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2019
12.24

クリスマスの約束 <前編>

Christmas Story 2019






そこは大きな通りから一本裏道に入った場所にある小さな和菓子屋。
普段は饅頭や羊羹を販売しているが、何故かクリスマスになるとケーキを販売していた。
そして今もあの頃と同じようにクリスマスイブだというのに店先にはまだ『クリスマスケーキの予約受付中』という紙が貼られていて、飾られたクリスマスツリーは雨上がりの後で濡れて光っていた。

そこは恋人が高校生の頃アルバイトをしていた店。
そんな店の前を司が乗った車はスピードを落とし走っていたが、やがて大通りへ出た。
すると車は加速して車窓から見える景色が変わったが、そこには美しい光景があった。

それは1年のうちで街が一番華やかに見える風景。
街路樹はイルミネーションの飾り付けがされ、ショーウィンドーは赤や緑や金色といったクリスマスカラーで飾られ煌めきを放っているが、雨上がりの歩道に反射したイルミネーションの光が、より一層街の風景を輝かせて見せた。

そんな街並みの中、買い物を楽しむ家族連れや寄り添って歩く恋人たち。
きっとそこに流れるのは定番と呼ばれるクリスマスソング。
まさにそこにあるのは愛という言葉が似合う光景だったが、東京とニューヨークの遠距離恋愛中に何度も迎えた東京のクリスマスの景色は今年も変わらなかった。

だが地球温暖化の影響なのか。気温が高いと言わる昨今の冬。
濡れたガラス越しに見える人並みは、コートの襟を立てて歩くほどでもなく、襟元に巻かれたマフラーは冬の必需品であっても、こう暖かければ防寒の為というよりもファッションアイテムといった感じだった。
そして司の手元には12月に入って日本から送られて来た手編みのマフラーがあった。

それは今年のクリスマスは戻ることが出来ないと言ったから。
その瞬間、司は自分自身に向かって悪態をついた。だが今年ばかりはどうにもならない事情があった。
だから司は恋人に今年は自分の傍に来て欲しいと言った。
けれど彼女は、平日だし、仕事だし、突然休むと迷惑がかかるからと言った。
そして彼女は、今年は会えなくても仕方がないわね。と言った。
けれど、ふたりは1万キロ離れた場所で恋人同士でいることを始めた時に決めたことがあった。
それは、どんなことがあっても年に一度は必ず会うということ。
その日がどんな日でも構わなかったが、司の方から言い出したのはクリスマスの日。
この日だけは何があっても彼女に会うためこの街に戻って来ることを決めていた。

そんなクリスマス。
今年は日本に戻ることが出来ないと思われていた。だが予定は変わった。
司はこうして日本に戻るってくることが出来た。
だから今こうして恋人の元へ向かっていたが、そうあるべきなのにそうなっていない事態について考えていた。

それは約束だけで実行に移せない恋人との結婚について。
司が生まれた国を離れたのが18歳の時。
ニューヨークでの暮らしも11年が経ち、英語も母国語と同じくらい流暢に喋れるようになった。
容易ではなかったが仕事も大きなプロジェクトを立て続けに成功させた。
かつて母親はまだ早いと反対していたが今は違う。あなたの判断に任せると言った。
姉にいたっては、もう何年も前から何人かの世界的なデザイナーにウエディングドレスのデザインを依頼していると言った。
そして29歳になった男は自分の家族を持ちたいと望んでいた。
司は男で彼女を求めている。それは17歳で出会ってからずっと。
1万キロの距離と12年という長い時を経て、この瞬間彼女を傍に感じたかった。
会えない時は想像力を働かせ、片手で自分自身を包み込んだ夜が幾つもあったが、目覚めたとき隣にいて欲しかった。
彼女の温もりを感じたかった。
限られた時間の中で抱き合うのではなく、朝も昼も夜もずっと一緒にいたかった。
この先の人生を彼女と分かち合いたかった。
だから今年のクリスマスはただのクリスマスでは終わらせたくない。
そう。司にとって今年のクリスマスは、ただのクリスマスで終わらせるつもりはなかった。

それに世の中の男達は恋人と最高のクリスマスを過ごすためなら、どんなに遠い場所に住んでいたとしても、なんとかして恋人の元へ行こうとする。
それは、恋人が男を待っていてくれるからだが、司は恋人にこれから行くとは伝えていない。
けれどオートロックではない古いマンションに住む恋人は、この時間になれば仕事を終え部屋に戻っているはずだ。
だから司は何の疑問も持たずマンションを訪れると、彼女の部屋のチャイムを鳴らした。
だが中から応答はなかった。



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2019
12.25

クリスマスの約束 <中編>

つくしはスーパーで買い物を終えると店を出たが雨は上がっていた。
だが店の前に置かれたプラスチック製のジンジャーブレッドマンとサンタクロースの頭上には傘が差しかけられていた。

仕事を終えた後の買い物はいつもと同じ。クリスマスだからといって特別な料理を作る予定はなく、冷蔵庫の中の足らない物を揃えるだけで、並べられていたケーキに手を伸ばすことはなかった。
それに今日は一日中忙しく働いて疲れていた。だから早く帰って休みたかった。

店内で流れていた音楽は恋人がサンタクロースという歌。
歌の主人公は、幼い頃隣に住んでいた女性との会話を振り返っていたが、大人になって女性が言った言葉の意味を理解するようになった。
そしてその歌には、背の高いサンタクロースは夜8時になればやって来ると言うが、つくしの恋人はニューヨークにいて今夜彼女の元を訪れることはない。
それにあれからいくつ冬が巡り来たか。ある日隣に住んでいた女性はサンタが遠い街へ連れて行ったきりで会うことはないと歌っていたが、つくしが恋人との間に巡った冬は12回。
そして恋を始めた頃、ふたりは何があっても必ず会う日を決めた。

それはクリスマスだが、その日が来るまでの間に会えるのは、恋人が仕事で東京を訪れるとき。それは慌ただしさの中であり、まともに会える時間はあまりなかった。真夜中の電話に慌てて飛び起きた回数は数知れなかった。
だが、学生だった頃のつくしは学生としての本分である勉強に力を入れていた。
だから駆け付けるような再会だったとしても寂しさというものを感じることはなかった。
やがて恋人の援助で大学に進学し就職したが、仕事を覚えることに懸命だった1年間と、そこから先の2年間は良い仕事をしたいという気負いがあり働きづめになった。
だが、それは相手も同じだったが、滅多に会えない恋人だとしても、いずれ結婚する。
そう思えばすぐに会えないニューヨークと東京の距離も気にならなかった。

だが今思えば、それは強がりだった自分がそう思おうとしていただけ。
決して自分では無理をしていた訳ではないが、甘えることが下手で意地っ張りな性格が両肩に力を入れていた。

そしてこの4年。互いに仕事は忙しかったが、以前に比べれば会える回数も増えた。
だがそれでも普通の恋人同士よりも少ないはずだ。だから会えばこれから先に過ごすであろう会えない時間を埋めるように愛しあった。
だが迷いではないが、今、心の中にあるのは、ふたりは結婚して上手くいくだろうかという思いだ。

社会に出て経験を積めば、それまで見えなかったものが鮮明に見えてくる。
社会人として、企業人としての意識を持てば、つくしはただの会社員で相手は日本を代表する企業の後継者であり世間から一目も二目も置かれる人間だ。
恋人である男の凄さは、つくしが働く会社の社内で言われるエリートのそれとは違い、超が付く一流という言葉で表される人物であることを改めて知った。

そしてつい最近もそれを実感させられたことがあった。
若くして副社長になった恋人は世界を相手に仕事をしているが、その中でも大きなプロジェクトを立て続けに成功させた。
そんな恋人に用意されている椅子は、努力すれば手に入れることが出来る椅子ではなく、恋人のためだけに用意されている特別な椅子。
その椅子に座る男性は世の中にある全ての物も、それにもしもだが望めばどんな女性も手に入ることが出来る。
それは仕事だと分かっていても、恋人の傍に立つ女性たちの彼を見つめる視線が男を見る目をしているから。
そしてつくしは、そんな女性たちに太刀打ちできるとは思わなかった。と、同時に今更ながら感じる立場の違い。
そして思うのは、そんな恋人に自分は似合う女になっているのだろうかということ。

だから、今年のクリスマス。東京に来ることが出来ない恋人からニューヨークに来て欲しいと言われたとき、無理をすれば行くことも出来たが、平日で仕事だし、突然休むと迷惑がかかるからと言った。
付き合い始めてから会わないクリスマスは初めてだったが、心に湧き上がった何かが時間を求めていた。



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2019
12.26

クリスマスの約束 <後編>

つくしは自宅へ帰る途中で、すれ違った若い女性が近くの洋菓子店の名前が入った紙袋を手にしているのを見た。
気付けば街のあちこちに同じような袋を持った人間が大勢いたが、今日はクリスマスイブだ。1年で一番ケーキが売れる日だ。だからその光景は当たり前の光景。そして去年までは、つくしも同じようにケーキが入った紙袋を手にしていた。

普段甘いものを食べない恋人も、この日だけは世間の恋人同士がクリスマスイブを過ごすように過ごしたいと言った。だから毎年ケーキを用意していたが、結局ケーキは何日もかけてつくしが食べる羽目になっていた。
けれど、今年はひとりであの大きさのケーキを食べる勇気はない。
だからと言ってひとりで食べられるサイズのケーキに目をくれることはなかった。
だからエコバッグの中に入っているのはクリスマスの欠片も感じられない食べ物だ。

10分程歩くとマンションに着いた。
郵便ポストの鍵を開けダイレクトメールを取り出し鞄に入れた。
ひとり暮らしを始めるにあたって、このマンションを選んだのは、古い建物でオートロックではないことから家賃が安かったからだ。
だが恋人はこんな古いマンションに住む必要はないと反対した。自分名義のマンションがある。だからそこで生活すればいいと言った。
それなら家賃は幾ら?と訊けば恋人から家賃を取る男がどこにいる?と言われたが、つくしの性分としては、大学に進学する費用を援助してもらった以上に恋人に甘えることは出来なかった。

エレベーターに乗り、そして降りた。
エレベーターホールから廊下を自分の部屋に向かって歩きながら、鍵を出そうとした時だった。スーツに黒いコートを着た男が、ポケットに両手を突っ込んだ状態で扉のすぐ傍の壁に背中をもたせかけた状態でいるのが見え足が止まった。だが、男が誰であるかすぐに分かった。


「え?….道明寺?」

癖のある黒髪と鋭い瞳を持つ恋人の視線はまっすぐつくしを見ていたが、無言のその表情が何を現わしているのかと言えば、どういう訳かそれは怒りであり、背中を壁から離した男は、つくしの前まで歩いて来ると彼女を見下ろしていた。
それにしても何故ニューヨークにいるはずの恋人が東京にいるのか。
一番に思うのはそのこと。だからこの状況に戸惑いながらつくしは訊いた。

「アンタ、どうしたの?なんでここにいるの?」

「おい。アンタじゃねえだろうが。何フラフラしてんだ?仕事はとっくに終わってんだろうが。それに幾ら携帯にかけても出やしねえし、お前俺のことを無視してんのか?」

と、つくしの質問に答えることなく言われたが、携帯電話が鳴った覚えはない。だから慌てて鞄の中から電話を取り出して見たが確かに着信がある。それも沢山。でも鳴らなかった。

「マナーモードにしてんじゃねえのか?」

携帯電話を見つめる女に男は苛立った様子で言った。

「あ….」

会社では鞄を足元に置いていて、マナーモードにしているが退社してもそのままにしていた。

「そんなことだろうと思った」
恋人は呆れたように言ったが、視線は依然として鋭かった。
だから、「ご、ゴメン」と謝ったが、そう言ったところで、頭の中にあるのは今年のクリスマスは会えないと言った恋人が何故ここにいるのかということだ。
だからその疑問を晴らそうと「なんで__」と、言いかけたところで目の前に立つ男は、つくしの手からエコバッグを奪い取ると「寒いから中に入れてくれ」と言った。













つくしは食器棚の扉を開けてコーヒーカップを取り出した。
いくら建物の中だとは言え、壁で囲われていない廊下は寒い。きっと身体が冷えているはずだ。だから恋人には温かい飲み物が必要だ。

「寒かったでしょ?コーヒー淹れるから適当に座って待ってて。それでいつ着いたの?」

つくしは、恋人のために普段飲むインスタントではなく、ドリップされたコーヒーを淹れる準備をしながら背後から聞こえる声を待った。
だが返事はなく、ただ感じられるのは恋人の機嫌は悪いということ。
そして怒っているということ。
だがマナーモードにしたままの携帯に出なかったからといって、機嫌を悪くされたのではたまらなかった。
だから、もう一度訊こうとしたが、その時声が聞こえた。

「いつ着いたか?それは東京にか?それともここにか?東京には2時間前に着いた。ここには1時間前だ」

と、答えた声はやはり怒っていたが、それは1時間も待たせたからなのか。
それとも恋人が言うところのフラフラしていたことに対してなのか。
携帯に出なかったことは悪かったと思っているが、何もそんなに怒らなくてもいいはずだ。
第一、つくしは恋人が日本に、東京に、自分の部屋の前にいるなど思いもしなかった。
だから故意に待たせたのではない。それにフラフラしていた訳でもない。
だから負けじと「ねえ。何そんなに怒ってるのよ?あたしの帰りが遅いって言うけど買い物してたんだから仕方がないでしょ?それにアンタが急にここに現れるなんて思いもしないんだもの。来るなら来るって連絡してくれてもいいでしょ?」と言って返事を待った。
だが返事はない。
だが携帯にあれだけ沢山の着信があるということは、連絡をしていたということだ。
だから今の言い方は悪かったと反省した。
そしてコーヒーメーカーをセットすると恋人と対峙するため振り返えろうとしたところで首筋に息を感じ後ろからそっと抱きしめられた。

「わかってる。俺はお前がフラフラしてたなんて思ってねえよ」

その声は、柔らかく世の中の女性を陶然とさせると言われる低い声。
だが愛を囁く時の恋人の声はもっと柔らかい。
そして抱きしめる腕は今よりも力強かった。
だがつくしは、そんな思いを頭の中から振り払った。

今思うのは、何故日本に来れないと言った恋人がここにいるのかということ。
それに今のつくしはふたりの関係に悩んでいた。長い交際期間を経て湧き上がる思いは、もしかすると自分は彼に似合わないのではないかという思い。
それは、これまでもあった思いだが、これまで以上に恋人が広い世界で活躍する姿に自分が置き去りにされたように感じていた。
だがそれは、恋人とは対等でいたいと言った自分の言葉に囚われすぎなのかもしれない。
だがそのことを別としても、当の本人の突然の訪問に何故という思いを抱いているのに、帰りが遅い。電話に出なかったと怒られているという理不尽さにムッとしたのも事実だ。
だがそれと相反するように背後から抱きしめてきた恋人の身体の大きさに、その腕の温もりに自分の身体を預けてしまいたい気持ちになっていた。
だから背中に恋人の温もりを感じながら、「それなら何で怒ってるのよ?」と思いをぶつけた。

「怒ってねえよ」

「嘘。怒ってるわよ!来るそうそう怒ったじゃない。人のことを糸が切れた凧みたいに言ったじゃない!」

「わかってる」

「何がわかってるのよ?」

「どうしようもねえんだよ」

「何がどうしようもないのよ?」

ふたりは久し振りに会ったというのに甘い言葉を交わすことが出来なかった。
だが司は彼女を責めるためにここにいるのではない。
言いたいことは別にあった。だから意を決すると口を開いた。

「それはお前と離れていることに俺は耐えられなくなったってことだ。今日だって日本に帰って来て何をおいてもお前に会いたくてここに来た。それなのにお前はいない。
それに今年は仕事の都合で日本に帰って来ることが出来ないと思った。だからお前にニューヨークに来て欲しいと言った。だがお前の態度はそっけなかった。それが俺の心の中に苛立ちを感じさせた。けどそれはお前に対してじゃない。いつまでもお前を待たせている俺自身に対して苛立った。約束だけで実行に移せない結婚にだ。俺が今日ここに来たのは、お前に結婚してくれと言うためだ」

司は背後から抱きしめた恋人の表情を見ることは出来なかった。
だが、結婚という言葉に彼女の身体が微かにだが震えたのを感じていた。
だから抱きしめた腕に力を込めた。

「長い間待たせた。不安にさせて悪かった。傍にいて欲しいこともあったはずだ。守って欲しいと思ったこともあったはずだ。だが俺はお前の傍にいることが出来なかった。けどこれから先はお前がうんざりするほど傍にいてやる。だから今すぐにでも俺と結婚してくれ」

恋人と出会うまでの司は、何をするにも相手の意思確認なんぞ時間の無駄だと考えていた。
だから初対面の人間をいきなり殴ることもあったが、彼女に出会って変わった。
だが金にものを言わせたことがあった。けれど迫って力づくで落とすことが出来ない女は、優柔不断で恥ずかしがりやの女だった。
そして今この腕に抱きしめているのは、結婚に対して何らかの迷いがある女だ。
意地っ張りの女は時に心が揺れる。揺れて自信を無くして落ち込むことがある。
だが意地っ張り故にそのことを司に伝えることは無かった。

「牧野つくし。お前は自分に自信を持て。お前は世界中で唯一俺が認めた女だ。俺に似合う女はお前以外いねえんだよ。だから何か悩んでいるとしても、その悩みはすぐに悩みじゃなくなる。何しろお前は明日には牧野つくしから道明寺つくしになる。これは決定事項だ。考えてる時間はお前にはない。それに俺はもうこれ以上俺の目の届かない場所にお前を置いとけねえんだ」

司はそこまで言うと、後ろから抱きしめていた恋人の身体を自分の方へ向けた。
そして自分を見つめる女に言った。

「牧野つくし。道明寺つくしになってくれるよな?」

司は恋人の返事を待ちながら遠い昔のことを思い出していた。
それは恋人が司に嘘をついて去った日のこと。
あれは激しい雨が降る日だった。傘をさすことなく道端に佇んでいた女は寒さで震えていた。そして司は女の嘘を見破ることが出来ずに非難した。
だが今の司はあの頃とは違う。
何があっても彼女を離さないと決めていた。自分が彼女を守ると決めている。
それにもし今外が雨で、びしょ濡れになるなら二人して全力で雨を楽しめばいい。
傘がなくても手を繋いで歩ければそれでいいと思っている。
だから黙ったままの恋人に、自分に付いて来て欲しいという思いを込めて言った。

「イエスの生まれた日にノーの返事を受け入れることは出来ねえ。だから返事はイエスだ。以上が俺からお前に言いたかったことだ」

つくしの恋人はいつも率直な言葉で彼女の疑問に答えてきた。
つまりその言葉は心の中にある嘘偽りのない言葉だということは分かる。
それに言い出したら訊かない男だということも知っている。
だからつくしは恋人の一方的なその言葉に微笑んだが、その微笑みの意味はイエス。
それを見た恋人は、唇の両端を上げた。そして親指で恋人の顎を優しく押し上げると唇を重ねた。
















「ねえ。どこに行くの?」

「どこだと思う?」

「さあ….」

司は恋人を車に乗せると運転手に指示をしたが、これから二人が向かうのは初めてのデートで待ち合わせに指定した場所。
恵比寿ガーデンプレイス。時計広場。
あの日。司は初めてのデートに遅れるわけにはいかないと随分と早くあの場所にいた。
そして彼女を待ったが、彼女は指定した時間に現れることがなかった。
やがて現れた彼女は、本当は来たくなかったといった態度だった。

車が停車して降りた場所には大勢の人間がいて、思い思いにクリスマスイルミネーションを楽しんでいるが、こうしてふたりで思い出の場所で手を繋いでいることが司にとっての幸せだ。

それに今日は年に一度この日だけは必ず会おうと決めたイエス・キリストの誕生を祝うクリスマス。
だが来年のクリスマスは、いや。これから先のクリスマスは司がどこにいたとしても、彼の傍には妻となった女性がいてくれる。
それに来年のクリスマスは、もしかすると二人だけのクリスマスではないかもしれない。
いや。もしかするとではない。何しろ司に人生の辞書に仮定の文字はないのだから。
だから来年のクリスマスに司が妻から受け取る贈り物は、司の人生で最高のクリスマスプレゼントになるはずだ。




< 完 > *クリスマスの約束*
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