「ねえ。貴子がムラムラする男の仕草って何?」
「え?ムラムラする男の仕草?ちょっと何よその質問。それにドキドキじゃなくてムラムラだなんて何でそんなこと訊くのよ?」
「うん。『an・nan』って雑誌あるじゃない?」
「『an・nan』?ああ。あれね?アイドルの裸とかセックスについての記事が載る雑誌ね?」
「そう。その雑誌なんだけどね、あなたがムラムラする男の仕草って何?って記事があったの。だから貴子に訊いてみようと思って。ちなみにあたしは、はにかんでほほ笑む姿かな?」
「はにかんでほほ笑む姿?」
「そうなの。普段は厳しい顔して仕事をする男が、あたしの前で照れ笑いする姿が最高!
もうそんなことされたらキュンとかドキドキを通り越してムラムラしてどうしようもなくなるわ!それで?貴子は男のどんな仕草にムラムラするの?」
「あたし?……..そうねぇ…….やっぱりアレかな?人差し指をネクタイの結び目に入れて徐々に緩めていく仕草かなぁ」
「なんだ。貴子って以外と普通なのね?」
「ふふふ….以外と普通だって言うけど、あたしがその姿を見たいと思う男は支社長よ。
あたしいつも想像するの。秘書になったあたしは夜遅くまで仕事をする支社長に書類を渡すために執務室に入るの。そうしたら支社長は人差し指をネクタイの結び目に入れて緩めようとしているの。そんな支社長にあたしは書類を渡すために近づいたところで引き寄せられるの。
それで『貴子。書類なんかいいからキスしてくれ』って言われて書類を取り上げられてキスされるの。それから支社長はあたしを抱き上げて応接ソファまで運ぶの。それであたしたちはそこで愛し合うの!!」
「きゃー!貴子ったらそんなこと考えてたの?でもあんたのその妄想。絶対に叶うことはないから!だけど夢見るのは勝手だもんね!」
司は緩んでいた靴紐を結び直そうと、しゃがんだところでエレベーター待ちの女子社員の会話を耳にした。
だからそのままの姿勢で柱の陰にいた。
そして貴子という女を恋人の牧野つくしに置き換えていた。
それはこれまでも何度も頭の中を過る恋人が秘書だったらという妄想。
もし恋人が秘書だったら、貴子が言う通り執務室の応接ソファに押し倒して身体中を舐め回したい。それに恋人が秘書だったら、こうして恋人の姿を求めて社内を歩き回ることはない。
朝から晩まで傍にいて耳元で愛を囁くことが出来る。肩を抱く事は出来なくても偶然を装って手を握ることは出来る。
だが現実は甘くない。司の秘書は西田という銀縁メガネの中年男。
朝から晩まで傍にいて、隙あらば執務室を抜け出そうとする司を掴まえる。
サインをしろと山のように書類を持ってくる。それに何故かいつも夢の途中に割り込んで来る。だがそれは良しとしなければならない。
何故なら時に西田の割り込みで命拾いをすることがあるからだ。
執務室に戻った司は貴子の言葉に興味を抱いた。それに気になった。
それは恋人が男のどんな仕草にムラムラするのかということ。
だが恋人は奥手だ。だからふたりが愛し合うとき積極的に求めるのは司の方だ。
それに恋人の方からベッドに誘われたことがない。
だが恋人もベッドに入れば司を求めていることに間違いはなく、愛し合えばふたりは熱く燃えた。
だがそうは言っても、やはり恋人が男のどんな仕草にムラムラするのか気になる。
司はそう思いながら目を閉じた。
司が夕暮れ迫る時間に恋人に呼び出されたのはジャパニーズスタイルパブ。
日本語で言えば居酒屋。
少しだけ高級な雰囲気のあるそこの個室で恋人から開口一番言われたのは、「一体どういうことなの?ちゃんと説明して!」
司はそう言われたが、彼女が何を言っているのか全く分からなかった。
「どういうことって何がどういうことだ?それに説明ってなんだよ?」
「何がどういうことよ!今更とぼけないでよ!アタシ全部知ってるんだからね!」
「おい待て…..とぼけるもなにも俺はとぼけてない。だから何でお前が怒っているかマジで分かんねぇ」
「アンタって男は……まだとぼける気?アタシが何も知らないと思ってそうやって逃げる気ね!」
司は恋人から物凄い剣幕でとぼけるな。全部知ってると言われたが、何のことかサッパリ分からなかった。
「牧野。ちょっと待て。全部知ってる?それに俺が逃げる?一体なんの話をしてるんだ?落ち着いてちゃんと分かるように話せ」
司は怒りで興奮している恋人を落ち着かせようとした。
だが恋人は落ち着くどころか信じられないような事を口にした。
「落ち着けですって?よくもそんなことが言えるわね……じゃあ言うわ。アンタ今まで二股かけてたんでしょ!」
「はあ?」
「はあ?何がはあよ!気の抜けた返事しないでよ!」
「気の抜けた返事って言うが、俺は二股なんかかけてない。それにお前以外に愛している女はいない!」
「そう……。白を切るつもりなのね。いいわ。アンタがその気なら証拠を見せてあげるわ!」
司は二股をしているという嫌疑をかけられた。
そしてその証拠を見せると言われたが、恋人オンリーの男に他に女などいるはずもなく、そんなものあるはずがない。だから恋人は何かを勘違いしているのだと思った。誤解だと思った。たまたま近くにいた女と写真を撮られたとかそんなものだと思った。
だから携帯電話を操作している恋人の名前を優しく呼んだ。だが睨まれた。
そしてもう一度「牧野……..」と呼び掛けたところでふたりの前に類が現れた。
「司……」
「類!おい。丁度よかった。牧野が俺が二股をかけているって誤解している。俺が牧野以外の女を愛せる訳がないのにだ!類。お前からも俺が浮気するような男じゃないって話してくれ。俺は牧野つくし一筋だってな!」
ジャパニーズスタイルパブに偶然現れた類。
恋人は類の話すことなら信じるはすだ。
何しろ恋人の言うところの魂の片割れという関係のふたり。
今でこそ、その関係を認めているが、初めはそんなことを言う恋人をバカじゃなかろうかと思った。そして類も牧野つくしとは友人以外の何ものでもないと言ったが、かつて司と類は彼女を巡って対立した経緯がある。
けれど、あれから類は司と恋人の友人として彼らの傍にいた。
そんな類はどこか哀しそうな顏をして司の前にいた。
「司。バレたなら仕方がないよ。牧野のためにも自分の気持ちを正直に伝えた方がいい」
司は自分の味方になってくれると思っていた類の口から出た思わぬ言葉に、この男何を言ってるんだと声を荒げた。
「類?お前何か知ってるのか?それに何を言ってる?バレるもなにも俺はこいつ以外に女はいない!それに二股どころか他の女には一切興味がない!第一お前は俺が女嫌いだったのを一番良く知ってるだろうが!それに正直もなにも俺の気持ちが牧野つくし以外に向いたことはない!」
「司。でも牧野は知ってるんだ。知ってしまったんだよ」
司は類が司が知らない何かを知っているように思えた。
「類?お前何言ってる?牧野が知ってるって…..」
「司。これ」
そう言った類はポケットの中から取り出した数枚の写真を司の前に置いた。
「これは…….」
司は一番上に置かれている写真を手に取った。
「ああ。この写真を見た牧野はお前が二股をかけていることを知ったんだ」

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「『an・nan』?ああ。あれね?アイドルの裸とかセックスについての記事が載る雑誌ね?」
「そう。その雑誌なんだけどね、あなたがムラムラする男の仕草って何?って記事があったの。だから貴子に訊いてみようと思って。ちなみにあたしは、はにかんでほほ笑む姿かな?」
「はにかんでほほ笑む姿?」
「そうなの。普段は厳しい顔して仕事をする男が、あたしの前で照れ笑いする姿が最高!
もうそんなことされたらキュンとかドキドキを通り越してムラムラしてどうしようもなくなるわ!それで?貴子は男のどんな仕草にムラムラするの?」
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「なんだ。貴子って以外と普通なのね?」
「ふふふ….以外と普通だって言うけど、あたしがその姿を見たいと思う男は支社長よ。
あたしいつも想像するの。秘書になったあたしは夜遅くまで仕事をする支社長に書類を渡すために執務室に入るの。そうしたら支社長は人差し指をネクタイの結び目に入れて緩めようとしているの。そんな支社長にあたしは書類を渡すために近づいたところで引き寄せられるの。
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だからそのままの姿勢で柱の陰にいた。
そして貴子という女を恋人の牧野つくしに置き換えていた。
それはこれまでも何度も頭の中を過る恋人が秘書だったらという妄想。
もし恋人が秘書だったら、貴子が言う通り執務室の応接ソファに押し倒して身体中を舐め回したい。それに恋人が秘書だったら、こうして恋人の姿を求めて社内を歩き回ることはない。
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朝から晩まで傍にいて、隙あらば執務室を抜け出そうとする司を掴まえる。
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執務室に戻った司は貴子の言葉に興味を抱いた。それに気になった。
それは恋人が男のどんな仕草にムラムラするのかということ。
だが恋人は奥手だ。だからふたりが愛し合うとき積極的に求めるのは司の方だ。
それに恋人の方からベッドに誘われたことがない。
だが恋人もベッドに入れば司を求めていることに間違いはなく、愛し合えばふたりは熱く燃えた。
だがそうは言っても、やはり恋人が男のどんな仕草にムラムラするのか気になる。
司はそう思いながら目を閉じた。
司が夕暮れ迫る時間に恋人に呼び出されたのはジャパニーズスタイルパブ。
日本語で言えば居酒屋。
少しだけ高級な雰囲気のあるそこの個室で恋人から開口一番言われたのは、「一体どういうことなの?ちゃんと説明して!」
司はそう言われたが、彼女が何を言っているのか全く分からなかった。
「どういうことって何がどういうことだ?それに説明ってなんだよ?」
「何がどういうことよ!今更とぼけないでよ!アタシ全部知ってるんだからね!」
「おい待て…..とぼけるもなにも俺はとぼけてない。だから何でお前が怒っているかマジで分かんねぇ」
「アンタって男は……まだとぼける気?アタシが何も知らないと思ってそうやって逃げる気ね!」
司は恋人から物凄い剣幕でとぼけるな。全部知ってると言われたが、何のことかサッパリ分からなかった。
「牧野。ちょっと待て。全部知ってる?それに俺が逃げる?一体なんの話をしてるんだ?落ち着いてちゃんと分かるように話せ」
司は怒りで興奮している恋人を落ち着かせようとした。
だが恋人は落ち着くどころか信じられないような事を口にした。
「落ち着けですって?よくもそんなことが言えるわね……じゃあ言うわ。アンタ今まで二股かけてたんでしょ!」
「はあ?」
「はあ?何がはあよ!気の抜けた返事しないでよ!」
「気の抜けた返事って言うが、俺は二股なんかかけてない。それにお前以外に愛している女はいない!」
「そう……。白を切るつもりなのね。いいわ。アンタがその気なら証拠を見せてあげるわ!」
司は二股をしているという嫌疑をかけられた。
そしてその証拠を見せると言われたが、恋人オンリーの男に他に女などいるはずもなく、そんなものあるはずがない。だから恋人は何かを勘違いしているのだと思った。誤解だと思った。たまたま近くにいた女と写真を撮られたとかそんなものだと思った。
だから携帯電話を操作している恋人の名前を優しく呼んだ。だが睨まれた。
そしてもう一度「牧野……..」と呼び掛けたところでふたりの前に類が現れた。
「司……」
「類!おい。丁度よかった。牧野が俺が二股をかけているって誤解している。俺が牧野以外の女を愛せる訳がないのにだ!類。お前からも俺が浮気するような男じゃないって話してくれ。俺は牧野つくし一筋だってな!」
ジャパニーズスタイルパブに偶然現れた類。
恋人は類の話すことなら信じるはすだ。
何しろ恋人の言うところの魂の片割れという関係のふたり。
今でこそ、その関係を認めているが、初めはそんなことを言う恋人をバカじゃなかろうかと思った。そして類も牧野つくしとは友人以外の何ものでもないと言ったが、かつて司と類は彼女を巡って対立した経緯がある。
けれど、あれから類は司と恋人の友人として彼らの傍にいた。
そんな類はどこか哀しそうな顏をして司の前にいた。
「司。バレたなら仕方がないよ。牧野のためにも自分の気持ちを正直に伝えた方がいい」
司は自分の味方になってくれると思っていた類の口から出た思わぬ言葉に、この男何を言ってるんだと声を荒げた。
「類?お前何か知ってるのか?それに何を言ってる?バレるもなにも俺はこいつ以外に女はいない!それに二股どころか他の女には一切興味がない!第一お前は俺が女嫌いだったのを一番良く知ってるだろうが!それに正直もなにも俺の気持ちが牧野つくし以外に向いたことはない!」
「司。でも牧野は知ってるんだ。知ってしまったんだよ」
司は類が司が知らない何かを知っているように思えた。
「類?お前何言ってる?牧野が知ってるって…..」
「司。これ」
そう言った類はポケットの中から取り出した数枚の写真を司の前に置いた。
「これは…….」
司は一番上に置かれている写真を手に取った。
「ああ。この写真を見た牧野はお前が二股をかけていることを知ったんだ」

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司が手に取った写真に写っているのは司と類で女の姿はそこにない。
「おい。これ………」
司は言葉が出なかった。
「ああ。これには俺と司だけが写ってるね」
類はそう言ったが、ふたりは裸でベッドに横たわっていた。
そして類は、まるで重ねられたスプーンのように司の背後から身体を押し付けていた。
「おい…..なんだよこれは….」
「よく撮れてると思わないか?」
「よく撮れてるって、類、お前この写真…」
「これは司がアメリカで大学に通っていた頃、泊めてもらった時に撮ったんだ。どう?よく撮れてるだろ?」
類はセルフタイマーで撮ったというそれらの写真を見て微笑んだ。
だが司は微笑むことは出来なかった。
そして次に見た写真も裸のふたりが写っていた。
それは寝ている司の唇にキスをしている類の妖しくも美しい姿。
「俺さ。静香を追いかけてパリに行ったけど、向うで気付いたんだ。静香のことは姉のように思っていただけで、あれは恋じゃなかったって。それで日本に戻って来てから自分の本当の気持ちに気付いたんだ。俺が本当に恋をしているのは司だってね」
「類。お前……」
それは幼馴染みの親友から聞かされた驚愕発言で、あり得ない言葉。
だから司は言葉を継ぐ事が出来なかった。
「俺。昔から司が無防備に寝てる姿にムラムラしてた。それにお前が付けてるコロンの香りが鼻腔を満たすことに幸せを感じてた。でも俺は男で司は俺を友達としか見てくれない。それなら友達でもいいと思った。何しろ司は女が嫌いだったからね。だからいずれ家のために結婚しても、それは愛があるからじゃない。だから俺は司が結婚しても我慢できる自信があった。それにいずれ俺も花沢家のために結婚することになる。そうなったら司とは友達として一生傍にいようと思った。
でも牧野が現れて、女嫌いだったはずの司が牧野を好きになった。俺は司の幸せそうな顏を見て諦めようと思った。失恋の準備をした。だけど無理だった。俺は司のことを諦めることが出来なかった。牧野に取られたくなかった。だから牧野に恋を仕掛けた。でも牧野は司の方が好きだって…..。そしてふたりは結ばれた。だから今度こそ諦めることに決めた。ただの友達として司の傍に居ようって…….」
類は司と目を合わせたまま少し間を置いて言葉を継いだ。
「だけど司が牧野を日本に残してニューヨークで暮らし始めたとき、遠距離恋愛はいずれダメになると思った。案の定、ニューヨークで暮らし始めたお前と牧野は、すれ違いが増えた。そして喧嘩を繰り返すようなった。俺はあのとき司がビジネスと牧野のことで葛藤を抱えているのを知っていた。そうだよ。俺はお前の相談に乗りながら心の中でお前が牧野と別れることを望んでいた。
司。あの晩のこと。覚えてるだろ?俺がお前の元をと訪ねたとき俺たちは一晩中飲んだ。
酒に強いお前が酔わないことは分かってた。だから睡眠薬を混ぜた。それでお前がベッドで横になるって言ったとき、しめたと思った。お前が寝る時は裸なのは昔から変わってなくて、俺も服を脱いでベッドで横になったお前の隣に寝た。それでこの写真を撮った。それを携帯に保存していた。
もちろん他人が見ることがないように注意していた。でもこの前、ひとりで見ていたとき後ろに人の気配がして振り返ったらそこに牧野が立っていた。見られたんだよ。牧野に…..。だから牧野に伝えた。俺たちは付き合ってるんだってね。それで俺は今日ここに呼ばれたんだ。司が選ぶのはどっちの人間なのか。俺か牧野か。どっちを選ぶかカタを付けようって……. 司。俺の気持ちを分かって欲しい。俺の頭の中はあの日の司の顏が揺らいでは消えてゆくを繰り返している。司。俺は司の薬指に指輪を嵌めることは出来ない。でも俺はお前を抱きしめたい。俺は司と一緒になりたい」
「ちょっと待ってくれ…..」
司は類の口から何年も押さえつけていた感情を聞かされ言葉を失った。
そして衝撃的な写真に司の頭の中は混乱していた。
それでも、何とか気持ちを落ち着かせて言わなければならないのは、司は類とは付き合っていないということだ。
だからそれを言おうとした。
だがそこに恋人の声が響いた。
「類の気持ちはよく分かったわ。それにアタシは男同士で愛し合うことが悪いとは思わない。でも二股をかけられるのは許せない。だってアタシも類と同じくらい道明寺のことを愛しているの。だからこうなった以上、アタシと類のどちらを選ぶかはっきりカタを付けてもらいましょう。そして選ばれなかった方は潔く身を引く。類。それでいいわよね?」
司は恋人の身を引く、の言葉にギョッとした。
そして混乱していたが、今度こそ紛れもない自分の思いを恋人に伝えた。
「おい牧野。待て。お前何を言ってる?だいたい俺は類と付き合ってねえ!
それにお前と類のどちらを選ぶって、そんなのお前に決まってるだろうが!いいか?俺は男は愛せない。それに俺はお前以外の女は愛せない!」
司はそういったが類は諦めなかった。
「司….俺は男だけど誰よりも司のことを知っている。牧野よりも長い付き合いでお前が何をされれば喜ぶかもよく知っている。司。俺は互いの唇が潰れるくらいのキスをしたい。舌をからみ合わせたい。お前の口に拷問されたい。お返しにお前の首に痣の残るような激しいキスをしたい。お前のハンサムな顏が恍惚に苦悶する様子が見たい。お願いだ司。俺と生きてくれ!牧野を捨てて俺を選んでくれ!」
「類…..」
司は類の目に光るものを認めると言葉を詰まらせた。
するとその様子を見ていた恋人は言った。
「道明寺。今のアンタは躊躇いを感じている。アンタはアタシのことを選ぶっていいながら類のこと気にしてる。アタシと類との間で迷ってる…..」
「おい。バカなことを言うな。俺が言葉に詰まったのは、類が俺の幼馴染みで親友だからだ。
だからそんな類から胸の裡を伝えられて戸惑っただけだ!」
「いいえ。違うわ。アンタは迷ってるのよ……アタシと類との間で気持ちが揺れてるのよ」
と言った恋人は黙った。
そして暫くすると「やってられないわ!」と言って立ち上がって店の外に出ようとした。
だから司は慌てて後を追った。だが恋人は「アンタとはもうこれっきりよ!」と叫ぶと真っ赤なポルシェで司の前から去った。
そして残されたのは司と類。
自分と幼馴染みの親友。
「司…..牧野は俺のためにお前を諦めてくれたんだ。あいつ俺たちのために身を引いてくれたんだよ」
類は嬉しそうにほほ笑んだ。
そして司の手を握ると、きらきらし始めた目で司を見つめ「愛してるよ、司」と言って唇を重ねようとしていた。
「止めろ!類!離れろ!類!止めろ――――!!」
司は叫んで目を覚ました。
恋人がムラムラする男の仕草は何かを考えて見た夢は、何故か類が司にムラムラする夢。
それも類は司が無防備に寝ている姿にムラムラすると言った。
「気持ち悪りい……」
司は呟いた。だが夢は目が覚めた途端忘却の彼方に消えるものだ。
だから扉をノックする音に「入れ」と言って現れた西田にコーヒーを持ってくるように言った。
司は恋人と夢に出て来たのとは別のジャパニーズスタイルパブにいた。
「なあ。牧野。お前がムラムラする男の仕草って何だ?」
「ムラムラする男の仕草?何それ?おかしな事を聞くわね?」
「いいから答えてくれ」
「そうねえ…..ムラムラはしなかったけど映画の主人公の男性がメガネを外す仕草にキュンとしたことがあるわねえ。ほらメガネって顏の一部じゃない?それを外すってことは、その人の素の部分が見えるって言うの?その仕草がカッコ良かったの」
恋人の口から語られたのは、映画の主人公の男がメガネを外す仕草。
その姿にキュンとしたことがあると言った。
司の周りにいる人間で常にメガネをかけているのは秘書の西田しかいない。
だが、司は西田がメガネを外した姿を見たことがない。けれど、もし恋人が西田のメガネを外す仕草を見たからといってキュンとはしないだろう。
だが司自身がやってみる価値はある。
だからさっそくメガネを買うとかけてみた。
そして恋人の前で外してみせた。
すると恋人は言った。
「最高!道明寺!」
だがそれは笑いながらでありキュンなど全くしていないことは明らかだ。
だがそれでもよかった。
恋人が楽しければ、それでいい。
だが敢えて言った。
「なんだよ。その言い方。俺じゃ胸がときめかないって?」
「胸がときめくもなにも私は道明寺の全部にまいってるのに今更でしょ?」
司は恋人をキュンとさせることは出来なかった。
だが恋人は司をキュンとさせることが出来る。
「そうか。お前。俺の全部にまいってるか…..」
そう答えた司は恋人の言葉ひとつで幸せを感じることが出来る。
そして彼女はこの瞬間もその幸せを感じさせてくれた。
「うん。そうよ。だからメガネなんてかけなくてもいいの。道明寺はそのままが一番よ!」

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「おい。これ………」
司は言葉が出なかった。
「ああ。これには俺と司だけが写ってるね」
類はそう言ったが、ふたりは裸でベッドに横たわっていた。
そして類は、まるで重ねられたスプーンのように司の背後から身体を押し付けていた。
「おい…..なんだよこれは….」
「よく撮れてると思わないか?」
「よく撮れてるって、類、お前この写真…」
「これは司がアメリカで大学に通っていた頃、泊めてもらった時に撮ったんだ。どう?よく撮れてるだろ?」
類はセルフタイマーで撮ったというそれらの写真を見て微笑んだ。
だが司は微笑むことは出来なかった。
そして次に見た写真も裸のふたりが写っていた。
それは寝ている司の唇にキスをしている類の妖しくも美しい姿。
「俺さ。静香を追いかけてパリに行ったけど、向うで気付いたんだ。静香のことは姉のように思っていただけで、あれは恋じゃなかったって。それで日本に戻って来てから自分の本当の気持ちに気付いたんだ。俺が本当に恋をしているのは司だってね」
「類。お前……」
それは幼馴染みの親友から聞かされた驚愕発言で、あり得ない言葉。
だから司は言葉を継ぐ事が出来なかった。
「俺。昔から司が無防備に寝てる姿にムラムラしてた。それにお前が付けてるコロンの香りが鼻腔を満たすことに幸せを感じてた。でも俺は男で司は俺を友達としか見てくれない。それなら友達でもいいと思った。何しろ司は女が嫌いだったからね。だからいずれ家のために結婚しても、それは愛があるからじゃない。だから俺は司が結婚しても我慢できる自信があった。それにいずれ俺も花沢家のために結婚することになる。そうなったら司とは友達として一生傍にいようと思った。
でも牧野が現れて、女嫌いだったはずの司が牧野を好きになった。俺は司の幸せそうな顏を見て諦めようと思った。失恋の準備をした。だけど無理だった。俺は司のことを諦めることが出来なかった。牧野に取られたくなかった。だから牧野に恋を仕掛けた。でも牧野は司の方が好きだって…..。そしてふたりは結ばれた。だから今度こそ諦めることに決めた。ただの友達として司の傍に居ようって…….」
類は司と目を合わせたまま少し間を置いて言葉を継いだ。
「だけど司が牧野を日本に残してニューヨークで暮らし始めたとき、遠距離恋愛はいずれダメになると思った。案の定、ニューヨークで暮らし始めたお前と牧野は、すれ違いが増えた。そして喧嘩を繰り返すようなった。俺はあのとき司がビジネスと牧野のことで葛藤を抱えているのを知っていた。そうだよ。俺はお前の相談に乗りながら心の中でお前が牧野と別れることを望んでいた。
司。あの晩のこと。覚えてるだろ?俺がお前の元をと訪ねたとき俺たちは一晩中飲んだ。
酒に強いお前が酔わないことは分かってた。だから睡眠薬を混ぜた。それでお前がベッドで横になるって言ったとき、しめたと思った。お前が寝る時は裸なのは昔から変わってなくて、俺も服を脱いでベッドで横になったお前の隣に寝た。それでこの写真を撮った。それを携帯に保存していた。
もちろん他人が見ることがないように注意していた。でもこの前、ひとりで見ていたとき後ろに人の気配がして振り返ったらそこに牧野が立っていた。見られたんだよ。牧野に…..。だから牧野に伝えた。俺たちは付き合ってるんだってね。それで俺は今日ここに呼ばれたんだ。司が選ぶのはどっちの人間なのか。俺か牧野か。どっちを選ぶかカタを付けようって……. 司。俺の気持ちを分かって欲しい。俺の頭の中はあの日の司の顏が揺らいでは消えてゆくを繰り返している。司。俺は司の薬指に指輪を嵌めることは出来ない。でも俺はお前を抱きしめたい。俺は司と一緒になりたい」
「ちょっと待ってくれ…..」
司は類の口から何年も押さえつけていた感情を聞かされ言葉を失った。
そして衝撃的な写真に司の頭の中は混乱していた。
それでも、何とか気持ちを落ち着かせて言わなければならないのは、司は類とは付き合っていないということだ。
だからそれを言おうとした。
だがそこに恋人の声が響いた。
「類の気持ちはよく分かったわ。それにアタシは男同士で愛し合うことが悪いとは思わない。でも二股をかけられるのは許せない。だってアタシも類と同じくらい道明寺のことを愛しているの。だからこうなった以上、アタシと類のどちらを選ぶかはっきりカタを付けてもらいましょう。そして選ばれなかった方は潔く身を引く。類。それでいいわよね?」
司は恋人の身を引く、の言葉にギョッとした。
そして混乱していたが、今度こそ紛れもない自分の思いを恋人に伝えた。
「おい牧野。待て。お前何を言ってる?だいたい俺は類と付き合ってねえ!
それにお前と類のどちらを選ぶって、そんなのお前に決まってるだろうが!いいか?俺は男は愛せない。それに俺はお前以外の女は愛せない!」
司はそういったが類は諦めなかった。
「司….俺は男だけど誰よりも司のことを知っている。牧野よりも長い付き合いでお前が何をされれば喜ぶかもよく知っている。司。俺は互いの唇が潰れるくらいのキスをしたい。舌をからみ合わせたい。お前の口に拷問されたい。お返しにお前の首に痣の残るような激しいキスをしたい。お前のハンサムな顏が恍惚に苦悶する様子が見たい。お願いだ司。俺と生きてくれ!牧野を捨てて俺を選んでくれ!」
「類…..」
司は類の目に光るものを認めると言葉を詰まらせた。
するとその様子を見ていた恋人は言った。
「道明寺。今のアンタは躊躇いを感じている。アンタはアタシのことを選ぶっていいながら類のこと気にしてる。アタシと類との間で迷ってる…..」
「おい。バカなことを言うな。俺が言葉に詰まったのは、類が俺の幼馴染みで親友だからだ。
だからそんな類から胸の裡を伝えられて戸惑っただけだ!」
「いいえ。違うわ。アンタは迷ってるのよ……アタシと類との間で気持ちが揺れてるのよ」
と言った恋人は黙った。
そして暫くすると「やってられないわ!」と言って立ち上がって店の外に出ようとした。
だから司は慌てて後を追った。だが恋人は「アンタとはもうこれっきりよ!」と叫ぶと真っ赤なポルシェで司の前から去った。
そして残されたのは司と類。
自分と幼馴染みの親友。
「司…..牧野は俺のためにお前を諦めてくれたんだ。あいつ俺たちのために身を引いてくれたんだよ」
類は嬉しそうにほほ笑んだ。
そして司の手を握ると、きらきらし始めた目で司を見つめ「愛してるよ、司」と言って唇を重ねようとしていた。
「止めろ!類!離れろ!類!止めろ――――!!」
司は叫んで目を覚ました。
恋人がムラムラする男の仕草は何かを考えて見た夢は、何故か類が司にムラムラする夢。
それも類は司が無防備に寝ている姿にムラムラすると言った。
「気持ち悪りい……」
司は呟いた。だが夢は目が覚めた途端忘却の彼方に消えるものだ。
だから扉をノックする音に「入れ」と言って現れた西田にコーヒーを持ってくるように言った。
司は恋人と夢に出て来たのとは別のジャパニーズスタイルパブにいた。
「なあ。牧野。お前がムラムラする男の仕草って何だ?」
「ムラムラする男の仕草?何それ?おかしな事を聞くわね?」
「いいから答えてくれ」
「そうねえ…..ムラムラはしなかったけど映画の主人公の男性がメガネを外す仕草にキュンとしたことがあるわねえ。ほらメガネって顏の一部じゃない?それを外すってことは、その人の素の部分が見えるって言うの?その仕草がカッコ良かったの」
恋人の口から語られたのは、映画の主人公の男がメガネを外す仕草。
その姿にキュンとしたことがあると言った。
司の周りにいる人間で常にメガネをかけているのは秘書の西田しかいない。
だが、司は西田がメガネを外した姿を見たことがない。けれど、もし恋人が西田のメガネを外す仕草を見たからといってキュンとはしないだろう。
だが司自身がやってみる価値はある。
だからさっそくメガネを買うとかけてみた。
そして恋人の前で外してみせた。
すると恋人は言った。
「最高!道明寺!」
だがそれは笑いながらでありキュンなど全くしていないことは明らかだ。
だがそれでもよかった。
恋人が楽しければ、それでいい。
だが敢えて言った。
「なんだよ。その言い方。俺じゃ胸がときめかないって?」
「胸がときめくもなにも私は道明寺の全部にまいってるのに今更でしょ?」
司は恋人をキュンとさせることは出来なかった。
だが恋人は司をキュンとさせることが出来る。
「そうか。お前。俺の全部にまいってるか…..」
そう答えた司は恋人の言葉ひとつで幸せを感じることが出来る。
そして彼女はこの瞬間もその幸せを感じさせてくれた。
「うん。そうよ。だからメガネなんてかけなくてもいいの。道明寺はそのままが一番よ!」

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