つくしは中庭を取り囲んでいる長い回廊を歩いていた。
すると後ろから男の声が聞えた。
「つくし様!つくし王女様お待ち下さい!」
だがつくしは待たなかった。
だから男は走ってつくしに追いつくと言った。
「王女様!どうかわたくしの話をお聞きください!王女様は今年26歳になられます。
ですから先日も申し上げたように、そろそろご結婚を考えていただけませんでしょうか?そうしなければ我が国は__」
「嫌よ!前にも言ったけど私は結婚なんてしません!」
つくしは隣に並んだ男の言葉を遮った。
「いい?よく聞いて。どうせどこかの国のバカな王子と結婚させられるんでしょ?私は政略結婚なんて絶対に嫌!それに愛のない結婚はしたくないの!だから結婚はしません!」
「しかし王女様。王女様が結婚してお世継ぎをお生みになられませんと、我が国は消滅してしまいます。我が国は隣国の一部になってしまいます」
男が言う隣国。
それは川を挟んで国境を接する大国。
遠い昔、一時つくしの国の一部を占領したことがあったが奪還した。
「そして彼らには心がない。彼らが欲しいのは我が国の豊な資源と肥沃な農地です。つまり我が国が隣国の一部になれば資源や農地が彼らに奪われることはもちろん、自治もなくなるでしょう。そうなれば我が国の民は奴隷も同じです。ですから、そうならないためには王女様には結婚してお世継ぎをお生みいただかなければならないのです。お分かりですよね?もうこの国には王女様しかいらっしゃらないのですから」
つくしには弟がいた。しかし事故で亡くなった。
だからつくしが王家のただひとりの王位継承者だ。
それに国民に対して責任があることも分かっている。
そして隣国との約束で直系の跡継ぎが居なくなれば隣国に併合されてしまうことも分かっている。
「つくし様。あなたの血を引く跡継ぎさえ生まれれば、お相手はどなたでもいいんです。例えば幼馴染みの青池不動産の青池和也様でも構わないのです」
つくしは男の言葉にバカなことを言うなとばかり笑った。
「冗談は止めて。彼はただの幼馴染みでそれ以外の何ものでもないわ」
「それなら__」
「止めて。誰の名前を出すつもりか知らないけど、私は政略結婚をするつもりはないわ!」

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「つくし様!つくし王女様お待ち下さい!」
だがつくしは待たなかった。
だから男は走ってつくしに追いつくと言った。
「王女様!どうかわたくしの話をお聞きください!王女様は今年26歳になられます。
ですから先日も申し上げたように、そろそろご結婚を考えていただけませんでしょうか?そうしなければ我が国は__」
「嫌よ!前にも言ったけど私は結婚なんてしません!」
つくしは隣に並んだ男の言葉を遮った。
「いい?よく聞いて。どうせどこかの国のバカな王子と結婚させられるんでしょ?私は政略結婚なんて絶対に嫌!それに愛のない結婚はしたくないの!だから結婚はしません!」
「しかし王女様。王女様が結婚してお世継ぎをお生みになられませんと、我が国は消滅してしまいます。我が国は隣国の一部になってしまいます」
男が言う隣国。
それは川を挟んで国境を接する大国。
遠い昔、一時つくしの国の一部を占領したことがあったが奪還した。
「そして彼らには心がない。彼らが欲しいのは我が国の豊な資源と肥沃な農地です。つまり我が国が隣国の一部になれば資源や農地が彼らに奪われることはもちろん、自治もなくなるでしょう。そうなれば我が国の民は奴隷も同じです。ですから、そうならないためには王女様には結婚してお世継ぎをお生みいただかなければならないのです。お分かりですよね?もうこの国には王女様しかいらっしゃらないのですから」
つくしには弟がいた。しかし事故で亡くなった。
だからつくしが王家のただひとりの王位継承者だ。
それに国民に対して責任があることも分かっている。
そして隣国との約束で直系の跡継ぎが居なくなれば隣国に併合されてしまうことも分かっている。
「つくし様。あなたの血を引く跡継ぎさえ生まれれば、お相手はどなたでもいいんです。例えば幼馴染みの青池不動産の青池和也様でも構わないのです」
つくしは男の言葉にバカなことを言うなとばかり笑った。
「冗談は止めて。彼はただの幼馴染みでそれ以外の何ものでもないわ」
「それなら__」
「止めて。誰の名前を出すつもりか知らないけど、私は政略結婚をするつもりはないわ!」

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男はバーに入ると足を止め店内を見回した。
男は柔らかな音楽が流れるこの店の常連客。
そして同じくこの店の常連の四人組を見つけると近づいた。
「あれ?西田さん、最近見ないと思ったけど、お久し振りですね」
まず初めに西田に声をかけたのは、ストレートパーマがかかった長めの髪にシャギーを入れている男。
美作あきらという男は明るく親しみやすく、誰にでも親切なのが信条。
「本当だ。暫くお会いしませんでしたがお元気ですか?」
次にそう言ったのは、人の出会いは一期一会と言う黒髪の男。
西門総二郎は頭の回転が速く社交的な男。
「西田さん、何だか疲れてるみたい。早く座った方がいいよ」
ビー玉のような瞳を持ち、穏やかな空気に包まれた男はそう言ったが、花沢類という男は簡単には微笑まない。
そしてもうひとり。
何も言わずに座っている男は、癖のある髪に濃い睫毛を持つ鋭い瞳の道明寺司。
西田はその男の真正面に腰を下ろした。
彼ら四人はこの街でもっとも人気のある独身男たち。
その端正な顔立ちに女性たちの目は彼らに向けられ、うっとりとした表情を浮かべているが、当の本人たちは気にとめていない。だがその気になれば四人はどんな女性も簡単に落とすことができると言われている。だから西田は自分の職務を全うするため、この男達に目を付けたのだが、美作あきらは人妻しか相手にしないと言われ、西門総二郎は何人もの女性と同時進行は当たり前と言う。それに花沢類は世捨て人のような生活を送っていて女性に興味がないと言う。そして道明寺司は極端に偏った性的嗜好の持ち主だと言われていて___
西田は思案顔でしばらく黙っていたが、眼鏡を押し上げ言った。
「実は皆さんにお願いがあります」

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男は柔らかな音楽が流れるこの店の常連客。
そして同じくこの店の常連の四人組を見つけると近づいた。
「あれ?西田さん、最近見ないと思ったけど、お久し振りですね」
まず初めに西田に声をかけたのは、ストレートパーマがかかった長めの髪にシャギーを入れている男。
美作あきらという男は明るく親しみやすく、誰にでも親切なのが信条。
「本当だ。暫くお会いしませんでしたがお元気ですか?」
次にそう言ったのは、人の出会いは一期一会と言う黒髪の男。
西門総二郎は頭の回転が速く社交的な男。
「西田さん、何だか疲れてるみたい。早く座った方がいいよ」
ビー玉のような瞳を持ち、穏やかな空気に包まれた男はそう言ったが、花沢類という男は簡単には微笑まない。
そしてもうひとり。
何も言わずに座っている男は、癖のある髪に濃い睫毛を持つ鋭い瞳の道明寺司。
西田はその男の真正面に腰を下ろした。
彼ら四人はこの街でもっとも人気のある独身男たち。
その端正な顔立ちに女性たちの目は彼らに向けられ、うっとりとした表情を浮かべているが、当の本人たちは気にとめていない。だがその気になれば四人はどんな女性も簡単に落とすことができると言われている。だから西田は自分の職務を全うするため、この男達に目を付けたのだが、美作あきらは人妻しか相手にしないと言われ、西門総二郎は何人もの女性と同時進行は当たり前と言う。それに花沢類は世捨て人のような生活を送っていて女性に興味がないと言う。そして道明寺司は極端に偏った性的嗜好の持ち主だと言われていて___
西田は思案顔でしばらく黙っていたが、眼鏡を押し上げ言った。
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「それってつまり王女様を誘惑して欲しいという意味ですか?」
あきらは真剣な顏で訊いた。
「はい。王女様は今年の12月で26歳になられます。しかしご結婚の意思がございません。
つまりこのままでは直系の子孫が生まれることがないということです」
西田はひと呼吸おくと言葉を継いだ。
「我が国は直系の方が国を継ぐことが決められています。王子であった弟君が亡くなられた今、王女様が結婚をなさならいということは、この先この国を継ぐ者がいない。そのことが意味するのは、この国が隣国の一部になってしまうということなのです」
「この国が隣国の一部になるってどうして?」
総二郎の言葉には好奇心が覗いていた。
「はい。我が国は遠い昔、国の一部が隣国に占領されたことがあります。しかし奪還したという歴史がございます。そのとき我が国は隣国と条約を結んだのです。いえ、正確には結ばされたといった方が正しいのですが、こののち君主は直系の子孫に限る。そしてもし直系の子孫がいない場合は隣国の旗の下に入ると。とても友好的とは言えない条約ですから、どうしても王女様には結婚してお世継ぎをお生みいただかなければならないのです」
「ふぅん。なんだかよくわからない約束だけど、王女様が結婚して子供を作らなければこの国は隣の国に統合されてしまうってことか。それは大変だね」
類は女性に興味はないが政治にも興味がない。
だからその声は平坦だ。
だが「でもいいかも」と言って司に向けた瞳には面白そうな光が浮かんだ。
「ねえ司。王女様を誘惑して欲しいって話。お前に丁度いいんじゃない?」
類の悪戯っぽいその声に、あきらと総二郎も声を揃えて言った。
「おい類。お前いいこと言うな。そうだな。この役目、司にピッタリだ。おあつらえ向きだ」
「まったくだ。この役目は司にうってつけだ」
「おい待て!なんで俺がうってつけなんだよ!」
司は親友たちの言葉に不服を唱えた。
「だってさ、お前この前言ったよな?」
「またその話か。言っておくが俺は言ってない!」
司は総二郎を睨んだ。
「いや俺たちはちゃんと聞いた。アレは訊き間違えなんかじゃなかった。
司、お前はあの時こう言った。罠にかけられるのが嫌で女と長続きしたことがない。それに自分から女を口説いたことがない。だから一度くらい女を口説いてみたいってな」
司はそんなことを言った覚えはなかった。
だが四人で酒を浴びるほど飲んだ日に、そんな言葉を口にしたらしい。
「だから司。お前が王女様を口説け。誘惑しろ」
「おい総二郎。口説け誘惑しろというが、その意味を分かって言ってるのか?」
「ああ分かってる。お前が王女様と結婚して永遠のエスコート役になればいいって話だ」

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あきらは真剣な顏で訊いた。
「はい。王女様は今年の12月で26歳になられます。しかしご結婚の意思がございません。
つまりこのままでは直系の子孫が生まれることがないということです」
西田はひと呼吸おくと言葉を継いだ。
「我が国は直系の方が国を継ぐことが決められています。王子であった弟君が亡くなられた今、王女様が結婚をなさならいということは、この先この国を継ぐ者がいない。そのことが意味するのは、この国が隣国の一部になってしまうということなのです」
「この国が隣国の一部になるってどうして?」
総二郎の言葉には好奇心が覗いていた。
「はい。我が国は遠い昔、国の一部が隣国に占領されたことがあります。しかし奪還したという歴史がございます。そのとき我が国は隣国と条約を結んだのです。いえ、正確には結ばされたといった方が正しいのですが、こののち君主は直系の子孫に限る。そしてもし直系の子孫がいない場合は隣国の旗の下に入ると。とても友好的とは言えない条約ですから、どうしても王女様には結婚してお世継ぎをお生みいただかなければならないのです」
「ふぅん。なんだかよくわからない約束だけど、王女様が結婚して子供を作らなければこの国は隣の国に統合されてしまうってことか。それは大変だね」
類は女性に興味はないが政治にも興味がない。
だからその声は平坦だ。
だが「でもいいかも」と言って司に向けた瞳には面白そうな光が浮かんだ。
「ねえ司。王女様を誘惑して欲しいって話。お前に丁度いいんじゃない?」
類の悪戯っぽいその声に、あきらと総二郎も声を揃えて言った。
「おい類。お前いいこと言うな。そうだな。この役目、司にピッタリだ。おあつらえ向きだ」
「まったくだ。この役目は司にうってつけだ」
「おい待て!なんで俺がうってつけなんだよ!」
司は親友たちの言葉に不服を唱えた。
「だってさ、お前この前言ったよな?」
「またその話か。言っておくが俺は言ってない!」
司は総二郎を睨んだ。
「いや俺たちはちゃんと聞いた。アレは訊き間違えなんかじゃなかった。
司、お前はあの時こう言った。罠にかけられるのが嫌で女と長続きしたことがない。それに自分から女を口説いたことがない。だから一度くらい女を口説いてみたいってな」
司はそんなことを言った覚えはなかった。
だが四人で酒を浴びるほど飲んだ日に、そんな言葉を口にしたらしい。
「だから司。お前が王女様を口説け。誘惑しろ」
「おい総二郎。口説け誘惑しろというが、その意味を分かって言ってるのか?」
「ああ分かってる。お前が王女様と結婚して永遠のエスコート役になればいいって話だ」

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自宅に戻った司は強い酒を飲み、頭の中を整理しようとした。
バーで西田の口から王女を誘惑して欲しいという言葉を訊き、むせそうになった。
そして親友たちから、お前がその立場にピッタリだと言われ脇腹を殴られたような気がした。
「まさかな…….」
親友たちには話さなかったが司は王女を知っていた。
いや。少し言葉を交わしただけでは知っているとは言えない。
それに王女は司のことを覚えていないだろう。
司が王女と会ったのは17歳のとき。
初めて出会った日のことは覚えている。
司が通っていた高校は小学校から大学まで全ての学校課程のある一貫校。
だから図書館も大きく立派なものがあるが、司は誰もいないその場所に置かれたソファで寝ていた。
そこに現れた王女は、目が覚めた司と視線が合うと、「お休み中のところごめんなさい。私が探している本がこの辺りにあるの。見つけたらすぐに立ち去るわ」と言った。
司は出会ったそのとき彼女が王女だとは知らなかった。
何しろお付きの人間はおらず、たったひとり。それに服装は飾り気のないセーター。
そして長い黒髪を三つ編みにしていた。だからここの学生だと思った。王女など思いもしなかった。
だが彼女には凛とした雰囲気があった。
それに司を見て頬を染めることもなければ、周りにいる女達のように色目を使ってくることもなかった。むしろ探している本以外は無関心といった態度で二度と司の方を見ようとしなかった。
だから司は自分に興味を示さない彼女に興味を抱いた。
何年生の誰なのか。
だがその日、司は機嫌が悪かった。
それは着たくもないスーツを無理矢理着せられたから。
だから意地悪な笑みを浮べて言った。
「お前、勉強だけが取り柄のブス女か」
すると彼女は司をじっと見つめて言った。
「じゃああなたは顏だけがいいバカ男ね」
「なんだと!お前誰に向かってそんな口を訊いてると思ってるんだ!」
司は自分を侮辱する人間に会ったことがない。
だから身体を起こすと立ち上がったが、背の高い司にすれば彼女は背が低く小さな子供のようだった。
だが彼女は司に臆することなく小さな鼻をツンと上に向けて言った。
「あら、ごめんなさい、顏だけがいいバカ男じゃなくて図書館は勉強する場所なのにそこで寝ているバカ男かしら?」
「なんだと……..」
司は一歩前へ出た。
すると司はその瞬間、胃に衝撃を感じた。
それは彼女の右手が司の腹に加えた衝撃。
そして彼女は司に背中を向けて駆け出した。
「テメェ、待ちやがれ!」
司は彼女を追った。だが書架の間を駆け抜ける彼女に追いつくことは出来ず、彼女は図書館の外へ出た。そして見失った。
だが司は、この学園の生徒ならすぐに見つけることが出来るという思いから、それ以上追わなかった。捜さなかった。
だが見つけることは出来なかった。それもそのはずだ。彼女はこの学園の生徒ではなかったのだから。それに彼女はこの国の王女。
そして、そんな彼女が司の初恋の人だった。

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バーで西田の口から王女を誘惑して欲しいという言葉を訊き、むせそうになった。
そして親友たちから、お前がその立場にピッタリだと言われ脇腹を殴られたような気がした。
「まさかな…….」
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いや。少し言葉を交わしただけでは知っているとは言えない。
それに王女は司のことを覚えていないだろう。
司が王女と会ったのは17歳のとき。
初めて出会った日のことは覚えている。
司が通っていた高校は小学校から大学まで全ての学校課程のある一貫校。
だから図書館も大きく立派なものがあるが、司は誰もいないその場所に置かれたソファで寝ていた。
そこに現れた王女は、目が覚めた司と視線が合うと、「お休み中のところごめんなさい。私が探している本がこの辺りにあるの。見つけたらすぐに立ち去るわ」と言った。
司は出会ったそのとき彼女が王女だとは知らなかった。
何しろお付きの人間はおらず、たったひとり。それに服装は飾り気のないセーター。
そして長い黒髪を三つ編みにしていた。だからここの学生だと思った。王女など思いもしなかった。
だが彼女には凛とした雰囲気があった。
それに司を見て頬を染めることもなければ、周りにいる女達のように色目を使ってくることもなかった。むしろ探している本以外は無関心といった態度で二度と司の方を見ようとしなかった。
だから司は自分に興味を示さない彼女に興味を抱いた。
何年生の誰なのか。
だがその日、司は機嫌が悪かった。
それは着たくもないスーツを無理矢理着せられたから。
だから意地悪な笑みを浮べて言った。
「お前、勉強だけが取り柄のブス女か」
すると彼女は司をじっと見つめて言った。
「じゃああなたは顏だけがいいバカ男ね」
「なんだと!お前誰に向かってそんな口を訊いてると思ってるんだ!」
司は自分を侮辱する人間に会ったことがない。
だから身体を起こすと立ち上がったが、背の高い司にすれば彼女は背が低く小さな子供のようだった。
だが彼女は司に臆することなく小さな鼻をツンと上に向けて言った。
「あら、ごめんなさい、顏だけがいいバカ男じゃなくて図書館は勉強する場所なのにそこで寝ているバカ男かしら?」
「なんだと……..」
司は一歩前へ出た。
すると司はその瞬間、胃に衝撃を感じた。
それは彼女の右手が司の腹に加えた衝撃。
そして彼女は司に背中を向けて駆け出した。
「テメェ、待ちやがれ!」
司は彼女を追った。だが書架の間を駆け抜ける彼女に追いつくことは出来ず、彼女は図書館の外へ出た。そして見失った。
だが司は、この学園の生徒ならすぐに見つけることが出来るという思いから、それ以上追わなかった。捜さなかった。
だが見つけることは出来なかった。それもそのはずだ。彼女はこの学園の生徒ではなかったのだから。それに彼女はこの国の王女。
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「こちらが王女様のお気に入りのお店です。王女様はこの店のパフェが大好物です。
ですから2週間に一度の割合で店を訪問してお召し上がりになられます」
渡されたのは王女のお気に入りの店の地図
司は西田の王女を誘惑して欲しいという頼みを引き受けた。
それは今でも初恋の相手である王女のことが好きだから。
だから他の誰かに代わりをさせることなど出来なかった。
「それから、こちらが王女様のスケジュールです」
次に渡されたのは王女の直近のスケジュール。
西田の話では、スケジュールが空白の日に王女はその店に足を運ぶと言った。
そして今日の王女のスケジュールは空白。だから司はその店にいて3杯目の濃いコーヒーを飲み終えたところだ。
ちらりと腕時計を見る。
時間は午後3時半。
つまり昼からコーヒー3杯で3時間半もここにいる。
だが、今日彼女は現れないのかもしれないと考え始めた。
しかし判断を誤ってこのチャンスをふいにしたくなかった。もしかすると、あと30分待てば彼女が来るかもしれない。だからコーヒーをもう一杯頼むことにした。
その時だった。
「いらっしゃいませ!」
司はその声に店の入口を見た。
するとそこには変装しているつもりなのか。黒いフレームの丸眼鏡をかけた彼女がいた。
司はゆっくりと彼女の全身を眺めた。
あの時は冬で飾り気のないセーターを着ていたが、夏の今も飾り気のないブラウスにスカート。だが三つ編みだった長い黒髪は肩の長さになり、歩く度に顏の周りで軽やかに揺れていた。つまりそれは大人っぽいスタイルということだが、長い時を経て会う彼女は綺麗だった。

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ですから2週間に一度の割合で店を訪問してお召し上がりになられます」
渡されたのは王女のお気に入りの店の地図
司は西田の王女を誘惑して欲しいという頼みを引き受けた。
それは今でも初恋の相手である王女のことが好きだから。
だから他の誰かに代わりをさせることなど出来なかった。
「それから、こちらが王女様のスケジュールです」
次に渡されたのは王女の直近のスケジュール。
西田の話では、スケジュールが空白の日に王女はその店に足を運ぶと言った。
そして今日の王女のスケジュールは空白。だから司はその店にいて3杯目の濃いコーヒーを飲み終えたところだ。
ちらりと腕時計を見る。
時間は午後3時半。
つまり昼からコーヒー3杯で3時間半もここにいる。
だが、今日彼女は現れないのかもしれないと考え始めた。
しかし判断を誤ってこのチャンスをふいにしたくなかった。もしかすると、あと30分待てば彼女が来るかもしれない。だからコーヒーをもう一杯頼むことにした。
その時だった。
「いらっしゃいませ!」
司はその声に店の入口を見た。
するとそこには変装しているつもりなのか。黒いフレームの丸眼鏡をかけた彼女がいた。
司はゆっくりと彼女の全身を眺めた。
あの時は冬で飾り気のないセーターを着ていたが、夏の今も飾り気のないブラウスにスカート。だが三つ編みだった長い黒髪は肩の長さになり、歩く度に顏の周りで軽やかに揺れていた。つまりそれは大人っぽいスタイルということだが、長い時を経て会う彼女は綺麗だった。

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