2015
11.08

Love Story

Category: Love Story
1.
ひと目惚れって信じるかと言われれば、道明寺司と牧野つくしの場合はそうではない。
はじめて会った高校時代、あの二人は出会った瞬間からお互いに反感を抱いた。
互いに虫の好かない相手だったに違いない。
彼らの出身校である英徳学園は、セレブの子供たちが通う学園で、牧野つくしはその中でただひとりの異端者だった。

あの年頃の子供というのは残酷だ。
自分の身かわいさにスケープゴート(生贄の羊)を作り出す。
あからさまないじめと暴力。
敵意むき出しで襲いかかってくる恐るべき子供たちだ。

その恐るべき子供たちのリーダーだったのは道明寺司。
言わずと知れた日本を代表する企業を率いる道明寺HDのひとり息子で御曹司だ。
彼は敵意を作り出すと、そんな子供たちに植えつけてはスケープゴートとなった人間を攻撃させていた。
道明寺司は、彼らの中に植えつけた敵意を利用して上手く手綱をとっていた。

牧野つくしはそんな彼に唯一歯向かった女。
決して美人ではないが、明るくて頭のいい女だった。
一方の道明寺司は間違って手でも触れようものならそれだけで半殺しの目に遭うことになる。
いつも何かに対して強い反感を抱きながら生きている男は暴力を好んだ。
そして牧野つくしに敵意を抱いた。本来、二人は出会うはずもない相手。だが運命は、彼らに強烈な出会いを用意した。


あるとき、男は女が中庭のベンチにひとりぽつんと座っているところに出くわした。
あの愚かな女め。もう二度と学園に来れなくしてやる。無防備な状態の女に不意打ちをくらわせる快感を得たいと思った。
今までみたいな生意気な顔なんか出来なくしてやる。
そう考えてほくそえみながら近づいて行くと女を一瞥した。
男はいつものように女が何か言ってくると思ってみたが何も言ってこない。
女は下を向いていた。本でも読んでいるのかと思ってみたが違っていた。
女は声もたてずに泣いている。男は近くで足を止めるとそんな女を観察していた。
それはいつもの強気いっぱいの女ではなかった。
どこか頼りなくて弱々しい孤独なひとりの「少女」だった。
少女は男が近づいても顔を上げなかった。
それどころか男の存在に気が付いているかどうかさえ定かでなかった。
「どうしたんだ牧野?」
顔を上げた少女はやはり泣いていた。
「道明寺・・またあんたなの?・・・いいからほっといてよ・・・
・・・あんた・・・まだあたしに・・迷惑をかけ足りないの?」
男は少女が泣いていることに対しての同情と困惑が自分に襲いかかってくるのを感じた。
男は少女の隣に並んで腰を下ろすと言った。
「なにかあったのか?誰かになにかされたのか?」
少女はしばらく黙って男を見つめた。
「・・なんでもない・・」と、ようやくひとり言のように言った。
男はその時、少女が泣いている姿をはじめて見た。
そして、こいつを泣かす人間が許せないと思った。
後に少女が泣く原因を作ったのは男本人だったと言うことを知ったのは、随分と後のことだ。


2.
そんな二人のあいだに、急速に芽生えた意識は時の経過と共に変化していった。
相手をねじ伏せることを良しとしていた男とそれを良しとしない女。
互いに激しくやりあう一方で二人の意識は激変をとげた。
内心では互いに思う心があった。
ときおり二人は激しくののしり合うことがあっても、最後にいつも折れていたのは男だ。
「あの鈍感女!」
「あの傲慢男!」
と叫ぶことで互いを認めあっていた。
男は3年の終には4年の約束でNYへと旅立って行った。残された女がどうなるか、周囲の人間の目には明らかだ。
こういう問題はどこにでもあるが、ことこの男とこの女の遠距離恋愛に関しては誰もがダメになると思っていた。互いに立場が違い過ぎていたから。
それでも、互いに相手がそれぞれ置かれた場所で頑張っていることを知っていたから、4年後の再会を夢に見ながら仕事に勉強に頑張った。
いよいよ約束の4年が過ぎたとき、二人は空港の待合室で顔を合わせた。
男と女は一日千秋の思いで4年間を過ごした。
「おかえり。道明寺」
「ただいま。牧野」
彼らが交わした短いあいさつ。
その日の晩、家族との晴れがましい夕食のあと彼らは初めて結ばれた。
結婚式は3年後に教会で行われた。
「考えてみれば」男の友人が言った。
「司の妻が務まる女なんて牧野以外にいるわけないよね?」
ことあるごとに言い合う二人は、噂によればその瞬間から数時間以上離ればなれになることは一度も無かったとか。
そして、結婚して何年経とうが、互いのことを鈍感女と傲慢男と呼び合うことに変わりはなかった。
やがて、子供が生まれ成長し、彼らもそれぞれ幸せな家庭を築いていた。
その間には色々なことがあった。楽しこと、悲しいこと、嬉しいこと、辛いこと。
それも彼らの歴史だ。


3.
男がまだ若い頃に手掛けた道明寺HDの一大事業と言われた海外でのプロジェクトは順調に事業を拡大していた。
一方の女は大学を卒業後、司法の道へと進み弁護士として成功した後、母校の大学で教鞭をとっていた。
互いに一歩もひけを取らず、互いに第一線で人生と戦ってきた。

そして六十路に入った二人にとって今の楽しみは、毎朝こうして二人で邸の庭を散歩することだ。
「寒くなったな」
「そうね」
そう言って二人で手をつなぎながら広い庭を散歩する。

女はまもなく大学を退官する。
二人がそろって大学のキャンパスに現れることがあった。
彼らが一緒に食事をするとき、二人の間にはまるで高校時代に戻ったかのような舌戦が繰り広げられる。
もちろん本気で言い争っているわけではない。
だが、初めて彼らを目にする者は、大学の食堂で道明寺HDの代表と法学部の教授が言い争っている姿を見て本気で受け止めていた。
彼らをよく知る者からすれば、そんな二人の愛情表現を羨ましく思っていた。


4.
学園の中庭に置かれた古いベンチがある。
男がはじめて女ときちんと言葉を交わした場所だ。
あのとき、この場所で男と女とが出会わなければ、二人が今のように一緒に過ごしているかどうかわからない。
英徳学園の伝説に組み込まれた彼らの逸話。
英徳の人間はだれひとりとして「道明寺夫妻の逸話」を知らない者はいない。
彼らの出会い、二人がいかにして恋を実らせたか。
長い年月のあいだに、根も葉もない作り話がその逸話のなかに組み込まれている。
そのうちのひとつが、道明寺司は牧野つくしに蹴りを入れられて彼女に惚れたと言う逸話だ。
そんな話、多くの英徳の人間は信じていなかった。
あの道明寺司が妻である女に蹴りをいれられて好きになったなんて!
その話しが真実であるはずないと言う逸話だ。

男は女が退官する日、ここに新しいベンチを寄贈するつもりだ。
英国の文化的習慣としてのひとつ。今では世界のどこにでもある話し。
故人となった愛おしい人との思い出の場所にベンチを寄贈し、そこを訪れて愛おしい人に思いをはせる。
だが、まだ二人が数時間以上離れることになるのはずっと先のはずだ。
男はそのベンチにある言葉を刻むと心に決めていた。
女とはじめて「 言葉 」を交わした場所に置くベンチ。
青銅で出来たベンチは年月と共に色が変わる。いつかは錆て朽ち果てる時もくるだろう。
そこにこれから座る人間にも読んでもらえる事を願って言葉を刻んだ。




「 He loved his wife with devotion  
              with love from T 」

  彼は真心をこめて妻を愛した
             Tより愛をこめて







< 完 >
devotion*献身、深い愛情、熱愛、心酔、傾倒、忠誠などの意味があります。 


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