人に何かしてもらおうと思えば、相手を褒めちぎることが一番だ。
褒めて、褒めて、ひたすら褒めて、相手が恥ずかしくなるほど褒めることが重要だ。
もう止めてくれと言われてもひたすら褒める。
それは子供の教育にも言える。
褒めて伸ばすという教育だ。褒めることで自信が生まれ、認められたという意識が働く。
そしてそれは信頼してもらったという喜びに変わる。
だが司は親から褒められた覚えがない。
どちらかと言えば放任主義の家庭環境で育てられていた。
そんな彼は元々頭がよかったから放任されても問題なかった。
それに相手に対して友好的な態度を取ることも重要だ。
こちらが相手に対し友好的な態度を示せば、相手も態度を軟化させる。
逆に攻撃的な態度を見せれば、相手も同じく攻撃的な態度を見せる。
俺はこの解釈を誤ったばかりに牧野との始まりを間違えた。
あいつに対して攻撃的な態度で臨んだばかりに、痛い目にあったことは数限りなくあった。
まあそれも今となってはそれもいい思い出だ。
ちなみに悪態をつくのは心の健康にはいいらしい。
そうなると過去に散々悪態をついていたのは、心の健康のためだったということだ。
確かに昔の俺は心が病んでたって言われていたが、今は心の健康ってのが如何に大切な事かと思えるのは全て牧野のおかげだ。
そんな俺もたまに悪態をつくこともあるが、そんな態度を牧野に見つかるとお叱りを受けることになる。
そんなとき、つまり牧野が口うるさくなり始めたら、俺はひたすら牧野を褒めるという態度に出ることにしている。
まず褒められるのが嫌な人間はいないはずだ。
機嫌の悪い牧野も褒められ続ければ、あの口も少しは大人しくなってくれる。
なあ、牧野。
心の健康ってことが大切だってことはもう十分わかった。
だから今度は体の健康のことを考えてもらいたいと思うのは俺のわがままか?
そんな中での妄想は人生の薬味。
妄想は日常の生活に活力と想像力を与えてくれるはずだ。
つまりスパイスだ。
長い人生のなか、刺激を求めることも大切だろ?
それが脳の活性化に役立ち、ひいてはこの会社のために役立つともなれば、あいつも俺を拒むことなんて出来ねぇはずだ。
それに心と体が別物だなんてことを考える男もいるらしいが、俺の場合は心も体も常に一緒で、牧野のことしか考えてない。
いいか?そこが一番重要だ。
つまり心と体は一緒の行動を取るべきであって、心と体がウラハラだなんていうこと自体が信じられねぇな。
そんな俺が体の健康のことを考えるとき。
まずは牧野を褒めることから始める。
褒め殺しなんて言葉もあるが、あいつを殺してどうすんだよ?
牧野が死んだら俺は一生右手だけになるじゃねぇかよ!
そんなことになったら困るのは俺じゃねえぇかよ!
褒めても殺すんじゃなくて、天国に連れてってやるのが彼氏の役目だろ?
褒めて、天国に連れて行く・・
まぁ、ヤリ方なら幾らでもある。
ただ、あんまし熱心に褒めるとなんか下心があるんじゃねーかって思うのが人間だ。
だから褒められたことを素直に喜べない人間も多い。
だけどな。
俺が褒める相手は牧野以外にいねぇんだから素直に喜べ。
ありがとうって言え。
「なあ、牧野。おまえはかわいいな」
「ど、どうしたのよ?急に?」
「なんだよ?彼氏が彼女を褒めて何がわりぃって言うんだよ?おまえ、俺に褒められることが不満なのか?迷惑なのか?俺の行為は迷惑行為なのか?迷惑防止条例違反か?」
「べ、別にそんなこと・・」
「だろ?牧野。おまえは綺麗だ」
「だから、ど、どうしたのよ?道明寺なんか変よ?」
「何が変なんだよ?牧野。すげぇ綺麗だ」
「だ、だって・・なんでいちいち・・そんな・・えっと・・」
「なんだよ?俺に褒められるのがそんなに嫌なのか?それにいつも言ってることじゃねぇかよ、ベッドの中で」
「で、でもっ、どうしてそんなこと急に・・」
だから素直じゃねぇって言うんだよ、この女は!
褒められたら素直にありがとうって言えばいいんだよ!
でもって感謝の印に俺に抱きついてキスなんかしてくれたらもっといいんだが、それを期待するのは無理だよな?
何しろここはパーティー会場のど真ん中だ。
そうだ。どうでもいいパーティーだが、俺も会社の代表としての勤めっていうのがあるからな。勿論そんなパーティーに同伴するのは、いとしの牧野。
今日のこいつはいつもと違って俺の贈ったパーティードレスに踵の高い靴。
それに髪は頭の後ろの高い位置で纏められていた。
やべぇ・・・
俺の贈ったドレスってこんなに露出してたか?
なんか布の面積が少くねぇが、こんなモンか?
けど、両肩出して細せっぇ腕も丸見えだし、胸なんて今にも見えそうじゃねぇかよ!
それになんだよ、そのスケスケの足元は!太腿から下のその生地の薄さはなんだよ!
冷えは女の大敵だなんて言ってたけど、そんなんでいいのかよ!
それに体のラインに沿うドレスは下着のラインが出るとかで着けねぇって聞いた。
おまえ・・パンツ履いてるのか?
まさか履いてねぇなんてことねぇよな?
それにしてもこんなじゃ他の男の視線を集めまくりじゃねぇかよ!
まじやべぇ・・
他の男どころか俺がやべぇ・・
こいつ25センチ下からなんか出してんじゃねぇのか?
っうか、この女こんなに色っぽかったか?
昔俺に向かって跳び蹴りして来た女だぞ?
おまけにいつまでたっても俺のことを好きって言わなかった素直じゃねぇ女だぞ?
好きだ、愛してるだの言ってるのはいつも俺の方で、この女は普段全くそんなこと口にしねぇ女だぞ?
それなのに、どうして今夜に限ってそんなに艶っぽいんだよ!
まさか、なんかヤッてんのかこいつ?いや。そんな訳ねぇか・・
とにかく、こんなに色っぽい女をどこの馬の骨かわかんねぇような男どもの視線の前にさらすなんてことが出来るわけねぇ!
「牧野、ちょっと来い」
「え?なに?ど、どこ行くのよ・・」
「帰る」
「ええっ!だ、だって来たばっかりじゃない!」
「いいんだよ。顔だけ見せりゃそれで終わりだ!」
「いや。でもちょっと、いくらなんでも早すぎるでしょ?」
「るせぇ・・・・だよ・・」
「えっ?なに・・?」
「・・出来ねぇんだよ!」
「な、なにが?」
「おまえを抱きたくて我慢が出来ねぇんだよ!どーしてくれるんだよっ!責任取れ!見ろこんなになってんだぞ!」
と言ってつくしの手を掴むと下半身に押し当てた。
途端、固まったつくし。
「おまえ、俺の心と体の心配してくれるなら、責任とってくれるよな?この責任」
「ちょっと・・」
「だから責任問題」
「なにが責任・・」
「使用者責任つぅやつだ。俺とおまえは雇用関係にあるんだ。おまえが他人に損害を与えたときは、俺が損害賠償をしなきゃなんねぇ。だからこれから責任を取っておまえを愛してやる」
「な、なに?なにそれ?意味が全然わかんないじゃない!道明寺は被害者でも何でもないじゃない!それに他人に損害って、あたしが何の損害与えてるの・・」
「いいや。俺はおまえの被害者でもあり責任者だ。見ろ。パーティーだってのに、こんな状態でひと前に立つことなんて出来ねぇじゃねぇかよ?ま、ここは立ってるけどな」
「ちょっ!あ、あたしの手、う、動かさないでよっ!」
「だから責任問題。この会場に来てる面子に合わせるツラねーってことで」
「えっ・・ちょっとどこ行くのよ!」
「どこってどこがいいんだ?なんなら近場のトイレでもいいが?」
司はそれだけ言うと涼しい顔をした。
早くしてくれと苦悩にうごめくのは俺のムスコ。
だがここから先は牧野の次第だ。
何そんなに真剣な顔してんだよ?
悩んでんのか?
けどそんなところもかわいい。
こいつはいつまでたっても初心なんだよな。
つーか、いい加減その赤面やめろ。俺たち今まで何十回、いや何百回ってヤッてんだろ?
それにたまにはおまえから俺を求めてくんねぇかな・・
もっと俺を欲しがってくんねぇ?
そうは言っても俺は無理言わねぇから、嫌なら嫌だって言ってくれたらいいんだぞ?
俺はおまえに無理なことはさせたくない。
だから・・
だが返された言葉は_
「わ、わかったわ・・」
それだけ聞けば十分だった。
俺はその場所で牧野をぎゅっと抱きしめた。
ホテルの部屋に灯る明かりは、部屋の片隅に置かれているナイトスタンドの明かり。
薄いオレンジの光りは互いの顔を見るには充分の明るさだ。
タキシードの男とイブニングドレスの女は、互いの洋服を脱がせることだけを考えているか、言葉はなかった。
男の襟もとの蝶ネクタイの結び目を解くことが難しいのか、女の指先はいつまでも男の喉元にあった。
昔は待つのが得意だった男も、今は我を忘れたように女の唇を貪りながら、背中のファスナーを探していた。だが、見つからなかったのか、それとも我慢が出来なくなったのか、彼の両手はドレスの背中を真ん中からふたつに引き裂いた。
そんなとき、女が返す言葉は、『新しいドレスなら売るほどあるから買わないで』。
だが、彼は女のために買い物をするのが嬉しくて仕方がない男だ。
望めばどんなものでも買ってやる。
それが例え宇宙の彼方にあるものだとしても、どんな手段を用いても手に入れてやる。
そう言うと女はいつも、『あんたの買い物につき合うほど暇じゃないの』
と笑って断っていた。
司は牧野つくし以外興味がない。
牧野つくし以外の女は考えられない。
だから彼女の言葉が彼の全て。
彼女が望むことをすることが彼の幸せ。
その目に涙が浮かぶのは見たくないから、いつも笑顔でいて欲しいから、そのためには、どんなことでもするつもりの男。
それが彼、道明寺司という男。
牧野つくしを称えて紙吹雪を撒いてパレードをしてもいいほど崇拝していた。
毎晩でも愛し合いたいと思うのは男としての本能か。
いや。違う。好きだから。愛しているから抱き合いたい。
磁石の対極が引き合って離れないのと同じように、一度結び付いたら離れたくないのが本音だ。決して離れたくないと、二度と離れたくないと心と体の結びつきを何度も確かめたくなるのは、愛しているから。愛さずにはいられないからだ。
司はドレスを脱がせると、自らのタキシードを脱ぎ捨てた。
床に無造作に脱ぎ捨てられた男と女の衣裳は、所詮見かけだけの装いだ。
本当の二人は今、ここにこうして生まれたままの姿でいる。
これまでの人生の中、互いに相手はひとりだけ。
男も女も互いが初めての相手。
司の下半身は牧野つくし以外興味がない。
息つく暇もないほどに口づけを繰り返し、女の足を浮かび上がらせ抱き上げた。
ベッドに横たえ、両手を広げ、女の腰を掴んだが、思わず入った力に恐らく痣が出来るはずだ。
力の差は歴然だ。だが、その細い腰も、かわいらしく上を向く小さな胸も、全てが彼のものだとわかっていた。そして、彼もまた目の前の女の全てが彼のものだと主張していた。
組敷いて、のしかかる大きな体を歓迎してくれることが、司にとっての喜びだ。
いつも戻りたいのは彼女の傍で、いて欲しいのは彼の隣。
唇から漏れる己の名前に、彼が力強く突き入れる度に漏れる名前に、女が自分だけのものだと世界中に向かって叫びたかった。
どんな名声よりも、彼女の口から漏れる己の名前を聞く最後の瞬間、自分が如何にこの女の前では無力であるかということに気づかされていた。
愛してる。
だから、これからもずっと俺といてくれ。
ただそれだけが司の望みだった。
好きで好きでたまらなかった女を手に入れてからの彼は、人生が一変していた。
そんな女のために軟弱になる姿を見るのは、崇拝されている女と彼の近しい友人だけ。
友人達が彼にかける言葉は
「おまえ、牧野と結婚したら溺愛し過ぎてあいつ溺愛っていう海の中で溺れちまうぞ?」
とまで言われる始末だ。
「なんで俺があいつを殺さなきゃなんねぇんだよ!あいつには俺っていう救命胴衣があるだろうが!」
「おまえは救命胴衣ってよりも、あいつと一緒に沈んで行きそうだな」
愛に溺れるって意味ならそれは当たってる。
確かに俺は17であいつと出会ってからずっとあいつに溺れてるってのが正しい。
あいつの中で溺れ死んでもいいと思うくらいなんだから仕方ねぇよな?
いつも素直じゃねぇ女が素直に甘い言葉を返すってことを知ってるのは俺だけ。
互いを深く愛してるからこその行為の間に唇から漏れる名前もつかさの3文字だけ。
昔バカな男だった俺をここまでの男にしてくれたのはあいつ。
だから俺はおまえには一生の借りがある。
おまえに出会わなかったら、俺は今まで生きていなかったかもしんねぇ。
それに好きな女のために、捨て身になる男なんて理解出来なかったが、今はそう言ったことが全て理解出来る。
牧野。
俺のためにおまえの隣を空けておいてくれて、愛を返してくれて、愛してくれて感謝してる。
これから先も時が果てるまでずっと一緒にいてくれ。
ただ、それだけでいいから。
おまえは俺の精神安定剤。
いや、違うな。おまえは俺の生きる源だ。
だからこれから先も一生俺の隣で笑ってくれ。
それが俺の生涯の望みだから。

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褒めて、褒めて、ひたすら褒めて、相手が恥ずかしくなるほど褒めることが重要だ。
もう止めてくれと言われてもひたすら褒める。
それは子供の教育にも言える。
褒めて伸ばすという教育だ。褒めることで自信が生まれ、認められたという意識が働く。
そしてそれは信頼してもらったという喜びに変わる。
だが司は親から褒められた覚えがない。
どちらかと言えば放任主義の家庭環境で育てられていた。
そんな彼は元々頭がよかったから放任されても問題なかった。
それに相手に対して友好的な態度を取ることも重要だ。
こちらが相手に対し友好的な態度を示せば、相手も態度を軟化させる。
逆に攻撃的な態度を見せれば、相手も同じく攻撃的な態度を見せる。
俺はこの解釈を誤ったばかりに牧野との始まりを間違えた。
あいつに対して攻撃的な態度で臨んだばかりに、痛い目にあったことは数限りなくあった。
まあそれも今となってはそれもいい思い出だ。
ちなみに悪態をつくのは心の健康にはいいらしい。
そうなると過去に散々悪態をついていたのは、心の健康のためだったということだ。
確かに昔の俺は心が病んでたって言われていたが、今は心の健康ってのが如何に大切な事かと思えるのは全て牧野のおかげだ。
そんな俺もたまに悪態をつくこともあるが、そんな態度を牧野に見つかるとお叱りを受けることになる。
そんなとき、つまり牧野が口うるさくなり始めたら、俺はひたすら牧野を褒めるという態度に出ることにしている。
まず褒められるのが嫌な人間はいないはずだ。
機嫌の悪い牧野も褒められ続ければ、あの口も少しは大人しくなってくれる。
なあ、牧野。
心の健康ってことが大切だってことはもう十分わかった。
だから今度は体の健康のことを考えてもらいたいと思うのは俺のわがままか?
そんな中での妄想は人生の薬味。
妄想は日常の生活に活力と想像力を与えてくれるはずだ。
つまりスパイスだ。
長い人生のなか、刺激を求めることも大切だろ?
それが脳の活性化に役立ち、ひいてはこの会社のために役立つともなれば、あいつも俺を拒むことなんて出来ねぇはずだ。
それに心と体が別物だなんてことを考える男もいるらしいが、俺の場合は心も体も常に一緒で、牧野のことしか考えてない。
いいか?そこが一番重要だ。
つまり心と体は一緒の行動を取るべきであって、心と体がウラハラだなんていうこと自体が信じられねぇな。
そんな俺が体の健康のことを考えるとき。
まずは牧野を褒めることから始める。
褒め殺しなんて言葉もあるが、あいつを殺してどうすんだよ?
牧野が死んだら俺は一生右手だけになるじゃねぇかよ!
そんなことになったら困るのは俺じゃねえぇかよ!
褒めても殺すんじゃなくて、天国に連れてってやるのが彼氏の役目だろ?
褒めて、天国に連れて行く・・
まぁ、ヤリ方なら幾らでもある。
ただ、あんまし熱心に褒めるとなんか下心があるんじゃねーかって思うのが人間だ。
だから褒められたことを素直に喜べない人間も多い。
だけどな。
俺が褒める相手は牧野以外にいねぇんだから素直に喜べ。
ありがとうって言え。
「なあ、牧野。おまえはかわいいな」
「ど、どうしたのよ?急に?」
「なんだよ?彼氏が彼女を褒めて何がわりぃって言うんだよ?おまえ、俺に褒められることが不満なのか?迷惑なのか?俺の行為は迷惑行為なのか?迷惑防止条例違反か?」
「べ、別にそんなこと・・」
「だろ?牧野。おまえは綺麗だ」
「だから、ど、どうしたのよ?道明寺なんか変よ?」
「何が変なんだよ?牧野。すげぇ綺麗だ」
「だ、だって・・なんでいちいち・・そんな・・えっと・・」
「なんだよ?俺に褒められるのがそんなに嫌なのか?それにいつも言ってることじゃねぇかよ、ベッドの中で」
「で、でもっ、どうしてそんなこと急に・・」
だから素直じゃねぇって言うんだよ、この女は!
褒められたら素直にありがとうって言えばいいんだよ!
でもって感謝の印に俺に抱きついてキスなんかしてくれたらもっといいんだが、それを期待するのは無理だよな?
何しろここはパーティー会場のど真ん中だ。
そうだ。どうでもいいパーティーだが、俺も会社の代表としての勤めっていうのがあるからな。勿論そんなパーティーに同伴するのは、いとしの牧野。
今日のこいつはいつもと違って俺の贈ったパーティードレスに踵の高い靴。
それに髪は頭の後ろの高い位置で纏められていた。
やべぇ・・・
俺の贈ったドレスってこんなに露出してたか?
なんか布の面積が少くねぇが、こんなモンか?
けど、両肩出して細せっぇ腕も丸見えだし、胸なんて今にも見えそうじゃねぇかよ!
それになんだよ、そのスケスケの足元は!太腿から下のその生地の薄さはなんだよ!
冷えは女の大敵だなんて言ってたけど、そんなんでいいのかよ!
それに体のラインに沿うドレスは下着のラインが出るとかで着けねぇって聞いた。
おまえ・・パンツ履いてるのか?
まさか履いてねぇなんてことねぇよな?
それにしてもこんなじゃ他の男の視線を集めまくりじゃねぇかよ!
まじやべぇ・・
他の男どころか俺がやべぇ・・
こいつ25センチ下からなんか出してんじゃねぇのか?
っうか、この女こんなに色っぽかったか?
昔俺に向かって跳び蹴りして来た女だぞ?
おまけにいつまでたっても俺のことを好きって言わなかった素直じゃねぇ女だぞ?
好きだ、愛してるだの言ってるのはいつも俺の方で、この女は普段全くそんなこと口にしねぇ女だぞ?
それなのに、どうして今夜に限ってそんなに艶っぽいんだよ!
まさか、なんかヤッてんのかこいつ?いや。そんな訳ねぇか・・
とにかく、こんなに色っぽい女をどこの馬の骨かわかんねぇような男どもの視線の前にさらすなんてことが出来るわけねぇ!
「牧野、ちょっと来い」
「え?なに?ど、どこ行くのよ・・」
「帰る」
「ええっ!だ、だって来たばっかりじゃない!」
「いいんだよ。顔だけ見せりゃそれで終わりだ!」
「いや。でもちょっと、いくらなんでも早すぎるでしょ?」
「るせぇ・・・・だよ・・」
「えっ?なに・・?」
「・・出来ねぇんだよ!」
「な、なにが?」
「おまえを抱きたくて我慢が出来ねぇんだよ!どーしてくれるんだよっ!責任取れ!見ろこんなになってんだぞ!」
と言ってつくしの手を掴むと下半身に押し当てた。
途端、固まったつくし。
「おまえ、俺の心と体の心配してくれるなら、責任とってくれるよな?この責任」
「ちょっと・・」
「だから責任問題」
「なにが責任・・」
「使用者責任つぅやつだ。俺とおまえは雇用関係にあるんだ。おまえが他人に損害を与えたときは、俺が損害賠償をしなきゃなんねぇ。だからこれから責任を取っておまえを愛してやる」
「な、なに?なにそれ?意味が全然わかんないじゃない!道明寺は被害者でも何でもないじゃない!それに他人に損害って、あたしが何の損害与えてるの・・」
「いいや。俺はおまえの被害者でもあり責任者だ。見ろ。パーティーだってのに、こんな状態でひと前に立つことなんて出来ねぇじゃねぇかよ?ま、ここは立ってるけどな」
「ちょっ!あ、あたしの手、う、動かさないでよっ!」
「だから責任問題。この会場に来てる面子に合わせるツラねーってことで」
「えっ・・ちょっとどこ行くのよ!」
「どこってどこがいいんだ?なんなら近場のトイレでもいいが?」
司はそれだけ言うと涼しい顔をした。
早くしてくれと苦悩にうごめくのは俺のムスコ。
だがここから先は牧野の次第だ。
何そんなに真剣な顔してんだよ?
悩んでんのか?
けどそんなところもかわいい。
こいつはいつまでたっても初心なんだよな。
つーか、いい加減その赤面やめろ。俺たち今まで何十回、いや何百回ってヤッてんだろ?
それにたまにはおまえから俺を求めてくんねぇかな・・
もっと俺を欲しがってくんねぇ?
そうは言っても俺は無理言わねぇから、嫌なら嫌だって言ってくれたらいいんだぞ?
俺はおまえに無理なことはさせたくない。
だから・・
だが返された言葉は_
「わ、わかったわ・・」
それだけ聞けば十分だった。
俺はその場所で牧野をぎゅっと抱きしめた。
ホテルの部屋に灯る明かりは、部屋の片隅に置かれているナイトスタンドの明かり。
薄いオレンジの光りは互いの顔を見るには充分の明るさだ。
タキシードの男とイブニングドレスの女は、互いの洋服を脱がせることだけを考えているか、言葉はなかった。
男の襟もとの蝶ネクタイの結び目を解くことが難しいのか、女の指先はいつまでも男の喉元にあった。
昔は待つのが得意だった男も、今は我を忘れたように女の唇を貪りながら、背中のファスナーを探していた。だが、見つからなかったのか、それとも我慢が出来なくなったのか、彼の両手はドレスの背中を真ん中からふたつに引き裂いた。
そんなとき、女が返す言葉は、『新しいドレスなら売るほどあるから買わないで』。
だが、彼は女のために買い物をするのが嬉しくて仕方がない男だ。
望めばどんなものでも買ってやる。
それが例え宇宙の彼方にあるものだとしても、どんな手段を用いても手に入れてやる。
そう言うと女はいつも、『あんたの買い物につき合うほど暇じゃないの』
と笑って断っていた。
司は牧野つくし以外興味がない。
牧野つくし以外の女は考えられない。
だから彼女の言葉が彼の全て。
彼女が望むことをすることが彼の幸せ。
その目に涙が浮かぶのは見たくないから、いつも笑顔でいて欲しいから、そのためには、どんなことでもするつもりの男。
それが彼、道明寺司という男。
牧野つくしを称えて紙吹雪を撒いてパレードをしてもいいほど崇拝していた。
毎晩でも愛し合いたいと思うのは男としての本能か。
いや。違う。好きだから。愛しているから抱き合いたい。
磁石の対極が引き合って離れないのと同じように、一度結び付いたら離れたくないのが本音だ。決して離れたくないと、二度と離れたくないと心と体の結びつきを何度も確かめたくなるのは、愛しているから。愛さずにはいられないからだ。
司はドレスを脱がせると、自らのタキシードを脱ぎ捨てた。
床に無造作に脱ぎ捨てられた男と女の衣裳は、所詮見かけだけの装いだ。
本当の二人は今、ここにこうして生まれたままの姿でいる。
これまでの人生の中、互いに相手はひとりだけ。
男も女も互いが初めての相手。
司の下半身は牧野つくし以外興味がない。
息つく暇もないほどに口づけを繰り返し、女の足を浮かび上がらせ抱き上げた。
ベッドに横たえ、両手を広げ、女の腰を掴んだが、思わず入った力に恐らく痣が出来るはずだ。
力の差は歴然だ。だが、その細い腰も、かわいらしく上を向く小さな胸も、全てが彼のものだとわかっていた。そして、彼もまた目の前の女の全てが彼のものだと主張していた。
組敷いて、のしかかる大きな体を歓迎してくれることが、司にとっての喜びだ。
いつも戻りたいのは彼女の傍で、いて欲しいのは彼の隣。
唇から漏れる己の名前に、彼が力強く突き入れる度に漏れる名前に、女が自分だけのものだと世界中に向かって叫びたかった。
どんな名声よりも、彼女の口から漏れる己の名前を聞く最後の瞬間、自分が如何にこの女の前では無力であるかということに気づかされていた。
愛してる。
だから、これからもずっと俺といてくれ。
ただそれだけが司の望みだった。
好きで好きでたまらなかった女を手に入れてからの彼は、人生が一変していた。
そんな女のために軟弱になる姿を見るのは、崇拝されている女と彼の近しい友人だけ。
友人達が彼にかける言葉は
「おまえ、牧野と結婚したら溺愛し過ぎてあいつ溺愛っていう海の中で溺れちまうぞ?」
とまで言われる始末だ。
「なんで俺があいつを殺さなきゃなんねぇんだよ!あいつには俺っていう救命胴衣があるだろうが!」
「おまえは救命胴衣ってよりも、あいつと一緒に沈んで行きそうだな」
愛に溺れるって意味ならそれは当たってる。
確かに俺は17であいつと出会ってからずっとあいつに溺れてるってのが正しい。
あいつの中で溺れ死んでもいいと思うくらいなんだから仕方ねぇよな?
いつも素直じゃねぇ女が素直に甘い言葉を返すってことを知ってるのは俺だけ。
互いを深く愛してるからこその行為の間に唇から漏れる名前もつかさの3文字だけ。
昔バカな男だった俺をここまでの男にしてくれたのはあいつ。
だから俺はおまえには一生の借りがある。
おまえに出会わなかったら、俺は今まで生きていなかったかもしんねぇ。
それに好きな女のために、捨て身になる男なんて理解出来なかったが、今はそう言ったことが全て理解出来る。
牧野。
俺のためにおまえの隣を空けておいてくれて、愛を返してくれて、愛してくれて感謝してる。
これから先も時が果てるまでずっと一緒にいてくれ。
ただ、それだけでいいから。
おまえは俺の精神安定剤。
いや、違うな。おまえは俺の生きる源だ。
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