つくしがぼんやりと目を覚ました先は白い天井と白い壁に囲まれ消毒薬の臭いがしていた。
「痛っ・・」
右腕の痛みに気づいて見ると白い包帯が巻かれていた。
その時カーテンで仕切られていた向こう側で耳慣れない女性の声が聞こえて来た。
「牧野さん?気がつきましたか?開けますよ?」
つくしはなんとか身体を起こすと小さな声で答えた。
「・・・・はい、どうぞ」
仕切られていたカーテンが開かれ白衣を着た年配の女性が現れた。
「牧野さん、ご気分はどうですか?」
彼女はやさしく微笑みかけてきた。
「あの、私は・・・?ここは病院ですか?」
「ええ。病院ですよ。牧野さんは3メートルほどの深さの穴に落ちたんですよ。
それでその時に地中から出ていた鉄筋で腕に怪我をされて運ばれてきたんですよ」
「鉄筋ですか?」不思議そうに聞いた。
「ええ、牧野さんが落ちた穴には運悪く以前の建物の古い鉄筋が残っていたとかで
それで腕を切ってしまったようです。古い鉄筋からはかなり錆も出ていたでしょうから外傷後の破傷風予防のワクチンも注射しました。腕の傷の方は・・・数針縫いましたのでしばらくは安静にして下さいね。」
「そうなんですか・・」
つくしの力のない口調に女性医師は説明をつづけている。
「出血がかなりありましたが、傷口はそんなに深くはないので大丈夫、傷痕が残ることは無いと思いますよ」
青ざめていたつくしの顔がより一層血の気を失ってきたようになってくる。
そしてそんな話しを聞いていると急に目の前が暗くなってきた。
「牧野さん、大丈夫ですか?ゆっくり横になって下さい」
つくしはなんとか横になると静かに目を閉じた。
「牧野さん、どなたかご家族の方でお迎えをお願いできる方はいますか?」
女性医師はそんなつくしの様子をみて穏やかに訪ねてきた。
つくしは横になったまま目だけを開けた。
「・・いえ。でも大丈夫ですから」
私は会社の人間がロッカーから持ってきてくれていた洋服に着替えると会計を済ませて帰宅することにした。
作業着の右腕の部分は切り取られていた。
厚みのある生地で作られていた作業着を切り裂くくらいの鉄筋って?
後でそう考えるとぞっとしてきた。
そして会社には迷惑をかけてしまったという思いが残った。
タクシーがマンションの前で止まりつくしはほっと安堵のため息をもらした。
ぎこちない動きで車から降りるとゆっくりとした足取りで建物の中へと入っていった。
エレベーターで5階まであがると部屋の前で左手に持っていた鞄を降ろす。
右手が思うように使えずに左手だけで鍵を取り出すと3度も鍵を落としながらなんとか部屋の中へと入った。
当然ながら部屋は今朝外出した時のままの状態だった。
開け放たれたカーテンの外はきれいな夕焼け空が見える。
縫われたばかりの腕はじんじんとして熱を持っていて痛かった。
まいったな・・・こんな状態じゃすぐには車の運転は無理よね。
でも痛み止めはもらった。
包帯は決して濡らさないように。
そしてこまめに交換すること。
で、2週間後に抜糸か・・・・・
そんな今の私に必要なのは睡眠だ。
もらった痛み止めを水で流し込むと開け放たれていたカーテンを閉めた。
そしてベッドへと横になるとすぐに眠ってしまった。

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「痛っ・・」
右腕の痛みに気づいて見ると白い包帯が巻かれていた。
その時カーテンで仕切られていた向こう側で耳慣れない女性の声が聞こえて来た。
「牧野さん?気がつきましたか?開けますよ?」
つくしはなんとか身体を起こすと小さな声で答えた。
「・・・・はい、どうぞ」
仕切られていたカーテンが開かれ白衣を着た年配の女性が現れた。
「牧野さん、ご気分はどうですか?」
彼女はやさしく微笑みかけてきた。
「あの、私は・・・?ここは病院ですか?」
「ええ。病院ですよ。牧野さんは3メートルほどの深さの穴に落ちたんですよ。
それでその時に地中から出ていた鉄筋で腕に怪我をされて運ばれてきたんですよ」
「鉄筋ですか?」不思議そうに聞いた。
「ええ、牧野さんが落ちた穴には運悪く以前の建物の古い鉄筋が残っていたとかで
それで腕を切ってしまったようです。古い鉄筋からはかなり錆も出ていたでしょうから外傷後の破傷風予防のワクチンも注射しました。腕の傷の方は・・・数針縫いましたのでしばらくは安静にして下さいね。」
「そうなんですか・・」
つくしの力のない口調に女性医師は説明をつづけている。
「出血がかなりありましたが、傷口はそんなに深くはないので大丈夫、傷痕が残ることは無いと思いますよ」
青ざめていたつくしの顔がより一層血の気を失ってきたようになってくる。
そしてそんな話しを聞いていると急に目の前が暗くなってきた。
「牧野さん、大丈夫ですか?ゆっくり横になって下さい」
つくしはなんとか横になると静かに目を閉じた。
「牧野さん、どなたかご家族の方でお迎えをお願いできる方はいますか?」
女性医師はそんなつくしの様子をみて穏やかに訪ねてきた。
つくしは横になったまま目だけを開けた。
「・・いえ。でも大丈夫ですから」
私は会社の人間がロッカーから持ってきてくれていた洋服に着替えると会計を済ませて帰宅することにした。
作業着の右腕の部分は切り取られていた。
厚みのある生地で作られていた作業着を切り裂くくらいの鉄筋って?
後でそう考えるとぞっとしてきた。
そして会社には迷惑をかけてしまったという思いが残った。
タクシーがマンションの前で止まりつくしはほっと安堵のため息をもらした。
ぎこちない動きで車から降りるとゆっくりとした足取りで建物の中へと入っていった。
エレベーターで5階まであがると部屋の前で左手に持っていた鞄を降ろす。
右手が思うように使えずに左手だけで鍵を取り出すと3度も鍵を落としながらなんとか部屋の中へと入った。
当然ながら部屋は今朝外出した時のままの状態だった。
開け放たれたカーテンの外はきれいな夕焼け空が見える。
縫われたばかりの腕はじんじんとして熱を持っていて痛かった。
まいったな・・・こんな状態じゃすぐには車の運転は無理よね。
でも痛み止めはもらった。
包帯は決して濡らさないように。
そしてこまめに交換すること。
で、2週間後に抜糸か・・・・・
そんな今の私に必要なのは睡眠だ。
もらった痛み止めを水で流し込むと開け放たれていたカーテンを閉めた。
そしてベッドへと横になるとすぐに眠ってしまった。

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Comment:4
つくしは出社すると作業着へと着替えていた。
「牧野さん今日の現場はどこなの?」
ロッカールームの中でつくしを見つけた同僚の女子社員が声をかけてきた。
「うん、マンションの建設予定地なんだけど、うちのボーリング調査が入っているからちょっと様子を見てこようと思って」
「牧野さん勉強熱心よね。今の専門分野だけじゃなくてもっと上の分野も目指しているんだったわよね?」
つくしは理由を説明していた。
「うん、まだまだ実務経験が足りないから今から勉強しておかなきゃと思ってるの」
そんなつくしに女子社員は話を続けても大丈夫かと顔を覗いながら好奇心いっぱいの様子で聞いてきた。
「ねえ、でも牧野さん道明寺支社長と婚約中でしょ?結婚してからも仕事を続けるつもりなの?」
つくしが力をこめて言った。
「あ、あれ?あの話は単なる誤報だから。なにかの間違いだから!」
「そうなの?」彼女が興味深そうに聞いてきた。
「うん、同じ英徳だけど私はただの後輩のひとりで、写真が出てたけどあれは間違いよ!
ほら週刊誌なんてそんなことがよくあるでしょ?じゃあ、私急ぐから行くね」
女子社員は「気をつけてね」といいつくしは元気よく「行ってきます」と答えた。
つくしはロッカーから取り出したヘルメットと安全靴をいつもの鞄と共に社用車に積み込むと駐車場を後にしていた。
******
マンションの建設予定地ではすでに調査が開始されていた。
ここは比較的固い岩盤に覆われているが地下水も多い土地だ。
今後の工事では掘り進めるのも大変だと思われた。
「あれ?牧野さん、今日はどうしたの?」
年配の男性社員が声を掛けてきた。
「すいません、私も現場に立ち会わせて頂いてもいいですか?勉強したくて・・」
「ああ、いいよ。でも足元に気を付けてね」
そう言われてみれば見渡せる範囲の中にも何か所かに大きな穴が開いているのが見て取れた。
つくしはこの仕事に就いて良かったと思っている。
この分野で働く女性は少ないし、現場に出れば土にまみれて汚れる仕事だけど
やりがいを感じていた。
大学で土木工学を勉強したのも物づくりに携わりたかったからだ。
形として残る何かの基礎にかかわれることが嬉しかった。
そして手に職をつけることが一番だ。
芸は身を助けるじゃないけど資格は私の身を助けてくれる。
これからはもっと大きな事業にかかわれるように勉強をしたい。
だから・・・あいつの、道明寺のことは・・・
つくしの意識の中には突然腕に焼けつくような鋭い痛みを感じたのと
足もとをすくわれたと思ったことはどちらも同時に起こったことだった。
後でそのとき自分が見た光景を思い出そうとしたが何も思い出せなかった。
******
夕闇の迫るころ彼はノートパソコンの電源をおとすと椅子の背もたれへと身体をあずけた。
ネクタイを緩めて息をつき、ワイシャツのボタンも上からふたつ外した。
類にはあんなふうに話をしたが、なにひとつ仕事が手につかない。
集中しようとしたが無駄だった。
胸の内ポケットから携帯電話を取り出し眺めてみた。
牧野に教えた俺のプライベートの携帯電話に着信記録はない。
あの時は飢えた獣のように牧野に飛びかかってしまった。
頭に浮かぶのはあいつの姿ばかりだった。
白くたおやかな身体をむさぼっていた俺。
その身体の上にぐったりと横たわったまま我に返ったとき、あいつは俺の頭をやさしく撫でていた。
俺が牧野の上から身体を持ち上げて隣へと横になったとき、あいつはくるりと背中を向けベッドから起き上がり「お願い、帰ってくれない?」そう小さな声で呟いていた。
あの時の俺は罪悪感を抱き責められているような気がした。
俺はくるりと椅子を回転させて大きな窓の外を見つめていた。
ニューヨーク滞在もあと一週間だ。
早く日本に帰って牧野と話しがしたかった。
彼の目の前にはニューヨークの高層ビルの輪郭がどこまでも広がっていた。

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「牧野さん今日の現場はどこなの?」
ロッカールームの中でつくしを見つけた同僚の女子社員が声をかけてきた。
「うん、マンションの建設予定地なんだけど、うちのボーリング調査が入っているからちょっと様子を見てこようと思って」
「牧野さん勉強熱心よね。今の専門分野だけじゃなくてもっと上の分野も目指しているんだったわよね?」
つくしは理由を説明していた。
「うん、まだまだ実務経験が足りないから今から勉強しておかなきゃと思ってるの」
そんなつくしに女子社員は話を続けても大丈夫かと顔を覗いながら好奇心いっぱいの様子で聞いてきた。
「ねえ、でも牧野さん道明寺支社長と婚約中でしょ?結婚してからも仕事を続けるつもりなの?」
つくしが力をこめて言った。
「あ、あれ?あの話は単なる誤報だから。なにかの間違いだから!」
「そうなの?」彼女が興味深そうに聞いてきた。
「うん、同じ英徳だけど私はただの後輩のひとりで、写真が出てたけどあれは間違いよ!
ほら週刊誌なんてそんなことがよくあるでしょ?じゃあ、私急ぐから行くね」
女子社員は「気をつけてね」といいつくしは元気よく「行ってきます」と答えた。
つくしはロッカーから取り出したヘルメットと安全靴をいつもの鞄と共に社用車に積み込むと駐車場を後にしていた。
******
マンションの建設予定地ではすでに調査が開始されていた。
ここは比較的固い岩盤に覆われているが地下水も多い土地だ。
今後の工事では掘り進めるのも大変だと思われた。
「あれ?牧野さん、今日はどうしたの?」
年配の男性社員が声を掛けてきた。
「すいません、私も現場に立ち会わせて頂いてもいいですか?勉強したくて・・」
「ああ、いいよ。でも足元に気を付けてね」
そう言われてみれば見渡せる範囲の中にも何か所かに大きな穴が開いているのが見て取れた。
つくしはこの仕事に就いて良かったと思っている。
この分野で働く女性は少ないし、現場に出れば土にまみれて汚れる仕事だけど
やりがいを感じていた。
大学で土木工学を勉強したのも物づくりに携わりたかったからだ。
形として残る何かの基礎にかかわれることが嬉しかった。
そして手に職をつけることが一番だ。
芸は身を助けるじゃないけど資格は私の身を助けてくれる。
これからはもっと大きな事業にかかわれるように勉強をしたい。
だから・・・あいつの、道明寺のことは・・・
つくしの意識の中には突然腕に焼けつくような鋭い痛みを感じたのと
足もとをすくわれたと思ったことはどちらも同時に起こったことだった。
後でそのとき自分が見た光景を思い出そうとしたが何も思い出せなかった。
******
夕闇の迫るころ彼はノートパソコンの電源をおとすと椅子の背もたれへと身体をあずけた。
ネクタイを緩めて息をつき、ワイシャツのボタンも上からふたつ外した。
類にはあんなふうに話をしたが、なにひとつ仕事が手につかない。
集中しようとしたが無駄だった。
胸の内ポケットから携帯電話を取り出し眺めてみた。
牧野に教えた俺のプライベートの携帯電話に着信記録はない。
あの時は飢えた獣のように牧野に飛びかかってしまった。
頭に浮かぶのはあいつの姿ばかりだった。
白くたおやかな身体をむさぼっていた俺。
その身体の上にぐったりと横たわったまま我に返ったとき、あいつは俺の頭をやさしく撫でていた。
俺が牧野の上から身体を持ち上げて隣へと横になったとき、あいつはくるりと背中を向けベッドから起き上がり「お願い、帰ってくれない?」そう小さな声で呟いていた。
あの時の俺は罪悪感を抱き責められているような気がした。
俺はくるりと椅子を回転させて大きな窓の外を見つめていた。
ニューヨーク滞在もあと一週間だ。
早く日本に帰って牧野と話しがしたかった。
彼の目の前にはニューヨークの高層ビルの輪郭がどこまでも広がっていた。

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Comment:1
ジャケットのなかで携帯電話が鳴った。
「 司? 」
電話に出ないわけにはいかない。
類は通話ボタンを押した。
「おい、類。今どこにいる?」
「・・どうしたの司。こんな朝っぱらから・・」
「類、おまえ今どこにいる?」
「今? ウォルドルフでお茶飲んでる」
「そうか、これからすぐ行く」
「だけど司これから・・・」
司は電話を切っていた。
日本で支社長を任されたと言ってニューヨークを後にした司だけど相変らず自己中男だな。
類は幼い頃、学校にあがる前から司とは付き合ってきた。
司と類、そして総二郎とあきらの4人は一緒に遊び、けんかもし、兄弟のような関係だった。
8年前のあの時のことは別にして今でもこの4人は固い絆で結ばれていると思っている。
8年前、まだ高校生だった俺達の前に現れた一人の少女に恋をした司はいつも傍にいた俺達から見てもおかしいくらいに彼女に夢中になっていた。
でもその恋はある日突然終焉を迎えることになったけど。
その少女のことは類にとっても忘れることの出来ない思い出だった。
俺達が18歳でその少女は17歳。
牧野と知り合った頃、俺は彼女には興味がなかった。
でもいつの頃からか牧野に惹かれていたんだ。そんな俺と同じように司も牧野のことを好きになっていた。
結局彼女が選んだのは司だったけど、上手くはいかなかった。
司は突然ニューヨークに行くことになり、牧野は・・捨てられた。
いや、捨てられたって言い方はおかしいな。
あの二人は付き合うとか言う前の段階だったはずだ。
でも司が突然ニューヨークへ行ってしまい、牧野が非常階段でうずくまって泣いているところに出くわした俺は彼女の手を握り、肩を抱いてなぐさめた。
彼女が泣くのを止めるまでは長い時間がかかったのを覚えている。
そしてその後は・・・
そんなに酷いことにはならなかった。
牧野は自分のことを雑草女と呼ぶだけのことはあった。
司がいなくなって数ヶ月もたつと雑草も新しく芽を出したのか牧野は猛勉強を始めたかと思ったら奨学金制度のある国立大学の入学許可を得ていた。
それも女子生徒の少ない土木工学関係の学部だった。
あの頃の牧野は司に対して激怒することはあっても二度と涙を見せることなんてなかった。
だんだんとどうでもよくなっていった感じに思えていた。
でも、司は違ったみたいだね。
週刊誌や新聞に載っていた記事をみれば、あいつは牧野のことを忘れ去っていたわけじゃないってことか。
ま、マスコミの流す話なんて信じているわけじゃないけどね。
「類!待たせたな」
ウォルドルフのティールームに颯爽と入って来た司はご機嫌な様子で類の背中を叩いてきた。
「俺、別におまえと会うなんてひと言も言ってないけど?」
「まあそう言うな」
「で、司。なに?」
類は切り出した。
「おまえ、牧野つくしのことを覚えているか?」
類は司のことをじっと見つめた。
「もちろん、覚えているよ」
覚えているもなにも、今でもメールのやり取りをするくらいの付き合いはある。
司は嬉しそうに「あ、コーヒーをくれ」とウェイターに言うと類にもそのほほ笑みを向けてきた。
「類、おれ牧野と結婚するぞ!」
たまげた。
類は後にも先にも司のそんなほほ笑んだ顔を見たことがなかった。
そしてあまりにも突拍子もない司の言葉に類の頭に浮かんだのは
「つ、司、本気で言ってるの?」
思わず言葉に詰まりそうになった。
それって牧野の気持ちを確認してるのかなぁ。
それに自分の母親のことを考えてるの?あの母親だよ?
「ああ、もちろん本気だ」
類はひとり盛り上がっている司のことがだんだん鬱陶しく感じられてきた。
「ねえ司、牧野の気持ちはどうなの?司と牧野って8年も前に終わってるでしょ?」
「終わってなんてねぇよ!」
さっきまでのほほ笑みはどこへ消えたのか、司は人ひとり殺しそうな視線でにらみつけてきた。
あ、牧野と出会う前の司だ。
「でも司、牧野って・・」
司は先ほどの人ひとり殺しそうな視線のままで歪んだほほ笑みを張り付けると、類に向かってこう言った。
「俺、牧野と寝た」
類はちょうど目の前のテーブルに運ばれてきた司のコーヒーを見ながら、このウェイターは日本語が理解できるのかどうかと聞きたくなった。
「・・・そう。よかったね」
類は他に言う言葉が見つからなかった。
なんで俺にそんなことを報告してくるわけ?それって俺のことを牽制してるの?
「ほら、なんだ?焼けぼっくいに火が付く?」
「・・・司、難しい日本語をよく間違わずに言えるようになったね」
司は嬉しそうに声をあげ、ネクタイを緩めにかかっている。
「そうか?類、俺もいい歳だしよ、そろそろ経験しとかないとあいつにも迷惑がかかると思ってよ」
司は満面の笑みを浮かべながら嬉しそうだった。
「うん。よかったね」
司ってポーカーフェイスが出来ない人間なんだよね。
あいつに迷惑って意味が分かんないし・・・もう牧野に迷惑を掛けたってことでしょ?
何が嬉しいんだか。
類は適当に相づちを打っていた。
「なんだよ類、機嫌でも悪いのか?」
「べつに」
類は話がどんどん見えなくなってくるのはいつものことだとばかりに聞いていた。
そして司の話が長くなりそうだと感じた類はウェイターに合図して、紅茶のおかわりを促していた。

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「 司? 」
電話に出ないわけにはいかない。
類は通話ボタンを押した。
「おい、類。今どこにいる?」
「・・どうしたの司。こんな朝っぱらから・・」
「類、おまえ今どこにいる?」
「今? ウォルドルフでお茶飲んでる」
「そうか、これからすぐ行く」
「だけど司これから・・・」
司は電話を切っていた。
日本で支社長を任されたと言ってニューヨークを後にした司だけど相変らず自己中男だな。
類は幼い頃、学校にあがる前から司とは付き合ってきた。
司と類、そして総二郎とあきらの4人は一緒に遊び、けんかもし、兄弟のような関係だった。
8年前のあの時のことは別にして今でもこの4人は固い絆で結ばれていると思っている。
8年前、まだ高校生だった俺達の前に現れた一人の少女に恋をした司はいつも傍にいた俺達から見てもおかしいくらいに彼女に夢中になっていた。
でもその恋はある日突然終焉を迎えることになったけど。
その少女のことは類にとっても忘れることの出来ない思い出だった。
俺達が18歳でその少女は17歳。
牧野と知り合った頃、俺は彼女には興味がなかった。
でもいつの頃からか牧野に惹かれていたんだ。そんな俺と同じように司も牧野のことを好きになっていた。
結局彼女が選んだのは司だったけど、上手くはいかなかった。
司は突然ニューヨークに行くことになり、牧野は・・捨てられた。
いや、捨てられたって言い方はおかしいな。
あの二人は付き合うとか言う前の段階だったはずだ。
でも司が突然ニューヨークへ行ってしまい、牧野が非常階段でうずくまって泣いているところに出くわした俺は彼女の手を握り、肩を抱いてなぐさめた。
彼女が泣くのを止めるまでは長い時間がかかったのを覚えている。
そしてその後は・・・
そんなに酷いことにはならなかった。
牧野は自分のことを雑草女と呼ぶだけのことはあった。
司がいなくなって数ヶ月もたつと雑草も新しく芽を出したのか牧野は猛勉強を始めたかと思ったら奨学金制度のある国立大学の入学許可を得ていた。
それも女子生徒の少ない土木工学関係の学部だった。
あの頃の牧野は司に対して激怒することはあっても二度と涙を見せることなんてなかった。
だんだんとどうでもよくなっていった感じに思えていた。
でも、司は違ったみたいだね。
週刊誌や新聞に載っていた記事をみれば、あいつは牧野のことを忘れ去っていたわけじゃないってことか。
ま、マスコミの流す話なんて信じているわけじゃないけどね。
「類!待たせたな」
ウォルドルフのティールームに颯爽と入って来た司はご機嫌な様子で類の背中を叩いてきた。
「俺、別におまえと会うなんてひと言も言ってないけど?」
「まあそう言うな」
「で、司。なに?」
類は切り出した。
「おまえ、牧野つくしのことを覚えているか?」
類は司のことをじっと見つめた。
「もちろん、覚えているよ」
覚えているもなにも、今でもメールのやり取りをするくらいの付き合いはある。
司は嬉しそうに「あ、コーヒーをくれ」とウェイターに言うと類にもそのほほ笑みを向けてきた。
「類、おれ牧野と結婚するぞ!」
たまげた。
類は後にも先にも司のそんなほほ笑んだ顔を見たことがなかった。
そしてあまりにも突拍子もない司の言葉に類の頭に浮かんだのは
「つ、司、本気で言ってるの?」
思わず言葉に詰まりそうになった。
それって牧野の気持ちを確認してるのかなぁ。
それに自分の母親のことを考えてるの?あの母親だよ?
「ああ、もちろん本気だ」
類はひとり盛り上がっている司のことがだんだん鬱陶しく感じられてきた。
「ねえ司、牧野の気持ちはどうなの?司と牧野って8年も前に終わってるでしょ?」
「終わってなんてねぇよ!」
さっきまでのほほ笑みはどこへ消えたのか、司は人ひとり殺しそうな視線でにらみつけてきた。
あ、牧野と出会う前の司だ。
「でも司、牧野って・・」
司は先ほどの人ひとり殺しそうな視線のままで歪んだほほ笑みを張り付けると、類に向かってこう言った。
「俺、牧野と寝た」
類はちょうど目の前のテーブルに運ばれてきた司のコーヒーを見ながら、このウェイターは日本語が理解できるのかどうかと聞きたくなった。
「・・・そう。よかったね」
類は他に言う言葉が見つからなかった。
なんで俺にそんなことを報告してくるわけ?それって俺のことを牽制してるの?
「ほら、なんだ?焼けぼっくいに火が付く?」
「・・・司、難しい日本語をよく間違わずに言えるようになったね」
司は嬉しそうに声をあげ、ネクタイを緩めにかかっている。
「そうか?類、俺もいい歳だしよ、そろそろ経験しとかないとあいつにも迷惑がかかると思ってよ」
司は満面の笑みを浮かべながら嬉しそうだった。
「うん。よかったね」
司ってポーカーフェイスが出来ない人間なんだよね。
あいつに迷惑って意味が分かんないし・・・もう牧野に迷惑を掛けたってことでしょ?
何が嬉しいんだか。
類は適当に相づちを打っていた。
「なんだよ類、機嫌でも悪いのか?」
「べつに」
類は話がどんどん見えなくなってくるのはいつものことだとばかりに聞いていた。
そして司の話が長くなりそうだと感じた類はウェイターに合図して、紅茶のおかわりを促していた。

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『 手放すつもりはない。すべてが俺のものだ 』
道明寺はあれからニューヨーク本社への出張のため日本を離れている。
そしてニューヨークにはあいつの母親がいる。
鉄の女と言われる道明寺楓。
彼女とも8年前以来会ってはいなかった。
思いはぐるぐる頭を駆け巡っていた。
『 まだ話は終わったわけじゃない 』
帰国したら話をしようと言われている。
何を?あいつと寝たから私が賭けに負けたと思っているの?
私が今実行することは理性を保って行動することだ。
道明寺との一夜は犬に噛まれたと思って…
違う。そうじゃない。
自分の気持ちに悩むべきではない。自分の気持ちなんて完全否認でいけばいい。
身体の関係が出来たからと言ってくよくよ考えたりしなければいつか…
いつかこの思いは消えてくれる。 消えてくれないかもしれないけれど。
理性を取り戻そうと顔を洗った私はこれからのことを考えていた。
あれほど道明寺との関係に対して慎重に行動していたのに、自分の持っていた大切な何かを彼に捧げてしまった。決して身体のことを言っているんじゃない。
鏡の中の自分の顔をまじまじと見つめながら自分の起こした行動を振り返ってみた。
あの時は道明寺が私の為にくれる時間と思い出が欲しかった。
8年前、あんなふうに私のことを置き去りにして行った彼のことが許せなかった自分。
でも・・・・つくしは思わず洗面台を握りしめていた。
そうして鏡の中の自分に問いかけた。私は彼に何を捧げてしまったの?
自らの顔を見つめながら答えを探した。
心の奥底では道明寺に再会することを何度も夢に見ていた。
心のどこかにはもうこのまま会うこともなく過ごしてしまいたいという思いもあった。
でも・・・・ずっと好きだった。
これじゃあまりにも痛々しい。
馬鹿みたい・・・・
鏡の中にはまた彼に恋をしてしまった愚かな自分がいた。
*****
ひと雨きそうな気がして走り出していた。
が、雨はぽつぽつと落ちるだけですぐに止んだ。
つくしは歩みをゆるめてまたゆっくりとした足取りで歩きだした。
あの夜から3週間が過ぎていた。
どうでもいいじゃない。
『 一度は私のことを忘れたでしょ?またきっと出来るわよ 』
私はそう言った。道明寺はその通りにしたってことでしょ?
この3週間はそんな事実をつくしの前に突き付けてきた。
最終電車に間に合うように会社を出て来たけど、今日は何故かまっすぐ家に帰りたくなかった。
ちょうど今日もあの夜と同じ金曜日だ。
通りかかったビルの1階には証券会社の電光掲示板が今日の終値を表示したままだ。
道明寺の会社の株価は・・そんなことをふと思った。
あった! 相変らず株価は高い。
到底私がすんなりと買える値段じゃなかった。
今の私には自社株を積み立てるくらいしかできない。
そう言えばあのとき話をしていたE社の件もニュースになっていた。
その件でニューヨークに行っているんだろうか・・・
昔、いつかあいつの会社の株式を購入して株主総会でも乗り込んで行ってなま卵でも投げつけてやろうか。なんて考えたこともあったっけ。
そんなことを思い出していた。
いつの間にかつくしの回りには傘の花が咲き始めていた。
そして足早に走り去る人々・・・
先ほどぽつぽつと降って止んだ雨はやはり降ることに決めたようだった。
やっぱり帰ろう・・・
走れば最終電車にはまだ間に合いそうだ。
つくしは足早に駅に向かった。

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道明寺はあれからニューヨーク本社への出張のため日本を離れている。
そしてニューヨークにはあいつの母親がいる。
鉄の女と言われる道明寺楓。
彼女とも8年前以来会ってはいなかった。
思いはぐるぐる頭を駆け巡っていた。
『 まだ話は終わったわけじゃない 』
帰国したら話をしようと言われている。
何を?あいつと寝たから私が賭けに負けたと思っているの?
私が今実行することは理性を保って行動することだ。
道明寺との一夜は犬に噛まれたと思って…
違う。そうじゃない。
自分の気持ちに悩むべきではない。自分の気持ちなんて完全否認でいけばいい。
身体の関係が出来たからと言ってくよくよ考えたりしなければいつか…
いつかこの思いは消えてくれる。 消えてくれないかもしれないけれど。
理性を取り戻そうと顔を洗った私はこれからのことを考えていた。
あれほど道明寺との関係に対して慎重に行動していたのに、自分の持っていた大切な何かを彼に捧げてしまった。決して身体のことを言っているんじゃない。
鏡の中の自分の顔をまじまじと見つめながら自分の起こした行動を振り返ってみた。
あの時は道明寺が私の為にくれる時間と思い出が欲しかった。
8年前、あんなふうに私のことを置き去りにして行った彼のことが許せなかった自分。
でも・・・・つくしは思わず洗面台を握りしめていた。
そうして鏡の中の自分に問いかけた。私は彼に何を捧げてしまったの?
自らの顔を見つめながら答えを探した。
心の奥底では道明寺に再会することを何度も夢に見ていた。
心のどこかにはもうこのまま会うこともなく過ごしてしまいたいという思いもあった。
でも・・・・ずっと好きだった。
これじゃあまりにも痛々しい。
馬鹿みたい・・・・
鏡の中にはまた彼に恋をしてしまった愚かな自分がいた。
*****
ひと雨きそうな気がして走り出していた。
が、雨はぽつぽつと落ちるだけですぐに止んだ。
つくしは歩みをゆるめてまたゆっくりとした足取りで歩きだした。
あの夜から3週間が過ぎていた。
どうでもいいじゃない。
『 一度は私のことを忘れたでしょ?またきっと出来るわよ 』
私はそう言った。道明寺はその通りにしたってことでしょ?
この3週間はそんな事実をつくしの前に突き付けてきた。
最終電車に間に合うように会社を出て来たけど、今日は何故かまっすぐ家に帰りたくなかった。
ちょうど今日もあの夜と同じ金曜日だ。
通りかかったビルの1階には証券会社の電光掲示板が今日の終値を表示したままだ。
道明寺の会社の株価は・・そんなことをふと思った。
あった! 相変らず株価は高い。
到底私がすんなりと買える値段じゃなかった。
今の私には自社株を積み立てるくらいしかできない。
そう言えばあのとき話をしていたE社の件もニュースになっていた。
その件でニューヨークに行っているんだろうか・・・
昔、いつかあいつの会社の株式を購入して株主総会でも乗り込んで行ってなま卵でも投げつけてやろうか。なんて考えたこともあったっけ。
そんなことを思い出していた。
いつの間にかつくしの回りには傘の花が咲き始めていた。
そして足早に走り去る人々・・・
先ほどぽつぽつと降って止んだ雨はやはり降ることに決めたようだった。
やっぱり帰ろう・・・
走れば最終電車にはまだ間に合いそうだ。
つくしは足早に駅に向かった。

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牧野を問いつめる時間はいくらでもある。
黙っていたいならそうすればいいさ。
「で?俺と結婚する決心はついたのか?」
彼を見つめていたつくしははっとして顔をそむけた。
「・・・お願い。なにか着てくれない?」
彼は立ちあがって服を着はじめた。
つくしの耳には衣擦れの音と、ベルトのバックルを締める無機質な金属の音が聞こえてくる。
身支度を整えるとカフスと腕時計をズボンのポケットにいれ、床に脱ぎ捨てられていた上着を拾い上げた。
「答えろよ、牧野」
沈黙が広がる室内でキッチンのテーブルのうえに置かれていた携帯電話が唸りはじめていた。
その呼び出し音が俺を苛立たせる。
パソコンの画面にはニューヨーク市場でのE社の株価の変動がリアルタイムで示されていた。
売買取引の多さが誰かが大量に買い付けをしているのを示しているかのようだ。
既に市場が開いて2時間が経過している。
道明寺は携帯電話をつかみ取り発信者を確認するとそのままテーブルに戻していた。
放っておけばいい。
「出なくていいの?」
携帯電話はしつこく鳴り続けている。
「ああ、秘書だ」
そして20回近く鳴った後、ようやく鳴るのを止めた。
つくしは大きく息を吐くと顔をそむけたままで答えた。
「一度は私のことを忘れたでしょ?またきっと出来るわよ」
俺は屈み込み目を合わせようとしたが牧野は視線を合わせようとはしない。
道明寺は低い声で話した。
「主導権の幻想にしがみついて時間を無駄にするくらいなら負けを認めろ」
たった今、起こった現実に圧倒されているつくしの頭の中で彼の声がこだまする。
私には主導権もないし幻想もない?
彼が一歩前に踏み出したとき、玄関のインターフォンが来客を告げてきた。
「ほら、秘書さんがお迎えに来たみたいよ・・」
つくしは彼がドアまで行くのを待って言った。
「私は自分でルールを決めている。決して恋はしないって」
「牧野・・・」
今度は玄関のドアをノックする音が聞こえてきた。
道明寺はその音を遮るようにドアを開けた。
「支社長、申し訳ございません。ニョーヨーク本社から大至急連絡を取るように連絡が入りました」
「・・・わかった。すぐ行く」
道明寺はタイミングの悪さに腹立しさをこらえた。
「・・・時間切れか。牧野、まだ話は終わったわけじゃない」
彼は手にした上着を羽織ると携帯電話を胸の内ポケットへと収め、パソコンの電源をおとすと秘書に手渡していた。
「おやすみ、牧野」
そう言うと彼の後ろで音をたててドアが閉まった。
その途端、つくしの身体からはどっと力が抜けた。
つくしはドアへと歩み寄ると勢いよく鍵をかけ、ドアに背中を預けるとそのままずるずると床まで滑り落ちるようにしゃがみ込んでいた。
分かっている。
これで終わったわけじゃない。

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彼を見つめていたつくしははっとして顔をそむけた。
「・・・お願い。なにか着てくれない?」
彼は立ちあがって服を着はじめた。
つくしの耳には衣擦れの音と、ベルトのバックルを締める無機質な金属の音が聞こえてくる。
身支度を整えるとカフスと腕時計をズボンのポケットにいれ、床に脱ぎ捨てられていた上着を拾い上げた。
「答えろよ、牧野」
沈黙が広がる室内でキッチンのテーブルのうえに置かれていた携帯電話が唸りはじめていた。
その呼び出し音が俺を苛立たせる。
パソコンの画面にはニューヨーク市場でのE社の株価の変動がリアルタイムで示されていた。
売買取引の多さが誰かが大量に買い付けをしているのを示しているかのようだ。
既に市場が開いて2時間が経過している。
道明寺は携帯電話をつかみ取り発信者を確認するとそのままテーブルに戻していた。
放っておけばいい。
「出なくていいの?」
携帯電話はしつこく鳴り続けている。
「ああ、秘書だ」
そして20回近く鳴った後、ようやく鳴るのを止めた。
つくしは大きく息を吐くと顔をそむけたままで答えた。
「一度は私のことを忘れたでしょ?またきっと出来るわよ」
俺は屈み込み目を合わせようとしたが牧野は視線を合わせようとはしない。
道明寺は低い声で話した。
「主導権の幻想にしがみついて時間を無駄にするくらいなら負けを認めろ」
たった今、起こった現実に圧倒されているつくしの頭の中で彼の声がこだまする。
私には主導権もないし幻想もない?
彼が一歩前に踏み出したとき、玄関のインターフォンが来客を告げてきた。
「ほら、秘書さんがお迎えに来たみたいよ・・」
つくしは彼がドアまで行くのを待って言った。
「私は自分でルールを決めている。決して恋はしないって」
「牧野・・・」
今度は玄関のドアをノックする音が聞こえてきた。
道明寺はその音を遮るようにドアを開けた。
「支社長、申し訳ございません。ニョーヨーク本社から大至急連絡を取るように連絡が入りました」
「・・・わかった。すぐ行く」
道明寺はタイミングの悪さに腹立しさをこらえた。
「・・・時間切れか。牧野、まだ話は終わったわけじゃない」
彼は手にした上着を羽織ると携帯電話を胸の内ポケットへと収め、パソコンの電源をおとすと秘書に手渡していた。
「おやすみ、牧野」
そう言うと彼の後ろで音をたててドアが閉まった。
その途端、つくしの身体からはどっと力が抜けた。
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分かっている。
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静な室内で2人の息遣いだけが聞こえていた。
つくしは道明寺の髪を撫でながら深く息を吸い込んだ。
彼がつくしの上から身体を持ち上げたとき、私は彼の男としての貪欲さを見た気がした。
私は彼に背中を向けるとベッドから起き上がり浴室へと歩いて行こうとして自分の脚が震えているのが感じられた。
何かに掴まっていないと膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
浴室のドアに鍵をかけるとつくしはシャワーのノズルへと手を伸ばす。
彼のはかり知れない体力も男としての貪欲なエネルギーも私が知らなかった道明寺だった。
どうしよう。道明寺とベッドをともにしてしまった。
さっさと服を着て帰ってくれたらいいのに、彼はきっとベッドで待っている。
飢えた美しい獣のようで、引き締まった身体をした道明寺が待っている。
こんなとき、どうしたらいいの?
世の中の女性はこんなとき、どうするの?
そんな思いを巡らせながらもつくしは機械的に身体を洗うと浴室から寝室へと向かった。
俺は牧野が浴室へと向かったのを見てすぐに声を掛けることが出来なかった。
頭の後ろで腕を組み仰向けに横たわったままで目を閉じた。
ドアの鍵をかける音がしていた。
俺は待つつもりでいる。
今のあいつに一人になる時間が欲しいと思うならそうさせてやる。
が、こんな状況でこのまま帰るつもりはない。
******
道明寺がそこにいる。
帰ってくれていたらと願ったけれど、引き締まった身体を惜しげもなく披露するかのように両腕を頭の後ろで組み、わきの下の黒い茂みもむき出してベッドに横たわっている。
かろうじて下半身を覆う布団だけが彼の欲望を隠しているようだった。
「大丈夫か?」
鋭い瞳でそう聞かれてつくしは黙って頷くしか出来なかった。
「痛かったか?」
痛いに決まってるけどそんなことを言葉に出しては言えず、頷くしかなかった。
道明寺は上体を起こしてくるとベッドの縁へと腰かけてきた。
「そうか、わるかったな」
そう言いながらも危険をはらんでいるような彼の鋭い瞳がいたずらっぽくきらめいたと思った。
が、そう思った次の瞬間には手を掴まれたと思ったらつくしは腰に回されたたくましい腕に引き寄せられると彼の太腿の上に後ろ向きに座らせられていた。
道明寺はつくしを後ろから抱えるようにして彼女の耳もとで囁いてくる。
「いつまた会えるかと思っていたら以外と早く会えたな。おまえがあの会議に来るとは知らなかった。それで?お前の人生に俺を受け入れてくれる決心はついたか?」
「な、なんの決心?」
「俺と結婚する決心」
そう言いながら唇はつくしの耳たぶを挟むようにしてくる。
彼は耳たぶから首のカーブ、そして長い髪をかき分けるようにしてうなじへと唇を滑らせ
るとつくしをなだめるようにキスをしてくる。
そして道明寺の太腿の上に乗せられたつくしの臀部は屹立している彼の存在を感じていた。
つくしの腰へとまわされていた腕はゆっくりと胸元へと上がってくるとせっかく着た洋服を脱がせようとしてきた。
つくしは彼の大きな両手に手を掛けると自分の胸から引き剥がそうと引っ張ってみるも後ろから抱えられているこの状態ではびくともしなかった。
「道明寺、や、やめて。お願い!」
「なんで?」
屈託のない口調でそう言ってくるも動かす手を止めようとはしない。
「な、なんでって・・・」
「俺がおまえに触るのを楽しんでいるのに邪魔すんな」
つくしはなんとか道明寺の両手から自由になろうと引っ張ってはみるものの、手錠を掛けられているように身動きがとれない。
そして自分の臀部の下で感じられる存在を無視しようとするが今の状況はそれを許してはくれそうになかった。
「なあ、牧野。これ以上動くな」
「だ、だったら手をどけてよ!」
「おまえに動かれるともう一度痛い思いをさせなきゃならなくなる」
そう言われたつくしは瞬時に動くのを止めた。
道明寺はつくしの胸元にまわしていた腕を緩めると大きな手で彼女の腰を掴み、持ち上げるようにして自分の太腿の上から降ろした。
つくしはすぐさま振り返って道明寺をみた。
彼はベッドの縁へ腰かけたままで両手を後ろへとつくような姿勢でつくしを見つめていた。
惜しげもなく広い胸をさらし、お腹の上には先ほどまでつくしの臀部の下にあった存在が
誇らしげに上を向いていた。
そんな道明寺を見て言いたいことも言えず、自分の頸動脈が激しく脈打っているのが感じられ、喉が渇いてくる。
つくしは彼の身体を見ながらこう考えていた。
彼は私がいままで築いてきたバリアをいとも簡単に破壊してみせた。
でも・・・・今夜のことは幻想なのよ。
そう考えないと私はこの先ひとりで悩む時間が増えるだけだもの。

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何かに掴まっていないと膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
浴室のドアに鍵をかけるとつくしはシャワーのノズルへと手を伸ばす。
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どうしよう。道明寺とベッドをともにしてしまった。
さっさと服を着て帰ってくれたらいいのに、彼はきっとベッドで待っている。
飢えた美しい獣のようで、引き締まった身体をした道明寺が待っている。
こんなとき、どうしたらいいの?
世の中の女性はこんなとき、どうするの?
そんな思いを巡らせながらもつくしは機械的に身体を洗うと浴室から寝室へと向かった。
俺は牧野が浴室へと向かったのを見てすぐに声を掛けることが出来なかった。
頭の後ろで腕を組み仰向けに横たわったままで目を閉じた。
ドアの鍵をかける音がしていた。
俺は待つつもりでいる。
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が、こんな状況でこのまま帰るつもりはない。
******
道明寺がそこにいる。
帰ってくれていたらと願ったけれど、引き締まった身体を惜しげもなく披露するかのように両腕を頭の後ろで組み、わきの下の黒い茂みもむき出してベッドに横たわっている。
かろうじて下半身を覆う布団だけが彼の欲望を隠しているようだった。
「大丈夫か?」
鋭い瞳でそう聞かれてつくしは黙って頷くしか出来なかった。
「痛かったか?」
痛いに決まってるけどそんなことを言葉に出しては言えず、頷くしかなかった。
道明寺は上体を起こしてくるとベッドの縁へと腰かけてきた。
「そうか、わるかったな」
そう言いながらも危険をはらんでいるような彼の鋭い瞳がいたずらっぽくきらめいたと思った。
が、そう思った次の瞬間には手を掴まれたと思ったらつくしは腰に回されたたくましい腕に引き寄せられると彼の太腿の上に後ろ向きに座らせられていた。
道明寺はつくしを後ろから抱えるようにして彼女の耳もとで囁いてくる。
「いつまた会えるかと思っていたら以外と早く会えたな。おまえがあの会議に来るとは知らなかった。それで?お前の人生に俺を受け入れてくれる決心はついたか?」
「な、なんの決心?」
「俺と結婚する決心」
そう言いながら唇はつくしの耳たぶを挟むようにしてくる。
彼は耳たぶから首のカーブ、そして長い髪をかき分けるようにしてうなじへと唇を滑らせ
るとつくしをなだめるようにキスをしてくる。
そして道明寺の太腿の上に乗せられたつくしの臀部は屹立している彼の存在を感じていた。
つくしの腰へとまわされていた腕はゆっくりと胸元へと上がってくるとせっかく着た洋服を脱がせようとしてきた。
つくしは彼の大きな両手に手を掛けると自分の胸から引き剥がそうと引っ張ってみるも後ろから抱えられているこの状態ではびくともしなかった。
「道明寺、や、やめて。お願い!」
「なんで?」
屈託のない口調でそう言ってくるも動かす手を止めようとはしない。
「な、なんでって・・・」
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「なあ、牧野。これ以上動くな」
「だ、だったら手をどけてよ!」
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そう言われたつくしは瞬時に動くのを止めた。
道明寺はつくしの胸元にまわしていた腕を緩めると大きな手で彼女の腰を掴み、持ち上げるようにして自分の太腿の上から降ろした。
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Comment:2
*******************************
ここから先はゆるく成人向け要素の含まれた内容です。
未成年者の方、もしくはそのような要素がお嫌いな方はお控え下さい。
*******************************
私はこれから出会うすべての男性を道明寺と比べてしまうことになるだろう。
この男のことを好きになってはいけない。
でも、今だけは・・・道明寺のことを好きでいたい。
これから先、ひとりになれば後悔する時間ならいくらでもある。
そしてこの部屋でこれから起こることは思い出として残るだろう。
道明寺は自分のシャツの胸のボタンを外し、袖口のカフスを外していた。
この男はつくしの前で服を脱ぐことを何とも思っていないようだ。
なんて美しい身体なんだろう。つくしは素直にそう思っていた。
男性の身体を美しいと形容するのは正しいことなのだろうか?
つくしはそんな男の姿を見ているのが恥ずかしくなってきた。
牧野がすぐそこにいる。
俺はカフスを外しこいつと目を合わせていた。
俺が欲しいと思った女が無防備な姿でそこにいる。
俺は今まで欲しいと思ったものは何でも手に入れてきた。
そして牧野のすべてを自分のものにしたいと思った時から・・・・
牧野、俺のすべてはおまえのものだ。
俺は心の奥底で知っている。
俺の指輪を牧野の左手に嵌める為なら・・・牧野の前でなら膝まずくことが出来る。
俺がおまえを愛しているように、おまえにも俺のことを愛して欲しい。
道明寺はすべてを脱ぎ捨てるとゆっくりとつくしの前まで歩み寄った。
彼は自分を見つめているつくしの目から視線をそらすことなくこう言った。
「牧野、俺はおまえを俺のものにする。言っとくが俺は自分のものになったものを手放すつもりはない」
つくしはただ黙って彼を見つめていた。
俺は牧野を抱き上げるとベッドへと運んだ。
そして牧野は俺の身体の下で横たわっている。
道明寺は執拗につくしの唇をむさぼりながらも両手をつくしの身体に這わせながら残りの下着を取り去っていった。
道明寺が見下ろしている。
獰猛で貪欲な彼の表情はまるで野生動物のようだった。
私は彼の首に腕をからめ、彼の背中に爪をたて、唇は彼の唇を求めた。
道明寺の身体が下へと移動して行く・・・
柔らかなひだを分け、そこに唇を押しつけて舌を使って舐めまわすと巻き毛の奥のそこは濡れてくる。
私は身体も頭もどうにかなりそうだった。
太腿を震わせながらすべてをさらけ出した無防備な姿でつくしは道明寺の髪をつかみ声をあげていた。
俺の舌に感じられる牧野の欲望。
俺は牧野の興奮した香りと温もりに包まれてどうにかなりそうだった。
もしキスで思いを伝えられるのならこのキスがそうだ。
唇と舌で牧野のすべてを舐め尽くしたい。唇で愛撫し、舌で舐めるようなキスをしたい。
牧野はすべてをさらけ出し、隠すものは何もない。
道明寺はつくしにキスをしながら長い指を彼女のなかに入れてきた。
指が押し込まれたそこをまさぐりながら奥へと突き進んでは引き抜くような動きを繰り返している。
そのリズミカルな動きはまるでこれから起こることをつくしに教えているようだった。
俺の自制心はもうとっくに吹き飛んでいた。
道明寺は両手で牧野の腰をつかんで自分の身体に引き寄せると女のなかに分け入った。
こいつのなかに押し入ったとき、俺の奥深くで何かが解き放たれた。
俺がゆっくりと深く腰を動かしはじめると牧野は俺の身体の動きにどうやって自分を合わせればいいのかわからず自分の身体のコントロールが効かないようだった。
俺は次に起こることが予想できずに興奮状態が持続したまま動きを止めることが出来ない。
ふたりで一緒に揺れながら深く突く度に牧野のあえぎ声が聞こえてくる。
悲鳴ではなく、苦痛でもなく歓喜の声だ。
そして歓喜の声とともに低い泣き声を漏らしながら高みにのぼっていく牧野がいた。
俺は牧野の顔を見つめながら悦びの声をあげると新しい世界へと飛び込み絶頂を迎えていた。
私は現実と幻想の間を彷徨うように彼の背中へしがみついていた。
たったいま味わった感覚が強烈すぎて頭が麻痺しそうで何も考えられない。
道明寺はハアハアと肩で息をしながらもしっかりとつくしを抱きしめたまま彼女の首へと頭をうずめている。
そして私は無意識のうちに野生の獣をなだめるように彼の髪の毛を撫でていた。
そうしながらつくしは幻想の世界に留まることを選んでいた。

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なんて美しい身体なんだろう。つくしは素直にそう思っていた。
男性の身体を美しいと形容するのは正しいことなのだろうか?
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牧野がすぐそこにいる。
俺はカフスを外しこいつと目を合わせていた。
俺が欲しいと思った女が無防備な姿でそこにいる。
俺は今まで欲しいと思ったものは何でも手に入れてきた。
そして牧野のすべてを自分のものにしたいと思った時から・・・・
牧野、俺のすべてはおまえのものだ。
俺は心の奥底で知っている。
俺の指輪を牧野の左手に嵌める為なら・・・牧野の前でなら膝まずくことが出来る。
俺がおまえを愛しているように、おまえにも俺のことを愛して欲しい。
道明寺はすべてを脱ぎ捨てるとゆっくりとつくしの前まで歩み寄った。
彼は自分を見つめているつくしの目から視線をそらすことなくこう言った。
「牧野、俺はおまえを俺のものにする。言っとくが俺は自分のものになったものを手放すつもりはない」
つくしはただ黙って彼を見つめていた。
俺は牧野を抱き上げるとベッドへと運んだ。
そして牧野は俺の身体の下で横たわっている。
道明寺は執拗につくしの唇をむさぼりながらも両手をつくしの身体に這わせながら残りの下着を取り去っていった。
道明寺が見下ろしている。
獰猛で貪欲な彼の表情はまるで野生動物のようだった。
私は彼の首に腕をからめ、彼の背中に爪をたて、唇は彼の唇を求めた。
道明寺の身体が下へと移動して行く・・・
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私は身体も頭もどうにかなりそうだった。
太腿を震わせながらすべてをさらけ出した無防備な姿でつくしは道明寺の髪をつかみ声をあげていた。
俺の舌に感じられる牧野の欲望。
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もしキスで思いを伝えられるのならこのキスがそうだ。
唇と舌で牧野のすべてを舐め尽くしたい。唇で愛撫し、舌で舐めるようなキスをしたい。
牧野はすべてをさらけ出し、隠すものは何もない。
道明寺はつくしにキスをしながら長い指を彼女のなかに入れてきた。
指が押し込まれたそこをまさぐりながら奥へと突き進んでは引き抜くような動きを繰り返している。
そのリズミカルな動きはまるでこれから起こることをつくしに教えているようだった。
俺の自制心はもうとっくに吹き飛んでいた。
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こいつのなかに押し入ったとき、俺の奥深くで何かが解き放たれた。
俺がゆっくりと深く腰を動かしはじめると牧野は俺の身体の動きにどうやって自分を合わせればいいのかわからず自分の身体のコントロールが効かないようだった。
俺は次に起こることが予想できずに興奮状態が持続したまま動きを止めることが出来ない。
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悲鳴ではなく、苦痛でもなく歓喜の声だ。
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私は呼吸が早まり、心臓の音が外に聞こえるのではないかと思うくらいだ。
彼と、道明寺と愛を交わしたらこの先ずっと悩むことになる・・
「私は仕事関係の人とはそんなふうになるつもりは・・」
「俺は仕事関係の人間じゃない」
「私たちは・・」
道明寺はテーブルを回り込んで椅子に腰かけたままのつくしの傍まで来ると、自分を見上げる上向きの顔を見つめた。
「言ったよな・・俺はおまえが欲しい」
道明寺は言うより早く彼女の両腕を掴むとつくしを立ち上がらせた。
そして吸い寄せられるようにゆっくりと頭を下げ、唇に唇が触れるとゆっくりと左右に揺らすように唇を滑らせて口を開けるように促してくる。
がっちりと両手でつくしの頭を固定するように抱えたままで優しく促すようなその動きにつくしは自分の唇が開いてくるのが感じられた。
道明寺はつくしが少し開いた唇をこじ開けると深く熱烈なキスを始めた。
彼の舌がつくしの舌に触れ、口の中を探る。そして下唇を軽く噛み舌を這わせると改めて口の中に舌を入れてきた。
男の舌がつくしの口の中で暴れはじめるとつくしの頭ははっきりと覚醒しはじめた。
抵抗しなければ・・・・
そんな思いがつくしの頭の中を過る。
つくしの頭を抱えていたはずの彼の手はいつのまにか彼女の胸の位置まで降りて来ていた。
そしてつくしの両手もいつのまにか道明寺の上着の中にまで入り込みワイシャツの上から
彼の厚い胸板に手を添えていた。右手には彼の心臓の鼓動が感じられた。
互いに唇を合わせ互いの胸に手をあて、その鼓動を感じ取りながらその心臓が脈打つたびに、互いの舌が動くたびにつくしはその場に立っていることが出来なくなりそうだった。
そしてうっとりとする彼の香りと彼自身の男としての香りが混ざり合ってつくしの五感を刺激する。
身体を離さなければ・・・・
だがつくしはもう引き返すには遅すぎると分かっていた。
つくしの両手は彼の胸からゆっくりと上へとのぼって行くと両肩から首のカーブをたどりはじめた。そうしながら道明寺に上着を脱ぐように即す。
彼の身体はつくしの身体に密着したままだ。つくしの身体に食い込んでいる男としての欲望のあかしが感じられる。
道明寺にとってつくしが自分の身体を探索するような指先の動きは予想外だった。
予想外でいて刺激的だった。
彼はつくしの唇から唇を離すと彼女の胸に触れていた手をそっと肩へと置きつくしの顔を見た。
俺の首に回されたままの牧野の手。
牧野は俺にどれだけの影響を与えているのか分かっているのか?
俺はこいつの記憶が曖昧な状態で抱きたくはない。
後で言いわけなんか聞きたいはずがない。
牧野の瞳は今は大きく見開かれている。憂いを帯びたようなその瞳。
その表情は何を意味するのか・・・・・
つくしは道明寺が何を考えているのかなんて知りたくなんてなかった。
こんな事をしている今の私の頭が正常じゃないなんて誰が言える?
私が夢中でキスを返していた男はたまらなく魅力的に思えた。
違う・・思えたんじゃない。魅力的な男だ。昔も今も・・・。
私にとっては決して手の届かなかった存在だった。
きっと私は・・・
道明寺はゆっくりとつくしへと頭を下げていく。
彼女は道明寺のうなじへと回していた手を緩めることなく引き寄せていた。
つくしが少しだけ口を開くと道明寺は待ち受けていた彼女の口へと舌を送り込む。
舌を絡め、互いの口腔内を探り合い、粘着質な水音と互いの唾液が唇の隙間から流れ落ちていても拭おうとは思わなかった。口の奥深くまで舌を受け入れ息をするのも忘れるほどだった。つくしは息をはずませていた。
彼はつくしの唇から唇を離すと彼女の首筋へと唇を這わせ、流れ落ちる唾液を舌で舐めとるようにしてきた。
そしてその舌をつくしの喉元の柔らかな肌へと這わせながらパジャマのボタンを器用にひとつずつ外していく。
彼女の着ていたパジャマはカーディガンと共に床に投げ捨てられていた。
道明寺は下着姿の牧野の胸にそっと手を這わせると自分のものとばかりに包みこんできた。
つくしは自由になった両腕を彼のうなじへと絡ませるとそのまま身体を押し付けていた。

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彼と、道明寺と愛を交わしたらこの先ずっと悩むことになる・・
「私は仕事関係の人とはそんなふうになるつもりは・・」
「俺は仕事関係の人間じゃない」
「私たちは・・」
道明寺はテーブルを回り込んで椅子に腰かけたままのつくしの傍まで来ると、自分を見上げる上向きの顔を見つめた。
「言ったよな・・俺はおまえが欲しい」
道明寺は言うより早く彼女の両腕を掴むとつくしを立ち上がらせた。
そして吸い寄せられるようにゆっくりと頭を下げ、唇に唇が触れるとゆっくりと左右に揺らすように唇を滑らせて口を開けるように促してくる。
がっちりと両手でつくしの頭を固定するように抱えたままで優しく促すようなその動きにつくしは自分の唇が開いてくるのが感じられた。
道明寺はつくしが少し開いた唇をこじ開けると深く熱烈なキスを始めた。
彼の舌がつくしの舌に触れ、口の中を探る。そして下唇を軽く噛み舌を這わせると改めて口の中に舌を入れてきた。
男の舌がつくしの口の中で暴れはじめるとつくしの頭ははっきりと覚醒しはじめた。
抵抗しなければ・・・・
そんな思いがつくしの頭の中を過る。
つくしの頭を抱えていたはずの彼の手はいつのまにか彼女の胸の位置まで降りて来ていた。
そしてつくしの両手もいつのまにか道明寺の上着の中にまで入り込みワイシャツの上から
彼の厚い胸板に手を添えていた。右手には彼の心臓の鼓動が感じられた。
互いに唇を合わせ互いの胸に手をあて、その鼓動を感じ取りながらその心臓が脈打つたびに、互いの舌が動くたびにつくしはその場に立っていることが出来なくなりそうだった。
そしてうっとりとする彼の香りと彼自身の男としての香りが混ざり合ってつくしの五感を刺激する。
身体を離さなければ・・・・
だがつくしはもう引き返すには遅すぎると分かっていた。
つくしの両手は彼の胸からゆっくりと上へとのぼって行くと両肩から首のカーブをたどりはじめた。そうしながら道明寺に上着を脱ぐように即す。
彼の身体はつくしの身体に密着したままだ。つくしの身体に食い込んでいる男としての欲望のあかしが感じられる。
道明寺にとってつくしが自分の身体を探索するような指先の動きは予想外だった。
予想外でいて刺激的だった。
彼はつくしの唇から唇を離すと彼女の胸に触れていた手をそっと肩へと置きつくしの顔を見た。
俺の首に回されたままの牧野の手。
牧野は俺にどれだけの影響を与えているのか分かっているのか?
俺はこいつの記憶が曖昧な状態で抱きたくはない。
後で言いわけなんか聞きたいはずがない。
牧野の瞳は今は大きく見開かれている。憂いを帯びたようなその瞳。
その表情は何を意味するのか・・・・・
つくしは道明寺が何を考えているのかなんて知りたくなんてなかった。
こんな事をしている今の私の頭が正常じゃないなんて誰が言える?
私が夢中でキスを返していた男はたまらなく魅力的に思えた。
違う・・思えたんじゃない。魅力的な男だ。昔も今も・・・。
私にとっては決して手の届かなかった存在だった。
きっと私は・・・
道明寺はゆっくりとつくしへと頭を下げていく。
彼女は道明寺のうなじへと回していた手を緩めることなく引き寄せていた。
つくしが少しだけ口を開くと道明寺は待ち受けていた彼女の口へと舌を送り込む。
舌を絡め、互いの口腔内を探り合い、粘着質な水音と互いの唾液が唇の隙間から流れ落ちていても拭おうとは思わなかった。口の奥深くまで舌を受け入れ息をするのも忘れるほどだった。つくしは息をはずませていた。
彼はつくしの唇から唇を離すと彼女の首筋へと唇を這わせ、流れ落ちる唾液を舌で舐めとるようにしてきた。
そしてその舌をつくしの喉元の柔らかな肌へと這わせながらパジャマのボタンを器用にひとつずつ外していく。
彼女の着ていたパジャマはカーディガンと共に床に投げ捨てられていた。
道明寺は下着姿の牧野の胸にそっと手を這わせると自分のものとばかりに包みこんできた。
つくしは自由になった両腕を彼のうなじへと絡ませるとそのまま身体を押し付けていた。

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つくしが次に目を覚ましたとき、すでに時計は9時を回っていた。
薬の作用で眠っていたつくしはぼんやりとしたまま遠くに聞こえる誰かの声を聞いていた。
誰かの声?
もう一度時計を確認する。デジタルではない時計の短い針が示しているのはやはり9時を指しているのを見て一瞬頭が混乱した。
そしてゆっくりと記憶をたぐり寄せた。
9時って?朝?
いや違う。部屋のカーテンは閉められている。
曖昧な記憶が頭の中を行ったり来たりしている。
つくしは枕に頭をあずけたままぼんやりと考えていた。
あれはいつの事なんだろう・・・
夢の中で道明寺は私を迎えに来たと言っていた。
今まで道明寺が夢に出てきたことなんて一度もなかったのに不思議な夢だった。
例えばビルの屋上から突き落とされるとか、車で引きまわされるとかそういう行為の夢なら道明寺なら考えられそうなことなのに、どうして私を迎えに来ただなんて言ったんだろう。
変な夢だった。
ああ、トイレに行きたい。
つくしはベッドの上で上体を起こすと地味なパジャマの上にブルーの薄手のカーディガンを羽織りふらつく足元に気を付けながら部屋を出た。
そこで私が目にしたのは道明寺がキッチンのテーブルの上でパソコンを叩きながら
携帯電話で話しをしているところだった。
「いいか、ニューヨーク市場が開いたらE社の株を成行(*)で買えるだけ買え。
そうだ、E社だ。遺伝子治療分野での新薬開発が成功間近だ。今が底値だと思って買えるだけ買うんだ。 ・・・・そうだ、うちのファンドを通して買え」
つくしに背中を向けて指示を出している道明寺は「金儲けの極意を知る男」と呼ばれている。
そんな道明寺はつくしが部屋から出て来た気配を感じ取りこちらを振り返ると低い声で呼びかけてきた。
「牧野?大丈夫か?」
「うん。多分、大丈夫・・・」
「牧野、ちょっと待ってくれ・・・」
道明寺はそう言うと電話の向こうの相手と話しの続きを始めていた。
私は道明寺のパソコンの画面に目に止めた。
そこには株式チャートが表示されていた。
E社か・・・これを見る限り今が底値なのかもしれない。
確かこの会社って製薬会社の中じゃ研究開発費がトップクラスだったはず。
ニューヨークが開くのは・・あと1時間と少しか・・・
つくしがトイレを済ませて戻るとキッチンのテーブルに食事が用意されていた。
「どうしたの?これ」
「秘書に用意させた。随分と時間が経っちまったから冷めたみたいだけどよ。
これって温っためられるんだろ?」
「・・・うん。わざわざ用意してくれたんだ・・」
道明寺の秘書が用意してくれたのは保温容器に入れられたスープと白身の魚に色とりどりの温野菜が添えられているひと皿とフルーツが詰められた器だった。
つくしはその場に立ったまま道明寺を見つめた。
「道明寺、あれから・・あたしを連れて帰ってくれてからずっとここにいたの?」
「 ああ 」
「どうして?仕事は?」
「おまえが熱を出しているのに放っておけるかよ。それより腹減ってるだろ?なんか食えよ」
つくしはそれでも道明寺を見つめ続けた。
「牧野、立ってないで座れよ」
道明寺はそう言うと保温容器を不思議そうに眺め、これどうしたらいいんだ?
と呟いている。
「道明寺、あたしがするからいいわよ・・あんたに出来るはずないじゃない?」
だいたい道明寺が電子レンジを扱うなんて想像出来ないわよ。
そう思うとおかしくなってきた。
静寂の中、つくしの食事はいつもと変わらないように思えた。
が、目の前に座る男がそうでないことを表している。
つくしが黙々とスプーンを口に運び、スープを飲み込む様子を見ている男。
「ねえ、そんなふうに見ていられると食べづらいんだけど・・」
チラリと視線を向ければそんなこと気にするなとばかりに肩をすくめてきた。
スープと温野菜が付け合わされた皿を食べ終える頃には牧野の顔色も戻ってきたような気がした。こいつに食欲があるってことは体調がよくなって来たってことだよな。
「うまかったか?」
低い声でそう聞かれつくしは頷いてみせるしかなかった。
「そうか・・じゃあ俺も」
つくしがその意味を理解するよりも前に道明寺は立ちあがるとテーブル越しに彼女のほうへと身を乗り出すとつくしの唇に自分の唇を重ねてきた。
道明寺は唇でつくしの唇をこじ開けると、ゆっくりと舌で口のなかを探りむさぼるようなキスをしてきた。
つくしはぼうっとした頭のままなすすべもなくその行為を受け入れるしかなかった。
「牧野、俺はおまえの記憶を曖昧にさせたくない」
つくしはその言葉の意味を計りかねているかのように道明寺を見つめている。
「俺が・・・こんなふうに・・・」
そういいながらつくしの頬に唇にキスをしてくる。
「こんなことを・・」
そう言うと再び唇を重ねると執拗につくしの口を味わい、舌先でつくしの舌を入念に味わうように絡めてくる。
「ああ、確かにうまい・・」
道明寺はつくしの頭を傾かせると顔中にキスをしてきた。
「・・・牧野」
彼の視線はつくしの目をとらえて離さない。
つくしは自分の呼吸が早まってきているのを感じていた。
「・・・牧野、ベッドに行こう」
*成行(なりゆき)=成行注文(なりゆきちゅうもん)
株をすぐ買いたい売りたい場合に株価を優先するのではなく、約定(やくじょう)=売買成立を優先する場合に示す注文方法です。

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薬の作用で眠っていたつくしはぼんやりとしたまま遠くに聞こえる誰かの声を聞いていた。
誰かの声?
もう一度時計を確認する。デジタルではない時計の短い針が示しているのはやはり9時を指しているのを見て一瞬頭が混乱した。
そしてゆっくりと記憶をたぐり寄せた。
9時って?朝?
いや違う。部屋のカーテンは閉められている。
曖昧な記憶が頭の中を行ったり来たりしている。
つくしは枕に頭をあずけたままぼんやりと考えていた。
あれはいつの事なんだろう・・・
夢の中で道明寺は私を迎えに来たと言っていた。
今まで道明寺が夢に出てきたことなんて一度もなかったのに不思議な夢だった。
例えばビルの屋上から突き落とされるとか、車で引きまわされるとかそういう行為の夢なら道明寺なら考えられそうなことなのに、どうして私を迎えに来ただなんて言ったんだろう。
変な夢だった。
ああ、トイレに行きたい。
つくしはベッドの上で上体を起こすと地味なパジャマの上にブルーの薄手のカーディガンを羽織りふらつく足元に気を付けながら部屋を出た。
そこで私が目にしたのは道明寺がキッチンのテーブルの上でパソコンを叩きながら
携帯電話で話しをしているところだった。
「いいか、ニューヨーク市場が開いたらE社の株を成行(*)で買えるだけ買え。
そうだ、E社だ。遺伝子治療分野での新薬開発が成功間近だ。今が底値だと思って買えるだけ買うんだ。 ・・・・そうだ、うちのファンドを通して買え」
つくしに背中を向けて指示を出している道明寺は「金儲けの極意を知る男」と呼ばれている。
そんな道明寺はつくしが部屋から出て来た気配を感じ取りこちらを振り返ると低い声で呼びかけてきた。
「牧野?大丈夫か?」
「うん。多分、大丈夫・・・」
「牧野、ちょっと待ってくれ・・・」
道明寺はそう言うと電話の向こうの相手と話しの続きを始めていた。
私は道明寺のパソコンの画面に目に止めた。
そこには株式チャートが表示されていた。
E社か・・・これを見る限り今が底値なのかもしれない。
確かこの会社って製薬会社の中じゃ研究開発費がトップクラスだったはず。
ニューヨークが開くのは・・あと1時間と少しか・・・
つくしがトイレを済ませて戻るとキッチンのテーブルに食事が用意されていた。
「どうしたの?これ」
「秘書に用意させた。随分と時間が経っちまったから冷めたみたいだけどよ。
これって温っためられるんだろ?」
「・・・うん。わざわざ用意してくれたんだ・・」
道明寺の秘書が用意してくれたのは保温容器に入れられたスープと白身の魚に色とりどりの温野菜が添えられているひと皿とフルーツが詰められた器だった。
つくしはその場に立ったまま道明寺を見つめた。
「道明寺、あれから・・あたしを連れて帰ってくれてからずっとここにいたの?」
「 ああ 」
「どうして?仕事は?」
「おまえが熱を出しているのに放っておけるかよ。それより腹減ってるだろ?なんか食えよ」
つくしはそれでも道明寺を見つめ続けた。
「牧野、立ってないで座れよ」
道明寺はそう言うと保温容器を不思議そうに眺め、これどうしたらいいんだ?
と呟いている。
「道明寺、あたしがするからいいわよ・・あんたに出来るはずないじゃない?」
だいたい道明寺が電子レンジを扱うなんて想像出来ないわよ。
そう思うとおかしくなってきた。
静寂の中、つくしの食事はいつもと変わらないように思えた。
が、目の前に座る男がそうでないことを表している。
つくしが黙々とスプーンを口に運び、スープを飲み込む様子を見ている男。
「ねえ、そんなふうに見ていられると食べづらいんだけど・・」
チラリと視線を向ければそんなこと気にするなとばかりに肩をすくめてきた。
スープと温野菜が付け合わされた皿を食べ終える頃には牧野の顔色も戻ってきたような気がした。こいつに食欲があるってことは体調がよくなって来たってことだよな。
「うまかったか?」
低い声でそう聞かれつくしは頷いてみせるしかなかった。
「そうか・・じゃあ俺も」
つくしがその意味を理解するよりも前に道明寺は立ちあがるとテーブル越しに彼女のほうへと身を乗り出すとつくしの唇に自分の唇を重ねてきた。
道明寺は唇でつくしの唇をこじ開けると、ゆっくりと舌で口のなかを探りむさぼるようなキスをしてきた。
つくしはぼうっとした頭のままなすすべもなくその行為を受け入れるしかなかった。
「牧野、俺はおまえの記憶を曖昧にさせたくない」
つくしはその言葉の意味を計りかねているかのように道明寺を見つめている。
「俺が・・・こんなふうに・・・」
そういいながらつくしの頬に唇にキスをしてくる。
「こんなことを・・」
そう言うと再び唇を重ねると執拗につくしの口を味わい、舌先でつくしの舌を入念に味わうように絡めてくる。
「ああ、確かにうまい・・」
道明寺はつくしの頭を傾かせると顔中にキスをしてきた。
「・・・牧野」
彼の視線はつくしの目をとらえて離さない。
つくしは自分の呼吸が早まってきているのを感じていた。
「・・・牧野、ベッドに行こう」
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俺は邸へ向かうように運転手に指示をしたが、牧野は帰るならマンションへしてくれとうるさく言ってくる。
つくしは目を閉じ穏やかな車の震動に身をまかせていた。
道明寺は隣で大人しく目を閉じているつくしが時たま眉間に皺を寄せているのを見ていた。
こいつ相当無理してるな。
医者に診てもらえと言えば、マンションの近くに医院があるからそこでいいと言ってきた。
そんな街のヤブ医者なんかに牧野を診てもらうつもりなんてない。
俺はマンションに連れて帰るかわりに条件を出した。
「わかった。マンションに連れて帰るが条件がある。うちの病院から医者を寄こすから診て貰え」
「・・・わかった」
俺は秘書に道明寺系列の病院から牧野のマンションに医者を寄こせと連絡させた。
「牧野、靴を脱いで横になれ」
「・・ん・・」
余程身体が辛いのかつくしはそう言うと大人しく言うとおりにした。
俺は牧野の頭を抱え込むようにして自分の膝に乗せていた。
きっちりと上までボタンが止められたブラウスも今の状態では苦しそうに見える。
俺は牧野のブラウスのボタンを上からひとつ、ふたつと外したところで手を止めた。
・・・まてよ、まずいなこの状況は・・
下腹部に血液が充満してくるあいだ、身じろぎも出来ずにいた。
俺はマゾヒストではないが自分を責めていた。
牧野をマンションまで連れて帰るまでのあいだ、俺は自分の身体の変化を悟られないように神経を集中させ、うめき声をあげまいと歯を食いしばる。
そんな俺の膝のうえで牧野は目を閉じたまま苦しいのか時おり顔を歪めている。
俺の身体の変化なんて今のこいつには気に留める余裕なんてなさそうだった。
「ま、牧野。マンションの鍵はどこだ?」
「 鍵?」
つくしはきつく閉じていた目を開けると道明寺を見上げていた。
ぼんやりとした思考のなか、急に思い出したように目を見開いてきた。
「私の鞄・・・」
牧野は小さな声で呟いた。
「ああ、鞄ならここにあるぞ」
そう言って俺の隣に置いてある牧野の鞄を示した。
「そう・・悪いんだけど内側にポケットがあるからそこから出してくれる?」
道明寺は言われたとおり鞄の中から可愛らしいキーホルダーのついた鍵を取り出した。
「これか?」
牧野の前でキーホルダーを振ってみせた。
「・・うん。あんたに感謝することが増えたみたい。道路を造ってくれたのと今日のこと・・・」
車内には静寂の時間が流れた。
つくしは唇を少しだけ開き潤んだ大きな瞳で道明寺を見上げている。
「・・・・ねえ、わたしを迎えに来てくれたの?」
どう言う意味だ?
牧野、おまえ・・・
道明寺はつくしの額に手を当ててみた。
さっきよりも熱が上がっているように思えた。
「ああ、そうだ。おまえを迎えに来た」
「・・そう・・・」
牧野は吐息ともため息とも思えるような言葉を残し目を閉じると眠りの中に落ちていった。
******
道明寺はつくしを抱き上げるとマンションの部屋まで運んだ。
5階にある牧野の部屋は以前一度だけこの目で確かめたが、部屋の中までは入ったことがない。
俺は牧野を寝室と思われる奥の部屋へと運んだ。
このマンションの部屋は世間で言うところの2LDKらしい。
俺は牧野が奨学金を貰って大学を卒業し、その奨学金も返済途中だと知っている。
こいつの給料なんてたかが知れている。
懐具合なんて調べなくても想像がついていた。
たいしてない家具も明らかに安い量産品ばかりだ。
「支社長、ドクターがお見えになられました」
******
つくしが目を覚ました時、ベッドの傍らで椅子に腰かけている道明寺を目にした。
「気分はどうだ?」
長いきれいな指でつくしの額にかかる髪の毛をかき上げてきた。
つくしは自分がどこにいるのか一瞬考え寝ているのが自宅のベッドの上だと知って安堵していた。
「うん。少し楽になったみたい」
「医者の話じゃただの風邪だとよ。あと睡眠不足もあるんじゃないかって話だ」
道明寺はつくしの目をじっと見つめた。
「おまえ、仕事のし過ぎなんじゃねえのか?」
「・・あんたに言われたくない」
「・・で、おまえ寝るなら服を着替えた方がいいぞ。さすがに俺もそこまではしなかったからよ」
つくしは思わず身を硬くしていた。
そして恐る恐る布団をはがして見る。
スーツの上着が脱がされ、ブラウスのボタンがいくつか外されていた。
「俺は出てるから着替えろよ」
そう言って道明寺は背中を向けてきた。
つくしは彼の広い背中を見ながら部屋まで連れてこられた状況を思い出していた。
浅い眠りのなか、道明寺の腕に抱きかかえられその力強さを感じていた。
彼がその気になれば私のことなど好きに出来るはずだ。
あの別荘での夜も・・・・
道明寺はインターフォンに応答していた。
「支社長、お持ちしました」
秘書の男が大きな保温箱を手に持ち牧野の部屋の入口に立っていた。
道明寺はその大きな箱を受け取るとキッチンのテーブルへと置きつくしの部屋のドアをノックした。
「牧野、着替えたか?」
返事は無かった。
「牧野?入るぞ」
部屋に入った俺が見たのはパジャマに着替えた牧野がベッドの中で気持ち良さそうに寝ている姿だった。

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道明寺は隣で大人しく目を閉じているつくしが時たま眉間に皺を寄せているのを見ていた。
こいつ相当無理してるな。
医者に診てもらえと言えば、マンションの近くに医院があるからそこでいいと言ってきた。
そんな街のヤブ医者なんかに牧野を診てもらうつもりなんてない。
俺はマンションに連れて帰るかわりに条件を出した。
「わかった。マンションに連れて帰るが条件がある。うちの病院から医者を寄こすから診て貰え」
「・・・わかった」
俺は秘書に道明寺系列の病院から牧野のマンションに医者を寄こせと連絡させた。
「牧野、靴を脱いで横になれ」
「・・ん・・」
余程身体が辛いのかつくしはそう言うと大人しく言うとおりにした。
俺は牧野の頭を抱え込むようにして自分の膝に乗せていた。
きっちりと上までボタンが止められたブラウスも今の状態では苦しそうに見える。
俺は牧野のブラウスのボタンを上からひとつ、ふたつと外したところで手を止めた。
・・・まてよ、まずいなこの状況は・・
下腹部に血液が充満してくるあいだ、身じろぎも出来ずにいた。
俺はマゾヒストではないが自分を責めていた。
牧野をマンションまで連れて帰るまでのあいだ、俺は自分の身体の変化を悟られないように神経を集中させ、うめき声をあげまいと歯を食いしばる。
そんな俺の膝のうえで牧野は目を閉じたまま苦しいのか時おり顔を歪めている。
俺の身体の変化なんて今のこいつには気に留める余裕なんてなさそうだった。
「ま、牧野。マンションの鍵はどこだ?」
「 鍵?」
つくしはきつく閉じていた目を開けると道明寺を見上げていた。
ぼんやりとした思考のなか、急に思い出したように目を見開いてきた。
「私の鞄・・・」
牧野は小さな声で呟いた。
「ああ、鞄ならここにあるぞ」
そう言って俺の隣に置いてある牧野の鞄を示した。
「そう・・悪いんだけど内側にポケットがあるからそこから出してくれる?」
道明寺は言われたとおり鞄の中から可愛らしいキーホルダーのついた鍵を取り出した。
「これか?」
牧野の前でキーホルダーを振ってみせた。
「・・うん。あんたに感謝することが増えたみたい。道路を造ってくれたのと今日のこと・・・」
車内には静寂の時間が流れた。
つくしは唇を少しだけ開き潤んだ大きな瞳で道明寺を見上げている。
「・・・・ねえ、わたしを迎えに来てくれたの?」
どう言う意味だ?
牧野、おまえ・・・
道明寺はつくしの額に手を当ててみた。
さっきよりも熱が上がっているように思えた。
「ああ、そうだ。おまえを迎えに来た」
「・・そう・・・」
牧野は吐息ともため息とも思えるような言葉を残し目を閉じると眠りの中に落ちていった。
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道明寺はつくしを抱き上げるとマンションの部屋まで運んだ。
5階にある牧野の部屋は以前一度だけこの目で確かめたが、部屋の中までは入ったことがない。
俺は牧野を寝室と思われる奥の部屋へと運んだ。
このマンションの部屋は世間で言うところの2LDKらしい。
俺は牧野が奨学金を貰って大学を卒業し、その奨学金も返済途中だと知っている。
こいつの給料なんてたかが知れている。
懐具合なんて調べなくても想像がついていた。
たいしてない家具も明らかに安い量産品ばかりだ。
「支社長、ドクターがお見えになられました」
******
つくしが目を覚ました時、ベッドの傍らで椅子に腰かけている道明寺を目にした。
「気分はどうだ?」
長いきれいな指でつくしの額にかかる髪の毛をかき上げてきた。
つくしは自分がどこにいるのか一瞬考え寝ているのが自宅のベッドの上だと知って安堵していた。
「うん。少し楽になったみたい」
「医者の話じゃただの風邪だとよ。あと睡眠不足もあるんじゃないかって話だ」
道明寺はつくしの目をじっと見つめた。
「おまえ、仕事のし過ぎなんじゃねえのか?」
「・・あんたに言われたくない」
「・・で、おまえ寝るなら服を着替えた方がいいぞ。さすがに俺もそこまではしなかったからよ」
つくしは思わず身を硬くしていた。
そして恐る恐る布団をはがして見る。
スーツの上着が脱がされ、ブラウスのボタンがいくつか外されていた。
「俺は出てるから着替えろよ」
そう言って道明寺は背中を向けてきた。
つくしは彼の広い背中を見ながら部屋まで連れてこられた状況を思い出していた。
浅い眠りのなか、道明寺の腕に抱きかかえられその力強さを感じていた。
彼がその気になれば私のことなど好きに出来るはずだ。
あの別荘での夜も・・・・
道明寺はインターフォンに応答していた。
「支社長、お持ちしました」
秘書の男が大きな保温箱を手に持ち牧野の部屋の入口に立っていた。
道明寺はその大きな箱を受け取るとキッチンのテーブルへと置きつくしの部屋のドアをノックした。
「牧野、着替えたか?」
返事は無かった。
「牧野?入るぞ」
部屋に入った俺が見たのはパジャマに着替えた牧野がベッドの中で気持ち良さそうに寝ている姿だった。

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