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2018
10.14

金持ちの御曹司~Viva La Vida!~

あなたにとって仕事とは?と聞かれたら何と答えるか?
『仕事の流儀』にはその人の生き方が表れるとテレビで言っているが、司は仕事もだが恋にも流儀があった。
だからあの番組への出演依頼があれば、仕事のことよりも恋の流儀について語りたいと思った。
道明寺ホールディングス株式会社。日本支社、支社長道明寺司の恋は命がけの恋で、高校生の頃生死の境を彷徨い恋人のことを忘れたことがあったが、思い出したのはその恋人のおかげで、彼女の存在は何物にも代えがたい唯一無二の存在であり、司の太陽であり月であり星だった。
つまり司の世界全てが彼女で出来ていて、彼女に関するなら塵芥(ちりあくた)といったものも大切な宝物だった。

そして『あなたにとって恋とは?』
と訊かれたら、『私にとって恋とは正義です』と答えるはずだ。

司にとっての正義とは牧野つくしのことだが、彼女は単純そうに見えて正解のない疑問のような人間だった。
その最たるものが、類は心のパートナーだとか、類とは前世で兄妹だったとか、類といると和むとか言われたことだが、それに対し司は人間台風だと言われスネたことがあった。
だがふたりを知る友人たちに言わせれば、牧野はツンデレだが司はそこがいいんだよな。
あいつら丸の内のバカップルだからな。
司はドMで牧野はドSなところがあるから、あのふたりはあれで丁度いいんだよ。と言われる始末だった。
そしてそんな男に対して恋人から放たれた言葉は、お前彼氏の溢れるほどの愛を分ってんのかよ!と言いたくなるものだった。

「ねえ。道明寺?どうしたのそんなに目をパチパチさせて。睫毛が目に入ったの?それともゴミでも入った?」

それは10月11日がウィンクの日だと秘書から教えられた男が社内で偶然出会った恋人に対する愛してるのアピール。
車のブレーキランプ5回点滅がアイシテルのサインなら、ウィンク5回も同じはずだ。
それなのに睫毛が入ったとか、ゴミが入ったのかと言って下から怪訝な顔で見上げる女を抱きしめたら、仕事中に何するよの!と突き飛ばされた。

そんな男に訪れたのは秋の競馬シーズン。
日曜日になれば重賞(G1)レースが開催されるようになるが、司の持ち馬であるツカサブラックは昨年引退し、恋人の名前が付けられたツクシハニーも引退して、二頭は北海道の牧場で余生を過ごしていたが、ツクシハニーはツカサブラックの子供を妊娠していて、人間より長い11カ月という妊娠期間経て来年の春に出産する。
つまり来年の春にはG1レースを何度も制覇した名馬の血を引く2世が生まれるということだ。

そしてそれは今年の春に行われた種付けの結果だが、食用の牛や豚は人工授精で子共を産むが、サラブレッドの場合、それが認められず『行為』が重んじられる。
つまり、自然交配がお約束で、ツクシハニーのお腹にいる仔馬が本当にツカサブラックの種である確たる証拠が必要になるのだが、その証拠としてひと前で行為をする。ヤッてるところを目視で確認しなければならないという決まりがあった。

だから司はつくしを連れ北海道の牧場まで出かけた。だが恋人は馬の繁殖行為を見るとは思わなかったらしく、衆人環視の中、自分の名前が付けられた馬が、やはり恋人の名前が付けられた馬によって行われる行為に目が泳いでいた。

そして司はハニーの後ろからのしかかり、腰を動かすブラックに夜のふたりを重ねたが、牡馬は年中発情OKで牝馬さえその気になればいいのだが、牝馬は発情していない時期は牡馬を寄せ付けず、蹴ったりして拒否をする男嫌いだと言われているが、今思えば牧野つくしが司を拒否していたのは、女として未熟だったのだと納得していた。
何しろ人間も動物だ。
そういった時期があることも理解することが必要だったな、と今なら思えた。


「いやぁ。それにしてもブラックは長年の恋が実ったようで嬉しそうでしたねぇ。私も長年サラブレッドのお世話をして来ましたが、あんなに激しいのは初めて見ましたよ。馬でも相手に恋心があると、ああも違うものなんですかねぇ。それにブラックもハニーも初めてですからぎこちないと思いましたが、ブラックは初恋の人にむしゃぶりついてましたよ!はははっ!」

と豪快に笑ったベテランの厩務員は、ツカサブラックがこの牧場に来た時からずっと世話をして来た男でブラックのことをよく理解していた。

「初めはブラックの片思いでハニーはブラックのことを疎ましそうにしていましたが、馬でも一緒にいる時間が長いと相手の気持ちが分かるんでしょうねぇ。
それにブラックもハニーに相応しい男になると決めたんでしょう。レースに出るたびに順位を上げ勝ち星を増やして行きましたから。極めつけは去年の有馬記念。あれは本当に凄かったですねぇ。ぶっちぎりの強さでしたから」

1枠1番人気のツカサブラック。
ハズレ馬券が紙吹雪となって舞うスタンドを横目に、12月の芝を余裕で駆け抜けたブラックの姿は圧巻だった。そして惜しまれつつ引退したが、花道としては最高だった。

「それにしても二頭は本当に仲がいいんですよ。この牧場の中だけならず、近隣の牧場の中でも一番のバカップルだって言われてますからねぇ」

まさか仲間内で言われる丸の内のバカップルの呼称が馬にまで付けられているとは思わなかったが、自分たちと同じ名前の馬が仲良くしていることは嬉しいことだ。

「道明寺さん。それで生まれた仔馬は当然競走馬として育てればいいんですよね?レースに出されるんですよね?ブラックとハニーの子供ですから血統は間違いありません。今から名前を考えておいて下さいね。それにしてもあの二頭の密着度は本当に高いですからね。まるで今では前世からの恋人同士のようになってますから見てる我々の方が当てられますよ。それもブラックの方が少し小さいハニーを守るように寄り添って歩くんですから、あの馬は凄いですよ」

そんな話を訊かされた司は当然だと思った。
何故なら司とつくしは前世からの恋人なのだから、同じ名前を持つ馬がそうするのは当然だった。
そして馬の名前を考えろと言われ、どういった名前を付ければいいのか、今から悩んでいたが、あの日ふたりでブラックとハニーの交尾を見たあとムラムラして来た。
だからその日の夜はブラックと同じで好きな女の肌にむしゃぶりついた。



「つくし….俺は死ぬまで絶対お前を離さねぇ。いや。死んでも離さねぇ」

無我夢中の交接だった。
深く交わりキスをして、身体から流れ出る甘い蜜を味わった。
目の前の乳房に時々歯を立て甘噛みするのは、牡馬が種付けの時牝馬にするが決して傷つけはしない。それは親愛行動で仲のいい馬同士なら普段から行われる行動だ。

「つくし、キスしてくれ。俺にキスしてくれ」

ゆったりとしたキスから激しいキスに変われば、互いに理性を失うまで相手を求めた。
目にしたものも、目にすることがないものも全てが司のもので、言われなくても彼女からの合図を受け取ることが出来た。

___あたしを奪って。
あたしは司のものだと訴える瞳があった。
だから絡ませていた舌を解き、剥き出しの太腿を掴み、高まりを突き入れた。

「….つくし…愛してる」

「あたしも……愛してる」


世界中のクエスチョンマークを集めても足りないと言われたふたりの交際。
やがてそのクエスチョンマークは周囲を巻き込み胸が躍るリズムに変わった。
そして身体を重ね合わせることが出来るようになった。
司にとっては桃源郷である彼女の身体。愛し合うようになりその身体に包み込まれる幸せを知った。
やがて黒い眉がきゅっとひそめられ、締め付けが感じられると彼女のイク瞬間が分かった。










「つくし。今日のレースはどの馬が勝つと思う?」

今日のデートは珍しく競馬。
だがそれはギャンブルとしてではなく馬の魅力を知ったことによる興味。

「そうねぇ….凱旋門賞を取った馬と兄弟の馬がいるじゃない?その馬が勝ちそうな気がするわ」

毎年10月の第一日曜にパリのロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞。
世界的名馬が集まる国際的な重賞(G1)レース。その舞台に立つことが名誉と言われる大舞台。だが日本の馬の勝利はまだなかった。
だから司は思った。ブラックとハニーの子供ならその賞を制覇することが出来るのではないかと。

「そうだな。ま、そのうちのハニーが産む馬が世界のレースを制覇する日が来るはずだ。そうなったらパリまで行くぞ」

だがパリには類がいる。
それが少しだけ気になることだが、類は競馬には興味はなかったはずだ。
それにしても生きていて良かった。
10代の頃はそう思える日が来るとは思わなかったが、今は心からそう思えた。
それは輝かしい本物の人生。
そして今日のレースはどの馬が勝つのか。
秋晴れの空の下。暫くは勝ち馬の行方が気になる季節となりそうだ。





*Viva La Vida! 人生万歳!*

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