常識なんてわかったもんじゃねぇしな。

おい、もしこれからあいつといい感じになったとき妊娠してるけどヤッても大丈夫なのか?
あいつの腹の中にいるのは俺の子供だぞ。
そんなことしてもしものことがあったら俺は一生悔やむ。
当然だが俺は妊婦なんて相手にしたことがねぇからな。
俺の倫理観からいけば人のモノに手を出すなんてことは考えられねぇ。
それに他の男と女を共有するってのも考えられねぇ。
そうか!その道の専門がいるじゃねぇか。
あきらに聞きゃあいい・・・あきらは妊婦とやったことがあるのか?


けど、なんて聞けばいいんだ?
俺があいつと結婚したなんてことは言ってない・・
誰にも言ってないからな・・・
あの日、俺の誕生日プレゼントと言う触れ込みでやって来た女。
勇気があると言うか、無謀と言うか恐怖心が欠如しているというか・・
見知らぬ男に抱かれて、それも目的は自分だけの子供が欲しいからだなんてこと普通の人間ならまず考えないはずだ。
それも初めての経験を見知らぬ男に身を任せてなんてやっぱり普通じゃない。
それでもまだ自分の親友に男を紹介してもらうなんて考えるところは、堅物の学者センセーらしいと言うか・・・そうでなければ男なんてどこでも見つけることも出来ただろうに。

あの大きな目を見開いて自分の得意分野の話をするときの表情は率直だ。
たしかにあの女は美人じゃないが、恥ずかしそうにすぐ顔を赤らめるところなんて少女のようだ。あの恐るべき行動力と比例するのは頭の良さだが、それ以外は意外とぼんやりとしているところもあるな。ぼんやりと言うか浮世離れと言うか・・。

そんなつもりじゃなかったけど、あいつに恋したんだから仕方がない。
この見せかけの結婚をどうやったら本物に近づけていくかが俺に課された問題だ。
あいつの話しに耳を傾ける努力をしてやることが大切だってことは理解した。
よくわかんねぇ研究についても聞いてやることがあいつにとっては嬉しいってことだよな。
確かに人は自分のことに興味をもって頷いてくれる人間には自ずと心を開いていくものだ。


玄関を開錠しながら司は大きなため息をついた。
あと結婚生活のいろはってのもあるらしいな・・
どうやらそのひとつってのは便座を下ろすか下ろさないとかで揉めるらしい。
なんだよそりゃ?
便座の上げ下げ?意味がわかんねぇな・・・
なんでそんなちっちぇえことで揉めるんだ?
それに俺たちはそんなもん共有してねぇし・・
ってことはこの事では揉めることはねぇよな?
これで世間がいう結婚生活の問題点のひとつは解決したな。

司はつくしの部屋の前で立ち止まった。
さて、なんと言って声をかける?
起きてるか?
ただいま?

司は意を決してつくしの部屋のドアのノックした。
が、返事はなかった。
風呂でも入ってるのか?


司は水でも飲むかとキッチンへと足を向けた。
この結婚について、司が考えていたのは不本意だが自分の倫理観と姉の椿に対する思いといった感情しか抱いていなかったのだ。
司は冷蔵庫から取り出したミネラルウオーターを口もとに運ぶと苦笑いしたいような気持になっていた。
まさか自分に子供が出来て、そして結婚してるなんてことは誰も考えもしないはずだ。
これは罠なのかそれとも運命なのかと考えてもみた。恋愛に関して言えば長いあいだ勝手気ままに過ごしていただけに戸惑いもあった。
結婚するはめになった女は頭のいい女で、だが大嘘つきで生意気でそれでもどこが憎めないチビだった。
そんな女に対して恋に落ちるとどうなるか。
まさかあいつらに聞くのか?


そんなことを考えていた司の目に映ったのはリビングのソファで寝ているつくしの姿だった。
あいつ、なんでこんなところで寝てるんだ?
司は部屋の真ん中で横になっている女の傍まで近づいた。
つくしは死んだようにぐっすりと眠っていた。
どうしてこの場所で眠っているのかは分からないが胸にはしっかりとクッションを抱えている。そして規則正しい寝息が聞こえてきている。
このままここで寝かせておいていいものか?
いやダメだ。こんなところで眠らせて風邪なんかひかれたら大変だ。
やっぱり起こすべきか?
司は両手を持て余していた。
まったくこの女は・・・
俺に向かって風邪をひかないようにしないとね、とかお互いに気を付けないとね、なんてこと言っといて自分はどうなんだよ。
人の身体のことを考える暇があるなら自分のことをもっと考えろよ!
おまえの身体はおまえだけの身体じゃねぇんだぞ!
司はいったい自分は何に足を突っ込んでしまったのかと自問しながらもつくしを見下ろしていた。

それに既婚の男が法律上の妻の前で解放されることのない欲望を抱えているなんて・・
いったい俺はどうしたいんだ?
滑稽だよな・・
こんな俺の姿は誰にも見せられねぇな・・・

「しょうがねぇな・・・」
司は小さな声で呟いた。

司は片手をつくしの肩の下に差し入れ、身体をそっと起こすと抱き上げた。
つくしの片方の腕だけが抱きかかえられた司の腕の中からこぼれ落ちてゆらゆらと揺れている。
この女、一度眠ったら二度と目が覚めないんじゃないかってくらい寝ていやがる。
いや。
でもあのとき、ホテルで目が覚めた時にはこの女は俺の前から消えていた。
どうやら自己防衛本能だけは持ち合わせているのか?
逃走能力は人一倍か?

けど、おまえもう逃げられねぇと思え。
俺は少なくとも自分が愛している者に対しては愛情深い男だ。
その代わり愛していない者に対しては非情だぞ?

司はつくしを部屋まで運び込むとベッドへ横たえた。
彼は指先でつくしの頬を突いてみた。

「う・・ん・・・」
お?気が付いたか?
「おなか・・」
どうした!どっか具合が悪いのか?
司はお腹の子供に何かあったのかと言う思いで慌てた。
・・・なんだよ寝言か?

無邪気そうに寝てるよな・・この女。
俺がどんな気持ちでいるかわかってんのかよ?

俺はそのとき、いいことを思いついた。








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2016
01.20

恋の予感は突然に 27

あいつに不意打ちを食らわせてやった。
あんときの顔を思い出して思わず笑いそうになっていた。
すげぇびっくりした顔してた。
司は間違いなく学習していた。
あのチビで嘘つきで天邪鬼な女のことを。
これからはあいつより優勢に立ってやるつもりだった。

なんか知らねぇうちにこんな気持ちになってたなんて俺ってどうなんだ?
けど俺たちって結婚してるんだよな?
ならいいんだよな?
何しても?
あんときあいつにキスしたら
「あ、頭おかしくなった・・?」
と言われた。
確かに自分でもそう思った。
でも仕方ねぇじゃねえかよ。俺が恋したら悪りぃのかよ?
俺は一度こうと決めたら良いも悪いもその道を進むことが男だと思ってる。
俺はあの女と違って正直な男だからよ。
世間が何を言おうとやりたい事をやりたい時にパッパッとやるのが俺の人生哲学だ。


よし!俺は決めた。
司はマンションまでの帰り、車の中で口笛を吹いていた。




***





つくしはリラックスできる服に着替えるために割り当てられた部屋へと向かった。
先ほど自分のマンションに立ち寄り郵便物を回収してきたところだった。
もちろん自己資金で買ったマンションで決して賃貸ではない。
女がひとり自立して生きていくと決めた時点で一大決心をしてマンションを購入することにした。
さすがに全額を現金で支払うことは無理だったが、頭金はしっかり入れたし残金のローンの信用保証も問題なくクリアしていた。
たとえ今はあの男とこのマンションに暮らしていても、あくまでもこれは一時的なことでいつか自分のマンションに戻るつもりだ。
それは何があったとしても気持ちが変わることがないと思っていた。

届いていた郵便物はダイレクトメールに各種使用料金の請求書・・・
そのなかに一通の封書を見つけたつくしは嬉しくなった。
はさみを手にして封を切ろうとしていたところに電話が鳴り、つくしは鞄の中から携帯電話を取り出した。

「もしもし?」
「つくしなの?」
「し、滋さん?」
「久しぶりっ!誰だと思った?」
つくしはベッドの端に腰をかけると滋と話し始めた。

「つくし、それでどうなの?妊娠したの?」
「えっ?」
「つくし?」
「うん・・・したみたい」
「ちょっと!嘘でしょ?つくしと司って一発で的中?」
「さすが司だわ・・やるときはやるものね」
滋は興味津々で聞いてきた。
「それでもうお腹膨らんだ?」
「そ、そんなすぐにふ、膨らむわけないでしょ!」
つくしは自分のお腹を見下ろした。

「で、つくし病院には行ってみたの?」
「あんたたち一緒に暮らすことになったらしいけど、実のところ司との暮らしって
大変でしょ?」
「うん・・病院にはまだ行ってないんだけど・・多分ね・・で、子供のことがバレてから同居生活になったんだけど・・」
電話の向うで滋がかぶりを振る姿が目に浮かぶようだった。
「つくし、病院でちゃんと見てもらいなさいよ?つくしはのんびりし過ぎじゃない?」
「それから、ごめんね・・つくし。あたしが司にあんたのことを話したばっかりにこんなことになってさ」
「ん・・いいのよ滋さん・・あの男が意外と・・家族想いだって知って驚いたけどね」
「もしかして椿さんのこと聞いたの?」
「うん、聞いた・・」
滋はつくしのその言葉に司がそこまでつくしに話しているならばと話しを継いだ。

「司はねぇ、椿さんに育てられたようなものだから・・つくしに子供が出来たって知ってその子供がどうしても欲しくなっちゃったのね・・・欲しいって言ってもどうにもならないけど、せめて関わり合いたいって思ったのね、きっと・・。それに椿さんにしたら司の子供なんて可愛くて仕方がないと思うわ」

つくしはあの日、あの男の姉と会った時のことを思い返していた。
椿さんはどう考えてもあたしなんかみたいにお金持ちのお嬢様でもないような女がなぜ自分の弟と親しく・・結婚する事になったのか理解できなかったはずだ。
本当は二人には何の接点もなくて、ただあたしが・・自分だけの子供が欲しくて・・あんな行動を起こした結果だった。
そしてあの男はどんな形で出来た子供だとしても、子供を思う古くさいくらいの倫理観を持っていてあたしのことを、そして欲しいと望んで出来たんじゃない子供のことも考えてくれている。
それにキスされて・・・おまえに恋したって言われた・・

「ねぇ!つくし、聞いてる?いっそのこと司と結婚しちゃったら?」
「な、なに言ってるのよ・・・滋さん!」
「そ、そんなことしたら・・」
「あーそうよねぇ。つくしは自分だけの子供が欲しかったんだしね。バカな男の遺伝子が欲しいって司をご指名ってわけで・・・」
全然バカな男じゃなかったけど・・
「でもさ、既成事実婚って感じだよね?」

つくしは本当は入籍していると言うことを告げようかどうしようか迷っていた。
「でもねぇ司が女と同居生活を送るなんて思いもしなかったわ」
「司って男は昔から美男子だったけど、どこか影があってね。最近じゃ年のせいか凄みまで感じさせるような男になってきたし、おまけに危険な香りまでさせてきた男がつくしと同居してるなんて驚き以外にないわよ!」
滋はそんなつくしが羨ましいと言った。
「ねぇ、司のことだからいつもブスっとした顔してるんじゃないの?つくし大丈夫?いくら美形でも笑わない男の顔なんて見たくないよね?」
「まあ、それでも男は上手に質問すればどんどん話をしてくれるものだから、つくしもそうしてみたら?」
「男ってのはみんな心は少年のままなのよ?」




つくしは滋に告げることが出来なかった。
実は入籍したの・・・
それにおまえに恋したって言われて、今のあたしはどうしたらいいのか分からなかった。
色々なことが頭を巡って考える時間が欲しかった。
実は頭がよくて、家族想いで・・そして、道明寺司は笑顔が素敵・・
つくしは自分の気持ちが揺らいでいるのを感じていた。
少し前までの自分は誰かを思って気持ちが揺れるなんてことがあるとは考えてもみなかった。
まして、恋をするなんて考えたことも無かったし、そのことに関していい思い出なんてなかったから・・。
だから男は必要なくて自分だけの子供が欲しかった。その子には平凡な人生を歩ませてあげたいし、自分もその子供と一緒に新しい人生が歩めると思っていた。

あたしはどうしたらいいんだろう・・
つくしは胸のうちで呟いていた。








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2016
01.19

時の岸辺

Category: 時の岸辺
道明寺司は決して沢山のゴシップで名をなしてきたわけではない。
彼は豪奢な生活をしていたが退屈な人生だった。
その人生は幼少時から決められていたが、彼の少年期は平穏な生活とは程遠かった。
いわゆる非行少年とは異なり、価値のある何かに対しての固定観念を覆す行為を好んでいた。
その手にするものは、その手に欲しいものは何でも手にすることが出来た。
そんな男は、自分の脚元にひれ伏す人間をいつも見ていた。
そしてそんな人間たちをいつもうんざりとした表情で見ていた。
なぜ、自分の周りの人間は俺に迎合する?
金があるからか?権力があるからか?
だかそのどちらも決して自分の力で成したものではなかった。
そして、そのことに気づかされたのは、あるひとりの少女との出会いだった。

自分に迎合しない女。

その女が彼の世界を変えた。
だが、その世界が長く続くことはないと自分でも気づいていた。
どれほど彼女を愛し、誇りに思い、そしてどんなに嫉妬深かったかと自分を思い出していた。
もっとも、その全てが最初から彼の心にあったわけではなかった。
出会った初めの頃、彼にとっての彼女は蔑みの対象であり、彼女にとっての彼は軽蔑の対象だった。
彼は少しだけ顔をしかめると、あの頃の思いを懐かしんだ。
だがまだ思い出に手を振るほどの年齢ではなかった。



ひとりぼっちの女がいる。
彼の属する社会階層とは異なる世界にいる女。


ひとりぼっちの男がいる。
彼女の生活する世界とはかけ離れた世界にいる男。


互いに住む世界は違っても、孤独な人に見られる孤高を隠すように生活をしてきた。
それは互いに迎合することを嫌っていた二人らしい生き方だった。






冷たい風が吹く季節に、二人がこの場所で再会することが運命だというのであれば、かつて心に決めたことを成し遂げたいという思いが彼の心の中にはあった。
まさに、これから自分がやるべきことはそのことだ。
ただそれだけだと思った。
長い人生のなか、最後に自分が自分らしく生きるためには例え他人から見て滑稽だと思えるようなことでも、彼女に愛しているという言葉を伝えることこそが、自分が最後にやるべきことだと思っていた。



彼は彼女と別れた後ひとりで生きてきた。
だが孤独だとは思わなかった。
企業経営者としてこれが自分の人生に課せられた使命だと思って生きていた。
他人から見れば、傷つく心など持ち合わせていな人間として見られていると言うことは分かっていた。


彼女は彼と別れた後ひとりで生きてきた。
自分のやるべきことをこなしながら日々過ごしていた。
左の胸に輝く自由と正義、そして公正と平等を表す黄金色の記章が誇りだった。
他人から見れば、上昇志向が強い女性として見られていると言うことは分かっていた。



ふたりの視線が交差したとき、彼女が一瞬だけ頷いてみせた。
だが、この場所で言葉を交わすことは出来なかった。
彼は靴音だけを響かせ、彼女の隣を通り過ぎることしか出来なかった。
そんな彼には声にならない言葉が聞こえてきたような気がした。
波乱に富み平穏な人生とは言えない彼の人生のなか、ただひとつの光がそこにあった。


二人が別れてしまってからの年月、過ぎた日々を振り返ってみたところでどうしようもなかった。

愛が無くなった訳ではなかった。
愛を感じられなくなった訳ではなかった。
だが、人生には追いかけても手に入らないものがあると知ったのは、まだ二人が若い学生の頃だった。



彼の生活の中で彼女の後釜に座った人間もいた。
だがそんな人間も彼の心が自分には無いことを知ると苛々としはじめる。
そしてそんな関係が長く続くわけもなく、短期間での別れを何度か経験していた。
そんな関係を幾度か繰り返せば、自分には彼女以外の女性を愛することが出来ないのだということに気がついた。


本当に求めるもの以外は、必要がないという結論にたどり着いたとき、彼は自分の人生を振り返ることをやめた。
そして金で買えるような幸福なんて必要ないと思っていた。



つくしは久しく鼓動したことが無かった胸の高まりを感じていた。
それは、偶然の再会に対しての懐かしさだったのだろうか。
彼のことを耳にしない、目にしない日は無かった。
いつもどこかで彼のことを、彼の存在を感じていた。
そしてつくしが目にする彼はいつも無表情だった。

テレビの画面越しに見る彼。
新聞や雑誌の表紙を飾る彼。
どの彼もつくしが知る昔の彼とは違っていた。
今となっては二人が別れた理由は何だったかなんて関係はなかった。
つくしの心のなかでは、ふたりが経験をした事だけがいつまでも思い出として残っていた。


彼には・・・良家の娘こそがふさわしかった。
確かに彼女は貧しい家の娘であり、彼にはふさわしくなかった。

静かな場所で別れを決断したふたり。
忘れないでねとは言わなかった。
早く忘れてとも言わなかった。
つくしの目には、その時の光景が思い出されて涙が溢れた。


つくしは、ひとりぼんやりとしていた。
ふたりが別れを決めた場所。
時の経過にもかかわらず、今もこの場所はある。
ひとりぼっちでこの席に座る。
ひとりコーヒーを飲みながら片手でページをめくっていた。
そこには無表情な顔がこちらを見ていた。
年をとってもこの人は変わらない・・・
いつのまにか彼女の右手の窓越しは、白く景色を変えていた。
窓の外は雪が降り続いている。
あのときも寒い日だった。
ちょうど今日のように。
もう随分と前の話しだが、昨日のことのように感じられていた。


あのときは彼が立ち去った後、つくしだけが残っていた。
彼は覚えているだろうか?
今日のこの日が、あたしたちが別れた記念日だということを。
つくしは急に笑い出しそうになった。
高校生のころ彼と行った店を思い出していた。
まだ子供だったあたしは、パフェを食べ、彼はコーヒーを飲んでいた。
甘すぎて彼には食べられなかったパフェ。

もう十年このかた思い出しもしなかったが、青春時代の懐かしさがこみ上げた。
こんなことを思い出したのは、彼と偶然の再会をしたからだろうか。
あのとき、懐かしい顔を見て思わず話しかけたくなった。
だが彼の周りには沢山の人間がいて、そしてあたしが近寄れるような人ではなかった。

つくしはページの中の男に話しかけた。

「力をちょうだい・・あんたに話しかける勇気をちょうだい・・・」

窓の外の世界は深い白へと変わっていく。


『 同じ時間を生きることが出来なくてゴメン・・』

それがあのとき、最後に交わした言葉だった。





「話しかけたらいいじゃないか?」




不意に聞こえてきたその声に頭をあげた。
そこには呆然としているつくしの顔を可笑しそうに見つめている男がいる。
堂々として何者も近寄りがたい雰囲気を持った男が。


言葉はいらないと思ったが沈黙が怖かった。
話すことは沢山あった。
話したいことは沢山あった。

つくしは、自分が何をしようとしているのか分からなくなっていた。
それでも、彼女は立ち上がるとその男に向かって一歩を踏み出していた。










今となっては、ふたりの間に何があったかなんてことは関係がないように思われた。
愛の本質を理解する時間がかかり過ぎたと言うだけのことであり、これから先、愛すべき人と一緒にいられることの方が大切だった。
そして二人は、何もなかったかのように優しさを分かち合うことをした。
つくしの身体に回されている腕に力がこもった。
彼女は司の腕に抱かれ幸せを噛み締めていた。
そして、回されている彼の腕にそっと手を添えた。



ほどなくして、二人が一緒に暮らし始めたという連絡を受けた友人たちは、彼ら二人の幸せがこの先も続くことを確信していた。

「二人での幸福なんてそんな簡単に手に入るもんじゃないよ。それは金で買えるものじゃないよ」 そんな声が聞こえてきた。








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2016
01.18

恋の予感は突然に 26

妙な気分だった。
それにしてもなんで俺はこの女と一緒にいるとこんなに笑ってられるんだ?
こいつとの同居生活なんて落とし穴だらけだと思っていたがこの女との関係は何かが変わった。
あの日、こいつの意味不明の論理を聞かされているうちに胸の奥にわけのわからない感情が沸きあがってきた。
この感情をなんと言うのかわからないが、初めての経験であることは確かだ。




「ねえ、ど、どう?」
司はつくしに声を掛けられてまごつきながら彼女に焦点をあわせた。
「あ?ああ・・不味くは・・・ねぇな」
「けど、これは何なんだ?」
司が箸の先でつまみ上げたそれはきくらげだった。
つくしはニンマリとして言った。
「司坊ちゃんがお嫌いなものです・・」
「なんだよ!なんでおまえがぼ、坊ちゃん呼ばわりするんだよ!」
「え?食材を配達してきてくれたお邸の人から聞いたから」
「だって嫌いなんでしょ?坊ちゃんはこの食材がお嫌いで小さい頃からよく残されていました~ってね。だから小さく刻んでみたの。あまり食べないからわからない?」

黒くて・・・艶があってちょっと皺がよっててね・・
水につけて戻すと大きくなるんだけど、ちょっとヌルっとしてて・・
無味無臭で・・噛むとコリコリするの。

おい、おまえその表現、なんか卑猥じゃねぇか?
まさかわざとそんなこと言ってるんじゃねぇよな?

「ヒントはビタミンDが豊富!ビタミンDは免疫反応にも関与するのよ?」
また始まったぞ免疫学に関する講義が・・
この学者センセーは本当に真面目だよな。
「さあ!なんでしょうか?これは簡単でしょ?」
こいついつも俺に対して嬉しそうに問題を投げかけてくるよな・・
目なんかキラキラさせやがって・・・
そんなに俺をやり込めたいのか?
この前なんか免疫抑制剤のなんとかがなんとかで?
ラットに注射したらゲージの中でクルクル走り回り出してびっくりした・・とか。
わかるわけねぇだろうが・・・
俺は研究者じゃねぇぞ!企業経営者だ!
でもこいつの話すことは何故か可笑しい。
その点は疑問がない。
ちょっと生意気だが微笑ましい気分にさせてくれる。




「・・わかったらなにか褒美でも出るのか?」
「えっ?」
「褒美だよ、ご褒美!」
「なに?ご、ご褒美って?」

激しい欲求とは違い穏やかな飢えが司を襲った。
司はつくしをじっと見つめながら笑い声ともうめき声ともいえないような声を漏らしていた。
・・どうするかな・・この学者センセーを・・・
「な・・なにが・・ご褒美って・・」
司の端正な顔に女ごころを溶かすようなけだるい微笑みが広がった。
そしてその目がじっとつくしの目を見つめてくることでつくしは焦った。
どうしてそんな目であたしのことを見るの?
な、なんか変?
あ、なにか顔に付いてるの?
つくしは慌てて自分の口元に米粒がくっついていないか手を伸ばして確かめてみた。
大丈夫・・なにもついてない・・と思うけど?




二人の間には先ほどまでの騒がしさが嘘のように沈黙が広がっていた。
今夜は機会あるごとに二人の関係に楽しさが加わってきたかのように思えた。
だからつくしもわざとからかうように話しかけていた。
それでもつくしは司に対して冷静でいようと心がけていた。
二人の関係がこれ以上進むなんてことは考えてはいなかったから。
でも、この男が自分に向ける明るい微笑みには逆らえないような気がしていた。
ど、どうしてそんなふうにあたしを見つめるの?

そのとき、つくしの耳は湯呑が転がる音をとらえた。
「あっ・・」
テーブルのうえに若草色が濃い液体が扇状に広がった。


つくしは慌てて布巾を取りに行くとテーブルに広がったお茶をせっせと拭き始めた。
「ご、ごめんなさい。だ、大丈夫だった?」
「あ、あたしったらおっちょこちょいだってよく言われて・・」
「ほ、本当にごめんなさい・・」
あたしがぼんやりと考えごとなんてしていたから・・・つくしは心からすまなく思っていた。

「ああ・・まずいな・・」
「おまえ派手に転がしたな・・」
「ご、ごめんなさい。そっちまで濡れちゃった?ちょっと待ってて!」
つくしは急いで浴室から新しいタオルを手に取ってくると司の傍へと近づいた。
「本当にごめんなさ・・」
言葉が尽きたとき、司のからかうような表情が消えそのまなざしが危険な熱を帯びてきた。
男が片手を伸ばしてきたのでつくしはてっきりそのタオルを寄こせと言うことかと思っていた。
気ばかり焦っていたつくしは男の表情が変わったことなど気がつきもしなかった。
あっと思った次の瞬間、つくしの手に握られていたタオルはいつのまにか宙を舞ってどこかへ落ちた。
そのかわり男の手がつくしの手を包んでいて、気づいたときは引き寄せられていた。
そして温かい唇がつくしの唇を覆ったとき、おまえに恋する予定はなかったけど・・
と低い声で囁かれた。
それは短く甘いくちづけだった。








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2016
01.17

金持ちの御曹司~自己解釈~

金持ちの御曹司・・
いまだに俺のことをそう呼ぶ人間が社内にいるらしいじゃねぇか?
確かに俺んとこは金持ちだ。
なんか文句あるか?それが悪いか?
生まれた時からそうなんだから仕方がねぇだろ?
子供は生まれてくる家なんて選べねぇんだからよ。
金持ちできわめてハンサムな男。
それが俺だ。
危険な香りを漂わせる支社長として社内の評判はすこぶるいい。


そんな俺のいとしい女が牧野つくしって名前の女。
まあ、色々とあって今に至るんだがその色々は省略する。
もう色々と有り過ぎていちいち説明すんのがメンドクセ―んだ。
それになんか知んねぇけど牧野が話す俺たちの話しってのが8割増しになってんだ。
8割増しだぞ?なんだよそりゃ?普通は2割増しくらいじゃねぇの?
けどよ、話し半分って言うだろ?
だから・・・8割増ししての半分ってことか?
なら6割くらいか?世間より1割ばかり多い気もするが・・
まあいいじゃねぇか。俺たちの話しも4割が・・つぅか殆どがあいつの妄想だったってことだよな。
高校時代赤札貼ったとか、石投げられたとか、車で引きずり回されたとか・・あとなんだ?
ババァに別れさせられたとか?俺がおまえのこと忘れて他の女とイチャイチャした?
アホか。そんな事あるわけねぇだろうが!

あの頃は牧野争奪戦ってのがあって俺と類とでバスケの試合したりして、あいつの獲得競争みてぇなこともあったけど、最終的に俺が牧野を手に入れることができた。
それは俺の愛情が類よりも深かったってことだ。
けど牧野のやつ俺のこと好き過ぎて被害妄想が激しくなってたんじゃねぇのか?

俺のなかの妄想はもっと・・・・
あれだ、ラブライフについてだな。
もう付き合って何年にもなるのにカマトトぶりやがってあんなことや、こんなことなんて出来ねぇなんて言いながらも、最後にはあんあん言っていやがる。
こいつアレんとき意外に声がでかくて俺もその声を聞くだけでイキソウになることがある。
昨日なんてちょっと縛ってヤッたら意外と良かったのかいい声で啼いてたぞ?
そのあと色々ヤッて泣いてもなかなか許してやんなかったけどよ・・


でも可愛いよな・・
そんなところがよぉ・・
意外だけどあいつ昼と夜とじゃ人間が違うぞ?
ツンデレ牧野ってことだよな?
あいつ俺のことが好き過ぎて話が8割増しになったんだな。
よし!
俺もおまえの事が好きでたまんねぇからその気持ちを示すつもりで給料8割増しにしてやった。
おまえの給料、今月から8割増しにしたからな!



いきなりバアーンと執務室の扉を開けてきた俺の女。
「道明寺っ!なんてことしてくれたの!」
「あ?なんだ?礼ならいいぞ、俺の気持ちだからな」
「な、何が礼よ!やっぱりあんたの仕業なの?な、なんであたしの給料がこ、こんなにも増えてるのよ!」


給料が上がるってのに何が不満なんだよ!
見たぞ、おまえの人事考課を!
人望っての?あれがすげぇいい。
うちの会社なんて能力バリバリの成果主義みてぇなとこもあるけどよ、そんな中で人望を集める人間なんてのは会社にとっては貴重な人材だ。
人望ってのは金を出して買えるもんじゃねぇ。
欲しくて手に入るもんじゃねぇし、普段のおまえの人徳がそうさせるんだよな。
おまえやっぱすげぇいい女だよな。


俺も昔は人望ってやつに憧れたよなぁ。
ま、羨望ってのはあったかもしんねぇな。
何しろ俺んちは金持ちだったからな。

こいつ俺がニューヨークから帰国したその翌年にはうちへ入社してきたかと思えば、あっと言うまに出世階段を上り始めた。
適材適所っていうのか?こいつの負けん気の強さと一本芯が通った根性を見込まれて
海外事業本部で女だてらにガンガン仕事していやがる。
今度インドネシアでのガス開発事業に係わるとかで出張だなんて俺は許すつもりなんてないけどな。あいつが行くなら俺も行く。
みろ、俺はちゃんと考課結果をもとに精査したんだしなんもやましいことなんてねぇぞ?
だからおまえの給料があがってんだよ!


俺は他にも言いたいことがある。
社内での俺たちの関係は秘密だなんていってるけど俺のフロアの人間は知ってるぞ。
いいじゃねぇかよ別にバレても。
何が嫌なんだよ牧野!
バレるのが嫌なんて言ってもここまで堂々と乗り込んでくるんじゃバレてんぞ。

仕事に差し障るとかいうが何が差し障るってんだ?
あれか、上司に特別な目で見られるから嫌だとか同期の中にはあんたの親衛隊がいるから殺されるとかってやつか?
おまえを特別な目ぇなんかで見る男がいやがったら俺がそいつに特別な待遇を用意してやる。
それにおまえは黙って殺されるような女かよ!
車で引きずり回されても屁とも思ってなかっただろうが!
それにこいつの根性の座り具合なんて昔の比じゃねぇと思うぞ?







わかった・・・わかったから・・・
牧野、やめてくれ!
落ち着け牧野!
靴を投げようとするのはやめろ!

こいつさすがに大人になってからは飛び蹴りなんてしなくなったけど、そん代わりに履いてる靴を脱いで投げてきやがる。

俺は昔おまえに蹴りを入れられてから目の前に靴が飛んで来るのがトラウマになってんだ。
あれから俺の苦悩の日々がはじまったんだからな。
苦悩と失恋の物語だった・・・


おっとあぶねぇ・・・
牧野が投げて来た靴はヒュンと俺の顔の傍をかすめて飛んでったと思ったらころんと俺の背後に転がった。
女の靴のヒールなんてすげぇ尖っててありゃ凶器じゃねぇかよ!
あんなもんがまともに当たってみろ!
怪我すんじゃねぇかよ!
おまえの大事な彼氏様を傷もんにしてどうすんだよ!
まあそうなったらそうなったで責任とって婿にもらって貰うしかねぇよな・・
しかし女ってのは恐ろしいよな・・あんな凶器を身につけてるんだからな。
あんなもんで踏まれてみろ、痛てぇぞ?
そういう趣味があるなら別だけどよ。
いつだったか俺のイタリア製の革靴に穴を開けるつもりかって言うくらい踏みつけてきやがった。
あれはわざとか?
故意なのか? ああ、あんときは悪意を感じたぞ・・・
あんときはどっかの爺さんの孫が成人の祝いだってパーティーを開いたときか?
写真週刊誌に取られたって写真が悪かった。
俺はなんもしてねぇけど、あのブスが勝手に抱きついてきやがったんだ。
いつもはそんな写真週刊誌の記事なんてなんとも思ってねぇ牧野がなんでかあん時は怒ってた。
なんでも俺の顔が女にだらしない男に見えたらしい。
普段のこいつは俺のことなんか、週刊誌に載ろうがテレビで騒がれようがあたしには関係ありませーんなんて顔してるが何だかんだ言っても俺のこと好きなんだよな。


ところで今の俺たちは睨み合ってんのか?
それとも見つめ合ってんのか?
ヒールを脱いだ牧野はいつもより小さく感じられた。
こいつちっちぇえくせに昔から俺に対しての態度は高圧的なんだよな・・
俺の方が見下ろす形なんだから威圧的だろ?
それでも惚れた弱みってやつか・・
こいつに睨まれてもなんか嬉しいんだよな。
やっぱ俺、相当こいつに惚れてるな。

そういやぁ会社でヤッたことってまだなかったか?
俺のデスクで仰向けになった牧野ってのも見てみたい・・
デスクの上で手足を広げた状態で懇願させてみるのも悪くねぇよな?
車ん中でヤッたときだって普通じゃないくらい最高だった。


いいか、牧野。
その片方の靴投げんなよ?
でもってもっと近寄れ?
こい、牧野。
そうだ、もっとこっちへ来い牧野。


俺は想像の翼を広げていた。想像じゃなくて妄想か?
これからおまえにしようとしてることがわかったらこいつはどうする?
牧野が投げつけてきた靴を拾うはめになるのはいつも俺だ。
しかし女に靴を履かせる行為ってのもなんか倒錯的でいいよな。
あいつのまえに跪いて華奢な脚首なんか掴んで細せぇヒールの靴を履かせんだ。
それから脚に手を滑らして膝を押し開いて・・・あいつの膝の間に顔を埋めて太腿で締め付けてもらう・・・
裸にヒールだけの姿なんてのもそそられるな。


それに牧野をデスクのうえに仰向けに寝かせあいつのスカートをたくし上げて口で牧野を呻かせるなんて考えてる俺は変態か?
俺の手のひらで牧野の脚を撫であげて・・パンティを脱がしてあそこを舐め尽くすなんて考えただけでスラックスの中でモノが脈打ってる。
柔らかさなんてとっくにどっかへ行った。


司は低く笑ってつくしを捕まえると手首を握る手に力をこめた。
そして両手を絡めとりゆっくりとデスクの上に横たえると頭上で押さえつけた。
暴れても無駄。
こいつが手にしていたあの凶器はどっかに転がっていった。
あんなもん履いたままで蹴りなんか入れられたらたまったもんじゃねぇ!
大事なモン使えなくなったらどうするんだよ!
これから先、困るのはおまえなんだからな。


喚くな牧野。
おまえが来てるってのに誰も入ってなんてこねぇよ。
ここの奴らは俺とおまえのこと知ってんだよ、バレてんだよ!
だから・・入ってこやしねぇ・・・・
こいつ普段は山猫みてぇに激しい女だけどベッドの中で可愛がってやったらやたらと甘えてきたがる。
おい、こいつ・・かわいらしいため息なんてつきやがって・・
諦めたのか?そうなのか?
かわいいどころじゃない・・
おまえが俺にとってどんなに特別な存在なのかわかってるのか?
「愛してるぞ、牧野」
俺は言わずにはいられなかった。


司はにやっと笑った。
軽々と抱えられたつくしの両脚は床から浮きあがった。
そして司の片手がブラウスのボタンに伸ばされてきたときつくしは凍り付いた。
そのつくしの口から聞かされた言葉はとても愛する人に向かって言う言葉ではなかった。

「地獄へ堕ちろ!道明寺!」

「おまえが一緒ならどこへでも堕ちてやるさ」司の声は低く響いた。



ひでぇこと言うよな。
けど、とりあえず今は天国に連れてってやるよ。








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「金持ちの御曹司」一話完結として不定期ですが掲載しますのでよろしくお願いします。
Comment:10
2016
01.16

恋の予感は突然に 25

そこには圧倒的に男を感じさせるものが置いてあった。
つくしは悩んだ。
やはりこれは親切心からあの男の部屋へ持って行くべきか・・?
あの男の洗濯物はすべて邸で管理されていて使用人さんが届けに来てくれる。
全てがきれいにパッキングされた状態でリビングのテーブルのうえに並べられている。
お邸の使用人さん曰く、司坊ちゃんは潔癖なところがあるのでお洗濯は長年ランドリー担当のベテラン使用人に任せてあるそうだ。
ランドリー担当使用人って?どっかの高級ホテル?
あ、そうか。あの男のところはホテルなんとかってのも経営してるんだっけ?
なんて名前のホテルだったっけ?
確か学会に参加したとき本会議と分科会の会場になってたような?
ランチで食べたカレーが美味しかったのは記憶してるけど・・なんて名前だっけ?
そうそう、あのときは分科会でT大学の教授がミトコンドリアの培養に成功したとかって話しで・・ミトコンドリアの培養なんて凄い快挙だと驚いた。
えっと、そんなことはどうでもいい・・
問題は・・この洗濯物をこのままテーブルのうえに並べておいてよいものかよ!


あたしだって男物の下着くらい見たことがある。
パパのだって弟のだって・・・
でも他人の下着を覗き見るなんて・・・
これって下着泥棒と同じ気持ちってこと?




好奇心の方が勝った。
つくしはテーブルの前に腰かけると目の前に並んだビニールの袋を手にとってみた。

あ、赤?
む、紫?
派手な下着・・・こんなカラフルな下着を見たのは初めてだ。
どれもいささか派手で実用的ではないように思えた。
でも下着の実用性ってなんだろう?
これは・・どうやって身につけたらいいのだろう。
黒・・・うん、これはいいんじゃない?
なにこれ!
ヒョウ柄って・・!
やだ、あの男こんな下着つけてるの?
つくしは思わず顔をしかめ「趣味が悪すぎる」とひとりごちていた。
でもた、他人の趣味に口を出すべきじゃないわよね?


「おまえは何をしてるんだ?」
つくしはいきなり声を掛けられて驚いた。
え?
つ、司坊ちゃん?もうお帰りなんですか?
つくしは司の下着を手に身動き出来ずに顔だけをあげていた。

「え・・・っと・・さっきね、お邸の人がこれ・・届けに来てくれたの」
「 で? 」
「えっ?えっと・・」
「だから、おまえは俺の下着眺めてなにしてんだ?」
「な、なに言ってんのよ!眺めてなんてないわよ!あたしはただ・・」
「ただなんなんだよ?」
「ただ・・・ただですね・・」
つくしは司から視線をそらすことも出来ず見つめたままだった。


司の顔はあくまでも平然としていた。
「この変態女・・・」
「他人の下着なんか見て喜んでんじゃねぇよ・・」
「な、なに言ってるのよ。あたしは別に喜んでなんてないわよ!」
つくしは恥ずかしさに一気に顔が赤くなった。
「じゃぁ何してんだよ?」司は値踏みするような目でつくしを見た。
「学者センセーに論理的な説明を求める」
いいわけを考えてみろよ?おまえ俺の下着に興味あったんだろ?
ウレシソーな顔してじゃねぇかよ?正直にいやぁ許してやる。
「考える時間は30秒だ!」
司の顔に浮かんだのはいじめっ子の表情そのものだった。
この女がどんな理屈を捏ねるのか聞いてみたいと思った。




「そ、そんな・・!」
ろ、論理的な説明って・・
つくしは居住まいを正すと研究者としての威厳を保つように話し始めた。
「えぇー・・・し・・下着の色には・・人間の欲求が隠されていて・・その・・健康になる要素も含まれていて色は大脳に伝達されて自律神経にも影響を与えます・・と、特に赤い下着は勝負下着とか言われていて大きな勝負に挑むとき・・に・・」
つくしはわざとまじめくさって話しを続けていた。
「勝負下着って?」司が聞いた。
「しょ、勝負下着ってのは・・・えー男女の交際での大きな勝負に挑むときの下着で、
その勝負に勝か負けるかで大変な充実感が得られるかどうかが・・も、もちろんビジネスで大きな契約を結ぶときとかにも・・・」
なんだよそりゃ?
なんかめちゃくちゃな話しになってるぞ・・
やっぱ・・この女・・おかし過ぎる・・
つくしの真剣な口調に司は笑い出しそうになっていた。
そして思わず軽口をたたいていた。
「おまえの勝負下着ってのは・・・あれか?あんとき履いてた黒の・・」
「ち、違うわよ!・・あ、あれは滋さんが選んでくれたものであたしはあんなスケスケで表面積が極めて少ないものなんて、身体が冷えるからだめよ!」
「そ、それで思い出したけど、最近の若い子はどうしてあんなに露出ばかりするのかしらね?」
つくしは自分の考えを遠慮なく口にしはじめると嬉々として話しを続けた。
「あんなにお腹とか脚とか露出してたら身体が冷えちゃって良くないのに・・冷えは女性にとって敵なんだから!」
「へぇ。それで?」
司はこの女が話す様子をもっと見たいと思って話を促していた。
何がどうすればこんなふうに話の本題がずれていくのかが可笑しくてなんでも言ってみろよとばかりに見守った。
「知ってる?」
「なにをだ?」
つくしは急いで先をつづけた。
「冷えは女性特有なものだと思われてるけどね、最近じゃ男性も多いんだってこと?」
「だ、だからあ、あのどうみょうじさんも・・あんまり表面積が少ない下着は止めたほうが・・いいと思う・・」

その話のばかばかしさに司は笑い出し、つくしもつられたように笑顔を返していた。
「でね・・なんでも細胞を活性化させる下着とかもあるらしくて、それを着たら体温が上がってね免疫力が上がるとか・・あたしの研究ではそんなことは・・」
「で?免疫力を上げるにはどうしたら良いって?」
と聞きながら司はまだ笑っていた。
「笑うとね・・免疫力が上がるって・・NK細胞が増えてね、免疫細胞の活動が活発になるの・・だから・・もっと笑ったほうがいい・・」
「あ、どうみょうじさんも風邪とかひいてるような立場じゃないんでしょ?」
「そ、そういうことでお互いに健康には気を付けてなきゃね」



ふたりの楽し気な視線が絡みあったとき、つくしはふと気が付いた。
あたしのこんな話を笑いながら聞いてくれる人なんて・・・
たいていの人はあたしの話なんて面白くなんてないって興味を失ったような顔をする。
ところがこの男は違った。
あたしの話を笑いながら聞いてくれた。
あたしは・・初めて見たこの人の笑顔に息が止まりそうになっていた。
そして本当はこんなふうに笑うことが出来る人なんだと知った。








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Comment:2
2016
01.15

恋の予感は突然に 24

あの男が高圧的な態度に出れば、言い争いになることは目に見えてる。
ここは互いに大人の対応で・・
つくしはここ数日考えていたことを言葉にしていた。

「お、おはよう・・」
あたしの淹れたコーヒーは不味くて飲めたものじゃないと言われた。
なんで高級なコーヒー豆なのにこんな味になるんだって言われた。
そして余計な事はするなと言われたからもう二度とこの男のためにコーヒーなんて淹れないんだから!

「ねぇ、お互いに大人なんだし、これから先、こんな感じでお互いに傷つけあうのはやめにしない?」
「俺は別にこのままでもいいけどよ」
司はじろりとつくしを見た。

「きゅ、休戦にしない?」
ダイニングルームが中立地帯ってことでどう?


友達になりましょう・・
取引しましょう・・
今度は休戦かよ?
俺たちは戦争状態なのかよ!
それでもってその戦争状態に持ち込むのはおまえじゃねぇのかよ?
それに人の話しなんて最後まで聞こうとしない女だよな。

・・・ったく仕方ねぇよな・・

司も子供のことを考えないわけではなかった。
いつまでもこんな状況でいたら子供にもこの女にも良くないことはわかっていた。
別にこの女が言ってることが嫌なわけじゃねぇけど、本来ならば自分が言い出すことを先に言われたようでなんとなく決まりが悪かった。
だが何もかも俺が悪いと決めつけるこの女の言ってることは本当なのかと疑いたくもなった。


この男の態度はとても優しいとは言えないけど何もかもをこの男のせいにする自分も大人げないと感じていた。
つくしは疑わしげな顔の男に向かってぶっきらぼうに聞いた。
「ねえ・・あんた・・ど、どうみょうじさんは食事はどうしてるの?い、いつも・・遅いみたいだけど、やっぱり外食なの?」
「ああ。俺は付き合いで食事を済ますことの方が多いからな」
「そ、そうなんだ・・」

そしてつくしは自分でも思わぬことを口にしていた。
「でも外食ばかりじゃ塩分の摂り過ぎで身体に悪いわよ?」
「知ってる?塩分の摂り過ぎは将来的に男性機能の低下を招くことになりかねないのよ?」
「塩分を取り過ぎると高血圧になったり腎臓の機能が低下するし、腎不全や脳卒中や心血管疾病になるし動脈硬化につながるの。血圧が高くなってもし降圧薬とか飲むようになったら男性機能低下の原因にもなるわけで・・。あ、あたしは専門分野じゃないからそんなに詳しくはないけど薬の影響があるってのは確かなのよね?」
「も、もしそんなことになったらどうみょうじさんも将来困るでしょ?」
司は滔々と語り出したつくしを呆れた顔で見ていた。
「あたしの専門は免疫学だから細胞レベルの研究がメインなんだけどね、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)って知ってると思うけど・・あ、この名前って素敵でしょ?細胞の名前が『生まれつきの殺し屋』なんて名前なんだから面白いでしょ?で、これが癌細胞を見つけてはやっつけて・・なな・・なに?」

「おまえ・・」
「なによ?」
「普段はあほみてぇなことばっかりするけど、やっぱ賢いんだ」
司の顔を見ていたつくしの顔は一気に赤くなった。
「あ、あたしは別に・・」
「で、なに?おまえ俺の身体のこと心配してくれてんの?」
「・・・一人分の食事を作るのもふ、二人分の食事を作るのも同じだから・・」
「ほら、なんか勿体ないじゃない?おなじ光熱費を使うなら・・えーっと無駄なく使いたいっていうの?」

そんなもん気にしたことなんてねぇからわかんねぇけど・・光熱費ってそんなにかかるもなのかよ・・所詮微々たるもんじゃねぇの?
それに無駄ってなんだよ?俺はキッチンなんて使ってねぇぞ?
だいたいおまえがここの光熱費を払ってるのか?
司は笑い出しそうになるのをこらえてつくしの話しを聞いていた。


「ま、ほら・・そういうことで・・会食とかないんだったらしょ、食事くらいあたしが作っておくから・・あんたの口には合わないかもしれないけど良かったら・・」
「そ、その歳でいいものばかり食べてたら痛風になるわよ?痛風患者は男性がほとんどなのよ?だいたい痛風にかかるのは40歳前後の男性が多くてね」
「痛風になったらそれこそ・・・」
「ご、ごめんなさい・・あたしつい・・」
つくしはまたひとりでしゃべり過ぎたと気づくと司に詫びた。


「・・なあ・・その・・あれは、食材ってのはどうしてるんだ?」
つくしは探るように見つめられて一瞬たじろいていた。
「え?ああ食料費?それなら大丈夫だから」
「違う・・食材はどうやって揃えてるんだ?」
「どうやってって・・仕事の帰りに買うのが普通じゃないの?」
閉店間際のスーパーなら値引き商品が買えるし、そんなあたり前のことを聞くなんて変ねとばかりに言った。


「おまえ・・重いもんなんか持ってこんなとこまで帰って来たら・・」
「今日から配達させるから買わなくていい・・」

司はそれだけ言うとつくしの横をすっと通りすぎ自分の部屋へと向かって行った。

つくしはその場に立ったままで暫くじっとしていたが、出勤時間が迫っていることに気づくと慌てて自分の部屋へ戻った。
そして鞄を抱えて出て来ると言うべきことを言おうとあの男を探したが、すでにその気配はなかった。


配達された食料品はつくしなら絶対に手が出せないような高級なものが含まれていた。
が、それはさておき、ひじきとか切り干し大根?高野豆腐?カルシウムたっぷりのなんとか?
あの男、こんなもの食べるの?
そう思ったがそれは違うと自分で訂正した。
そこにはどうみてもあの男が普段口にしているとは思えないような食品が沢山含まれていた。

もしかしたらという答えが心に浮かんだ。
あたしのため?
そう思うとなぜか嬉しさがこみあげていた。













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Comment:4
2016
01.14

恋の予感は突然に 23

きのうはまるで電流に撃たれたような感覚が全身に走った。

司は寝室で出社の為の準備をしていた。
オーダーメイドのスーツをビシッと着こなし、大きめの結び目でネクタイを締めていた。

脳裏に昨日の夜のことが甦った。
よりにもよってあの女にみだらな欲望を抱いただなんて!
あの女に惹かれるなんて正気とは思えない!
気晴らしが必要ならもっと他にもあるだろうに・・
どんな女だって俺が望めば思いのままだ。
だが、他の女に走るわけにはいかなかった。
姉ぇちゃんにバレたらえらいめにあう。
それに子供が生まれるまでの間は・・・

あの女、他の女にどうぞなんて言いやがったがそんなことして見ろ!
父親として失格の烙印を押されて即離婚を申し立てるはずだ。
そんなことはさせられない。

『子供が生まれるまでのあいだ、互いに良識ある行動をとる』
なんか曖昧すぎないか?解釈の幅が広すぎないか?
良識なんて個人で違うもんだろ?
だいいち、学者センセーの良識なんて狭い世界のものだ。


もしかして、あの女を抱く以外は男としての機能を使うことが無いってことか?
男と女は別の生き物で男の生理現象ってのもある。
けど、仮にも、もしも・・あれだ、そうなったときあの女は妊娠してるぞ?
それも俺の子供が腹ん中にいるのに・・・いいのか?
どうなんだよそれ?

おまえも誰かと付き合えば俺も付き合えるからと言えば
「わたしはデートなんてしないから」
「どうぞ若いお嬢さんとデートでもなんでもして下さい」
「ご自分の生理的な欲求不満をあたしにぶつけるのは金輪際やめて下さい!」

あの女の単刀直入なもの言いに対して苛立っている自分が疎ましかった。
別に好きでアレをぶつけた・・・わけじゃねぇぞ!
おまえだってちっちぇえの、押し付けてきたじゃねぇか!
あの女とは極力距離をおいた方がいいに決まってる。
このままじゃ・・マジでやばいことになりそうな気がしてきた。


ドアが開く音がしている。
あの女が起きて来たのがわかった。
俺もそろそろ出かけるとするか・・
迎えの車はすでに下で待っているはずだ。


ダイニングルームに足を踏み入れれば女がカチャカチャと何やらしていた。
そして司に気づくと声をかけてきた。
「お、おはよう・・コーヒー・・淹れてみたんだけど飲む?」
なんだよこの女、昨日の詫びでも入れるつもりか?
あんとき思いっきり俺の腹の上を踏んづけていきやがった。
転びそうになったおまえを助けたのにあの仕打ち・・
けど俺だって決して心は狭くない。
詫びは受け取ってやるよ。



司は軽く頷いていた。

つくしはそれを会話のスタートだとばかりに話しかけた。
「ねぇ、と、取引をしない?」
「取引だぁ?」
司は女が差し出してきたコーヒーカップを受け取った。

「そ、そう・・・あんたが若い子と付き合っても・・あの条件にはあてはめないから・・。
男性はそのぅ・・アレが溜まると大変らしいし、こ、今後の機能に差しさわりが出てもいけないので・・そこは・・理解する・・」
つくしはこれは微妙な問題だと言わんばかりに勿体ぶった話し方をしていた。
「だ、だからあたしには構わないでくれると・・」

司はコーヒーをひとくち飲んだところであまりの不味さに噴き出しそうになったがどうにかカップをテーブルに戻した。
「冗談だろ・・・まじぃ・・・」
「な、なにが冗談なの?」
つくしは男の理解が得られなかったと思い慌てた。
そして大きく目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。
「ま、まさかあんた・・あたしに・・構う気なの?」
この男・・・ついに欲求不満でおかしくなったの?
見境なく襲うつもり?
いくらこれまであたしに男性経験がなかったからと言って、別に男に飢えてるなんてことないんだから!
盛りがついた猛獣なんて相手に出来るわけないじゃない!
いいわよ!あたしがあんたの間違いを正してあげる。
「しつこい男ね!もうこれ以上あたしに構わないで!」
つくしは大きな声で言っていた。


***


個性的。情熱的。
あたしの情熱は研究に注がれてきた。
個性は?
以前からよく言われた言葉。
「牧野さんって個性的ですね」
この言葉は褒め言葉なのだろうか?


つくしは後悔に苛まれていた。
どうしてあたしはあの男と話しをするとあんなふうになってしまうんだろうか。
今朝だって・・せっかく友好的な関係を結ぼうと思ったのに。
シャーレの中で培養された細胞があたしに語りかけて来た。
そんなに苛々したら身体に悪いよと。
わかってる・・・
細胞レベルに諭されている人間なんてあたしくらいかも?

でも昨日は驚いた。
だっていきなりあの男が襲ってきたんだもの。
あの男、テストステロン(男性ホルモン)が有り余っているのか?
普通は30代になれば減少するはずなんだけど・・・
あの男はホルモン過多なのか?
一度うちの研究室で検査してみるのもいいかもしれない。

あの男、道明寺司・・・・

つくしは実験の経過を記録するために顕微鏡をのぞいた。
そして頭を働かせるために男のことを頭の中から追い出した。


ごめんね。ママがこんなに苛々してちゃダメだよね。
仮にもあなたのパパなんだから仲良くしなきゃね。
つくしは波立つ心を懸命に鎮めながらそっとお腹に手をやった。







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Comment:2
2016
01.13

恋の予感は突然に 22

つくしはいきなり自分に覆いかぶさってきた男に驚いた。
言い争ううちになぜ・・?


気がついた時にはつくしの身体は男の両脚の間にあって、自分が男の身体にのしかかるようにしていた。


「だ、大丈夫か?」
司は尋ねた。
絨毯のうえに押し倒された・・じゃない。
押し倒してるのはあたし?!
あたしの足がふらついて転びそうになっていた寸前にこの男はあたしの身体に腕を回して自分の身体を入れ替えるようにしてくれた?

「お、おい・・おまえ・・ま、まきの・・」
司は自分のうえに乗った女を抱きすくめていた。



やべぇ・・
スラックスの下の俺のモノが、物欲しげに生地を押し上げようとしている・・
司は意地で男としての反応を隠そう・・いや抑え込もうとしていた。
こんな女に反応してどうすんだ!
イライラがいつの間にか欲望に変わってたなんてそんなことがあるのか?
この女の足がふらついて倒れそうだと思った瞬間に身体が勝手に動いていた。

「あの・・?」
女の口から漏れた声は戸惑いが感じられた。
まさに俺の身体の真ん中で・・互いの腰のあたりが触れ合った状態で俺の上に乗っかってる女に・・・
た、頼むから・・動かないでくれ・・
司は思わず漏れそうになったその言葉を呑み込んだ。
女の息遣いが俺の胸のあたりで感じられた。
マズイ・・この感覚はあんとき・・この女がホテルで俺の胸元に顔を寄せてきた時の感覚と同じだ・・
「ど、どうみょう・・」
ああ、頼む・・動かないでくれ・・
やめてくれ・・
動くんじゃねぇよ!
くねくねすんな・・・お、おまえな、なんかあたってるぞ?
お、押し付けるんじゃねぇよ!
ちったぁ大人しくするってことが出来ねぇのかよ!
司はもう自分が抑えられなくなってきたんじゃないかと感じられた。
腰がせり上がりそうになるのが抑えきれなくなりそうだった。
このままだと、硬くなったモノがこの女の腹を突っつくぞ?
マジでやばいことになりそうだ。
これは・・運命の分かれ道なのか?
そうなのか?
勘弁してくれよ・・
またこの女に変態呼ばわりされるはめになるのかよ?
だ、だいたい子供まで作った女になんで変態呼ばわりされなきゃなんねぇんだよ!

くそぉ・・
もういっそのこと、硬くなったモノをこいつの腹に押し付けてやろうか!


つくしが見上げると二人の視線がぶつかり合った。
絡みあったままの・・姿勢でいることに互いに緊張感が増してきたようだった。
つくしは男のうえに乗っかったまま息を止めると次になにが起こるのかと身構えていた。
何故なら動こうにも動けなかった。
だ、だって男の腕はあたしの背中に回されていて・・そ、それになんかあたってるんだもの!
まさか男のお腹のうえを這い上がるなんてことは出来ないし、身体に回された腕を離してもらう以外に男の身体のうえから自由になることなんて出来なかった。

『 男を押し倒そうと思う時は、その先のことをよーく考えて押し倒すんだな 』

この男に言われた言葉が甦った。
その先のことって・・
この男のつけているコロンの香りが鼻孔をくすぐる・・
こ、この状況ってあの時と同じじゃない!
ど、どうしよう!
ま、まさかこのまま・・・
つくしの視線は男の顔から胸へとおとされた。
ほんの数センチ先にはワイシャツに包まれたこの男の胸があって、あたしはあのときこの男の胸に・・
つくしはそのとき、頬をこのがっしりた胸に押し付けたいと思った。



司の息遣いが荒くなってきた。
この女のうるさい口を黙らせてやろうと思っていたら、なぜか二人して絨毯のうえに横たわっていた。
マジでやべぇぞ。
荒い息遣いで酸欠になりそうだ。
ある部分は密着していると言えばしていた。
それに女は俺にしがみついている状態だ。
思わずうめき声が漏れそうになっていた。
両脚の間にあるモノはまるで自らの意志を持ったかのように重みと膨らみと硬さを増してきた。
お、おい、俺はいくのか?
いってもいいのか?
ようやく抱きしめる腕が緩められたと感じたとき、男の指がつくしの尻に食い込んだ。




「ち、ちょっと!どこ触ってんのよ!」

誘惑方向に向かっていた空気の流れは一気に逆方向に流れを変えた。
男の手が解かれるとつくしは文字通り飛び上がるようにして男の身体のうえから降りた。








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Comment:3
2016
01.12

恋の予感は突然に 21

こうしてあたしとこの男・・この子の父親との奇妙な同居生活が始まった。
まずはこの部屋を自分らしく変える必要がある。
モデルルームのような家なんてちっともくつろげない。
プロのインテリアコーディネーターの手で仕上げられているだけに手を加える必要はないように思われたが、そこはやはり庶民らしく手を加える必要があった。
クッションひとつにしてもなんか堅苦しいのよね・・・
せめて自分の部屋だけは自分仕様にしたかった。

それにこのキッチンだって・・


「ねえ、料理なんだけど、あ、あたしがキッチンを使わせてもらってもいいのよね?」
「あ?勝手にしろ」
「食いたきゃ勝手に作ればいい」
この男、傲慢な男だ!
つくしは男を睨んだ。
あんな条件飲まなきゃよかった。
なんで同居生活なんか了承しちゃったんだろう。
「あのね・・取りあえずは子供の為に一緒に住むことにしたけど、あんたとあたしの生活は別だから」
「あたりまえだ!」
ったくイライラするな!
司は神経質になっていたが、それは彼だけはなかった。


「ねぇ・・と、友達になりましょう?そ、それなら、なんとか・・」
つくしはしばし男の顔を見つめたあと言った。
一度だけ関係を持って、子供の父親になった男の顔を。

なんだよ友達って?
子供作っといて友達ってなんなんだ?
こいつ何を考えてる?  いや、考えてないだろうな。
男と女の間に友情を築けって?

「おまえ今さら俺と友達になって何がしたいんだよ?」
一応聞いてみてやる。
「べ、別に何もしたくなんてないわよ?」
「だろ?じゃあいいじゃねぇか。おまえとはあくまでも子供の為に結婚したんであって
それ以外なんの関係もない!」

つくしは思わず浮かんでいた戸惑いの表情を押しもどした。
「そうよね・・そうよ、そうよ!」
「よく言ってくれたわ。あたしもそれが言いたかったわ!」
「あ、あんたとは何も関係なんてないわよ!」
つくしはあの思い出を、あの一夜を頭の中から消去しようとした。
セクシーなこの男の身体のことなんて忘れようとした。
「ふん!」

これまで一度も陥れられたり、否定されたことなどなかった司にしてみればこの女の態度は耐え難い状況だった。
司はゆったりと一歩を踏み出すとつくしに近づいた。
「いいか?この件は・・俺との結婚は口外すんじゃねぇぞ?」
男が片眉をあげるようにして言ってきたのでつくしは感情的にならないように余裕の表情を浮かべて司を見た。

なんだよ、その余裕綽々な顔は! 女なんて口の軽い生き物だろうが!

「あ、あたり前じゃない」
「この結婚は・・一時的なものであって永続的なものじゃないってことくらいよーく分かってますから。それに苗字が変わって不都合があるのは女の方なんですからね!」

「あ、あんただって口外しないでよね!男なんて口の軽い生き物なんだから。ちょっと若い女に言い寄られたら鼻の下なんて伸ばしてイヤラシそうな顔しちゃってさ」

「どこかの若い女の子と・・過ごすのは一向にかまいませんが、あたしのことは絶対に口外しないでよね!いい迷惑ですから」

だれが迷惑なんだよ!この女相当おかしいんじゃねえのか?
俺のことが迷惑だと?

なんかこの女の口から俺を拒否する言葉を聞くたびにイライラしてくる。
開き直りもたいがいにしろよ!

この俺がこんな女に言い負かされるなんて・・・
許されるわけがねぇ。
この女を放っておいたら俺のペースをめちゃくちゃにしやがる。
とにかく最初が肝心だからな。
どちらが立場が上なのかをはっきりさせておく必要がある。
司はこれまでの会話にイライラとしながらも嘲笑った。
「おい、おまえ言っとくけどな・・」
「なによ、まだ何か?」
つくしは負けるものかと一歩を踏み出した。


つくしはこれ以上の話し合いに何が見い出せるのかというふうに司を見ている。
司は自分が何を言いかけたのかを忘れてしまった。

この女の強い瞳に睨まれるとなんだか調子が狂う。
車のなかでもこの調子でやり込められて・・
どうしたものか・・この女とこうして小競り合いをして・・
・・・興奮している自分がいた。

おい・・・これじゃあ、俺は・・・まるで・・
言葉攻めに弱いって・・ことか?

なんでこの女と言いあって俺の・・・モノはたかぶってるんだ?
やべぇ・・・
こ、こんなんじゃマジで変態じゃねぇかよ!



つくしは自分を見つめる非難がましい目を見ていると、何か言わずにはいられなかった。
な、なによこの男、あたしのことじっと見て。
まだなにか文句が言いたいの?
オールドミスだの蜘蛛の巣女だの、言いたい放題言ったくせして!
いつでもかかってきなさいよ!
相手になってあげるわよ!
あたしだって口だけなら負けないんだからっ!


え?
なに?
ど、どうしたの?
ぼ、暴力はダメよ?
かかってきなさいって言ったけど・・ほ、本気?
言っとくけどあたし一応・・多分・・お腹に赤ちゃんがいるんですけど?
ちょっ、ちょっと?
わ・・わっ!
きゃぁー!







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