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2018
05.13

金持ちの御曹司~君主論~<前編> 

初めて出会ったときは感情を隠すのが普通の男と女。
だが1週間も経てば感情の振子が大きく揺れはじめ止まらなくなる。
すると相手のことが気になって気になって仕方がなくなる。
学園ではクールで女に興味がないといった態度の男がクールでいられない瞬間は、ごく親しい仲間以外知らないことだが、男はまるで子供のように女を追いかけた。
その男の名前は道明寺司で女の名前は牧野つくし。
それは歴史上稀に見る貧富の差がある恋。
つまり金持ちの御曹司と貧乏な女の世紀の恋。

友人たちはそんな男の態度を初めは笑った。
だがやがて健気な男の態度に協力を申し出た。
『愛してる』の言葉は彼女のためだけにあり、彼女に自分の思いを伝えるため何度もその言葉を叫んだ。だが彼女は男に興味を持たなかった。
だから空回りの感情ばかりが男の足もとにはあった。

そして恋はこんなにも心が苦しくなるものだと知った。
このままでは酸欠で死んでしまうのではないかとさえ思ったあの頃。
だが今は違う。二人はれっきとした恋人同士で、恋が実ったのは司が高校を卒業してからだが、今の二人は十分過ぎるほど大人でセックスもする。

そして彼女の顔が見えなければいてもたってもいられない気分になり、場所柄など関係なく彼女とイチャつきたいから今直ぐに結婚してくれと言った男は、それから何度も彼女に同じ言葉を繰り返していた。

だがその言葉に彼女がイエスと答えることはまだない。
いったい司は何年同じ言葉を繰り返しているのか。
あの女!高校生の頃の出会いから何年が経ったと思っているんだ!

司はそんな思いを抱きながら二杯目のコーヒーを口に運ぶと西田が置いていった書類に目を通していた。
それは母であり社長の楓がスイスの国際会議で行った演説を纏めたものだ。

かつて司の母親の道明寺楓は、司の恋人である牧野つくしに酷い扱いをした。
ドブネズミだと罵り彼女を卑下した。
札束で頬を叩く行為をした。
そして二人の仲を引き裂き、彼女の口から別れを告げさせたが、その決定は友人たちの人生を狂わることを止める代わりの取引であり、彼女だけに知らされたもので選択しうる道はなかった。

だが今はいい時代だと思う。
いつの頃からか彼女の良さを理解した母親は、二人の交際について何も言わなくなり、やがていつ結婚するの?金屏風の前でも森の中の教会でもいいから早くなんとかなさい。
孫の顔が見たいのよと言うようになった。
つまり楓も年を取り丸くなったと言うことだ。

勿論。司としては今すぐ結婚して欲しいのだが、牧野つくしは揺れるお年頃なのか時々難しい顔をして司を見る。
だがあの女は昔からよく揺れていた。
揺れて一人悩んで一人落ち込んで……。
そんなことが繰り返されていた時期があった。
何しろ二人が高校生だった頃の母親は『非道徳行為でも結果として国家の利益を増進させるなら許される』と言ったルネッサンス期の政治思想家であるマキャベリそのものだったからだ。
つまり「国家」の部分を「道明寺」に置き換えれば分かるように、財閥の利益の為なら何でもありの女だったからだ。
だがそんな母親と牧野が意外と気が合うと分かったのは、あいつが道明寺に入社してからだ。

司にしてみれば、牧野つくしは元々頭がいい女だったから、母親と同じビジネスという土俵の上に立てば、例え小さな身体でも男以上の能力を発揮することは分かっていた。
事実。海外事業本部に籍を置く女は優秀だ。
部署名通り海外出張も数多くこなし、バリバリ働いている。
だがそのことに懸念を持つことがある。
司が結婚してくれと言ってもなかなか結婚してくれないのは、仕事が面白いからだと言い始めているからだ。
だがそれは非常にマズイ。
もしかすると、このままでは牧野つくしが楓のようになってしまうのではないかといった思いがある。

つまり、ひと昔前の道明寺楓のように変化(へんげ)してしまうのではないかという懸念。
そしてマキャベリの言葉『愛されるより恐れられろ』のようになってしまうのではないかということだ。

リーダー論の古典と言われるマキャベリの『君主論』の中に出て来るそのフレーズは有名で、騙しと脅しを駆使するのがリーダーシップと言われ、目的を達するためには手段を選ばないというかつての財閥そのものだが、牧野つくしがそうなる必要はないしなって欲しくない。

だが司がつくしと出会わなかったらそうなっていたはずだ。
道明寺司として求められることはただひとつ。
いずれ日本最大の財閥トップとして君臨し、非情な姿でビジネスを拡大していく己の姿。

彼女に会わなければ変わることのなかった司の姿は_____













広い部屋の最奥にあるデスクの向うに座るチョークストライプのダブルのスーツを着た男は、湯気の立つコーヒーカップの向うに見える女に言った。

「それで?いったいどのようなご用件でしょう?」

その女はどうしても司に会いたいと言った女。
秘書から名前を訊きたとき、ああ、と思った。
どうせ口にすることは決まっていると。時間を割く必要もなければ、会いたいとも思わなかった。それに司は忙しかった。これからすぐ後には総理大臣との約束があった。
だが女がどんなことを話すのか何故か急に興味が湧いた。
だから通せと言った。

「はい。父の会社の件ですが助けていただけませんか?父はあなたに立ち向かうだけの力はありません。それに決してあなたの仕事の邪魔をしようとしたのではありません。ただ正当なビジネスをしていただけです。競合することなどよくある話です。決して入札の邪魔をしようといったことを考えたことはありません。ですから父の会社を潰すことは止めていただけませんか?大勢の従業員とその家族が路頭に迷うことになります。だから_」

「だから?」

司は言葉に詰まった女に言った。
そして目の前に置かれているカップを取り口へ運びながら頭を下げた女の姿を見ていた。

「だからお願いします。道明寺さん。父を助けて下さい。いえ、父の会社を助けて下さい」

司の前に現れたのは、道明寺系列の建設会社が落札することに決まっていた国家的と称されてもおかしくない工事の受注の邪魔をした建設会社社長の娘、牧野つくし。
表立っては言えないが、大規模工事というものに談合という受注調整は付きものだと言われ、道明寺系列の建設会社も入札談合の結果受注するはずだった。
だがある会社だけが談合に加わらず、結果最低の価格で入札したその会社が工事を受注した。
しかし何故かその工事は行われなかった。
いや行われなかったのではない。行えなかったといった方が正しい。
それは財閥の圧力がかかったことにより、資材の調達から人の手配まで全てが滞ったためだ。
結果、その会社は資金繰りが悪化。そして振り出された手形は月末には不渡りになると言われている。つまり倒産するということだ。

「助けてくれとおっしゃいますが私にどうしろと?そういったことは、あなたのお父上の会社のメインバンクにご相談されたらよろしいのではないでしょうか?」

と司は言ったが銀行は助けることはしない。
司はその銀行の頭取とは昵懇な間柄だ。
ゴルフ仲間でもありニューヨークでは金髪女を紹介したこともあれば、コーヒー色の肌が美しい女を紹介したこともある。そして頭取が四つん這いになりその女に鞭で打たれる様子を別室で眺め、土産だと言ってその様子が録画されたDVDを渡したが、頭取の顔は引きつっていた。


ビジネスとは非情なものであり弱いものは淘汰される。
そして権力というのは司のためにあり、その権力を使うことは当然のこと。
だから女の父親の会社が潰れるのは当たり前のこと。
つまり道明寺司に逆らうということは、この世に生きていたくないと思うようになることだ。そしてそれに気づかなかった人間は、間抜けであり愚か者以外の何者でもない。
だから女の父親がどうなろうと司の知ったことではない。


「道明寺さん。お願いします。どうか父を。いえ父の会社を助けて下さい。お願いします。そのためなら私__」

女が震えながら顔を上げたとき、大きな黒い瞳から涙が一粒こぼれて頬を伝った。
司はその涙に無関心でいようとしたが出来なかった。
心の中の何かが弾け涙に濡れた頬とその涙に濡れた唇にキスをしたいと思った。
そうだ。その瞬間目の前の女が欲しくなった。
手に入れたくなった。
手に入れて永遠に自分の傍に置いておきたいと思った。
所有したい。女を愛したいと思った。
愛して欲しいと思った。


「牧野さん。あなたはお父上の会社を助けたいとおっしゃいましたね?それから先ほど言いかけた、そのためならの続きを訊きたいんだが?何を言おうとしたんですか?」

司は女が言いかけた言葉の先を促した。
そのためならの続きを。

「__そのためなら、私….なんでもします」




後編はパス付です。

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2018
05.14

金持ちの御曹司~君主論~<後編>

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