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2019
12.22

金持ちの御曹司~Unstoppable~

8000万の特別仕様のロールスロイス、ファントムに乗って恋人を迎えに来た男の趣味は牧野で口癖は牧野。
ノーマキノ。ノーライフ。
つまり男にとって生きがいは牧野つくし。
そして、顔面偏差値が非常に高い男は恋人に対してだけ純粋と誠実を持ち合わせていると言われているが、男には世界の中心で愛を叫ぶ前にやらなきゃならないことがあった。

それは今日これから中山競馬場で行われる日本競馬の大一番と言われるレース、有馬記念に出る持ち馬を応援することだ。
レースの1着賞金は日本最高額の3億円。
だが司にとって3億ははした金でどうでもよかった。

馬は引退して北海道の牧場で余生を送る絶対女王と呼ばれていたツクシハニーと、黒い弾丸と呼ばれたツカサブラックの間に生まれた牝馬。
『天皇賞・秋』を断トツぶっちぎりのスピードで芝を駆け抜けて1着になった馬。
エリザベス女王の名を頂く最高の女性を決める闘いも勝った馬の名はチョコレートハニー。 
母馬の名前からのハニーと、黒鹿毛である身体の色がビターチョコレートを連想させるということからその名前を付けたのは司の恋人だが、馬はふたりにとって子供のような存在だ。

通算成績7戦6勝。
騎手は武富 豊。
レーススタイルは母馬であるツクシハニーに似て後方待機から追い上げるスタイル。
それは優れた瞬発力とスピードを持つチョコレートハニーらしい走りだが、パドックにいるチョコレートハニーは司と恋人に名前を呼ばれると首を上下させて近づいて来た。
そしてふたりを見つめ嬉しそうに鼻を鳴らした。

「チョコレートハニー。どうだ?今日の調子は?」

司が言うとチョコレートハニーは言葉が分かるとでもいうのか。
「とってもいいわ」とでも言うように嘶いた。

「そうか。調子がいいか。それなら今日のレースは間違いなくお前が優勝だ」

そして司は恋人と一緒にチョコレートハニーの鼻づらを撫でていたが、その時、後ろから名前を呼ばれ振り向いた。

「司。牧野」

声をかけてきたのは花沢類。

「え?花沢類どうしたの?」

「驚いた?実はさ。俺今年亡くなった伯父が所有していた馬を譲り受けて馬主になったんだけど、今日その馬が走るんだ」

類は今年になって馬主になった。
だがそれは本人が口にしたように類の亡くなった伯父が所有していた馬を譲り受けたに過ぎず、類は馬に興味がない男だ。
それでも、何故かこのレースには力を入れているように思えた。
そして類は司の隣に立つつくしに言った。

「牧野。このレースはうちの馬が勝つ。だからうちの馬が勝ったら表彰式では俺の隣に立って欲しいんだ。栄誉を俺と一緒に受けて欲しい」

類はそう言ってつくしを見つめたが、それを快く思わない司は類に詰め寄った。

「おい類!何アホなことを言ってる?牧野は俺のパートナーとしてここに来てるんだ。
それに今日勝つのはうちの馬だ。チョコレートハニーはツクシハニーとツカサブラックの間に出来た馬だ。つくしと俺の名前が付けられた馬の子供だ。お前のところのハナザワチャンプとは違う。それに何だよ。その名前は!たいして強くもねえのにチャンプだと?図々しいにもほどがある!」

司が言ったようにハナザワチャンプの今年の成績はチョコレートハニーよりも下であり、シーズンの成績はいいとは言えなかった。

「司のケチ。だって俺パートナーいなんだよ?だからうちの馬が勝ったら牧野貸してよ」

「ダメだ!ダメだ!絶対ダメだ!お前と牧野が一緒に並んでるところがテレビで放送されてみろ!世間は誤解するだろうが!」

それは、類の傍に立つ恋人が司ではなく類の恋人だと誤解されるということ。

「でもさ、司。牧野は気にしてないと思うよ。俺と牧野はただの友人であってそれ以上じゃないんだしさ。それからハナザワチャンプだけどこの名前は亡くなった伯父が気に入って付けた名前で俺が付けた名前じゃないよ。でもさ。俺ずっと思ってた。牧野の名前が付いたツクシハニーは性格もいい可愛らしい馬だったってね。けどツカサブラックって司が牧野に出会う前のお前の性格そのものだよね?ホント、司の性格は真っ黒だったから。俺マジでお前の将来を心配した。だって牧野に出会う前のお前は人ひとり殺しても平気な顔してそうだったからさ」

類は言うと、「ね?牧野?」と笑った。

「うるせえ!今がいいなら昔のことはどうでもいいんだよ!とにかく今日のこのレースはうちのチョコレートハニーが勝つに決まってる。だから牧野がお前の隣に立つことは絶対にない」

司は恋人に向かってほほ笑みを浮かべた類が気に入らなかった。
だからそのほほ笑みから恋人を守るように彼女の肩を抱き引き寄せた。

「そんなの分かんないだろ?勝負はやってみなきゃ分かんないんだよ、司」

「類。お前、随分と生意気な口を利くが、それは自信があるってことか?」

類は司に対して不遜な態度を取るが、それは余程自信があるということなのか。 

「うん。そうなんだ。実は自信があるだ。今年のハナザワチャンプだけど春は無理をせず秋に備えたローテーションを組んでた。だから春先はあまりレースに出さなかったけど、それは秋のレースに勝つため。それから冬もね。だから今日のレースはハナザワチャンプが1着だよ」

類はそう言って司からつくしに視線を向けた。

「ねえ。牧野。だからもし俺の馬が勝ったら表彰式。隣に並んでくれない?」

司は類の挑戦的な態度にやれるもんならやってみろという気になっていた。
だから、「いいだろう。ハナザワチャンプが勝ったら表彰式で牧野を隣に立たせてもいい」と言った。

そして司は恋人と貴賓室に戻りレースを観戦したが、その結果に呆然とした。
それは審議ランプが点灯したから。
やがて審議の結果が出たが、鼻差で1着がハナザワチャンプ。2着がチョコレートハニーという信じられない結果が出た。

「おい。嘘だろ?なんで類の馬が1着なんだ!もう一度よく確かめろ!審議しなおせ!」

司はそう訴えたが、いくら道明寺司の訴えでもこればかりは変わることがないレースの結果。
だから司の恋人は表彰式で類の隣に立ち祝福を受けていた。
そしてあろうことか類はつくしの肩を抱き、司会者から差し出されたマイクに向かって「隣にいる女性は高校生の頃から好きだった女性です。このレースでうちの馬が勝ったら思いを伝えようと思っていました。だからここで思いを伝えたいと思います。牧野。俺と結婚して?」と愛を叫んだ。

司は慌てた。
その言葉は本来あの場所で司が言うべき言葉。
そして表彰台の上で見つめ合うふたりの傍に駆け寄ろうとした。
だが警備員らに行く手を阻まれ二人の傍に近寄ることが出来なかった。
だからその場で叫んだ。

「牧野!離れろ!類から離れるんだ!それに類!この野郎!お前はまだ牧野のことが好きだったのか!?」

だが、そんな司の叫びを無視するように恋人は類の熱い口づけを受け入れ、
「花沢類…..。あたし嬉しい。喜んで結婚するわ。実はあたし道明寺より類のことが好きだったの」と言った。

「嘘だろ?牧野!何言ってんだ!お前は俺のことを好きだ。愛してるって言ったじゃねえか!」

「ごめんね、道明寺。あたし心の中に類のことがずっとあったの。だからあたしのことは忘れて?」

「嫌だ!俺はお前のことを忘れることは出来ねえ!俺はお前を愛してるんだ!牧野!
俺はお前がいないと生きていけない!お前のためならどんなことでも出来る!だから頼む!俺を捨てないでくれ!」

司は警備員に行く手を阻まれながら叫んだ。
けれど恋人は類と一緒にハナザワチャンプの優勝トロフィーを受け取った。
そして恋人は類が用意していた指輪を受け取っていたが、その光景はピサの斜塔の最上階で司が恋人に婚約指輪を嵌めた時の光景と同じに見えたが、それはまさに悪夢だ。

「牧野――――っ!!」














「道明寺?ねえ起きて?そろそろチョコレートハニーが走るわよ?」

「……..」

「大丈夫?ここのところ忙しかったから疲れたのね?寝不足なんじゃない?」

そう言われた司が眠りから目覚めた場所は競馬場の貴賓室のソファの上。
そこに類の姿はなく、いるのは恋人だけ。

「牧野……」

「ん?なに?」

司は恋人の顔をマジマジと見つめながら思った。
類に恋人を奪われるなんて、こんなおかしな夢を見るなら寝ない方がいい。
一生眠らなくてもいい。
幸せな不眠状態でいる方がよっぽどマシだ。

「牧野」

「だから何?」

「お前。類のことをどう思う?」

「はあ?何それ?」

「だから類のことをどう思うって訊いてる」

「道明寺…..。もういい加減にして!今まで何回それを訊いたのよ?あたしは花沢類のことは友達だと思ってる。それ以上の関係になることを望んだことはないわ」

恋人は呆れたように言ってから笑うと「コーヒー淹れるね?」と言って背を向けた。
司は彼女が言った通り類は友人であり、自分以外の男を愛しているとは思ってない。
けれども、時に彼女の愛を疑うではないが、心の奥に別の男がいるのではないかと在らぬ不安に襲われることがあった。
それは、彼女が男にモテるからだ。
司が世界中で唯一認めた女は大人になっていい女になった。だから時に会社の人間に食事に誘われたと訊けば、誘った男を海外に飛ばすことになるが、とにかく恋人はモテる女になった。だからいつも彼女のことが気になって仕方がなかった。

かつて司はどんなに無視されても、シカトされても自分よりも彼女を優先した。
そんな司は多くの女を祈る気持ちにさせるが、司が祈るのは彼女の幸せ。
だから司にとって牧野つくしは宗教。
そしてそんな男が一番好きなのは彼女が自分の前で笑っている姿だ。
彼女の笑顔が司の心を満たしてくれる。


「牧野。こっちに来い」

「え?」

司に呼ばれた恋人はコーヒーを淹れる手を止め振り返った。

「なに?コーヒーじゃないものがいいの?」

「コーヒーは後でいい。だからこっちに来い」

「だからって何でよ?」

「いいからこっちに来い」

「だから何でよ?」

「何でって理由がなかったら呼んだらダメか?俺はお前を抱きしめたい。お前にキスしたいんだ」

そう言った男は、いつもなら自分から恋人に近づいていた。
だが今はソファにいる司のもとへ彼女から近づいてきて欲しかった。
彼女から抱きしめて欲しかった。
彼女からキスをしてもらいたかった。
高校生の頃。司のマフラーに手をかけ引き寄せ、ぎこちなくキスした時のように。

恋人は暫くじっと彼を見ていた。
だが静かに近づいてくると、司が腰を下ろしているソファの前にしゃがんだ。
そしてゆっくりと唇を重ねた。












司は今年一年を振り返った。
今年も牧野最高で始まったが、牧野との絆を深め、牧野のヤバサを知り、牧野に愛を誓い、牧野への妄想が悪化し、牧野に振り回された一年だった。
いや。正確に言えば、司が勝手に牧野つくしに対する思いに振り回されたと言った方が正しかった。
そして年の最後は牧野フィーバーだ。
何しろ今日のレースは、牧野つくしと道明寺司の名前を頂いた馬が産んだ牝馬が1着になることは間違いないのだから。
そして来年も司が恋人を愛する気持ちはアンストッパブル。
それは、これから先も司が彼女を愛することを止めないということ。
だから言った。

「牧野。もう一回キスしてくれ」




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