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2018
11.25

金持ちの御曹司~多幸感~<前編> 

大人向けのお話です。
未成年者の方、またはそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
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冬が来た。
そして冬の装いの中で欠かせないのはコートだが黒い上質のカシミアのロングコートは羽織るだけで大人の雰囲気を醸し出す。
だが彼はとっくに大人で嘘みたいにカッコよくてずるい声を持つ男。
その声は低音の魅力を余すことなく感じさせるバリトンだが、引力が強すぎて訊いた人間は足元がふらつくと言われていた。
そして男は唯一無二の存在。全てに於いてスペシャルなひとりと言われるいい男。
そんな男の元を訪ねて来たのはかつて男の婚約者だった滋。だが今はすっかり男の親友であり、そして男の恋人の親友でもあった。そんな女が開口一番放った言葉に司は動揺した。



「ねえ司。つくし何か悩みでもあるんじゃない?」

「……なんだよそれ?あいつ何か悩みがあるのか?何か悩んでんのか?」

「だからそれをあたしが訊いてるの。あの子最近食欲ないみたいだし、もしかして司と喧嘩でもしたのかと思って。もしそうならどうせ司が何かやったに決まってる。だから早く謝んなさいって言いに来た」

「あほか。俺と牧野の関係で喧嘩するはずねぇだろ?」

滋は司を責めたが彼には心当たりはなかった。
それに司には恋人が何か悩んでいるようには思えなかった。

「それにお前にだから言うが俺は牧野を心の底から愛してる。あいつの幸せが俺の幸せだっていうのにそんな俺があいつを傷つけるようなことをすると思うか?」

「そうよね…..あんたはつくしにゾッコンだもんね。だからたとえ喧嘩になったとしても、謝るのは司の方でその謝り方は尋常じゃないことは誰もが知ってる訳だし、それに喧嘩になるとしたら、あんたのしつこさに怒るくらいよね?いい加減寝させてくれってさ!」

と言って滋は笑ったが司にしてみれば恋人が何か悩んでいるとすれば、それは一大事だった。だから何をおいてもその悩みを解決してやりたいと思うのが当然だ。だが恋人はそういったことは彼に心配をかけると思い口に出すことはない。そして気付いた時には既に問題は解決していることが殆どで、どうして相談してくれなかったんだと言っても、もう済んだことだしいいじゃないと言って笑っていた。


だが気になる。
滋の口から愛しい人が悩んでいると訊けば気にならないはずはない。
だから悩みがあるなら打ち明けて欲しい。
だが面と向かって言ったところで話す女じゃない。
何しろ人に心配をかけること。迷惑をかけることを良しとしない女は自己解決型人間なのだから。だがかつて悩みを抱えた女は彼の前から姿を消したことがあった。
それはどこかの漁村の浜辺でトウモロコシを売るという行為に走ることになったが、今はもう冬で誰もいない海だ。誰かの歌じゃないがそんな場所でトウモロコシを売っても人は知らん顔してゆき過ぎていくはずだ。
いや。今のあいつは何か悩みがあるからといって昔みたいに逃げ出す女じゃない。
牧野つくしはそんな女じゃない。
だがその分余計心配だった。心に悩みを抱えた女というのは、たとえその様子を表に出さないとしても、知ってしまった以上見ていて辛いものがある。
彼女の悩みは司の悩みであり、彼女の悲しみは司の悲しみであり、彼女の前に不幸の種が蒔かれることがあってはならないからだ。と、なるとその悩みを訊き出すために何をすればいいかということになるがそれが問題だった。

「でもさぁ。つくしが占い師の所に行ったってのがねぇ。あの子は常に現実と対峙して生きて来た子だから占いを信じるような子じゃないでしょ。でも桜子が見たって言うの。それもよく当たるって有名な銀座の父の所らしいわ。銀座の父と言えば百発百中って言われるくらいよく当たる手相の占い師なの。でね、父って呼ばれてるけど若い人なの。となると女性に人気があるわけよ。ま、それは別として占い師の所に行くなんて、つくしはかなり真剣に悩んでるってことでしょ?それも親友のあたしにさえ言えないような悩みがあるってことよね?だからもしかして司と別れたいって思ってるとかね….そうなると当然あんたの親友でもあるあたしに相談できなくて占い師に相談したんじゃないかってそんなことを考えたわけよ。でもあんたたちが喧嘩もしてない。司の前では普通なら悩みは司のことじゃないってことよね?つくしが司と別れたいって思ってるってことじゃないってことよね?あたしはそのことを確かめたかったの。だってあんたたちが別れちゃったらあたしは辛いじゃない?あたしはふたりの親友なんだから」


滋は最後にあんたたちが別れるとかじゃなくて良かった。安心したと言って帰ったが司は少しも安心出来なかった。
だがかつてそんなことがあった。
過去にもそんなことがあった。
牧野が俺と別れたがっていると思ったことが。
しかしあれは誤解だった。勘違いしていた。
そうだ二度あることは三度あるじゃないが、これもきっとそういうことだ。
あいつが俺と別れたがってそれを占い師に相談に行ったなんてことは間違いだ。
三条桜子が見た牧野つくしというのは他人の空似で牧野つくしではない。
それに司は二日前に恋人と一緒に過ごしたが悩んでいる素振りなど全く感じられなかった。

だが滋の言葉の中に気になることがあった。
それは手相占いという言葉。
その占い師は銀座の父と言う男ということ。
そして若いということ。
つまりその占い師を訪ねたのが本当にあいつなら、その若い男が牧野つくしの手を握ったという事実が司の前にあった。

牧野の手を他の男が握った。
あの白く柔らかく可愛らしい手を自分以外の男が触れた。
そしてあいつも自分の手を他の若い男に握らせた。
今まで司以外の男の手に預けられたことがない手を他の男が触れることを許した。
そのことを想像すると心の中には激しい怒りの感情が沸き起こった。





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2018
11.26

金持ちの御曹司~多幸感~<後編>

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