俺があいつを見かけたのは全くの偶然だった。
ニューヨークから東京への移動だがその日はいつものビジネスジェットが使えず民間機のファーストクラスでの帰国だった。
あの女がいた。
忘れもしない女。
俺が学生時代に子供じみた遊びに興じていたとき、そのターゲットになった女。
その遊びのターゲットにされたばかりに周囲からは疎まれた女。
この俺に蹴りを入れ大きな瞳で真っ直ぐに見返してきた女。
何故だか俺はその女に恋をした。
恋をするのに理由なんていらない。
その女が今、同じファーストクラスの席にいる。
上品でいて仕立ての良いスーツを着て艶がある美しい黒髪はねじって上品にまとめてある。
そして何やら熱心に書類を読んでいる。
あれから何年だ?
高校を卒業した俺はその後に渡米してからずっとニューヨーク暮らしだった。
俺はその女の顔がよく見えるように少し横に身体をずらした。
その時女が身を屈めて何かを拾っている。間違いない。
そう思った途端、女がこちらに顔をむけた。間違いない、牧野だ。
牧野の向けた視線はしばらく俺のところでとどまっていた。
気が付いたか?
俺は胸の奥に懐かしい感情が湧き上がるのを感じる。
俺に気が付かないはずがない。
こう見えても世界的企業の御曹司と呼ばれる俺だ。
だがその視線はただの風景を見ているが如くだ。
******
つくしは機内で素早く視線を巡らせた。
あの男がいた。
あの男が高校時代始めた赤札と言うゲームに巻き込まれた私。
あの男のせいでいつも学年のトップクラスを保っていた成績が下がった。
私は国立大学の奨学金制度を利用したいと考えていたのにあの男のせいで
それも危ぶまれるところだった。
道明寺司!
輝ける道明寺ホールディングスの御曹司で今は日本支社長の肩書を持つ男だ。
せっかくのファーストクラスも気分が沈む。
なんであの男が民間機を利用しているのよ?
なんで自家用ジェットを利用しないのよ?
つくしはテーブルの上のグラスに手を伸ばし、今しがた目にした光景を忘れようとするように中の液体を飲み干した。
最悪だ・・・。
と、そのとき誰かに右肩を叩かれた。
私が右斜め45度の角度で視線を上げた先にハンサムな男が立っている。
どんな男も腰が引けるほどの威圧的な存在感を醸し出す男。
ウェーブした黒い髪、見る者を射抜くような瞳、生まれながらの気品が漂うその口元。
極め付けはそのスタイルの良さだ。
「牧野、牧野つくしだろ?」
全身をしびれさせるような深いバリトンの声で問われた。
ばれたか・・・。
つくしは警戒しながらも無言で頷いた。
「久しぶりだな、牧野」
「・・・お久しぶりです。道明寺さん・・・」
つくしは内心で道明寺が早く立ち去ってくれるのを願っている。
「お前に会えて嬉しいよ」
低いバリトンがつくしの右斜め45度から降り注いでくる。
この男、見え透いたことを言うな!
誰が嬉しいなんて思うもんか!
「お前ファーストに乗れるなんて出世したんだな?」
道明寺の口調には皮肉っぽさが含まれている。
つくしがファーストクラスに乗っているのは本来利用するはずだった人間が急きょ入院するはめになり、その人間の代わりに出張をしたせいだ。
だから出世なんてしていない。
「あの・・・」
「お前の隣、空いてるよな?」
道明寺は素早く隣の席へと腰を下ろした。
途端、客室乗務員が飛んできてお伺いをたてている。
「で、お前なんでこんな所にいるんだ?」
そんなことアンタに関係ないでしょ?
「本来出張するはずだった担当者が入院することになって、それで代わりに私が・・」
「そうか。で、お前は今は何をしてるんだ?」
言いたくない。
でもこの男のことだ。すぐにでも秘書に調べさせるだろう。
そんなことまでされたくない。
「島田コンサルタントにいます」
「そうか島田か! 牧野、お前優秀なんだな」
「はい、生活がかかっていますから」
つくしは笑ってみせた。
牧野つくしが島田コンサルタントにいる。
そんなことは知っていた。
どこにいて、何をしているか・・。
今回帰国するにあたり牧野のことは調べがついていた。
だって俺はこれから牧野つくしを捕まえるつもりだから。

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ニューヨークから東京への移動だがその日はいつものビジネスジェットが使えず民間機のファーストクラスでの帰国だった。
あの女がいた。
忘れもしない女。
俺が学生時代に子供じみた遊びに興じていたとき、そのターゲットになった女。
その遊びのターゲットにされたばかりに周囲からは疎まれた女。
この俺に蹴りを入れ大きな瞳で真っ直ぐに見返してきた女。
何故だか俺はその女に恋をした。
恋をするのに理由なんていらない。
その女が今、同じファーストクラスの席にいる。
上品でいて仕立ての良いスーツを着て艶がある美しい黒髪はねじって上品にまとめてある。
そして何やら熱心に書類を読んでいる。
あれから何年だ?
高校を卒業した俺はその後に渡米してからずっとニューヨーク暮らしだった。
俺はその女の顔がよく見えるように少し横に身体をずらした。
その時女が身を屈めて何かを拾っている。間違いない。
そう思った途端、女がこちらに顔をむけた。間違いない、牧野だ。
牧野の向けた視線はしばらく俺のところでとどまっていた。
気が付いたか?
俺は胸の奥に懐かしい感情が湧き上がるのを感じる。
俺に気が付かないはずがない。
こう見えても世界的企業の御曹司と呼ばれる俺だ。
だがその視線はただの風景を見ているが如くだ。
******
つくしは機内で素早く視線を巡らせた。
あの男がいた。
あの男が高校時代始めた赤札と言うゲームに巻き込まれた私。
あの男のせいでいつも学年のトップクラスを保っていた成績が下がった。
私は国立大学の奨学金制度を利用したいと考えていたのにあの男のせいで
それも危ぶまれるところだった。
道明寺司!
輝ける道明寺ホールディングスの御曹司で今は日本支社長の肩書を持つ男だ。
せっかくのファーストクラスも気分が沈む。
なんであの男が民間機を利用しているのよ?
なんで自家用ジェットを利用しないのよ?
つくしはテーブルの上のグラスに手を伸ばし、今しがた目にした光景を忘れようとするように中の液体を飲み干した。
最悪だ・・・。
と、そのとき誰かに右肩を叩かれた。
私が右斜め45度の角度で視線を上げた先にハンサムな男が立っている。
どんな男も腰が引けるほどの威圧的な存在感を醸し出す男。
ウェーブした黒い髪、見る者を射抜くような瞳、生まれながらの気品が漂うその口元。
極め付けはそのスタイルの良さだ。
「牧野、牧野つくしだろ?」
全身をしびれさせるような深いバリトンの声で問われた。
ばれたか・・・。
つくしは警戒しながらも無言で頷いた。
「久しぶりだな、牧野」
「・・・お久しぶりです。道明寺さん・・・」
つくしは内心で道明寺が早く立ち去ってくれるのを願っている。
「お前に会えて嬉しいよ」
低いバリトンがつくしの右斜め45度から降り注いでくる。
この男、見え透いたことを言うな!
誰が嬉しいなんて思うもんか!
「お前ファーストに乗れるなんて出世したんだな?」
道明寺の口調には皮肉っぽさが含まれている。
つくしがファーストクラスに乗っているのは本来利用するはずだった人間が急きょ入院するはめになり、その人間の代わりに出張をしたせいだ。
だから出世なんてしていない。
「あの・・・」
「お前の隣、空いてるよな?」
道明寺は素早く隣の席へと腰を下ろした。
途端、客室乗務員が飛んできてお伺いをたてている。
「で、お前なんでこんな所にいるんだ?」
そんなことアンタに関係ないでしょ?
「本来出張するはずだった担当者が入院することになって、それで代わりに私が・・」
「そうか。で、お前は今は何をしてるんだ?」
言いたくない。
でもこの男のことだ。すぐにでも秘書に調べさせるだろう。
そんなことまでされたくない。
「島田コンサルタントにいます」
「そうか島田か! 牧野、お前優秀なんだな」
「はい、生活がかかっていますから」
つくしは笑ってみせた。
牧野つくしが島田コンサルタントにいる。
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だって俺はこれから牧野つくしを捕まえるつもりだから。

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Comment:11
8年前、俺は牧野つくしに恋をした。
だがその頃の俺はどうしようもない世間で言うところの「バカ坊ちゃん」だった。
それに対して牧野はどうだったか・・。
学業と勤労に専念する勤労少女だった。
俺が赤札を貼ったせいで一時期成績が落ちたらしいが、その後は一心不乱に勉強して
奨学金をもらい国立大学へ進学している。
大学へ通いながらも食べるためにバイトの掛け持ちもしていたらしい。
そうしながらも大学を卒業し、大手の地質調査会社に就職している。
ウチじゃないのが残念だが・・・。
つくしは8年ぶりに見る男を睨みつけた。
歳月は関係ない。何年たっていても一目で彼だと分かる。
それにこの男を忘れるわけがない。
私にあれだけつき纏って、好きだ、愛しているなんて言っておいて私を捨てた男だ。
いや、厳密に言えば付き合ってはいない。
だから捨てられたとは言えない。
私の気持ちがこの男に傾きかけた時にさっさと渡米して行った。
で、私の気持ちは宙ぶらりんのままに残された。
そう、私はどうしようもない気持ちを抱えたままで残されてしまった。
そして記憶の中の男は現実の男となって隣の席に座っている。
少年の面影は消え、どこから見ても大人の男だった。
18歳の少年は26歳の青年になりその端正な顔立ちはどんな女性も引き付ける。
そんな男を見ていると何故か自分の心臓の音が外に聞こえるのではないかと思うほど激しく鼓動しているのが分かる。
道明寺司の写真を見たり、声を聞いたりするたびにそんな思いをしてきた。
いつまでたっても高校時代の名残から抜け出せない自分がいる。
でも変わったのはこの男だけじゃない。
私だって努力してここまできた。
「おい、俺にそんなに見惚れるな」
と妖艶な笑みを浮かべた。
見惚れてなんていないわよ。睨んでるのよ。
道明寺は客室乗務員が持ってきたグラスを受け取っている。
「で、牧野。俺たち付き合うのかどうするのか返事がまだだったよな」
「 は? 」
この男、馬鹿なんじゃない?
なに言ってんのよ。
私は文字通り開いた口が塞がらないとしか言いようがなかった。
誰が誰と付き合うですって?
「なあ、牧野。どうする?やっぱり俺たち付き合おうぜ」
「申し訳ないんですけれど、言ってる意味が分かりません」
私は出来る社会人よろしく穏やかな表情をたもちながらも目だけは睨みつけたままだ。
8年ぶりに会う女に付き合うとか付き合わないとかこの男は何を考えいるのか。
彼はグラスを口に運びかける手を止めると驚いたような表情で私を見た。
「牧野、どの部分の意味が分からないんだ?」
「道明寺さん、私たちは付き合うもなにも、そんな間柄にはなったことはありませんから」
「なにがだ?」
「だから、私たちはお付き合いするとか言う間柄ではありませんから」
「どうして?」
道明寺はほほ笑みを浮かべながらも、その表情はわずかではあるが悲しみを浮かべていた。
「だから!私たちは同じ高校に通いはしましたが、お付き合いするとかどうするとか
そんな話になったことはありませんから!」
それに私は道明寺に赤札なんて言うものを貼られて全校生徒から酷い目に遭わされた。
あの時の事は多分一生忘れない。
でも、そんな私たちの関係もいつからか少しずつ変化して行ったけど・・・。
まずいな、切り出し方を間違えたか・・・・
司は内心で舌打ちをしていた。
まさか牧野がこの便に乗っているなんて思ってもみなかった。
牧野つくし捕獲作戦は俺が帰国してからのものだったからな。
俺は隣で一心不乱に書類を読むふりをしている牧野を見つめた。
写真でしか見たことのなかった最近の牧野は大人の女らしさが醸し出されていた。
こうして実物の牧野がすぐ隣にいるのに手も握れない自分がもどかしかった。
いつまでたっても隣の席から立とうとしない道明寺に私は我慢が出来なくなってきた。
「あの、道明寺さん。いつまでも隣で睨まれると嫌なんですけど」
道明寺は私の隣で身体をこちら側に向け私の方をじっと見ている。
「・・・睨んでなんていない。お前に見惚れてた」
「い、いい加減ご自分の席に戻って下さい!」
俺は牧野の顔を見つめたまま思った。
その唇に触れてみたい。
まずい・・自重しなければ。
このまま昔の癖で突っ走ったら牧野を手に入れることなんて出来なくなる。
が、牧野に触れずにはいられない。
俺は見つめているだけでは我慢が出来なくなりそうだった。
だが、ここは民間機の中だ。
自家用ジェットの中なら何でもありなんだがな・・・。
仕方ないか・・・・・
「牧野、久しぶりに会えて良かったよ」
そう言って俺は席から立ち上がると握手を求めるように手を差し出した。
海外では握手をするのは挨拶のひとつだ。
さすがに牧野も俺からの挨拶を無視することは出来ないようだ。
黙って大人しく右手を差し出してきた。
俺は牧野の手を静かに握った。
そして牧野の手の甲を親指でそっと撫でた。

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だがその頃の俺はどうしようもない世間で言うところの「バカ坊ちゃん」だった。
それに対して牧野はどうだったか・・。
学業と勤労に専念する勤労少女だった。
俺が赤札を貼ったせいで一時期成績が落ちたらしいが、その後は一心不乱に勉強して
奨学金をもらい国立大学へ進学している。
大学へ通いながらも食べるためにバイトの掛け持ちもしていたらしい。
そうしながらも大学を卒業し、大手の地質調査会社に就職している。
ウチじゃないのが残念だが・・・。
つくしは8年ぶりに見る男を睨みつけた。
歳月は関係ない。何年たっていても一目で彼だと分かる。
それにこの男を忘れるわけがない。
私にあれだけつき纏って、好きだ、愛しているなんて言っておいて私を捨てた男だ。
いや、厳密に言えば付き合ってはいない。
だから捨てられたとは言えない。
私の気持ちがこの男に傾きかけた時にさっさと渡米して行った。
で、私の気持ちは宙ぶらりんのままに残された。
そう、私はどうしようもない気持ちを抱えたままで残されてしまった。
そして記憶の中の男は現実の男となって隣の席に座っている。
少年の面影は消え、どこから見ても大人の男だった。
18歳の少年は26歳の青年になりその端正な顔立ちはどんな女性も引き付ける。
そんな男を見ていると何故か自分の心臓の音が外に聞こえるのではないかと思うほど激しく鼓動しているのが分かる。
道明寺司の写真を見たり、声を聞いたりするたびにそんな思いをしてきた。
いつまでたっても高校時代の名残から抜け出せない自分がいる。
でも変わったのはこの男だけじゃない。
私だって努力してここまできた。
「おい、俺にそんなに見惚れるな」
と妖艶な笑みを浮かべた。
見惚れてなんていないわよ。睨んでるのよ。
道明寺は客室乗務員が持ってきたグラスを受け取っている。
「で、牧野。俺たち付き合うのかどうするのか返事がまだだったよな」
「 は? 」
この男、馬鹿なんじゃない?
なに言ってんのよ。
私は文字通り開いた口が塞がらないとしか言いようがなかった。
誰が誰と付き合うですって?
「なあ、牧野。どうする?やっぱり俺たち付き合おうぜ」
「申し訳ないんですけれど、言ってる意味が分かりません」
私は出来る社会人よろしく穏やかな表情をたもちながらも目だけは睨みつけたままだ。
8年ぶりに会う女に付き合うとか付き合わないとかこの男は何を考えいるのか。
彼はグラスを口に運びかける手を止めると驚いたような表情で私を見た。
「牧野、どの部分の意味が分からないんだ?」
「道明寺さん、私たちは付き合うもなにも、そんな間柄にはなったことはありませんから」
「なにがだ?」
「だから、私たちはお付き合いするとか言う間柄ではありませんから」
「どうして?」
道明寺はほほ笑みを浮かべながらも、その表情はわずかではあるが悲しみを浮かべていた。
「だから!私たちは同じ高校に通いはしましたが、お付き合いするとかどうするとか
そんな話になったことはありませんから!」
それに私は道明寺に赤札なんて言うものを貼られて全校生徒から酷い目に遭わされた。
あの時の事は多分一生忘れない。
でも、そんな私たちの関係もいつからか少しずつ変化して行ったけど・・・。
まずいな、切り出し方を間違えたか・・・・
司は内心で舌打ちをしていた。
まさか牧野がこの便に乗っているなんて思ってもみなかった。
牧野つくし捕獲作戦は俺が帰国してからのものだったからな。
俺は隣で一心不乱に書類を読むふりをしている牧野を見つめた。
写真でしか見たことのなかった最近の牧野は大人の女らしさが醸し出されていた。
こうして実物の牧野がすぐ隣にいるのに手も握れない自分がもどかしかった。
いつまでたっても隣の席から立とうとしない道明寺に私は我慢が出来なくなってきた。
「あの、道明寺さん。いつまでも隣で睨まれると嫌なんですけど」
道明寺は私の隣で身体をこちら側に向け私の方をじっと見ている。
「・・・睨んでなんていない。お前に見惚れてた」
「い、いい加減ご自分の席に戻って下さい!」
俺は牧野の顔を見つめたまま思った。
その唇に触れてみたい。
まずい・・自重しなければ。
このまま昔の癖で突っ走ったら牧野を手に入れることなんて出来なくなる。
が、牧野に触れずにはいられない。
俺は見つめているだけでは我慢が出来なくなりそうだった。
だが、ここは民間機の中だ。
自家用ジェットの中なら何でもありなんだがな・・・。
仕方ないか・・・・・
「牧野、久しぶりに会えて良かったよ」
そう言って俺は席から立ち上がると握手を求めるように手を差し出した。
海外では握手をするのは挨拶のひとつだ。
さすがに牧野も俺からの挨拶を無視することは出来ないようだ。
黙って大人しく右手を差し出してきた。
俺は牧野の手を静かに握った。
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私の乗った航空機は14時間程のフライトを終え成田へと到着した。
道明寺は急いでいるのかブリーフケースを手に持つとじゃあまた近いうちにと言う
言葉を残して去っていき、それ以上私に構うことはなかった。
その去り際、差し出されたのは彼の名刺。
そこにはプライベートな番号が記されていた。
いったい道明寺司は何がしたいんだろう。
訳がわからない。
やめた!
あんな男のことで頭を悩ませている場合じゃない。
1週間ぶりの帰国ですることは沢山ある。
冷蔵庫の中には何があったかな。
帰りに買い物に立ち寄る時間はあるかな・・・・
******
牧野は絶対に連絡なんてしてはこないだろう。
俺のプライベートな番号を知りたい人間は山ほどいるのに
電話をかけてきて欲しいと思う相手は絶対にかけてはこない。
それは太陽が東から登るのと同じくらい明白なことだ。
まあいい。
牧野のことはすべて調査した。
付き合っている男はいない。
職場はもちろんだが住まい、携帯電話の番号も知っている。
が、自分からは絶対に電話はできない。
そんな事をしようものならすぐにでも電話番号を変えそうだ。
やっぱり牧野はいいな。
艶があって美しい黒髪はねじって上品にまとめていた。
あの髪が解かれたところを見てみたい。
それにあの大きな瞳も昔と変わっていなかった。
一度足を踏み入れたらどこまでも落ちて行きそうな底なしの淵のようだ。
そしてきちんとした服装をした牧野。
その服の下に隠している身体・・・。
昔は全体的に細くどちらかと言えば貧弱だったが今はそうじゃないのが分かる。
しかるべき場所はそれなりに丸みも見えた。
俺が牧野に惹かれた理由を考えてみた。
始まりは蹴りを入れられたところからだろうが・・・
「支社長、聞いていらっしゃいますか?」
秘書の男が隣で話しかけてくる話の半分も聞いていなかった。
「な、なんだ?」
「どうかされましたか?先ほどから上の空のご様子ですが」
「ああ、悪い。民間機なんてしばらく乗っていなかったから疲れたんだろう」
「そうですか。では本日は特にご予定はございませんのでご帰宅なされますか?」
「ああ、そうだな、そうしてくれ」
秘書の顔を見れば分かる。
きっと俺の顔はだらしなく緩んでいたに違いない。
機内での牧野との会話をふり返ってみた。
あれでは牧野をものに出来る可能性はゼロに近いな。
失望感に浸りつつも車窓を流れる景色を見ながら考えていた。
まあいいさ・・・
******
つくしは1週間ぶりに会社に出社した。
そこは都内の高層ビルのワンフロアに広々としたオフィスを構えている。
いつもより早めに出社したがすでにもう何人かの社員が仕事を始めていた。
休憩室にある自動販売機からコーヒーを買い席につく。
「ニューヨークはどうだった?」
同僚の女子社員が話かけてきた。
仕事は問題なかった。が、最悪の出会いが待っていた。
「うん、順調に終わった」
「そう。うちの会社ね、牧野さんがいない間に大変なことがあったのよ。きっと信じられないと思うわ」
「え?会社で何があったの?」
そしてもったいぶった口調でこう言われた。
「うちの会社、買収されたのよ」
「 え? 」
つくしは飲みかけのコーヒーを溢しそうになった。
「いつそんなことが?」
「なんでも半年前から交渉が始まっていたらしいわ」
「ねえ、どこに買収されたの?」
つくしは聞いた。
「道明寺よ、道明寺ホールディングス!」

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道明寺は急いでいるのかブリーフケースを手に持つとじゃあまた近いうちにと言う
言葉を残して去っていき、それ以上私に構うことはなかった。
その去り際、差し出されたのは彼の名刺。
そこにはプライベートな番号が記されていた。
いったい道明寺司は何がしたいんだろう。
訳がわからない。
やめた!
あんな男のことで頭を悩ませている場合じゃない。
1週間ぶりの帰国ですることは沢山ある。
冷蔵庫の中には何があったかな。
帰りに買い物に立ち寄る時間はあるかな・・・・
******
牧野は絶対に連絡なんてしてはこないだろう。
俺のプライベートな番号を知りたい人間は山ほどいるのに
電話をかけてきて欲しいと思う相手は絶対にかけてはこない。
それは太陽が東から登るのと同じくらい明白なことだ。
まあいい。
牧野のことはすべて調査した。
付き合っている男はいない。
職場はもちろんだが住まい、携帯電話の番号も知っている。
が、自分からは絶対に電話はできない。
そんな事をしようものならすぐにでも電話番号を変えそうだ。
やっぱり牧野はいいな。
艶があって美しい黒髪はねじって上品にまとめていた。
あの髪が解かれたところを見てみたい。
それにあの大きな瞳も昔と変わっていなかった。
一度足を踏み入れたらどこまでも落ちて行きそうな底なしの淵のようだ。
そしてきちんとした服装をした牧野。
その服の下に隠している身体・・・。
昔は全体的に細くどちらかと言えば貧弱だったが今はそうじゃないのが分かる。
しかるべき場所はそれなりに丸みも見えた。
俺が牧野に惹かれた理由を考えてみた。
始まりは蹴りを入れられたところからだろうが・・・
「支社長、聞いていらっしゃいますか?」
秘書の男が隣で話しかけてくる話の半分も聞いていなかった。
「な、なんだ?」
「どうかされましたか?先ほどから上の空のご様子ですが」
「ああ、悪い。民間機なんてしばらく乗っていなかったから疲れたんだろう」
「そうですか。では本日は特にご予定はございませんのでご帰宅なされますか?」
「ああ、そうだな、そうしてくれ」
秘書の顔を見れば分かる。
きっと俺の顔はだらしなく緩んでいたに違いない。
機内での牧野との会話をふり返ってみた。
あれでは牧野をものに出来る可能性はゼロに近いな。
失望感に浸りつつも車窓を流れる景色を見ながら考えていた。
まあいいさ・・・
******
つくしは1週間ぶりに会社に出社した。
そこは都内の高層ビルのワンフロアに広々としたオフィスを構えている。
いつもより早めに出社したがすでにもう何人かの社員が仕事を始めていた。
休憩室にある自動販売機からコーヒーを買い席につく。
「ニューヨークはどうだった?」
同僚の女子社員が話かけてきた。
仕事は問題なかった。が、最悪の出会いが待っていた。
「うん、順調に終わった」
「そう。うちの会社ね、牧野さんがいない間に大変なことがあったのよ。きっと信じられないと思うわ」
「え?会社で何があったの?」
そしてもったいぶった口調でこう言われた。
「うちの会社、買収されたのよ」
「 え? 」
つくしは飲みかけのコーヒーを溢しそうになった。
「いつそんなことが?」
「なんでも半年前から交渉が始まっていたらしいわ」
「ねえ、どこに買収されたの?」
つくしは聞いた。
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つくしは目に映っているものが信じられなかった。
あの男がいた。
道明寺司が自らここに来る理由なんてあるはずがない。
なんで道明寺ホールディングスの日本支社長がうちの専務と一緒にここにいるのよ。
嫌な汗が流れた。
「牧野君! ちょっと来てくれないか?」
専務に呼ばれ、つくしはスカートの皺を伸ばすようにして立ち上がるとストッキングが破れていないか確認をして専務のオフィスをノックした。
すかさず「どうぞ」と声が返ってきた。
胃の奥がキリキリしてきた。
これから会う人物は今後の自分の人生にかかわって欲しくない人間だ。
「失礼いたします」
そこはいつものオフィスと何も変わらない。
ただ、そこにいる人間は普通じゃなかった。
「牧野君、君は道明寺支社長と知り合いだそうだね?」
いいえ!知り合いなんかじゃありません。
つくしは心のなかでそう呟きながらも丁寧に挨拶をする。
俺は向かいの席に座る専務の話に耳を傾けているふりをしながらその隣に座る牧野のことで頭がいっぱいだった。
「牧野君、ニューヨークからの帰りに道明寺さんと会ったそうだね。君がうちで働いているのを知って是非会いたいとおっしゃってね」
斜め前に座る牧野の目が恐ろしいくらい睨んでいる。
この買収で俺が何か企んでいると思ってるな。
その通りなんだが・・・・
お前のいるこの会社を買収したのは偶然の一致だったと言い張ればいい。
なんだよ、この奇妙な罪悪感は!
自分とは無縁だと思っていたこの感情。
昔、牧野と出会うまで味わったことがなかった。
今はその感情が頭をもたげて落ち着かない気分にさせる。
一度きちんと牧野と話をする必要があるな。
だが何を言うつもりだ?
この前失敗したばかりだ。
牧野は頭がいい。
昔は鈍感女だったが社会人になってからの牧野は勘が鋭くなっていそうだ。
でなきゃこんな仕事はできない。
俺が牧野との再会を望むようになってから半年だ。
仕切り直しをして堂々と会いたいと思ってきた。
どうしても牧野のことが忘れられなかった。
が、今の牧野の表情から言えば、再会は苦いものと終わったな。
いや、長い目でみればまだ見込みはあるはずだ。
それには時間と忍耐が必要だな。
何かいい方法を考えれさえすれば・・・
「道明寺さん、それでは宜しくお願いいたします」
「ええ、そうですね。こちらこそ」
俺はなんの話をしていたのかよく覚えていなかったがそう言うと立ち上がって手を差し伸べた。
専務は握手に応じた。
「うちには女性でも牧野君のように優秀な人材も沢山いますのでグループ会社の一員として利益増収に貢献致します」
「それを聞いて安心しました。ここの社員の優秀さは充分評価しています。だからこそ買収を申し出た」
「そうですか、それは良かった」
「牧野、これから宜しく」
俺は牧野にも手を差し伸べた。
牧野は俺の手を気味悪そうに見つめしぶしぶ握手に応じ素早く引っ込めようとしたが
俺はその手を逃さない。
「宜しくお願いします」
俺は再び牧野の手を静かに握りしめることができた。
「道明寺支社長、よかったら社内をご案内しますが・・」
「いえ、それには及びません。今日はこれで失礼いたします」
俺はドアを出て行く寸前に声をかけた。
「じゃあまたな、牧野」
******
つくしは仕事に集中出来なかった。
あの男、いったい何を考えている?
うちの会社を買収する交渉が半年前から始まっていた?
私がこの会社にいることとは偶然の一致と考える方がいいのか?
あの男のことだ。
私の住まい、交友関係、果ては懐具合まで調べ上げているのではないだろうか。
付き合うとか付き合えとか付き合う・・・・・
今更なんなのよ!
それに付き合おうって、なにバカなこと言ってるのよ。
あんた私のこと8年前にほったらかしてニューヨークに行っちゃったじゃない!
RRRRR・・・
「 はい・・・ え?・・・わかりました 」
私が呼び出しを受けたのは専務の秘書だった。
「 おはよう、牧野 」
専務室でデスクの向こう側の大きな窓を背にして立つ道明寺は落ち着き払った声で言った。
この部屋の主は確か香港に出張中だ。
あんた暇なの?道明寺ホールディングスの支社長って暇なの?
決して広いとは言えない密室に道明寺と二人っきりでいるとなぜだか胸が痛い。
「牧野、説明させてくれ」
道明寺はデスクの向こう側から語りかけてくる。
つくしは意を決して言った。
「説明って何のことですか?私に何か説明したいことがあるんですか?」
「牧野、立ったままもなんだから、座って話を・・・」
「このままで構いません」
道明寺が近づこうとするとつくしは身を引いた。
その様子を見て彼は立ち止った。
「牧野、8年前のことだけど、お前の考えていることとは違うんだ」
「何のことでしょうか? 何が違うんでしょうか?」
この際だ、はっきり言ってやるわ。
「 私のことを追いかけ回して好きだ、愛してるなんてことを言っておいて私の気持ちを散々もて遊んで・・・。
それも赤札と同じゲームのひとつだったんでしょ? 人の気持ちを弄んで楽しかったでしょ? それに今更付き合おうだなんて・・・いいかげんにして下さい!」
道明寺の開きかけていた口はすぐに閉じた。
「私はあんたの・・・道明寺さんの言葉に乗せられて・・・バカみたい・・」
二度とあんな目に会いたくない。
「私はお人好しかもしれないけど、愚か者ではないわ!」
道明寺は一瞬たじろいたが一言こう言った。
「お前はわかってない」
「わかってるわ。それにどう言うつもりなんですか!うちの会社を買収したりして!
絶対に何か企んでる!」
「ああ、そのことならお前の言う通りだ。お前に聞かれたら偶然の一致だと言い切るつもりだった。けどそれは嘘だ。企んでるよ」
「開き直るのはやめて下さい!」
道明寺はつくしのすぐ傍までやってくるといきなり肩をつかんで言った。
「俺はお前のことがずっと気になっていた。 心の中で決して消えることがなかった。
8年前は悪かった・・・俺が突然ニューヨークに行ってしまって・・」
「もう止めて、離して!」
「聞いてくれ、俺は今でもお前のことが好きだ!」
道明寺はそう言い切るとつくしの肩をつかんだままその身体に引き寄せた。
つくしは道明寺の身体から感じる熱とほのかな香りを感じた。
それは懐かしい香りがした。
肩に感じる道明寺の手の温もりと懐かしい香りにつくしの心は揺れ動くようだった。
彼の大きな背中に手をまわしたくなる。
「道明寺・・道明寺さん手をどけて下さい」
「嫌だと言ったら?」
「大声を出すわ」
彼は抱き寄せていたつくしの身体を自分から少し離すようにすると、屈み込むようにしてきた。
私は一瞬キスをされるのかと思ったが、道明寺は大人しく私の身体から手を離した。
肩に残る手の温もりがまるでそこだけに刻印を押されたように残っている。
「ご用が無いようでしたら失礼してもいいですか。忙しいんですけど」
つくしは道明寺から離れるように後ずさる。
「・・ああ、悪かったな」
つくしは踵を返すとドアに向かった。

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あれ?なんだか切ない方向に・・。
あの男がいた。
道明寺司が自らここに来る理由なんてあるはずがない。
なんで道明寺ホールディングスの日本支社長がうちの専務と一緒にここにいるのよ。
嫌な汗が流れた。
「牧野君! ちょっと来てくれないか?」
専務に呼ばれ、つくしはスカートの皺を伸ばすようにして立ち上がるとストッキングが破れていないか確認をして専務のオフィスをノックした。
すかさず「どうぞ」と声が返ってきた。
胃の奥がキリキリしてきた。
これから会う人物は今後の自分の人生にかかわって欲しくない人間だ。
「失礼いたします」
そこはいつものオフィスと何も変わらない。
ただ、そこにいる人間は普通じゃなかった。
「牧野君、君は道明寺支社長と知り合いだそうだね?」
いいえ!知り合いなんかじゃありません。
つくしは心のなかでそう呟きながらも丁寧に挨拶をする。
俺は向かいの席に座る専務の話に耳を傾けているふりをしながらその隣に座る牧野のことで頭がいっぱいだった。
「牧野君、ニューヨークからの帰りに道明寺さんと会ったそうだね。君がうちで働いているのを知って是非会いたいとおっしゃってね」
斜め前に座る牧野の目が恐ろしいくらい睨んでいる。
この買収で俺が何か企んでいると思ってるな。
その通りなんだが・・・・
お前のいるこの会社を買収したのは偶然の一致だったと言い張ればいい。
なんだよ、この奇妙な罪悪感は!
自分とは無縁だと思っていたこの感情。
昔、牧野と出会うまで味わったことがなかった。
今はその感情が頭をもたげて落ち着かない気分にさせる。
一度きちんと牧野と話をする必要があるな。
だが何を言うつもりだ?
この前失敗したばかりだ。
牧野は頭がいい。
昔は鈍感女だったが社会人になってからの牧野は勘が鋭くなっていそうだ。
でなきゃこんな仕事はできない。
俺が牧野との再会を望むようになってから半年だ。
仕切り直しをして堂々と会いたいと思ってきた。
どうしても牧野のことが忘れられなかった。
が、今の牧野の表情から言えば、再会は苦いものと終わったな。
いや、長い目でみればまだ見込みはあるはずだ。
それには時間と忍耐が必要だな。
何かいい方法を考えれさえすれば・・・
「道明寺さん、それでは宜しくお願いいたします」
「ええ、そうですね。こちらこそ」
俺はなんの話をしていたのかよく覚えていなかったがそう言うと立ち上がって手を差し伸べた。
専務は握手に応じた。
「うちには女性でも牧野君のように優秀な人材も沢山いますのでグループ会社の一員として利益増収に貢献致します」
「それを聞いて安心しました。ここの社員の優秀さは充分評価しています。だからこそ買収を申し出た」
「そうですか、それは良かった」
「牧野、これから宜しく」
俺は牧野にも手を差し伸べた。
牧野は俺の手を気味悪そうに見つめしぶしぶ握手に応じ素早く引っ込めようとしたが
俺はその手を逃さない。
「宜しくお願いします」
俺は再び牧野の手を静かに握りしめることができた。
「道明寺支社長、よかったら社内をご案内しますが・・」
「いえ、それには及びません。今日はこれで失礼いたします」
俺はドアを出て行く寸前に声をかけた。
「じゃあまたな、牧野」
******
つくしは仕事に集中出来なかった。
あの男、いったい何を考えている?
うちの会社を買収する交渉が半年前から始まっていた?
私がこの会社にいることとは偶然の一致と考える方がいいのか?
あの男のことだ。
私の住まい、交友関係、果ては懐具合まで調べ上げているのではないだろうか。
付き合うとか付き合えとか付き合う・・・・・
今更なんなのよ!
それに付き合おうって、なにバカなこと言ってるのよ。
あんた私のこと8年前にほったらかしてニューヨークに行っちゃったじゃない!
RRRRR・・・
「 はい・・・ え?・・・わかりました 」
私が呼び出しを受けたのは専務の秘書だった。
「 おはよう、牧野 」
専務室でデスクの向こう側の大きな窓を背にして立つ道明寺は落ち着き払った声で言った。
この部屋の主は確か香港に出張中だ。
あんた暇なの?道明寺ホールディングスの支社長って暇なの?
決して広いとは言えない密室に道明寺と二人っきりでいるとなぜだか胸が痛い。
「牧野、説明させてくれ」
道明寺はデスクの向こう側から語りかけてくる。
つくしは意を決して言った。
「説明って何のことですか?私に何か説明したいことがあるんですか?」
「牧野、立ったままもなんだから、座って話を・・・」
「このままで構いません」
道明寺が近づこうとするとつくしは身を引いた。
その様子を見て彼は立ち止った。
「牧野、8年前のことだけど、お前の考えていることとは違うんだ」
「何のことでしょうか? 何が違うんでしょうか?」
この際だ、はっきり言ってやるわ。
「 私のことを追いかけ回して好きだ、愛してるなんてことを言っておいて私の気持ちを散々もて遊んで・・・。
それも赤札と同じゲームのひとつだったんでしょ? 人の気持ちを弄んで楽しかったでしょ? それに今更付き合おうだなんて・・・いいかげんにして下さい!」
道明寺の開きかけていた口はすぐに閉じた。
「私はあんたの・・・道明寺さんの言葉に乗せられて・・・バカみたい・・」
二度とあんな目に会いたくない。
「私はお人好しかもしれないけど、愚か者ではないわ!」
道明寺は一瞬たじろいたが一言こう言った。
「お前はわかってない」
「わかってるわ。それにどう言うつもりなんですか!うちの会社を買収したりして!
絶対に何か企んでる!」
「ああ、そのことならお前の言う通りだ。お前に聞かれたら偶然の一致だと言い切るつもりだった。けどそれは嘘だ。企んでるよ」
「開き直るのはやめて下さい!」
道明寺はつくしのすぐ傍までやってくるといきなり肩をつかんで言った。
「俺はお前のことがずっと気になっていた。 心の中で決して消えることがなかった。
8年前は悪かった・・・俺が突然ニューヨークに行ってしまって・・」
「もう止めて、離して!」
「聞いてくれ、俺は今でもお前のことが好きだ!」
道明寺はそう言い切るとつくしの肩をつかんだままその身体に引き寄せた。
つくしは道明寺の身体から感じる熱とほのかな香りを感じた。
それは懐かしい香りがした。
肩に感じる道明寺の手の温もりと懐かしい香りにつくしの心は揺れ動くようだった。
彼の大きな背中に手をまわしたくなる。
「道明寺・・道明寺さん手をどけて下さい」
「嫌だと言ったら?」
「大声を出すわ」
彼は抱き寄せていたつくしの身体を自分から少し離すようにすると、屈み込むようにしてきた。
私は一瞬キスをされるのかと思ったが、道明寺は大人しく私の身体から手を離した。
肩に残る手の温もりがまるでそこだけに刻印を押されたように残っている。
「ご用が無いようでしたら失礼してもいいですか。忙しいんですけど」
つくしは道明寺から離れるように後ずさる。
「・・ああ、悪かったな」
つくしは踵を返すとドアに向かった。

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あれ?なんだか切ない方向に・・。
Comment:1
俺は煙草に手を伸ばしかけてやめる。
牧野と話しをしたいと思い、あいつの会社まで出向いたはいいが話しにはならなかった。
数多くの企業買収を手掛けてきて、敵意に満ちた目で見られるのは慣れている。
そんなことは気にもしていないし、取るに足らないことだ。
だが牧野からあんな風に睨まれるとは思わなかった。
俺は牧野との関係を修復したい。
あの頃の俺とお前の幼かった淡い恋心をまた取り戻したい。
俺の内面で牧野への想いが大きくなってきているのを感じる。
そして一番厄介なのは夢だ。
あいつの出てくる夢を見る。
高校生の牧野と今の牧野が出て来て俺に笑いかけてくる。
今までは夢を見ることなど殆ど無かった。
帰国してきてからの俺の夢には必ずと言ってもいいほどに牧野が出て来ては俺に微笑みかけてくる。
重症だな。
道明寺はデスクから離れると執務室を後にする。
秘書の男が顔を上げてこちらを見たが何も言うことはなかった。
どこへ行くとあてもなく役員室が並ぶ長い廊下を歩いてエレベーターの前まで来た。
いったい俺は何をしているんだ。
俺は動揺しているのか?
牧野をこの腕の中に抱き寄せた時の感触は今もこの手に残っている。
だめだ、牧野のことを考えるだけで興奮してしまう。
俺は知らないうちに汗をかいた手のひらを握りしめていた。
******
つくしは開いていたファイルを閉じた。
都内某所でのマンション建設用地に関する報告書をまとめている。
ここは湾岸エリアに近い為どうしても地盤が軟弱だ。
ある程度の地盤改良が必要となるだろう。
仕事のことを考えつつもあの男の言葉が頭の中を巡る。
『 俺は今でもお前のことが好きだ 』
そう言っていた。
その言葉が嘘か真か確かめることは出来る。
つくしは閉じたファイルをキャビネットの中へと収め席をたった。
ひとり休憩室の自動販売機の前まで来るとお気に入りのコーヒーのボタンを押し
低い位置にある取り出し口からカップを取り出す。
屈んだ拍子に首の後ろに痛みが走りその場所を片手でさすりながら背を伸ばした。
仕事のし過ぎなのかな?
何気に窓の外の風景へと目を向けた。
そこにはきれいに晴れ渡った午後の青空が広がっている。
遠くに白い雲が浮かび、飛行機雲も見える。
飛行機か・・・・
まさか道明寺とあんな場所で会うことになるとは思わなかったな・・・・
私の肩をつかんだ道明寺の手の感触がまだ残っている。
仕事上のことなら割り切ればいい。
それにあいつの会社がうちを買収したからと言ってもそれも仕事だと割り切ればいい。
何を企んでいるのかは知らないけど私は自分の仕事を完璧にこなせばいい。
あの時は感情的になってしまったけれど、今なら落ち着いて話も出来るはずだ。
私は自由になりたい。あの時の想いから・・・・
つくしは飲み終えたコーヒーのカップを捨てると休憩室を後にした。
******
会議は午後2時に始まった。
道明寺ホールディングス日本支社での会議に島田コンサルタントから派遣されたのは牧野だ。
道明寺エステートが開発するマンションの建設を請け負った会社が地質調査を依頼していたのが島田だった。
俺はそれを知ってこの会議に無理矢理参加をすることにした。
この際、スケジュールが多少狂おうと関係ない。
牧野が自らうちのビルに足を踏み入れるなんてことは今後もあるかどうか分からないからな。
入念な計画を練っていた牧野つくし捕獲作戦は作戦変更だ。
何がなんでも牧野つくしを・・・捕まえてみせる。
なぜ不動産部門の会議に支社長である俺が自ら参加しているのか不思議に思うだろう。
そこは帰国間もない俺が各部門の視察も兼ねてと言う意味合いを含めてある。
上席についた俺は会議テーブルに並ぶ人間の顔を確認した。
居並ぶ人間は皆こちらに注目をしている。
が、牧野だけは俺の方をろくに見ようともしない。
今日の牧野は濃紺のスーツだった。
上品で落ち着いた雰囲気が感じられ、髪は後ろできっちりと束ねられている。
いいか、くれぐれも焦りは禁物だ。
今まで2度も失敗しているからな。
不動産部門の担当者が会議の開始を宣言している。
俺は鷹揚に頷いてみせた。
道明寺が自らこの会議に参加する意味は無いはずだ。
この男は昔から何をやらかすか分かったものじゃない。
いい歳をして何を考えているのか・・・
私は発言者の意見に耳を傾けながらそんな事を思っていた。
******
「島田コンサルタントの牧野さん、お話を伺いたいので少し残って頂けますか?」
そう言いながら私に話し掛けてきた道明寺に対し私も丁寧に答える。
「はい、どのようなお話でしょうか?」
ここはあくまでもビジネスライクに接してみせるわ。
既に数名が席をたち会議室を後にしはじめている。
支社長が自ら声をかけた人間に対して回りの人間は訝しげな視線を送ってくるが
二人を直視する人間などいるはずがない。
会議室は先ほどまで意見が交わされていた熱を急速に失ってきたように感じられる。
既に立ち上がっていた私はそのままの姿勢で道明寺がこちらへと近づいてくる様子を見ていた。
他の社員の前で残って欲しいと言われた手前、大人しく話を聞くしかない。
後ろでドアの閉まる音が大きく響いた。
「牧野、なぜ俺から逃げようとする?」
二人きりになった会議室で道明寺はつくしに詰め寄ってくる。
彼から漂ってくる懐かしい香りに気持ちを乱されそうになった。
「べ、別に逃げてなんていませんが?」
「じゃあなぜ俺の話を聞こうとしないんだ?」
つくしは思考をまとめようとしていたが、こんなに至近距離では無理だった。
「な、何を聞けと?」
道明寺はつくしを見下ろしている。
彼と距離をおかなくては・・。
そう思った途端、左腕を掴まれて引き寄せられた。
「俺の気持ちはもう伝えたよな?俺はお前の事が好きだ、今でも」

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牧野と話しをしたいと思い、あいつの会社まで出向いたはいいが話しにはならなかった。
数多くの企業買収を手掛けてきて、敵意に満ちた目で見られるのは慣れている。
そんなことは気にもしていないし、取るに足らないことだ。
だが牧野からあんな風に睨まれるとは思わなかった。
俺は牧野との関係を修復したい。
あの頃の俺とお前の幼かった淡い恋心をまた取り戻したい。
俺の内面で牧野への想いが大きくなってきているのを感じる。
そして一番厄介なのは夢だ。
あいつの出てくる夢を見る。
高校生の牧野と今の牧野が出て来て俺に笑いかけてくる。
今までは夢を見ることなど殆ど無かった。
帰国してきてからの俺の夢には必ずと言ってもいいほどに牧野が出て来ては俺に微笑みかけてくる。
重症だな。
道明寺はデスクから離れると執務室を後にする。
秘書の男が顔を上げてこちらを見たが何も言うことはなかった。
どこへ行くとあてもなく役員室が並ぶ長い廊下を歩いてエレベーターの前まで来た。
いったい俺は何をしているんだ。
俺は動揺しているのか?
牧野をこの腕の中に抱き寄せた時の感触は今もこの手に残っている。
だめだ、牧野のことを考えるだけで興奮してしまう。
俺は知らないうちに汗をかいた手のひらを握りしめていた。
******
つくしは開いていたファイルを閉じた。
都内某所でのマンション建設用地に関する報告書をまとめている。
ここは湾岸エリアに近い為どうしても地盤が軟弱だ。
ある程度の地盤改良が必要となるだろう。
仕事のことを考えつつもあの男の言葉が頭の中を巡る。
『 俺は今でもお前のことが好きだ 』
そう言っていた。
その言葉が嘘か真か確かめることは出来る。
つくしは閉じたファイルをキャビネットの中へと収め席をたった。
ひとり休憩室の自動販売機の前まで来るとお気に入りのコーヒーのボタンを押し
低い位置にある取り出し口からカップを取り出す。
屈んだ拍子に首の後ろに痛みが走りその場所を片手でさすりながら背を伸ばした。
仕事のし過ぎなのかな?
何気に窓の外の風景へと目を向けた。
そこにはきれいに晴れ渡った午後の青空が広がっている。
遠くに白い雲が浮かび、飛行機雲も見える。
飛行機か・・・・
まさか道明寺とあんな場所で会うことになるとは思わなかったな・・・・
私の肩をつかんだ道明寺の手の感触がまだ残っている。
仕事上のことなら割り切ればいい。
それにあいつの会社がうちを買収したからと言ってもそれも仕事だと割り切ればいい。
何を企んでいるのかは知らないけど私は自分の仕事を完璧にこなせばいい。
あの時は感情的になってしまったけれど、今なら落ち着いて話も出来るはずだ。
私は自由になりたい。あの時の想いから・・・・
つくしは飲み終えたコーヒーのカップを捨てると休憩室を後にした。
******
会議は午後2時に始まった。
道明寺ホールディングス日本支社での会議に島田コンサルタントから派遣されたのは牧野だ。
道明寺エステートが開発するマンションの建設を請け負った会社が地質調査を依頼していたのが島田だった。
俺はそれを知ってこの会議に無理矢理参加をすることにした。
この際、スケジュールが多少狂おうと関係ない。
牧野が自らうちのビルに足を踏み入れるなんてことは今後もあるかどうか分からないからな。
入念な計画を練っていた牧野つくし捕獲作戦は作戦変更だ。
何がなんでも牧野つくしを・・・捕まえてみせる。
なぜ不動産部門の会議に支社長である俺が自ら参加しているのか不思議に思うだろう。
そこは帰国間もない俺が各部門の視察も兼ねてと言う意味合いを含めてある。
上席についた俺は会議テーブルに並ぶ人間の顔を確認した。
居並ぶ人間は皆こちらに注目をしている。
が、牧野だけは俺の方をろくに見ようともしない。
今日の牧野は濃紺のスーツだった。
上品で落ち着いた雰囲気が感じられ、髪は後ろできっちりと束ねられている。
いいか、くれぐれも焦りは禁物だ。
今まで2度も失敗しているからな。
不動産部門の担当者が会議の開始を宣言している。
俺は鷹揚に頷いてみせた。
道明寺が自らこの会議に参加する意味は無いはずだ。
この男は昔から何をやらかすか分かったものじゃない。
いい歳をして何を考えているのか・・・
私は発言者の意見に耳を傾けながらそんな事を思っていた。
******
「島田コンサルタントの牧野さん、お話を伺いたいので少し残って頂けますか?」
そう言いながら私に話し掛けてきた道明寺に対し私も丁寧に答える。
「はい、どのようなお話でしょうか?」
ここはあくまでもビジネスライクに接してみせるわ。
既に数名が席をたち会議室を後にしはじめている。
支社長が自ら声をかけた人間に対して回りの人間は訝しげな視線を送ってくるが
二人を直視する人間などいるはずがない。
会議室は先ほどまで意見が交わされていた熱を急速に失ってきたように感じられる。
既に立ち上がっていた私はそのままの姿勢で道明寺がこちらへと近づいてくる様子を見ていた。
他の社員の前で残って欲しいと言われた手前、大人しく話を聞くしかない。
後ろでドアの閉まる音が大きく響いた。
「牧野、なぜ俺から逃げようとする?」
二人きりになった会議室で道明寺はつくしに詰め寄ってくる。
彼から漂ってくる懐かしい香りに気持ちを乱されそうになった。
「べ、別に逃げてなんていませんが?」
「じゃあなぜ俺の話を聞こうとしないんだ?」
つくしは思考をまとめようとしていたが、こんなに至近距離では無理だった。
「な、何を聞けと?」
道明寺はつくしを見下ろしている。
彼と距離をおかなくては・・。
そう思った途端、左腕を掴まれて引き寄せられた。
「俺の気持ちはもう伝えたよな?俺はお前の事が好きだ、今でも」

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