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2017
12.27

金持ちの御曹司~Crazy For You~ 

神よりも金を持つという男がいる。
そしてそんな男は肉体的な美貌も持ち、コンプレックスという言葉の意味を知らないのではないかと言われている。

「おい、司。お前コンプレックスの意味が解るか?」
「なんだよ?あきら。いきなり」
「だからコンプレックスの意味だ」
「コンプレックス?コンプライアンスじゃねぇんだな?」

どこの会社もだが、不祥事を防ぐ目的もありコンプライアンス教育には重きを置いている。
何故ならコンプライアンス意識の向上は、業績向上にも繋がると考えているからだ。
だがあきらが司に訊いたのはコンプレックスの意味だ。

「ああ。コンプレックスだ。司、お前、この意味が分かるか?」
「・・ンなモン簡単だ。優越感とか劣等感とかって意味だろうが。なんでそんなことを聞く?」
「いや。ちょっと聞いてみただけだ。大した意味はない。けどお前には関係ない言葉だよな?何しろお前は人が羨むほどの金を持ち、見た目もすこぶるいい男だ。お前にはコンプレックスなんて言葉は意味がねぇよな?それにお前はコンプレックスよりコンプリートって言葉の方が似合ってるからな」

司はお疲れと言って執務室を訪れたあきらの話を黙って聞いていた。
バカ坊ちゃんと言われたのは遠い昔の話。18の時、父親の跡を継ぐことを決め過去は捨てた。今では無口でハンサムで冷酷で非情。ビジネスに於いては容赦がないと言われている。
そんな男は誰の手にも落ちない一筋縄ではいかない男と言われ、頭数だけで生きている大多数の人間には及ばないと言われている。
そして当然だがそんな男と同じ土俵で戦おうという男はおらず、男の前にはビジネス戦争で敗れた人間たちの屍だけが残されていた。

しかし、そんな司がひとつだけコンプリートしてないものがある。
ちなみにコンプリートの意味には、完全な。完成した。という意味があり、それはまさに男として完全な彼に相応しい言葉だが、高校生の頃、追いかけ回し、やっとの思いで振り向いてもらえた牧野つくしに対してはコンプリート出来ないでいる。
つまり制覇出来ないでいるということだ。

そんな男は愛しい女に対しては純情過ぎるほどの思いを持ち、深過ぎる愛情といったものを持つ。
だからあきらは時にそんな男の暴走を止めてやることも必要だと思っている。


「司、お前もう少し気をつけてやれよ?」
「何をだよ?」
「いや。だから・・・アレだ」
「アレ?アレってなんだよ?」
「だからお前あいつと愛し合う時は色々気を付けろってことだ」
「・・なんだよ、あきら。お前人のセックスに口を出すつもりか?」

司は言葉の語尾が上がり、表情は遠い昔、人ひとり殺しかねないと言われた頃の顔をしている。あきらはそんな司を恐れる訳ではないが、自分の身は大切だ。余計なことを口に出したばかりに、とばっちりを受けることだけは避けたい思いがある。だから慌てて否定した。

「誰がお前らのセックスに口なんか出すかよ!俺が言いたいのはな、キスするんなら気を付けろって言う意味だ」
「気を付けろ?・・意味が分かんねぇな。何を気を付けるってんだよ?お前、俺があいつとキスすることに反対するのか?・・・まさかお前・・牧野のことが好きなのか?!冗談じゃねぇぞ!お前親友面して実はあいつのことが好きなのか!?」
「あのな・・なんでそう話が飛躍するんだ?司。俺が言いたいのは、キスする時はもっと見えねぇ場所にしろって意味だ!」
「・・見えねぇ場所?」
「そうだ。お前、いくらあいつのうなじが綺麗だからって吸い付くのは止めろ」

うなじに吸い付く。
確かに吸い付いた。
つい先日のパーティーで髪をアップにしたアイツのうなじが艶めかしく、思わずキスをした。
そうしたらあいつの身体がブルッと震えたのを感じ、その場で欲情しそうになるところをグッと抑えなんとか堪えた。
だが会場がメープルだったことをこれ幸いに、パーティー終了後すぐに上の階にある部屋で散々貪ったが、見えるところにキスするなと言われたが止まらなかった。
その結果、酷く怒られた。

『もうどうするのよ・・こんなところに・・』

こんなところに。
の、ひとつがうなじだが、別に誰かに迷惑をかける訳じゃあるまいし。
と、思うのだが顏を真っ赤にした牧野はこう言った。

『は、恥ずかしいのよ。だって身体中に痕があるのよ?』

別にいいじゃねぇか。
それとも身体中に愛しい男からの口づけの痕があることが嫌だって言うのかよ。
・・ったくあいつはいつまでたっても男の愛情を受け取るのが下手だ。
まあそこがあいつの可愛らしいところだが。
けど、なんであきらがあいつのうなじに情熱の痕を見つけたのかが気になる。

「あきら。なんでお前あいつのうなじにキスマークがあることを知った?」
「知るもなにも髪をアップにすりゃ誰でもわかるだろ?パーティーでそんな髪型にしてりゃ丸見えだそ?いいか。司。牧野はそういった愛情表現は苦手だ。気を付けてやれ。まあ、とにかく、お前の持ち馬が勝ったのは嬉しいことだ。司、良かったな。ブラックの引退記念パーティーも盛況だったしあの馬もやっとのんびり出来るって喜んでいるはずだ。・・ってことで俺帰るわ。邪魔したな」

そんな言葉と共にあきらは執務室を後にした。


あきらの言うとおり、持ち馬が最近レースから引退した。
それはクリスマスイブの日。今年最後のG1レースである有馬記念。
馬の名前は「ツカサブラック」牡5歳。黒鹿毛の美しく雄大な馬体を持ち、スピードとスタミナのどちらも並外れた身体能力を持つ馬の引退レースは、優勝という有終の美を飾るに相応しいもの。芝2500メートル、10万人の大観衆のなか、最後の直線はぶっちぎりの早さで駆け抜け、影を踏ませることもなかった。

そんなツカサブラックは、すでにG1で6勝していたが、今回でG1最多タイの7勝目を勝ち取った。それは感動的なフィナーレ。引退の花道としては最高の舞台。
日本一になった馬は、まさに日本一の男に相応しいと言える。

そしてその馬主である司は、優勝馬であるツカサブラックとの記念写真が新聞紙面を飾っていることに笑顔を浮かべていた。
何故なら、そこには控えめだが一緒に牧野つくしも写っているからだ。

元々ツカサブラックは、つくしが飼おうといった馬。
すでにいたツクシハニーという牝馬に惚れた黒鹿毛の馬を見たつくしが、傍にいさせてやりたいといった思いで司に強請った馬だ。
その時、彼女に言われたのが「あんたに似てる」の言葉。そんなことから名前はツカサブラックに決まったという経緯がある。

だが確かにツカサブラックは司に似ていた。
心臓が強く、何があっても折れない心を持ち、メンタルが強い。
それは司が高校時代、どんなにアプローチしても、つくしに逃げられていたことを思い出させた。

そんなツカサブラックの引退後の生活は北海道の牧場で悠々自適の暮らし。そして傍にはツクシハニーがいるが、その名の通りハニーは牧野に似ている。
初めの頃、ツクシハニーにちょっかいを出すツカサブラックは彼女に嫌われていた。だがブラックの熱心な求愛にハニーも心を許し、受け入れた。
そしてその関係は、まさに自分達と同じだと司は常々思っていた。

「ツカサブラックも引退か・・。ちょっと残念な気もするがあいつの余生を考えればそれでいいのかもしれねぇな・・・それにしてもあいつはこれからツクシハニーとヤリ放題か」

司はそんなことを口にし、執務デスクの椅子で目を閉じ腕組みをすると、愛しい女との夢の中へ堕ちていた。









「・・もうこうなったらパイプカットするしかないわね・・」

司の耳に飛び込んで来たのは信じられない言葉。
そして彼の目の前に立つ女は司を見つめていた。

「お前・・な、なんだよ、その物騒な発言は!い、いきなり何を言い出すんだ!なんで俺がパイプカットしなきゃなんねぇんだよ!それに俺がパイプカットなんかしたらお前との子供が出来ねぇじゃねえかっ!」

「司は女にモテるものね・・ちやほやされていい気になって、その気になったら困るもの」

「アホか!俺がお前以外の女に興味があると思うのか!お前はどうかしてるぞ!俺が今まで他の女に目をくれたことがあったか?それとも何か?お前は俺が他の女とイチャついているところでも見たっていうのか!?」

「やっぱり心配なのよね。この前だって可愛い子に声をかけられて鼻の下が伸びてたもの」

「バカなことを言うな!俺は可愛い子は相手になんかしねぇ!それにいつも言ってるだろうが!俺はお前以外の女に興味はねぇんだよ!」

司は突然つくしの口から出たパイプカットという言葉に衝撃が走り総毛立っていた。
女は彼女だけで、彼女以外目もくれたことがない男に対してのその言葉に自分の愛情が足りなかったのかと、今までの毎日どんな態度を取ったのかと振り返ったが、身も心も全てを彼女に捧げている男としては、これ以上どんな態度を取ればいいのかと思わずにはいられなかった。
そしてつくしの真意を確かめようと、恐る恐る口を開く。

「なあ牧野・・お前マジで俺にパイプカットして欲しいのか?そんなことしたら俺たちの子供が出来ねぇだろ?」

司はじっとつくしを見つめるが彼女の目は真剣だ。
だが司も真剣だ。何故なら司は彼女を愛しているからだ。
彼女だけを愛していて他の女など全く興味がない。だから必死で訴える。

「なあ俺はお前以外の女に目を向けたことはねぇぞ?お前しか愛してない。一目会ったその日からお前だけだ。お前以外目に入らねぇ。それにお前と仕事で離れ離れになった時は辛くてメシも喉を通らねぇくらいだ。それでもなんとか口にして仕事に出て駆けずり回ってる有り様だぞ?そんな男が他の女に目をくれるはずがねぇだろ?お前は他の女と比べものにならないほどいい女だ。牧野。俺の目を見ろ。この真剣な目を!一点の曇もないこの澄んだ瞳を!」

「司はカッコいいし、お金持ちだしモテるから・・」

「牧野。いつも言ってるだろ?俺は外見や金に惹かれる女には興味がねぇ・・。俺はお前の何に惚れたか知ってるだろ?その飾り気の無さと誰に対しても態度が変わらないところだ。お前のその凛とした態度が俺の心を捉えたんだぞ?」

「それに、司はこの世の中で最高の男って呼ばれてるから、女性が放っておかないでしょ?だから心配なの」

司は自分が最高の男と呼ばれていることは知っている。
生まれ持った美貌は神の采配であり、家が金持ちなのはたまたまに過ぎない。
そして女性が放っておかないというのは、その言葉通りで司はどんな女からもモテる。だがそれは仕方がないことだ。しかし司は放っておいて欲しいと望んでいる。だからつくし以外の女が傍に寄ると途端に機嫌が悪くなることを彼の周りの人間は知っている。

「牧野。俺は他の女がどうだろうと、お前だけだ。お前以外何もいらない男だ。俺が跪くのはお前の前だけだ。もしそれでも足んねぇって言うなら五体投地も厭わねぇ・・。身体の全てをお前の為に投げ出すつもりでいる。それなのにそんな男の何を疑うっていうんだ。な、牧野?俺を信じろ。俺は他の女には目もくれない男だ」

「でもね、司。あんたが相手にしなくても、無理矢理ってこともあるでしょ?」

「む、無理矢理ってなんだよ?俺が女に襲われるとでも言うのか?そんなことある訳ねぇだろうが!」

馬鹿力と言われる司の自由を奪い無理矢理ヤルことが出来る女などこの世の中にいるはずがない。

「・・あたし、他の女があんたの子供を産むなんてことを考えたら悔しくて眠れないの。・・・だから手術を受けて。それに私、失敗しないので。私に切らせて?」

まるでどこかの女医のような事を言う牧野。
だが見れば白衣姿だ。
お前いつの間に医師免許を取ったんだ?

「ほら。大人しくして。痛くないようにするからね?まず麻酔をかけなきゃね?」

司は注射器を手に近づいて来るつくしから逃げようとしたが、身体の自由が全く利かず身動きが取れず何故か逃げられなかった。

そして・・・

司は自身の身体を見て驚いた。
その身が総毛立った理由も分かった。
事実、司の全身は毛に覆われていたからだ。
そして身体の自由が利かない理由も分かった。
何故なら司は馬の姿で顏にはホルターが付けられ、リードはしっかりと柱に繋がれ、どんなに暴れたとしても逃げることが出来ないような状態にされていた。
そんな状況に注射器を手にじりじりと迫ってくる牧野。
そしてまさに今、その手にしっかりと握られた注射器は司の首に突き立てられようとしていた。

「ツカサブラック。すぐ終わるからね?大丈夫よ?」

「や、止めろ!ま、牧野・・・止めてくれ・・俺はお前以外の女に興味はねぇって言ってるだろうが!た、頼む!パイプカットなんてことは止めてくれ!!」









厭な汗をかくというのは、こういうことを言うのだろう。
司は注射を打たれる寸前で目が覚めハアハアと荒い呼吸を繰り返していた。
そして思わず腰かけた姿勢で下半身を見たが、ファスナーが閉められていることにホッとした。何故ならもう少しで獣医師になったつくしにパイプカットをされるところだったからだ。

司はすぐに気を取り直すと立ち上がり、スーツの乱れを直し足早に執務室を出た。
それはまるで注射器を持ったつくしが迫ってくる夢の続きを見たくないからなのか。
それとも早く彼女に会いたいからか。
とにかくエレベーターの前に辿り着くと、ひとつしかない下ボタンを押し扉が開くと急いで足を踏み入れた。







世界一の女だけが道明寺司の傍にいることが出来ると言われているが、その世界一の女は、今日も仕事に邁進していた。
時計は夜8時半。残業中の女は、恋人の姿に驚いた顔をしたが、嫌な顏はしなかった。
それもそのはずだ。そのフロアにいる社員は彼女だけだからだ。

「あれ?どうしたの?もう終わったの?早いね?あたしももう終わったから支度するね」

一緒に帰ろうといった約束をしていたふたり。
今夜は珍しく司の方が早く仕事が終わり、執務室でつくしからの連絡を待っていたところだった。そしてそんな暇な時間が自身を愛馬ツカサブラックの姿に変え、パイプカットをされるという恐ろしい夢を見させた。

だが司はその時思った。
これはもしかするとツクシハニーの嫉妬ではないかと。
そうだ。競馬界のレジェンドとなったツカサブラックが種牡馬として利用されることを阻止するため、自分の男が他の女との間に子供を作ることを嫌がってあんな夢を見させたのだと感じていた。

しかし、女の嫉妬は恐ろしいと聞いてはいるが、まさか馬にまでそんな嫉妬があるとは思いもしなかった。
司は、ツクシハニーの気持ちもツカサブラックの気持ちも分っているつもりだ。
やっと愛しい女の元で過ごすことが出来るブラックを、種牡馬として他の女に種を提供する仕事をさせるつもりはない。それに司から見たあの馬は自分と同じで1人の女を幸せにする為だけに仕事をして来たと思えるからだ。そうだ。愛する女の為に身を粉にして働く男の見本のようなものだ。あいつは生涯獲得賞金もかなりの額であり、種牡馬として生計を立てる必要などない。

もし仮にだが司に他の女との間に子供が出来たとする。
いや。絶対にそんなことは無いが、もしそうなったとしたら、牧野はどうするのか?
勿論、激しく嫉妬をするはずだ。
いや。そうであって欲しい。
だから今こうして呑気に帰り支度をしている女が嫉妬に狂う姿を見たい気もするが、もしそうなれば自分より他人の幸せを願う女は笑顔でこう言うはずだ。

『道明寺、幸せになってね。それから奥さんと子供を大切にしてあげてね』

だがそんな言葉など聞きたくない。
司が妻にしたいのは、牧野つくしだけ。
子供を作りたいのも彼女とだけ。
そして幸せになりたいのも彼女とだけ。
他の女は誰も要らない。
そしてもちろん、他の女に興味はない。
だがそれは彼女も同じ。
二人はこれからもずっと一緒にいると決まっている。

「牧野。早く帰ろうぜ。・・・それから腹減っただろ?メシ食いに行こうぜ」

その言葉に嬉しそうに目を輝かす女は、今夜は何をご所望か?
ラーメンなら駅のガード下の来々軒。
カレーなら本格的なナンを出すインド人が経営するタージマハル。
ナンプラーの効いたタイ料理が食べたいならバンコク。
あの店のトムヤムクンとナマズ料理は本国にも負けない美味さがある。
そしてどの店も庶民的な味が売り物の店だ。

昔の司なら現地まで連れて行くのが当たり前だったが、今はどんな場所でも付き合う男は、随分と庶民の食べ物にも詳しくなり、彼女と食べる物ならどんなものでも美味いと思えるようになった。
そしてそれが、普段仕事が忙しい男の楽しみであり、ギスギスとしていた心が柔らかくなる瞬間だ。
そして彼女が美味そうに食べる姿を見るのが好きだ。
「美味いか?」と訊けば「うん。美味しいよ。アンタも食べる?」と言われれば喜んで彼女の箸を口に入れることが出来る。そして潔癖だと言われていた男の変わりように友人たちは驚くが、それが愛というものだ。


「お待たせ、道明寺」
「おう。じゃあ行くか?」
「うん!今日は何食べる?」
「お前の好きなものなら何でも」
「そう?じゃあねぇ・・・」

そう言って何を食べるか考え始めた女とは別に、司はその後のことを考えていた。
だが、がっつくのはみっともないといった思いから猛獣モードになるのはもう少し先だと我慢した。

そして近づいてきた女の肩に腕を回し、顔を傾けると優しくキスをした。





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今年の『金持ちの御曹司』は本日が最後です。
いつもお付き合いありがとうございます。(低頭)
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