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2020
01.12

金持ちの御曹司~Don’t You Love Me?~

司の前に現れた女の名前は牧野つくし。
彼女は刑事専門弁護士であり、起訴されれば99.9パーセントの確立で有罪になると言われている日本の刑事事件に於いて無罪を勝ち取ることを諦めないと言われていて、別名0.1パーセントの確立に挑む女と呼ばれていた。
そんな女は真剣な顏で目の前にいる司を見ていたが、彼は道明寺ホールディングスの副社長。近々会社法違反(特別背任)容疑で東京地検特捜部に逮捕されると言われていたが、プライベートジェットでレバノンに逃亡しようとして逮捕された。

だが司は道明寺の資産を個人的に流用した覚えもなければ、会社に損害を与えてもいない。
それにレバノンに逃亡しようなど考えたこともない。
そして誰にも見つからないようにジェットに乗り込むため音響機器の箱に隠れていたと言われているが、箱に入って旅をしたいとは思わない。邸に滑走路を持つ男にそんな必要はない。
それに箱に隠れるという屈辱的なことをするくらいなら堂々と自分の足でジェットに乗り込んでやる。
だから自分の足でジェットに乗り込もうとしたが、邸に踏み込んで来た地検特捜部の捜査員に身柄を拘束され、こうして小菅にある東京拘置所に収監されたことから、アクリル板越しに弁護士の牧野つくしと面会をしていたが、司の服装はブリオーニのスーツに清潔な白いワイシャツでとても拘置所にいる人間には見えなかった。



「道明寺副社長。あなたは本当にレバノンに逃亡しようとしたのではないんですね?」

「ああ。俺はレバノンに逃亡しようとしたんじゃない。ただレバノンにいる友人のロルスカ・ゴーンにレバノン料理を食べに来ないかと誘われた。だから彼に会うために出掛けようとしただけだ」

司が口にした名前の男は、かつて日本に暮らしていた企業経営者だが、諸般の事情でこの国を出て祖国であるレバノンに渡っていた。

「ロルスカ・ゴーンさん?その方がお友達なんですね?それでそのお友達にレバノン料理を食べに来いと誘われたんですね?」

「ああ。そうだ。俺はただ美味いレバノン料理を食べに行こうと思っただけだ。それだけのことで何故捕まらなきゃならん」

と、司は言って牧野つくしの顏をじっと見つめたが、もし万が一司が捕まったら牧野つくしを弁護士として雇うと決めていた。
それは、彼女が0.1パーセントを諦めない女であると同時に勝訴請負人として名を馳せていることもだが、実は彼女は初恋相手だったからだ。

司は高校生の頃、彼女を好きになった。
だが彼の初恋は実らなかった。それはうっかり彼女の事だけを忘れ、他の女と結婚してしまったからだ。だが彼女のこと思い出すとすぐに妻となった女とは別れ、東大法学部を卒業して弁護士になっていた彼女にアプローチを始めた。
だが彼女は司に振り向いてはくれなかった。
そしてこうなった今も、あなたとのことは依頼人と弁護士という以外何とも思ってないと言った。だが司は、ふたりは依頼人と弁護士という間柄以上の関係があると思っている。
けれど、彼女の態度も言葉遣も木で鼻を括ったように冷たかった。
そして司の初恋の人はこう言った。

「道明寺副社長。あなたは自分に嫌疑かかっているというのに出国しようとしていた。それは逃げようとしていると思われても仕方がありません。だから検察はあなたの逮捕を早めました。でもご安心下さい。私があなたの弁護人になった以上、必ずあなたの無実を証明します。すぐに保釈されるように力を尽くします」

だから司は彼女に「よろしく頼む」と言った。

そしてそこから彼女は司が拘置所から出られるように手を尽くした。
裁判所と交渉を重ねた。
そして晴れて釈放を勝ち取ったが、保釈保証金は50億という日本での最高額。
だが50億など司にとってははした金。だからすぐに用意出来た。
それよりも保釈の条件の中に初恋の女性が、いや弁護士である彼女が司の傍にいて彼の行動を監視することとあった。だから司はそのことを心から喜んだ。
そして住まいも制限されていたが、そこは都内の一等地にある司のペントハウス。
そこに弁護士である彼女は度々足を運ぶようになった。

「牧野。コーヒーを淹れるから座ってくれ」

「ありがとうございます」

司は彼女が来るたびに自らコーヒーを淹れ彼女に勧めた。
そして今日もソファに腰を下ろした彼女の前にコーヒーを置くと、自身もコーヒーを手に彼女の前に座った。

「それでは今後についてですが__」

と言って彼女は司の方を見ることなく鞄から資料を取り出したが、彼女は司に対して他人行儀な話し方を止めなかった。
それが司には悲しかったし寂しかった。
せめてふたりだけの時は昔のように道明寺と呼び捨てにして欲しかった。
だが司は彼女を忘れ別の女性と結婚した。そのことをやはり彼女は許していないのか。
しかし、こうして司の弁護士となった彼女と過ごす時間が増えた今、話すこととが裁判に関してだけとはいえ、ふたりだけで過ごせる時間は嬉しかった。
そして合間を見ては自分の思いを伝えることを止めることはなかった。


「牧野。俺のこと。やっぱり許せないのか?」

「え?」

「だから、俺がお前を忘れて他の女と結婚しちまったことをだ。許してくれないんだな?」

司は資料を手にしている彼女の言葉を待った。
すると彼女は資料をガラスのテーブルに置くと言った。

「道明寺副社長。今はそういった話をする時ではありません。それにあなたは依頼人で私はあなたの弁護士です。私はあなたを無罪にするために戦う弁護士です。あなたが過去に誰と結婚していたとしても、そのことはこの裁判とは関係ありません」

司は彼女があくまでも弁護士として彼に接することが耐えられなかったが、それでもこうなったのは彼に原因がある。だから仕方がないと思っていた。だが自分の思いを口にした。

「そうか。やっぱり今でも俺のことが許せないんだな。けど俺は本当に悪かったと思ってる。
牧野。俺は今でもお前のことが好きだ。俺は今は刑事被告人だがお前が弁護してくれるから必ず勝てると信じている。それに俺は何も悪いことはしていない。お前を忘れちまったこと以外はな」

司はそう言ってから微動だにせず彼女の顏を見続けた。
そして彼女の心を読み取ろうとした。だが弁護士となった初恋の人は昔と違い表情からその心の裡を読むことは出来なかった。硬い表情を崩すことはなかった。
だが司は自分の思いを伝え続けることを止めなかった。

「俺はお前が俺の弁護を引き受けてくれたと知ったとき、お前がまだ俺のことを思ってくれてると思った。なあ。そうじゃないか?そうじゃなかったら俺の弁護を引き受けてはくれなかったはずだ」

司は立ち上ると、彼女の傍に行き、しゃがみ込んで彼女の手を取った。

「牧野。お前を忘れたことは本当に悪かったと思ってる。これからその償いをしたい。だから俺の傍にいてくれ。俺はお前を一生大切にする。お前のことを守る。これから先、俺はお前の傍にいて離れることはない。それは死がふたりを分かつまでずっと一緒にいるってことだ。だから牧野。この裁判が終ったら俺と結婚してくれ」

「道明寺……」

司は雄弁な彼女が言葉を詰まらせ、呼び捨てにしたことに思った。
高校生のあの頃は、まだ心の奥を開き合う関係ではなかった。
何しろまだ人間として未熟だった。だから言葉足らずなところがあった。
だが今は違う。年を重ね世間を知ったふたりは今では充分な大人だ。
だから今こそ胸襟を開く時だと思った。

「牧野。俺の思いを受け止めてくれないか?」

司はそう言って彼女をソファの上にゆっくりと押し倒すと「牧野。今こそ互いに胸襟を開く時だ」と言って彼女のブラウスのボタンに手をかけたが、その瞬間その手を払いのけられた。

「ちょっと道明寺あんた何する気なのよ?!」

「何するって胸襟を開いてんだが?」

「きょ、胸襟って、あんた胸襟の意味が分かってるの?」

「胸襟か?ああ。知ってる。俺を誰だと思ってるんだ?胸元の襟を開くって意味だろうが?だからこうして開いてる」

そう言った男は払いのけられた手を再び彼女の胸元にかけようとした。

「違うわよ!あんたの日本語がおかしいのは昔からだけど胸襟を開くってのは人の服を脱がせるって意味じゃないわよ!思っていることをすべて打ち明けるって意味よ!だから___んん!」

司はキスをして彼女の口を塞いだ。胸襟を開くの意味が違ったところで似たり寄ったりだと思った。だからブラウスのボタンを外すのを止めなかったが、それはせっかく目の前にいる初恋の人をここで逃がしてはなるものかという思い。だから手早く彼女の服を脱がせ、自分の服も脱ぎ捨てるとベッドに行く時間が惜しくて分厚い絨毯が敷かれた床の上に組み敷いた。

「牧野。牧野…..愛してる。お前のことを思い出してからは、拘置所でもお前の事ばかり考えてた」

そう言った男を初恋の人は潤んだ目で見上げていた。

「道明寺…..本当?本当にそうなの?」

「ああ。本当だ。寝ても覚めてもお前のことだけだ」

「司….」

司は下の名前で呼ばれたことで初恋の人を愛し始めたが、それは暴走する貨物列車のように勢いが止まらなかった。












「…..うじ?….みょうじ?ねえ道明寺ったら!」

「は?」

「は、じゃなくてボーっとしてどうしたの?調子でも悪いの?」

「いや。本当にこのニュースすげえなあっと思って見てた」

「そうよね。ホントに凄いわよね?箱に入ってプライベートジェットに乗り込んで出国するなんて映画みたい。この事件映画化されるんじゃないの?」

司の部屋でふたりが見ているのは、罪を犯したある企業の元会長が保釈中にプライベートジェットで国外に不法に出国したというニュースだが、それと重ねて司が頭の中で見ていたのは、弁護士となった恋人が罪を犯したと言われる司の元を訪れるというストーリー。
そして恋人の言葉ではないが、司は頭の中で流れていた映像を映画化したいと思った。
特にふたりが愛し合う場面は淫らで良かった。
たとえばそれはバスルームで愛し合うふたり。
司の足許にひざまずき彼のモノを咥える恋人。
獣のように後ろから恋人と交わる司の姿。
両脚を大きく開いて司にまたがった恋人が下から突き上げられるたびに小さくて可愛らしい胸を揺らす姿。

だが俳優は誰を使う?
司の役は誰がやる?
そして牧野つくしの役は誰が?
いや。ふたりの代わりに誰かがふたりを演じることなど出来はしない。
何しろふたりの愛は誰かが変わって与えることも、ましてや受け止めることも出来はしないのだから。

「牧野」

「ん?なに?」

「お前さ。俺のこと愛してるか?」

「え?なにどうしたの?突然そんなこと言って」

と答えた恋人は、また司がいつもの愛情確認をしていると思ったようだ。
だがいつも司は真剣だ。
だから今日もいつも以上に言葉に力が入っていた。

「突然じゃねえだろ。俺はいつもお前に愛してるって言ってる。だからお前が俺と同じ思いでいるか訊いてるだけだ。だからはっきり言ってくれ。俺を愛してるのか。愛してないのか」

すると恋人は笑ったが、それはいつも司に向ける笑みと同じ微笑み。

「ねえ道明寺。あたしはアンタに何かあったら全力でアンタを守る。アンタを信じる。アンタの傍を離れない。これは一生の思いよ。だってアンタと離れていた時、辛かったし寂しかったから」

かつてふたりは1万キロの距離を挟んで暮らしていた。
それはまるで非常勤の恋人であり、その時互いに感じた思いは寂しさ。
だから今のふたりは時間が許す限り共に過ごしていたが、それでも司はいつも様々な思いに焦らされていた。
だから言葉が訊きたかった。
司に力を与えてくれる言葉が。
どんな困難にも打ち勝つことが出来る言葉が。
それは「道明寺。愛してる」という言葉だが恋人はそんな司の想いを読み取ったように口を開いた。
そして彼がいつも訊きたいと望んでいる言葉を__

「道明寺、愛…ひて…」

「おい!お前なんでそこで噛むんだ?!」

司は怒った。だが恋人は声を立てて笑ってゴメン。噛んじゃったと言って謝った。
司はそんな彼女の手をつかんで立たせた。
そして抱き上げたが、その時の恋人の顏は笑ってはいなかった。
だから司は訊いた。

「Don’t you love me?」

 俺のこと、愛してないのか?と。

すると恋人は「Yes. I love you」

愛してる。と言って笑った。




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