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2015
12.21

恋の予感は突然に 8

ばかげていた。
つくしは目を閉じて大きく息を吸った。
なんであたしはこんな所にいて、バカ男に説教をされなきゃいけないの?


つくしは男が投げてよこしたドレスを着て椅子に座らされていた。
目の前にはバスローブに身を包み、怒りをみなぎらせた男が両手を腰にあて、つくしを睨んでいた。


「おまえ牧田月子だったよな?」
「ご、ごめんなさい・・」
「おまえは何がしたいんだ?」
「えっと・・そ・・の・」
「・・ったく・・おまえみたいなにチビに殴られてぶっ倒れたなんて情けねぇ」
下から見事に決まったアッパーカット。
司はつくしに殴られた顎に手をあてながらも力強く立っていた。

チビといわれて思わず拳を握りしめそうになっていた。
「そ、その・・殴ったお詫びをと思って・・」
「おまえは殴り倒した相手に対していつもこんなことしてんのか?」
司はクルクルの髪をかきあげていた。
「ご、ごめんなさい・・な、殴ったことは・・その・・」
つくしは罪悪感に頬を染めた。
「男のベッドに入り込んできてなに言ってんだ?おまえ本当は俺になにをするつもりだったんだ?」



恐ろしい目で睨まれてつくしは深く息を吸い込んだ。
「あ、あの・・介抱しようかなぁ・・なんて思って・・」
今度は羞恥心に頬を染めた。
「おまえ滋のダチだって言ってるみてぇだけど、ほんとは何者だ?」
「写真でも撮らせて俺を脅すつもりか?」
司は椅子に座らせた女の周りをゆっくりとまわりはじめた。
「だ、、だから滋さんの友人です・・」
つくしはうつむき加減で答えた。
胃がキリキリしてきた。
お、お願いだからじっとしてよ!動きまわらないで!
これじゃあまるで裁判で尋問を受けているみたいじゃない!
「もう一度聞くがおまえは何者だ?」

「えーっと、よく意味がわからないんだけど・・?」
男に自分の周りをゆっくりとまわられて目が回りそうになっていた。

「しらばっくれるのもいい加減にしろよ?牧田月子さんよ?」
「おまえ、どっかの商売女だろ?どうせあきら達から頼まれた滋がおまえに頼んだんだろ?」
「牧田月子なんて変な源氏名つけやがって」
低い声で嘲るように言われた。

「あ、あたしは・・」
本当のことがこの男にばれて滋さんに迷惑が掛かったら大変だ!

「そ、その・・」
つくしはこの場をどうやって切り抜けようかと考えてみたが思いつかなかったので
この男の勘違いをそのまま利用することにした。

「俺はなぁ、商売女とはやんねぇ」

「あ、あたしはそのへんの商売女とは違うんだから!あ、あたしは高級な・・えっと・・」

つくしはネットや映画から得た知識をフル活用しようとしていた。
「あ、あたしは高級な・・疑似的恋愛労働者よ!」

「疑似的恋愛労働者だぁ?」
「そ、そうよ!」
「あ、あんた知らないの?感情労働のひとつで、世界で一番古い職業なんだから!」
司はつくしの顔を初めて見たかのようにじっと見た。

「おまえ、俺をバカにするのもいい加減にしろよ?」
「な、なによ?」
「おまえみたいな商売女がいるわけねぇ・・・」
「こんな素人くせぇ商売女がどこにいるんだよ?おまえ・・本当は何者だ?産業スパイか?
どこの企業に幾ら金もらってこんなことやってんだ?それに28だなんて嘘だな」

「おまえ・・やってることと言ってることが矛盾してるし、嘘くせぇんだよ」

「そ、そんなことないわよ!ほ、ほら」
つくしは小さなバッグのなかから取り出したコンドームをいくつか見せた。
「ち、ちゃんと仕事の準備はしてるわよ!」

「へぇ~おまえチビのくせして、この俺とやることやろうって?」
司はつくしの目の前で歩みを止めると椅子のうえで身を縮めるようにしている女の前に屈みこんだ。
そして視線をつくしの目線の高さに合わせてきた。
真正面で自分を見据えるきれいな顔につくしは圧倒された。


「おまえ、さっき俺の胸に触ろうとしてたよな?それも俺の意思とは関係なしに」
「もし仮にだ、おまえが眠っているところに男がきて勝手に胸を触ったりしたらどうする?」

「そ、それは・・ど、どう言う意味?」
「つまりだ。相手の意思に反して行われる行為はなんて言うかしってっか?」
「セクシャルハラスメントだな」
「・・なっ!」
「いや、違うな。セクハラってのは一定の社会的関係があって行われる行為のことを言うからな」
「おまえの場合は・・・・俺に対する暴行未遂か?」
と顎に手をあて、少し考えるような素振りを見せたあと問いかけるように言った。
「ぼ、暴行未遂っ?」
「そうだな。俺は全くしらねぇ女に暴行されそうになったってことか?」
「いい方を変えれば・・・俺はおまえにレイプされそうになったってことか?」
つくしは切り返す言葉が出てこなかった。


「あ、おまえ弁護士を用意しとけよ?」
司は薄い笑みを浮かべた。

「レイ・・。ば、バカなことを言わないでよ!そんなの・・どう考えたって・・ムリに決まってるじゃない!あんたみたいな大きな男にそんな・・」

「いいや。俺は酒を飲んでたら一方的に殴られた。これだけでも立派な暴行事件だぞ?
んで気を失って倒れた俺におまえが・・」
司の目つきが険しくなった。
「ちょっと!なにってんのよ!冗談じゃないわよ!あ、あたしがあんたをれ・・レイ・・プなんてどう考えても無理に決まってる!」
つくしはそこまで言ったもののそれ以上は言葉を返すことができなかった。
司は嫌悪に満ちた表情でつくしを見据えていた。

つくしは内心の動揺を隠せなくなってきた。
ああ、どうしよう・・どうしたらいい?
もしこの男に訴えられたりしたらどうしたいいの?
せっかく子供と二人で生きて行くために貯金したお金も裁判費用や賠償金として支払うはめになるかもしれない。
つくしの背筋に冷たい汗が流れたような気がした。

「ご・・ごめんなさい・・」
つくしはどうしたいいのかわからなくなって泣きそうになっていた。







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2015
12.20

恋の予感は突然に 7

いい香りがする。
それはあのコロンと同じ香りがした。


ほんの少しのあいだだけでいい。
少しだけこうしていさせて欲しいと思った。
だってあたしにはこんな・・・
こんな経験をすることなんて二度とないだろうから。
滋さん今夜は多分失敗よ・・・



こんなふうに男性の傍、それも裸の男性の胸を間近に見るなんてどんな気分になるか想像したことがなかったけど自分の心臓の鼓動の音が聞こえるくらいドキドキしている。
もう少しだけこのまま・・・
どうせこの男が目を覚ますなんてことは無さそうだもの。





司は自分の胸元に暖かい吐息を感じ、女の匂いを感じていた。
そして胸に感じられた小さくやわらかな手の感触。
夢か?


つき合っていた女と別れた理由は子供が欲しいとほのめかして来たことでもあるがその女の匂いが嫌いだったから。
その女はいつもきつい香水をつけていた。
まるで自分の匂いをマーキングする動物のような女の行動に、いい加減にしてくれと言う気持ちがあったのも事実だった。
『この男は自分のもの』
そんな思い上がりにうんざりもしていた。
自分の香りを男に纏わせようなんて自惚れも甚だしい。
だからいつも長めのシャワーを浴び、女の匂いを消していた。

だが、いま自分が感じている匂いはふんわりとした石けんの香りだった。
なんの嫌味もない石けんだけの香りが嗅ぎ取れた。
セクシーさもなく、実用的な石けんの匂い。
今までつき合って来た女の中にそんな女はいなかった。
司は夢が薄れてくると、現実を認識しはじめていた。



つくしはまさか自分が性的な誘惑をしているとは夢にも思っていなかった。
だが、こうして男性の裸を目の前にして触れてみたいと言う衝動を抑えることが出来なかった。
つくしは理性を失ったかのような自分の行動に頭が朦朧としてきた。
この男がどんな立場の男であるか、よく知らないが女性が自ら身を投げ出してくることに慣れているはずだ。
そうでなければ、あんなものを用意しているとは思えない。


この男がもし目を覚ましたらどうする?
訴えられる?
セックスなんて経験したことがないんだから、この男が何を考えているかなんてわからないけど、病気と避妊だけは注意していることに感謝しよう。
そうでなければ、この男を相手になんか選ばなかった。

私だけの子供の為に海外の精子バンクを利用することも考えてみたが、往々にしてそんな所に登録をしているのは、大学の医学部で医学を学ぶ学生や、知能指数の高い人間に決まっている。
医学生の場合は学術目的として登録している場合が多い。
そして自分の遺伝子をバンクで残そうなんて考える人間は自惚れが強い人間だ。
あたしの子供に高い知能指数なんて必要ない!
あたしの子供は平凡な人間で、平凡な人生を歩ませるの!
頭の良すぎる人間なんて社会生活を送るうえで煙たがられるだけだ。
そんなのあたしだけで充分よ!
だからバカで鈍そうなこの男を選んだ。




司はぱっと目を開いた。

目覚めた司は声を出せるようになるまで一瞬の間があった。
その間に自分がどこにいて、いま、自分と一緒にベッドにいる女が誰なのかを思い出そうとしていた。

自分の胸元に顔を寄せるようにしている女の黒髪を見ていた。
暖かい吐息が彼の胸に吹きかけられている。
そしてその感覚に思わず声をあげそうになっていた。
司は思わず開いていた目を閉じた。
興奮が脳を駆け巡った。
やっぱりまだ夢を見ているのか?
だが、閉じていた目を再び開いてみれば、女は司の胸に触れようか触れまいか迷うような仕草で小さな手を躊躇させていた。
どんな女も自分の胸に触れることに躊躇するようなことは無かった。

そしてついに女の手を胸に感じた瞬間、司が女の手をつかんだ。

「何をしてるんだ?」
困惑と言うよりも怒りを含んでいた。
手をつかまれて女は顔を上げた。



そんな!
もうこの時間が終わってしまったの?

「いったいここで何をしてるんだ?」
つくしを見下ろした彼の目には怒りを含んでいる以外の感情は見られなかった。

「えっと・・・あ・・あの・・」
つくしは自分の行動に責任を取ろうと思った。

司はつかんだ女の手を離すと上掛けを跳ね除けた。

そこには裸の女がきゃっと言って『ヴィーナスの誕生』の絵のような姿勢で横たわっていた。






『ヴィーナスの誕生』 サンドロ・ボッティチェリ作 フィレンツェ・ウフィッツィ美術館蔵

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2015
12.18

恋の予感は突然に 6

強烈な一撃だった。


ああ。もう最悪・・・。
こんなにゴージャスな男達に取り囲まれてこんな失態を演じるなんて・・
しまったと思ったときには遅かった。


花沢類さんにすればよかった・・・
でもバカっぽいのはやっぱりこの男だもんね。
こんなに喧嘩っ早いと子供に悪影響を及ぼしそうだけど、あたしが育てるんだし。


ああ、でもどうしたらいいの?
せっかく二人っきりになったと言うのに・・
目当ての男はベッドルームの大きなベッドのうえで寝ていた。

悪友たちに抱えられ横たえられた男につくしはため息をついていた。
ダメだ・・使い物になりそうにない・・
酔いも手伝ったのか彼は目を覚ましそうになかった。
そう言えば、滋さんがスペシャルドリンクを飲ませるとかなんとか言ってたっけ。
ゴージャスな男3人はあとは月子ちゃんが責任を持って介抱してやってくれと言ってドアの外へと消えて行った。


最高!!

これであたしの子供も夢と消えるわけね・・
でもこんな状況に陥ったのはすべてあたしのせいだ・・・
つい手が出てしまった。
だ、だってこの男が失礼なことばかり言うから、つい。
流れに身をまかせるとかそんな状況ではなかった。

こうなったら・・実力行使するしかないの?
だって選択肢はないでしょ?
今日を逃すわけにいかないじゃない?
今夜を逃せば次は・・う~ん・・あたしの周期からいけば・・


滋さん言ったわよね?またがったらいいって。

ん? でも酔ってても出来るの?
ちがう、ちがう!そんなことじゃない!
寝込みを襲うなんて出来るわけないじゃない!!
無理よ。無理に決まってるじゃない!
だってあたしはそんなことした事がないのに!


つくしは正体もなくベッドで眠りこけている男を見つめた。

・・・いつまでもここでこうして立ち尽くしているわけにはいかない。


つくしはバスルームを覗いていた。
へぇ~。このクルクルパーマはここに住んでるんだ。
つくしは洗面カウンターに並べられている瓶や缶を眺めていた。
アフターシェイブローションに整髪剤。
ふ~ん、歯磨きはミントフレイバーか・・・
つくしはその中にあるひとつの瓶を手に取ってみた。
そして蓋を開けるとクンクンと臭いをかいでみた。
いい香りがする・・・これってこの男のつけているコロン?

そして興味本位ついでに鏡のついた扉を開いてみた。
コンドームだ!
滋さんの言ったとおりこの男は用意している。
それも大きな箱で!
えっ? 
コンドームってサイズとかあるの?
ま、そうよね、ゴム手袋にだってサイズがあるんだもん。
つくしはその中からひとつを取り出すとしげしげと見つめた。
滋さんが用意してくれたものと何も変わりがないように思えたけど、こっちは使えない。


あ、あたしなにやってるんだろ!
コンドームを手にしてまじまじと見てるなんて、どうかしちゃった?
うんうん。この計画をたてた時点でどうかしてるんだ!


つくしは音をたてないよう、そっとベッドルームに戻った。
そして改めて男を眺めていた。

ゴージャスだと思った。
友人たちに服を脱がされベッドに横臥して顔をこちらに向けた姿勢だ。
クルクルパーマの髪の毛は乱れ、上掛けを掛けられた状態でもその身体のラインははっきりと見て取れた。
その寝姿に見惚れてしまう。
男のくせに長いまつ毛、眉だってきれいな柳眉だし鼻筋だってきれいだ。
そんな高い鼻筋してたら視界が遮られるんじゃない?
窪んだ眼窩なんて日本人離れしてるし、唇のカーブだってきれいな弧を描いている。


・・・でも神様は公平だ。
この男は容姿は完璧だが頭は鈍い・・・


男の呼吸は深くゆっくりと繰り返されていた。
身じろぎひとつすることがない。
こんな状態では男が目を覚ますなんてことは期待できそうに無かった。
男性と二人っきりの密室・・
あたしにはもうこんなチャンスが巡ってくるなんてことは二度と無いに違いない。


少しくらいなら・・・

つくしはおもむろに着ている服を脱いだ。
そして上掛の下にそっともぐりこんだ。







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2015
12.17

Collector 5

Category: Collector(完)
夢のなかで、つくしは見た。
男がひとりこちらに背を向けて立っていた。
そして振り向いたその人は微笑んでいるように見えた。
ううん、違う。
つくしはもぞもぞと身体を動かした。
夢じゃない・・


司はつくしの首に指をあてると、脈を調べた。
そこはトクトクと規則正しく脈打っていた。
女の身体は虚ろな痛みを癒してくれるはずだ・・
女にはやさしくしてやりたい。
甘やかしてやりたい。
驚愕に見開かれていた女の大きな瞳も今は静に閉じられていた。
その瞳のなかに映し出されたいと願っていた昔・・・
一度は自分のものになったと思っていた女。
昔の記憶が鮮明によみがえった。
司は女のもとを離れがたくベッドサイドにたたずんでいた。

この大都会でひとりの女がいなくなったところで何が変わる?
理由は問わずこの街で年間に行方不明になる人間は何百人といる。
そのなかには自ら姿を隠し、探して欲しくないと願う人間もいる。
消してしまいたいと思えるような過去・・
それすらも消すことが許されないならと自ら姿を隠す人間。
未来など必要ないと思う人間には過去も必要ない。
この女はどうして俺の前から姿を消した?






あの母親とこの父親にしてこの子ありと言われる程の人物となった司を目の前にしてつくしは当時を思い出していた。


どんな運命が私達を遠ざけたのだろう・・


「わ、わたしをここに閉じ込めてどうするつもりなの・・」
怯えをさとられないように、そして弱みを見せてなるものかとつくしは言った。
彼女は与えられたシンプルなワンピースを身に纏っていた。
そして、そのとき気づいた・・・ネックレスがないことに。


司はまったく気にする様子がなかった。
「おまえがどこに行こうが、何をしようが誰が気にする?」

両親は亡くなり、弟は遠い土地で暮らしている。
「す・・進がわたしを探すわ・・」
「あの進か? おまえの弟の進か?あの頼りなさそうな弟に何ができる?」
「失踪届でも出すってか?」
「おまえの弟にはそれらしい返事をさせるさ、警察からな!」
司は声を荒げた。


自分のことを何と言われようがかまわなかったが、弟のことを悪く言うのは許せなかった。
両親が亡くなってから二人で支え合って生きて来た。
そして私はあのことがあった後、花沢類のところで世話になり、弟は地方の国立大学での奨学金を得て東京を離れた。
私は類と・・類の好意で花沢邸から大学へと通った。
知識は決して邪魔にはならないから是非行きなさいと言って学費も援助してくれた。




「類・・類が心配する・・」
「進が・・類に連絡するわ!」
司は冷酷ににやりとしながら口元をゆるめた。
「類がどうした?あの男がおまえを探しにくるってか?」
「おまえ、俺と別れてからずっと類の邸で一緒にいたんだよな?だのに類はおまえに手を出してなかったってのもなんでだろうな?」
「それともアレか?類は男として機能してないってか?」
司は嘲笑っていた。


「類のことを悪く言わないで!あ、あんたに何がわかるのよ!」
「類はわたしを守ってくれた・・あんたが・・」
「何から守ったって?」
「ふん、まあいいさ」司はそっけなく言った。
「けど、それでなにが言いたいんだ?類がおまえを探すとでも?」
「勝手に思ってろ」
見透かしたように笑う声で言われつくしの背筋に寒さが走った。

司は何もかもお見通しだと思った。
むかし持っていなかった他人の心を読むということにかけては誰に学んだと言うわけでもなく厳しいビジネスの世界で自ずと身につけた。

ロビーで再会したときから気づいていた。
つくしの落ち着き払ったような態度に隠れた動揺は感じとっていた。
司はつくしを見つけ出すと傷つけたいと言う思いと誰にも渡さない____類になど渡すものかと言う思いが身体の中から沸き起こった。
そして自分から去って行った罰を受けるべきだと思った。
その理由がなんであれ、司のなかには道明寺家に伝わる無慈悲な血が流れている。
道明寺司を軽んじたらどうなるのかこの女はわかっていない。
自分のことを軽くみたのが間違いだったと気づくまで罰を与えてやらなければならない。
忌み嫌っていた両親から受け継いだ冷酷さが自分のなかで動き出していた。



「おまえのせいだ。聞いているのか牧野?おまえがここにいるのはおまえが俺を裏切ったからだ」
司は心の制御がきかなくなっていた。
つくしの手首を荒々しくつかむとぐいっと引き寄せた。

「おまえは俺と別れてから類のところへ行った。類の方がよかったのか?類とヤッてなかったってことは類のなにがいいんだ?おまえは何か手にすることが出来たのか?」
「結局おまえは何も手に入れられず類の邸を出たわけだよな?」
司はつくしの手首をつかんで見下ろしながら片手で彼女の顎をとらえ、強くつかんで固定した。
「牧野、おまえ逃げられると思うなよ? あんとき逃がすんじゃなかった」
司の頭が低く降りてくるとつくしの唇を求めた。

「いやだ!やめて道明寺!」
「おまえ行方をくらました時、俺を裏切ったとは思わなかったのか?俺のことを好きだと言っときながらその足で類のところへ行ったってか?」

口は無理矢理開かされ舌を入れられるとぴちゃぴちゃと音を立てて吸われた。

確かに裏切ったかもしれないと思った・・・でも・・
司は口をつくしの耳元へとつけると言った。
「おまえ知ってっか?今の道明寺がどんなだか?」
司はそう言いながら両手でつくしの身体をまさぐっている。
「昔と違ってよ、まあ昔も今とたいして変わりはなかったけどよ、あのころよりもっと酷いかもしんねぇな」
「国家権力ってやつ?そっちまで手ぇ広げたんだわ。だから・・おまえのこと探すって誰がどうしてくれるわけでもないってこと」
つくしは身体をまさぐるその手から逃れようと身をよじっていた。

「世の中所詮金なんだよなぁ。牧野、おまえもそう思わねぇ?汚ねぇよな。おまえなんかその然したるもんだろ?会社に売られてよぉ」
司は鼻先で笑っていた。

「金は天下の回り物ってのは嘘だな。金は金のあるところに集まるもんだ」
「なあ牧野、俺の10年間、どんだけ金を稼いだか知ってっか?道明寺がどれだけのことをやったか知ったら驚くぞ?」

「けどなぁ。その間、俺は何も持ってなかったな。逆に失ったものの方が多いかもしんねぇな」
司の声は冷やかだった。

虚ろに響く言葉はつくしの頭のなかには入っていなかった。
ただ感じているのはこの男が普通じゃないと言うことだけだった。
身体をまさぐられ恐怖心とともに手の動きに反応を示しているのが嫌だった。

「狂ってる・・あんた・・道明寺おかしいよ・・だ、誰か・・」

叫び声をあげようとしたが、叫ぶ前に司の手で口を塞がれた。
つくしは大きな手で鼻と口を塞がれて息ができない状態で頭がくらくらしてきた。
「長い間類と一緒にいたわりには処女だったってのはおまえにとってはラッキーだったよなぁ」
「まあ、おまえが男を咥え込んでなかったとしても俺はおまえを許すつもりはねぇけどな」


裏切り・・・

あれを裏切りと言うのだろうか?
今のつくしには確かに口には出さなかったが裏切りだったのかもしれないと思った。
姿を隠してから罪悪感に襲われたのだから。

「牧野、裏切りだと認めろよ。そうすりゃ俺も少しは許してやろうかって気にもなるかもしんねぇぞ?」
司の低い笑い声に背筋に寒気が走る。
「そ、そんなに探したの・・?」
「ああ、探したな。おまえ予想以上にうまく隠れたよな。情報操作でもされてるんじゃねぇかってくらい見つからなかった。灯台下暗しっての?まさか類の邸にいるとは思わなかったがな」
司は神妙な顔で話しを続ける。
「類も・・あの男も許せねぇな」
「る、類は何も悪くない・・」
「とにかくおまえには、たっぷりと償ってもらうつもりだ」
「わ、わたしは・・償わないといけないことなんて・・してない・・」



「とにかく探したさ、おまえを・・」
長い沈黙のあと、司は低い声で言った。








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2015
12.16

恋の予感は突然に 5

だめなのは私生活だ。
仕事も順調、お金もそれなりに蓄えた。

そして、あの男があたしに子供を授けてくれたら私生活は充実する!



つくしは蝶蝶結びにされた真っ赤なリボンを首に巻いていた。
そう・・道明寺ホールディングスの支社長への少し早い誕生日プレゼントとしてホテルのドアの前に立っていた。


「つくし、ガンバって!」
滋はつくしの背中を軽く押すと部屋のなかへと押しやった。



「みんなさん!こちらはあたしの親友でまきの・・・じゃなかった・・牧田・・月子さん!」
「「まきたつきこ~?」」
類は二人の男の後ろで忍び笑いをしていた。

「なによ?西門さん人の名前になにか文句でもあるの?」
「つ、月子はねぇ・・長い間海外で過ごしてきて最近帰国してきたばかりなの!だから日本にあまり知り合いもいなくて・・」
滋はつくしに目配せした。
「ね?月子・・ほら、挨拶したら?」

「ま、まき・・牧田月子ですっ!」
・・ああ・・そうよ・・そうだわ・・
まさか本当の名前を名乗るわけにはいかないものね・・
それにしても滋さん!もっとましな名前を考えてよ!


「よろしく牧田月子さん。おれ美作あきら。で、こっちが西門総二郎と花沢類だ」

「さすが滋だ。おまえならなんとかしてくれると思ってたけど、可愛いじゃないか」
総二郎ははじろじろとつくしを見た。
「ま、こんなところで立ち話もなんだから奥へ入れよ」


「みんなごっめ~ん、あたしこれから用があるから帰らなきゃならないの」
滋は残念そうな表情を装って言いながらもひそひそと低い声で言った。
「いい?美作さん、月子はあたしの大切な親友なんだからね。へんな扱いしないでよ?」

滋は「月子ぉ~、ごめんねぇ~約束があるのを思い出したのよぉ~」と持って回ったような言い方をした。
そして「つくし、頑張んなさいよっ?」と耳元でささやくとつくしの背中をバシッと叩いた。


「つかさぁ~ちょっと早いけどお誕生日おめでとう!あんたもいい歳なんだからそろそろ考えなさいよ~月子はねぇあんたがバカな男でもいいって言ってるから一回くらいデートしてあげてよね~」

「じゃあね~そういうことだから、あとはみんなでよろしくね!」
と滋はウィンクを残し帰っていった。



滋が去ってからつくしはひとり部屋の真ん中で立ちつくしていた。
「牧田さんコートを預かるよ」
「おれ花沢類、よろしくね」

つくしは作り笑いを浮かべていた。
あのときテレビに映っていた4人の男性が自分の前にいる。
つくしはテレビに騙されたと思った。
この人たち・・みんな凄い!
頭脳のほうはどうだかわからないけど、顔だけは一流のモデル顔負けだ!

エフフォーとかいうホストクラブかと思ったらどうやら違ったみたいだけど。


そして、お目当ての男性はと言えば部屋の向う側から苦虫を噛み潰したような表情でこちらを見ていた。
そして冷たい視線をぶつけてきた。
つくしは背中にぞくりとしたものを感じながら滋から借りたとても実用的とは言えないような豪華なコートを脱ぐと花沢類に手渡した。

そのとき3人の男はつくしの首に巻かれた真っ赤なリボンに目を止めた。
つくしは大きく胸元が開かれたラップドレスを着ていた。
「おい、あのリボンって・・・滋のヤツ・・・プレゼント包装のつもりか?」
とあきらは呟いていた。





このドレスにしたのは・・・滋さんの勧めもあったからだ。
すべてを脱ぐことなくことを終えることができると思ったから。下着だけ脱げばことは足りると思った。
司を押し倒してまたがればいいんだからね!って滋さんホントなの?
おまけに滋さんはノーパンで行けば?なんてことを言ったけどそんなこと出来るわけない!




つくしはほほ笑みを張り付けた顔でお目当ての男を見た。

180センチを優に超える男はなんだこれ?
と言う表情でつくしを見ていた。
容赦なく見つめてくる視線につくしは息をのんだ。

「ところで牧田さんって年幾つ?まさか滋と同じなんてことねぇよな?」
「おいおい、やめてくれよ、滋と一緒だなんて30過ぎのババァじゃねぇかよ」
総二郎はへらへらと笑っている。
「ねぇ月子ちゃんって呼んでもいい?」
「類、おまえなに言ってんだよ!彼女は司の・・」

目当ての男は黙ったままで何も言わなかった。


なるほど。見た目は素敵だけど・・ちょっと鈍いのね?
そうよ、この男は頭が・・弱いのよね?
道明寺ホールディングスの支社長とかって言ってたけど、もしかしてお飾りのボンボン支社長?
鈍い男は大歓迎よ!

「と、年はに、、にじゅう・・28歳です!」
つくしは陽気を装いながら言った。

 
「月子ちゃん・・28歳なの?」
「へぇ~俺たちと5歳くらい違うんだ」
総二郎は腕組みをしながら頷いた。
「本当に28歳なの?なんか疲れてない?」

「し、失礼な!は、花沢さんっておっしゃいましたよね?ちょっと寝不足なだけです!」
「あ、俺のこと花沢さんじゃなくていいよ。類って呼んで?」
「だから類!やめろって。月子ちゃんは司の・・」
「そう?でも司って月子ちゃんみたいに痩せてる女の子ってタイプじゃないよね?」
そして司のタイプじゃないなら俺がと類は言った。

「類!おまえは黙ってろ!今日なんのために俺らがここにいるかわかってんのかよ?
司に日ごろの欲求不・・・ストレス解消をしてもらうためで・・」
総二郎はそういうと司の方を見やった。

「なあ、つ・・司、そんなとこ突っ立ってないでこっちこいよ?」
「そうだよ司、こっちに来いよ。彼女、滋がわざわざお前のために紹介してくれたんだぞ?」

「ど、どうだ司、いい女だろ?」




司の背中の向う側には大きな窓があり、東京の夜景が広がっていた。

司は眉をひそめた。
「どこが?」
「ただのチビじゃねぇかよ?」
司は鼻で笑った。

「ばっ・・おまえ・・もっと言い方があるだろうが・・」

司は両目を細めるとつくしを上から下まで舐めるように見た。
「なんで俺がこんなチビ女の相手しなきゃなんねぇんだ?おい総二郎、笑わせんなよ?」
司は嘲りを込めて言った。
「おまえら俺をバカにしてんのか?こんな女連れてきやがって。どうせ金目当てか?」
「滋の紹介だなんて言ってっけどどっかの商売女じゃねえのか?」
司は片方の眉をつりあげていた。


男が欲しくてたまらないような女に見えたのだろうか?
つくしは目の前で男達が話しているのが自分のことだと気づいて口を挟まずにはいられなかった。

「あ・・あの・・」
ふたりの視線がぶつかり合った。
「あ?なんだよチビ女?」
「さっきから聞いてたら人のこと商売女とか・・チビって・・・」
「なんか文句あんのかよ?チビ女?」
「やめろよ司!」
「なんだよ、うるせえな。滋の野郎連れてくんならもっとましな女連れてこいって言っとけ!」
「こんなん小便くせぇガキみてぇな女じゃねぇか!」
司はグラスの酒を飲み干した。
そして刺すような視線でつくしを睨みつけた。


つくしはむかむかしてきた。
むかついてきた。
そして怒涛の怒りがこみ上げてきた。

「このっ・・・さっきから黙って聞いていたらいい気になって・・・なによ!」
つくしは睨みかえした。
「あんたねぇ他人の身体的特徴をそんなふうに言うなんて・・ああ、もうっ頭にきた!」
「ああ?なんだよ文句あんのかよ?え?チビ!!」
「なによ!こ・・こ・・この・・クルクルパーマ!」
司の顔が一気にこわばった。
「なんだと!てめぇ俺にむかってクルクルパーマだとぉ?」

つくしは悪態をつきながらもその男に立ち向かっていた。




「なあ、牧田月子って本当にどこかのお嬢かよ?」
「ああ。けどよ、滋だってあんなんだけど財閥のお嬢だぞ?」
「だよね・・」
三人の男は息を止めるどころか、次になにが起こるのか楽しみだというように期待していた。









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2015
12.15

恋の予感は突然に 4

年が明けると小雪が舞うような寒い日々がやってきた。
つくしは窓の外を眺めながらあの男性のことを考えた。






「ねえ、滋さん・・あたしやっぱり無理・・」
「つくし!なに言ってるのよ!つくしが頼んだことでしょ?」
「それにつくし言ったわよね?生物の機能はよくわかってるって!何も知らないって言ってもたまたまそう言う経験がないだけでやり方はわかってるって言ったじゃない?」

つくしはコーヒーを注ぐことに意識を集中させていた。
そしてこれ美味しそうだから買ってきたと滋が持参したケーキと一緒に差し出した。


「うん・・そうなんだけどね・・」
実はあれから色々と勉強した。
ネットや本で勉強したんだから。

「いい?つくし・・司はね・・ああ見えて避妊はきちんとしてる男なのよ。だから変な病気にはかかってないから大丈夫よ。だから・・これ・・」
と正方形の小さな袋を手渡された。


つくしは渡されたそれをしげしげと見つめた。
「・・・コンドーム?」
「こ、こんなの付けたら子供ができないじゃない!」

「つくし、大丈夫だから!ちゃんと聞いて!」
「これはね・・・なんちゃってなの・・」

「なんちゃって・・?」
「そう。これね、・・・穴が開けてあるのよ・・」

「先っぽにね、針で穴が開けてあるの・・だから・・司にはこれをつけさせれば・・ね?」
どうしても相手をモノにしたい男女がこんな小細工するのよねぇ~と言うと分かるわよね?とばかりに言った。

「いい?司は避妊した自覚はあるはずだから間違ってもつくしが妊娠するなんてことは絶対に考えていないから」
「とにかく、あいつがつくしのことを気にするなんてことはないから、子供が出来たらつくしだけのものだからね!」


「まあコンドームだって100パーセント安全とはいえないんだけどねぇ」


つくしは神妙な顔で頷いた。
「ねえ、も、もしもの為に・・それ・・持ち帰った方がいい?」
「え?もしもの為って?」
「だ・・だから・・保存?」
「ばっか・・つくし、あんたねぇ。持って帰ったからってどうにかなる訳ないでしょっ!」
まったくこの子は頭がいいんだか、天然なんだかよくわかんないわ・・


「いい?とにかくつくしの排卵日に合わせたんだから、頑張んなさいよ!それにしてもつくしって排卵日まできっちり管理してるのね」
「う、うん・・・」
つくしは頷きながらケーキを口にしていた。

「本当はあいつの誕生日が良かったんだけど・・つくしの都合がねぇ・・」
「でね、つくしを司に引き合わせるために司の友達にもお願いしたの」
「えっ!し、滋さん、そ、そんなこと頼んだら・・まるであたしが・・」
つくしはそこまで言うと顔を赤らめた。

「なによ、つくし正直に言えばいいじゃない!つくし、そんなんじゃあんた一生無理よ?セックスなんて!」
「わ、わかってるわよ!」

「あのね、つくしはあたしの友人で深窓の御令嬢ってことで司に紹介するからね。
あいつの友達もつくしのこと司にお似合いだってプッシュさせるから」
「それにあいつの友達が司をいい気分にさせてくれるようなスペシャルドリンクを飲ませてくれるから、そこから先はつくし、あんたの腕次第なんだからね!寝転がってるだけじゃダメなんだからね!」
つくしは飲みかけのコーヒーを噴き出しそうになっていた。


「し、滋さん・・それどういう意味なの?あの人その道のプロじゃないの?」
つくしは素っ頓狂な声で叫んでいた。

「つくしなにバカなこと言ってんのよ!言ったでしょ?あいつはホストじゃないの!道明寺ホールディングスの日本支社長なの!」

「それでね、つくしは悪友から司への誕生日プレゼントって触れ込みになってるのよ」
「だから・・・これ付けて?」
滋はほほ笑みを浮かべると真っ赤なリボンを手にしてつくしに迫った。




そして
『いい?今回ダメだったら・・次の排卵日を狙わないといけないんだからねっ!』
『とにかく司にまたがったらいいんだからね!』
と露骨に言われた。
・・でもあたしどうしたらいいの?
相手はプロの恋人じゃなかった!
道明寺ホールディングスの・・・支社長・・?









ホテルの一室で四人の男のうち二人の男は司が黙ってウィスキーを飲む様子を眺めていた。
司はめったに酔っ払うことがない。

どれだけこいつに飲ませりゃ酔う?
まぁ酔っても出来ねぇことはねえよな?
ひそひそと話しをする二人に対して、類はソファに寝転んだ姿勢で本を読んでいた。

総二郎は司の空になったグラスにウィスキーをつぎ足しながら言った。
「なあ司、今日はおまえの誕生日にはちっと早いけどよ、俺たちからプレゼントがあるんだわ」

「なんだよ?なんかくれんのか?」
「ああ。とっておきのプレゼントを用意したからな!もうすぐ届くはずだからよ」
総二郎は時計を気にしながら言った。



気分は最悪状態だがこいつらと酒を飲むのは憂さ晴らしにはちょうど良かった。
とはいえ、簡単には酔えない。
どうせこいつらは俺が女と別れてから機嫌が悪りぃなんて考えているんだろうけど
そんなツマンネーことでイライラしてるわけじゃねぇよ!
ババァがうるせえんだよ。あのクソババァが!
女とつき合うたびにニューヨークから言われんだよ・・
別れりゃ別れたで言われるしよ・・

テメーで女用意したかと思ったらいきなり結婚しろだのいい歳した息子にいちいちうるせぇんだよ。クソババァ!

女とつき合うといつもこの問題に直面する。
道明寺家の跡取り息子の俺が後継者も作らずにフラフラしてんじゃ財閥の今後にも影響を及ぼすなんてことを抜かしやがる。

んなら今からでもテメーがもうひとり息子を生みやがれ!
別に好きでこの家に生まれたわけでもねぇのによ、クソッたれが!
永遠の愛だの結婚だのそんなもん信じられっかよ!
この前までつき合っていた女は子供が欲しいとほのめかしてきた。
女は狡猾だからな、どんな罠を掛けられるかわかったもんじゃねぇ。
セックスの相手としては楽しかったが俺は結婚向きに出来てねぇからな。


結婚するくらいならいっそのこと・・・


司はウィスキーをひと口あおった。
かすかに酔いがまわったような気もする。

「よう、あきら。俺へのプレゼントってなんだよ?」
「まあ、まて司。もうすぐ届くはずだからな?」
あきらは総二郎に目配せした。
「おれちょっと見てくるわ・・」

そのとき、ちょうど部屋のインターフォンが鳴り来客を告げた。

「おっ?届いたようだぞ、司!」
「俺も見に行くよ!」と珍しいことにソファに横たわっていた類までドアの方へと向かって行った。

なんだか知らねぇが、こいつら三人でなんか企んでるんじゃねぇかって気がするが
それももうすぐわかりそうだ。







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2015
12.14

恋の予感は突然に 3

つくしは固く目を閉じていた。

どうしよう!酔っていたとは言え滋さんにあんなこと頼んじゃった!
ああ、どうしよう!
滋さんのことだ。すべて本気にしているはずだ。
あんなことを言うなんてあたしはよっぽど寂しい女なんだろうか?
よりにもよってセックスの相手を探して欲しいだなんてこと!


でもそれは子供のためよ!
あくまでも生物学的なことよ!
人間だって動物なんだし、そ、そのへんの犬や猫だってやってるじゃない。
あたしだってもう33なんだし、いくら今まで恋する暇が無かったからと言ってなにも知らない子供じゃないもの。

いざとなれば・・・女は度胸よ!

プロの恋人・・いいじゃない!割り切ってできるわよ!
いや、恋人じゃない・・ただの精子提供者よ!
自分の家族を持つこと・・それが実現するかどうかはあの男にかかってる!






二人の男は滋の目の前で女性差別も甚だしい発言をしていた。
なんの用かと呼び出されて来て見れば女の算段だったとは!
いくら西門邸でお上品にお茶を頂いていてもこんな俗界にまみれたような話しをしては
開祖も泣くだろう。

「だから、滋の知り合いで司に似合うようなお嬢を紹介してやってくれよ」
「そうなんだよ、司の誕生日のプレゼントなんだ」

「それ、どういうこと?」
滋は一服したあと、飲み口を指先でぬぐうと胸元の懐紙でその指先を清めた。

「だからよ、司がすげぇー機嫌が悪りぃんだよ。あいつ女と別れて随分とたつけど、次につき合う女がいねぇのか溜まってんだと思うんだけどよ、とにかく機嫌が悪りぃんだ」

「あのね西門さん・・あたしも一応女なんですけど?そんな男尊女卑な発言やめてくれない?」
滋は拝見いたします。と言って茶碗を手にとるとしげしげと見ていた。
そしてその棗(なつめ)も貸してと言って手に取っていた。


「滋、おまえ今更だろ?」

「司のやつ、自分の年も考えずにつき合う女って25歳以下の女ばっかだろ?それもちょっと頭が足りねぇような女ばっかしだろ?」
「そうだよ。でもな滋、俺たちが司に紹介してやりたいのは、もっとこうセクシーで大人の魅力を備えているような女なんだ。滋の知り合いのお嬢様のなかにそんな女はいねぇか?」


「なに言ってるの、西門一門の弟子にもそんな女性のひとりやふたり居るでしょ?そんな女のひとりとすりゃいいじゃん!」
いい質問だ。

「いや、そりゃダメだ。司は俺と兄弟にはなりたくねぇから俺の知ってる女なんかとは絶対に付き合おうとしない」

「あはは!それは言えるかもしれないね!」

「ま、そんなことはどうでもいいんだけどよ、滋の知り合いにいねぇか?セクシーで大人の魅力を備えた女」

「うーん・・いない・・ってこともないんだけどね・・彼女深窓のお嬢様でね・・男性経験が・・あまりないって言うのかな?」
―――と、いうか全然経験がないんだけどね。


「いいじゃんそれ!そのお嬢様紹介してやれよ!」
総二郎はが口をはさんだ。

「でもそんなことして司がどう思う?司だって女の好みってのがあるでしょ?あたしでいいんならあたしが行くけど?」

「「おまえはダメだ!」」と滋は一蹴された。

「とにかく、好み云々は大丈夫だ。あいつには酒をしこたま飲ませていい気分にさせてやるから」
「要は司をいい気分にさせてやってくれたらいいんだ。一発やってすっきりさせりゃ元の司に・・いや、ちょっとは機嫌がもとに戻るんじゃねぇの?」

「はぁ・・まったくアンタ達が考えることって・・」
と滋はその先に言う言葉を呑み込んだ。




でも・・・ある意味渡りに船とはこのことだと滋は思った。

そして司みたいな傲慢で我儘で・・・でもセクシーな男がつくしと知り合ってどんなふうに変わるのか見てみたいと思った。








「なあ司、俺たちおまえの誕生日には何か特別なことをしてやりたいって考えてるんだ」

「そうだぞ司、俺たちで最高のプレゼントを用意してやるから楽しみにしとけよ?」

リムジンのなか、仕切られた後部座席に座る四人の男達のうち三人は顔を寄せ合っていた。

司はむっつりとした顔でスモークの貼られた窓の外を眺めていた。


「へぇ。あきらと総二郎でなんか凄いプレゼント考えてるんだね?」

「そうなんだよ、類。今の俺たちには司に女を調達してやることが一番の仕事だ」
「あきら何だって?」類は自分の耳を疑った。
「おい、類でけぇ声出すな!これはまだ司には秘密なんだからよ」
あきらは声をひそめて言った。

「だってよ、最近の司を見て見ろよ・・オトコの更年期じゃねぇかってくらいイライラしてるだろ?一番被害を受けるのは俺だぞ?」

「でもあきら、本気なの?司って意外と潔癖だよ?どこの誰だかわかんない女なんて・・」

「類、大丈夫だ!滋の知り合いに深窓の御令嬢がいるらしんだわ。その女を紹介してもらうことになってんだ」
「でよ、うまく行けば司も気に入ってつき合い始めるかもしれねぇだろ?そうすりゃ一石二鳥だ!」
「言ってる意味がわかんないんだけど・・?」
あきらは司を見やると類に諭すように言った。
「だから!司が気に入ればそのままつき合ってゴールインだ!そうすりゃ俺らも救われるぞ?」

「ねえ、大河原が紹介してくれる女ってどんな女なの?」類は興味深そうに聞いた。
「おう、なんでも深窓の令嬢だから、そっちの経験が少なくて美人でおっぱいもデカくて
いい脚してるらしいぞ」
あきらはにやにやと笑いながら言った。

「ちくしょう、司のやつ羨ましいじゃねぇか!そんな脚を俺の腰にも絡めて欲しいよな・・」
総二郎は本気なのか冗談なのか分からないような言葉をかましていた。







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2015
12.13

恋の予感は突然に 2

「つくし、わかったわ。滋ちゃんにまかせなさい!つくしとは長い付き合いだもの、つくしがどれだけ真剣なのかわかったからね!」

「つくしからお願いされることなんて滅多にないんだからあたしがつくしの願いを叶えてあげる!上手くいけばつくしは来年の今頃には赤ちゃんと一緒に誕生日を迎えられるからね!」

「ありがとう滋さん。あ、あたしにバカな男を紹介して!」
つくしは目の前の滋の両手をしっかりと握りしめた。

店内は忘年会シーズンも終を迎えてはいるものの大人数のグーループが楽しそうに騒いでいるなか、滋は向かいに座っている親友が何杯目かのアルコールをぐいぐいと飲み干す様子を眺めていた。
そしてこの様子じゃぶっ倒れてしまうのではないかと心配していた。



かわいそうなあたし・・・
以前一度だけ付き合いを始めようかと考えた男性がいた。
が、その男性は若い女性とも付き合いがあった。
話しがあると言われて聞いてみれば『悪いんだけど、やっぱり女性は若い子の方がいい』
なんて言われて振られた。
男なんて!
若くて胸の大きい女の子が好きな単細胞ばっかりっ!


「つくし、あんた飲み過ぎなんじゃない?」

うん!飲み過ぎかもしれない!
でも飲む理由だったらある。
だって決めたんだから!

つくしはペーパーナプキンで口元を拭うと言った。
「ねえ、滋さん・・」
「なに?つくし?」

「あんな人がいい・・」
「え?どんなひと?」

「ほら、あれ見て?」
つくしが指をさした場所にあった大型テレビの中に映し出された男。
消音状態で映像だけが流されている画面いっぱいに男が映っていた。

「ねえ、つくし・・あんな人ってどの人?」滋はつくしの指さす方を見た。

「うんうん、あの人みたいな人。チャラチャラしてぇ・・ホストかなにかみたいに軽い人がいい・・でもちょっと顔がよすぎるのよね・・・」
つくしは首をかしげるとくすくすと笑いだした。
「つくし、どの人のことを言ってるの?」

「あ、あの頭がクルクルしてる人。なんか変な頭だよねぇ~頭クルクルなんてなんかバカっぽいよね、アハハ・・」

「男4人でチャラチャラしちゃってさっ!」 と言うと顔をしかめて見せた。


つくしは酔いがまわったのかケラケラと笑い出していた。

「ちょっと、つくし!しっかりしてよ大丈夫?」


「つくし、あのね、あの4人はねF4って言ってね・・」

「な~によそれ?エフフォ~?ってどっかのホストクラブ?」

「とにかく、頭がクルクルしてるのは道明寺司って言ってね、道明寺ホールディングスの・・」

つくしは目の前の滋の指先をギュッと握りしめた。
「滋さんっ!ん・・誰なんだか知らないけど、あたしってどうしてあんなふうなチャラチャラして薄っぺらいくらいの男性に出会わないのかな・・・バカっぽい男なのにね・・」


「つくし、あんたなに言ってんの。司がバカっぽいって?」
滋はつくしの言葉に耳を疑っていた。
司はF4のなかでも一番バカっぽいが似合わない男だ。経済誌の表紙を飾るにふさわしい男で、頭が切れるのはもちろんだが、その容姿からも注目を集める男だった。
その男はいま、テレビ画面のなかでインタビューを受けていた。
このインタビューは以前見たことがあると滋は思った。
確か数日前の映像だ。インタビュアーのくだらない質問に一瞬顔をこわばらせた司は、そんな相手をひと睨みして黙らせていた。

「ねえ、つくし、あんた本気で言ってるの?司みたいな男に本当に子供の父親になってもらいたいって・・」

「やっだぁ~滋さん違うって!父親なんて要らないのよ。あくまでも遺伝的要素だけ欲しいの。あんなふうにバカっぽい男がいいのっ! だって見るからに単純そうじゃない?細胞の数も少なそう・・・だいたいあの髪なによっ?おかしいと思わない?
顔がいいのはおまけってことで・・・あ、でも顔って遺伝するのかなぁ・・」
つくしは声をあげて笑っていた。
そしてまた目の前に用意されたグラスに口をつけると、そのままテーブルのほうへとズルズルと身体を傾けて行った。

滋はつくしがこれ以上アルコールを口にしないようにと、テーブルのうえのグラスを脇へと押しやった。


滋はいよいよつくしの頭がどうかしたんじゃないかと思っていた。
この友人は頭だけは良くて、勉強だけは人一倍頑張った子で、それ以外はまったく世間を知らなくてアカデミックな世界を漂ってきた人間だった。
そのうちにノーベル賞でも取るような研究成果でも成し遂げるんじゃないだろうかと言う気もする。
いくら自分が頭がいいからって、子供の父親にバカな男を求めて自分とその男の遺伝子を足して割れば、自分ほど頭のよくない子供が生まれるだなんてことを本気で考えているつくしがおかしかった。

確かにつくしは頭が良すぎて周囲から浮きまくっていたことは事実らしい。
日本に飛び級制度があれば、とっくに高校も大学も卒業していただろう。
頭が良すぎて寂しい思いもしたのは確からしい・・
子供らしい遊びも知らず、その才能を見出されたことによってひたすら勉強に励んできたのだから。
だからせめて我が子には普通の生活を送らせてやりたいと思ったのだろう。
そして、ひとりぼっちはもう嫌だと呟いていた。


滋は自分でも信じられないことを口走っていた。

「ねえ、つくし?もしもなんだけどね、あの人を紹介してあげるって言ったらどうする?」

「え?滋さん、それ本当なの?」
つくしは突っ伏していたテーブルからおもむろに顔をあげた。

「だから司を・・あの男をね、つくしの子供の父親にするために協力するって言ったらつくしはどうする?」

「滋さん、あの人を知ってるの?」
つくしは滋をまじまじと見た。
「うん・・ちょっとね・・」


滋は考えた。
司もいい加減身を固めて欲しいとおば様も言っていた。
ならちょうどいいじゃない?
司の誕生日ももうすぐ来るんだし・・・あいつももうすぐ34歳だ。
司とつくし・・・タイプは正反対の二人だけど面白いかも・・
つくしは司の好きなタイプとはちょっと・・・いや随分と違うかもしれないけどこの子だって化けることは出来るわよね?
お化粧とか着る物とかちょっと手を加えればすぐにいい女になるわよ!
この二人・・案外いいパートナーになるかもしれない・・

「つくし、あんたが本気でやるんだったら協力は惜しまないからね!」
「・・あとは・・つくしのヤル気しだいなんだからねっ!」
今日は12月28日だ。司の誕生日までまだ一カ月はある。
つくしを・・司へのプレゼントにするのもいい考えだと滋は思い始めていた。







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2015
12.10

恋の予感は突然に 1

「あたし、どうしても子供が欲しいの!」
つくしは目の前の友人の両手を握っていた。

「つ、つくしいきなりどうしたの?ちょっと待ってよ!」
「滋さん、お願いだから協力して!」
「いや、そんなこと言われても・・どうしたのよつくし!酔っぱらっちゃったの?」
滋は友人の顔をまじまじと見た。

「あたし・・自分の子供が欲しいのよ・・このままひとりぼっちは嫌なの・・」
「・・だけど、相手は誰でもってわけにはいかないの。あたしよりバカな男がいいの・・」
つくしは小さく呟いた。

「つくし・・それは・・・我が子が欲しいってこと?」
滋はびっくりしすぎて言葉に詰まりながら聞いた。

「・・うん」
つくしは顔を赤らめて言った。

「だ、だけどね・・つくし・・あのね・・子供ってのはデパートとかで買うわけにはいかないし・・あのね、聞くけど・・したことあるの・・?セックス・・」
滋はおそるおそる聞いてみた。

「・・ない・・」つくしは首を横に振った。
「だって今までそんなチャンスなんて無かったもの・・」

「・・だよね、あんた勉強ばかりでさ、男と付き合ったことがないもんね・・」
滋はやっぱりね、というふうに言った。

つくしは目の前に置かれていたカクテルを一気に飲み干した。

「だからっ!お願い。滋さんの知り合いで、バカな男を紹介して欲しいの。別にその人と結婚したいとかじゃなくて・・こ、子供だけ欲しいのよ!」

「あ、あたし恋愛なんてしたことがないから・・よく分からないんだけど、お、男の人って相手を愛していなくても・・セックス・・出来るんでしょ?」
「そりゃ、あたしの周りにだって男の人はいるけど、知り合いになんて・・頼めないし・・。それにあたしの周りには頭のいい男性ばかりじゃない?嫌なの・・そういう人は・・」
つくしは消え入りそうな声で言った。

「ねぇ、つくし・・・もしかして・・子種だけ欲しいってこと?」

「うん、そう」つくしはぎこちなく頷いた。
「でね・・あまり頭が良くない人がいいの・・かっこよくなくてもいいの。後腐れのない人がいいの。割り切って・・その・・セックス・・してくれる人がいい」

「でもどうして?子供の父親なんだから頭も顔も良い方がいいに決まってるじゃない!」
と滋は当然のことのように言った。

「いいの。だってね・・・あたしなんて恋愛・・出来そうにないし、そのうちにあたしの周りにいる頭がいい人と結婚させられて・・あたしなんかより頭がいい子供が出来たら、その子がかわいそうだもの・あ、頭のいい子なんてクラスでいじめられるし・・・それに・・あたし、今日で33歳だよ・・」
つくしは情けなさそうに言うと上着のポケットからハンカチを取り出すと思いっきり鼻をかんでいた。

「だからね、滋さんの知り合いでバカな男性を紹介して欲しいのよ!滋さんの知り合いなら身元は確かだし・・へんな病気とかも・・心配なさそうだし・・滋さんならそのくらいは調べることくらい出来るでしょ?」

「も、もちろん相手に認知しろとか、そんなことは一切言わないしお金のことも問題ないから大丈夫!あたし貯金も沢山あるし、仕事だってきちんとしてるし。その人に迷惑をかけることなんて一切ないから!」


「あたしは男なんて必要ないの。子供が欲しいのよ!男は必要ないのっ!」
とつくしはテーブルのうえを叩いた。











クラブの奥まったソファに腰を落ち着けるやいなやシルクのネクタイを引き抜く男にあきらは聞いた。
「なあ、司。おまえ今度の誕生日に何が欲しいんだよ?」
「あ?誕生日だぁ?」
「そうだよ、おまえ何んか欲しいものはないのか?」
「別に・・」
司はむっつりとした顔でテーブルのうえにあるバーボンに手を伸ばしていた。


「なあ司、おまえももういい歳なんだしいい加減身を固めろよ」
「そうだぞ司、お前んとこそろそろちゃんと後継者でも作っとかないと将来もめるぞ?」
二人の男は自分達のことは棚にあげ、責めるように言った。

「んなこと俺には関係ねぇな。 結婚なんてメンドクセーことするかよ!」
司の顔に浮かぶのはいつもの表情だった。
いかにも面倒だと言わんばかりの顔でグラスを傾けていた。

「だからっていつまでもフラフラしててもしょうがねぇだろ?」
総二郎はそう言って運ばれてきた飲み物を手をした。
「そうだよ、総二郎の言うとおりだ。どっかのお嬢とでも結婚しちまえよ!」
「そんな面倒なことやってられっかよ!女なんてうるせえし、やることだけやりゃあ用はねえだろ?おまえらこそ自分の心配でもしやがれ!」
司はいら立った顔で二人を睨みつけた。



司は小便に行くといって席を立つと薄暗い通路の奥へと消えて行った。
「なんか司、荒れてるな」
「なあ あきら、滋まだ日本にいたよな?」
「ああ、・・・おまえまさか司と滋をくっつけようとか思ってんじゃねぇよな?」

「あほか。あいつら昔、見合いしてダメだったろ?そうじゃなくて滋にだれかお嬢を紹介しろって言う話だよ」
「なるほどな。滋なら司に似合うようなお嬢様の知り合いも多いよな?」
「だろ?だから滋に司にふさわしい女を紹介してもらおうぜ!」
総二郎はそうは言ったものの、滋の知り合いってまさかみんな滋みたいな女じゃねぇだろうな?と心配していた。



「けどなぁ・・司は今んとこ女には不自由してねぇしなぁ・・」
あきらは大きく息をついた。
「いいや、この前付き合ってた女とは別れたっていってたから、あれから随分と御無沙汰のはずだぞ?」
「じゃあ、最近のイライラはアレか? 男の欲求不満か?」
あきらは眉間に皺を寄せるとまさか男の更年期にしちゃまだ早えよなと言う顔をした。
「あれだ。溜まってるんだろうよ」総二郎は頷いた。
「だからよ、司の誕生日はイイ女をプレゼントするってことでどうだ?」
「それいいじゃん!それもとびっきりのセクシーな女なんてどうだ?」


「おっ?それいいんじゃねえ?」
「しかたねぇよな。司の欲求不満解消のためと道明寺の将来のためだ」
総二郎はあきらのほうを見やり、ニッと笑った。


「俺たちでひと肌脱ぐってことで!」
「さずが総二郎、俺たち江戸っ子だもんな!」
「だな!」
と二人は顔を見合わせた。








今月はつくしちゃんのお誕生月ですね。今年で幾つになったのでしょうか(笑)
来月は司くんのお誕生月ですので、二人のお誕生日に絡めたお話をスタートしました。
二人の幸せの為にもこちらは明るいお話です(笑)またよろしくお願いします。
重く暗いお話しを書いていると気分が沈んでしまいました・・。

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2015
12.09

Collector 4

Category: Collector(完)
つくしは昨日聞かされた内示に悦びを隠し切れなかった。
それは人事異動通達。
今まで花沢類に色々と世話になっていたがやっと自分らしい仕事が出来ると思った。
この仕事は今の状況からつくしを救い出してくれると思った。
両親は他界し、唯一の身内である弟は遠く離れた土地で彼の新しい家族と暮らしている。
彼らに迷惑をかけるわけにはいかなかった。
私、頑張る!やるわ! この仕事を一生懸命にやってみせる!
昇進したからお給料も上がる。
類のところで甘やかされていたけどこれからはもう大丈夫。
つくしはふっとため息を漏らしていた。

類といると・・昔のことを思い出さないわけにはいかなかったから。

首にかけた細いチェーンの位置を直し、鍵を掛けるとバスに乗り遅れまいと駆け出していた。
つくしはこの異動を期に花沢邸を出て一人暮らしを始めた矢先だった。




つくしはニューヨークにいるはずの男と会うはめになるとは思わなかった。
まさか!
あの道明寺司がここにいるはずがない。つくしは目を疑った。
自分が勤務する会社に現れた男につくしは逃げも隠れもできない。
大勢の人間を引き連れて広いロビーをどんどんとこちらへ歩いてくる。
一生忘れないだろうと思っていた人がそばに来るのを待った。
どう対処すればいい?

ふたりの距離が縮まってきても、どちらも声を掛けることはなかった。
そして男は黙ってつくしの傍を通り過ぎていった。
まるで初対面の人間のように反応が見られなかった。


17歳の別れから・・・・
涙に濡れたあの日の別れ・・・


一生が過ぎたと思えるほどの時間がたっていた。
だが決して彼の顔を忘れることはなかった。

くせのある髪の毛と端正な顔立ち。
攻撃的な鋭い瞳。
多分30年たってもその印象は変わらないはずだ。
背は高く、体型に合わせたオーダーメイドがその体躯を包んでいる。

そして冷たく感じられるその唇。
・・・・わたしは・・その唇を知っている・・・

だが思い出は・・・遠すぎた・・







そして、私達は沈黙が支配したホテルの部屋で向かい合っていた。

「よう、牧野」
低い声で呼ばれたとき、彼が呼ぶその懐かしい呼び名に心が震えていた。
かつて私が知っていた男は・・・あの別れの前に私と一緒に笑っていた男は・・
そこにはいなかった。
そして私がくちづけをした唇は無慈悲に歪んでいた。
以前は私にだけ見せてくれたそのほほ笑みも、優しい眼差しも今は暗く沈んで見える。
それは見知らぬ他人のようだ。
「道明寺・・思いがけない人と会って驚いた・・」
つくしはそれしか言えなかった。

彼の手に渡った書類によって私の運命の歯車が狂い始めた。

それは、雨の日の別れから・・・10年がたっていた。

あの時からつくしがどれだけ変わったのか。
それは本人にしかわからない。
だが高校生だったころとヘアスタイルも変わり着る物も変わった。
細身だった身体にも変化が見られた。
決して絶世の美女ではないにしても、高校時代とは異なるいきいきした印象があった。


それは彼にも言えること。
だが、外見からひとつだけわかることがあった。
その顔にうかがえるのは残酷で無慈悲な表情。

「おまえを見つけに来た」
いつかそんなことがあるかもしれないと思ってはいたが、まさか類の邸を後にしてすぐに道明寺に会ったのは偶然じゃないと思った。そして、あっさりと言われたその言葉につくしはぞくっとしていた。
「ど、どういう理由か聞いてもいい?」
「 理 由 ?」
「おまえが欲しかったからだ」
簡潔な説明。
「言っただろ?おまえの会社は潰れかかってる」
司は平然と言った。
「俺は長い間おまえを探した。おまえが俺を捨てた理由が聞きたいと思って探したが
俺はニューヨークに行き、自分では探せなかった」
「けど、偶然ってのは恐ろしいもんだよな?俺が融資して潰れかかった会社におまえがいたなんてよ」
低く静に話す声は抑揚がなかった。
「おまえの会社は金の返済の代わりにおまえを提供してくれたってわけだ」
「おまえのお人よしの性格からすれば、会社を潰して従業員が路頭に迷うなんてこと、したくはないだろ?」
その声は静だった。
「そ、そんな・・無関係な話し・・」
「ま、おまえにとっては災難かもしれねえが、会社にとってはラッキーだったってことだ」
「よかったな牧野。人助けが出来て。おまえは何万人と言う人間の生活を救ったんだ」
司は面白がっているかのように言った。


いま目の前で話す男が昔、自分が愛した男と同一人物だとはとても思えなかった。
「信じられない・・」
だが、どうして会社が自分を異動させたのかがわかったと思った。
会社は倒産をまぬがれるために節操もなく道明寺の提案に飛び付いたということを信じないわけにはいかなかった。






つくしは自分の身におきたことが理解できなかった。
ただ無意識に呟くことしかできなかった。
そして震えがとまらなかった。


その視線の先には長いあいだ、忘れることが出来なかった男がいた。








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