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2017
01.08

甘く危険な男 前編

Category: 甘く危険な男
彼の傲慢さと過剰な自信は昔から筋金入りだ。
いったいその自信はどこから来るのか?
自分の深い信念のもとに行動する男は、どんなときでも相手の優位に立つことがビジネスマンとしての定義だと考える。それに他人と横並びの人生なんてつまらないという男。
かつて男はそんな自分の人生を生き急いだことがある。
だが今は生き急ぐなんてとんでもないことだと考えていた。それどころか、もっと人生を楽しみたいと考える男だ。


そんな男は視線だけで女を蕩けさせてしまう。
冷たく鋭い瞳から向けられる視線だが、百人の女がいれば、その百人全てが男の瞳に見惚れてしまう。多くの女性の視線を釘付けにし、心を盗む男は美貌の犯罪者とまで言われる。
そんな男もかつては本物の犯罪者になりそうなことがあったとは世間には知られてない。
その名残なのか、まさに世の女からすれば悪の香りのする美貌だ。


とにかくどこにいても人目を惹く男。
遠い祖先から受け継いだ血筋とその美貌では、ひと目につくなという方が無理だ。
何しろ彼には常にスポットライトがついてまわるのだから。

そんな男に見つめられた女は彼の視線で心臓を撃ち抜かれてしまう。

『銃で狙って目で殺す』

男の視線はこの言葉に尽きる。
狙った獲物は逃がさない。
だが、彼が狙うのはただ一人の女性だけ。
その女性の名前はつくし。
そして彼の妻。
彼の傍に立つことが許されたたったひとりの女性だ。

その女性が今、彼の元から離れた場所に立っている。
新年恒例、経団連他2団体合同による賀詞交歓会の会場となったメープル。
今夜はビジネス論議を戦わせる場ではない。あくまでも親睦を図るための顔合わせだ。

そんな会場で離れていても絶えず妻を見やり、愛情のこもる視線を交わし合うふたり。
妻への耽溺ともいえる夫の愛情に周りの人間は今更だと思う。
妻のかすかな動きさえ見逃すことのない男の視線。それは襲撃しようとする黒豹の視線の動きと同じ。その眼差しも、やさしく語りかける口調も妻だけのもの。
困ったことにこの男は妻に惚れぬいている。そして何かあればすぐにでも駆け寄るつもりの夫の姿がある。

そんな男の視線を一身に受ける妻。
着物を着つけた妻はいつもと違う美しさがある。
彼らと同年代の女性の着物姿を見かける機会は少ない。とは言え着物は最上級のフォーマルとなる衣裳だ。どんなに高級なドレスでも着物の美しさには勝てないところがある。
それに着物は日本人だからこそ似合う装いでもある。

実際、華やかなパーティーに着物を着た女性がいるだけで周りに人が集まる。
現に妻の周りには大勢の人が集まっている。だがそれは着物を着た妻の美しさが理由ではないことは、わかっていた。何しろその女は日本経済の要となる道明寺財閥後継者の妻だ。夫に渡りをつけたいと思うなら、まず妻を陥落させよとまで言われる昨今。妻の頼みごとなら断ることはないと言われること幾久しいからだ。

そんな夫は妻の周り群がる人間に苛立ちを隠せないが今日ばかりは仕方がない。
だが必要以上に近寄よる男がいないかと目を光らせていた。

手を触れることが出来ずにいた遠い昔とは違う。
あの頃は触れたくても触れられず、何故か我慢の日々だった。
だが今は違う。誰に断ることなく堂々と触れることが出来る。
ひと前で手を繋ごうが、キスをしようが、抱きしめ合おうが文句を言う人間はいない。

ああ。ひとり文句を言ってくる人間がいたな。


「つかさ!ひ、ひと前だから抱きつくのはやめて!」

「なんでだよっ!」

「だ、だってここ会社の前なんだけど・・」

「なんだよ!行ってらっしゃいのキスくれぇしてくれたっていいだろうが!」

クソッ!

確かに。
あいつが言いたいことはわかる。
結婚しても昔と同じで恥ずかしがり屋のあいつはひと前でキスすることが苦手だ。
けど、俺たち夫婦だろ?別に咎められるわけじゃねぇんだ。キスのひとつやふたつくれぇいいだろうが!

なあ。つくし。
それならひと前じゃなければいいんだな?

司の瞳に怪しい輝きが浮かんだ。


着物を着た女を乱れさせたい。
それは退廃的な行為となるはずだ。
帯を解き、表を脱がせれば襦袢姿となる。

その姿が見たい。





1時間が過ぎ、賀詞交歓会の宴はまだ続いている。
宴というには味気ない集まり。
だがこれから先、妻とふたりで宴を開きたい。
司は離れた場所に立つ妻を熱く見つめていた。








邸の寝室は彼ら二人にとって思い出の場所にあたる東の角部屋。
重厚なマホガニーで設えられた家具が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
全ての明かりが落とされているのではない。
窓のカーテンは開かれ、月明りが差し込んでいる。

いつもならたった数秒で脱がされる服も、着物となるとそう簡単にはいかない。
それでも司は着物を脱ぐ妻の姿を眺め、楽しみたい。
パーティーの間じゅう、考えていた姿がそこにある。

「俺はパーティーの間、ずっとこの瞬間を思い描いていた」
司がにやりと笑う。
「だからじっくりと楽しみてぇんだ。おまえが着物を脱ぐ姿をな」

妖艶な笑みを浮かべる男。
かつて彼の手で脱がそうとしたことがあった。
だが、手間のかかるその手順に、妻を求めることに我慢を強いられていた男は、何千万するという着物を破ってしまったことがある。
それを妻に咎められて以来、着物姿の妻を脱がせる楽しみを奪われてしまった。
ならば、と男は自分の前で脱いで見せろと妻に求めた。

そんな男の前にいるのは彼だけの女。
純真ともいえる彼の子猫。
その子猫も、彼の腕の中だけで甘い声をあげ、恍惚の表情を見せる女に変わる。


司はソファに腰かけて妻を見た。
その視線は肌が焼き尽くされそうなほど熱い視線。
夫の目に促されたつくしは、息を詰め、ゆっくりと帯を解き、そっと床に落とす。

決して焦らしているわけではないが、その動作はゆっくりとしたものだ。
何しろ妻は物を大切にする女だ。何千万とするような代物を粗末にできるはずがない。
結婚してからも以前と同じ、物を大切にする女は倹約することも心掛けている。
未だにスーパーの安売りチラシに目が行く女だ。自分が身に付けていた帯の値段も着物の値段も想像がつかない。ただ、妻は夫に相応しい女でいるために身に付けていただけだ。



上半身の着物の襟が崩れ、胸許がはだけ、滑り落とされていく。
やがて白の襦袢姿となった女の姿が現れた。
女も決して嫌ではない。パーティーの間じゅう、夫から向けられた視線の意味はわかっていた。

少し暗めの明かりのなか、静けさと共に香るのは女の色香。
それを感じ取ることが許されるのは、夫である司だけ。
何年経とうが、自分を惹きつけて止まない妻。

「こっちへ来い。つくし」

司の口から漏れ出た言葉は、ぞくっとするほど甘く低い声。

それが、二人だけの宴をはじめる合図となった。





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2017
01.09

甘く危険な男 後編

Category: 甘く危険な男
*表現に性的な文言を含みます。
未成年者の方、またはそのような内容が苦手な方はご注意下さい。
******************************







「言え。ちゃんと認めるんだ」

甘く低いバリトンの声が欲情を含んだ様子で囁く。
長く滑らかな屹立したものが欲しいと言ってくれ。
上着を脱いだ男は、ソファの上で鷹揚な態度を見せ、膝の上で組んだ脚を降ろす。
体じゅうが熱くたぎって抑えることが出来なくなる。
女の虜になってもう何年が経つ?

高校時代の女は高潔とでも言えるほどの女。
嘘は嫌い。とは言っても下手クソな嘘をつき、司を置いて邸を去ったことがある。
あの頃、素直じゃない女がいたが、結婚した女は相変わらず素直じゃねぇ。
欲しいなら欲しいと言ってくれ。
一方通行なんかじゃない、俺は俺を求めるおまえが欲しい。
いつも俺ばかりが求めているようでふと、不安になる。
俺が求めるのは俺にとって唯一無二の存在である女。
おまえ以外欲しくない。
だから俺を求めてくれないか?


長襦袢姿となった女。
そこから先なら司も手を触れてもいいと言われていた。
襦袢なら破られても問題がないからだ。
とはいえ倹約家の妻にすれば、まだ着ることの出来る襦袢を破られることは賛成できないようだ。だが、仕方がないと諦めている。夫を自分の金銭感覚に縛ることはしたくないと考えているのだろう。妻はあくまでも自分だけが感じる範囲で節約を心がけていた。

いつか妻に言ったことがある。

「破れた長襦袢は卑猥だな」

引き裂かれた襦袢から覗く白い脚が艶めかしく見えていた。
そんな夫を思わずグーで殴りそうになった女。
だが、夫には好きなようにさせてやりたいと思うのも、妻の偽らざる気持ちなのか、本気で殴られたことはない。グーで殴られたのは過去に一度、まだ司が子供じみた行いを繰り返していたときだ。




妻の身体を抱き上げ、ベッドへと運んだ。
軽くキスをすれば、首に回された腕がきつく絞められたのが感じられた。
ならば、と司も強く抱きしめた。
これから妻が満足させるべき相手は黒豹だと教えてやる。ただ、その黒豹は腕の中の小さな女だけに飼いならされた気高い雄。他の雌が近寄れば、噛み殺してしまうほどの激しさを持っている。

ベッドの縁へと妻を座らせ、前に立つ。
上から見下ろす彫刻のように整った顔は、妻だけに見せる顔で妖艶にほほ笑んだ。
主導権は司にあることはわかっている。だが一方的な思いだけでは、愛し合っているとは言えないはずだ。愛は互いに与え合うものであり、奪うものではない。しかし今の司は危険な男となっていた。豊な睫毛をしばたたき、物憂い感じでゆっくりと、ひとつ、ひとつ、シャツのボタンを外し始めた。

はだけたシャツの間から見える男の身体は、滑らかであるが硬い筋肉に覆われている。
女の脱ぐ姿が見たいと思った男も、今は彼自身が女の目の前で脱いで見せることで、自らの興奮を高めていた。まさに自分自身が楽しんでいると言える。

生まれてこの方、女の前でストリップ行為などしたことがないのは当然だが、妻を煽ることで己の中にある倒錯的とも言える思いが湧き上がる。
いつも俺ばかりが求めるのではなく、おまえからも求め、欲してくれ。目の前にある身体が欲しいと手を伸ばして欲しい。


いつもとどこか違う夫の様子に戸惑いを隠せない女。
頬を赤く染め、じっと司の顔を見上げていた。夫の目に浮かんだ危険な男の妖艶さに、言葉もなくじっとしている。いつもなら、ベッドへと横たえられるはずが、夫が目の前で服を脱ぐ様子を見ている。いや。見せつけられていると言った方がいいだろう。

シャツが床に落ち、ベルトのバックルに手がかかり、目の前で降ろされるジッパーの微かな音。それは、静まり返ったこの部屋のなか、女の耳には大きく聞こえるかもしれない。

全てが下ろされ、司はスラックスを脱ぎ、ソックスと靴も脱いだ。
やがて、シルクの黒いボクサーブリーフだけの姿となった男の姿が目の前に現れた。

危険な魅力は誰もが知るところだが、司は妻だけに甘さを与えたい。

雄々しい男性としての象徴が、妻だけを求め頭をもたげている。
司は親指をブリーフの端にかけると、ゆっくりと下ろす。
見つめられるだけで硬度を増す肉体の硬直は、司の気持ちと同じで目の前にいる女だけを求めている。黒々とした髪の毛と同じ黒い毛と、屹立した雄芯に重々しい陰嚢が女の前にあった。

もし、ミケランジェロが現代に生きていたとすれば、司をモデルに21世紀最高の作品を作り上げていたかもしれない。そして、その身体から誘惑と官能と危険な匂いがした。
そんななか、女は羞恥に頬を赤らめていた。


司は長襦袢を引き裂くことはしなかった。妻をベッドへと横たえると、むしろ大切な贈り物であるかのようにゆっくりと、丁寧に開いていた。
開かれた先にあるのは、司だけの白い柔肌。これからの二人に不要なものは、全て取り去り肌を重ね合わせたい。そして力強く、女の中に分け入りたい。秘肉に唇を這わせ、溢れる出る甘美なジュースを飲み干したい。


剝ぎ取られた下着は、司の下着の傍へと落とされ、互いの身体に身に付けているのは、永遠の愛を誓い合った指輪だけ。あのとき、固く握り合った互いの手は一生離れないと誓い合った。


太腿の内側にキスを繰り返しながら、求めている果肉へと近づく。

「ああぁぁ・・つ、つかさっ・・つ・・つか・・さ・・」

己の名前を繰り返し叫ぶ女の姿にどれほどの快感を与えているのかと悦に入る。
可愛らしい女の声は、やがて求めて止まない物を欲しがるはずだと知っている。

「・・・ああ・・どうしたんだ?」
「・・だめ・・おねがい・・」
「ちゃんと言わなきゃわかんねぇだろ?」

駄目とお願い、と相反する言葉を口にする女。
だがそれはいつもの事だ。欲しいと素直に言えない女が夫となった男を求めるとき必ず口にする。未だに欲しいという言葉が恥ずかしいとでもいうのか。だが今更だ。妻は出会った頃と同じだと思いながらも、最後には求めて名前を叫ぶ姿がある。

そんな女を求めれば求めるほど、知れば知るほど愛おしく思えてしまうのは、司が妻を心の底から愛しているからだ。太腿を開き、己の分身なる鉾先を濡れた果肉へと突き立てた。
締め付けがきつく、司の全てを欲しがっているのが感じられる。密着した肉体と、互いの身体から発するクチュクチュという淫らな音が、まるで泥を掻き混ぜているようにも聞こえる。

妻の身体の中に抽出を繰り返す。
目の前で揺れる小さいが形の良い乳房は司のものだ。大切に守りたい女だが、こんな時は壊してしまうのではないかと思うほど求めてしまう。

「・・・ああっ・・あ・・あっ・・つ・・つかさ!」
「・・ああ・・なんだ?・・言って・・くれッ・・」

細い腰を掴み激しくなる一方の律動と呼吸。
求めるものならどんな物だって与えてやる。

「・・お、おねがいっ!つ・・つかさが・・欲しいっ・・つかさの・・全部が・・欲しい・・」

歯をくいしばり、己の身体の下で可愛い声で求められ、突き入れる怒張が限界に達する瞬間。
身体が痙攣し、互いの口から愛してるの言葉が漏れ、身体の動きが止まる。
妻の中へと注ぎ込まれる白濁した彼自身の分身。そしてそれを待つ女のゆりかごがある。
二人は互いの身体に腕をまわし、ゆっくりと呼吸を整えた。
唇は愛してると呟きながら。






***







白む空から薄い光を感じたとき、司は目を覚ました。
これからニューヨークへ出発することになっていた。その後しばらくは向うにいることになる。何週間となるかもしれない今度の出張。もしかすると、もっと長くなるかもしれない。寂しさが募ることはわかっている。だからと言って妻に同行してくれとは言えなかった。
妻には妻の仕事がある。


疲れて眠る妻を気遣いそっとベッドを抜け出す。
バスルームへ向かいながら思う。しばらく会えないことが、男としての本能を狂わせたのかもしれない。抱く前の妻は、アラバスターのように白くな滑らかな肌をしていた。
だが、その肌に残るのは狂おしいばかりの愛の印。それは夫である司の刻印とでも言おうか、沢山の花びらともいえる唇のあとがあった。まるで薄く淡いバラの花びらをその肌の上に散らしたようだ。

やり過ぎたか?

求めても、求めても妻を求める飢餓感が収まることがなく、ひと晩じゅう愛しあった。
まるでセックス中毒かと思うほど求めることが止められない。だがそうでないことはわかっている。妻だからこそであって、他の女が近寄ろうものなら鋭い一瞥を浴びせかけていた。


シャワーを浴び寝室に戻るも、そこに寝ていたはずの妻がいない。訝しがりながらもクローゼットに向かう。すると、そこに妻の姿があった。

司は背の高い男にしては軽やかで優雅に歩く。
それはまるで暗闇に紛れて獲物に近づく黒豹のようだ。やはりこの男は獲物を狙う暗闇のハンターとでも言えるのかもしれない。だから狙われた動物は逃げられない。

そんな司が捕らえたのは、英徳学園というサバンナの中にいたガゼル。草食動物のガゼルは逃げ足が速く、黒豹も捕まえるには努力が要った。
だが、ガゼルを捕まえた黒豹は喰らうことはしなかった。大切に守り、慈しむことから始めた。

いつか、ガゼルも自分の身体に寄り添って休んでくれるはずだと信じて。

そして、長い年月を経て一緒になったふたり。


「あれ、司。早かったのね?ねぇ?やっぱりニューヨークは寒いわよね?でも向うの家にもセーターはあるし、でもやっぱりこっちから持っていこうかな?ねぇ司、どれがいいと思う?」

広いウォーキングクローゼットの中、半分は妻のスペース。
そのスペースで洋服を選ぶ妻の姿がある。セーターを出したかと思えば、別のものを探していた。

「着物は・・着付けが大変だし、持ってくのもねぇ・・」

ちらりと司を見る目は昨夜のことを言っていた。
夫が着物を脱ぐ自分の姿を、嬉しそうな目で見ていたのを思い返しほほ笑んだ。

司は妻が言った言葉を反芻していた。そして、頬の緩みを抑えようとしていた。
妻が、つくしが一緒にニューヨークへ行くことが嬉しさとなって顔に現れた。

「・・そんなモンどうにでもなる。着付けが必要なら手配ぐれぇ出来る」

「そう?でもどうしようかな・・。ニューヨークで着物着てパーティーなんて目立つかな?」

着物姿の妻がニューヨークで注目の的になることは当然だと知っている。なにしろ、肌が白磁器のように白く滑らかで、黒髪の小さな女だ。日本人形のようだと言われることは間違いない。

「・・いいんじゃねぇの?」

「そう?」

「・・それより、つくし。いいのか?あっちに行くってのは?」

「え?うん。大丈夫。あたしの仕事って言っても、ほら、もう有給消化に入ってるから別にいいのよ。今まで顔を出してたけど、もうそれもいいと思うの」

妻は司の会社で働いていた。
だが司と結婚し、これから彼の傍で一緒に過ごすことに決めた。
夫のいる場所が彼女の居場所となる。だから暫く日本を留守にする彼に付いて行くと決めた。

司は引き出しを開け閉めする妻の姿に、ほほ笑みを隠せない。
何も持参しなくてもニューヨークなら何でも手に入る。だが倹約家の妻は自分の洋服は持参したいと思っている。向うで買えばいいと言えば、『買うなんてもったいないでしょ?』と言われることはわかっているだけに口にはしない。自分の傍にいてくれるなら、好きなようにすればいいと思っているからだ。

「本当にいいのか?」

「え?なに?一緒に行ったら迷惑なの?」

「...誰が迷惑だなんて言ってんだよ...」

「そう?良かった。つかさに相談もなく決めちゃったから怒られるかと思った」

高校時代いつも振り回されていた司。二人共大人になった今では司の方が妻よりも優位だと思っていたが、やはり妻には勝てそうにない。妻は相変わらずあの頃と同じように思わぬことで司を喜ばせる。

「おまえ、俺がいなくて寂しいからニューヨークへ行きたいんだろ?」

「・・つかさが寂しがると思ったのよ。だからその・・まあ、あたしも・・寂しいから・・」


この男は過去には危険な男だった。当然ある者にとっては今でも危険な男だろう。
ビジネスの世界に於いても危険な男であることには間違いない。
道明寺司の代名詞であった危険な男。だが今ではその危険さに甘さが加わっていた。
ただし、その甘さは妻の前だけだ。

今の司はこの瞬間、妻を抱き上げ再びベッドへ運びたい気持ちになっていた。
だが、さすがにこれからジェットが離陸するまであまり時間がない。

司は、頬を赤らめた妻に近づき、素直になったその唇にキスをした。

そして、ぎゅっと抱きしめていた。







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