こちらのお話は『七夕の夜に~続・理想の恋の見つけ方~』の続編です。
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「ねえお父さん、どうして、ちりめんじゃこはイワシになれなかったの?」
「は?」
「だから、このちりめんじゃこはイワシになれなかったからこんな形で僕たちに食べられてるってことだよね?」
司は我が子が何を言いたいのか理解出来ずにいた。
息子の前にあるのは皿にこんもりと盛られた京都土産のちりめん山椒。
それは総二郎が京都での茶会へ出向いた時に購入したもので漬物と一緒に届けられた。
司の息子の航(わたる)は英徳学園初等部の4年生になった。
そして夏休みに入った我が子には宿題として自由研究というものがあった。
だが司が初等部時代にそんな宿題があったのかと言えば無かったはずだ。
「そんなはずないでしょ?それは司が宿題をしなかっただけであったはずよ?だって小学生の自由研究は子供の自主性を高めるためにあるのよ。それに問題を解決する能力を育てるためにあるのよ?だから司が英徳に通っていた頃も絶対にあったはずよ?」
と海洋生物学者の妻は言った。
だから司の時代にもあったかもしれない自由研究という名の宿題。
だがそれはとてもメンドクサそうに思えたが、そんなことは口にしなかった。
何しろ我が子は母親に似て頭がいい。と、いうよりも拘りのものを見つけるとトコトン追求するタイプということ。
そして母親が海洋生物学者ということもあり、幼い頃から生き物に対して高い関心を持ち、幼稚舎時代は特にアマガエルに興味を抱き、庭にいるそのカエルを捕まえる手伝いをさせられ、大人になったらクワガタになると言って司を笑わせた。
だからイワシに興味を持ったとしても分かるのだが、そんな我が子が夏休みの自由研究のテーマに選んだのは、自然や環境問題でもなければ、魚のことでも科学的なことでもない。
それに「何故このちりめんじゃこはイワシになれなかったのか?」でもない。
それなら息子が決めた夏休みの自由研究は何なのかといえば、それは『イケメンは年を取ってもイケメンか?』ということ。
そしてその研究対象は父親である司だと言った。
司は幼い頃はかわいいと言われ、やがて成長していくにつれ、誉め言葉は、かわいいからカッコイイへと変化した。
そして中等部に入学する頃には、いい男の代表格だと言われ女に嫌というほどモテたが、女はバカで醜い生き物であり興味がなかった。
だが生理的なことから女性遍歴を重ねた後、最愛の人に出会ったが、その人は司のイケメン具合に興味はない学者だった。
やがて二人は結婚して男の子と女の子を授かった。
そのうちの男の子の方がとにかく人と違った視点で物事を見る。
だからなのか。『イケメンは年を取ってもイケメンか?』という人間観察を自由研究のテーマに選んだ。
だがそのテーマの研究は長い期間を要するものであり、とても夏休みの間だけで済まされるものではない。それに司はまだ40代であり年を取ったとは考えていない。
けれど、我が子にしてみれば40代の父親は年を取っているということなのか。
それにしても、まさか我が子にイケメンと思われているとは思わなかったが、確かに我が子は小さい頃、父親である司のことを「パパはカッコいい」と言っていた。
だがそれは幼い子供なら父親が一番であるということから思うことだ。
だから何をもって司をイケメンと思うのかを訊くことにした。
「航。父さんのことをイケメンだと思うのか?でもどうしてそう思うんだ?」
「う~ん。僕は正直なところお父さんがイケメンかどうかは分かんない。でもみんながそう言うからそうなんだろうなって。だって美穂ちゃんや理奈ちゃんがお父さんのことをイケメンだって言うし、先生もお父様はイケメンねって言ったよ?」
美穂ちゃんや理奈ちゃんというのは、恐らく同じクラスの女の子で先生はクラス担任。
「だから僕はお父さんが子供の頃からイケメンだったか知りたいと思ったんだ。ねえ。だからお父さんが赤ちゃんの頃の写真を見せてよ。それから幼稚舎に入ってからと初等部のも。それから中等部と高等部と大学のもね?あ!それからお母さんと出会った頃の写真もね!」
そう言われたが司は写真に撮られることが嫌いだった。
だから写真として存在しているのは、幼稚舎と初等部の低学年の頃の写真だけで、中等部、高等部の写真はなく、あるとすれば隠し撮りされたもの。
そして大学はアメリカであり、そこから妻と出会うまで写真と呼ばれるもので辛うじてあるとすれば週刊誌に載った写真。
だがその写真は粒子が荒く、ましてやスキャンダルに満ちた記事に使われている写真であり子供に見せたいと思うような写真ではなかった。
だから困った。
そして親になるということは、自分の過去にも責任を持たなければならないことを感じていた。
それにしても、まさか子供に若い頃の写真が見たいと言われるとは思いもしなかった。
だからなんとかしなければと思考を巡らせた。

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「ねえお父さん、どうして、ちりめんじゃこはイワシになれなかったの?」
「は?」
「だから、このちりめんじゃこはイワシになれなかったからこんな形で僕たちに食べられてるってことだよね?」
司は我が子が何を言いたいのか理解出来ずにいた。
息子の前にあるのは皿にこんもりと盛られた京都土産のちりめん山椒。
それは総二郎が京都での茶会へ出向いた時に購入したもので漬物と一緒に届けられた。
司の息子の航(わたる)は英徳学園初等部の4年生になった。
そして夏休みに入った我が子には宿題として自由研究というものがあった。
だが司が初等部時代にそんな宿題があったのかと言えば無かったはずだ。
「そんなはずないでしょ?それは司が宿題をしなかっただけであったはずよ?だって小学生の自由研究は子供の自主性を高めるためにあるのよ。それに問題を解決する能力を育てるためにあるのよ?だから司が英徳に通っていた頃も絶対にあったはずよ?」
と海洋生物学者の妻は言った。
だから司の時代にもあったかもしれない自由研究という名の宿題。
だがそれはとてもメンドクサそうに思えたが、そんなことは口にしなかった。
何しろ我が子は母親に似て頭がいい。と、いうよりも拘りのものを見つけるとトコトン追求するタイプということ。
そして母親が海洋生物学者ということもあり、幼い頃から生き物に対して高い関心を持ち、幼稚舎時代は特にアマガエルに興味を抱き、庭にいるそのカエルを捕まえる手伝いをさせられ、大人になったらクワガタになると言って司を笑わせた。
だからイワシに興味を持ったとしても分かるのだが、そんな我が子が夏休みの自由研究のテーマに選んだのは、自然や環境問題でもなければ、魚のことでも科学的なことでもない。
それに「何故このちりめんじゃこはイワシになれなかったのか?」でもない。
それなら息子が決めた夏休みの自由研究は何なのかといえば、それは『イケメンは年を取ってもイケメンか?』ということ。
そしてその研究対象は父親である司だと言った。
司は幼い頃はかわいいと言われ、やがて成長していくにつれ、誉め言葉は、かわいいからカッコイイへと変化した。
そして中等部に入学する頃には、いい男の代表格だと言われ女に嫌というほどモテたが、女はバカで醜い生き物であり興味がなかった。
だが生理的なことから女性遍歴を重ねた後、最愛の人に出会ったが、その人は司のイケメン具合に興味はない学者だった。
やがて二人は結婚して男の子と女の子を授かった。
そのうちの男の子の方がとにかく人と違った視点で物事を見る。
だからなのか。『イケメンは年を取ってもイケメンか?』という人間観察を自由研究のテーマに選んだ。
だがそのテーマの研究は長い期間を要するものであり、とても夏休みの間だけで済まされるものではない。それに司はまだ40代であり年を取ったとは考えていない。
けれど、我が子にしてみれば40代の父親は年を取っているということなのか。
それにしても、まさか我が子にイケメンと思われているとは思わなかったが、確かに我が子は小さい頃、父親である司のことを「パパはカッコいい」と言っていた。
だがそれは幼い子供なら父親が一番であるということから思うことだ。
だから何をもって司をイケメンと思うのかを訊くことにした。
「航。父さんのことをイケメンだと思うのか?でもどうしてそう思うんだ?」
「う~ん。僕は正直なところお父さんがイケメンかどうかは分かんない。でもみんながそう言うからそうなんだろうなって。だって美穂ちゃんや理奈ちゃんがお父さんのことをイケメンだって言うし、先生もお父様はイケメンねって言ったよ?」
美穂ちゃんや理奈ちゃんというのは、恐らく同じクラスの女の子で先生はクラス担任。
「だから僕はお父さんが子供の頃からイケメンだったか知りたいと思ったんだ。ねえ。だからお父さんが赤ちゃんの頃の写真を見せてよ。それから幼稚舎に入ってからと初等部のも。それから中等部と高等部と大学のもね?あ!それからお母さんと出会った頃の写真もね!」
そう言われたが司は写真に撮られることが嫌いだった。
だから写真として存在しているのは、幼稚舎と初等部の低学年の頃の写真だけで、中等部、高等部の写真はなく、あるとすれば隠し撮りされたもの。
そして大学はアメリカであり、そこから妻と出会うまで写真と呼ばれるもので辛うじてあるとすれば週刊誌に載った写真。
だがその写真は粒子が荒く、ましてやスキャンダルに満ちた記事に使われている写真であり子供に見せたいと思うような写真ではなかった。
だから困った。
そして親になるということは、自分の過去にも責任を持たなければならないことを感じていた。
それにしても、まさか子供に若い頃の写真が見たいと言われるとは思いもしなかった。
だからなんとかしなければと思考を巡らせた。

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『イケメンは年を取ってもイケメンか?』という夏休みの自由研究のため司が我が子からお願いされたのは子供時代の写真が見たいということ。
厳密に言えば中等部と高等部の頃の写真。
だがその頃の司は写真を撮られることを嫌った。だから当時の写真と言われてもなかった。
だからどうすればいいか思考を巡らせた結果、思い付いたのは、英徳の制服を着て写真を撮り、若く見えるように加工するということだ。
「司。事情は分かった。それならお前だけ制服を着て写ればいいだろ?それなのになんで俺らまで制服を着なきゃなんねぇんだ?」
あきらと総二郎は司から航のことで緊急事態だと電話を貰い、それぞれの仕事を抜け出し急いで駆け付けたのは写真スタジオ。
そんな二人の前にあるラックには英徳学園の制服が掛けられていた。
「なんでってお前ら航がかわいくねぇのかよ?」
「司。航がかわいくねぇのかって言われれば航はかわいいぞ?けどなんで俺らまで英徳の制服を着さされるのか。その理由が分かんねぇだけど?」
「だから俺ひとりが写った写真よりお前らが一緒に写ってる方が自然だろうが」
「いや。写真スタジオで撮ること自体が不自然だと思うぞ。それに航はお前の中学高校時代の写真が見たいんだろ?それならお前だけが制服を着て写真に収まればいい話であってなんで俺らまで制服を着る必要があるのかって話だ。それに百歩譲って制服を着て写真を撮るにしても、俺らは制服を着て学園に通ったことはなかったぞ?それなのになんで制服を着なきゃなんねえんだ?なあ総二郎?」
あきらは、そう言って隣に立つ総二郎を見た。
「本当だぜ。司は親バカだとは思ってたが、何もこんなことまでする必要ねぇだろ?航には正直に話せ。お前のお父さんは大の写真嫌いでまともな写真は一枚もないってな。
それにお前のお父さんは制服を着て学園に通うようなまともな人間じゃなかった。いや。それ以前にまともに通ったことがない。それに他の生徒と目が合っただけでそいつを殴るような男で学園の支配者と呼ばれた恐ろしい男だったってな」
総二郎はそう言ってあきらに同調した。
「バカなことを言うな。航にそんなことが言えるか!いいから総二郎もあきらも着替えてポーズを決めろ!」
司はそう言ってスーツの上着を脱ぎネクタイを外した。
「いやだがな司。何が嬉しくて四十を過ぎたおっさんが高校の制服を着なきゃなんねぇんだよ?大体ポーズを決めるってどんなポーズを取れっていうんだよ?それに高校生のフリをするなら別に私服でもかまわねぇだろ?それを修正でも加工でもすりゃあ済む話だろ?」
と、そこまで言ったあきらは、司の眼が恐ろしいほど真剣で、これ以上断れば目の前の男が無理矢理服を脱がせるという暴挙に出る気配を感じ取った。
何しろ親バカ司は我が子のお願いに弱い。そしてこれが夏休みの宿題である自由研究のためだと言われれば、分かった。と返事をする以外なかったことをあきらは理解していた。
それに父親が少年時代まともに学校にも通わない男だったと知ることは、今後の息子の成長に何某かの影響を与えることになるのではないか。そう考えているのがヒシヒシと伝わってきた。
だから高校生らしくきちんと制服を着た姿の写真を我が子に見せたいという思いも分かるような気がした。
それにあきらは、まともに結婚するとは思わなかった男の結婚と子育てを祝福した手前、嫌とは言えない部分もあった。
「ああ、もう分かった!分かった!しょうがねぇなあ着ればいいんだろうが!着れば!」
「おい、あきら。お前本気で言ってるのか?コスプレじゃあるまいし、この年になって英徳の制服を着るってのは_」
そこまで言った総二郎も司の鋭い眼光に「仕方ねぇな。航のためだ。着てやるよ。ただしカッコよく撮ってくれよ?それからこの写真は絶対に世間には公表するな」と渋々だが同意した。
「ねえねえ。お父さんの中等部と高等部の頃って今とあまり変わらないね?それに総二郎おじさんとあきらおじさんも今と同じだね?」
「そうか?」
「うん!お父さんもおじさんたちも全然年取ってないよね?それにお父さんって、やっぱりみんなが言うとおりでイケメンだよね?それに僕思ったよ。イケメンって呼ばれる人は子供の頃からイケメンなんだね?」
父と子は写真を見ながらごく普通に話をしているが、写真の中にいる四十を過ぎた三人の男達の顔は不自然に笑っていた。
そして、これまでの事情を知る母親は二人の話を訊きながら苦笑いを浮かべていた。
だが司は我が子が父親を尊敬したような眼で見つめる姿に頬を緩めていた。
「あ!そう言えば今日パリにいる類おじさんから手紙が届いたんだ。僕ね、類おじさんにおじさんの中学生の頃の写真が見たいって手紙を書いたんだ。だから類おじさん写真を送ってきれくれたんだと思うんだ」
司は我が子のその言葉に緩んでいた表情が引き締まった。
「航。その手紙はどこにある?」
「え?僕の部屋にあるよ?」
司はそこで立ち上がると、ちょっとトイレに行ってくる。と言って部屋を出ると走って航の部屋へ向かうと扉を開けた。
そして我が子の机の上に置かれている開封前の手紙を手に取った。
宛名は道明寺航様。
差出人は花沢類。
それを見た司は封を切ろうとした。だがこれは私信であり親とは言え我が子宛に届いた手紙を勝手に開けることは出来なかった。
だからその手紙を手に急いで航の元に戻ると、「航。類からの手紙。開けてみないか?父さんも類の写真が見たいんだ」
そう言ったのは、実は嫌な予感がしたからだ。
何しろ類は悪戯好きで司が慌てるところを見るのが好きな悪魔のような男だ。
だからこの封筒の中には類の写真だけではなく、自分が知らないうちに撮られた写真が入っている。そしてその写真には鋭い目をした男が写っている。そんな気がしていた。
「いいよ」
司は我が子が封筒を開けるのを待った。
そして中から取り出されたのは二枚の写真。
一枚目は中学生の類が制服を着たもの。
そしてもう一枚は_______
「わあ!お父さんだ!お父さんカッコいい!」
それは、高校生の頃の写真だが、仲間四人でカナダの別荘に行った時に写されたもの。
雪山を前にスノーボードを手にした男は司だ。
そしてその顏は笑っていた。
「お父さんカッコいいよ。やっぱりイケメンは幾つになってもイケメンだね?凄いなあ。お父さんって!昔も今もイケメンでいるお父さんは僕の自慢だよ!」
司は我が子の夏休みの自由研究の手伝いが出来たことに満足していた。
そして課題を克服したことに満足していた。
それは『イケメンは年を取ってもイケメンか』という問いに対しての答え。
つまりイケメンは年を取ってもイケメンであり続けているということ。
だからこれから先も、少なくとも我が子が成人に達するまでイケメンと呼ばれるための努力をしようと思った。
そしてこらからも、子供たちの手本として生き、家族のため健康で長生きすることを心に誓った。
< 完 > *父の課題*

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厳密に言えば中等部と高等部の頃の写真。
だがその頃の司は写真を撮られることを嫌った。だから当時の写真と言われてもなかった。
だからどうすればいいか思考を巡らせた結果、思い付いたのは、英徳の制服を着て写真を撮り、若く見えるように加工するということだ。
「司。事情は分かった。それならお前だけ制服を着て写ればいいだろ?それなのになんで俺らまで制服を着なきゃなんねぇんだ?」
あきらと総二郎は司から航のことで緊急事態だと電話を貰い、それぞれの仕事を抜け出し急いで駆け付けたのは写真スタジオ。
そんな二人の前にあるラックには英徳学園の制服が掛けられていた。
「なんでってお前ら航がかわいくねぇのかよ?」
「司。航がかわいくねぇのかって言われれば航はかわいいぞ?けどなんで俺らまで英徳の制服を着さされるのか。その理由が分かんねぇだけど?」
「だから俺ひとりが写った写真よりお前らが一緒に写ってる方が自然だろうが」
「いや。写真スタジオで撮ること自体が不自然だと思うぞ。それに航はお前の中学高校時代の写真が見たいんだろ?それならお前だけが制服を着て写真に収まればいい話であってなんで俺らまで制服を着る必要があるのかって話だ。それに百歩譲って制服を着て写真を撮るにしても、俺らは制服を着て学園に通ったことはなかったぞ?それなのになんで制服を着なきゃなんねえんだ?なあ総二郎?」
あきらは、そう言って隣に立つ総二郎を見た。
「本当だぜ。司は親バカだとは思ってたが、何もこんなことまでする必要ねぇだろ?航には正直に話せ。お前のお父さんは大の写真嫌いでまともな写真は一枚もないってな。
それにお前のお父さんは制服を着て学園に通うようなまともな人間じゃなかった。いや。それ以前にまともに通ったことがない。それに他の生徒と目が合っただけでそいつを殴るような男で学園の支配者と呼ばれた恐ろしい男だったってな」
総二郎はそう言ってあきらに同調した。
「バカなことを言うな。航にそんなことが言えるか!いいから総二郎もあきらも着替えてポーズを決めろ!」
司はそう言ってスーツの上着を脱ぎネクタイを外した。
「いやだがな司。何が嬉しくて四十を過ぎたおっさんが高校の制服を着なきゃなんねぇんだよ?大体ポーズを決めるってどんなポーズを取れっていうんだよ?それに高校生のフリをするなら別に私服でもかまわねぇだろ?それを修正でも加工でもすりゃあ済む話だろ?」
と、そこまで言ったあきらは、司の眼が恐ろしいほど真剣で、これ以上断れば目の前の男が無理矢理服を脱がせるという暴挙に出る気配を感じ取った。
何しろ親バカ司は我が子のお願いに弱い。そしてこれが夏休みの宿題である自由研究のためだと言われれば、分かった。と返事をする以外なかったことをあきらは理解していた。
それに父親が少年時代まともに学校にも通わない男だったと知ることは、今後の息子の成長に何某かの影響を与えることになるのではないか。そう考えているのがヒシヒシと伝わってきた。
だから高校生らしくきちんと制服を着た姿の写真を我が子に見せたいという思いも分かるような気がした。
それにあきらは、まともに結婚するとは思わなかった男の結婚と子育てを祝福した手前、嫌とは言えない部分もあった。
「ああ、もう分かった!分かった!しょうがねぇなあ着ればいいんだろうが!着れば!」
「おい、あきら。お前本気で言ってるのか?コスプレじゃあるまいし、この年になって英徳の制服を着るってのは_」
そこまで言った総二郎も司の鋭い眼光に「仕方ねぇな。航のためだ。着てやるよ。ただしカッコよく撮ってくれよ?それからこの写真は絶対に世間には公表するな」と渋々だが同意した。
「ねえねえ。お父さんの中等部と高等部の頃って今とあまり変わらないね?それに総二郎おじさんとあきらおじさんも今と同じだね?」
「そうか?」
「うん!お父さんもおじさんたちも全然年取ってないよね?それにお父さんって、やっぱりみんなが言うとおりでイケメンだよね?それに僕思ったよ。イケメンって呼ばれる人は子供の頃からイケメンなんだね?」
父と子は写真を見ながらごく普通に話をしているが、写真の中にいる四十を過ぎた三人の男達の顔は不自然に笑っていた。
そして、これまでの事情を知る母親は二人の話を訊きながら苦笑いを浮かべていた。
だが司は我が子が父親を尊敬したような眼で見つめる姿に頬を緩めていた。
「あ!そう言えば今日パリにいる類おじさんから手紙が届いたんだ。僕ね、類おじさんにおじさんの中学生の頃の写真が見たいって手紙を書いたんだ。だから類おじさん写真を送ってきれくれたんだと思うんだ」
司は我が子のその言葉に緩んでいた表情が引き締まった。
「航。その手紙はどこにある?」
「え?僕の部屋にあるよ?」
司はそこで立ち上がると、ちょっとトイレに行ってくる。と言って部屋を出ると走って航の部屋へ向かうと扉を開けた。
そして我が子の机の上に置かれている開封前の手紙を手に取った。
宛名は道明寺航様。
差出人は花沢類。
それを見た司は封を切ろうとした。だがこれは私信であり親とは言え我が子宛に届いた手紙を勝手に開けることは出来なかった。
だからその手紙を手に急いで航の元に戻ると、「航。類からの手紙。開けてみないか?父さんも類の写真が見たいんだ」
そう言ったのは、実は嫌な予感がしたからだ。
何しろ類は悪戯好きで司が慌てるところを見るのが好きな悪魔のような男だ。
だからこの封筒の中には類の写真だけではなく、自分が知らないうちに撮られた写真が入っている。そしてその写真には鋭い目をした男が写っている。そんな気がしていた。
「いいよ」
司は我が子が封筒を開けるのを待った。
そして中から取り出されたのは二枚の写真。
一枚目は中学生の類が制服を着たもの。
そしてもう一枚は_______
「わあ!お父さんだ!お父さんカッコいい!」
それは、高校生の頃の写真だが、仲間四人でカナダの別荘に行った時に写されたもの。
雪山を前にスノーボードを手にした男は司だ。
そしてその顏は笑っていた。
「お父さんカッコいいよ。やっぱりイケメンは幾つになってもイケメンだね?凄いなあ。お父さんって!昔も今もイケメンでいるお父さんは僕の自慢だよ!」
司は我が子の夏休みの自由研究の手伝いが出来たことに満足していた。
そして課題を克服したことに満足していた。
それは『イケメンは年を取ってもイケメンか』という問いに対しての答え。
つまりイケメンは年を取ってもイケメンであり続けているということ。
だからこれから先も、少なくとも我が子が成人に達するまでイケメンと呼ばれるための努力をしようと思った。
そしてこらからも、子供たちの手本として生き、家族のため健康で長生きすることを心に誓った。
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