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2017
01.07

RIVALS

Category: RIVALS
あたしはいつも彼の左隣で寝ている。
なぜなら左側だと彼の心臓の鼓動がよく聞こえるからだ。
そしてその心音はあたしに安らぎを与えてくれる。

いつも裸でシーツにくるまって寝ている彼は素敵だ。
その引き締まった身体にそっと身を寄せてみる。そんなとき、彼はいつもあたしの身体に手を回して引き寄せてくれる。だからあたしは彼の心臓のうえに頭を乗せてその音を聞く。

あたしが心から愛情を感じるのは彼だけだ。
あの日、彼はあたしの傍に来るとそっと傘を差しかけてくれた。あれは冷たい雨が降っている日だった。だけど頬を伝うのが涙なのか雨なのかわからなかった。あの日、あたしは寒くて震えていた。



あたしは決して裕福な育ちではなかった。
どちらかと言えば貧しい家庭で育った。だから彼があたしを受け入れてくれるなんて考えられないことだと思っていた。そしてお金持ちだろうが、貧乏だろうが、心は通じ合えるものなんだとわかって嬉しかったのを覚えている。彼は笑ったり、話をしたり、夢を語ることが好きな人間だったのだ。そんな彼の周りの人間は、今まで彼のそんな感情を知ることが無かったというのが不思議で仕方がなかった。

もしかするとそれは・・・あたしだけに見せてくれた感情だったのかもしれない。



あるとき彼が女性と笑いながら話しをしているところを見かけた。
その女性はごく普通の若い女性だったが、彼はその女性ととても親しそうに見えた。
いつもは感情を表に出さない彼が、その女性に見せたほほ笑みのせいで、彼の顔はまぶしいほどに輝いて見えた。

恐らくだが、彼にしてみればその程度の女なんてたいしたことがないような女に見えた。
だって彼は一流と呼ばれる男なんだから、そんなどこにでもいるような女なんて彼には似合わないと思った。大丈夫、そんな女なんてすぐに彼の前から姿を消すことになるはずだ。
あんな女なんて彼が本気で相手にするはずなんかないと思った。
だって、それまではあたし以外の女になんて興味を示すことなど無かったから。

だけど彼は彼女のことが気になって仕方がない様子だ。
どうしてあんな女が気になるのか、あたしには理解が出来なかった。

彼は時々女の匂いを身体に纏って帰ってきたことがあった。
あたしは激しく嫉妬した。
だってそれはあの女の匂いだと知ったから。

はしたないと思われるかもしれないが、彼とベッドにいるとき彼の背中に傷あとを付けてやった。彼はあたしだけのもの・・・・・そんな印を付けたかった。あのとき、あたし以外の女の匂いを身に纏ってよくものこのこと帰って来れたものだと腹が立った。そしてよくも同じベッドで寝れるものだと無性に腹が立った。



あたしは司の前に立って彼を見あげている。
あたし達は身長差があるから仕方ない。
そんなとき、彼は優しくほほ笑んでくれる。
そしてあたしの頭を優しく撫でてくれる。

この人は周りの人間には恐れられるところもあるが、本来優しい人だ。
とても男性的な人だけど、あたしを見る目はいつも優しかった。そしていつも優しくほほ笑んでくれる。あたしはそんな彼の顔が大好きだ。あたしだけに見せるそのほほ笑みが大好きだ。

そんな彼もあの女のことを考えているのか、時には物思いに耽っている姿を見かけることがある。

あたしのことはもう興味がないの?
あたしは捨てられるの?
そんなことを思う日々が続いた。

でも、あたしはどうしても彼の傍を離れたくなかった。

初めて彼に抱かれたとき、あたしはどんなことがあっても彼の傍を離れないと思った。
彼の優しさとほほ笑みの全てを自分のものにしたいと思った。だが、こんな素敵な人を他の女がほおっておくはずがない。あたしなんていつか飽きられて捨てられるかもしれない。あたしは彼にあげられる物なんて何もなかったから。あげられるのはこの気持ちとこの身体だけだ。

最近の彼は毎週のように金曜日になるとあの女の匂いを身に纏って帰ってくるようになった。

あたしは彼と永続的な関係を求めているのに、この男はそうではないのかと思いはじめていた。一度、彼がバスルームに入っている間に彼の持ち物を調べてみたことがあった。
無造作にソファに投げた上着のポケットから出て来たのは、女ものの可愛らしいハンカチ。嫉妬にかられたあたしはそのハンカチを思いっきり引き裂いていた。

お互いに何かを約束していたわけではなかったが、そんなものは暗黙の了解だと思っていた。
彼と一緒にベッドに入る。
あたしに背中を向けたとき、あたしは彼の背中に爪あとを見つけた。

それは・・・・

あたし以外の女の爪あと・・・・

今度ばかりはそれを許すことが出来なかった。
だから思いっきりひっかいてやった。
彼の背中を、彼の背中につけられていたあたし以外の女がつけた爪あとを・・


そんなことをした後でも彼はあたしを許してくれる。

朝になれば抱きしめていつものように優しくあたしの頭を撫でてくれる。

そんな生活もあの女が乗り込んで来るまでだった。
部屋の呼び出し音が鳴ると、さっきまで裸であたしと一緒に寝ていた男は嬉しそうに玄関へと向かって行った。

だからあたしも仕方なくベッドから飛び降りると玄関へと歩いて行く。

あの女と決着をつける為だ。



小さな音が床を鳴らしていた。




そろそろ爪を切らなくてはいけない。





あたしは玄関で彼の横に立つと彼の脚元へと身体をこすりつけた。



「道明寺、この子があたしのライバルなのね?」

そう言われた彼は優しいほほ笑みを彼女に向けていた。
そのほほ笑みはあたしだけのものだったはずだ。



あたしは床から持ち上げられると彼の腕の中から彼女の腕の中へと収まっていた。

「よろしくね。私はつくしって言うの」


それはあたしの名前・・・



彼が愛おしそうに呼んでくれていた名前。



彼がいつもあたしを呼ぶときと同じ名前だった。






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