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2017
11.19

金持ちの御曹司~頭をよせて~

いつもに増して忙しい男。
彼の名前は道明寺司。
道明寺財閥の御曹司と呼ばれ、道明寺HD日本支社の支社長であり、牧野つくしの恋人。
そんな男がこんな夢を見た。






道明寺家は過去に何人もの有力政治家を輩出しており、司も選挙区である地元世田谷からトップ当選を果たしていた。
何故道明寺家は多くの政治家を輩出して来たのか。決して個人の野心の為ではない。
それは道明寺一族のためであり、財閥の利権といったものを考えたとき、家族の中に政治家がいることが望ましいからだ。


選挙には『地盤、看板、鞄』の三バンが必要だと言われているが、司の場合どれも完璧に満たしており、何の心配もないと言われていた。

ちなみに地盤は選挙区における支持者の組織。
看板は知名度。
そして鞄とは資金のことだ。

支持者組織は、道明寺司後援会という名称だが、実際は『道明寺司ファンクラブ』といった方が正しい。
ちなみに司が演説を行えば、老若男女問わず誰もが聞き入り魅了される。
それは一本調子ではなく、抑揚をつけた語りかけが聴衆の胸にひびき、心を打たれるからだ。
そして、そんな演説を聞いた人々から後援会への入会が後を絶たず、その知名度は彼を知らない人間がいるとは思えないほど幅広く知られていた。
さらに資金力に至っては文句なし。なにしろ彼のバックには道明寺という巨大財閥がついているのだから金の心配など無用だ。

だが政治の世界では、コンニャクと言えば100万のことだが、レンガと言えば1000万と言われており、議員に頼みごとがある有権者は、それを包んで持参すると言われている。
だが司の場合そんなものは必要としない。何故なら議員の資産公開ともなれば、驚くほどの数字が国民の目に触れるのだから政治献金など一切必要ない。

けれど、並外れた財力を手にする男にも悩みがあった。
晴れ渡った空の日曜日の午後。
世田谷の邸のテラスでイギリス式ハイティーの必需品であるスコーンにクロテッドクリームを塗った男は秘書に言った。

「おい西田。牧野・・・牧野つくしは、あの女はいったい何を考えてる?」

「牧野つくし様ですか?」

「ああ。そうだ。牧野つくしだ」

「司様が高校生の頃お付き合いされていた牧野つくし様ですね?」

「・・・・・」

司は言葉に詰まった。
そして、手にしているスコーンをじっと見つめた。

「仕方がございません。今のあの方は野党の国会議員なのですから、総理である司様に質問する権利がございます」

司は若くして党の副幹事長を務め、いくつかの大臣職を経験した後、党総裁となり内閣総理大臣の職を務めるまでになった。

「だからと言って、なんであいつは俺に対してああも反抗的な態度を取る?」

「ああもとおっしゃいますが、それはいったいどういったことを示していらっしゃるのでしょうか?」

「決まってんだろうが。あの態度だ。・・・その・・どうして俺にああも冷たい?」

「それは司様が牧野様のことをお忘れになったばかりに、男性不信になられたのではないでしょうか。何しろ牧野様のことを好きだと言って周りの迷惑を顧みることもなく追いかけ回した果てにお忘れになられたのですから、あのような態度に出られても当然ではないでしょうか?」

司は高校生の頃牧野つくしに恋をしたが、彼女のことをすっかり忘れてしまった過去がある。それは彼のせいではなく、当時の財閥の強引なビジネス手法が招いた悪夢だ。

「けど俺はあいつを思い出してからすぐに謝りに行ったじゃねぇか!」

そしてその後、記憶を取り戻し、彼女の元へ行ったが許してもらえなかった。

「しかし許されなかった・・。仕方ございません。牧野様は頑ななところがありますから、あの方の中では今だに司様のことは許せない・・ということでしょう」

西田にそう言われた司は、怒ったように下唇を尖らせたが、スコーンを口に入れ、ストレートのアールグレイを口に運んだ。

彼女の記憶を取り戻した司は、以来何度も彼女の元を訪れては求愛したが、相手にされなかった。
そして月日は流れ、司は40歳で内閣総理大臣となり、国会では野党議員となった牧野つくし先生に責められていた。だが、その責めも自分が彼女を忘れてしまったが為であり、甘んじて受けなければならないと思っていた。

今では氷のように冷たい女と言われる牧野つくし。
英徳学園高等部を卒業後、抜群の成績で東京大学法学部を卒業。
当時は大蔵省と呼ばれていた今の財務省に入省した。そして数々の要職を務め上級の国家公務員となった彼女は財務省を退官後、政治の世界に打って出た。
そして、司に対して厳しいと言われる質問ばかりする。







「総理!総理!質問にお答えください!西門流茶道会館を建設するにあたり、国有地が不当に安く売却されたようですが、これはあなたと家元の西門総二郎氏との関係からいわゆる忖度といったものが働いたのではないでしょうか?」

今現在国政を騒がせているひとつに、総理のお友達問題と呼ばれる案件があり、その案件の為に常任委員会とは別に特別委員会が開かれていた。
そして、にわかに脚光を浴びるようになった忖度(そんたく)という言葉は、相手の心を推し量り配慮することであり、流行語と呼ばれている。そしてこの言葉を総理に対し使ったのはつくしが最初だ。

司は彼女の質問に答えるため手を上げた。
何故なら発言する者は挙手をし、委員長に発言指名をされなければ発言出来ない決まりだからだ。

「道明寺内閣総理大臣」

「いいえ。そういったことは一切ございません。お考え過ぎではないでしょうか?」

司は立ち上ってマイクの前まで行き、発言した。
そしてまた席に戻った。

「そうですか。それでは再び総理にお聞きします。やはり西門総二郎氏が運営する西門学園が国家戦略特区と呼ばれる地域に大学を建設しようとしていますが、こちらの件をいかがお考えでしょうか?この大学は茶道文化を学び、その文化を海外に伝えるといったことを目的とすると言いますが、そのような大学が本当に必要なのでしょうか?今までこのような趣旨の大学の開学を認められたことはありません。それなのに文科省に許可されたのは不思議としか言いようがありません。これはやはりあなたのお友達である西門総二郎氏に対する忖度が働いたのではないでしょうか?もしくは総理のご発言の中に西門学園の開学を望むような趣旨があったのではないでしょうか?」

「道明寺内閣総理大臣」

手を上げ名前を呼ばれた司は再びマイクまで歩いて行き、発言した。

「牧野議員。それはお考え過ぎではないでしょうか?確かに私と西門氏は幼馴染みであり、親しい関係にありますが、政治とプライベートは全く関係ありません。彼と大学の開学について話しをしたことはございません」

司は愛おし女を見つめながら冷静に答えた。
今ではこうして国会議事堂の中でしか会えない彼女。
そしてすぐ傍に、あと数歩の場所に彼女がいると思うと気持ちがざわめいていた。

「道明寺総理。あなたは今ご自身が疑惑の総合商社と呼ばれていることをご存知ですか?」

だが二人の間に甘い会話が交わされることは決してなく、棘を含む話ばかりが繰り返される。

「牧野議員。道明寺は商社ではありません。商社なら美作商事か、花沢物産をあたって下さい」

「そういう意味ではありません!お友達と呼ばれる方々の仕事のために色々と便宜を図っているといった噂があるんです。現に海外で日本の資金援助で建設される水道事業に関しあなたは花沢物産系の会社を指名するような発言をしたといった話しがありますが、その件についてお答え下さい」

政治は駆け引きが必要だが、恋にも駆け引きが必要であり、こうした委員会や本会議での質問も恋の前戯と思えば楽しいのだが、長年の恋の宿敵。類の会社の名前があがった途端、司の顔に厳しさが浮かんでいた。

「牧野議員。逆にこちらからお伺したいですね?あなたは花沢物産社長の花沢類氏とはどういったご関係なのでしょう?花沢氏は既婚者です。そんな男性と親しげに過ごしているといった話しがありますが、それはどうご説明をして下さるのでしょうか?」

類と牧野つくしが親しげに道を歩いているという情報が耳に入り、司はすぐさま類に電話をした。すると、ああ、あれはなんでもないよ。旧友として久し振りに食事をしただけだよ。と笑って言われた。

だが類は既婚の身だが間もなく離婚するという。そうなると、司にとってはライバルとしか思えない。しかし類は彼にとって大親友であり幼馴染みだ。だから類の言葉を信じたい。
だが前科がある。

「道明寺総理。今は私のことではなく、あなたに対して私が質問する時間のはずですが、まあいいでしょう。あなたのご質問にお答えしましょう。彼とは10代の頃からの知り合いであり単なる友人です。ですから男と女の一線は超えてはいません」

「・・・ふん・・。そうか?一線は超えてないって?お前は昔南の島で俺に嘘をついて夜中にあいつと抱き合ってたことがあっただろうが。あん時と同じなら承知しねぇからな!」

突然変わった司の口調に委員会室がざわめいた。
そして委員長が総理の激変ぶりに慌てて口を挟んだが低い声で黙ってろと一蹴され、室内は水を打ったような静けさに包まれ、そんな中で二人の口論が始まった。
そして共に自分達が立っていた場所から歩みよりではないが、今では二人は50センチも離れない場所で顔を突き合わせ睨み合っているが、185センチの司に対しヒールの高い靴を履いているとしても、女の背は低く司が見下ろす形だ。

「ち、ちょっと!なっ、なに言ってるのよ!変な言いがかりをつけないでよ!」

「何が変な言いがかりだ!お前は夜中に俺がいる部屋から抜け出して他の男に会いに行く女だろうが!誰が眠れなくて散歩してただって?あのとき類と真夜中の密会ってやつでキスして抱き合ってただろうが!」

司は遠い昔のことが頭を過った。
それは、藤堂静への思いに悩んでいた類を抱きしめていた女の姿。

「そんな大昔の話持ち出さないでよ!それにど、どうしてあたしが今更類と抱き合わなきゃいけないのよ!類はね、あんたがあたしを忘れてからもずっとあたしのことを見守ってくれてたんだからね!言っときますけどね、あたしはね、あんたみたいに軽々しいことなんてしてません!」

「何が軽々しいんだよ!」

「何って軽々しいじゃない!あたしのことだけ忘れちゃって、別の女を傍に置いて・・なにが海よ!だいたいね、海だか山だか湖だか知らないけどね?あたしはあんたのことを忘れたことは一度もなかったわよ!今の今まで一度もね!」

「俺だってお前のことを思い出してからは、あんなことは一度もしたことはねぇぞ!それに何度も謝ったじゃねぇか!それなのに許そうとしねぇのはお前の方だろうが!」

「分かってるわよ!」

今は顔を真っ赤にして憤っている女の本音が語られた。
『あたしはあんたのことを忘れたことは一度も無かった』
その言葉がどれほど嬉しいか。
司は天にも昇る気持ちだ。

「分かってるんなら何が問題なんだよ?俺は独身。お前も独身。何の問題がある?それともアレか?与党と野党で政策の違う党の二人が一緒になることが問題なのか?そんなこと愛し合う二人の前には関係ねぇだろ?」

政治的な思考と愛の思考は違うはずだ。
事実政党を超えた愛は実在する。

「違うわよ・・もう時間が経ち過ぎてるのよ!・・それにあたしはもう40歳よ?あんたには、こんなおばさんじゃなくてもっと若い子がいいのよ・・」

「牧野・・・」

「なによ!言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃない!言いなさいよ!」

司より随分と小さい女は彼に向かってやたらと反論を繰り返すが、それは昔からであり、素直じゃないところは全く変わらない。だが、司も昔と変わらない一念の男であり、ここでこうして本音で会話が出来る以上簡単に諦める訳にはいかない。

「欲しかったんだろ?」

「何がよ!」

「だから俺が。いつまでも意地張って自分の気持ちを偽ってんじゃ人生楽しくねぇだろ?俺のことが今でも好きだって認めろよ。俺はお前以外の女なんて欲しくねぇからな。牧野、今も昔も俺にはお前だけだ」

50センチあった二人の間。
だが今はもうその距離はない。
それは、司の手が彼女の身体に回されると、力強く抱きしめていたからだ。
そして彼の胸の中で呟いている彼女の言葉を聞きた。

「・・・ばか。あんたなんか大嫌い」と。
だがそれが彼女なりの愛情表現だと分かっているから怒ることはない。
だから司は言った。「大嫌いで結構。俺はお前のことが大好きだ」と。
そしてこの様子はテレビで中継されており、全国民の知るところとなった。

道明寺総理。野党議員牧野つくしと熱愛発覚!
委員会中に抱き合う!
高校時代の恋人と復縁!
今後の国会運営に影響か?!
etc.etc.etc.・・・

そして中継をしていた国営放送は、中継の途中ですが番組を変更致します、とテロップが流れ『名曲アルバム』に切り替わり、クラッシックの名曲と共に、ヨーロッパの美しい風景が流れ始めた。
そして丁度その頃、総理である司がつくしに思いっきり激しいキスをしていた。












道明寺。と柔らかな声で呼びかけられ目が覚めた。
そして心配そうな顔で「大丈夫?」と聞かれた。

彼はベッドの中にいて、彼女は傍に置かれた椅子に腰かけていた。
そしてタオルが額に置かれていた。

司は目の前が真っ暗になり執務室で倒れた。
悪い病気ではという思いが頭を過ったが、医師には疲労と寝不足が重なったためでしょうと言われ安堵した。

健康には自信があるが、それでも忙しい日が続けば、体力が奪われる。
そして、そんな男を心配する愛しい人の顔は間近にあり、タオルを取り換えようと、頬に息が感じられた。


寝ている間に夢を見た。
何故か舞台が政治に関するものであり、そして二人は長い間離れ離れになっていた事を言い合っていた。
だが今の司の心は、彼女の顔を見た途端弾んだ。
西田がすぐに彼女に連絡をしたが、倒れた自分の元にすぐに駆けつけてくれ、傍にいてくれたことが嬉しくてたまらなかった。
何度も道明寺大丈夫?と呼ばれることが嬉しいと感じ、その度幸福に包まれ、さっき見た夢の名残りはここにないのだと胸を撫で下ろす。

そしてどうしたの?と聞かれ夢を見たと答えた。
二人が長い間離れ離れでいた夢を、と。
すると彼女は、あたしたちもう離れないって誓ったでしょ?と言って笑った。
「そうだな。これから先もずっと一緒にいてくれるんだよな?」と司は返した。
そして目蓋を閉じたが、暫くして取り換えられたタオルが額に置かれ、その冷たさに目を開くと、すぐそこに心配そうな顔があった。

司は彼女の小さな手を包み込むように掴んだ。
その手はタオルの冷たさ以上に冷えていた。だからその手が早く暖かさを取り戻すようにしっかりと包み込み、布団の中に引き込んだ。
そして目の前にあった唇に唇を重ね、彼女の頭を自分の胸の上に乗せ、滑らかな黒髪を撫で始めた。

「何も心配することねぇからな。俺はお前の傍にずっといてやるから」
と言って。





今の二人は、あの頃とは違い常に一緒にいることが当たり前となっているが、それはどちらかが一方的に相手を必要としているというのではない。
繋いだ手の暖かさが生きていく意味を教えてくれたのは彼女だが、互いが互いを必要としていて、永遠が互いの手の中にあるから一緒にいたいと思っている。
そしてそれは二人の間にある強い絆。
それをはっきりと認識したのは、無人島と思われていた島に拉致され、二人で夜を過ごした日だ。それまで司の周りにあったすべての孤独な夜が無くなった日であり、離れたくない。どこへも行かないでという言葉を告げられた日でもあった。
その言葉が男にとってどれだけ嬉しい言葉か。
あの日のことは一生忘れることはないと断言できる。
そして、頭をよせ合い互いの思いを伝えたが、頭をよせる事は、心をよせる事でもあり、互いの気持ちが近づく瞬間でもある。


そのとき、彼女が彼の胸から顔を上げ、司を見た。
その目はさっきまで感じられた不安の影は去り、柔らかな光りがあった。


司は頭をよせ、再び唇を重ね合わせたが、こうして頭をよせる相手がいることの幸せを噛みしめていた。

そしてこれからもっと幸せになろうな。と囁いた。





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