大人向けのお話です。
未成年者の方、またはそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
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上昇。上昇。転落。そして再び上昇。
この意味がわかったヤツは褒めてやる。
これはずばり俺の人生だ。
俺の人生は生まれた時から上昇人生。今後もずっと上昇するはずだ。
そんな中にひとつある転落ってのは・・好きな女にフラれたときだ。
17歳のときフラれた。それも何度もフラれる経験をした。
だがそれはもう随分と昔の話だ。
しかし今、俺の上昇人生の中で、ひとつの危機を迎えようとしていることがある。
それは西田が俺のデスクに置いていった書類の中にあった。
書類と書類の間に忍び込ませるようにあった大きめの白い封筒。宛名は書かれてないが西田が置いていったということは、信頼のおけるものだということだ。何しろ俺の元に回される手紙や書類は西田の事前チェックが必ず入る。それに個人的な手紙は会社に届くことはない。ここにあるのはビジネスに関するものしかない。
司は封がされている封筒の隅へペーパーナイフを滑り込ませた。
そして中から紙を引き出し、見下ろした。
中から出て来たのは2枚の紙。
しんと静まり返った執務室のなか、彼はその紙を読み始めた。
読み終えた途端、司の顔に現れた表情は、驚愕、落胆、そして絶望。
文字は象形文字となって意味をなさず、形だけのものとなり、やがて消えた。
嘘だろ・・・
信じられねぇ・・
司の手に握られていた紙は、彼の手から離れると、足許へと落とされていた。
パラリ・・と。
今の俺は高度1万メートル上空で乱気流に見舞われた飛行機から、パラシュートも持たず螺旋を描きながら垂直降下中だ。
額に汗が湧き、手には嫌な汗が滲み、胃袋は口から出そうだ。
それに心は・・どこに行った?
空の上に置き忘れてきたか?
牧野が・・
あの牧野が!
俺の牧野が!
司の頭の中には先ほど読んだ内容が渦巻いていた。
牧野が・・
俺と別れたいと思ってる・・
秘書が置いて行った封筒の中身を読んでからの俺は・・・仕事に身が入らなかった。
そして、どうしてこんな日に雨が降っているんだと窓の外を見た。
外は雨。土砂降りの雨。
身体の中、心の奥底まで凍えさせるような雨。
一度そんな雨を経験したことがあった。
俺はどうしたらいいのかわからなかった。
何しろ俺の人生は牧野で始まり、牧野で終わると決まってる。
それなのに牧野が俺から離れたら俺は人生を終えることが出来ねぇ。
死ぬことなんて一生出来ねぇ。
この季節、急性胃腸炎にかかったことがあるが、今の俺はまさにそんな状況だ。
吐き気と冷や汗が身体中を支配し、頭の中は何も考えられなくなり、胃の中から色んなものがせり上がってきてどうしようもないほど身体が震える。
声なんて出せるはずもなく、もし出そうとすれば胃の内部のものが出てしまうはずだ。
トイレまで走って行くなんてみっともねぇ真似が出来るはずもなく、こうなったら近くのゴミ箱にでも吐くしかねぇ・・・。
司は目でゴミ箱の場所を確かめた。
サイアクだ・・・
今の俺の率直な気分はまさにそれ。
サイアクだとしか言いようがない。
頭が変になりそうだ。
だが俺はそう簡単には別れねぇぞ!
これは何かの間違いに決まってる!
もしくは嫌がらせか悪戯か悪い冗談に決まってる!
そうか!これは誰かの陰謀か?
なめたマネしやがってどこのどいつだ?
俺を誰だと思ってる?
天下の道明寺司様だぞ?
かつて狂犬と言われたことのある男だぞ?
道明寺に盾突く会社なんぞぶっ潰してやる!
けど、もし嫌がらせでも、悪戯でも、冗談でも陰謀でもなかったとすれば・・
そのときは・・
好きな女から別れを告げられても頑なに拒む男になるはずだ。
司には金があり、社会的信用もある。
そして女に不自由することない美貌がある。
望めばどんな女性も思いのままになると言われる。
司は思った。
女がどうしても別れたいというなら、どこかへ閉じ込めてしまえばいい。
決して他の男の手が触れることがないように閉じ込めてしまえば・・・
そしてそこで女を飼い慣らす。
猥褻な人間となって女を弄んでやる。
間接照明だけが照らすベッドの上に押し倒された女。
胸を覆っていた布切れはむしり取られ、その両手はすぐに金属の鎖でヘッドボードへと繋がれた。
「いやぁぁぁっお願いっ!道明寺止めて!こんなことしないで!」
「牧野。おまえが悪い。俺と別れようなんて思うおまえがな!」
深い豊かな声が嘲笑った。
「どうした俺が怖いのか?この俺が?俺はおまえの恋人だろ?どうして俺のことを怖がる?」
「こんなの道明寺じゃない!お願い・・元の優しい道明寺に戻って・・」
「優しい俺なんてのはもういねぇ。元々俺はおまえに会うまでは酷い男だったからな。なあ、牧野。わかってるだろ?俺がどんな男だったか?」
スッと細められた漆黒の瞳。
ニヤリと笑みを浮かべる酷薄の唇。
「おまえに触れる権利があるのは俺だけだ、この先もずっと」
司はつくしの脚を開かせるとパンティを引き裂いた。
ビリッ・・
「あっっ!」
「この場所は俺だけのものだ。なあ?そうだろ牧野?こんなにも濡れて俺を欲しがってるんだからな」
両脚を大きく開かせ、長く美しい指がつくしの秘口へと挿し入れられ、ナカを掻き混ぜ始めた。
「・・っやあっ・・」
「・・いい匂いがする・・俺のためだけのおまえの匂いだ。夜の半分を使って口でここを可愛がってやるよ。挿れてって言うまで何時間でもな」
女の頭が司の姿を見たくないと横に倒された。だが司はそれを許さないと顎を掴むと自分へと向けさせた。
「まきの・・俺を見るんだ。おまえにこんなことをしていいのは俺だけだ。いいか、ここに他の男なんて咥えさせねぇ・・・ここは俺だけのものだ。そうだろ?まきの?」
妄念にとりつかれた司は女を離さないと決めた。どんなことがあっても誰にも奪われたくない。いや、奪わせない。別れるなんてとんでもない。解放なんてしてやるものか。
一度自分の手に堕ちた女を絶対に離すものか。こいつは俺の女だ。
司は、笑みを浮かべ、太く勃起したものを握ると秘口へと当てがった。
「相変らず感じやすいな・・おまえの下の口は・・そうだろ?この濡れ具合でどれだけ我慢できるか試してみるか?これが欲しいはずだ。俺と別れるなんて出来ないだろ?」
「・・やっ・やめてぇ・・」
泣き声に似た声。弓のように反った女の背中。
けど逃げられねぇし、逃がすつもりもねぇ。
司は生まれ持った体躯の使い方を知っている。
どうすれば、つくしがこの身体を欲しがるのかを。
先端を少しだけ押し入れて花芯を摘まんでやった。
「・・ぁ・・っつあはぁぁ・・」
「全部欲しいんだろ?なあ、牧野?」
司はつくしの太腿を大きく押し開いた。
「いい眺めだ。実にいい。俺に向かって脚を開くおまえの姿は綺麗だ、まきの・・」
司は我慢が出来なくなって瞬時に挿入した。
「あっ、あっっ!あぁぁっ・・ど、どうみょうじっ・・」
「・・っいいか?おまえは・・俺の・・ものだ・・誰にも・・渡さねぇ・・」
決して離れないと、離したくないと奥深く、腰を何度も突き入れた。
それからゆっくりと腰を回し、煽った。その度に女の口から上がる声に益々太さを増す楔。
その楔を深く打ち込み、二人が離れられないようにした。
口では嫌がってもこいつの内側は俺が欲しいと締め付けて来た。
深く、激しく、律動を繰り返すたび、もっと欲しいと蠢き俺を離そうとしない。
「・・欲しいんだろ?俺が?」
鎖に繋がれ、ベッドの上に縫い付けた身体を上下する様が、陸に上がった人魚のようで、カワイソウになるが、俺の傍を離れては生きられない人魚になればいい。
脚を持たず、自由が利かない人魚となって俺の世話を受ければいい。
これから一生、死ぬまで。
泣こうが叫ぼうが、ぜってぇに離しはしない。この身体もその心も全部オレのモノ。
完全にこの女を自分のものにするためなら犯罪だと言われてもかまわねぇ。
「・・っつ・・まきの・・好きだ!・・好きなんだ・・・俺は・・絶対に・・お前と別れねぇ!」
司は思わずデスクをドンと叩いていた。
そうだ。俺はぜってぇに別れねぇからな!
死んでも別れてやるつもりはない。
生霊だろうが死霊だろうが、あいつに憑りついてでも別れてやんねぇからな!
それから数日間、司は真剣に考えていた。
・・・・現実問題として俺はどうしたらいいんだ?
牧野の心を取り戻すにはどうすればいい?
確かに俺がその気になれば、牧野を閉じ込めることなんて簡単に出来る。
だがそんなことが俺に出来るはずがない。もちろん好きだから手放したくない。
でも、そんな鬼畜めいたことをしてあいつの心が取り戻せるはずないと知っている。
それに今の俺にはそんな状況に置かれたあいつがカワイソ過ぎてそんなこと出来ねぇ。
誰かに相談するべきか・・
誰にする?
類は問題外だ。あの男、俺と別れたなら自分とつき合わないかと言いそうだ。
総二郎は、あの男も無理だ。茶道を世界に広めるとかで日本にいない。
そんなとき、まるで俺の胸中を推し量ったように訪ねて来たのがあきらだ。
「司!どうしたんだ?その面は!」
「・・・」
「司、おまえ何か食べ物にでもあたったか?いや。違うな。牧野のことだろ?ケンカでもしたのか?」
「・・あきら、俺はそんなにわかりやすいか?」
「わかりやすいもなにも、おまえのそんな顏見るの久しぶりだけど覚えてるぞ。その険悪な顔で落ち込んだ姿。あれはいつだった?まだ俺らが高校の頃、あいつにフラれた時だったか?」
年を重ねた男は愛する人が出来て以来、丸くなったと言われ久しい。
司が黙っているということは、図星だとあきらは知った。
しかしこんなに落ち込んでいる司は見たことがない。今のこんな状態ならケツを蹴り上げられても気づかねぇんじゃねぇかと思うほどだ。
「なあ、司。牧野とケンカしたなら早くあやまって許してもらえ。どうせおまえがまた何かあいつを怒らせるようなことを言ったんだろ?残業するなとか、男と一緒のエレベーターに乗るなとか訳のわかんねぇこと言ったんじゃねぇのか?おまえそんなに牧野の事が心配なら牧野専用エレベーターでも作れ!」
「・・・」
「司、どうした?」
「・・まきのが・・」
「牧野がどうした?」
「まきのが・・」
「牧野が牧野がじゃわかんねぇだろ?はっきり言えよ司!」
あきらは思わず怒鳴った。実のところ、こんなはっきりしない態度の司の姿なんて見たくない。道明寺司と言えば誰もが憧れる二枚目御曹司だ。顔はいい。金はある。家柄も最高。そんな男が小さな女に振り回されていること自体が信じられないというのに、この有り様・・。
あきらは今更ながら牧野つくしという猛獣使いの凄さを思い知ったような気がしていた。
「俺と・・」
「ああ、なんだ俺とどうした?」
「俺と・・」
「だから俺と俺とじゃ意味がわかんねぇだろうが!はっきり言えよ!おまえはオレオレ詐欺にあったとでも言いたいのか?」
「別れたいって・・」
「おまっ!まさか!嘘だろ?おまえ、そんなことある訳ねぇだろうが!」
「・・・」
「おまえ、牧野から言われたのか?おまえと別れたいってはっきり言われたのか?」
「・・・」
「おい、司!返事しろ!」
司はここまで来ると恥も外聞もないと言った。
「まきのは・・今、出張して日本にいねぇ・・だから直接言われたわけじゃねぇ・・でもそれももしかしたら、あいつの計画で、自分が居ない間に俺に・・」
自分でも何を言いたいのかよく分からない状態だ。
司はデスクにガクッと項垂れた。
「司!意味が分かんねぇよ!居ない間って・・」
「・・あきら・・これ読んでくれ」
デスクの引き出しからあの紙を出すとあきらに渡した。
あきらは受け取ると、読み始めた。
「・・司、これはどこから手に入れた?」
「・・西田が持ってきた・・」
「西田さんか・・おまえなんでこれが牧野からの別れの手紙だなんて思ったんだよ。別に牧野の名前なんてどこにも書いてねぇし、なんか勘違いしてねぇか?それともおまえ、牧野に別れを告げられるようなことでもしたのか?なんか心に思うことでもあるのか?」
「・・・いや。思いあたらねぇ・・」
「それなら違うぞ。おまえの考え過ぎだ。牧野がおまえと別れるなんてこと考えるはずねーぞ?おい、司。西田さんを呼べ」
「・・西田か?」
「そうだ。おまえの秘書の西田さんだ。その電話で呼べるだろ?その電話を取れ。な、司しっかりしろ!」
コンコン
すぐに執務室の扉をノックする音がした。
「西田です。失礼いたします」
ピンと張りつめた空気の漂う執務室に現れた秘書にあきらは言った。
「西田さん・・あの、この封筒見覚えありますか?」
あきらが西田に見せた白い封筒。
「はい。ございます」
「これ・・いったい・・」
「・・と。申しますと?」
いつもに増して平然とした顔の西田。
「いえ。当然西田さんは中身が何であるかご存知ないと思いますが、司がこの中身を読んでから・・調子が狂ったというか、なんか・・」
一瞬の間のあと、西田が言った。
「支社長の御加減が悪かったのはそのせいでしたか」
「そのせいって・・?これってなんの印刷もされてない封筒だし、中の・・なんだか要領を得ないというか・・。これって・・」
「封筒の表にメモを貼っておりましたが、そちらは見ていただけたのでしょうか?」
「メモ?」
「はい。今度うちで新しいテレビ広告を始める予定なのですが、その企画の一部でして先日広告代理店の担当の方が営業部へ提出されたものです。支社長にも目を通して頂こうと思いまして。それがなにか?」
機知に富むあきらは事情を察した。
封筒の表に貼られていたメモというものが、いつの間にか失われてしまい、司はあの内容を見て動揺したのだと。
「いや。そうでしたか。すみません西田さん。あのちょっと色々と勘違いがありまして、ありがとうございます」
あきらは、なんだかわからないが、とにかく司の壮大な勘違いらしいということを確認した。
昔からそうだが、司は牧野のことになると見境がない。
秘書が退室すると、椅子に沈み込んで座る親友に言った。
「司、よかったな。おまえの大きな勘違いだったってことだ。これは牧野からの別れの手紙なんかじゃねぇぞ。けど正直なところ、もしおまえが牧野に別れを告げられた後のことを考えただけで怖えぇからな。おまえが失恋して、思考能力が落ちておまえの会社がおかしなことになったら日本中の会社が、いや、世界中の会社が大変なことになるからな。そう考えたら牧野の影響はすげぇな。言い換えれば牧野は世界経済の中枢を担う女ってことか。道明寺財閥を操る影の女か?すげぇよなアイツ」
あきらはなんとか司の気持ちを盛り上げようと懸命に喋った。
「しかし、おまえって男は牧野が傍にいねぇとろくでもねぇことを考えるよな?」
「・・・」
「司、おい、とにかくおまえの勘違いだったんだ。よかったな」
「・・・」
「・・・それにもうひとつ心配だったのは、おまえが変な誤解をして牧野を酷い目に合わせるんじゃねぇかと思ったな。もし仮にだが、別れてくれって言われても、ぜってえ別れてやんねぇとか言ってマンションに監禁するとか、山荘に閉じ込めるとかするんじゃねぇかってな。そんなことしたら、山荘の管理してるおやっさん腰抜かすぞ?確か木村さんだったよな?」
「・・・」
「まあ、今のおまえは大人だからそんなガキみてぇなこと、しねえって分かってるけど、まさかおまえ、そんなこと考えてねぇよな?今のおまえなら、そんなことしたら犯罪だってことくらいわかってるよな?」
テレビ広告の企画内容。
雨の日に別れる男女のシュチュエーション。
まるでいつかの司とつくしのような場面が展開されていた。
なんとなく台詞まで似ていた。
そんな内容を目にしたばかりに、司の頭の中にはあのときの様子が一気に甦ったと同時に、今、つくしが出張で国内にいないことが輪をかけた。
つまり、牧野つくし欠乏症が発症したということだ。
人が生きていくために酸素を必要とするように、司が生きていくには牧野つくしが傍にいないと駄目だということだ。
そんな状態であの企画書に目を通したばかりに、頭の中につくしと別れるのではという事態が過っていた。
クソッ・・縁起でもねぇ!
こんな企画内容のテレビ広告なんざ却下だ!
司は企画書を細かくちぎって、捨てた。
それより司は妄想の中とはいえ、愛しい女を鎖で繋いで凌辱するというとんでもない行為に反省しきりだ。
高校時代そんなことになる寸前だったことを差し引いても酷い。
反省しきりの司のとった行動。
牧野の部屋をバラの花でいっぱいにした。
昔のこいつのアパートをバラの花で埋め尽くしたことがあったが、今度のバラの花は違う。
なにしろ花びら一枚一枚に″ゴメン″と印字がされている。
やりすぎか?
いや、そんなことはないはずだ。
牧野に詫びを入れるのも命懸けだからな。
あいつに対してはいつも命懸け。
俺がどれだけおまえに本気かそれを伝えるためなら労は惜しまねぇ。
つくしは空港まで迎えに来た男と帰宅し、自分の部屋を埋め尽くしたバラの花に驚いた。
それはいつか見たことのある光景。
一緒に帰宅したこの部屋の合鍵を持つ男に聞いた。
「なに?どうしたの道明寺?」
「いや。日ごろの感謝を込めて・・俺の気持ちだ」
「日ごろの感謝って・・なに?」
「・・まあ。色々世話になってるアレだ・・」
「何よ?アレって?」
アホか。言えるかよ。
いつも頭の中でおまえの身体であんなことや、こんなことしてんのにそんなこと話せるか?今回は特別激しかったけどな。おまえ相当濡れてたぞ?もうビチョビチョでグチョグチョで俺の指なんておまえのナカでふやけるんじゃねぇかと思ったくれぇだ。
「なに?道明寺?ひとりでニヤニヤして変なの」
と、笑うつくしに司は余計な思考を追い払った。
・・牧野、悪かった。おまえが他の男なんて好きになるはずないし、俺と別れたいなんて考えることなんてねーのに、俺の頭の中でおまえを苦しめた・・
あんなことや、こんなことして・・・
まあ、それはそれで楽しんだんだが・・
いや。前言撤回だ。
元はと言えば誰が悪いんだ?
諸悪の根源は誰だ?
西田か?
いや。あんな企画書を出してきた代理店が悪い。
ぶっ潰してやる!
・・とは言え、頭の中でだな。
本当に潰したら洒落にならねぇ。
「もう・・こんなに沢山どうするのよ?病院にでも寄付する?道明寺って時々わけのわからないことをするから困るのよ・・」
つくしはブツブツと呟きながら、部屋の中に足の踏み場もないほど置かれた花の器を移動させていた。
そうは言っても、沢山の花に囲まれて嬉しくないはずがない。
沢山ある花の中から一本選ぶと立ち上がって振り向いた。
「道明寺。アンタの気持ちはよくわかってるから。あたしの方こそいつも沢山迷惑かけちゃってゴメンね。それからあたしはこんなに沢山の花は要らないから。花は一本だけあればそれでいいの。あたしにとってはその一本が大切な花だから。ほら、この花みたいに」
と、つくしが差し出したのはまだ蕾の一本。
「まだ蕾だけど、綺麗な花が咲くはず。開いてみないとわからないけど、人生もそんなものだし色々あるものね?」
司の突拍子もない行動は今更だ。慣れたものだと言った顔があった。
仕事の面では冷静な男も、私生活では動揺することが多い。
ただし、それはつくしに対してだけ。つくしはこの花を贈った理由を聞き咎めないのが大人だと思っている。誰だって好きな人には知られたくないことがある。もし本人がそれを口にしたくないなら無理矢理聞くべきではない。でも何かあったからこんな行動に出たのだということだけは理解した。
「それに暫く留守にしてたし、こ、今夜は・・いっぱい愛し・・」
次の瞬間、司はつくしを抱きしめていた。
「俺、やっぱりおまえとは別れねぇからな」
「はあ?道明寺どうしたの?」
「どうもこうもねぇぞ!ぜってぇに別れてやらねぇ」
「ちょ、ちょっと道明寺?どうしたのよ?誰も別れるなんて話ししてないでしょ?何どうしたの?ねえ?道明寺?変な夢でも見たの?」
情けねぇ男だと思われてもいい。
俺は牧野の傍にずっといたい。俺の不安を拭い去って欲しい。
だから永遠に離れねぇし、離れるつもりはない。
「・・ああ。おまえがいない間に嫌な夢を見た。だから忘れさせてくれねぇか?」
外は雨が降っている。だがあの日と違って春の雨は温かいはずだ。
大地を潤し、木が芽吹くのを助ける恵みの雨。
二人の人生にも適度な潤いは必要だ。
今夜の潤いは愛しい女から与えてもらえる久しぶりの潤い。
きっと俺の求める以上のものを与えてくれるはずだ。
恋にあせりは禁物だと言う。けど、俺は牧野が結婚してくれるまでずっとこんなもんだろう。追いかけて、やっと捕まえた女だ。それでも掴んだこの手を放したことがあった。
時を信じて待てばなんとかるなんていうが、俺はいつも牧野が欲しくてたまらねぇ。
そんな俺の心を安らかにするために、おまえが俺の傍にいてくれればそれでいい。
だから牧野。
早く俺と結婚してくれ。

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『金持ちの御曹司』シリーズ、お蔭様で、この1月で1年を迎えました。
相変らずの妄想エロ坊っちゃんですが、いつもお読みいただきありがとうございます。
未成年者の方、またはそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
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上昇。上昇。転落。そして再び上昇。
この意味がわかったヤツは褒めてやる。
これはずばり俺の人生だ。
俺の人生は生まれた時から上昇人生。今後もずっと上昇するはずだ。
そんな中にひとつある転落ってのは・・好きな女にフラれたときだ。
17歳のときフラれた。それも何度もフラれる経験をした。
だがそれはもう随分と昔の話だ。
しかし今、俺の上昇人生の中で、ひとつの危機を迎えようとしていることがある。
それは西田が俺のデスクに置いていった書類の中にあった。
書類と書類の間に忍び込ませるようにあった大きめの白い封筒。宛名は書かれてないが西田が置いていったということは、信頼のおけるものだということだ。何しろ俺の元に回される手紙や書類は西田の事前チェックが必ず入る。それに個人的な手紙は会社に届くことはない。ここにあるのはビジネスに関するものしかない。
司は封がされている封筒の隅へペーパーナイフを滑り込ませた。
そして中から紙を引き出し、見下ろした。
中から出て来たのは2枚の紙。
しんと静まり返った執務室のなか、彼はその紙を読み始めた。
読み終えた途端、司の顔に現れた表情は、驚愕、落胆、そして絶望。
文字は象形文字となって意味をなさず、形だけのものとなり、やがて消えた。
嘘だろ・・・
信じられねぇ・・
司の手に握られていた紙は、彼の手から離れると、足許へと落とされていた。
パラリ・・と。
今の俺は高度1万メートル上空で乱気流に見舞われた飛行機から、パラシュートも持たず螺旋を描きながら垂直降下中だ。
額に汗が湧き、手には嫌な汗が滲み、胃袋は口から出そうだ。
それに心は・・どこに行った?
空の上に置き忘れてきたか?
牧野が・・
あの牧野が!
俺の牧野が!
司の頭の中には先ほど読んだ内容が渦巻いていた。
牧野が・・
俺と別れたいと思ってる・・
秘書が置いて行った封筒の中身を読んでからの俺は・・・仕事に身が入らなかった。
そして、どうしてこんな日に雨が降っているんだと窓の外を見た。
外は雨。土砂降りの雨。
身体の中、心の奥底まで凍えさせるような雨。
一度そんな雨を経験したことがあった。
俺はどうしたらいいのかわからなかった。
何しろ俺の人生は牧野で始まり、牧野で終わると決まってる。
それなのに牧野が俺から離れたら俺は人生を終えることが出来ねぇ。
死ぬことなんて一生出来ねぇ。
この季節、急性胃腸炎にかかったことがあるが、今の俺はまさにそんな状況だ。
吐き気と冷や汗が身体中を支配し、頭の中は何も考えられなくなり、胃の中から色んなものがせり上がってきてどうしようもないほど身体が震える。
声なんて出せるはずもなく、もし出そうとすれば胃の内部のものが出てしまうはずだ。
トイレまで走って行くなんてみっともねぇ真似が出来るはずもなく、こうなったら近くのゴミ箱にでも吐くしかねぇ・・・。
司は目でゴミ箱の場所を確かめた。
サイアクだ・・・
今の俺の率直な気分はまさにそれ。
サイアクだとしか言いようがない。
頭が変になりそうだ。
だが俺はそう簡単には別れねぇぞ!
これは何かの間違いに決まってる!
もしくは嫌がらせか悪戯か悪い冗談に決まってる!
そうか!これは誰かの陰謀か?
なめたマネしやがってどこのどいつだ?
俺を誰だと思ってる?
天下の道明寺司様だぞ?
かつて狂犬と言われたことのある男だぞ?
道明寺に盾突く会社なんぞぶっ潰してやる!
けど、もし嫌がらせでも、悪戯でも、冗談でも陰謀でもなかったとすれば・・
そのときは・・
好きな女から別れを告げられても頑なに拒む男になるはずだ。
司には金があり、社会的信用もある。
そして女に不自由することない美貌がある。
望めばどんな女性も思いのままになると言われる。
司は思った。
女がどうしても別れたいというなら、どこかへ閉じ込めてしまえばいい。
決して他の男の手が触れることがないように閉じ込めてしまえば・・・
そしてそこで女を飼い慣らす。
猥褻な人間となって女を弄んでやる。
間接照明だけが照らすベッドの上に押し倒された女。
胸を覆っていた布切れはむしり取られ、その両手はすぐに金属の鎖でヘッドボードへと繋がれた。
「いやぁぁぁっお願いっ!道明寺止めて!こんなことしないで!」
「牧野。おまえが悪い。俺と別れようなんて思うおまえがな!」
深い豊かな声が嘲笑った。
「どうした俺が怖いのか?この俺が?俺はおまえの恋人だろ?どうして俺のことを怖がる?」
「こんなの道明寺じゃない!お願い・・元の優しい道明寺に戻って・・」
「優しい俺なんてのはもういねぇ。元々俺はおまえに会うまでは酷い男だったからな。なあ、牧野。わかってるだろ?俺がどんな男だったか?」
スッと細められた漆黒の瞳。
ニヤリと笑みを浮かべる酷薄の唇。
「おまえに触れる権利があるのは俺だけだ、この先もずっと」
司はつくしの脚を開かせるとパンティを引き裂いた。
ビリッ・・
「あっっ!」
「この場所は俺だけのものだ。なあ?そうだろ牧野?こんなにも濡れて俺を欲しがってるんだからな」
両脚を大きく開かせ、長く美しい指がつくしの秘口へと挿し入れられ、ナカを掻き混ぜ始めた。
「・・っやあっ・・」
「・・いい匂いがする・・俺のためだけのおまえの匂いだ。夜の半分を使って口でここを可愛がってやるよ。挿れてって言うまで何時間でもな」
女の頭が司の姿を見たくないと横に倒された。だが司はそれを許さないと顎を掴むと自分へと向けさせた。
「まきの・・俺を見るんだ。おまえにこんなことをしていいのは俺だけだ。いいか、ここに他の男なんて咥えさせねぇ・・・ここは俺だけのものだ。そうだろ?まきの?」
妄念にとりつかれた司は女を離さないと決めた。どんなことがあっても誰にも奪われたくない。いや、奪わせない。別れるなんてとんでもない。解放なんてしてやるものか。
一度自分の手に堕ちた女を絶対に離すものか。こいつは俺の女だ。
司は、笑みを浮かべ、太く勃起したものを握ると秘口へと当てがった。
「相変らず感じやすいな・・おまえの下の口は・・そうだろ?この濡れ具合でどれだけ我慢できるか試してみるか?これが欲しいはずだ。俺と別れるなんて出来ないだろ?」
「・・やっ・やめてぇ・・」
泣き声に似た声。弓のように反った女の背中。
けど逃げられねぇし、逃がすつもりもねぇ。
司は生まれ持った体躯の使い方を知っている。
どうすれば、つくしがこの身体を欲しがるのかを。
先端を少しだけ押し入れて花芯を摘まんでやった。
「・・ぁ・・っつあはぁぁ・・」
「全部欲しいんだろ?なあ、牧野?」
司はつくしの太腿を大きく押し開いた。
「いい眺めだ。実にいい。俺に向かって脚を開くおまえの姿は綺麗だ、まきの・・」
司は我慢が出来なくなって瞬時に挿入した。
「あっ、あっっ!あぁぁっ・・ど、どうみょうじっ・・」
「・・っいいか?おまえは・・俺の・・ものだ・・誰にも・・渡さねぇ・・」
決して離れないと、離したくないと奥深く、腰を何度も突き入れた。
それからゆっくりと腰を回し、煽った。その度に女の口から上がる声に益々太さを増す楔。
その楔を深く打ち込み、二人が離れられないようにした。
口では嫌がってもこいつの内側は俺が欲しいと締め付けて来た。
深く、激しく、律動を繰り返すたび、もっと欲しいと蠢き俺を離そうとしない。
「・・欲しいんだろ?俺が?」
鎖に繋がれ、ベッドの上に縫い付けた身体を上下する様が、陸に上がった人魚のようで、カワイソウになるが、俺の傍を離れては生きられない人魚になればいい。
脚を持たず、自由が利かない人魚となって俺の世話を受ければいい。
これから一生、死ぬまで。
泣こうが叫ぼうが、ぜってぇに離しはしない。この身体もその心も全部オレのモノ。
完全にこの女を自分のものにするためなら犯罪だと言われてもかまわねぇ。
「・・っつ・・まきの・・好きだ!・・好きなんだ・・・俺は・・絶対に・・お前と別れねぇ!」
司は思わずデスクをドンと叩いていた。
そうだ。俺はぜってぇに別れねぇからな!
死んでも別れてやるつもりはない。
生霊だろうが死霊だろうが、あいつに憑りついてでも別れてやんねぇからな!
それから数日間、司は真剣に考えていた。
・・・・現実問題として俺はどうしたらいいんだ?
牧野の心を取り戻すにはどうすればいい?
確かに俺がその気になれば、牧野を閉じ込めることなんて簡単に出来る。
だがそんなことが俺に出来るはずがない。もちろん好きだから手放したくない。
でも、そんな鬼畜めいたことをしてあいつの心が取り戻せるはずないと知っている。
それに今の俺にはそんな状況に置かれたあいつがカワイソ過ぎてそんなこと出来ねぇ。
誰かに相談するべきか・・
誰にする?
類は問題外だ。あの男、俺と別れたなら自分とつき合わないかと言いそうだ。
総二郎は、あの男も無理だ。茶道を世界に広めるとかで日本にいない。
そんなとき、まるで俺の胸中を推し量ったように訪ねて来たのがあきらだ。
「司!どうしたんだ?その面は!」
「・・・」
「司、おまえ何か食べ物にでもあたったか?いや。違うな。牧野のことだろ?ケンカでもしたのか?」
「・・あきら、俺はそんなにわかりやすいか?」
「わかりやすいもなにも、おまえのそんな顏見るの久しぶりだけど覚えてるぞ。その険悪な顔で落ち込んだ姿。あれはいつだった?まだ俺らが高校の頃、あいつにフラれた時だったか?」
年を重ねた男は愛する人が出来て以来、丸くなったと言われ久しい。
司が黙っているということは、図星だとあきらは知った。
しかしこんなに落ち込んでいる司は見たことがない。今のこんな状態ならケツを蹴り上げられても気づかねぇんじゃねぇかと思うほどだ。
「なあ、司。牧野とケンカしたなら早くあやまって許してもらえ。どうせおまえがまた何かあいつを怒らせるようなことを言ったんだろ?残業するなとか、男と一緒のエレベーターに乗るなとか訳のわかんねぇこと言ったんじゃねぇのか?おまえそんなに牧野の事が心配なら牧野専用エレベーターでも作れ!」
「・・・」
「司、どうした?」
「・・まきのが・・」
「牧野がどうした?」
「まきのが・・」
「牧野が牧野がじゃわかんねぇだろ?はっきり言えよ司!」
あきらは思わず怒鳴った。実のところ、こんなはっきりしない態度の司の姿なんて見たくない。道明寺司と言えば誰もが憧れる二枚目御曹司だ。顔はいい。金はある。家柄も最高。そんな男が小さな女に振り回されていること自体が信じられないというのに、この有り様・・。
あきらは今更ながら牧野つくしという猛獣使いの凄さを思い知ったような気がしていた。
「俺と・・」
「ああ、なんだ俺とどうした?」
「俺と・・」
「だから俺と俺とじゃ意味がわかんねぇだろうが!はっきり言えよ!おまえはオレオレ詐欺にあったとでも言いたいのか?」
「別れたいって・・」
「おまっ!まさか!嘘だろ?おまえ、そんなことある訳ねぇだろうが!」
「・・・」
「おまえ、牧野から言われたのか?おまえと別れたいってはっきり言われたのか?」
「・・・」
「おい、司!返事しろ!」
司はここまで来ると恥も外聞もないと言った。
「まきのは・・今、出張して日本にいねぇ・・だから直接言われたわけじゃねぇ・・でもそれももしかしたら、あいつの計画で、自分が居ない間に俺に・・」
自分でも何を言いたいのかよく分からない状態だ。
司はデスクにガクッと項垂れた。
「司!意味が分かんねぇよ!居ない間って・・」
「・・あきら・・これ読んでくれ」
デスクの引き出しからあの紙を出すとあきらに渡した。
あきらは受け取ると、読み始めた。
「・・司、これはどこから手に入れた?」
「・・西田が持ってきた・・」
「西田さんか・・おまえなんでこれが牧野からの別れの手紙だなんて思ったんだよ。別に牧野の名前なんてどこにも書いてねぇし、なんか勘違いしてねぇか?それともおまえ、牧野に別れを告げられるようなことでもしたのか?なんか心に思うことでもあるのか?」
「・・・いや。思いあたらねぇ・・」
「それなら違うぞ。おまえの考え過ぎだ。牧野がおまえと別れるなんてこと考えるはずねーぞ?おい、司。西田さんを呼べ」
「・・西田か?」
「そうだ。おまえの秘書の西田さんだ。その電話で呼べるだろ?その電話を取れ。な、司しっかりしろ!」
コンコン
すぐに執務室の扉をノックする音がした。
「西田です。失礼いたします」
ピンと張りつめた空気の漂う執務室に現れた秘書にあきらは言った。
「西田さん・・あの、この封筒見覚えありますか?」
あきらが西田に見せた白い封筒。
「はい。ございます」
「これ・・いったい・・」
「・・と。申しますと?」
いつもに増して平然とした顔の西田。
「いえ。当然西田さんは中身が何であるかご存知ないと思いますが、司がこの中身を読んでから・・調子が狂ったというか、なんか・・」
一瞬の間のあと、西田が言った。
「支社長の御加減が悪かったのはそのせいでしたか」
「そのせいって・・?これってなんの印刷もされてない封筒だし、中の・・なんだか要領を得ないというか・・。これって・・」
「封筒の表にメモを貼っておりましたが、そちらは見ていただけたのでしょうか?」
「メモ?」
「はい。今度うちで新しいテレビ広告を始める予定なのですが、その企画の一部でして先日広告代理店の担当の方が営業部へ提出されたものです。支社長にも目を通して頂こうと思いまして。それがなにか?」
機知に富むあきらは事情を察した。
封筒の表に貼られていたメモというものが、いつの間にか失われてしまい、司はあの内容を見て動揺したのだと。
「いや。そうでしたか。すみません西田さん。あのちょっと色々と勘違いがありまして、ありがとうございます」
あきらは、なんだかわからないが、とにかく司の壮大な勘違いらしいということを確認した。
昔からそうだが、司は牧野のことになると見境がない。
秘書が退室すると、椅子に沈み込んで座る親友に言った。
「司、よかったな。おまえの大きな勘違いだったってことだ。これは牧野からの別れの手紙なんかじゃねぇぞ。けど正直なところ、もしおまえが牧野に別れを告げられた後のことを考えただけで怖えぇからな。おまえが失恋して、思考能力が落ちておまえの会社がおかしなことになったら日本中の会社が、いや、世界中の会社が大変なことになるからな。そう考えたら牧野の影響はすげぇな。言い換えれば牧野は世界経済の中枢を担う女ってことか。道明寺財閥を操る影の女か?すげぇよなアイツ」
あきらはなんとか司の気持ちを盛り上げようと懸命に喋った。
「しかし、おまえって男は牧野が傍にいねぇとろくでもねぇことを考えるよな?」
「・・・」
「司、おい、とにかくおまえの勘違いだったんだ。よかったな」
「・・・」
「・・・それにもうひとつ心配だったのは、おまえが変な誤解をして牧野を酷い目に合わせるんじゃねぇかと思ったな。もし仮にだが、別れてくれって言われても、ぜってえ別れてやんねぇとか言ってマンションに監禁するとか、山荘に閉じ込めるとかするんじゃねぇかってな。そんなことしたら、山荘の管理してるおやっさん腰抜かすぞ?確か木村さんだったよな?」
「・・・」
「まあ、今のおまえは大人だからそんなガキみてぇなこと、しねえって分かってるけど、まさかおまえ、そんなこと考えてねぇよな?今のおまえなら、そんなことしたら犯罪だってことくらいわかってるよな?」
テレビ広告の企画内容。
雨の日に別れる男女のシュチュエーション。
まるでいつかの司とつくしのような場面が展開されていた。
なんとなく台詞まで似ていた。
そんな内容を目にしたばかりに、司の頭の中にはあのときの様子が一気に甦ったと同時に、今、つくしが出張で国内にいないことが輪をかけた。
つまり、牧野つくし欠乏症が発症したということだ。
人が生きていくために酸素を必要とするように、司が生きていくには牧野つくしが傍にいないと駄目だということだ。
そんな状態であの企画書に目を通したばかりに、頭の中につくしと別れるのではという事態が過っていた。
クソッ・・縁起でもねぇ!
こんな企画内容のテレビ広告なんざ却下だ!
司は企画書を細かくちぎって、捨てた。
それより司は妄想の中とはいえ、愛しい女を鎖で繋いで凌辱するというとんでもない行為に反省しきりだ。
高校時代そんなことになる寸前だったことを差し引いても酷い。
反省しきりの司のとった行動。
牧野の部屋をバラの花でいっぱいにした。
昔のこいつのアパートをバラの花で埋め尽くしたことがあったが、今度のバラの花は違う。
なにしろ花びら一枚一枚に″ゴメン″と印字がされている。
やりすぎか?
いや、そんなことはないはずだ。
牧野に詫びを入れるのも命懸けだからな。
あいつに対してはいつも命懸け。
俺がどれだけおまえに本気かそれを伝えるためなら労は惜しまねぇ。
つくしは空港まで迎えに来た男と帰宅し、自分の部屋を埋め尽くしたバラの花に驚いた。
それはいつか見たことのある光景。
一緒に帰宅したこの部屋の合鍵を持つ男に聞いた。
「なに?どうしたの道明寺?」
「いや。日ごろの感謝を込めて・・俺の気持ちだ」
「日ごろの感謝って・・なに?」
「・・まあ。色々世話になってるアレだ・・」
「何よ?アレって?」
アホか。言えるかよ。
いつも頭の中でおまえの身体であんなことや、こんなことしてんのにそんなこと話せるか?今回は特別激しかったけどな。おまえ相当濡れてたぞ?もうビチョビチョでグチョグチョで俺の指なんておまえのナカでふやけるんじゃねぇかと思ったくれぇだ。
「なに?道明寺?ひとりでニヤニヤして変なの」
と、笑うつくしに司は余計な思考を追い払った。
・・牧野、悪かった。おまえが他の男なんて好きになるはずないし、俺と別れたいなんて考えることなんてねーのに、俺の頭の中でおまえを苦しめた・・
あんなことや、こんなことして・・・
まあ、それはそれで楽しんだんだが・・
いや。前言撤回だ。
元はと言えば誰が悪いんだ?
諸悪の根源は誰だ?
西田か?
いや。あんな企画書を出してきた代理店が悪い。
ぶっ潰してやる!
・・とは言え、頭の中でだな。
本当に潰したら洒落にならねぇ。
「もう・・こんなに沢山どうするのよ?病院にでも寄付する?道明寺って時々わけのわからないことをするから困るのよ・・」
つくしはブツブツと呟きながら、部屋の中に足の踏み場もないほど置かれた花の器を移動させていた。
そうは言っても、沢山の花に囲まれて嬉しくないはずがない。
沢山ある花の中から一本選ぶと立ち上がって振り向いた。
「道明寺。アンタの気持ちはよくわかってるから。あたしの方こそいつも沢山迷惑かけちゃってゴメンね。それからあたしはこんなに沢山の花は要らないから。花は一本だけあればそれでいいの。あたしにとってはその一本が大切な花だから。ほら、この花みたいに」
と、つくしが差し出したのはまだ蕾の一本。
「まだ蕾だけど、綺麗な花が咲くはず。開いてみないとわからないけど、人生もそんなものだし色々あるものね?」
司の突拍子もない行動は今更だ。慣れたものだと言った顔があった。
仕事の面では冷静な男も、私生活では動揺することが多い。
ただし、それはつくしに対してだけ。つくしはこの花を贈った理由を聞き咎めないのが大人だと思っている。誰だって好きな人には知られたくないことがある。もし本人がそれを口にしたくないなら無理矢理聞くべきではない。でも何かあったからこんな行動に出たのだということだけは理解した。
「それに暫く留守にしてたし、こ、今夜は・・いっぱい愛し・・」
次の瞬間、司はつくしを抱きしめていた。
「俺、やっぱりおまえとは別れねぇからな」
「はあ?道明寺どうしたの?」
「どうもこうもねぇぞ!ぜってぇに別れてやらねぇ」
「ちょ、ちょっと道明寺?どうしたのよ?誰も別れるなんて話ししてないでしょ?何どうしたの?ねえ?道明寺?変な夢でも見たの?」
情けねぇ男だと思われてもいい。
俺は牧野の傍にずっといたい。俺の不安を拭い去って欲しい。
だから永遠に離れねぇし、離れるつもりはない。
「・・ああ。おまえがいない間に嫌な夢を見た。だから忘れさせてくれねぇか?」
外は雨が降っている。だがあの日と違って春の雨は温かいはずだ。
大地を潤し、木が芽吹くのを助ける恵みの雨。
二人の人生にも適度な潤いは必要だ。
今夜の潤いは愛しい女から与えてもらえる久しぶりの潤い。
きっと俺の求める以上のものを与えてくれるはずだ。
恋にあせりは禁物だと言う。けど、俺は牧野が結婚してくれるまでずっとこんなもんだろう。追いかけて、やっと捕まえた女だ。それでも掴んだこの手を放したことがあった。
時を信じて待てばなんとかるなんていうが、俺はいつも牧野が欲しくてたまらねぇ。
そんな俺の心を安らかにするために、おまえが俺の傍にいてくれればそれでいい。
だから牧野。
早く俺と結婚してくれ。

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