人は決してひとりでは生きていけない生き物だと知ったのは、司が17歳の時だった。
それまでは広い邸で殆どひとり暮らしと変わらないような生活をしていた。
そんな中で出会ったひとり少女。
その少女と出会ったことで彼の人生は180度変わった。
人は自分を温かく見守ってくれる人間が傍にいてくれることで、どんなことでも成し遂げることが出来ると知った。それは励ましの言葉であったり、助言であったりする。
自分が必要とされていると知った人間には、生きる希望と勇気が湧いてくる。
それに愛は起こるものではない。努力して手に入れるものだ。
だから俺は努力して牧野を手に入れた。
その結果、飼い慣らせない危険な男と言われる俺が飼いならされていた。
それも小さな女に。
いいんだ。
俺は好きで牧野に飼い慣らされたんだ。
そうだ。飼い慣らされることを望んだのは俺だ。
あいつだけが俺を好きにしていい。
その権利はあいつだけのものだ。
そんな俺にとって牧野は単なる牧野じゃねぇ。
牧野は俺自身だ。
前にも言ったと思うが、もう一度念のために言っておく。
一度ならず二度でも三度でも言っておく。
俺にとって牧野は仕事より大切だ。
どんなときも、いつでも、どこでも、とにかくあいつが俺にとって一番の重要案件。
牧野のことは不可侵の聖域と言ってもいい。
何人も足を踏み入れるべからず。
まさにサンクチュアリ。
そんな俺の牧野がインフルエンザにかかった。
その状況で俺がのんびり仕事なんかしていられると思うか?
出来るわけねぇだろ?
おい西田! それなのになんでこんなに書類をまわして来るんだ?
おまえは俺を発狂させたいのか?
おまえだってわかってるはずだ。
俺はあいつのことが心配で後ろ髪を引かれる思いで出社したってのにこの仕打ちか?
西田!俺を帰らせろ!
今すぐだ!
昨日の夜は熱烈に愛し合ったってのに、朝目覚めたら隣で寝てる牧野の様子がおかしいと気づいた。
抱えた体は熱いが震えていた。
医者か?もちろんすぐに呼び寄せた。治療薬も飲ませた。
邸から使用人も呼んであいつの様子を見させてる。
それでも俺が傍についてねぇと困まんだろ?
あいつが一番必要としてるのは俺だろうが!
クソッ!
西田は鬼か!
こいつは鬼軍曹か!
俺がこんな精神状態で仕事が捗るとでも思ってんのか?
てめぇ、いっぺん地獄の釜でケツ洗って来い!
普段、司の感情は無いのではないかと言われるほどつくし以外には反応しない。
だがひと度、牧野つくしのことを考え始めると、感情を液体のように垂れ流しの状態となる。
その液体が足もとまで流れてくると非情に厄介なことになるのを西田は知っている。
それに司は自分では自制心が強いと思っているようだが、西田に言わせれば牧野つくしのことになると、自制の欠片どころか、制御不能になっていた。
「支社長。そちらの書類の承認をお済ませになられましたら、本日の業務は終了でございます」
「・・終わりか?」
「はい」
「帰っていいのか?」
司は先ほどまでの態度とは打って変わってそわそわとし始めた。
「はい。本日午後からお約束をいたしておりました皆様方には、支社長の体調が優れませんとお伝えし、予定を変更していただくようにお願い致しましたので支社長はお帰り下さい」
「マジか!おまえも気が利くじゃねぇかよ?」
「いえ。決して気が利く問題ではなく、牧野様のことで気がそぞろの支社長では仕事になりませんので」
そうは言っても西田はつくしのことを心から心配しているようだ。
「・・もし、明日も気になるようでしたら、お休み頂いてもかまいません。支社長にもたまにはお休みをお取り頂きませんと、秘書課の人間も休みが取りにくくなりますので」
司が休むことで、秘書課の人間も休みを取りやすくなるという口実をつけるところが西田らしい。さすが気遣いの出来る男は違う。
司は西田の許しを得ると、脱兎のごとく執務室を後にし、自宅マンションに向かった。
***
「おい。牧野の具合はどうだ?」
「はい。お薬のおかげでお熱も下がってまいりました」
「そうか。後は俺が面倒みるからおまえは邸に帰れ」
司は使用人を帰らせると、ベッドの端に腰を下ろした。
最近のインフルエンザは特効薬のおかげで、熱が下がるのが早い。
・・牧野?
もう熱は下がったのか?
司はつくしの頬に軽く手を触れた。
クソッ。まだ熱いな。
こいつには俺が夏風邪をひいたとき、看病してもらった。
メロンが喰いてぇなんていう俺の我儘も快く聞き入れてくれた。
いや?
待てよ?
あの風邪はもともと牧野の風邪だったのが俺に移ったんだったよな?
「・・・」
まあいい。
あのとき、俺の面倒はおまえが責任を持ってみてあげる。なんてことを言われた。
「牧野。おまえの面倒は俺が責任を持ってみてやるから安心しろ」
司は言うとつくしの額の乗せられているタオルを換えていた。
司は上着を脱いだ。
次にネクタイを外しシャツを脱いだ。
そしてベルトを外すと、スラックスを脱ぎ、靴下までも脱いだ。
最後に下着も脱ぐとベッドに入った。
彼は横を向いてつくしの体をそっと抱きしめた。
体と体をくっつけ、顔はつくしのおでこに額を当てた。
すると無意識なのか、つくしは司の体を抱きしめてきた。
胸を押し付け、腹を、太腿は司の体に巻きついてきた。
当然だがその行為に司の体は反応した。
「・・まきの?」
声をかけたが返事はない。
こいつが無意識に体を押し付けてくるのは、ここに俺がいるからで別に俺が欲しいわけじゃねぇってことくらいわかってる。
言っとくが、俺だって服を脱いだが別に何かしようだなんて思ってねぇからな。
司は自分の崇高な意図を思い出そうとした。
つくしをただ、抱きしめてやりたいという思い。
俺が傍にいるから安心しろという思いを伝えるために抱きしめていた。
ビジネスでの俺は自制心の塊のような男だと言われている。
だが司の自制心はいま、あっさりと・・・消えた。
指が勝手に動いていた。
司はつくしパジャマのボタンをゆっくりと外しはじめていた。
・・やっぱりまずいか?
・・こいつ弱ってんのに・・
・・けど。
今の俺はあの時のメロンよりもこいつのイチゴが食いたい。
・・イチゴ。
それは白い胸の頂きを飾る司にとっての極上スィーツ。
何度でも食べたくなる中毒性を持つ最強の甘さ。
口に含んで舌で転がすと硬く尖って俺を誘う。
やさしくそっと咥え、おまえの胸に俺の顔をゆだねる。
それは一緒にいたいからの行為。
今の俺にはこれほど自然な行為はない。
唇が開かれるのを見ながら、そっと、やさしく乳房を撫でる。
今はそれだけで十分だ。
かつて高校生の頃の俺は、素手で人を殺すことが出来る男と言われていた。
容赦を知らない野獣のような男と言われ恐れられていた俺。
そんな男が飼い慣らされたのは自分よりも小さな女。
それはまさに猛獣使い。
そんな女に俺はベタ惚れだ。
惚れたのか。それとも牧野つくしに取り憑かれたのか、そんなことはどうでもいい。
小さな体に似合わないパワーを持つ女。
細いこの腕で俺に立ち向かってきた女。
そんな女が愛おしくて、何かあったらと心配で、夜も眠れないこともある。
本当は毎日こうして抱き合って眠りたい。
牧野。
早く良くなれ。
誰もおまえの代わりにはならないから。
おまえの辛い顔は見たくない。
「うそ!あたしどうしてパジャマ着てないの?」
つくしは目覚めた瞬間、自分が裸で寝ていることに驚愕した。
「ああ。おまえ熱出してたから暑くて勝手に脱いだみてぇだぞ?」
「・・そう、そうなのかなぁ」
上目遣いでベッドの傍に立つ司を見る女。
彼は既に最高のビジネススタイルでそこにいた。
「なんだよ?その目は!俺が何かしたって言うのか?」
「・・そんなんじゃないけど、なんだか変な夢見ちゃって・・」
「なんだ?どんな夢見たんだよ?俺に教えろよ?まさかおまえ熱出してんのにイヤラシイ夢見てたんじゃねぇんだろうな?」
つくしは司の顔を窺いながら、何か言いかけたが止めた。
「えっ?な、なんでもないから。あっ!ヤバイ、道明寺時間!ほら早く行って。西田さん待ってるんでしょ?」
「それより、体の具合はどうなんだ?まだ辛いなら俺がついててやるぞ?」
「だ、大丈夫だから!ほら、もうなんだか食欲も出て来たみたいだし。大丈夫だから・・」
「そうか?」
「うん。本当に大丈夫だから。会社に行って?」
「わかった。でもなんかあったらすぐに連絡しろよ?」
「・・うん」
司はつくしの髪を愛おしそうにひと撫ですると、背中を向け、部屋を出て行こうとした。
「あ、あのねっ・・道明寺・・ありがとう。昨日・・早く帰って来てくれたんでしょ?はっきりと覚えてないんだけど、道明寺が傍にいてくれたのはわかったの。仕事中に帰って来てくれたんでしょ?あたし西田さんに謝らなきゃね。道明寺の大切な時間をあたしのために使わせちゃってごめんなさいって」
司は振り返るとつくしの元へと近寄った。
「・・牧野。おまえが気にすることじゃねぇ。俺がおまえの事ばかり考えて仕事になんねぇってことくらい西田もわかってる。だからいいんだ。仕事はいつでもできる。けど、おまえが苦しんでるってのに、ほっとけるか?そんなこと俺には出来ねぇな。第一、おまえを気にしながら会社にいていい仕事が出来ると思うか?俺には無理だな。人は心配事があったら物事に集中出来ねぇだろ?だから気にするな。俺の気が済むようにさせてくれたらいいんだ。な?」
例えば。の話だ。
もし牧野が病気になったとしよう。
愛する女が病気になったら俺はどうすると思う?
全力でその病を治してやるに決まってる。
金なんか問題じゃねぇ。世界中の名医を集め、最先端の医療技術を用い、神や仏も呼びつけてどんなことをしても治してやる。
だから、牧野。
俺より長生きしてくれ。
俺を残して先に行くな。
それだけは約束してくれ。
いや。誓ってくれ。
俺もおまえより長生きしてやるよ。
追いかけるのはいつも俺って決まってるから。
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その少女と出会ったことで彼の人生は180度変わった。
人は自分を温かく見守ってくれる人間が傍にいてくれることで、どんなことでも成し遂げることが出来ると知った。それは励ましの言葉であったり、助言であったりする。
自分が必要とされていると知った人間には、生きる希望と勇気が湧いてくる。
それに愛は起こるものではない。努力して手に入れるものだ。
だから俺は努力して牧野を手に入れた。
その結果、飼い慣らせない危険な男と言われる俺が飼いならされていた。
それも小さな女に。
いいんだ。
俺は好きで牧野に飼い慣らされたんだ。
そうだ。飼い慣らされることを望んだのは俺だ。
あいつだけが俺を好きにしていい。
その権利はあいつだけのものだ。
そんな俺にとって牧野は単なる牧野じゃねぇ。
牧野は俺自身だ。
前にも言ったと思うが、もう一度念のために言っておく。
一度ならず二度でも三度でも言っておく。
俺にとって牧野は仕事より大切だ。
どんなときも、いつでも、どこでも、とにかくあいつが俺にとって一番の重要案件。
牧野のことは不可侵の聖域と言ってもいい。
何人も足を踏み入れるべからず。
まさにサンクチュアリ。
そんな俺の牧野がインフルエンザにかかった。
その状況で俺がのんびり仕事なんかしていられると思うか?
出来るわけねぇだろ?
おい西田! それなのになんでこんなに書類をまわして来るんだ?
おまえは俺を発狂させたいのか?
おまえだってわかってるはずだ。
俺はあいつのことが心配で後ろ髪を引かれる思いで出社したってのにこの仕打ちか?
西田!俺を帰らせろ!
今すぐだ!
昨日の夜は熱烈に愛し合ったってのに、朝目覚めたら隣で寝てる牧野の様子がおかしいと気づいた。
抱えた体は熱いが震えていた。
医者か?もちろんすぐに呼び寄せた。治療薬も飲ませた。
邸から使用人も呼んであいつの様子を見させてる。
それでも俺が傍についてねぇと困まんだろ?
あいつが一番必要としてるのは俺だろうが!
クソッ!
西田は鬼か!
こいつは鬼軍曹か!
俺がこんな精神状態で仕事が捗るとでも思ってんのか?
てめぇ、いっぺん地獄の釜でケツ洗って来い!
普段、司の感情は無いのではないかと言われるほどつくし以外には反応しない。
だがひと度、牧野つくしのことを考え始めると、感情を液体のように垂れ流しの状態となる。
その液体が足もとまで流れてくると非情に厄介なことになるのを西田は知っている。
それに司は自分では自制心が強いと思っているようだが、西田に言わせれば牧野つくしのことになると、自制の欠片どころか、制御不能になっていた。
「支社長。そちらの書類の承認をお済ませになられましたら、本日の業務は終了でございます」
「・・終わりか?」
「はい」
「帰っていいのか?」
司は先ほどまでの態度とは打って変わってそわそわとし始めた。
「はい。本日午後からお約束をいたしておりました皆様方には、支社長の体調が優れませんとお伝えし、予定を変更していただくようにお願い致しましたので支社長はお帰り下さい」
「マジか!おまえも気が利くじゃねぇかよ?」
「いえ。決して気が利く問題ではなく、牧野様のことで気がそぞろの支社長では仕事になりませんので」
そうは言っても西田はつくしのことを心から心配しているようだ。
「・・もし、明日も気になるようでしたら、お休み頂いてもかまいません。支社長にもたまにはお休みをお取り頂きませんと、秘書課の人間も休みが取りにくくなりますので」
司が休むことで、秘書課の人間も休みを取りやすくなるという口実をつけるところが西田らしい。さすが気遣いの出来る男は違う。
司は西田の許しを得ると、脱兎のごとく執務室を後にし、自宅マンションに向かった。
***
「おい。牧野の具合はどうだ?」
「はい。お薬のおかげでお熱も下がってまいりました」
「そうか。後は俺が面倒みるからおまえは邸に帰れ」
司は使用人を帰らせると、ベッドの端に腰を下ろした。
最近のインフルエンザは特効薬のおかげで、熱が下がるのが早い。
・・牧野?
もう熱は下がったのか?
司はつくしの頬に軽く手を触れた。
クソッ。まだ熱いな。
こいつには俺が夏風邪をひいたとき、看病してもらった。
メロンが喰いてぇなんていう俺の我儘も快く聞き入れてくれた。
いや?
待てよ?
あの風邪はもともと牧野の風邪だったのが俺に移ったんだったよな?
「・・・」
まあいい。
あのとき、俺の面倒はおまえが責任を持ってみてあげる。なんてことを言われた。
「牧野。おまえの面倒は俺が責任を持ってみてやるから安心しろ」
司は言うとつくしの額の乗せられているタオルを換えていた。
司は上着を脱いだ。
次にネクタイを外しシャツを脱いだ。
そしてベルトを外すと、スラックスを脱ぎ、靴下までも脱いだ。
最後に下着も脱ぐとベッドに入った。
彼は横を向いてつくしの体をそっと抱きしめた。
体と体をくっつけ、顔はつくしのおでこに額を当てた。
すると無意識なのか、つくしは司の体を抱きしめてきた。
胸を押し付け、腹を、太腿は司の体に巻きついてきた。
当然だがその行為に司の体は反応した。
「・・まきの?」
声をかけたが返事はない。
こいつが無意識に体を押し付けてくるのは、ここに俺がいるからで別に俺が欲しいわけじゃねぇってことくらいわかってる。
言っとくが、俺だって服を脱いだが別に何かしようだなんて思ってねぇからな。
司は自分の崇高な意図を思い出そうとした。
つくしをただ、抱きしめてやりたいという思い。
俺が傍にいるから安心しろという思いを伝えるために抱きしめていた。
ビジネスでの俺は自制心の塊のような男だと言われている。
だが司の自制心はいま、あっさりと・・・消えた。
指が勝手に動いていた。
司はつくしパジャマのボタンをゆっくりと外しはじめていた。
・・やっぱりまずいか?
・・こいつ弱ってんのに・・
・・けど。
今の俺はあの時のメロンよりもこいつのイチゴが食いたい。
・・イチゴ。
それは白い胸の頂きを飾る司にとっての極上スィーツ。
何度でも食べたくなる中毒性を持つ最強の甘さ。
口に含んで舌で転がすと硬く尖って俺を誘う。
やさしくそっと咥え、おまえの胸に俺の顔をゆだねる。
それは一緒にいたいからの行為。
今の俺にはこれほど自然な行為はない。
唇が開かれるのを見ながら、そっと、やさしく乳房を撫でる。
今はそれだけで十分だ。
かつて高校生の頃の俺は、素手で人を殺すことが出来る男と言われていた。
容赦を知らない野獣のような男と言われ恐れられていた俺。
そんな男が飼い慣らされたのは自分よりも小さな女。
それはまさに猛獣使い。
そんな女に俺はベタ惚れだ。
惚れたのか。それとも牧野つくしに取り憑かれたのか、そんなことはどうでもいい。
小さな体に似合わないパワーを持つ女。
細いこの腕で俺に立ち向かってきた女。
そんな女が愛おしくて、何かあったらと心配で、夜も眠れないこともある。
本当は毎日こうして抱き合って眠りたい。
牧野。
早く良くなれ。
誰もおまえの代わりにはならないから。
おまえの辛い顔は見たくない。
「うそ!あたしどうしてパジャマ着てないの?」
つくしは目覚めた瞬間、自分が裸で寝ていることに驚愕した。
「ああ。おまえ熱出してたから暑くて勝手に脱いだみてぇだぞ?」
「・・そう、そうなのかなぁ」
上目遣いでベッドの傍に立つ司を見る女。
彼は既に最高のビジネススタイルでそこにいた。
「なんだよ?その目は!俺が何かしたって言うのか?」
「・・そんなんじゃないけど、なんだか変な夢見ちゃって・・」
「なんだ?どんな夢見たんだよ?俺に教えろよ?まさかおまえ熱出してんのにイヤラシイ夢見てたんじゃねぇんだろうな?」
つくしは司の顔を窺いながら、何か言いかけたが止めた。
「えっ?な、なんでもないから。あっ!ヤバイ、道明寺時間!ほら早く行って。西田さん待ってるんでしょ?」
「それより、体の具合はどうなんだ?まだ辛いなら俺がついててやるぞ?」
「だ、大丈夫だから!ほら、もうなんだか食欲も出て来たみたいだし。大丈夫だから・・」
「そうか?」
「うん。本当に大丈夫だから。会社に行って?」
「わかった。でもなんかあったらすぐに連絡しろよ?」
「・・うん」
司はつくしの髪を愛おしそうにひと撫ですると、背中を向け、部屋を出て行こうとした。
「あ、あのねっ・・道明寺・・ありがとう。昨日・・早く帰って来てくれたんでしょ?はっきりと覚えてないんだけど、道明寺が傍にいてくれたのはわかったの。仕事中に帰って来てくれたんでしょ?あたし西田さんに謝らなきゃね。道明寺の大切な時間をあたしのために使わせちゃってごめんなさいって」
司は振り返るとつくしの元へと近寄った。
「・・牧野。おまえが気にすることじゃねぇ。俺がおまえの事ばかり考えて仕事になんねぇってことくらい西田もわかってる。だからいいんだ。仕事はいつでもできる。けど、おまえが苦しんでるってのに、ほっとけるか?そんなこと俺には出来ねぇな。第一、おまえを気にしながら会社にいていい仕事が出来ると思うか?俺には無理だな。人は心配事があったら物事に集中出来ねぇだろ?だから気にするな。俺の気が済むようにさせてくれたらいいんだ。な?」
例えば。の話だ。
もし牧野が病気になったとしよう。
愛する女が病気になったら俺はどうすると思う?
全力でその病を治してやるに決まってる。
金なんか問題じゃねぇ。世界中の名医を集め、最先端の医療技術を用い、神や仏も呼びつけてどんなことをしても治してやる。
だから、牧野。
俺より長生きしてくれ。
俺を残して先に行くな。
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