2017
02.12

金持ちの御曹司~完璧な恋人~

大人向けのお話です。
未成年者の方、またはそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
御曹司のバレンタインです。
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ペラッぺラッと紙を捲る音がする。
司が今読んでいるのは週刊誌。
いつもならそんなものは読むつもりもないが、今は彼の手元にあった。

何故なら気になることがあるからだ。別に司についての記事が載っているのではない。
今の彼は週刊誌に自分の記事が載ることがないよう細心の注意を払っていた。
だが物は考えようだ。牧野とのツーショットなら載ってもいいと思っているが、目線を隠したものは意味がない。載せるなら堂々と載りたい。

例えば教会の前に立つ最高に幸せな花嫁と花婿のツーショット。
なんなら今すぐにそんな写真を撮影しに行ってもいい。俺はいつでもそのつもりだ。
そのための身辺整理はとっくの昔に済ませている。

結婚式を挙げるならやっぱりうちのホテルか?
司のところには<メープル>と名のつく吐き気がするほど豪華なホテルがある。
それは家業のひとつで母親の楓が指揮をとっていた。

洗練されたサービスに格式の高さ。シェフはヨーロッパの三つ星レストランにいた男たち。
飾られた美術品は全てが超一流の芸術品。空間に見える光景は全てが上質で、空気まで違っていると言われている。そして床に敷き詰められた絨毯の柄は楓・・・。

あのホテルはババァの趣味のホテルだ。どんな内装にしようが俺には関係ねぇ。
それにしていつも思うが、自分の名前をホテルに付けるとは、どんだけ自己陶酔してんだか。

まあいい。
そんなことよりも今、気になっているのはこの週刊誌に載っている記事だ。
ホテルの特集があるからと、司の手元に届けられた雑誌。
間違いなのかそれとも故意なのか。とにかく普段なら読むことが無いその週刊誌が司の手元にあった。その記事あるにホテルの客は眠るためにベッドに行くのではない。


それは恋人たちのホテルの特集記事。
ファッションホテルだ、ブティックホテルだなんて洒落た名前で呼ばれるが、要はセックスを売りにするホテルのことだ。

うちのホテルもクリスマスだ、バレンタインだの恋人たちにとっての一大イベントとなると予約が殺到するらしいが、こういったホテルも恋人たちのイベント日には混雑すると書いてある。どうやらこの類のホテルを利用する楽しみは、大人のファンタジーが楽しめることにあるらしい。

・・・大人のファンタジー。

そうだ。
物事には時に新たな刺激を与えてやる必要がある。
マンネリなんて言葉が俺たちの間にあっていいはずがない。
俺たちには一生そんな言葉には縁が無い。

道明寺司。
完璧な美貌、完璧な家柄、完璧な恋人。
ただし、最後の言葉は牧野つくしだけに向けられる。
完璧な名前の持ち主は思った。
完璧な恋人であるためには、俺もそのファンタジーを経験してみたい。
もちろん牧野と一緒に。

けどそんな一般的なホテルなんかに俺が足を運ぶことなんて出来ねぇ。
それに他人が使ったところで楽しめるか?
いやダメだ!ダメだ!
そんなところに牧野を連れていくわけにはいかねぇ。
俺とあいつの愛は純粋で穢れのない愛だ。
そんな世俗にまみれた場所で愛し合うことなんて出来ねぇ。
・・それなら、俺とあいつのために楽しめる超一流のホテルを作ればいい。
冴てるな、俺。

司は思い立ったが吉日の人間だ。行動力はある。
それに愛する女のためならどんなことでもする男だ。

よし計画だ。
計画が必要だ。
計画を立てる必要がある。

司の想像力は炸裂し、巨大なプロジェクトとなって頭の中を過っていた。
事業計画書を書く必要があるかもしれないが、どうしたらいい?
稟議は通るか?いや、通してみせる。
つい1時間前まで、のるかそるかといった企業買収の会議に出席し、クールで非情な顔をした俺がいた。担当者に向かって威厳のある冷たく低い声で矛盾点を問い詰めていた俺。
そんな俺がセックスする為だけのホテルを建てたいなんて言ったらババァはなんて言う?
口から泡噴いてぶっ倒れるか?
・・別にいいじゃねぇか・・
道明寺グループ初の恋人たちのホテルってのも。



司は次のページを捲った。

官能をくすぐる作りの部屋。
エロスを感じさせる部屋。
あらゆる嗜好に合わせた部屋。
恋人同士が人目を忍んで熱く身を寄せ合う部屋。
そんななか、一流を知る俺だからこそ作れる部屋があるはずだ。

司は考えた。
大人向けのラウンジから始まって、エレベーターは鏡張り。
ライティングは落としぎみでエキゾチックな香りに洗練された音楽。
部屋の中はベッドルームがメインでバスルームは大理石でガラス張り。
大理石は黒。もちろんジャグジーバス。
シーツは当然シルクで、布団は上質の羽毛布団。
部屋の隠し扉の中には大人のおもちゃ箱・・・中身は何がいる?
鞭も何本か必要か?手錠はどうする?

俺と牧野だけの部屋。

そこで、熱くて、激しくて、濡れたことがしたい。

頭の中を満たす光景は牧野つくしと愛し合うことだけ。
牧野にあんなことやこんなことがしたいという想像で一杯だ。
そのことに、身体は見事に反応していた。
スラックスを突き上げる高まりが早くここから出してくれと訴えていた。

まるでヤリたい盛りのガキだ。
とはいえ高校生の頃の俺は牧野相手にそれどころじゃなかった。
当時、あいつは俺を避けてばかりで、そんな女をひたすら追いかけ、振り向いてもらおうと必死だった。
そうとも。みだらとか、イヤラシイとかそんなことが出来るような状態じゃなかった。
例えそんなことを考えていたとしても、なにしろキスするだけでも大騒動。胸を揉むとかそんなことしようものなら、間違いなく殴られ、蹴られ、走って逃げられたはずだ。
俺が騒ぐ下半身を懸命に押さえていたってことを知ってるのか?
だからこそ、自分が夢に描いていたことを、その部屋で体験したい思いがある。

まず牧野を裸にして、それから敬意をもって扱う。

シュチュエーションか?
そうだな。ホテル業界編でどうだ?
新しく出来たホテルを視察に来た社長と秘書。





「牧野くん。今日は疲れただろう。このホテルには腕のいいマッサージ師がいるそうだ。君も一度受けてみるといい」
「社長。そんなに気を遣って頂かなくても大丈夫ですから」
「いや。一日中よく働いてくれた。ぜひ受けてきなさい。明日も忙しいんだ。身体をリラックスさせ疲れを取った方がいい」
「でも本当にいいんですか?」
司は頷いた。
「では、お言葉に甘えて失礼いたします。社長、ありがとうございます」


つくしは女性マッサージ師の手によってマッサージを受けていた。
腹這いになり、背中のシーツがずらされ、オイルがつけられた手が優しく動いていた。
リラックスさせるような音楽と、アロマの香りが頭の奥の疲れを癒し始めると、いつの間にかウトウトとし、思考が停止していた。

だが、手の感触が変わったのがわかった。
先ほどまでの優しい女性の手から、大きな男性の手に変わった。
「だ、誰?」
「心配するな。まきの・・俺だ」
「しゃ、社長?」
振り返ることは出来ない。なにしろ裸でマッサージ台の上で腹這いになっている状況だ。
起き上がれば裸の胸が丸見えになる。
「しいっ。まきの、リラックスするんだ。心配するな。俺がおまえを癒してやるよ」
「で、でも社長・・」
「黙ってろ」
司の手は腰に掛けられていたシーツを奪い去った。
「あっ!」
「心配するな。何もしやしねぇよ。おまえを癒してやるだけだ」

両手は肩を優しく揉み、背中をたどり、尻と太もも、ふくらはぎ、そして爪先までゆっくりと這わされていた。大きな男の手だが、触れる掌に繊細さが感じられ、まるでお気に入りの女を愛でるような手だ。そうなるともはやリラックスどころではない。つくしはじっとしてなどいられなくなった。

「・・あっ!」
「どうした?感じたのか?」
「・・い、いえ・・違います・・」
身体を硬くして否定した。
「・・うそつけ・・感じたんだろ?」
「・・い、いえ・・」
「そうか、感じなかったか。・・なら感じさせてやる」
司はつくしの尻をとらえ、指を一本挿し入れ、ナカを刺激した。
「やっぁ・・!」
思わず浮き上がった身体。
ナカから溢れ始めた愛液が股の内側を濡らした。
「どうだ?感じたか?・・ん?どうだ?」
つくしのナカをいじって掻き回す長い指。
「おい・・・ナカからどんどん溢れてくるな・・こんなに濡らしてイヤラシイ女だな」
「あっっ・・しゃ、社長・・違う・・どうみょうじ・・し、社長・・だめ・・」
「だめじゃねぇだろ?それに何が違うんだ?もっとだろ?もっとして欲しんだろ?・・なあ、まきの・・俺は前からおまえのことが好きだ。だからおまえをもっと気持ちよくさせてやるよ」
「・・っあぁ・・」

司は指を引き抜き、大きな両手でつくしの身体を仰向けた。
両脚はマッサージ台の端からぶらさがり、広げられた脚の間には司が立っていた。
何も隠すものがないつくしの裸。そしてつくしの目の前には、やはり何も身に着けていない司がいた。

「まきの・・俺は毎日おまえが欲しくて仕事になんかにならねぇ・・いつもおまえが傍にいるだけで俺は身体が震えて仕方ねぇ・・だから俺の思いを受け取ってくれ」

司は片手でつくしの両手首を掴み、一絡げにし、頭の上までゆっくりと掲げ、抵抗できない女の上に身体を倒し、囁いた。

「・・まきの・・きれいだ・・」
「・・しゃ・ど、道明寺社長・・」
「なあ、まきの・・司って呼べよ・・つかさ・・って」
じらすような甘さで言う司。
司は身体を起こし、つくしの口元へ指を沿わせた。
「俺の指を舐めろ」
今度は荒っぽく言って指をつくしの口へ差し込んだ。
「しゃぶってくれ。おまえの口がどれくらい柔らかいか知りたい」

司は視線を絡めたまま、指をしゃぶるつくしを見ていた。舌の動きが連想すると言えば、まさにアレしかない。ブルっと身震いしてイキそうになるところをなんとか留めた。
司は指を引き抜き、言った。
「俺を見ろ。おまえの目を見ながらこうしたかった」
司はつくしの脚を掴み、ひと突きで奥深くまで貫き、絶頂の波を送り込む。
「ああっ!・・あぁぁ・・だめ・・」
「駄目じゃねぇだろ?」
唸るように言って激しく腰を振る。
「やぁぁ・・・っ・・はぁ・・はぁ・・あっ・・」
「いい声してるじゃねぇか・・なあ、もっと啼け・・」
腰は絶え間なく動き、ひたすら打ち込む。

「おまえのせいで、俺はけだものになっちまう。・・おまえが欲しくてたまらない。だから、濃い精液をいっぱい流しこんでやる。俺のすべてをやる・・だからっ・・受け取れ。俺なしじゃ生きて行けなくしてやるよ。・・おまえは俺のものだ。これから一生離さねぇ」

司はつくしの脚をさらに押し開き、いっそう盛んに腰を押し付け、角度を変え、貪欲に奪った。だが、奪いながらも必死で与えた。司の悦びがつくしの悦びとなるように。

「・・いいか・・ひと晩中・・やってやる・・」

声をかすれさせ、腰を突き上げた。
「ここに俺が入ってない状態でやっていくことなんか出来なくしてやる」

なあ、まきの・・
俺はおまえを離さねぇからな。
今日からおまえは俺のものだ。俺をこんなに熱くさせるのは、おまえだけだ。だから死んでも離さねぇ。

「俺はおまえが好きだ!・・俺の全てを・・俺の持ってるものはすべて・・おまえのものだ!!」





よし!!
今日は西田の乱入は無かったぞ!
妄想とはいえなんだかスッキリした気分だ。
それに司の全細胞は喜んでいた。
昔、言ったことがある。
「俺は細胞レベルで牧野を求めている!」

確かに細胞は牧野つくしの全てを求めている。
だが、もし細胞のひとつひとつが話しをすることが出来れば、それは煩い事になっていたはずだ。
牧野にあんなことやこんなことがしたい、と細胞に叫ばれたらとんでもないことになっていたはずだ。こんなとき、細胞が話せなくて本当によかったと司は胸を撫で下ろしていた。


クソッ・・けど問題は今年のバレンタインに俺の望むホテルは間に合わねぇことだ。
しょうがねぇ・・
恋人たちのホテルは間に合わないが、とりあえずメープルの一室をそんな部屋にするか?

そんなとき、ノックの音と共に西田によって届けられた書類。

「支社長。海外事業本部部長の牧田よりこちらの承認をお願いしたいと持参されました」
牧田と言えば、司がつくしと間違えてメールを送信したことがあるハゲ部長だ。

やはり最近の司にとっての妄想は、そう簡単に叶えられるとはいかないようだ。
今、司の手に握られているのは、牧野つくし出張願い。
去年のバレンタインはインドネシアに出張した牧野。
それを追いかけて行った俺。
今年の出張先はウィーン。

牧野は海外事業本部で天然ガスの輸入を担当しているが、今年の「世界ガス会議」はウィーンで開催される。なんでウィーンなんだよ!日本でしろ!東京で!
メープルを会場として無償提供してやる!

クソッ!


別名<音楽の都ウィーン>
オーストリアは永世中立国でもあり、NY、ジュネーブに次ぐ第三の国連都市と言われ、国連諸機関の本部が多い。OPEC(石油輸出国機構)の本部もウィーンにある。ガスと石油は切っても切れない関係だ。石油を生産する国ではガスも生産されている。そんなことも関係しているのか知らねぇけど、今年はとにかくウィーンだ。

だいたい何とかの都だなんてつく街は嫌いだ。
なにしろ俺のライバルの類は<花の都パリ>に住んでいる。
それに<水の都ベニス>だなんて文字を目にした時は、思わずペニスに見えた。
男なら誰でもそんなことを思ったはずだ。
旅行代理店の窓にドーンを貼られたイタリア旅行のポスターに、そんな文字が堂々と書かれているが青少年には目の毒だ。ガキはなんでも脳内で自分の思い通りに変換しちまうからな。ガキの頃の俺の頭の中は<水の都ベニス>=<牧野の中のペニス>に置き換えられていたのは当然だ。

けど、なんとか牧野は14日の夕方に日本に帰国した。
俺は当然だが空港まで迎えに行ってその足でメープルに連れて来た。
ウィーンからの直行便も今は無く、経由地を挟んでの旅はロングフライトになったようで牧野は相当疲れていた。
そんな牧野が土産に差し出してきたのが、ウィーンにあるホテルザッハーの名物と言えるケーキ。つまりザッハトルテだ。

「あの。これバレンタインのプレゼント」

チョコレートケーキの王様と言われるだけあって旨いことは知ってる。
バレンタインだからと言って差し出されたそれ。
こってりとした濃厚なチョコレートケーキ。ホテルのカフェでひと口だけ味わったことがあるが、濃いコーヒーが無ければとてもじゃねぇが呑み込むことが出来なかった。
王様の名はまさに俺に相応しいからだとこいつがわざわざ買って来てくれた。
けど、甘いものが苦手と知っての俺にそのケーキ。

おまえ、それは俺に対しての拷問か?
どっかの女王様か?今の俺にはおまえが鞭持って立ってるようにしか見えねぇ。
俺に対してのイジメか?
赤札の仕返しか?


・・や。そんなこと言ってられねぇ。
長旅をわざわざ買って来てくれたことに意味がある。
司は切り分けられたケーキをひと口だけ口に入れた。

「どう?美味しいでしょ?」
「・・・・」

いいんだ、牧野。
俺はおまえがプレゼントしてくれものは、どんなものでも旨いと思えるようになった。
無口なのはあまりの旨さに声を失ったと思ってくれ。
それより俺はこれからこの前の俺の妄想を叶えて欲しい。
ホテルだろ?
マッサージだろ?
まさにベストチョイスだろ?

甘いケーキを食べたことは忘れ、ほほ笑みを浮かべ、つくしを抱きしめると言った。
「牧野。疲れてんだろ?今日は俺がおまえをマッサージしてやるよ」
一刻も早く、つくしの服を脱がせたい司。
そんな司に怪訝な顔のつくし。
「え?でも道明寺も疲れてるでしょ?」
「そんなこと気にするな。それにおまえロングフライトで疲れてるだろ?彼氏が労わってやるって言ってんだから素直にいうことを聞きゃいいんだ。遠慮すんな」

司はつくしの耳元で囁いた。
今夜はメープルの彼の部屋。
そんな部屋でマッサージの夢を叶えたい。

「牧野。マッサージしてやるから早くベッドに上がれ。脚、浮腫んでるんだろ?」
いつも海外出張の後、脚が浮腫んでいるという女。
「あ、でもあたし一日中、靴を履いてたから汚いよ」
「気にするな。そんなモン俺とおまえの仲で今さらだろ?」

躊躇する女を言いくるめ、いや、説得した俺。
そうだね、ありがとう、と言って素直にベッドの上で脚を伸ばし、背中に枕を当て、ヘッドボードへ身体を預けた女。司は上着を脱ぎ、ネクタイを抜き、カウチへと放った。

「確かに直行便がなくなってからのウィーンまでは長いわね。脚が浮腫んじゃって痛いくらいなの」
「・・・そうか・・大変だったな」

もちろんそうだろう。
だから俺がマッサージしてやるって言ってるんだ。
牧野は脚が痛いと言っている。本当なら脚なんかほっといてすぐにでも愛し合いたい。
けど俺は牧野の希望に答える男だと思われたい。
いつだってこいつの希望が一番大事だ。

マキノ・ファースト。

どっかの国の大統領じゃねぇけどこれは牧野に対して毎朝唱える忠誠の誓いだ。
日本人の誰もがラジオ体操の曲がかかれば身体が動くが、アメリカ人なら自分の社会保障番号と同じで誰でも言える忠誠の誓いってのがある。アメリカ合衆国へ忠誠を誓う言葉だ。
俺もそれと同じで牧野への忠誠の誓いってのを立てている。
だから何に於いても牧野が一番。

よし!
まず脚からだな。
そこから徐々に上へ行けばいい。

司はわくわくしながらベッドの上へ座った。
ストッキングを脱がせるってことは、こいつの太腿に手を触れることになる。
だが気を利かせたつくしは自ら腰を浮かせ、ストッキングを脱いだ。
チッ。
なんだよ・・俺がせっかく脱がそうと思ってたのに人の楽しみを奪いやがって。
スカートの中に手を入れる楽しみが無くなったじゃねぇかよ。
クソッ。
まあいい。
何もお楽しみはそれだけじゃない。

司はマッサージオイルを数滴両手に垂らし、つくしの足の裏を揉み始めた。
「どうだ?気持ちいいか?」
「ああっ・・・痛いけど気持ちいい・・」
「そうか?」
「うん。気持ちいい・・」

司はつくしの小さな足の裏を丁寧に、揉んだ。
土踏まずを揉み、指の間を丁寧にマッサージし、指を引っぱった。
その度、「あっ」と気持ちよさそうに上げる声にその先にある期待が高まった。

何度か口に含んだこともあるかわいい小さな足の指。
そう言えば口に入れたとき、もっといい声で啼いていた。
そのとき、足の指も感じる案外エロい女だと知った。

司はいとしい女のためには労を厭わない男だ。
懸命に手を動かし、両方の足のマッサージが終る頃、顔を上げ、つくしを見た。

「おい。足は終わったから今度は身体――」

・・・寝てやがる。
この女、昔からどこでもよく寝る。
そして一度寝たら簡単には起きねぇ。
・・ってことは・・
今夜はもうこのままか?
マジかよ!?


司は少しだけ残念そうな顔をした。
オイルのついた手を洗ってくると、考えた。
上から先に脱がせるか?それとも下からにするか?
スーツの上着かスカートか、どちらから先に脱がせるべきかと考えていた。
やっぱ上着からか?
司は身体を抱え、上着から腕を抜き、それから腰を浮かせ、ファスナーを下ろした。
スリップにブラとパンティだけになった女は気持ちよさそうにベッドに横たわっていた。
そんな女に布団をかけ、司も自らの服を脱ぎ捨てると隣へ横たわった。

・・ったく、俺がどんな思いで待ってたと思ってんだ?
今日がなんの日か知ってんだろ?
愛し合う二人の日だろ?
恋人同士の日だろ?

・・けだるい、なんか知らねぇが、がっくりとした気分。
牧野の傍にいると、いつも身体中の骨が抜き取られているが、肝心な部分だけが意識をはっきりと持っている。俺を受け入れてくれるその場所を求めて。今の俺の状況はまさにそれ。
それなのに肝心な時に寝落ちしやがって・・・

いいか、牧野。
呑気に寝てるが言っとくからな!
お前は絶対に俺と結婚しなきゃなんねぇんだ!
なにしろ俺の身体はおまえ以外の女を受け付けない身体になってるんだから責任取って早く結婚してくれ!

俺たちの間に結婚に関して致命的な落とし穴はないはずだ。
計画どおり順調に将来に向かって突き進んでいるはずだ。
17歳のときからの努力を無駄になんてできようか。


・・けど、おまえが無事帰って来てくれたらそれだけでいい。
愛し合えないのは残念だが、疲れてるんなら仕方ねぇ。
本当なら会議は15日まであったはずだ。それをどうにか都合をつけて帰って来たってことが嬉しいじゃねぇか。

司はつくしを抱きしめ、言った。
「愛してる、牧野」
「・・あたしも・・どうみょうじ・・」
つくしは呟いた。

眠ったままの返事。浅い眠りの中にある意識がそう答えさせていた。
それは無防備な状態での嘘偽りのない正直な言葉。
司は愛されていると確信しているが、その言葉に全細胞がざわめき、喜んだのを感じていた。
まさに細胞が嬉しがって、今にも喋り出しそうだ。
俺も、俺も、牧野が好きだと。

司はフッと息を吐いた。
今夜は許してやるよ。
おまえも疲れてるもんな。


・・・けど、来年はどこにも出張なんて行かせねぇからな!!
来年の2月14日は日本にいろ!!


でもって俺の傍でつかさ、大好き、愛してるって言ってくれ。




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