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2020
09.13

金持ちの御曹司~それが私のモットー~

日曜、夜9時。某ドラマの要素が入っています。
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「やられたらやり返す、倍返しだ!」

どこのどいつが言い始めたのか知らないが、最近その言葉をよく耳にする。
だが司に言わせれば倍返しなど手ぬるい。
それに百倍返しや一万倍返しだとしても全く足りない。
それなら司はやられたらどうするというのか。
答えは簡単。相手を始末する。抹殺するだけ。つまり闇から闇に葬るだけのこと。
だがそれを実行するのは有能な秘書だが、どんな方法を取るのかは秘書に任せている。
そんな司が好きな言葉と言えば、「やれるもんなら、やってみな」
だが司の意思に反して何かをする人間がいるかと言えば、世界広しといえどいない。

……いや。
ひとりだけいた。
それは誰かと言えば司の恋人だ。
恋人の牧野つくしは、昔からそうだ。やる時はやる。
司の意見を訊かない。嵐をものともせず立ち向かう。こうだと決めるとそれに向かって邁進する。妥協はない手強い女。世間は司の母親の道明寺楓のことを鉄の女と呼ぶが、実は牧野つくしも鉄だ。つまり言い換えれば頑固ということだが、司はそんなブレない牧野つくしに惚れた。
そして司はそんな彼女の言うことなら、どんなことでも訊く。それに恋人からお願いと頼まれれば一も二もなく叶えたいと思う。いや。何が何でも絶対に叶えるのが司だが、それほど牧野つくしに惚れている男は、読むべき報告書をそっちのけでコーヒーを飲みながら執務デスクの上に置かれた彼女から渡されたある物を眺めていた。




「道明寺。今日からこれ使ってね?」

と言って手渡されたのは、小さくまとめられた濃紺のナイロンで出来た物体。
それが何であるか分からなかった。すると恋人は言った。

「ほら。買い物袋が有料になったでしょ?だから買い物のたび有料の袋だともったいないし、それに環境のためにもレジ袋は減らそうってことになったでしょ?だから道明寺もこれ使ってね?」

恋人から渡されたのはエコバックと呼ばれる袋。
だが司はエコバックなるものを持ったことがない。
それに大金持ちの家に生まれた司とエコロジーは対局にあるものであり、買い物をしても値段を気にしたことがない男の辞書に節約という文字はない。
だから買い物袋が有料になろうが関係ない。それに男の司は、そんな細かいことを気にしたことがない。だが恋人は買い物をするたびに袋に金を取られることをもったいないと言う。だからエコバックを持つことが生活の一部として定着していて、買い物をするとそのバッグに品物を入れることが当たり前になっていた。
だが何であれ司は恋人がプレゼントをしてくれるのは嬉しい。
けれど司は恋人から貰ったエコバッグを使う状況があるとは思えない。そう思いながら目を閉じた。








「道明寺くん。君は銀行の業務をどう考えているのかね?」

司は銀行員として日本を代表する銀行のひとつである東京中央銀行のエリートコースの道を順調に歩んでいた。
そんな司を自分の部屋に呼んだのは常務の西田だが、西田は過去に司に不正行為を暴かれたことで恨みを抱いていた。

「西田常務。私はあなたが何を言いたいのかさっぱり分かりません」

「ほう。そうかね?私は常々自分の思いはっきりと口にしてきた。君が東京中央銀行のバンカーである限りしなくてはならないことは決まっている。それは君が自身の身を挺して行わなければならないことだ。それが何か分からないとは言わせないよ。君は花沢物産へ融資を実行したがそれが正しかったかどうか先行きに不安が生じ始めたのだからね」

司が融資をした花沢物産は東京中央銀行の大口の取引先で、日本で5本の指に入る商社のひとつだ。だが確かに西田の言う通り業績に翳りが見え始めていた。

「物産はチリの銅山を4000億円で買収したはいいが、あの国と揉めていて採掘はストップしている。つまり事業がストップしているということだが、そうなると当行が融資した金が返済されなくなる恐れがある。もしそうなれば当行は大損をすることになる。君はこの状況をどう考えているのかね?」

司は答えることなく、常務の西田が椅子にふんぞり返って話す様子を黙って見ていた。

「それにあそこの次期社長と言われている花沢類氏は元々家業の経営に興味がなかったと言うじゃないか。彼は家を捨てパリで暮らす藤堂商事の娘さんと一緒になりたい思いが強いと訊いた。だからなのか。類氏は今もパリにいて東京にいることが殆どない。それでは次期社長としてどうかと思うが道明寺くん。君はどう思う?訊くところによると君は花沢類氏とは幼馴染みらしいね?まさかとは思うが君は幼馴染みのために融資に便宜をはかったんじゃないだろうね?もしそうだとすればこれは由々しき問題だ。銀行員は融資に際して私情を挟むことは許されないんだからね。ま、どちらにしても君は花沢物産が金を返せないとなれば担当者としての責任を取らなければならない。
つまり君はこの銀行にいることはできなくなる。お・し・ま・い・DEATH!」

司は確かに花沢類の幼馴染みだが、融資に私情を挟んだ覚えはない。
だが花沢物産がチリの銅山を買収するにあたり、その資金を融資することに決めたのは司だ。
そしてチリでの事業が滞っていることも知っている。
そしてそれは常務の西田が言うとおりで東京中央銀行が花沢物産に融資した4000億円の金の返済に影響を及ぼすことは分かっている。
その責任を取れという西田は、かつて自分の不正を暴いた司をこの銀行から追い出すつもりでいることも。

「だが喜びたまえ道明寺くん。私は君にいい話を持ってきた。君が融資を決めた花沢物産の返済が滞ったとしても、この話を受ければ責任を取ることはない。それはうちの大口の取引相手である牧野ホールディングスのお嬢さんと君が結婚することだ。道明寺くん。すごいじゃないか。あの牧野財閥だよ?君はそこお嬢さんに花婿として望まれているんだからね!」

今の日本には財閥は存在しないが、その実、財閥は日本の企業社会の中心にいる。
そして戦前から手広く事業を営む牧野家は日本を代表する財閥のひとつだ。その家のひとり娘のつくしは司との結婚を望んでいた。

「これは君にとって非常に喜ばしいことだ。いずれ彼女はあの家の財産の全てを相続することになる。君はそんな女性と結婚することであの家の財産の全てを手にすることが出来るんだ。逆玉だよ、逆玉。道明寺くん。君のバックには牧野家が付くんだよ?君がお嬢さんに気に入られたのは本当に運がいい。私があと20年若ければと思うほど羨ましい話だ。君は牧野財閥のつくしさんと結婚すれば銀行を追い出されずに済む。素晴らしい話だと思うよ、道明寺くん」











「あら。司さん。どうなさったんですか?ご気分が優れませんか?」

「いえ….ご心配には及びません」

司はワインを飲み過ぎた訳でもないのに頭がクラクラしていた。
今夜は司との結婚を望む牧野つくしと会っているが、司は彼女と結婚するつもりはなく、そのことを話すために素面でいるつもりでいた。だから設けられたディナーの席では水のようなワインを一杯飲んだだけだ。そしてディナーも終わりに近づき食後のコーヒーが出されるのを待っていた。
それなのに頭が重く思うように話しをすることが出来なかった。言葉が出なかった。

「でもなんだか具合が悪そうですわ」

司はそう言われたところまでは覚えていた。
だがそこから先は意識が飛び気付いた時にはベッドの上にいた。

「…..ここは?」

司は目が覚めたのはベッドの上だが、スーツの上着は脱がされ、ネクタイも外されていて、ここがどこか分からなかった。
そして横たわった身体は力が入らなかった。起き上がることが出来なかった。

「あら。目が覚めた?」

そして薄暗い部屋の片隅から聴こえた声の持ち主は牧野つくしだ。

「牧野…..お前、いったいどういうつもりだ?」

「懐かしい呼び方ね?私のことを牧野って呼び捨てにするのはあなただけよ道明寺。でも嬉しいわ。そんな風に呼び捨てにされて」

実は司は牧野つくしのことを知っていた。常務の西田は知らなかったが、司は大学生の頃、アルバイトをしていたフランス料理店の常連客だった彼女と親しくなった。
だが親しくなったとは言っても客とバイトの立場で深入りすることはなかった。
だが暫くして彼女から好きだ。付き合って欲しいと言われた。
けれど司はごく普通の家の息子で彼女は牧野財閥の娘。社会的身分の違いから、付き合ったところで未来などないと分かっていた。だから付き合うことは出来ないと断った。そしてそれっきり彼女はレストランに現れることはなくなった。

「それからどういうつもりって、こういうつもりよ?道明寺。あれから随分と時間が経ったけど、私はあなたのことが忘れられなかった。私はどうしてもあなたが欲しいの。だからあなたを罠にかけることにしたの。そうよ。花沢物産のチリでの銅山事業が躓いているのは、うちがチリの政府に圧力をかけたからよ?だってチリの大統領と私の父はアメリカの大学の同窓なの。それに父は私のお願いは何でも訊いてくれるわ」

牧野つくしは、そう言いながら司の寝ているベッドに近づいて来た。

「ねえ。道明寺。私と結婚してちょうだい。そうすればあなたは銀行を追い出されることはないわ。いえ。追い出されるどころか大口の取引先の娘を妻に持つあなたは大切にされるわ。それに私と結婚してくれるならお金ならいくらでもあげるわ。でもいずれうちの財閥を継いでもらいたいの。あなたはただの銀行員よりも財閥のトップの立場の方が似合うわ」

そう言った牧野つくしは、ベッドの上に膝を乗せて司の上に跨った。
そして「道明寺。私はあなたが欲しいの。だから私のものになって」と言って唇を近づけてきた。
だが司はそんなよこしまな女の身体に手を回すとベッドに押し倒し、着ているシックなエンジ色のワンピースを頭の上までまくりあげると、下着に手をかけ取り去った。

「きゃあ!」

司はベルトのバックルを外し、ファスナーを下ろした。

「牧野。そこまでして俺が欲しいか」

「ええ….欲しいの。道明寺….私はあなたのことが好きなの。だから私を抱いて….」

その言葉を訊いた男は、つくしの脚の間に腰を据え、目の前にある秘部を刺激しはじめたが進入をとどまっていた。
それは強気な態度を取っている牧野つくしの目に涙が浮かんでいるのを見たからだ。

「牧野.....抱いてと言ってるが、もしかしてお前……」

司の言葉に女はワッと泣いて言った。

「ええ!そうよ。私は経験がないの。道明寺!あなたのことが好きで他の男の人のことを好きになれなかった。だから他の男性に抱かれたことがないの。だから……..優しくして…」

女は初めての経験を前に戸惑い涙を浮かべてはいるものの、それでも熱い欲望を抱くひとりの女として司を欲していた。

司は牧野つくしから彼以外の男を好きになることが出来なかったと言われ、そこまで思われていたことを知り嬉しかった。そして彼女のことを思いながらも家柄が違う。社会的な身分が釣り合わないことを理由に付き合おうとしなかった臆病な自分を恥じた。

「牧野。ゴメンな。俺はあの頃お前のことが好きだった。だが俺とお前じゃ身分が違うと躊躇した。ふたりの間に未来はないと思った。だから付き合うことが出来なかった。そんな臆病だった俺を許してくれ」

そして司は彼女をギュッと抱きしめると、あの頃の思いと情熱を込めて彼女の中に分け入った。













「……支社長。支社長。道明寺支社長。お休みのところ申し訳ございません」

司はいけ好かない常務の声を耳にした。だから無視をした。
だがその声は高飛車な物言いをしていない。そして司を支社長と呼んでいる。つまりこれはいつもの夢だと気付くと目を開けたがいい夢だったと思った。何しろ夢の中の恋人は司にフラれても彼を一途に思う熱い女だったのだから。

「支社長。コーヒーでございます。それから牧野様からこちらを預かっております」

司の恋人は仕事の邪魔をしてはいけないと執務室を訪れることは滅多にない。
そして西田を介して渡されたのは、彼女が愛用しているエコバックのひとつ。
中に入っていたのはフルーツサンド。最近恋人はフルーツサンドに嵌っていて、美味しい店を見つけたと言っては司に差し入れをしてくれるが、そう言えば、少し前までは店の名前が入った袋に入れられていたが、最近はエコバックで差し入れがされていた。
司はそこで机の上を見た。自分にもエコバックがある。それは恋人がプレゼントしてくれたもの。だからそのエコバックに気持を込めたものを入れ恋人に渡すのも悪くないと思えた。
それにそうすれば、きっと恋人は喜ぶはずだ。何しろ最近の恋人の口癖は「エコはお財布に優しい」なのだから。


「西田」

「はい」

「今流行りの菓子を用意してくれ。それも沢山な」

「甘いものがお好きな牧野様に倍返しですね?」

「そうだ。俺が貰った以上にあいつに返す」

司は恋人から愛を与えられたら与え返すが、それは倍どころか百倍以上にして返す。
つまり恋人を愛する時は全身全霊で愛し手を抜くことはないということ。世界でただ一人の女性から愛されたら彼女がくれた愛よりもはるかに大きな愛を返していた。
そしてしっかりしているようで不器用なところや、おっちょこちょいなところがある恋人は、テレビや映画を見て泣くこともある。たまに号泣する。だからそんな時は彼女を腕の中にしっかりと抱いて眠る。
それに普段強気でいる恋人にもか弱いところがある。だから司が守ってやらなくてはいけない。それはたとえ世界を敵に回しても変わらない思い。他人が何を言おうが、そんなことは関係ない。何故なら彼女は、かつて人を信じることが出来なかった司に人を信じることを教えてくれた。愛を知らなかった司を愛し、愛を教えてくれた。一人じゃないことを教えてくれた。
だから司は彼女のどんな願いも、どんな涙も受け止める。
そして司は他人からあなたのモットーは何ですかと問われれば、こう答えることにしている。

「愛を与えられたらその愛よりも大きな愛を返す。つまり愛情の倍返し。それが私のモットーです」と。





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