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2015
10.20

まだ見ぬ恋人6

牧野つくしのことが満ち潮のように俺の頭のなかを満たす。
彼女を見つけるまで1ヵ月かかった。
ビザの更新が完了するまでの1ヵ月の間になんとか彼女と接点を持ちたい。
A国か・・・
大使主催のイベントでもあったか?


今の俺にとってのパーティーはA国大使公邸で行われるもの以外はつゆほどにも興味が無かった。
だがパーティーにひとりで参加することは出来ないな。
ウザイ女どもが寄ってくるのは勘弁だ。
パートナーがいるな。それも変に誤解をしないヤツ・・・
あいつは俺の見合い相手のなかで唯一ボコらなかった女だ。
あいつ、サルだったからな。

「つかさーっ。久しぶりっ!元気にしてた?」
滋は元気いっぱいという様子で司の元へ駆け寄ってきた。
「よう、滋。今日は悪りぃな」
司が言った。
「えー?ホントに悪いって思ってる?今日のパーティーに参加する為に滋ちゃん友達との夕食を断ったんだからね!」
滋は真面目な顔をして言った。
「なんだよ、じゃそのダチも呼べばよかったじゃねぇか。どうせ女だろ?」
司はたいして気にもとめていないように言った。
「あんた相変らず失礼な男ね。まあ、そうなんだけどね」
滋は小さな声で呟いていた。
「でも彼女ここで働いているからそう言うわけにもいかないし・・」

司は唇がピクッと動いた。
「滋、おまえのダチってここって・・大使館で働いてるのかよ?」
「うん、そうだよ!大学のときに・・ち、ちょっと!司ったら痛いってば!」
司は滋の両肩を掴んでいた。
「滋、おまえのダチの名前って?」
「ちょっと個性的な名前なんだけどつくしって言うの。牧野つくしちゃん!」
滋が言った。
「おま・・なんでもっと早く言わねえんだよ!」
あまりにも力のこもった口調で言われて滋は驚いていた。
「え?なんでって?司、つくしの事しってるの?」
「クソッ!」
こんなパーティーくそくらえだ!
司はいましがた来た道を引き返そうとしていた。
「ねえ、司どこ行くの?パーティーに行くんじゃなかったの?」
司は口を開いて、また閉じて慌てて滋のところへ戻って来た。
「おい滋、そのダチっておまえにドタキャンされて何するって言ってた?」
「うーん、なんか音楽でも聴きに行くって・・」
「滋、それどこだよ!」
司は再び滋の肩をつかんで聞いていた。
「え?大使館の近くのコンサートホールだって言ってたよ?」
司は頷くと踵を返していた。
「ちょっと!司ったら!もうっ。いっつもこうなんだからっ!」
滋は去っていく司の後ろから叫んでいた。
「この埋め合わせは大きいからねーっ!」



******



「お客様、困ります。もう演奏が始まっていますので途中入場は出来ません。
只今演奏中の楽曲が終わりましたらご案内を致しますので。お客さまのチケットを拝見できますか?」
と丁寧な口調で言われほほ笑みを返された。
「あ?道明寺だ!うちはここにボックス席を持っている!」
司はお前らの都合なんてどうでもいいんだと言わんばかりに言った。
「そうおっしゃられましても演奏途中はどなた様も入退場は出来ませんので」
「おい、おまえ館長を呼べ!」
司は躊躇なく言った。
「お客様、どうぞお静かにお願いいたします」
係の男はためらいを見せながらも丁寧な口調で言った。

司が男と押し問答しているうちにホールのドアが開かれ、中から人々が出て来た。
幕間に入り沢山の人間が出てくる中に司は見知った人物を見つけた。

「あれ?司じゃない?どうしたの?」
類が言った。
「おい類か?久しぶりだな。悪りぃ。今ちょっと人を探して・・」
言いかけた司は類の後ろに若い女性が歩み寄ってくると驚いたように口をつぐんだ。
「花沢さん?」
つくしが類の背後で声をかけた。

司は類が彼女のほうへと振り向いたとき、さりげない様子でつくしを見た。
「あ、あなた・・お寺の?」
つくしは驚いたように言った。
「あれ?牧野さん、司と知り合い?」
類はさりげない調子で聞いている。
「え?あ・・この前大使館にビザの申請で・・」
つくしは説明していた。
「へぇー司が自らビザの申請に?西田さんに頼めばいいのにおまえわざわざ行ったんだ」
類は司に何かを問いかけるように言った。
「あの、花沢さん・・・?」
つくしは戸惑ったように聞いた。
「あ、牧野さん悪いんだけど先に行っててくれる?花沢物産の名前でラウンジが用意してあるから」
類は口調をやわらげて言った。
「あの・・じゃあお先に行ってますね」
類が若い女性が消えたほうを見た。
「ああ、彼女のこと?」
類は口元に笑みを浮かべた。
「彼女、A国の大使館に勤めていてね、あ、司もビザの申請に行ったから知ってるんだったよね?俺も花沢の仕事でA国に行ってたんだけどその時に色々とお世話になったんだ」
類は曲目が書かれたパンフレットを司に見せた。
「前々からそのお礼にと思って今日のコンサートに誘ってたんだけど、ダメだって断られてたんだけど・・・」
一瞬の沈黙のあと、類が言った。
「どうしたの司?」
「いや・・・」
司はためらったあげく、話すことをやめた。
「ところで司、今日は誰と来たの?正装してるけどなんかの帰り?」
「ああ、A国の大使公邸でパーティーがあってよ、退屈で抜けてきた」
司が説明した。

「そうなんだ。なんかすごい偶然だね、司はA国のパーティーで俺はA国大使館職員の彼女と一緒だなんてね」
類は友人をみつめ、相手の反応を観察するようにゆっくりと言った。

「・・・そうだな」
司は無表情に答えると言葉をしめくくっていた。









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2015
10.19

まだ見ぬ恋人5

大使館の前で一人の男が建物を見上げていた。
約束の時間、11時のはるか前から司はその場所に立っていた。
早くからここに来たが待てない理由は無かった。
彼女に会うまで1ヵ月かかったんだ。
あれから数日のうちに司は大使館の査証課へのアポイントメントを取り付けていた。
なぜなら窓口申請は完全予約制だったからだ。

*****

「査証課の牧野さんは?」
司は聞いた。
「失礼ですが、お約束は?」
警備の男は胡散臭そうに聞き返した。
「ああ、ビザの申請の件だ」
「そうですか。ではこちらの用紙にお名前を記入してください。それからそちらの入口からお入りください」

司は大使館の中へと足を踏み入れた。
「11時からの約束だ。道明寺、道明寺司だ」
「道明寺さんですね?そちらへおかけになって少しお待ち頂けますか?」
そう言った女がドアを開け奥へと戻ろうとしていたちょうどその時、入れ替わるように彼女が現れた。
「お待たせいたしました。道明寺さんですね?」
「あ、ああ」
彼女だ!牧野つくしだ!落ち着け俺。冷静にやるんだぞ。
司は悪友たちに言われた言葉を思い出していた。

『 いいか司、最初が肝心だからな 』
『 司、おまえのその性的魅力を忘れんなよ。今こそその魅力を使え!』
『 今までが宝の持ち腐れっていうもんだ 』
『 色んな意味でおまえの持ってるものは超一流なんだからな!』
『 どんな女だっておまえになびかないはずがない 』

「では、こちらへどうぞ」
彼女が下げているIDカードにはT.MAKINOと書かれていた。


『 人を見かけで判断してはだめよ 』
彼女の母親はいつもそう言っていた。
はじめて彼を見たのは大使館の自分の職場で、ビザ発給申請のために訪れたときだった。
つくしはその男を観察していた。仕事柄どうしてもそのような目で見てしまう。
書類に記載されている発給要件は満たされている・・・
裕福なビジネスマンらしさが彼の態度に見て取れた。
背が高く、均整のとれた身体つきをしていた。
そして温かみのない冷たい目をしているように感じられた。
そして何故か睨まれているように感じていた。
このひと、どうしてそんな目でわたしを見ているの?

道明寺さんか。
実家はお寺かな?
つくしは彼から提出された書類を広げて見ていた。
「はい。では道明寺司さん。書類はすべて揃えていただいていますね?」
つくしはそれから数分間、彼に質問をしていた。
「ビザは商用ですね?」
つくしは聞き返した。
「そうです」
司は応じた。
「最後にひとつお伺いしますが、お仕事はどのようなことを?」
つくしは目を通していた書類から目を上げた。
「自営業です」
司は低い声で答えていた。
そうか・・・もしかしてお寺って自営業?
「そうですか。どんな内容のお仕事か聞いてもいいですか?」
「手広くやってます」
司は答えた。
「そうですか。ご繁盛されているんですね」
つくしは書類に目を戻した。お寺も多角経営の時代だものね・・・
彼女は愛想笑いを浮かべた。
「では、申請書類は受付致しましたので。審査期間は約1ヵ月くらいかかります」
そして彼女はにっこりほほ笑んで言った。
「ご苦労さまでした」


*******



「おい、司どうだった?」
あきらがポケットからタバコを取り出しながら言った。
「なんか話しはしたか?」
総二郎はテーブルの反対側にいる司に言った。
「いや、ダメだ・・」
司はウイスキーの入ったグラスを置き、真顔で言った。
「仕事は何してるか聞かれて自営業だって答えちまった」
「なんだそれ?世界に名だたる道明寺HDをつかまえて自営業だと?まあ、あながち間違いでもないけどな。で、おまえの名前を聞いても反応なしか?」
あきらは乾杯の仕草をするようにグラスを掲げてみせた。
「 ああ 」
司はあきらが掲げたグラスに答えるように、グラスを手にすると掲げてみせた。
「道明寺って聞いて寺だと思ったんじゃねえの?」
「はぁ?牧野つくしって日本人だろ?それにおまえの名前を聞いてもピンとこないってどういう女だよ?」


「いやいや逆に面白いよな、つくしちゃんって!」
総二郎はそう言うと笑った。
「総二郎!なに勝手に名前で呼んでんだよ!」
「そんなに怒るなよ司」
あきらがたしなめた。
「で、どうすんだよ?」
「ああ、ビザが降りるにはあと1ヵ月はかかるそうだ」
司は淡々と答えた。
「それまでに・・なんとかしないとな司!だって次に堂々と彼女に会えるのは1ヵ月後ってことだろ?」
会話が途切れたところで司はため息とともに頭を抱えていた。


「なあ総二郎、『地下鉄の女』あらため『大使館の女』ってどうだ?」
「なんかサスペンスドラマみたいだな?」
「 だろ? 」
あきらがにやりと笑みを浮かべた。

『犯人はあなたね!道明寺っ!』
『そうだ、俺が殺したんだ。よく見破ったな牧野っ!』

こいつら二人してなにクネクネしてんだ!
小芝居してる場合かよ・・・おまえらぶっ殺すぞ。
「おまえら笑うんじゃねえよ!」
司は再び頭を抱えていた。








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2015
10.18

まだ見ぬ恋人4

翌日、司が出社して最初に呼んだのは調査を依頼していた男だった。
そしてその男が帰って行ったのはまだ業務の始まる1時間も前だった。
次に彼がしたのは二人の男に電話をかけることだった。
夕方の6時に二人はやってきた。
男達は車の後部座席を降りると大股でビルの中へと入って行った。


「おい司、女の正体がわかったって?」
あきらは執務室に入ってくると開口一番に言った。
「 ああ 」
「で、どこの誰だ?」
あきらはソファに腰かけると聞いた。
「 あ? 」
「だから、女の素性がわかったんだろ?」
総二郎がせかすように言った。
「早く教えろよ」
「 ああ 」
司はデスクへと近づき引き出しを開けた。
そこから封をしていない封筒を取り出すと二人に写真を手渡した。
「名前は牧野つくし」

「「つくしぃ~?」」
「おい、なんだそりゃ。つくしだなんて雑草の名前じゃないか?」
あきらが言った。
「茶会に出す精進料理でおひたしくらいにはなりそうだけどな」
「それに、なんかビミョーな顔だな・・」
あきらは手元の写真に目を落としながら言った。
「うるせぇ!彼女のほほ笑みはこの世のもんじゃねぇんだよ!」
司が怒鳴った。
「おい司、落ち着けって。この世のものじゃないって、それじゃあ死んでるぞ?」
総二郎がなだめるように言った。
「しかし、よく調べがついたな」
「さずが司ン所の調査会社だな。うちの連中はなにやってんだよ」
あきらはため息をついた。
「どうやって調べがついたんだ?」
総二郎が探りを入れるように聞いた。
「ああ。駅まで来てるってことはその道中の足取りをたどればいいってことでその時間帯の近隣の防犯カメラからあたったそうだ」
司が言った。
「そうだよな、今はどこでもカメラで見張られてるからな。それで?」
あきらが促した。
「で、この駅の入口につながる道に面したビルにある防犯カメラを片っ端からあたっていった。ま、警察じゃねえからなかなか協力をしてもらえなかったらしいから時間がかかったらしいけどよ」
司はにやりと笑った。
「そうか。で?」
「ああ、それでだ。足取りを逆にたどって行った先の建物から彼女が出てくるところを確認出来た」
「よかったな司。で、どこの建物から出て来たって?」


「A国大使館だ」
つかさが言い切った。
「「 大使館? 」」
二人の男は素っ頓狂な声を返してきた。
「ああ、彼女はそこから出て来た」
司は二人を見たままでうなずいた。
「大使館か?いったい彼女なに者なんだ?」
あきらが訝るように聞いてきた。
「大使館の移民局で査証課にいる」
「イミグレか・・」
総二郎がつぶやいていた。
「なんだよそれ?」
司が聞いた。
「イミグレーションの略だよ!おまえNYに居たんだろ?そのくらい・・」
「まあまあ、総二郎。とにかく、大使館勤務の牧野つくしってことはわかったってことだろ?」
「そうだ」
司は言った。
「じゃああとは簡単じゃん」
あきらは問題は解決したとばかりに一服しようとタバコに火をつけようとした。
「あほ。大使館なんてよほどの用がなきゃ行くことなんてないぞ?それに大使館なんて治外法権だぞ?日本にあってもその敷地は日本じゃないし、外交特権もある。当然だがガードは堅いし警備も厳しいな」
総二郎が顔をしかめた。
「ああ、そうだな」
司は言った。
「そうだよな。それに大使館勤務の女性相手に何かあって外交問題にまでなったらヤバイしな」
あきらは悪い予感を打ち消すように言った。
「いいか司、おまえ気を付けろよ?」
総二郎は司に向き直った。
「なにをだ?」
「なにをって、おまえ言っとくけどくれぐれも外交問題だけにはするなよ?おまえは夢中になるとまわりの事が見えなくなる性格だからな」
総二郎はつとめて冷静に言った。
「おい司、A国のビザは持ってるよな?おまえ何度か行ってたよな?」
あきらが言う。
「ああ、あそこの国は資源大国だからな。うちも取引があるし鉄鉱石のほとんどがあの国からの輸入だ」
司が答えた。
「よし!いいか司、おまえビザの更新に行け!いいか?自分で行くんだぞ。今までは西田にまかせっきりだったろうけど自分で行って彼女に会ってこい!」
総二郎はそういうと隣にすわる司の肩を叩いた。








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2015
10.17

まだ見ぬ恋人3

次の一週間、なんとかもう一度彼女と会いたいと司は毎日のように駅に現れた。
秘書の西田は何も聞かず黙って指示に従った。
こうして、彼女に対する思いは情熱に変わりついには執念となった。
それまで司は女に対しての想いなど口にしたことがなかった。

手がかりはベージュのコートに赤い傘。 いや、これは持ち物だから替えがきく。
手がかりは肩の下までの真っ直ぐな黒い髪。 そして・・・大きな瞳だった。
服装が変わっていたとしても、もう一度会えば必ずわかる。
声が聞ければよかったと思った。そうすればもっと多くのことがわかったはずだ。
総二郎が言ったとおり、あのとき声をかけておけばよかった。


西田がこっちへ向かってきた。
「支社長、そろそろお戻り下さい」
司は腕時計を見た。
「 ああ 」
「お気の毒ですが・・」
西田は言った。
「西田、おまえホントに気の毒だと思っているか?」
「支社長がこうしてここに現れると色々と問題がおありかと・・」
「なにがそんなにおかしいんだ、西田?」
西田が笑いながらたしなめた。
「いえ、ただこんなにもまわりに女性が集まるとお探しの方が見つかるのも早いのではないかと」
司は敢えて返事もせずに黙って階段を上がった。

司がこの駅のプラットホームに現れるようになって女性乗客の数が急に増えていた。
夕刻の帰宅時間帯にイケメン男性が現れるホームとして女性利用客の間で話題になっていた。
ちらちらとこちらへ視線を向ける者もいれば、堂々と写真を撮る者までいた。


今日も時間切れか・・・
そう思いながら階段を上る彼が視線を向けた先、数段前をのぼるベージュのコートを着た長い黒髪の女の姿をとらえた。
司は階段を駆けのぼるとひとつめの踊り場で女に追いついた。
そして女のコートの後ろを掴んでいた。
彼は驚いた表情で自分を見上げている女を見ていた。
違う・・・
「申し訳ない。人違いだ」
彼は失望を表したような声で謝罪していた。

司は時間が許す限り彼女を見かけた同じ時間に同じ場所に立つ。
ただし、あの時とは違い彼女が立っていたプラットホーム側に立つ。
運がよければまた彼女と会えるはずだ。
司はそう信じていた。

地上に出たところで運転手が後部座席のドアを開けて待っていた。
「おかえりなさいませ」
司は車に乗り込む寸前に今来た道を振り返った。
彼はあの日に目にした女性の姿をもう一度探していた。
そして、後部座席に乗り込んだ。
「西田」
「はい」
「調査会社から連絡はないのか?」
司は責めるように言った。
「まだです」
そして西田は間をおいて答えた。
「もう少し時間がかかるのではないでしょうか?」
司は黙っていた。


******


恋なんていつから始まったなんてことは言えない。

執務室へ戻っていた司は謎めいた笑みを浮かべると立ち上がった。
そして彼はタバコに火をつけるとライターをおいた。

司は落ち着かない気持ちで窓の方へ歩いて行った。
外はあの日と同じように雨が降り出していた。
彼の手元にはたった今、調査会社から届けられた封筒があった。
そして中から何枚かの写真を抜き出して眺めた。
彼女だ。
ついに見つけた。
粒子は粗いがあの日の女性だった。
司はクリスタルの灰皿に灰を落としながら彼女の写真を眺めていた。








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2015
10.16

まだ見ぬ恋人2

あれから2週間がたったがどちらからも何の連絡もなかった。
うちの調査会社と美作商事の調査会社を使って調べさせている。
が、意外と難しいもんだと思ってみるがもう少し待ってみるか。


パーティーの盛り上がりに花を添えるように3人の男達が通路の奥へと進んで行く。
司たちが奥に進むにしたがって、他の客は彼らの進路を開けて行く。
薄暗いクラブのなかで行われている内輪のパーティーに総二郎は和服姿で現れた。
「おい総二郎、ここのところ女断ちしてるんだって?いったいどういう風の吹きまわしだよ?」
あきらが聞いた。
「ここのところ忙しくてな」
そう言いながらも遠巻きにこちらを見ている女達に対し笑顔を振りまいている。
「それより聞いたぞ司、おまえ女を探しているそうだな?」
総二郎は話しながらもウエィターに手で合図を送っている。
「そうなんだよ、総二郎。なんでも司は一目惚れしたらしいぞ?」
「マジか!司が女に一目惚れってどこのお嬢だよ?」
総二郎が尋ねた。
「それが・・」
あきらは笑いを噛み殺した。
「なんだよ?司のお眼鏡にかなった女だろ?」
「それがなんと、地下鉄の駅で見かけた女なんだと!」
ついにあきらが笑い出した。
「げっ。なんだよそれ?それに司が地下鉄って、なんだよそれ?」
「お、俺だって地下鉄くらい乗るぞ?それがなにか問題か?」
「おい司、そんなに睨むなよ!」
あきらが司の肩をたたいた。
「いやいや、司君。地下鉄云々の問題じゃなくて。なにか問題か以前の問題だろ?」
総二郎は真面目な顔をして言ってきた。
「そうそう、相手のことなんてなーんにも分かんねぇんだからな」
あきらの言い分はもっともだった。
「ま、とにかくだ。司に気になる女が現れたってことが重要だな?」
総二郎は言った。
「そうそう。司がやっと女に目覚めたってことが重要だよな」
二人の男たちはこれ以上おかしい事はないとばかりに笑っていた。

司は悪友二人が自分のことを話しながら酒を飲んでいる姿を見て自分が女を探しているなんて事をあきらの耳に入れたのは迂闊だったかと思い始めていた。


「で、その女は誰なんだ?」
総二郎は尋ねた。
「それが・・」
「調べさせてる」
あきらが言いかけた言葉を遮えぎって司が言った。
「その女、俺をみてほほ笑んだんだ」
「それって司の幻想じゃねえの?」
総二郎が言った。
「本当か?本当におまえを見てほほ笑んだのか?おまえの後ろに誰かいなかったか?」
あきらはいたずらっ子のような目で言った。
「いねぇよ!」
司は強い視線であきらを睨みつけた。


「で、どうしたんだ?」
総二郎はウエィターが運んできたグラスを受け取ると口へと運んでいた。
「お、おう。女はそのまま次の電車に乗っていっちまった」
「で、司はどうしてたんだ?」
「お、俺か?」
「そう。おまえは?」
「俺は・・・ただ突っ立ってた」
「なんだよそれ?もっとなんかあっただろ?」
総二郎が呆れたような顔をして司を見た。
「女は反対側のプラットホームだぞ?どうすりゃよかったんだよ!」
「あほか。そこから待っててくれとか叫べばよかっただろうが!」
「おっ!そうか!いいこと言うよな総二郎」


総二郎が呆れたような顔をしているのを見てあきらが言った。
「なあ、司ってなんかキャラ変わってないか?」
「そうだよな、こいつ女なんて近寄るなブス!見るなブス!って感じだったよな。それもつい最近まで・・」
「だよな・・・」
あきらはにやりと笑った。
「司がこんなふうになるんだから、俺達もその地下鉄の女ってのに会ってみたいよな」
総二郎は笑いを噛み殺した。
二人は思わず笑い出しそうになっていた。


司は女の事を考えているのか黙り込んでテーブルに置かれていた酒の入ったグラスを手に取ると、一気に飲み干してしまおうとしていた。

「しょうがねぇな。こうなったら俺もひと肌脱ぐか。司君のチェリー卒業の為にもな!」
総二郎のその言葉に司は氷の塊を喉に詰まらせそうになっていた。








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2015
10.15

まだ見ぬ恋人1

高層のオフィスビルに入ると心地よい空調システムのおかげで一息つくことが出来た。
司が無人のエレベーターに乗り込み35階のボタンを押すとドアは静に閉まった。
そして鏡面仕上げされた壁に映る自分の姿を確認していた。
いつもと何も変わりがないように見える。
しいて言えば癖のある髪の毛が少しだけ乱れているくらいか。
彼を乗せたエレベーターのドアは目的のフロアで音もなく開いた。

目の前には社名の金文字が刻印された黒色のプレートが壁面にかかり、重厚なドアが見える。
そのドアまで数歩でたどり着くとインターフォンを押す。
ドアはセキュリティ対策が万全に施されていて外からは簡単には開かない。

道明寺HDが所有する調査会社はこのビルの中に本社がある。
司は自らの足でこの会社を訪れていた。

彼がエレベーターを降りたころ、すでに中ではひとりの男がドアの向こう側で待っていた。

「道明寺支社長、わざわざお越しいただかなくてもこちらから支社の方へお伺い致しましたのに」
「いや、いいんだ。個人的なことだ」
司はそう言うと向かい側の椅子に座る男に話し始めた。

「探して欲しい人物がいる」
彼は少し考えながら言葉を選んだ。
「お話下さい」
男は警察庁あがりだ。人探しならこの男の右に出る調査員はいないだろう。
彼は手元に用意したファイルに書き込む為にペンを取り出していた。
「名前は不明、性別は女・・・歳の頃は俺と同じくらい」
「それで?どうぞ続きをお話下さい」
「髪は黒くて肩の下くらいの長さ、背の高さは160くらいか?」
「どうぞ続きを」
「ベージュのコートに赤い傘だ」
司は答えた。

「道明寺支社長、少しお伺いしたいのですがよろしいですか?」
男は手にしたファイルをテーブルに広げたままで司に言った。
「率直にお伺いいたします。その方は・・どういう調査対象になるのでしょうか?」
司は黙ったまま答えなかった。
答えなかったのではなく、答えられなかった。
彼は立ち上がると窓の傍まで行き、背を向けた姿勢のまま低い声でこう言った。
「うちの会社にとっての最重要人物だ」
男は考えた。
この女性が道明寺HDにとっての最重要人物?
「支社長、もう少し具体的な・・」
「あ?地下鉄の駅で会った」
司はいきなり切り出した。
「地下鉄の駅ですか?」
「ああ」
「どこの駅ですか?」
「議事堂近くだ」
司はじりじりして言った。
「大使館やコンサートホールがある辺り・・・ですか?」
「そうだな・・」
司は振り返ると黙って男を見た。
「やってくれるよな?」
彼は苛立ちが声に出るのを抑えながら言った。
「も、もちろんです。支社長直々のご依頼とあれば何をおいても調査致します」
男はきっぱりと言った。

司と男との会話はたったそれだけだった。
男は考えていた。
この東京にいったいどれだけ支社長と同じ年頃の女性がいると思っているのかと。
それでも彼の依頼を断ることは出来ない。
そんなことをすれば命取りになる。
何がなんでもその女性を探さなくては!


*******


あきらが司の執務室を訪ねたのは特段の用があったわけではなかった。
いつものように一方的に呼び出されただけだった。
「司、いちいちおまえの都合で呼び出されちゃこっちも困るんだ!」
そう言いながら彼は用意されたコーヒーを口にした。
「なんだよあきら、そんなツレネーこと言うなよ」
「俺も専務って立場があるんだから、勝手気ままに動いていいわけじゃないんだ」
彼は自分の腕時計を指さしながら言った。
「で、なんだよ今日は!」
「あきら、おまえのところの調査会社って人探しは得意か?」
司はあきらの目の前に座ると同じく目の前のコーヒーに口をつけた。
「なんだよ、藪から棒に?」
「探して欲しい人間がいる」
そう言うとコーヒーカップをソーサーに戻した。
「司、おまえのところも調査会社があるだろ?」
あきらはソファにもたれかかると腕を組んだ。
「ああ、勿論そっちは手配済みだ」
「そうか・・・。で、なに?取引絡み?」
「いや、違う」
「じゃあれか?取引相手の弱みを握るとか?」
あきらは組んでいた腕をほどくと身を乗り出すようにして聞いてきた。

「いや。それも違う」
「じゃあなんだよ?」
「 女だ 」
司は答えた。
「 女? 」
「そうだ・・」
「やっぱりあれか?取引相手の女関係か?」
あきらは合点が言ったように聞いてきた。
「いや・・違う」
「だからなんだよ!司はっきり言えよ」
あきらは苛立ちを抑えつつも言い切った。

「俺が・・・惚れた女だ」
「おまえが・・・惚れた女?おまえがか?まじかよ?」
あきらは何度も確認するように聞いていた。
「悪いかよ!」
「お、女嫌いのおまえが・・?」
司の向かいの席であきらは腹を抱えて笑いだしていた。
「見合い相手もボコるくらいの女嫌いのおまえが?」
いったん笑い出したあきらはその笑いを止めることが出来ず、その可笑しさからか両目の端から涙を流しながら笑っている。

司はあきらが驚くのも無理はないと思った。
俺が女に惚れるなんて自分でも信じられない思いだったから。
だからこそ彼女を探し出さなくてはいけないと思っていた。









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2015
10.14

恋におちたら

Category: 恋におちたら
彼が車に乗り込んだとき、雨が降り始めていた。
雨には匂いがある。そんなことに気がついたのはいつの頃だったか。
司の乗った車は事故渋滞に巻き込まれ遅々として進まなかった。
ただでさえ不快な気分がいっそう荒れる。
まだ約束の時間には充分間に合うはずだ。男との約束に遅れは許されない。
相手はこれから先も道明寺HDにとっての重要顧客であるだろうし、すでに何年も前から良好な関係を築いてきた。遅れて悪い印象を与えるのは考えものだった。
司は信号が変わるのをイライラしながら待っていた。
車窓から反対車線のすれ違う車をぼんやりと眺めながらこれから会う男はどんな質問をしてくるだろうかと考えていた。

前回の会合で男が話題にしたのはある資本への投資に対する利益率がかんばしくない件についてだった。
「あなたの若さでこの案件を扱うのはまだ難しいのではないですか?」
そう言われ、投資先の業績の推移と財務状況、生産、販売そしてその経営拡大計画に至るまでの幅広い説明を求められた。
彼がその件で男を満足させられる説明を終えたあと、今度は別の案件のことを持ち出してきた。
「道明寺さん、今日は有意義な話し合いが出来てよかった」
最後にはそう言われ男は満足して帰って行った。
数分後、司が時間を遅らせて店の外に出たとき、男は車に乗り込んでいるところだった。
司は大きく息をしていた。そして男の車が出発したときはほっとしていた。

さて、今夜はどんな難題をぶつけてくる?
司の車が会合の指定場所近くの交差点にさしかかったとき、ますます渋滞がひどくなり車の流れが完全に止まってしまい約束の時間に間に合いそうになかった。
「司様、このままでは会合には間に合いそうにありません」
運転手にそう言われ遅れるわけにはいかず、彼は仕方なく車を降りると傘の波をかき分けて近くの地下鉄の駅へと急いだ。所詮ひと駅だ。
人ごみのなかわずかな隙間を見つけては前の方へと進んで行く。
イタリア製の最高級ローファーとオーダーメイドのイギリス製のスーツを身に纏った男が地下鉄の階段を足早に下る。
彼は人の群れを縫ってプラットホームへ降り立った。


司は次の電車が暗闇の先、トンネルの奥から現れるのを苛立たしい思いで待っていた。
そして線路越しに反対側のプラットホームを眺めていた。
向かいのプラットホームもこちらに劣らず混んでいる。
そんな彼の目に赤いものが飛び込んできた。
彼の注意を惹いたのは時計を覗きこんでいる若い女性だった。
その女性も司と同じく約束の時間を気にしていると思われた。
ほんの一瞬、彼女が顔をあげてこちらを見たとき、司はこれから会う男のことを忘れた。
そして何もかも忘れたように彼女を見ていた。
女性の方は彼の視線には気づかないまま手にした傘の柄を握りしめて自分が乗る電車が現れるトンネルの方を見ていた。
背の高さは160センチくらいと見当をつけた。
今どきの女性には珍しく真っ直ぐな漆黒の髪の持ち主だ。
好奇心から興味がわいただけだと自分に言い聞かせたが、自分でもそんなことは信じていなかった。
だが相手が線路の向こう側にいてはどうしようもない。なにか行動しようにも遅すぎると思った。
彼女は再び時計に目を落としたあと顔を上げると、彼が自分を見つめていることに気がついた。



彼はほほ笑んだ。
気がつけばほほ笑えんでいた。
ほんの束の間の出来事だった。
ちょうどそのとき、互いのプラットホームへと同時に電車が滑り込み視線が遮られた。
司のまわりにいた人間は電車に乗り込むために前へと進んで行く。
発車のアナウンスが流れた。
そして、電車が動き出したとき、そこにいたのは司ただひとりだった。
同時に反対側のホームの電車が動き出しトンネルの中へと消えて行ったとき、司の顔にはほほ笑みが広がった。
反対側のホームにもひとりの女性が残り彼にむかってほほ笑み返していた。


構内を駆け抜けた風が彼女の着ているコートの前をはだけさせていた。
彼は翌朝にはジェットに乗り込んでNYへと向かわなければならなかった。
彼女とまたこの駅で逢えるのだろうか?


彼女はベージュのコートを着ていた。
そして手には赤い傘が握られていた。








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2015
10.13

御礼とお知らせ

皆様こんにちは。

いつも拙家をご訪問して頂き有難うございます。
ご訪問をして下さる皆様の沢山の応援とコメントに御礼を申し上げます。
そしていつもの堅苦しいご挨拶で申し訳ございません。
文書を書くとなると、どうしてもこんな風味になってしまいます(笑)


さて、暦の上では寒露も過ぎ霜降も間もなくですね。
皆様のお住まいの地域では季節の進み具合はいかがでしょうか?
気温の変化が激しい季節がやってまいりましたので、皆様もお身体をご自愛くださいませ。

本日は次回作のお知らせです。
文書ではなく文章を書こうと思いこうして書かせて頂いています。
拙家でもまた無謀にも次回作を予定しています。
とりあえず、明日は短編を予定しております。
そしてその後ですが、毎日更新は少し難しいのですがそれでも読んでもいいよと
おっしゃる方がいらっしゃればお立ち寄り下さいませ。

いつも甘味が少なくて申し訳ないのですが、それでもいいよ!の方、お待ちしています。


最後になりましたが、いつものご挨拶で締めさせて頂きます。
皆様の沢山の応援に感謝申し上げます。


ご拝読有難うございました。


andante*アンダンテ*
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2015
10.11

キスミーエンジェル 最終話

指にはめたブリリアントカットのダイヤモンドに反射した光が車のダッシュボードに光のプリズムを映し出していた。
つくしは行き先もわからないまま彼の運転する車の助手席にいた。


思えばなにもかもがあまりにも急だった。
道明寺が私の家族の前でプロポーズをしてすぐに結婚式の予定が組まれた。
以前私に公言していたとおり、ど派手な式をあげると言ってきた。
私は自分が踏み出した第一歩の大きさに戸惑いを覚えていた。
一度踏み出せばもう後戻りは出来ない。
そしてもう中途半端な答えなんて出来ないと思った。
でも彼がそばにいてくれればそれでいい。


彼は物思いにふけるつくしに腕を伸ばしてきた。
力強い手でしっかりとつかまれた指に彼の温もりを感じている。
「ねえ、運転中なのよ」
車のエンジンは回転速度をあげ彼は別の車線へと素早くハンドルを切る。
「心配すんな。俺の運転はF1ドライバーなみだからよ」
だからと言って高速道路での運転にF1ドライバーの技術が必要だとは思わないけど。
それでも彼は模範的なドライバーでつくしを乗せ自らが運転するときは制限速度を超えることはめったにない。
自分の反射神経のよさと車の性能に感謝して馬力のある車をスムーズに走らせ向かった先、
彼は田舎道を曲がり赤や黄色の紅葉が広がる美しい山道をのぼって行った。
車がしばらく坂道をのぼると、ようやく開けた場所が前方に見えて来た。
そしてアスファルトの舗装が途切れ広大な草地が広がる場所へとたどり着いた。


「ここは?」
断崖のうえ、風がそこに生えている丈の長い草を揺らしている。
つくしは秋の陽射しを浴びながら岩に打ち付ける波の音を聞いていた。

「ここに俺達の家を建てようと思ってる」
「ここに?」
つくしは言った。
「ああ、家と言っても別荘だな。俺もおまえも仕事があるからな。都内へ通うにはここは無理だろ?」
彼はそう言うとつくしの手を取り海が臨める場所まで足を踏み入れた。
「世田谷の邸には二人じゃ使い切れないほど部屋がある」
そこから見える景色につくしは息を詰めていた。
海は秋の陽を受けてきらきらと輝いて見えた。
そして目を伏せると岩にあたっては砕ける波の音と、頬をなぞる風を感じていた。
「俺はあんなだだっ広い家じゃなくて、おまえと二人で身体を寄せ合って過ごせるような家が欲しい」
彼は言った。

「いいわね」
つくしは目を伏せたまま答えた。
「身体を寄せ合うって言うのは色んな意味があるけどな」
つくしはその言葉の意味を考えてみた。
「おまえ約束したよな?」
そう言われどの約束のことを言っているのかと考えた。
「なにを?」
つくしは目を開くと彼の顔を仰ぎ見た。
「俺の指輪をはめたら一週間ぶっ通しでベッドで過ごすってことだ」


つくしの黒い瞳が大きく見開かれた。
「まさか、あれって本気だったの?」
つくしは探るような眼差しで彼を見上げている。
「一週間無制限のセックス。いつ何時であろうと、どんな方法でも。・・・お、そうだな別にベッドじゃなくてもいいよな?」
つくしはちょっと待ってよと言う仕草を見せる。
「ど、どんな場所でもってこと・・?」
その声はまるで消え入るような声だった。
「あ?こんな大事なことで嘘なんかついてられっかよ!」
彼の口調はいつもと変わらなかったが、そこには油断ならない好奇心が浮かんでいる。


つくしは正直なところを言えば道明寺とセックスすると、くたくたになる。
彼はまるで欲望を制御すると言うことを知らないようだった。
そしてこれ以上に正しいことは無いとばかり毎晩だ。
つくしが手の届く範囲にいる限り我慢が出来ないと言うふうに襲いかかってくる。
そして今やつくしも彼の行動を止めるなんてことは出来なかった。
彼女がどんな行動をとろうと、結果は目に見えていたから。


人は恋人の匂いに反応するらしい。
別れて何年たとうが相手の匂いを嗅げば反応するらしい。
つくしは確かにそれは言えると思っていた。
彼と再会し懐かしい香りを感じたとき、なんとも言えない感情がよみがえったから。
きっと道明寺も同じなんだろうと思った。
だけどパブロフの犬じゃあるまいし私の匂いがするからと言っていちいち反応されたら身体が持たない!
あ、道明寺って犬だった?



彼はにやりと微笑むと手を差し出した。
つくしはいつしか彼の腕の中に抱き寄せられていた。
そして彼女が癖のある黒い髪を引き寄せると彼の黒い瞳が見開かれた。
つくしはその瞳を見つめながら思った。
結局支配権はどちらが握ろうと結果は同じだったかもしれないと。


彼はつくしの視線をとらえたまま愛してるとひと言だけ言った。
「わたしも愛してる」とつくしもささやくとそのまま彼を引き寄せ唇を重ねていた。


そしてそのキスはかつての少女が夢見たようなキスではなかった。
それは女が男に自分の欲望を伝えるキスだった。
あなたが欲しいと・・・・











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応援有難うございます。
「キスミーエンジェル」にお付き合い頂き有難うございました。
本日で完結となります。

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2015
10.10

キスミーエンジェル40

俺は牧野にロマンティックなプロポーズをする方法を必死で考えた。
二人は恋人同士になったが、肝心の指輪がまだ渡せてなかった。
ロマンティックなことを考えるのは得意分野ではなかった。

牧野のことだ、指輪は大きければ大きい方がいいと言う俺自身の哲学は理解しないだろう。
きっと控えめなものがいいと言うに決まってる。
俺の好みから言えば未来の妻にはめてやる指輪は大仰にしたいくらいだ。
だが身に付けるのは牧野だからあいつの意志を尊重してやらないわけにはいかない。
指輪を渡されてあいつは涙ぐむだろうか?




彼はポケットの中の緑がかったような明るい青色の小さな箱を指で触った。
彼女のためにオーダーしニューヨークから取り寄せた。
そしてテーブル越しに牧野を見つめながら思った。

こいつが俺の人生にとってどれだけ大切な存在かと気づいた瞬間から俺の人生は変わった。
牧野と過ごしていると人生は仕事ではなく暮らしになった。

そして俺はこいつの家族が好きになった。
俺と牧野はマンションでこいつの家族と食事をしていた。
そこには彼が子供の頃に憧れた強い絆で結ばれた家族の姿があった。
決して豊かとは言えない経済状況のなか、子供たちのためには努力を惜しまなかった両親。
いい歳になっても姉と弟と言う関係は幼い頃に築かれた力関係をそのまま反映しているようでやたらと世話を妬きたがる牧野。弟は牧野にとってペットのような存在なのかもしれない。
牧野の家族とこうして会ってその絆の深さとどれだけ家族を大切にしているかを目にした俺はこいつを必ず幸せにしてやろうと心に決めた。

彼には珍しく緊張した面持ちで言った。
「お父さん、お母さん、弟・・・」
「進です。道明寺さん」
彼は頷くとひと呼吸した。
これから俺とって人生で一番大事な時間だ。
過去に色々とあっただけに牧野の家族が俺の話を聞いて了承してくれるかどうか不安だった。

「今日はこうして牧野の、いえ、つくしさんのご家族にお集まりいただいて感謝しています。
そして昔、私の母がみなさんに大変ご無礼な振る舞いをしたことを許して頂いて感謝しています」
彼は真剣な面持ちで言った。
「私は不運にもつくしさんのご家族のような家庭には恵まれませんでした。彼女がこうして素敵な女性へと成長できたのもご両親のおかげです。さぞ誇らしいお気持ちでしょう」
彼はつくしの方を見ると話を続けた。
「牧野、おまえと再会してからもう8ヶ月がたった。あのときから俺の人生はまた色づきはじめた。本当は8年前に言いたかったけど、あのときは何も出来ないままで俺がニューヨークに行っちまったからな・・・」
彼はつくしから視線を外すと彼女の両親へと目を向けた。
「お父さん、お母さん、つくしさんと結婚することをお許し下さい」


驚きに沈黙の時が流れた。
テーブルを囲んでいたつくしの家族は身動きもしないでいた。


「いま、なんて・・・?」
「この子と結婚ですか?」
「お姉ちゃんと・・?」
つくしの家族はゆっくりと我に戻ると三人三様に声をあげていた。


一番最初に口を開いていた母親が言った。
「この子・・そんなことはひと言も・・・」
つくしの顔は真っ赤になっていた。
「パパ、ママ・・ごめん・・なかなか言い出せなくて・・」
つくしは鼻の奥がツンとして涙がこみ上げてくるのを感じた。

そのとき、つくしの父親が口を開いた。
「いいんだよ、つくし。色々と考えることもあったんだろ?」
つくしの父親は自責の念に駆られたように話した。
「世間並の生活をさせてやれず、つくしには色々と苦労をさせたね。道明寺さんとのことだって・・・うちがもっとちゃんとした家庭だったらあのとき、あんなふうに・・」
「パパ、いいの。あの時はああなる運命だったのよ?」
つくしは陽気な口調で言った。
「でもね、今はこうして彼と一緒にいれるだけで幸せなんだから」
頬を染めたままでつくしはほほ笑みを浮かべた。


彼女の父親は彼をじっと見つめながら言った。
「道明寺さん、どうかつくしのことをよろしくお願いいたします」
彼は彼女の父親の言葉の意味を瞬時に理解していた。

「こちらこそよろしくお願いいたします。お父さん、お母さん、進くん」
彼は力をこめてそう答えるとつくしの家族にむかって親しげな笑みを浮かべた。

今度こそ、もうあとがないのよね?
つくしはそう思いながら彼を見つめていた。
「ねえ道明寺、わたしに指輪をはめてくれるのよね?」
「ああ」
そう言って彼はポケットに手を入れると彼女の前に小さな箱を置いた。
「いつも持ち歩いていた」
彼は照れくさそうにほほ笑んだ。
「はめてくれないの?」
彼はつくしのその言葉を聞くと嬉しそうに微笑み彼女の左手を取ると自分の大きな手で包みこんでいた。
そしてつくしは彼の手に自分の右手を重ねていた。













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