「ねえ里美。美味しいパンケーキを出すお店が新しくオープンしたらしいんだけど、食べにいかない?」
「パンケーキ?」
「うん。パンケーキ」
「マリトッツォじゃなくて?」
「うん。マリトッツォじゃなくてパンケーキ!」
「ねえ、なんか今更感があるんだけどパンケーキの流行はもう終わってるんじゃないの?」
「里美。今更も何も好きな物に流行は関係ないわ。あたしはただパンケーキが好きなだけ。だから一緒に…..ね?」
「そうねえ……最近食べてないし……」
「そうでしょ?最近食べてないでしょ?」
「うん。じゃあ久し振りに食べに行こうかな」
「ホント?じゃあ今度の土曜日。どう?」
「土曜?あ、ゴメン。土曜は用事があるの」
「じゃあ日曜は?」
「日曜だったらOKよ!それで場所はどこなの?」
「表参道よ」
「了解。表参道ね。じゃあ待ち合わせは….」
司は女性社員が立ち去った後の休憩室に足を踏み入れた。
そこにはいくつかの自販機が置かれていて、社員たちはここで飲み物を買っていた。
司は時々社内を巡ったあと、ここに来る。
何故ならここは彼女のフロアであり、もしかすると彼女がいるかもしれないからだ。
そして彼女がお気に入りのミルクティーを買っているかもしれないからだ。
だが、彼女はいなかった。
だから執務室に戻ったが、椅子に腰を下ろすと女性社員たちの会話を思い出していた。
司は甘いものが苦手だ。
だがパンケーキは食べたことがある。
それは恋人から「パンケーキが食べたいな」と呟かれたからだ。
だから邸のコックに作るように言ったことがある。
するとコックは恋人のために張り切ってパンケーキを焼いたが、そのとき恋人に「これフワフワで本当に美味しい。ほら。あんたもひと口食べてみて」と言われ、蜂蜜がかかっていない部分を、ひと口だけ食べたが、リコッタチーズがふんだんに使われたそれは、昔口にしたキャラメルパフェに比べれば甘さは感じられなかった。
そして司は、その時のことを思い出しながら目を閉じた。
司は10代で凄みを身に着けていた。
そして荒い声を立てずとも相手を射すくめる能力がある。
だから司が人前に立つと、そこにいる誰もが全集中で彼の言葉を訊く。
「我社はお客様第一主義に徹し、地域の皆様に愛されるスーパーを目指す。そのことをいつも心に止めて仕事をして欲しい」
司は紺色のジャケットを着て胸に名札を付けていた。
それはD&Yホールディングスと呼ばれる持ち株会社が、日本中に店舗を展開する総合スーパーの店長の制服。
司は30代前半の若さで全国一の床面積を持つ店の店長になった。
そして司が店長を務める店は、全店舗の中で一番の売り上げを誇る超優良店だが、彼は閉店後の店内で棚に並んだある商品を見つめていた。
それは醤油。その容器は司の鋭い視線に怯えることもなければ、後ろに下がることもなく静かにそこにあった。
司は最近ある問題を抱えていた。
それは空目、つまり見間違えをすることがあるということ。
何を見間違えてしまうのかといえば、醤油の容器に書かれた『しぼりたて生しょうゆ』の文字が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまうこと。
すると脳内に思い浮ぶのは縄で縛られた醤油の容器。
そして何故かその醤油の容器が、ある女性の姿に置き換わってしまうのだ。
そう。
司には好きな人がいる。
思いを寄せる人がいる。
その人はエリアマネージャーの牧野つくし。
彼女の仕事は本社の意向を店長である司に伝え、店の運営についてのアドバイスや業績管理をすることこと。それにライバル店の調査をするのも彼女の仕事だ。
そして彼女は司よりも年下だが立場は店長の司よりも上だ。
そんな彼女のルックスで司が一番好きなのは大きな黒い瞳。
話すとき、彼女はいつも真っ黒なその瞳で司を真正面から見つめるが、その瞳は美しい。
そして司はビジネススーツ姿の彼女しか見たことがないから、その下に隠された身体については、ひたすら妄想するしかないが、『しぼりたて生しょうゆ』の容器を見るたび、裸の彼女が縄で縛られた姿が脳内に浮かんでいた。

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「パンケーキ?」
「うん。パンケーキ」
「マリトッツォじゃなくて?」
「うん。マリトッツォじゃなくてパンケーキ!」
「ねえ、なんか今更感があるんだけどパンケーキの流行はもう終わってるんじゃないの?」
「里美。今更も何も好きな物に流行は関係ないわ。あたしはただパンケーキが好きなだけ。だから一緒に…..ね?」
「そうねえ……最近食べてないし……」
「そうでしょ?最近食べてないでしょ?」
「うん。じゃあ久し振りに食べに行こうかな」
「ホント?じゃあ今度の土曜日。どう?」
「土曜?あ、ゴメン。土曜は用事があるの」
「じゃあ日曜は?」
「日曜だったらOKよ!それで場所はどこなの?」
「表参道よ」
「了解。表参道ね。じゃあ待ち合わせは….」
司は女性社員が立ち去った後の休憩室に足を踏み入れた。
そこにはいくつかの自販機が置かれていて、社員たちはここで飲み物を買っていた。
司は時々社内を巡ったあと、ここに来る。
何故ならここは彼女のフロアであり、もしかすると彼女がいるかもしれないからだ。
そして彼女がお気に入りのミルクティーを買っているかもしれないからだ。
だが、彼女はいなかった。
だから執務室に戻ったが、椅子に腰を下ろすと女性社員たちの会話を思い出していた。
司は甘いものが苦手だ。
だがパンケーキは食べたことがある。
それは恋人から「パンケーキが食べたいな」と呟かれたからだ。
だから邸のコックに作るように言ったことがある。
するとコックは恋人のために張り切ってパンケーキを焼いたが、そのとき恋人に「これフワフワで本当に美味しい。ほら。あんたもひと口食べてみて」と言われ、蜂蜜がかかっていない部分を、ひと口だけ食べたが、リコッタチーズがふんだんに使われたそれは、昔口にしたキャラメルパフェに比べれば甘さは感じられなかった。
そして司は、その時のことを思い出しながら目を閉じた。
司は10代で凄みを身に着けていた。
そして荒い声を立てずとも相手を射すくめる能力がある。
だから司が人前に立つと、そこにいる誰もが全集中で彼の言葉を訊く。
「我社はお客様第一主義に徹し、地域の皆様に愛されるスーパーを目指す。そのことをいつも心に止めて仕事をして欲しい」
司は紺色のジャケットを着て胸に名札を付けていた。
それはD&Yホールディングスと呼ばれる持ち株会社が、日本中に店舗を展開する総合スーパーの店長の制服。
司は30代前半の若さで全国一の床面積を持つ店の店長になった。
そして司が店長を務める店は、全店舗の中で一番の売り上げを誇る超優良店だが、彼は閉店後の店内で棚に並んだある商品を見つめていた。
それは醤油。その容器は司の鋭い視線に怯えることもなければ、後ろに下がることもなく静かにそこにあった。
司は最近ある問題を抱えていた。
それは空目、つまり見間違えをすることがあるということ。
何を見間違えてしまうのかといえば、醤油の容器に書かれた『しぼりたて生しょうゆ』の文字が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまうこと。
すると脳内に思い浮ぶのは縄で縛られた醤油の容器。
そして何故かその醤油の容器が、ある女性の姿に置き換わってしまうのだ。
そう。
司には好きな人がいる。
思いを寄せる人がいる。
その人はエリアマネージャーの牧野つくし。
彼女の仕事は本社の意向を店長である司に伝え、店の運営についてのアドバイスや業績管理をすることこと。それにライバル店の調査をするのも彼女の仕事だ。
そして彼女は司よりも年下だが立場は店長の司よりも上だ。
そんな彼女のルックスで司が一番好きなのは大きな黒い瞳。
話すとき、彼女はいつも真っ黒なその瞳で司を真正面から見つめるが、その瞳は美しい。
そして司はビジネススーツ姿の彼女しか見たことがないから、その下に隠された身体については、ひたすら妄想するしかないが、『しぼりたて生しょうゆ』の容器を見るたび、裸の彼女が縄で縛られた姿が脳内に浮かんでいた。

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Comment:2
「道明寺店長。本日はご同行、ありがとうございました」
「いえ。こちらこそ」
「それにしてもその変装。よくお似合いです」
「そうですか。どうもありがとうございます」
司はエリアマネージャーである彼女と近隣のライバル店のリサーチに出掛けていた。
だが眉目秀麗と言われる司の面はライバル店に割れている。それにその容貌はひと目を惹く。
実際店長の司は女性客に人気があり、店内を巡回すれば、「あの…おすすめ商品買いました」と声をかけられるほどで、『バイヤーおすすめの品』よりも『店長おすすめの品』というPOPが書かれている商品が飛ぶように売れていた。
だからライバル店のリサーチに出掛ける時は関係者に気付かれないように必ず変装をしていた。
そして今回の司は、うっすらとだが口髭を生やし、黒色のスーツに光沢のある紫がかったペールブルーのシャツを合わせ、茶色のアビエーターサングラスをかけ黒のコートを着ていたが、その姿はどう見ても関わりたくない人物。だからすれ違う人々は、一瞬司を見るが、すぐに視線を逸らし逃げるように去る。
そして彼女もいつものビジネススーツではなく、ラベンダー色のボーダーニットに上品な淡いピンクのパンツ。そしてベージュのコートを着ていたが、司は彼女のその姿を見たとき眩暈を覚えた。
かわいい__
そして唇には、いつもとは違う色が塗られていて、司の目はその唇に釘付けになった。
それに彼女のすぐ傍に立つと、彼女の匂いが鼻孔をくすぐった。
だからリサーチの間じゅう、その香りに頭がクラクラしていた。
「道明寺店長?どうかされましたか?もしかしてご気分でも悪いのでは?」
「いえ…..」
司の気分は上々だ。
そして気分と同じでズボンの中のモノも今にも勃ち上がりそうだった。
「そうですか?それならいいのですが少しお顔が赤いので熱があるのではないかと思いまして」
と言った彼女は「それでは今日のリサーチの報告書は後日お持ちします」と言って司の前から立ち去ろうとした。
だから司は「牧野さん。遅くなりましたね。もしよろしければこれからお食事でもいかがですか?」と食事に誘った。
時計の針は午後6時を回っていた。
すると彼女は司をじっと見て、「店長。お店に戻らなくてもいいのですか?」と言った。
店は夜9時まで営業している。だから彼女は司が店に戻ると思っているようだ。
だが司は、「今日は午後から休みを取っているので戻る必要はありません」と答えた。
すると彼女は一瞬だけ困惑した表情を浮かべ、司に向けていた視線を外した。
それは司の誘いを受けるかどうか考えているということ。何しろ今まで一緒に他店のリサーチに出掛けても、食事に誘われたことなどなかった。それに彼女が司の店の担当になって二年が経つが食事に誘われるのは初めてのこと。
だから余計に食事に誘った司の真意をはかっているのだろう。
だが彼女は視線を司に戻すと「居酒屋…….駅前の居酒屋に行きませんか?」と言った。
「山田!あの男!アラスカに転勤になればいいのよ!」
彼女は空腹が苦手で、お腹が減ると不機嫌になりやすい。だがお腹が満たされると機嫌が直ると言った。そう言った彼女は、だから自分は分かりやすい人間で単純だと言ったが、アルコールに対しては単純とは言えないようだ。
「道明寺店長、どう思います?あの部長あたしの仕事の仕方が気に入らないなら面と向かって言えばいいのに、社内メールでネチネチ言って来るの!本当にムカつく!あんな男アラスカの海でシャチに食べられればいいのよ!」
彼女が言った山田とは、彼女の上司で髪の毛がチリチリとうねっている小柄な男。
司もその男のことは知っているが、趣味は座布団運びとやらで、どうやら彼女とは反りが合わないようだ。だからアラスカに転勤になればいいと言ったが、生憎D&Yホールディングスはアラスカに店舗を構えてはいない。
そして彼女は不満げに鼻を鳴らしたが、まさか真面目だと思われていた彼女の口からシャチに食べられればいいという過激な言葉が訊けるとは思ってもみなかった。それにこれまでどちらかと言えば他人行儀だった彼女が、鼻と鼻がくっつきそうになるくらい顏を近づけてくるとは思いもしなかった。
そして、「ねえ、道明寺店長。今日はとことん飲みましょうよ!」と言うと手を挙げて、
「すみませーん!」と店員を呼ぶと「焼き鳥とジャーマンポテト下さい。あ、それからビールのおかわりもお願いします!」と言った。
司は酒に強い。
だからどんなに空のジョッキがテーブルに並んでも表情は変わらない。
だが彼女は運ばれてきたビールジョッキを口に運ぶと司に絡んできた。
「ちょっと!もっと飲みなさいよ!アンタ男でしょ?それともあたしのお酒が飲めないっていうの?あたし、エリアマネージャーですけど?」
漆黒の瞳は大胆不敵に輝きハラスメントまがいの言葉を口にした。
だが司は彼女にならハラスメントを受けてもいいと思った。
特にセクシャルなハラスメントは大歓迎。
鼻と鼻がくっつきそうになる以上に、もっと彼女に近づきたい。
だが目の前の女性は注文した焼き鳥とジャーマンポテトを口に運び、ビールのおかわりを飲み干すとテーブルの上に突っ伏した。

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「いえ。こちらこそ」
「それにしてもその変装。よくお似合いです」
「そうですか。どうもありがとうございます」
司はエリアマネージャーである彼女と近隣のライバル店のリサーチに出掛けていた。
だが眉目秀麗と言われる司の面はライバル店に割れている。それにその容貌はひと目を惹く。
実際店長の司は女性客に人気があり、店内を巡回すれば、「あの…おすすめ商品買いました」と声をかけられるほどで、『バイヤーおすすめの品』よりも『店長おすすめの品』というPOPが書かれている商品が飛ぶように売れていた。
だからライバル店のリサーチに出掛ける時は関係者に気付かれないように必ず変装をしていた。
そして今回の司は、うっすらとだが口髭を生やし、黒色のスーツに光沢のある紫がかったペールブルーのシャツを合わせ、茶色のアビエーターサングラスをかけ黒のコートを着ていたが、その姿はどう見ても関わりたくない人物。だからすれ違う人々は、一瞬司を見るが、すぐに視線を逸らし逃げるように去る。
そして彼女もいつものビジネススーツではなく、ラベンダー色のボーダーニットに上品な淡いピンクのパンツ。そしてベージュのコートを着ていたが、司は彼女のその姿を見たとき眩暈を覚えた。
かわいい__
そして唇には、いつもとは違う色が塗られていて、司の目はその唇に釘付けになった。
それに彼女のすぐ傍に立つと、彼女の匂いが鼻孔をくすぐった。
だからリサーチの間じゅう、その香りに頭がクラクラしていた。
「道明寺店長?どうかされましたか?もしかしてご気分でも悪いのでは?」
「いえ…..」
司の気分は上々だ。
そして気分と同じでズボンの中のモノも今にも勃ち上がりそうだった。
「そうですか?それならいいのですが少しお顔が赤いので熱があるのではないかと思いまして」
と言った彼女は「それでは今日のリサーチの報告書は後日お持ちします」と言って司の前から立ち去ろうとした。
だから司は「牧野さん。遅くなりましたね。もしよろしければこれからお食事でもいかがですか?」と食事に誘った。
時計の針は午後6時を回っていた。
すると彼女は司をじっと見て、「店長。お店に戻らなくてもいいのですか?」と言った。
店は夜9時まで営業している。だから彼女は司が店に戻ると思っているようだ。
だが司は、「今日は午後から休みを取っているので戻る必要はありません」と答えた。
すると彼女は一瞬だけ困惑した表情を浮かべ、司に向けていた視線を外した。
それは司の誘いを受けるかどうか考えているということ。何しろ今まで一緒に他店のリサーチに出掛けても、食事に誘われたことなどなかった。それに彼女が司の店の担当になって二年が経つが食事に誘われるのは初めてのこと。
だから余計に食事に誘った司の真意をはかっているのだろう。
だが彼女は視線を司に戻すと「居酒屋…….駅前の居酒屋に行きませんか?」と言った。
「山田!あの男!アラスカに転勤になればいいのよ!」
彼女は空腹が苦手で、お腹が減ると不機嫌になりやすい。だがお腹が満たされると機嫌が直ると言った。そう言った彼女は、だから自分は分かりやすい人間で単純だと言ったが、アルコールに対しては単純とは言えないようだ。
「道明寺店長、どう思います?あの部長あたしの仕事の仕方が気に入らないなら面と向かって言えばいいのに、社内メールでネチネチ言って来るの!本当にムカつく!あんな男アラスカの海でシャチに食べられればいいのよ!」
彼女が言った山田とは、彼女の上司で髪の毛がチリチリとうねっている小柄な男。
司もその男のことは知っているが、趣味は座布団運びとやらで、どうやら彼女とは反りが合わないようだ。だからアラスカに転勤になればいいと言ったが、生憎D&Yホールディングスはアラスカに店舗を構えてはいない。
そして彼女は不満げに鼻を鳴らしたが、まさか真面目だと思われていた彼女の口からシャチに食べられればいいという過激な言葉が訊けるとは思ってもみなかった。それにこれまでどちらかと言えば他人行儀だった彼女が、鼻と鼻がくっつきそうになるくらい顏を近づけてくるとは思いもしなかった。
そして、「ねえ、道明寺店長。今日はとことん飲みましょうよ!」と言うと手を挙げて、
「すみませーん!」と店員を呼ぶと「焼き鳥とジャーマンポテト下さい。あ、それからビールのおかわりもお願いします!」と言った。
司は酒に強い。
だからどんなに空のジョッキがテーブルに並んでも表情は変わらない。
だが彼女は運ばれてきたビールジョッキを口に運ぶと司に絡んできた。
「ちょっと!もっと飲みなさいよ!アンタ男でしょ?それともあたしのお酒が飲めないっていうの?あたし、エリアマネージャーですけど?」
漆黒の瞳は大胆不敵に輝きハラスメントまがいの言葉を口にした。
だが司は彼女にならハラスメントを受けてもいいと思った。
特にセクシャルなハラスメントは大歓迎。
鼻と鼻がくっつきそうになる以上に、もっと彼女に近づきたい。
だが目の前の女性は注文した焼き鳥とジャーマンポテトを口に運び、ビールのおかわりを飲み干すとテーブルの上に突っ伏した。

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司は酔いつぶれた女をベッドに降ろした。
そして服を脱がせると、女の身体を楽々と裏返し枕元に置かれているロープを掴んだ。
『しぼりたて生しょうゆ』が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまう男は、マンションの部屋にロープを用意していた。だから酔って寝てしまった女を自宅まで連れ帰ると、これまで自覚することがなかった自身の性的嗜好を満足させることにした。
だが相手が誰でもいいという訳ではない。
相手は好きな女でなければリビドーは満たされない。
そう。相手はエリアマネージャーの牧野つくしでなければならないのだ。彼女に対し支配的立場をとりたいのだ。彼女を愛の奴隷にしたいのだ。
司はうつ伏せになった女の胸の上と下を縛り上げたが、女は目を覚ますことなく黙ってされるがままだ。次に両腕を後ろ手に交差して手首を縛ったが、荒い繊維は柔らかな白い肌に痕を残すだろう。
司は、囚われの身になった女の尻を持ち上げ貫きたい。
冷血な獣のように無防備、いや、縄で縛られた女を無理矢理犯したい。
だが貫くのは後ろの穴にするか。それとも前の穴にするか。
どっちを責められるのが好きか本人に訊いてみてもいいが、どちらにしても、その姿はみだらな姿には変わりない。そしてその姿を想像する司の胸は、いやがうえにも高鳴り身体は欲望でうずき、痛いほど切望した。それに牧野つくしがこれまでどんなセックスを経験してきたか知らないが、とにかく司は柔らかい彼女の尻の奥まで思いっきり貫きたかった。
だがこうして縛っている今は、まだ早いと本能的に前に出ようとしている身体を抑えていた。
そして司は彼女とこうするため、拘束プレイではなく本格的な縛りを学んだ。その道のプロから指導を受けた。するとその道のプロは、「君は筋がいい。君は支配する側の人間だ。この世界でご主人様として働かないか。君なら大勢の女性を奴隷として持つことができる」と司を誘った。だが司が支配したいのは一人の女であり、その他大勢の女はどうでもよかった。だから断った。
「…..う….ん…..」
どうやらうつ伏せになった女は目が覚めたようだ。
そして身じろぎもせず視界に入った世界について考えているようだ。
「目が覚めたか?」
女はうつ伏せのまま首をそらせ声がした方を見たが、素っ裸の司の姿にギョッとした。
司は真冬でもパジャマを着ることなく全裸で寝る。だから女を縛っている間も裸でいたが、その間、欲望しるしは硬直して直角よりも高く上がっていた。
そして目覚めと同時に酔いも醒めた女は、一瞬ののち自分が裸で縛られていることに気付いたようだ。
「何これ……道明寺店長これは一体どういうこと?」
司は口角を微かに上げ笑った。
縛りの指導をしたその道のプロは、司の笑い声をみだらで官能的だと言った。
低音で深みのあるバリトンの声は女のアソコを濡らすと言った。
けれど女の黒い瞳は怒りで濡れた黒曜石のように光っている。
だが女は怒りながらも、その背筋は震えていた。それは恐怖を感じているからだ。
「どうもこうもない。俺は店の棚に並んだしょうゆの容器を見て以来、お前の縛られた姿を想像していた。だからこうしてお前を縛った」
「店の棚に並んだしょうゆの容器?…..いったい何のこと?意味が分からない。それに何なのこれは!どういうことなのか説明しなさい!」
エリアマネージャーとして司より立場が上の彼女は、背後から自分を見下ろす司に声を荒げ命令口調で言った。
だが司は『しぼりたて生しょうゆ』が『しばりたて生しょうゆ』に見え、その容器が縛られた牧野つくしの姿に置き換わることを説明するつもりはない。
それよりも今は、その妄想によって明らかになった自身の性的嗜好が満たされることが重要だ。
それは縛られた女との性交だが、それが暴走した妄想だとしても止めることは出来ない。
それに裸で偉そうに自分の立場を主張されても、その姿には権威もへったくれもない。
だから司はそんな女に「俺はお前が欲しい。だがただ欲しいんじゃない。俺はお前のことが好きだ。そして俺は縛られたお前を犯したくてたまらなかった。だから縛った」と言って牧野つくしの下半身を掴むと弓なりにもち上げた。すると女はシーツに顏を埋める形になったが、そこで自分の身に起こることが予測できたようだ。だから縛られたまま身体をよじる。
「いや…….止めて…….道明寺店長止めなさい!手を離して縄をほどいて!ほどきなさい!これは命令よ!」
司は女の言葉を無視した。
もう牧野つくしは司のもので、司の好きに出来る。だから興奮で身体じゅうが震えた。
それに女も裸で縛られていては強気でやり過ごすことは無理だ。
女に司を止めることは出来ない。
だから司はからかうように言った。
「命令?それは業務命令か?もしそうだとしても、今のお前は俺に命令は出来ない。何故ならお前はこれから俺に支配されるからだ。だから抵抗は時間の無駄だ。それに今俺とお前の間にあるのは俺の意志とお前の快楽だ」
司は言うと迷うことなく前の穴に自身を沈めた。
するとその瞬間、女は悲鳴を上げたが、司の下半身には快感が走った。
だからもっと深く女の中に入った。
「こうして___お前は__俺に支配されている__だから__お前は__俺からは逃げられない」
司が言葉を切るたび再び女の口から悲鳴が上がる。
それはひと言ごとに司の腰が突き出されるから。
湧き上がってくる欲望は女を激しく責めろと言っていた。
「ああっ!……やめてぇ……!!」
「止めない。それに抗っても無駄だ。俺はお前を離しはしない。お前は俺のものだ。俺はお前のことが好きだ。だから俺を拒むな。受け入れろ」
司は2時間近く女を責めた。
縛った身体を弄んだ。
それでも司の分身の昂りは治まらなかった。
いやむしろ、もっと女が欲しくなった。
だから「牧野…..牧野….. 」と女の名前を呼びながら腰を打ちつけていたが、そのとき司の耳に届いたのは「ほん!」という声。
そして次に耳に届いたのは「うおっほん!」という言葉。
だから目を開けたが、そこにいたのは秘書の西田で「うおっほん」とは秘書の不自然な咳だ。
「支社長。おやすみのところ申し訳ございません。先日取材を受けた雑誌が発売されることになり出版社から送られてまいりましたのでお持ちいたしました」
秘書はそう言って机の上に経済誌を置くと出て行った。
司は秘書の言った通り最近雑誌の取材を受けたが、質問の中に、「あなたの好きな食べ物は何ですか?」という項目があった。
司は取材でそう訊かれた時の答えは決まっていて「特にない」と答える。
だが本当はある。司の好きな食べ物はお好み焼き。
しかし「特にない」と答えるのは秘書から指示があったから。
何しろ男は世界的な企業の跡取りであり、道明寺財閥の御曹司。
そして世界中の美食を知ると言われる男。
そんな男の好きな食べ物が「お好み焼き」では司のイメージに合わない。
だから秘書から「特にない」と答えて欲しいと言われていた。
だが司は世間が自分をどう思おうと関係ない。
本当は声を大にして好きな食べ物は、お好み焼きだと言いたかった。
そして子供の頃、それを焼いてくれたのは姉だが、大人になった彼のために焼いてくれるのは恋人だ。
そして司は昨日、地方出張から戻ってきた彼女にお好み焼きを焼いてもらった。
「ねえ。あたしがいつも焼くお好み焼きって生地に具材を混ぜ込んで焼くでしょ?あれは関西風。でも今日これから焼くのは広島風お好み焼きよ。広島風は具材をひとつずつ重ねて焼く重ね焼きなの。大丈夫よ。あっちで教えてもらったからまかせて!」
と、恋人は自信満々に言ったが出来上がったのは思っていたものとは違ったようで、
「あれ?おかしいわね?なんだか違うわね」と笑った。
司は基本恋人が作ってくれた料理は何でも食べる。
多少の好き嫌いはあるが我慢する。
だからお好み焼きも恋人が焼いてくれるなら、関西風だろうが広島風だろうが関係ない。
そして、お好み焼きを食べ終えた男の歯に付くのは青のりだが、女性の誰もがその青のりになりたいと望むはずだ。だが世界ひろしと言えども、道明寺財閥の御曹司に向かって歯に青のりが付いていると指摘する人間はまずいない。
それは世の中には触れていいことと悪いことがあり、分別のある人間なら見て見ぬふりをする方が自分のためになることを知っているからだ。
しかし一人だけ指摘出来る人間がいる。
臆することなく真実を告げる人間がいる。
そう、牧野つくしだけが司の歯に付いた青のりを指摘することができる。
何しろ彼女は初めて会った時から真実だけを司に告げていた。
「ねえ。歯に青のり付いてるわ」
だから司はいつも言う。
「お前が取ってくれ」
それはキスで青のりを取ってくれという意味。
だから恋人は立ち上ると司の傍に来た。
そして彼の肩に手を置き少し顏を屈めると司の唇に唇を重ねた。
司はこうして昨日の夜の出来事を振り返ったが、それにしても何故恋人を縛るなどというおかしな夢を見たのか。
だがそこで思い出した。恋人の家には『しぼりたて生しょうゆ』と書かれた醤油の容器が置かれていたことを。そして恋人がその便利さを褒めていたことを。
だから恋人が褒めた醤油の容器が夢の中に現れたのだろう。
それに夢は幻覚。
だが夢は過去、現在、未来の状況を暗示するとも言われている。
と、なるとあの夢は未来の状況なのかもしれないが___
いや、それは絶対にないと司は首を横に振った。
だがもし彼女がそれを望むなら、冒険したいと思うなら、その願いを叶えるのが恋人である司の役目だ。
だから夢の中で経験した通り、その日に備え縛りを学ぶべきなのかもしれない。
そうだ。業務命令として、そうすることを望まれた時のために練習を積んでおく必要が……
だがそこまで考えた司は笑った。
そして「そんな必要はないな。あいつは今でも恥ずかしがり屋だ、それに俺のあいつへの気持は欲望だけじゃない。俺のあいつへの気持は愛と優しさだ」と呟くと溜まっている仕事を片付けるべく机に向かった。

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そして服を脱がせると、女の身体を楽々と裏返し枕元に置かれているロープを掴んだ。
『しぼりたて生しょうゆ』が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまう男は、マンションの部屋にロープを用意していた。だから酔って寝てしまった女を自宅まで連れ帰ると、これまで自覚することがなかった自身の性的嗜好を満足させることにした。
だが相手が誰でもいいという訳ではない。
相手は好きな女でなければリビドーは満たされない。
そう。相手はエリアマネージャーの牧野つくしでなければならないのだ。彼女に対し支配的立場をとりたいのだ。彼女を愛の奴隷にしたいのだ。
司はうつ伏せになった女の胸の上と下を縛り上げたが、女は目を覚ますことなく黙ってされるがままだ。次に両腕を後ろ手に交差して手首を縛ったが、荒い繊維は柔らかな白い肌に痕を残すだろう。
司は、囚われの身になった女の尻を持ち上げ貫きたい。
冷血な獣のように無防備、いや、縄で縛られた女を無理矢理犯したい。
だが貫くのは後ろの穴にするか。それとも前の穴にするか。
どっちを責められるのが好きか本人に訊いてみてもいいが、どちらにしても、その姿はみだらな姿には変わりない。そしてその姿を想像する司の胸は、いやがうえにも高鳴り身体は欲望でうずき、痛いほど切望した。それに牧野つくしがこれまでどんなセックスを経験してきたか知らないが、とにかく司は柔らかい彼女の尻の奥まで思いっきり貫きたかった。
だがこうして縛っている今は、まだ早いと本能的に前に出ようとしている身体を抑えていた。
そして司は彼女とこうするため、拘束プレイではなく本格的な縛りを学んだ。その道のプロから指導を受けた。するとその道のプロは、「君は筋がいい。君は支配する側の人間だ。この世界でご主人様として働かないか。君なら大勢の女性を奴隷として持つことができる」と司を誘った。だが司が支配したいのは一人の女であり、その他大勢の女はどうでもよかった。だから断った。
「…..う….ん…..」
どうやらうつ伏せになった女は目が覚めたようだ。
そして身じろぎもせず視界に入った世界について考えているようだ。
「目が覚めたか?」
女はうつ伏せのまま首をそらせ声がした方を見たが、素っ裸の司の姿にギョッとした。
司は真冬でもパジャマを着ることなく全裸で寝る。だから女を縛っている間も裸でいたが、その間、欲望しるしは硬直して直角よりも高く上がっていた。
そして目覚めと同時に酔いも醒めた女は、一瞬ののち自分が裸で縛られていることに気付いたようだ。
「何これ……道明寺店長これは一体どういうこと?」
司は口角を微かに上げ笑った。
縛りの指導をしたその道のプロは、司の笑い声をみだらで官能的だと言った。
低音で深みのあるバリトンの声は女のアソコを濡らすと言った。
けれど女の黒い瞳は怒りで濡れた黒曜石のように光っている。
だが女は怒りながらも、その背筋は震えていた。それは恐怖を感じているからだ。
「どうもこうもない。俺は店の棚に並んだしょうゆの容器を見て以来、お前の縛られた姿を想像していた。だからこうしてお前を縛った」
「店の棚に並んだしょうゆの容器?…..いったい何のこと?意味が分からない。それに何なのこれは!どういうことなのか説明しなさい!」
エリアマネージャーとして司より立場が上の彼女は、背後から自分を見下ろす司に声を荒げ命令口調で言った。
だが司は『しぼりたて生しょうゆ』が『しばりたて生しょうゆ』に見え、その容器が縛られた牧野つくしの姿に置き換わることを説明するつもりはない。
それよりも今は、その妄想によって明らかになった自身の性的嗜好が満たされることが重要だ。
それは縛られた女との性交だが、それが暴走した妄想だとしても止めることは出来ない。
それに裸で偉そうに自分の立場を主張されても、その姿には権威もへったくれもない。
だから司はそんな女に「俺はお前が欲しい。だがただ欲しいんじゃない。俺はお前のことが好きだ。そして俺は縛られたお前を犯したくてたまらなかった。だから縛った」と言って牧野つくしの下半身を掴むと弓なりにもち上げた。すると女はシーツに顏を埋める形になったが、そこで自分の身に起こることが予測できたようだ。だから縛られたまま身体をよじる。
「いや…….止めて…….道明寺店長止めなさい!手を離して縄をほどいて!ほどきなさい!これは命令よ!」
司は女の言葉を無視した。
もう牧野つくしは司のもので、司の好きに出来る。だから興奮で身体じゅうが震えた。
それに女も裸で縛られていては強気でやり過ごすことは無理だ。
女に司を止めることは出来ない。
だから司はからかうように言った。
「命令?それは業務命令か?もしそうだとしても、今のお前は俺に命令は出来ない。何故ならお前はこれから俺に支配されるからだ。だから抵抗は時間の無駄だ。それに今俺とお前の間にあるのは俺の意志とお前の快楽だ」
司は言うと迷うことなく前の穴に自身を沈めた。
するとその瞬間、女は悲鳴を上げたが、司の下半身には快感が走った。
だからもっと深く女の中に入った。
「こうして___お前は__俺に支配されている__だから__お前は__俺からは逃げられない」
司が言葉を切るたび再び女の口から悲鳴が上がる。
それはひと言ごとに司の腰が突き出されるから。
湧き上がってくる欲望は女を激しく責めろと言っていた。
「ああっ!……やめてぇ……!!」
「止めない。それに抗っても無駄だ。俺はお前を離しはしない。お前は俺のものだ。俺はお前のことが好きだ。だから俺を拒むな。受け入れろ」
司は2時間近く女を責めた。
縛った身体を弄んだ。
それでも司の分身の昂りは治まらなかった。
いやむしろ、もっと女が欲しくなった。
だから「牧野…..牧野….. 」と女の名前を呼びながら腰を打ちつけていたが、そのとき司の耳に届いたのは「ほん!」という声。
そして次に耳に届いたのは「うおっほん!」という言葉。
だから目を開けたが、そこにいたのは秘書の西田で「うおっほん」とは秘書の不自然な咳だ。
「支社長。おやすみのところ申し訳ございません。先日取材を受けた雑誌が発売されることになり出版社から送られてまいりましたのでお持ちいたしました」
秘書はそう言って机の上に経済誌を置くと出て行った。
司は秘書の言った通り最近雑誌の取材を受けたが、質問の中に、「あなたの好きな食べ物は何ですか?」という項目があった。
司は取材でそう訊かれた時の答えは決まっていて「特にない」と答える。
だが本当はある。司の好きな食べ物はお好み焼き。
しかし「特にない」と答えるのは秘書から指示があったから。
何しろ男は世界的な企業の跡取りであり、道明寺財閥の御曹司。
そして世界中の美食を知ると言われる男。
そんな男の好きな食べ物が「お好み焼き」では司のイメージに合わない。
だから秘書から「特にない」と答えて欲しいと言われていた。
だが司は世間が自分をどう思おうと関係ない。
本当は声を大にして好きな食べ物は、お好み焼きだと言いたかった。
そして子供の頃、それを焼いてくれたのは姉だが、大人になった彼のために焼いてくれるのは恋人だ。
そして司は昨日、地方出張から戻ってきた彼女にお好み焼きを焼いてもらった。
「ねえ。あたしがいつも焼くお好み焼きって生地に具材を混ぜ込んで焼くでしょ?あれは関西風。でも今日これから焼くのは広島風お好み焼きよ。広島風は具材をひとつずつ重ねて焼く重ね焼きなの。大丈夫よ。あっちで教えてもらったからまかせて!」
と、恋人は自信満々に言ったが出来上がったのは思っていたものとは違ったようで、
「あれ?おかしいわね?なんだか違うわね」と笑った。
司は基本恋人が作ってくれた料理は何でも食べる。
多少の好き嫌いはあるが我慢する。
だからお好み焼きも恋人が焼いてくれるなら、関西風だろうが広島風だろうが関係ない。
そして、お好み焼きを食べ終えた男の歯に付くのは青のりだが、女性の誰もがその青のりになりたいと望むはずだ。だが世界ひろしと言えども、道明寺財閥の御曹司に向かって歯に青のりが付いていると指摘する人間はまずいない。
それは世の中には触れていいことと悪いことがあり、分別のある人間なら見て見ぬふりをする方が自分のためになることを知っているからだ。
しかし一人だけ指摘出来る人間がいる。
臆することなく真実を告げる人間がいる。
そう、牧野つくしだけが司の歯に付いた青のりを指摘することができる。
何しろ彼女は初めて会った時から真実だけを司に告げていた。
「ねえ。歯に青のり付いてるわ」
だから司はいつも言う。
「お前が取ってくれ」
それはキスで青のりを取ってくれという意味。
だから恋人は立ち上ると司の傍に来た。
そして彼の肩に手を置き少し顏を屈めると司の唇に唇を重ねた。
司はこうして昨日の夜の出来事を振り返ったが、それにしても何故恋人を縛るなどというおかしな夢を見たのか。
だがそこで思い出した。恋人の家には『しぼりたて生しょうゆ』と書かれた醤油の容器が置かれていたことを。そして恋人がその便利さを褒めていたことを。
だから恋人が褒めた醤油の容器が夢の中に現れたのだろう。
それに夢は幻覚。
だが夢は過去、現在、未来の状況を暗示するとも言われている。
と、なるとあの夢は未来の状況なのかもしれないが___
いや、それは絶対にないと司は首を横に振った。
だがもし彼女がそれを望むなら、冒険したいと思うなら、その願いを叶えるのが恋人である司の役目だ。
だから夢の中で経験した通り、その日に備え縛りを学ぶべきなのかもしれない。
そうだ。業務命令として、そうすることを望まれた時のために練習を積んでおく必要が……
だがそこまで考えた司は笑った。
そして「そんな必要はないな。あいつは今でも恥ずかしがり屋だ、それに俺のあいつへの気持は欲望だけじゃない。俺のあいつへの気持は愛と優しさだ」と呟くと溜まっている仕事を片付けるべく机に向かった。

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