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2015
12.30

手紙

Category: 手紙
「 身のほど知らずの貧乏女 」
彼女が俺の前を通り過ぎるとき、聞かせ続けた言葉。
そして彼女に必ず聞こえるようにと大声で罵っていた。
それは俺が高校最後の年の出来事だった。

小さな上流社会のなか、16歳の少女に対してのいじめは学園の意志として行われていた。
意志の統率をとり、命令を下していたのは俺だ。
そんな俺の支配力に逆らう者はいなかった。
いたとしても、そんな人間を片づけることなど造作もないことだ。
あの当時、彼女のなにが気に入らなかったのかと言われても、説明のしようがなかったから仕方がない。
ガキ臭いことをやっていたのは確かに俺だ。
だが、ほんの些細な出来事が、人生を狂わすっていうのは本当だと今なら言える。
あの出会いが俺にとってはいい方向に人生を変えたことは確かだ。
だが、彼女にとっては、二度と思い出したくはないことも沢山あったことだろう。
挑発を繰り返しては、喧嘩を繰り返すような時間もあったから。


俺は、少年たちに命令して彼女を辱めようとしたこともあった。
今思えばとんでもないことだ。あの時の俺はどうかしていたに違いない。
あの頃、彼女を救ってくれる人間はひとりとしていなかったはずだから。
だが、そんな彼女を助けたのは類だと聞いたとき、頭の中では余計な事をしやがってと思ったかもしれないが、心のどこかでは感謝していたかもしれない。


夏休みがあけたとき、俺はもっと慎重に、そして注意深く彼女を貶めることを決めていた。
そして彼女を自分だけのものにするために、心と身体を傷つけようとした。
あのとき、彼女が俺を憎んでいることを確信し、彼女の目が他の男に向けられているのを知った。
その時のことを知っているのは、俺と彼女だけだ。
彼女は誰にもあの日の出来事を話してはいなかった。
これは、俺と彼女の暗い歴史のひとつだろうな。
だが彼女を知れば知るほど、俺をあんな行動に駆り立てた何かを、自分の中に認めない訳にはいかなかった。



「 身のほど知らずの貧乏女 」
汚い言葉で罵る。
そうすることが、彼女とコミュニケーションを取る唯一の手段だったのかもしれない。
気おくれせずに彼女と会話をしたいと思っても、俺の口から放たれる言葉は耳に心地よいものではなかったはずだ。

結局俺は彼女のことを罵ることしか出来ずにいた。
それも以前よりも酷く大きな声で罵倒していた。
彼女を信じることが出来ず、暴力の渦のなかに置き去りにしたこともある。
そのことが彼女の人生に何をもたらすかを理解したとき、俺ははじかれたように駆け出していた。
そして校庭で行われていた暴力を目にしたとき、その渦のなか彼女目指して突進していた。
あのとき、彼女は誰に信じてもらえなくても、俺に信じてもらえればそれでいいと言っていた。





17歳の俺はバカで、乱暴者で、自分勝手な男で、思っていることと反対のことを言うひねくれ者だった。
そんなことに気づいたのは何年もあとになってからだ。



南の島で類と彼女が抱き合ってキスをしているのを見つけたとき、確かに彼女は類のことしか考えていなかったはずだ。
俺はそのとき、彼女に精一杯の気持ちを捧げていた。
そんな俺は類を殴り、その顔にあざを付けてやっても、ざまあみろとは思えずにいた。
なぜなら引き裂かれた気持ちは、そんなことでは元には戻ることがなかったからだ。



そして、そこから先のことは・・・・

17歳から18歳にかけての年、はじめて人生に目標が出来た。
考えることは彼女のことだけだった。
あの頃、世界が変わったと思えたのは俺だけだっただろうか。
虚栄心の欠片さえ持たなかった俺が、彼女のためなら自分を少しでもいい男に見せたいとさえ思いはじめていた。
そして、俺は昔からそうだったが、この家に生まれたことが嫌になる出来事に遭遇することになる。
排除されると言うことが、どんな意味を持つのか理解したことがあるか?
彼女は俺の母親によって排除されたんだ。
俺と彼女は別れを経験した。あの日は雨が降っていたな。
雨の中で彼女は俺に背中を向けたままでこう言ったんだ。
好きだったらこんなふうには出て行かない・・と。
あのとき、どうして抱きしめて出て行くのを止めなかったのかを今も後悔している。


それから先のことはよく知ってるだろ?
彼女のことは口にしなくなった。
だが、どれだけ彼女を愛していたのか、俺のことはおまえが一番よく分かっていたはずだ。
おまえはいつも俺と彼女のことを気遣っていてくれた。


俺は彼女と初めて愛し合った日のことは忘れていない。
一生忘れはしないだろう。

誰にも言ってはいなかったが、一度だけそんなことがあったんだ。
いま思い返してみれば、二人ともどんなにぎこちなかったことか。
何も知らないのだから仕方がなかったが、それから先のことなど考えてもみなかった。
俺は彼女と結婚したかったし、子供も欲しかった。
男は初めての女と結婚したがるのかどうか世間のことは知らないが、俺は彼女と結婚したかった。

だが人生は自分の思い通りに行かないものだということは、おまえもよく知っているはずだ。
俺は東京からニューヨークへと向かった。
ニューヨークにいる間、彼女のことが頭を離れることは無かった。
普段は書かない手紙も書いたし、電話もした。
何も話すことはなくても、ただ彼女の声が聴きたいと思い電話をかけていたものだ。

俺の母親は遠く離れた土地に住んでいれば、そのうちに彼女のことを忘れるだろうと考えていたようだ。
そして自分の認める女との縁談を勧めてきたこともあった。
そんな時の俺はさぞ機嫌が悪かったに違いない。


そして4年後、俺がニューヨークから帰国したとき、彼女はひとりで俺を待っていてくれた。
だが、実際はひとりではなかった。
彼女の手には小さな男の子の手が握られていた。
特徴的な髪の毛を見て、俺の子供に違いないと思った。
彼女がひとりで生んで育てた俺の子供だった。








類、おまえにこの手紙を託すのは、もし俺が・・息子が成人に達する前に・・
万が一だが、何かあった時には彼に渡してやってくれないか?
彼の母親と俺が出会った頃の事を伝えてやれるのは、おまえしかいないだろうから。
もしかしたら彼の父親になっていたのは類、おまえだったかもしれないからな。
俺が書いたこの手紙の最後にどんな言葉を書き加えればいいのか考えてみたが、思いつかなかった。
だから、おまえが伝えてくれる言葉がこの手紙の最終章になるはずだ。









この手紙を託されたとき、俺はいくつだった?
司、おまえあれから何年たったと思ってるんだ?
俺はこの手紙を託されてからもずっとひとりで過ごして来た。
彼らの息子の父親代わりとして・・・・いつでもそのつもりでいたから。
そして今でも毎年のように読み返している。



類は鼻の上に乗せられていた眼鏡を外し、冬枯れした庭を見た。






そこには司と牧野と彼らの息子・・・・そして息子夫婦の子供たち。
彼らはもう幾つになるんだ?
そろそろ司の息子が自分の父親に初めて会った頃の年齢にはなるはずだ。

類はそんなことを考えながら、託された手紙は、もう彼らには必要とされていないものだとわかっていた。

司、おまえいい父親だし、いいおじいちゃんだよ。
おまえ達二人の人生と俺の人生は切ってもきれないようだ。
あの南の島で俺が牧野のことを本気で好きになりはじめていたとき、司なんかに譲らなきゃよかったよ。

そうすれば、俺はここでこんなふうにこの手紙を読むことも無かっただろうね。



毎年この季節になると必ず読み返す手紙。



そこに書かれている内容を、彼は一言一句諳んじることが出来るほどに読んでいた。
そして読み終わるとまた封筒に戻す。この動作を30年間やってきた。

その封筒の中には、手紙と共に添えられた一枚の写真があった。
写真は色あせてはいるが、そこに写る二人は今も変わらず元気だ。






その写真の裏には「 二人はいつも一緒 」と書かれていた。











今年の更新は本日が最後です。年明けは四日か五日を予定しております。
いつもご訪問して下さる皆様、拙いお話しではございますが暖かいご声援を有難うございます。皆様の応援が執筆の励みになりました。
引き続き来年も継続出来る様に精進したいと思いますので宜しくお願い致します。
それでは皆様よいお年をお迎え下さいませ。
いつも堅苦しい文章で申し訳ないです(低頭)

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Comment:35
2015
12.29

恋の予感は突然に 14

俺の子供が私生児だなんて許されるわけがない。
あの女は頭がおかしいんじゃないのか?


間違いない。
牧野つくしは俺の子供を身ごもっている。
まさか自分に子供が出来るなんて想像もしていなかった。
そもそも子供を持つことなんて考えてもいなかった。
だのになんで俺は子供の親としての権利を主張するだなんて言ちまったんだ?


だいだい俺を相手に選んだ理由からして気に食わなかった。
『バカだと思ったから』
いい加減にしろ!
滋にしてもあの女にしてもバカバカ言いやがってバカの大安売りかよ!
クソッ!

以外に早くバレて残念だったな牧野つくし!
大ウソつきのチビ女!



「おい、牧野つくし。話し合いをしようじゃないか」
「な、何について?」
「あたしは、中絶なんて絶対にしないから!こ、この子はあたしだけの子供なんだから、あ、あなたには・・道明寺さんには関係ない・・」
つくしは今はまだ平らなお腹に手を置くと出来る限りこの男から距離をとろうとした。
男は仁王立ちしておまけに青筋まで浮かべている。
絶対にこの子は守ってみせるんだから!

「あのね、道明寺さん。い、今の世の中シングルマザーは沢山いるの。あたしはこうして仕事もしてるし、貯金もそれなりにあるの。例え一時的に仕事がない状態になったとしても・・この子と食べていけるくらいの蓄えはありますから。それに絶対にあなたには迷惑はかけませんから、安心して・・・ほ、他の人とセックス・・いえ、ラブライフを送って下さい!」



よくもまあ・・・
こいつ・・開き直りやがって・・・
「おい牧野つくし。言ったよな?俺はその子供の親としての権利を要求するってな」

「な、なんで・・」
「なんで? おまえ親になるつもりなのによくそんな事が言えるな?」
「子供が不幸になるのを願う親がいるか?」
そう言われた声は優しさが含まれたように感じられた。

「な、なにが不幸なのよ!あたしがきちんと責任をもって・・いい子に育てる・・」
「そうか、じゃあ弁護士用意しとけ」
「な・・どう言う意味よそれは!」
つくしは一歩も譲るものかと身構えた。


何が責任を持ってだ!
自分勝手に俺の・・子供を作っといてなにが責任だ!
「決まってんだろ?裁判すんだよ。俺はお前に無理矢理ヤラレて、おまけに騙されて大事なものを盗まれましたってな?」
優しさが感じられた口調はどうやら勘違いだったみたいだ。


「あ、あんたそんなこと真面目にいってんの?あ、あの時はあくまでも、合意のうえ・・」
「ああ。大真面目だ。俺が子供の親としての権利を要求して何が悪い?おまえが俺から盗んだんだろ?アレを・・」
司は含みを持たせながら笑った。

「それに合意があったかどうかなんて、そんなことは見解の相違だな」


つくしはひるんだ。そして少しだけ気がとがめた。
「・・・そ、そんなこと裁判で証言するつもりなの?あ、あんた大きな会社の代表者なんでしょ?」
「へぇー滋から聞いたのかよ?」
司の目が細められると凄みを増した。
「ふん、ゴシップだろうが、誹謗中傷だろうが、写真週刊誌だろうが、んなもんは慣れてるよ!」
「おまえはどうだ?公の席で、公開で、耐えれるか?世間の好奇に満ちた目を?」
「それに・・・仮にだ。おまえが勝ったと仮定してもだ。その子供が大きくなった時にどう思う?訴訟記録は保存されてんぞ?官報にも載るな?でもって裁判所の掲示板に張り出されて・・・」
官報に載るなんてのは嘘だけどよ・・・


「ちょ、ちょっとま、待って・・考えさせて・・」
つくしは慌てて言った。
あたしはこの子と一緒にごく平凡な人生が送りたいの・・・
それもひっそりと・・・
なのになんでこんなことになるのよ・・・


「いいか?逃げようなんて考えるなよ?」
この女の考えた途方もない筋書なんか俺がぶっ潰してやる。
問題は・・・今後俺がどうするかだ。


つくしはゆっくりとうなずいた。
なんだか神経が持ちそうになかった。
そして、あたしは・・大きな間違いを犯したことに気がついた・・
もう遅いけど・・・
・・・この男がバカだとはもう思えなかった。
そして今更ながら気がついた。




ねぇ・・・親としての権利って・・?
まさか?






「恋の予感は突然に」の年内分は本日までです。明日の短編で年内の更新は終了致します。

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Comment:9
2015
12.28

恋の予感は突然に 13

ひとつわかったことは、この男はきわめて大きな影響力を持つ男だと言うことだった。


人の話しなんて聞いていなかった・・・
滋さん・・そんなことなんて言ってなかったわよね?
なにそれ!
あの男、バカに見えるけど・・バカじゃない?
NYでMBA(経営学修士)を取ってる?
道明寺HDの日本支社長?
経済界の若きプリンス?
ありえないって!
もしそれが本当なら・・・子供も・・同じものを受け継ぐわけだから・・・
だからと言って絶対に頭がいい子ってわけじゃないだろうし。
う、運、不運ってのもあるし、二人の遺伝子が組み合された結果なんだし。
い、遺伝子っていうのは・・・たんぱく質の設計図だし、DNAの二重らせん構造から出来てる・・・
だ、だめよ!
頭がいい子なんて不自由するだけよ!



「ご、ごめんつくし・・NYでまさかあいつと会うとは思わなくて油断してた」
電話の向うの友人は申し訳なさそうに言った。
「ねぇ、滋さんどう・・・」
「だからね、あいつがNYに出張で来てるとき、偶然、本当に偶然なのよ?司がうちの会社に来たのよ!」
偶然という名の必然だった。
「それでね、ばれちゃったと言うか・・も、もちろんしらばっくれてみたんだけどね・・」

「ねぇ、滋さん、それでどこまで話しをしたの?」
「うん・・・司があたしに会いに来たときには、もうあんたのこと知ってたよ。
どこに勤めて、何をしてるとか・・」
「で、あのコンドームのことを聞かれたからとぼけてみたんだけど、あいつちゃんと調べてた・・だから・・」
「だ、だから?」
電話の向うの友人の声はどんどん小さくなっていた。
「だからね・・なんでそんな小細工したのかってことで・・・・・」

万事休す・・・



***




今朝ほど目覚めが悪い朝を迎えたことは無かった。
牧野つくしの勤務する研究施設を研究費の助成ということを名目に訪れた。
あの女も落ち着いてみればさすがにこの場所で話しをするようなことではないと、改めて話しをすることになった。
頭がいいだけに、思考回路の切り替えが早かった。
そして仕事場で理性を失ったりはしなかった。

プライバシーにかかわる重要な話しをどこでするか考えあぐねていたが
俺の部屋が一番安全だってことが分かった。
盗撮だの盗聴だのされてこれ以上ややこしい問題を増やすことだけはしたくなかった。
ホテル住まいは気楽だが不便な点も多い。
ロビーにはいつも誰かがいるからだ。
写真週刊誌の記者とかどっかのレポーターとかどこからか紛れ込んでくる。
あいつらは暇なのか?





司は目の前の女に対して怒りを感じていた。
滋に対してもそうだが、牧野つくしのバカさ加減にだ。
ただ、単純にバカな男とのあいだに子供が欲しかったから俺と寝ただと?!
単なる精子を提供者してくれる人間が欲しかっただと?
自分が優秀だから相手の男はバカで単純な男がいいと?
どう考えれば俺がそう見えるんだ?
研究者と言う立場の女がどう転んだらこんなバカなことを思いつくのか気が知りたいと思っていた。
学者センセーってのはよくわかんねぇ人種だな。
あいつらは浮世離れし過ぎていやがる。

滋は総二郎とあきらの話しの尻馬に乗っかるかたちでこの女を送り込んできたわけで
言うなればそれぞれの思惑が偶然重なってこの女が俺のもとに来たってわけだが・・・
司は単刀直入に聞いた。
「それで?牧野つくし。おまえは妊娠したのか?」


「え?」
ポカンとした顔で司を見た女は言葉に躊躇していた。
「そ、それは・・」
「どうなんだ!」
司は怒鳴った。
「い、い・・まだ・・わかりません・・」
つくしは男の迫力にいいえと言いたかったが言えなかった。
「それで?いつになったら妊娠してるかどうかがわかるんだ?」

まさかそんなことを聞かれるはめになるとは思わなかったけど、答えないわけにはいかなかった。
「もうすぐ・・わかると思います・・」
と小さな声で答えた。

「もうすぐっていつだ?」
「具体的な日程を言え!」
つくしはたじろいだ。
「ま、まだ・・・」




実はもうわかっていた。



生理がスケジュールどおりに来ていない。
まだ検査はしていないけど、多分妊娠しているはずだ。
自分の身体のことだもの。小さな変化は見逃せないと思った。
ここのところ、なんとなくだが乳房が重く感じられた。
あたしの目の前にいるのはお腹の中の子供の父親で、この子は初めて父親の声を耳にしているはずだ・・・理解できればだけど。


「それで?おまえ、俺の子供を使ってなにをするつもりだ?」
「な、なにって・・」
「滋は・・おまえは俺のことをバカっぽいから・・相手に選んだなんていいやがったけど・・何が目的なんだ?」
「な、なにって?」
「金か?道明寺の財産か?」


つくしは男に一方的に言われっぱなしでムカついてきた。

「えーっと、道明寺さん。滋さんがどこまで話したのかわからないけど、ためしにあたしの立場になって考えてみて?」
「おまえの立場ってなんだよ?」
「あ、あなたは・・・気にすることなんて何もないから。心配もいらない。も、もしも子供が出来ていたら、こ、子供はあたしの子であって・・あなたの子供ではないの。結婚もしていないし、言葉は悪いけど私生児なの。あたしは、あたしだけの子供が欲しかっただけで
認知しろとか、養育費をくれとか、一切求めないから安心して下さい」と淡々と言ってのけた。

そうすると司は自分でも信じられないように意外な言葉を言っていた。
「いや。ダメだ。俺はその子供の親としての権利を主張する」



つくしはポカンと口を開けた。

どうして?
・・・普通まったく知らない女が妊娠なんかしたらそんな女なんて身に覚えがないとか、俺の子供じゃないとか言うのが男性でしょ?

「あの・・」
とそこまで言いかけたが胃の中からせり上がる何を感じ、つくしはバスルームへと駆け込むと便器の前にしゃがみこんで・・・抱えた。

そしてしばらくしてから立ち上がると洗面台で口をすすいだ。
間違いない・・・あたしはあの男の子供を身ごもっている。




バスルームで派手に嘔吐してから部屋に戻ってみれば恐ろしい形相の男が仁王立ちして待っていた。







我らがヒロイン牧野つくしちゃんお誕生日おめでとうございます!
早く幸せになってね。←あっちもこっちも早く幸せにしてあげたいです(笑)

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2015
12.27

本日のお話についてのご連絡

皆様こんにちは。

いつも早朝からのご訪問を有難うございます。
本日はCollectorのお話となりますので「恋の予感は突然に」はお休みします。
そちらをお待ちの皆様には明日の更新までお待ち頂きますようお願い致します。
そしていつもお読み頂き有難うございます。

本日はパスワードが付く内容になりましたので繊細なお心の方はお控え頂いた方がよろしいかもしれません。
前日の記事の末文にご連絡を書かせて頂くことが出来ませんでしたので、こちらでのご連絡とさせて頂きました。

なお、該当記事につきましては本文の下にあります。



いつも皆様からの沢山の応援に感謝しております。
有難うございます(^^)

andante*アンダンテ*
   アカシア

Comment:0
2015
12.27

Collector 6

Category: Collector(完)
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2015
12.26

恋の予感は突然に 12

念のため。


それはチビで嘘つきの女が持ってきたコンドームについてだった。
床に撒かれた状態で残されていたコンドーム・・・あの女いったいいくつ持ってきたんだ?
あの時は気にもとめなかったが、普段の俺は自分が用意したものでなければ信用していなかった。
簡単に他人を信じるもんじゃねぇということはよくわかっていた。
他人に気を許すということが俺の一生のなかで何度あるだろうかと自問してみた。
俺くらいの立場になると世間から攻撃の対象にもなるし、羨望の的にもなる。
金と地位と名誉とを欲しがる女の餌食にならねぇように注意を払っていたはずなのに・・
なのにあん時はその余裕さえなかった。
大体が自分の部屋に女を連れ込んだことなんてなかった。
バスルームに大量に置かれていたコンドームは・・あれは置かれていたと言うよりも放置されていたものだ。
財布の中には用意していたが、それを準備する余裕もなくあの女が持ち込んだものを使っていた。

嫌な予感がしていた。

残されたそれらはきちんと密封はされていたが、どこか怪しげな気配が感じられていた。

そんな懸念を抱きながらNYへと向かう機内のなかであの女を見つけていた。
それはある経済誌のなかのほんの小さな記事だった。


『 人間の3万個の遺伝子からどうやったら膨大な数の抗体を作れるのか?
抗体を作る遺伝子は成長するに従いダイナミックに動いて100億種もの抗体を作っていた。 T研究所 牧野つくし Ph.D 』




***







つくしはカフェテリアで休憩を取っていた。
いつものようにお気に入りの席に座り、丸いテーブルを前に豆乳を飲んでいた。


「ここ空いてるよな?」

まだ昼休みには少しだけ時間が早いし他にも席は空いているはずだと思ったが
返事をするためにうつむいていた顔を上げた途端ぎょっとして豆乳の入ったカップが斜めになった。
つくしの返事を待つことなく、男は向かいの席に座るとこちらを睨みつけた。

「俺のこと覚えているよな?」
つくしは挑戦的に言われて思わずひるんだ。
な、なんでこの男がここにいるの?

「おまえの本当の名前を知ってるぞ?ま・き・の・つ・く・し?」
司が滑らかな声で言った。

つくしは黙って立ち上がるとテーブルを離れようとした。
教えていないのに知られた名前・・
いつかはばれる日が来るだろうとは思っていたが、まさかこんなに早くばれるとは!
つくしは飲みかけのカップを乗せたトレーを手にすると返却口へと向かおうとした。
だが男はトレーを取り上げると再びテーブルのうえへと戻した。

「まあ座れよ。まだ全部飲んでねぇだろ?」
「俺に遠慮する必要はねぇぞ?」
むっつりとした口調で言われた。

立ち去ろうとしていたところで腕を掴まれたつくしは咄嗟に言った。
「な、なんのことでしょうか?ど、どなたかとお人違いをされているのではないでしょうか?」
と背の高い男にむかってほほ笑んでみせた。

「何すかしてんだ。バレてんぞ」
「ずいぶんと余裕だな、月子さん」
軽く笑われた。
「あ、あたしは月子などという名前ではありません」


し、しまった!!


つい・・否定してしまった!
否定したと言うことは、あれが偽名だと認めたようなものだ。
とぼけるべきだった!

つくしは掴まれた腕を振りほどこうとしていた。
が、逃がすものかと万力のような力で掴まれていてはどうしようもなかった。
こんなところに現れるなんて、この男はどういう立場の人間なんだろう。

ここまで入ってこれる人間なんて・・・
ここは施設の中でも一番重要な研究棟で一般の人間が入れるエリアでは・・


「これはこれは、道明寺さん。ようこそお越しくださいました」
その声に司は掴んでいたつくしの腕を離した。

つくしはその隙にさっと飛びのいた。
「あ、あの・・り、理事長?」
つくしは咳払いをしてどうしてこの男がここにいるのか聞きたかった。
ああ、本当になんでこんなところにいるのよ!

恰幅のいい男性が二人の近くまで来ると立ち止まった。
「牧野くんは道明寺さんとはお知り合いかな?」あっさりと言われた。
つくしは名前を呼ばれて万事休すだと思った。

「この度はご訪問を頂き有難うございます。道明寺さんがうちの研究施設に興味をお持ちだとは有り難いことです。もう中はご覧になられましたか?」
理事長と呼ばれた男は親しげに話し掛けていた。

「いや。先ほど着いたばかりですので」
司はつくしを見下ろしながら言った。
「こちらの女性は?ご紹介を頂けると有難いですね」
この女のことについては調べはついてはいたが、正式に紹介を受けることが重要だ。

「ああ、彼女は牧野つくし君です。うちの研究施設で分子生物学の研究をしています」
「分子生物学とは?」
司は興味ありげな顔で聞いてきた。

「生物や生命の仕組みを分子レベルでとらえて物理や化学の手法を持いて解明しようとする分野です。遺伝子組換えもこの分野のひとつなのですが、彼女の専門は免疫学で主に抗体の研究をしています」
説明する男はゆったりとした口調で話し、この場に流れている空気がどんなものかなど気づきようもなかった。

「そうですか。素晴らしいご研究をされていらっしゃるようですね?」
丁寧な口調とは異なりつくしを見る司の目は鋭かった。

「牧野君は将来性がある女性です。ゆくゆくはノーベル賞候補にでもなってくれたらうちの研究所も鼻が高いですな」
司は口元を緩めながらそんな話を聞いていたがそれは表面上だけのことだった。
最後に『ではどうぞごゆっくり』と言われたのでそうさせて貰うことにした。





「牧野つくし、座れ。話しがある」
つくしは仕方なく先ほどまで腰かけていた椅子へと座りなおすと男もテーブルを挟んで正面に腰を下ろしてきた。

「な、なにしに来たのよ!」
「あ、あたしたち・・一夜限りでしょ!」
つくしはきっぱりと言った。



「おまえ・・どっかずれてるんじゃないか?」
男は指先でトントンとテーブルを叩いていた。
「な・・・なにが、ず・・ずれてるっていうのよ?」
「おまえ、・・・学者バカだろ?」
「な、なによ!あんたみたいなバカ男に学者バカ呼ばわりなんてされたくないわよ」
つくしは歯をくいしばって言った。
「なんだと!開き直りやがってこのチビ女!」


つくしははっとして気持ちを抑えた。
バカ男に付き合って同じペースで話してこっちまでバカになる必要はない。
「あ、あの・・そ、それであたしに何か・・・?」
焦る気持ちを抑えながら言った。

「おまえに・・ひとつ聞きたいことがあって来た」
男は上着の内ポケットを探っていた。
「これはなんだ?」
テーブルのうえに投げ出された色とりどりの小さな四角いパッケージの数々・・
「こ、これって?」
「見覚えがあるよな?」
男はこちらを睨んでいる。


ある・・確かにある・・
滋さんが用意してくれてあの時あたしが持って行ったものだ。
あの朝、慌てて帰ったから拾う余裕なんてなくてそのままだった。

「そ、それが・・何か?」
つくしは唾を飲み込みたかったが唾は出てこなかった。
さっきまで飲んでいた飲みかけの豆乳が飲みたかった。
なんだか雲行きが怪しくなってきた気がした。
「これ・・細工がしてあるだろ?」
司は冷やかに睨んだ。






沈黙をすると言うことは肯定の返事になるのだろうか?
「な、なにを言うかと思ったら!そ、そんなことあるわけないでしょ?」
「に、妊娠なんかしたらこ、困るから使うもので・・・」



「これ、調べさせたら・・穴が開いてた」
「それも見事に全部だ!」
「おいおまえ、この意味がわかるよな?」
「知っててやったってことだよな?」
「説明しろ!牧野つくし!!」
男の言葉はどんどん不機嫌になってきた。
そしてテーブル越しにどんどんと上体が近づいてくる。
つくしは言い返す暇もなかった。


「な、なんのこと?そ、そんなこと知るわけない・・・」
つくしは男の迫力に身体がのけぞってくる。

「てめぇ、いい加減にしろよ?」
「わかってんだよ!」
男は噛みついてきた。いや文字通りではなく噛みつくように言ってきた。
まるで捕食動物のような目つきで怖かった。
そしてもうすぐ手が出て来そうな雰囲気だ。
「な、なにが・・」
つくしは押し殺したような声で言った。


「もうバレてんだよ!滋とおまえの企みは!」
と吠えられた。


・・・バレてる?
うそ!!
つくしは絶句した。








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2015
12.25

恋の予感は突然に 11

司は濡れた髪に指をさし込むと後ろへとかき上げた。
そして釈然としない想いで牧田月子のことを考えていた。
わかってはいたが、案の定逃げられた。

熟睡するたちではなかったが、なぜかあの日は朝まで目が覚めることがなかった。

これまで寝る相手は自分で選んできた。
類も言っていたが、どう考えても牧田月子は俺の好みのタイプじゃなかった。
けど類が言ったことが正しいわけじゃねぇ。
確かにチビだし、色気なんて全然ねぇし、身体は・・・胸は小さいが形はきれいだった。
ウエストは俺の両手で掴めばその手に収まる程細かったし掴んでゆすったら壊れるんじゃねぇかと思った。
あんなちっちぇえ身体でよく俺を受け入れたもんだと感心した。
経験のない女が俺を受け入れるのははっきり言って苦しかったはずだ。
・・・そうだ。あの女は経験がなかった。
よくわかんねぇけど、はじめてってのは痛いもんなんだろ?
なのにそんなことはひと言も口になんてしなかったがな。


けど口は達者で自己主張もはっきりしていた。
なんか知らねぇが堅い決意ってもんが感じられていた。
今まで俺の周りにいた女は俺に嫌われるのが余程嫌なのか、自己主張する女なんていなかった。ツマンネー女ばっかだったってことだな。

あの女の矛盾だらけの話しは眉唾ものだが・・・
・・・あの女、ぜってぇ年を誤魔化していやがる。

なにが尼寺に入るから俗世間最後の思い出だ!
わけの分からない話しをベラベラと喋ってたけどあの女自分でもわけわかってねぇんじゃねぇの?


女と寝るときはどこか理性が働いていた。
それはいつも感じていた。
どこかで別の自分が冷静な目で自分自身を見ているようで満足感なんて感じられなかった。
単なる男としての欲求を満たしているだけに過ぎなかった。

だがあの時は感情にあおられて容赦なく奪っていた。
拒むことも逃げることも許さないように奪った。
そして、そうしながらもっと他にどんなことがあるのか教えてやりたいと思っていた。
本来なら女の初めては愛されて、慈しまれて、甘やかしてやるべきだろう。
なのにあの女、やることだけやって頂戴って感じだった。




・・・おい、待てよ?
それって・・・アレか?
女の立場にたってみれば・・・

俺はあの女の欲求不満処理の相手をさせられたってことか?
俺があの女のおもちゃにされたってことか?


冗談じゃねぇぞ!!


あの女・・自称28歳の牧田月子は無垢だった。
誰かを待っていたからその年まで無垢でいたかったのか?
それとも自分にふさわしいと思える男がいなかったからなのか?
けどあの女、やることが大胆だよな?

どちらにしても、あの女を見つけ出して聞かなければならないことがあった。
そしてどうしても牧田月子のことが頭から離れなかった。
いつまでも正体不明な女でいられると思うなよ、牧田月子!




イテッ・・


切っちまったか・・
司は顎に手をあてると鏡のなかの自分を確認していた。









背中がゾクゾクした・・・
そんなことあるわけないけど鏡の向うから誰かに睨まれているような気がした。


つくしは浴室の鏡の前で自分の肩につけられた赤い痣を見ていた。
気づけばそれは所有の印のようにつけられていた。

牡馬が牝馬と交尾をするとき制圧化に置くように牝馬の首元を噛むが、まるでその行為の痕のようだ。
素肌を噛んで唇で吸われた痕。
どの動物の世界でも雄は同じような行動を見せる。
マーキング行動・・・
あのバカ男、あたしにこんなもの付けて何考えてるのよ!


ゲームのルールはわかっていた・・・
一夜限りのつき合い・・

つくしは記憶をたどった。
あたしは心と身体を引き離そうとしたけど・・・
ダメだった。
男に愛されるってどんな感じなのかずっと想像はしていたけど、現実は想像していたのとは違っていた。
まず第一に男の身体があんなに熱いだなんて知らなかった。
熱い身体に抱きしめられたとき、自分の身体が溶かされていきそうに感じられた。
まるでフライパンに落とされたバターのようだった。
だんだんと身体の力が抜けてくるとふにゃりとして男の手で思いのままに弄ばれているように感じた。
お腹に置かれた手の大きさとその熱に身体の奥が疼くような感じがしていた。
ちょうど、その手の下は子宮があるところ・・・
そしてあの男の頭があたしの・・・


何考えてるのよ、あたしは!
つくしは頭のなかに浮かんだ情景を描き消そうと自分のお腹に手をあてると目を閉じた。
もうすぐあたしのお腹のなかにあの男の子供がいるかどうかが分かる日が来る。
あたしの体内時計は正確だ。生理が予定通りにこなければ間違いないはずだ。
不安を感じないと言えば嘘になる・・
つくしは目の前にある小さな箱を手にした。
妊娠検査薬。これを使う日がもうすぐ来るはずだ。






司は電話を切ると立ち上がった。
俺は頭がどうかしているにちがいない。
あの嘘つき女、牧田月子の為に振り回されているなんて。
いいや。これは多分仕事のし過ぎだ。

スーツの上着を羽織ると支社長室から廊下へ出た。
慌てて後ろから付き従う秘書とエレベーターに乗ると一気に1階まで降りていく。
エントランスロビーには何人かの集団がいて俺を認めると挨拶をしてきた。
当然だが無視した。
今の俺の顔みてなんか言ってくるやつがいたら大したもんだと褒めてやる。

司は建物の外へ出ると待たせていた車に乗り込んでいた。
一瞬だが冷たい空気にあたり、頭の中がすっきりとして少しはまともにものが考えられる気がしていた。

真面目くさった顔で嘘をつく女が気になるなんてどうかしてるな。
見つからないから気になるだけだと自分に言い聞かせてみても、どうしても気になる。
あの女のどこがそんなに気になるのかすらわからなくなってきた。



奪って欲しいと言われたから、それまでのことをしただけだと言うのに
最近の俺は以前にも増して・・と言うより牧田月子に会ってから益々不機嫌になったんじゃねぇかと言われていた。
結局あきらや総二郎は滋が連れてきたあの女のことは全く知らなかった。
肝心の滋は海外での生活に戻ってしまって連絡が取れない。
滋のやつ、わざと俺からの電話に出ねぇつもりでいるな?
今度帰国したら絞めてやるから覚えてろよ!






ジェット機のタラップを上りながら司はうんざりとしてため息をついた。
これからNYまでの機内の中でもあの女のことが頭から離れそうになかった。
いつもは読まない雑誌でも読むかとページを開いたとき、あの女がそこにいた。








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2015
12.24

Season’s Greetings

Category: Season's Greetings
ふんわりとした雪がはらはらと落ちてきて髪の毛や肩を白く染めていく。
その雪も、アスファルトで覆われた地上へと落ちるころには溶けて無くなっていた。
だが今は溶けてなくなっている雪も、あと数時間もすれば、通行人が踏み固めて歩かなくてはならないまで積りそうな予感がしていた。

公園の芝生の上に積もり始めた雪は、そのうちに一面を真っ白な絨毯のように変えるだろう。
ベンチのうえに降り積もった雪は、すでにその厚みを増してきていた。
やわらかく舞い落ちてくる雪は、やがて重い雪となって家々の屋根を白く覆っていく。
暗いイメージのあるロンドンだが、こうしてふわふわと舞う白い雪が、モノトーンの街並みを幾分明るく感じさせてくれる。






「うわぁ。きれいだね!司、見てよ!
NYで見たツリーも素敵だけど、ロンドンのクリスマスツリーは落ち着いていていいね」

「そうか?今年はロンドンで過ごすことになったけど、おまえはそれでよかったのか?」

「うん。司と一緒ならどこでもいい」

ロンドン中心部のトラファルガー広場に毎年飾られる大きなもみの木は、毎年ノルウェーからはるばる海を渡って贈られてくる。

なぜノルウェーからか?

第二次世界大戦中、イギリス軍がノルウェーを援護したことに感謝して贈られるようになったという長い歴史がこのツリーにはある。
NYのロックフェラーセンターのツリーのような派手さはないが、ロンドンの街並みに配慮されたように落ち着いた装飾がされている。
ロンドンは、言うまでもないが世界有数の古い都市である。
日本とは異なり石造りの建物の歴史は古く、そんな都市の風景に溶け込むようなツリーがこの街には似合っていた。


「ねえ司。これこれ。このライオン像。銀座のデパートの前にいるのと同じだね?」

「ああ、銀座のデパートの方が真似をしたんだからよく似ていてあたり前だ。モデルになったのはこっちだ。けど銀座のライオンも出来て100年以上が経ってるらしいな」

「へぇ。そうなんだ。司ってなんでもよく知ってるんだね」

吐く息は白くても、二人でいればその景色も特別なものに見えた。
その大きなライオン像の上に、よじ登って写真を撮る観光客を見ながら二人で広場を横切った。

ぎゅっと握られた手の感触は、柔らかな革の手袋の上からでも分かるくらい暖かかった。
日本では、いい大人がこうして手を繋いで歩くことに抵抗を感じる人間も多い。だがこちらでは年齢など関係なく手を繋ぐ。
むしろ、年齢層が高いほどその光景をよく目にすることができた。



つくしは信号待ちで隣に立つ背の高い男性を見やった。
イギリス人に負けないくらいの上背を持ち、上質な黒のカシミアのコートを着こなす男性。
英国スタイルの服装を着こなす司には、やはりノーブルな気品があった。
そんな司の髪にもふわふわと舞い落ちてくる雪がとどまると、彼の頭を白く見せていた。
その光景を目にしたつくしは、いつの日かこの人が真っ白い頭になる時までずっと傍にいたいと思った。
そんなふうに考えていたとき、さっと頭を振り払われ、その雪ははらはらと舞い散った。

「信号は青だぞ?」

そう言われ、握りしめられた手をぎゅっと握り返すと道を渡って行く。
沢山の観光客が訪れるこの街の雑踏に紛れても、この男性は人を惹きつける何かがある。
様々な人種が多様に見られる街のなか、すれ違った人間が思わず振り返って見てしまいそうになる程の人物が、いったいこの街にどのくらいいるだろう。だが道明寺司という人間は、人が振り返るだけの何かが確かにある。




寒く憂鬱な日々が多いこの季節、ただでさえ暗いイメージのあるこの街に灯る明かり。
日本の白く照らす照明と異なりイギリスの照明は薄ぼんやりとしたオレンジ色。
街も、家の中から漏れる光もオレンジ色だ。
最近ではLED照明に変えようという動きも見られるようだが、やはりこの暖かみを感じられるオレンジ色がこの街並みには似合っている。
そんなロンドンで一番派手だと言われるネオンサインは、ピカデリーサーカスと呼ばれる広場の角のビルの壁面だ。
ここは随分と長い間日本のメーカーの派手な看板が飾られていたが、それもすでに無くなっていた。
だが、こうして二人で歩いてみれば、ロンドンの街も楽しかった。
きっとそれはどこへ行こうとも同じだろうけれど。


二人が暮らし始めるロンドンの街。
この国の夜はどちらかといえば暗い。
夜間照明は歴史的な建造物を除けば地味であった。
それでも、夜間飛行で空から見るロンドンの街は、全体にオレンジかかった明かりに包まれていて、柔らかで暖かみを感じさせてくれるこの明かりが心をなごませてくれた。
そして、空から眺めた家々の明かりのひとつひとつにそれぞれの生活がある。

日々の暮らしとはごく平凡に過ぎていくものだ。
平凡な生活の積み重ねこそが幸せだということに気づかない人々も多い。
「暮らし」とは生きること。
安らぎとか、落ち着きが得られる場所で生活をしていくことが暮らしだろう。

だから、たとえ異国の地であろうとも、二人で生きていける場所に暮らしがある。

司にとってはニューヨークに次ぐ海外赴任地。
つくしにとっては初めての海外での生活。
イギリス人はシンプルな暮らしを好む。つくしも質素でシンプルな暮らしを実践してきただけに、この国の文化にはすぐに慣れると思った。何故なら、堅実さとは彼女の為にあるような言葉だからだ。

だが過去、この国も花形産業であった鉄鉱業の繁栄とともに、大量消費文化が生まれはしたが、その地位はアメリカと日本に譲られていた。
つくしも、イギリス人の暮らしを見習ってシンプルな暮らしをしたいとは思ったが、そうはさせてもらえないのが財閥のお家柄だった。買い物にしても、超一流のブランドを誇る店にしか行かせてもらえないことが残念でたまらなかった。






「わたし、司をびっくりさせるようなプレゼントを用意してるの」

「なんだ?」

「うちに帰ったら教えてあげる」

二人で過ごすクリスマス。
レストランへ行って食事をしようと言われたが断った。
つくしはこの国の習慣にならってクリスマスディナーを用意した。
ローストターキーとクリスマス・プディング。
お腹の中に詰め物をしたターキーとプディングは欠かせない。
イギリスではドライフルーツたっぷりのケーキのことをプディングと呼ぶ。
そのケーキにブランデーを注いで火をつけると、青い炎がゆらゆらと揺らめきながら消えていく。そして、中にコインが隠されていて、切り分けたとき、そのコインが入っていた人には幸運が訪れるという言い伝えがある。
だがつくしはコインを入れなかった。
なぜなら二人とも幸運は手に入れたから。
そして神様からの祝福という奇蹟を手に入れていたから。
彼と知り合ってから多分はじめて不意打ちをくらわせることが出来るはずだ。

たとえ今が寒くても、家に帰れば暖かい光が窓から零れているはずだ。
外出をするとき、真っ暗な家に帰るのは嫌だから必ずエントランスには明かりを灯してある。
これから先、二人で歩く道には暗闇もあるかもしれない。
たとえ暗い淵の傍を歩くことになったとしても、つくしは司の人生のひと筋の明かりでいたいと思っている。

二人の描く未来像はどんなものか?
平凡な暮らしはとても望めそうにない。だが大きな波に揺らされるヨットになろうとも、強い風に流される小舟になろうとも、二人で人生を歩んでいくと決めたのだから、未来なんていつでもこの手のなかにある。
未来は望むのではなく、自分の手で作り出していくもの。
そして、いつまでも二人で手を繋いで歩いていく。
決してこの手を離さない。






司にとっては今までで最高のクリスマスだ。
つくしとの未来がこの手のなかに入ったから。
司は妻となった女性を抱き寄せながら、彼女が用意したというプレゼントを考えてみた。
彼女が用意してくれたプレゼント・・・

ピカデリーサーカスから老舗の店が立ち並び、優雅なカーブを描く建物が特徴のリージェントストリートを歩きながら、店のガラス窓に映し出された妻の顔を見た。
そのとき二人は、ある店の前に立ち止まってガラス窓に映った互いの顔を見ていた。

そして司は、何かを感じ取ったのか、妻の唇にキスをすると優しく抱きしめていた。
なぜなら、そこで立ち止まった意味を知ったから。






その店は創業1760年の老舗玩具店。



司の顔は大きく輝いていた。






Best Wishes for a Happy Holiday !
※1760年創業で世界最古、最大級の玩具店がリージェントストリートにあります。
英国王室御用達 『Hamleys』(ハムリーズ)

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2015
12.23

恋の予感は突然に 10

「おまえは誰だ?」

両手で肩を押さえつけられ、身動きがとれなかった。
つくしは男の胸の下でその重みに押し潰されてしまいそうだと思った。
相手は滋さんの知り合いとはいえ、見知らぬ男性だ。
バスローブを羽織っただけの見知らぬ男性にのしかかられているなんて信じられなかった。
今のあたしが置かれた状況が違うならこんな状態で大人しく横たわっているなんてあり得ない事態だ。
それなのにあたしは・・・この男の黒髪に指を差し入れて引き寄せたい衝動に駆られていた。
下から見上げるかたちで見る男の顔には思いやりなど感じられるわけもなく、鋭い視線でつくしの顔を見つめていた。

喉がカラカラに乾いていた。
つくしは唇をひらくと下唇に舌を走らせた。

「だ、だから・・」
「さ、産業スパイとかじゃなくて・・」



・・・スパイじゃなくて泥棒なんだけど・・・
それも・・精子泥棒・・
ああ、でも泥棒なんてしたらもう天国には行けないかもしれない・・
そ、そうだ!


「あの、あ、あたし・・も、もうすぐ出家するのっ!」
つくしは咄嗟の思いつきで言った。
「あ、尼寺には、入るから・・その・・ぞ、俗世間でのさ、最後の思い出に・・」
声がひっくり返りながらつくしは言葉を継いだ。
「し、滋さんがね、あたしの最後の望みを叶えてあげるって言ってくれて・・」
「じゃあ、その・・あの・・」




「なに?それで俺が選ばれたって?」
司はいびつな笑みを浮かべた。
「俗世間での思い出にってか?」
司はアホくせぇと言う表情で自分が組み敷いた女を見た。
よく次から次へと嘘ばかり並べられるものだ。

「牧田月子、おまえ俺をバカにするのもいい加減にしろよ?」
「おまえ、どうしても俺に本当のことを喋る気なんてなさそうだな?」


本当のことよ!
つくしは心の中で叫んでいた。
だってあたしはこのチャンスを逃すときっと普通の子供を育てることなんてない!
あたしの最後の望みなんだもの、このバカ男は!
あたしなんていつか、どこかの頭のいい男性とお見合いなんてさせられて結婚させられちゃうはめになるわ。
そうなったら子供に平凡な人生なんて望めない!
本当は俗世間に留まりたいからこのバカ男が必要なのよ!


「ほ、本当のことよ!」
つくしは男の目を見つめるとちからを込めて言った。

滋さんは男にとって一番重要なのは最終結果、つまり放出するときだけだと言っていた。
だったらその前の項目は省略してもらって構わない。
手順なんて気にしてないから!
何をするのか知らないけど、あたしは省略してもらって全然構わないから!


「おまえの言ってることを信じるほど俺はバカじゃねぇぞ?」
そう言いながらも男はつくしのうえから動こうとはしなかった。
「やっぱりこの身体に聞いてみるか?」
司はつくしのうえに跨ったままでゆっくりと顔を近づけてきた。
ええ、ぜひお願い!
「・・やっぱ、やめた 」
司は掴んでいたつくしの肩から手を離すとベッドのうえから降りた。

ど、どうして!
困るのよ、今日じゃないと!
「俺はそのへんの女を適当に漁るほどの女好きじゃねぇ。あきらや滋がどういうつもりでおまえを連れて来たか知らねぇけど、俺は盛りのついた雄犬じゃねぇからな」
「まったくあいつらの考えることはガキのときから進歩してねぇな」
司はテーブルに置かれた煙草に手を伸ばしながらぞんざいな態度で言った。
「もういい。おまえ帰れ、牧田月子!」



ここまで来て帰れるわけないじゃない!!

つくしはベッドのうえに起き上ると震える手でドレスのジッパーをおろし、頭から脱いだ。
もうこうなったら・・本気で体当たりするしかなかった。

つくしは司へと近づくと彼の腰に緩く巻かれていたバスローブの紐を思いっきり引っ張った。
はらりと開いたバスローブの下に男は何も身につけてはいなかった。







ブラとパンティだけの姿で立つ自分がどう見えるかなんて考えたことがないけど
少なくともこの男を反応させるだけのことはあったようだ。
なによ!さっきはあたしの裸を見たくせに!
司を誘惑するならこれくらやらないと!と言って滋さんが勧めてくれた黒のレースで出来たハーフカップのブラジャーとTバック。

『つくし、男にはね視覚効果も重要なのよ?チラリとかポロリとか・・?
だからエロい雑誌とかDVDとかが売れるんだからね!全部丸見えじゃ面白くないみたいよ?』

こんな紐みたいなものに実用性なんて感じられないけど、こんなもので役に立つなら実用云々なんて言ってられないわ。

「おまえ、本気か? そんなんで俺を誘ってんのか?」
「な、なによ。あんただって・・あたしのことほ、欲しいんじゃないの?」

言った!言えたわ滋さん!
こんな台詞が言えるなんて信じられない。
まるで悪い女みたいだ!

「あ、あんたには何も求めないから心配しないで」
お願い、ボランティアでもいいからあたしを抱いて!

「げ、ゲームのルールは理解してる・・だから・・」
もし何かを心配しているならそんな心配はないから!
二度とあんたには会うつもりなんてないから!







バスルームにあるコンドームは古すぎて使い物にはならない。
あれは悪友たちが置いていったものだった。
あんなもん大量に置いていきやがってどいつもこいつも・・俺は色情狂かよ!
床に散らばっていたコンドームのひとつを取り上げると司は女の腕を引いていた。


司は女の首を引き寄せるとキスをした。
優しさとは違う、かと言って強引とも違う、力強いキスだった。

レースの下着は優しく脱がされていく。
小さな布きれなんて男に見せる為だけのものだった。
力をいれてしまえば簡単に裂けてしまいそうだ。
女の脚をゆっくりとなであげていけば、震えが感じられる。
いまは女のすべてが司のまえにさらけ出された状態だった。


この女がいくら口達者なことを言ったとしてもこれからの行為に不安と恐れを感じているのは確かだ。
まさか経験がない?
経験のない女を最後に抱いたのはいつだったか?

悪友どもが何を考えて俺にこの女を連れて来たのかは薄々わかってた。
女で憂さを紛らわせろということだろうが、やりたい放題のバカ男じゃあるまいし、昔の俺と今の俺を一緒にすんじゃねぇよ!
クソッ!
この女をびびらせて逃げ帰らせるために軽く脅してみたが、泣きそうな顔してごめんなさいと言われたときは、その弱々しさに自分がカエルの大将になっちまったみてぇに感じた。
ああ、目が覚めてこの女がベッドで俺に寄り添っているのを見たとき、あのときは息が止まりそうになった。
ちいさな手が俺の胸におかれたときは、その手で心臓をもぎ取られるかと思った。



女のなかに進入する行為はすんなりとはいかなかった。
局部が潤うための行為を繰り返した。
はじめは抵抗を示していた身体もそのうち柔らかく溶けてきた。

胸元で「おねがい・・はやくして」と言われ一気に貫いていた。


押し広げられ貫かれ、圧迫感を感じつくしは叫び声をあげそうになっていたが我慢した。
そしてはじめての痛みに、経験に涙が流れていた。
男が短く悪態をついた。
何を言っているのかわからなかったが、引き抜こうとしているのはわかった。
「お、おねがい・・や、やめないで・・」
だめよ、いま止めたら・・・あたしの赤ちゃんが出来ない!
「おねがい・・」
最後までちゃんとして!
自分の身体のなかに、別の人間の一部が入り込んでいるなんて信じられなかった・・
大きな男の大きな手にお尻を掴まれて、あたしの脚はその男の腰へとまわされていて繋がっていた。
知らない男に何度も何度も突かれる行為が続き、容赦なく奪われながらも身体のどこかが
熱くなってきているのが感じられた。
そして出し入れされるたびに卑猥な音がした。
はじめに感じた痛みも薄れてくると身体のなかに変化がおきた。
ただの生殖行為に何も感じることなんてないと思っていたが、乳房の先を男のくちに含まれて転がされてときには「あ・・あん」と声が出た。

男のつけたコロンの香りが五感を刺激する。
多分、この香りは一生忘れることはないだろう。


つくしの上に覆いかぶさってきた男にキスをされたとき、口いっぱいに煙草とお酒の味が広がった。
そして倒れこんできたとき、重い身体を受け止めながらも余韻に脚が震えていたが男の腰にまわしたままにした。
少しでも確実に妊娠するチャンスのためにはこのままの姿勢でおとなしくしている方がいいと書いてあったから。




司はバスルームでコンドームを外すとゴミ箱に捨てた。
女が身悶えをして絶頂に達した瞬間を感じとっていた。
やはりこの女は経験がなかった。
ゴミ箱に捨てらてたそれには証拠がはっきりと残っていた。
なのに何故?
女が初めての男に選ぶのは好きな男のはずだ。
どうして俺を選んだ?
いくら嘘や誤魔化しを並べたところですぐに真実はわかるだろう。
まずはあきらにでも聞いてみるか。


司はベッドに戻るとうつ伏せの姿勢で横たわっている女の隣に身をすべらせた。
暫くは女の姿を眺めていたが心地よい疲れに身をまかせるように眠りの世界に落ちていった。









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2015
12.22

恋の予感は突然に 9

司は次の瞬間笑い出した。
チビ女をからかうのはこのくらいでいいか。
徹底的にいじめてやろうかと思ったが今にも泣きそうな顔をしていやがる。
あほか、この女は。

こんなチビ女に何が出来るって言うんだ?
俺を襲うとかそんなことが出来るわけがねぇだろ?
第一にそんなことさせっかよ!
身体の大きさからして考えてみろよ!
殴り倒されたのはこんなチビに何が出来るかと油断したからで、逆に男に襲われたらこんなチビ女、簡単に組み敷かれるぞ?
商売女じゃないことくらい最初に見たときからわかってた。
バカな女は顔を見りゃわかる。
デカい目を見開いてわけのわかんねぇ講釈を必死になって垂れながら何かを隠してるってのもわかった。

だがこの女は嘘つきだが人に害を与えるような女には見えなかった。
滋が連れて来たってことはどこかの金持ちの娘だろうと思っていたがそうでもないらしいな。
どっちかと言えば貧乏くせぇか?
けど、どうせ俺と知り合いたいとかいう輩のひとりだろ?
が、この女が何かよからぬことを企んでいるのではないかと言う思いも捨てられずにいた。
企みと言っても滋が連れてくる女なんだし、俺を騙せるような度胸のある女がいるとは思えなかった。

司はくつくつと笑っていた。
つくしは男の態度が理解できずにうろたえていた。


司はあたらめて女に聞いた。
「おまえは誰だ?」
「質問に答えろ」
その声はもう笑ってはいなかった。





つくしは小さなバッグを握りしめ椅子のうえで身体をこわばらせていた。
身元がバレないうちに急いでこの部屋から出なければならない。
相手はバスローブ一枚だ。
なんとか部屋の外へ出ることができれば逃げることも出来る。
つくしは部屋に視線をさまよわせた。

「あ、あの、だから・・」
「あ、あなたには興味のない人間だと思うわ!」
つくしは口ごもった。
「だ、だから、か、帰ります・・」


司は口元をゆがめた。
「俺が興味があるかどうかは、俺が決める」
「なんならこれから滋を呼びつけるか?」


「あ、あの・・」
どうしよう!なるべく理にかなったような答えをしなきゃ。

「なんなら、そのベッドに押し倒しておまえが何をしにここに来たのか聞いてやろうか?」


つくしは思わず呻いた。
願った展開になりそうだ!
ぜひそうしたい! でもこの男は本気だろうか?
服を脱いで? 
あたしは最後まで出来るだろうか?
でも、あたしには目的がある!
あたしだけの子供が欲しいの!
それを授けてくれるのなら、このチャンスにかけるしかない。



「しかし、おまえ・・男の妄想を煽るような女には見えねぇんだよなぁ」
司はつくしの身体に視線をはわせながら考え込んだ。
「ハニートラップにしちゃあお粗末な身体だしよ?」
「いったい何が目的なんだ?」

・・それを口にできたら楽なんだけど・・・
つくしは心の中で呟いていた。
つくしは自分なりにセクシーと思われるような恰好で来たつもりだったけどこの男の反応から判断して失敗だったんだと思わずにはいられなかった。



「ま、おまえがゲームをしたいんならルールはわかってるよな?」

つくしは男が言った言葉を理解しようとしていた。
・・・ゲームのルールって?
そ、それって一夜限りの付き合いってこと?
うんうん!願ったり叶ったりだ。

あたしに殴り倒されたことでプライドが傷ついたなら、あたしを抱くことでそのプライドを癒してもらってかまわないわ!

つくしは答えなかった。
頭のなかを駆け巡るのは将来の自分の姿。
それは子供と自分が平凡に暮らしている姿だった。
人生で一度も道を外れるようなことはしたことは無かったけど頭のなかに映し出されたまだ見ぬ子供の姿を思えばこの試練は必要だ。


つくしは身を固くしたままで椅子に腰かけていたが、意を決して立ち上がると男の胸へと飛び込んでいた。


そして気づいたときには、ウエストにまわされた腕が自分を抱き上げ、ベッドへと降ろされ、たくましい裸の胸の下につくしを置いていた。








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