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2020
02.09

金持ちの御曹司~白濁な夜~<前編>

「ねえ真知子。あんた最近株始めたそうだけど、どうなの?」

「それがさあ。ちょっと興味があるから始めたんだけどね?始めたら始めたらで自分が買った会社の株価が気になって仕方がないの。分かっていたとは言っても世界情勢に合わせて株価は乱高下するでしょ?だから胃が痛くなるわよ。それに投資したお金が減る。元本割れなんて当たり前だし、やっぱり株は余裕があるお金じゃないと出来ないって思ったわ。株式投資は自己責任の極みだわ」

と言った真知子は最近胃薬が欠かせないのよ、と言葉を続けた。

「そうよね….株取引はリスクが伴うわよね。でもさ。その点うちの株価は高値で安定して推移してるし買うなら道明寺株。やっぱり自社株よ。従業員持株制度を利用して自社株の積み立てするのが一番よ」

「ホント。あたしもそう思ったわ。初めは投資するなら多少のリスクを伴ってもいいって思ったけど、この胃の痛みにあたしは株式投資に向いてないって分かったわ。だから株式投資は終わり。利益が出るうちに売って終わりにするわ」

「そうね、そうした方がいいわよ。でもそう言えばこの前牧野さん株がどうのって言ってたわね?彼女も株を始めたのかしらね?」

「へえ….。牧野さんが?でもなんだか意外よね?彼女は堅実タイプでコツコツ貯金して株には興味がないように思えるけど、もしかして老後のために資産運用に目覚めたのかしらね?」












かつて暴力的で腕力では誰にも負けないと言われていた男が今ふるうのは美しさの暴力。
そしてその男は人類が進化する過程で最も美しい脱皮を成し遂げたと言われているが、そんな男が耳にしたのは、恋人が株式投資を始めたということ。
だが司は恋人が株の取引を始めたとは知らなかった。
それに恋人は教えてはくれなかった。けれど株式投資をすることを悪いとは言わない。
それは株式市場に注目することで世界の経済がどんな動きをしているのかを知ることが出来るからだが、老後のためと言われたことは聞き捨てならなかった。
何故なら世界で一、二を争う道明寺財閥の後継者と結婚することが決定事項の恋人が老後の心配などする必要がないはずだ。
それなのに何故…….。

「まさか…..あいつ、俺と結婚する気がない?俺と一緒に老後を過ごすことを考えてないのか?だから老後の心配を?」

司は呟きながら執務室に戻ったが、彼女が自分抜きに老後のことを考えていることにショックを受けた。
だがショックを受けながらも恋人が買った株がどこの会社の株なのかが気になり、新聞の株式欄を広げ、どの業種のどの会社なのかと考えた。
自社の株価の動きより、知りもしないのに彼女が買った株の動きが気になった。
だからパソコンに表示されている東京市場の動きを知ろうと目を転じたが、時刻は午後3時を回っていて今日の取引は終了していた。

「牧野。お前は俺と結婚する気がないのか?だから老後の金の心配をしているのか?」

司はパソコンに表示されている道明寺株の終値が前日と比べて高いことに満足すべきだが、今はそんなことはどうでもよかった。
司は彼女がいない未来など考えたことが無かった。
だから彼女がもし司と結婚しないというなら、自分はどうしたらいいのか。
ノーマキノ。ノーライフの男は彼女のいない人生など考えられないのだから。












「牧野様。本日よりこの男が牧野様の警護に付くことになりました」

「あの….何故私に警護が必要なんですか?」

「はい。牧野様がお知り合いになられた男性はアメリカでも一、二を争う会社の会長でして、その方がお亡くなりになり遺言により牧野様に遺産が残されました。それがその会社の株です」

つくしは1年前の昼。電話当番のため時間をずらせて取った昼休みに、会社の近くにある小さな公園のベンチに腰を下ろしハンバーガーを食べようとしていた。
そのとき、隣のベンチに座っていた年配男性の視線に気付き男性の方を見た。
すると男性は「ハロー」と言って自分は出張で東京を訪れたアメリカ人だと言い、「これから昼食かい?」と訊いた。
だからつくしが「そうです」と答えると「お嬢さん。あなたのそのハンバーガーは美味しそうだ。私も食べたくなったよ。何しろ私はアメリカ人だからハンバーガーには目がない」と言って笑った。そして「実は昼食がまだなんだよ」と言葉を継いだ。

つくしはあのとき手にしていたハンバーガーをどうぞと言って差し出した。
それは男性がビジネスでこの国を訪れたが、忙しさで食事を取る時間が無かったからだと思ったからだ。
それに外国で食事が出来ないというのは辛い。
腹が減っては戦ができぬという言葉もあるが、お腹が空いていると哀しいことばかり考えてしまうからだ。

「でもお嬢さん。あなたのランチは?」
「大丈夫です。私はこれから会社に戻る途中にまた買えばいいんです。だから遠慮しないで召し上がって下さい」そう言ってハンバーガーと一緒に買っていたポテトとコーヒーが入った紙袋を男性に渡した。
そして次の日。昨日と同じ公園でハンバーガーの入った紙袋を手にベンチに腰掛けたところに現れたのが昨日のアメリカ人男性だ。
その男性が昨日の御礼だよ。ランチをご馳走するからと言ってつくしが手にしていた紙袋を取り上げて彼女を連れて行ったのは、近くのビルにある有名なフレンチレストラン。
値段が高いこともさることながら、味も一流だと言われている店だ。

男性は「遠慮しないで」と言い、つくしはランチをご馳走になった。
そして「もしアメリカに来ることがあれば連絡して欲しい。アメリカで一番美味しいハンバーガーをご馳走するから」と言って名前と電話番号とEメールのアドレスが書かれた紙を差し出し、そこからふたりの交流が始まったが、それは全てEメールを通しての連絡であり、交流は男性が出張で日本を訪れた時に、あの時食事をしたフレンチレストランで昼食を取ることであり、それ以上のことはなかった。そしてつい先日届いたメールの差出人はその男性ではなく、西田という名の日本人男性だった。

「でも何故私に株を?」

「はい。会長はあなたのことが気に入ったと申しておりました。見知らぬ外国人に自分の昼食を差し出したあなたの行動に感動したと申しておりました」

「でもそんなことで私に株を残して下さるのは….」

「牧野様。これは故人の遺志です。ですからお受け取りいただければと思います。と、同時にあなたは今日から大変なお金持ちになりました。つまり誘拐の危険があるということになります。会長はそれを危惧されておりました」

「はあ…でも…」

「ご安心下さい。わたくしは会長からあなたのことを頼むと言われました。そしてこの男は大統領の警護をしていた男です。シークレットサービス出身です。この男があなたのことを守ります」

そう言った西田は男を残すと部屋を出た。





司は西田が部屋を出て行くと牧野つくしの前に立った。
アメリカで一、二を争う会社の会長だった男は司の父親の姉が結婚した相手。
つまり司にとっては伯父あたる人物だ。そんな伯父には兄弟もいなければ子供もいなかった。
だから伯父の遺産は妻である司の父親の姉。つまり司の伯母が伯父の持つ株の全てを受け取るはずだった。
だが伯父は日本で知り合った牧野つくしという女に自分が所有していた株の一部を残したが、その株が誰かに渡れば伯父の会社が支配される危険があった。
そして伯父の会社の後継者として指名されることになっているのは司だ。
だから司は牧野つくしの手に渡った株を取り返そうとしていた。
それに牧野つくしという女は伯父をたぶらかしたに決まっていると思った。
だから司は女の本当の姿を暴こうとボディガードのフリをして女の傍にいることにした。



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2020
02.10

金持ちの御曹司~白濁な夜~<中編>

アメリカで一、二を争う会社の株式を遺贈されたことから、つくしの前に現れた道明寺司という男性。
その男性はボディガードだと言って彼女の傍にいることになったが、つくしはその男性の存在に困惑していた。
何しろ監視されることに慣れてない。
それにこれまで男性がいつも傍にいたことはない。
だが一番の困惑はその男性がとても魅力的な男性ということ。
つくしはこれまで男性と付き合ったことがなかった。それは男性が嫌いとか、苦手だといった理由ではない。ただ恋愛に奥手というだけで恋の仕方が分からなかった。
けれど、恋におちたと思える瞬間がそこにあった。
そしてそれは、つくしのはつ恋。
その人は癖のある黒髪に、切れ長の黒い瞳とまっすぐな鼻筋をしていた。
そしてその瞳は漆黒で何を考えているか分からなかったが、知性が感じられ時にきらりと光る瞬間があった。


「あの。道明寺さん。もう少し離れてくれませんか?」

つくしのボディガードになった男は、スーパーで買い物をする彼女のすぐ後ろにいて、その存在は場を圧していた。
つまり、買い物客の殆どを占める女性客の視線の全てが、彼女の後ろに立つ男性に向けられていて、つくしは落ち着いて買い物が出来なかった。

「牧野さん。私はあなたのボディガードです。あなたの命を守ることが私の務めです。
だから私のことは気にしないで下さい。それにいい加減私の存在に慣れて下さい」

そう言われたが恋におちた相手に慣れるなど無理だ。
そして毎日顏を合わせ3ヶ月経ったある日。住んでいるマンションの前まで送られたとき勇気を出して言った。

「あの。お茶でもどうですか?」

「お茶?」

「いえ。あのお茶じゃなくて紅茶でもコーヒーでもいいです。喉。乾いていませんか?」





司は牧野つくしの部屋に招かれた。
これはチャンスだと思った。
それは部屋の中を見ることで彼女の暮らしぶりが分かるからだ。
買い物はいつもスーパー。そこで手にした品物は値段を吟味して籠に入れる。
洋服は殆ど買わない。出かける時はバスか電車。
仕事に行く昼は、たまに伯父にご馳走した自分も好きだというハンバーガーを買うことがあるが、殆どが自分で作った弁当を持参していた。
そして外食は友人と呼ぶ女性との食事くらいで殆どすることがないという地味な生活。
だが実は部屋の中には伯父をたぶらかし手に入れた金で買った高価なものが溢れているの
ではないか。
それを確かめるため、招きを受け入れ部屋の中に足を踏み入れた。

「あの、道明寺さん。お茶にしますか?紅茶にしますか?それともコーヒーにしますか?」

司はコーヒーを、と言うと勧められたダイニングテーブルの椅子に腰を下ろしたが、そこは殆ど物が置かれていないシンプルな部屋。
だが部屋の中や持ち物に派手さはなくても高価な宝石や貴金属を持っている可能性もある。
だがそういった物はこの部屋に置かれてはいないはずだ。
それは女という生き物は大切な物は寝室に置くと決まっているからだ。
だから司は女の寝室に行かなければならなかった。
きっとそこには伯父の手元にあったはずのあの家に伝わる宝石もあるはずだから。

伯母から夫が持っていた代々家に伝わってきた宝石が無くなったと訊きたとき、あの女が持っているのだと思った。女は伯父からその宝石の話を訊き欲しいと思ったはずだ。
そして手に入れたはずだ。
だから株と一緒にその宝石も取り返さなければならなかったが、そのために出来ることは何でもするつもりでいた。

そして司は気付いていた。
それは女が自分に好意を抱いているということ。
だからその思いを利用して女から株を取り戻すことに決めたが、何もタダでとは言わない。
言い値とまでは言わないが相当の額を払い取り戻すつもりでいた。

だが自分に好意を抱いている女を抱くのも悪くないと思った。
けれど司は女という生き物を嫌悪していた。それは彼に近づいてくる女は彼の金が目当てであり、彼の心の内など考えもしないからだ。
そして司は恋愛に興味がない。だから女達が彼の前でこれ見よがしに振る舞う姿に狡猾さが透けて見えた。だが牧野つくしにはそれが見えなかった。だがそれはきっと芝居が上手いからであり、いずれどこかでボロを出すはずだ。



司は出されたコーヒーを飲み干すと、これまでどんな女にも見せたことがない微笑みを浮べた。

「牧野さん。美味しいコーヒーをありがとうございました」

そう言うと椅子から立ち上がり女の傍に行った。
そして驚いた様子で司を見上げる女の身体を抱え上げ「寝室はどこだ?」と言った。



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2020
02.11

金持ちの御曹司~白濁な夜~<後編>

「ン….あ….あっ….」

それは痛みの中に甘美さを秘めた声。
その声にわざとらしさはなかった。

司は真夜中の静寂の中で牧野つくしを抱いていた。
地味だと思っていた女の服を脱がせると、そこにあったのは滑らかな曲線の裸。
胸は小さかったが司が触れると彼の手に合うように形を変えた。
ウエストは細く両手が回るほどで、この細さの何処に内蔵が詰まっているのかと思えた。
そしてスカートから出ていただけの足はスラリとしていた。

これまでは女を抱けば抱くほど憂鬱な気分になった。
上辺が美しいだけで中身のない人形のような女達には反吐が出た。
だが美女でもなければ特別な何かがあるわけではない女はこれまで抱いてきた女達とは違った。

そして思った。
これまで司が傍で見て来た牧野つくしという女は今彼が抱いている女とは別の女だということを。
そうだ。違うのだ。
服を脱いだことで感じられる身体の窪みから香る匂いは、これまで司が嗅いだことがない匂い。
動物のオスが自分と同じ種族のメスの匂いに敏感であると同じで人間も本能的に好きな匂いがあるが、牧野つくしの匂いは司の好きな匂い。

罠だと思った。
これは罠だ。
牧野つくしの身体は司以外の男を知らなかった。
だから伯父をたぶらかしたのはこの身体ではなくても、この女には男が傍に置いておきたいと思える何かがある。
だがそれが司だけに感じられる何かだとすれば、それは限りなく危険な感情。
つまりそれはこの女の匂いと身体が司に沿うということ。
いや。だがそれは匂いや身体だけなのか。
牧野つくしのナカはこれまで他の女に感じたことがない身体をとろけさせるような甘美さがあった。

司は下半身を動かすことを止めなかった。
いや。腰の激しい動きを止めることが出来なかった。
そして己の唇から苦しそうに溢れるのは、これまで感じたことがなかった飢えを満たしたいという思い。
だが白いシーツの上で組み敷いていたはずの女は、いつの間にか彼の上に乗っていて、司の身体はベッドの上に倒れていた。
そして司を見下ろす女の瞳は笑っていた。

「おまえ…」

司が言いかけた言葉は女の熱い唇に塞がれた。
女の手が彼の胸から腹へと滑って行くと、やがて細い指は司自身を掴み、唇は滲み出していた雫を吸い取った。

「クソッ….」

女の頭を掴んで漏れた言葉は、これまで感じたことがなかった快感に震えたことから漏れた罵り。
司は女とセックスをしても女を愛したことはない。
セックスは下半身だけを使えばいいオスの本能だけの行為で、一度だって愛という言葉を理解しようとしたことがない。
それなのに、まるで牧野つくしという女に捕り込まれたように彼女の身体を離したくはなかった。女の身体の熱い感触に包まれていたかった。
一生傍に置いて彼女の身体だけを愛したいという思いに駆られていた。
そうだ。ここから全てが始まる。
愛を知らなかった男は、牧野つくしという女に出会って人を愛することを知った。
知らず知らずのうちに愛していたのだ。
彼女のことを。

ふと耳が音を拾った。
それが何の音かすぐに分からなかった。
だが音は大きくなり自分が今いる場所が執務室であることに気付くと、その音がノックの音だと気付いたが邪魔されたとは思わなかった。

「失礼いたします。コーヒーをお持ちしました」

西田は机の上にコーヒーを置くと「本日の我社の株価は年初来高値です」と言葉を継いだが、そこで司は恋人が株を始めたことを思い出した。
恋人はひとりで暮らす老後のために資産運用を始めたのではないか。
そうだ。そのことを確かめなければならなかった。
何しろもしそれが本当なら仕事をそっちのけにして改善しなければならない問題になる。
だって司は人生を彼女無しに過ごすことは耐えられないのだから。















司は恋人の部屋を訪ねるとすぐに聞いた。

「牧野。お前、最近株取引を始めたのか?」

「え?」

「だから株だ。株への投資だ」

「株への投資?そんなことしてないけど、なんでそんなこと聞くのよ?」

「いや。この前社内で女子社員がお前が株がどうのって言ってたのを訊いた」

そして彼女が老後のために資産運用を始めたのではないかということ。
つまり世界で一、二を争うと言われる財閥の後継者と結婚するつもりはなく、自立した女であろうとしているということ。

「株……」

恋人はそう言って少し考えたあと「あのことかもね?」と言葉を継いだ。
だから司はあのことについて訊いた。

「なんだよ?そのあのことってのは?」

「あのね。この前、自販機コーナーで話題になったのよ。シロタ株について」

「しろた株?しろたってのが会社の名前か?それはどこの会社だ?業種はなんだ?業績はいいのか?一部上場か?それとも二部か?経営者の名前は『しろた』か?」

司は頭の中で東京市場に上場している会社の知る限りの情報を巡らせた。
だが『しろた』の名前でヒットする会社はなかった。

「あのね。シロタ株は会社の株じゃないの。あたしが言ってるシロタ株って言うのは腸にいい乳酸菌の名前よ。ほらこの季節でしょ?手洗いをしてうがいをして、その乳酸菌が入った飲み物を飲む。それを続けることで健康な身体を維持することが出来るって言われていて、あたしも最近飲み始めたの。それも自販機コーナーに新しく設置された自販機のお蔭なんだけどね?道明寺ありがと。あの自販機入れてくれて。
それからそれは日本人なら誰もが一度は飲んだことがあるって言われるほど歴史が長い飲み物なのよ?あんたも飲んだことがあるんじゃない?」

そう言われても司はピンとこなかったし、知らなかった。
それに多分タマにも貰ったことがないはずだ。
だから飲んだことが無いと言った。
それに自販機の管理は司の仕事ではない。

「あ。そうよね?考えてみればあれは庶民の飲み物だから道明寺は飲んだことが無いのね?じゃあ飲んでみる?冷蔵庫の中に入ってるから。小さな容器だからすぐわかると思うわ。あ、それからその会社。プロ野球の球団も持ってるから道明寺も知ってるはずよ?ツバメがマスコットでチームのイメージカラーは明るい緑。それから応援にはビニール傘を使うの」

恋人はこれくらいの大きさだからと言って指で8センチくらいの幅を示した。
そして司は球団を経営していると言われ、ああ、あの会社かと名前を知った。
そして冷蔵庫の前へ行くと扉を開けた。
するとそこには恋人が言う小さな容器があったが中は濁っていてサラサラとしているのか、ドロドロとしているのか分からなかった。

「あ、道明寺。それ飲む前にちょっとだけ振った方がいいかも」

だから少しだけ振った。
そして蓋を取ってひと口飲んだ。

「甘めぇ….お前こんな甘いモンがよく飲めるな?」

「あはは!やっぱりアンタには甘かった?でもその甘さがいい時もあるの。特に身体が疲れている時とかお風呂上りに飲むと身体にしみ込む感じがするの。でもそれ甘さ控えめなカロリーハーフなのよ?それでね?その中にはさっき言ったシロタ株が200億個も含まれてるの」

「へえ…」

司は感心したように言ったが、シロタ株と言う乳酸菌が200億個と言われても実感が湧くはずもなく、むしろ200億円と言われた方がピンと来た。
それに司が恋人の身体にしみ込ませたいのは、200億個の乳酸菌ではなく別のもの。
それは司が手にしている容器の中身よりも白く濁っていて、一回に出す量としては司の方が多いが、それが身体にいいかと言われたらノーだとしても総二郎に言わせれば、それを飲んだ女は肌の艶が良くなるらしい。

そしてそれを女の口の中に注ぎ込みたいと思うのは男の願望。
だが無理強いはしない。
愛し合う行為は互いの感情の高まりから来るものがそうさせるのであって、ひとりよがりでは楽しくないのだから。
そして司には聞かなくてはならないことがあった。
株問題は解決したが、ふたりの未来の話があった。

「牧野」

「なに?」

「お前。俺がヨボヨボのじいさんになっても一緒にいてくれるんだよな?」

「え?もう….突然何言い出すかと思ったら__」

「いいから答えてくれ。どうなんだ?俺がジジイになっても俺の傍にいてくれるのか?」

その言葉に恋人は笑った。
そしていつものように言った。

「もう。本当に心配性なんだから」

恋人は呆れたように言ったが、司は恋人に対して強気でもあり心配性でもある。
それは彼女を愛しているからそうなるのであって、興味のない女には感情の起伏が向かうことがない。
そして司はいつも彼女の言葉を待っていた。
そう。彼女の口から語られることだけが彼にとっての真実なのだから。

「牧野。いてくれるんだよな?」

すると恋人はこう言った。

「あたしが皺くちゃなおばあちゃんでもいいならね?」








年を重ねたふたりの顏に刻まれた皺。
その頃になればふたりには孫がいて共に歩んだ人生を振り返っているはずだ。
そして重ねた歳月を懐かしく思っている。
そしてどんな姿の彼女でも、その姿に心を焦がしている自分がいるはずだ。
だってそれが生涯でただ一人の恋人と結ばれた男の執着とも言われる愛のカタチなのだから。




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