2017
11.19

金持ちの御曹司~頭をよせて~

いつもに増して忙しい男。
彼の名前は道明寺司。
道明寺財閥の御曹司と呼ばれ、道明寺HD日本支社の支社長であり、牧野つくしの恋人。
そんな男がこんな夢を見た。






道明寺家は過去に何人もの有力政治家を輩出しており、司も選挙区である地元世田谷からトップ当選を果たしていた。
何故道明寺家は多くの政治家を輩出して来たのか。決して個人の野心の為ではない。
それは道明寺一族のためであり、財閥の利権といったものを考えたとき、家族の中に政治家がいることが望ましいからだ。


選挙には『地盤、看板、鞄』の三バンが必要だと言われているが、司の場合どれも完璧に満たしており、何の心配もないと言われていた。

ちなみに地盤は選挙区における支持者の組織。
看板は知名度。
そして鞄とは資金のことだ。

支持者組織は、道明寺司後援会という名称だが、実際は『道明寺司ファンクラブ』といった方が正しい。
ちなみに司が演説を行えば、老若男女問わず誰もが聞き入り魅了される。
それは一本調子ではなく、抑揚をつけた語りかけが聴衆の胸にひびき、心を打たれるからだ。
そして、そんな演説を聞いた人々から後援会への入会が後を絶たず、その知名度は彼を知らない人間がいるとは思えないほど幅広く知られていた。
さらに資金力に至っては文句なし。なにしろ彼のバックには道明寺という巨大財閥がついているのだから金の心配など無用だ。

だが政治の世界では、コンニャクと言えば100万のことだが、レンガと言えば1000万と言われており、議員に頼みごとがある有権者は、それを包んで持参すると言われている。
だが司の場合そんなものは必要としない。何故なら議員の資産公開ともなれば、驚くほどの数字が国民の目に触れるのだから政治献金など一切必要ない。

けれど、並外れた財力を手にする男にも悩みがあった。
晴れ渡った空の日曜日の午後。
世田谷の邸のテラスでイギリス式ハイティーの必需品であるスコーンにクロテッドクリームを塗った男は秘書に言った。

「おい西田。牧野・・・牧野つくしは、あの女はいったい何を考えてる?」

「牧野つくし様ですか?」

「ああ。そうだ。牧野つくしだ」

「司様が高校生の頃お付き合いされていた牧野つくし様ですね?」

「・・・・・」

司は言葉に詰まった。
そして、手にしているスコーンをじっと見つめた。

「仕方がございません。今のあの方は野党の国会議員なのですから、総理である司様に質問する権利がございます」

司は若くして党の副幹事長を務め、いくつかの大臣職を経験した後、党総裁となり内閣総理大臣の職を務めるまでになった。

「だからと言って、なんであいつは俺に対してああも反抗的な態度を取る?」

「ああもとおっしゃいますが、それはいったいどういったことを示していらっしゃるのでしょうか?」

「決まってんだろうが。あの態度だ。・・・その・・どうして俺にああも冷たい?」

「それは司様が牧野様のことをお忘れになったばかりに、男性不信になられたのではないでしょうか。何しろ牧野様のことを好きだと言って周りの迷惑を顧みることもなく追いかけ回した果てにお忘れになられたのですから、あのような態度に出られても当然ではないでしょうか?」

司は高校生の頃牧野つくしに恋をしたが、彼女のことをすっかり忘れてしまった過去がある。それは彼のせいではなく、当時の財閥の強引なビジネス手法が招いた悪夢だ。

「けど俺はあいつを思い出してからすぐに謝りに行ったじゃねぇか!」

そしてその後、記憶を取り戻し、彼女の元へ行ったが許してもらえなかった。

「しかし許されなかった・・。仕方ございません。牧野様は頑ななところがありますから、あの方の中では今だに司様のことは許せない・・ということでしょう」

西田にそう言われた司は、怒ったように下唇を尖らせたが、スコーンを口に入れ、ストレートのアールグレイを口に運んだ。

彼女の記憶を取り戻した司は、以来何度も彼女の元を訪れては求愛したが、相手にされなかった。
そして月日は流れ、司は40歳で内閣総理大臣となり、国会では野党議員となった牧野つくし先生に責められていた。だが、その責めも自分が彼女を忘れてしまったが為であり、甘んじて受けなければならないと思っていた。

今では氷のように冷たい女と言われる牧野つくし。
英徳学園高等部を卒業後、抜群の成績で東京大学法学部を卒業。
当時は大蔵省と呼ばれていた今の財務省に入省した。そして数々の要職を務め上級の国家公務員となった彼女は財務省を退官後、政治の世界に打って出た。
そして、司に対して厳しいと言われる質問ばかりする。







「総理!総理!質問にお答えください!西門流茶道会館を建設するにあたり、国有地が不当に安く売却されたようですが、これはあなたと家元の西門総二郎氏との関係からいわゆる忖度といったものが働いたのではないでしょうか?」

今現在国政を騒がせているひとつに、総理のお友達問題と呼ばれる案件があり、その案件の為に常任委員会とは別に特別委員会が開かれていた。
そして、にわかに脚光を浴びるようになった忖度(そんたく)という言葉は、相手の心を推し量り配慮することであり、流行語と呼ばれている。そしてこの言葉を総理に対し使ったのはつくしが最初だ。

司は彼女の質問に答えるため手を上げた。
何故なら発言する者は挙手をし、委員長に発言指名をされなければ発言出来ない決まりだからだ。

「道明寺内閣総理大臣」

「いいえ。そういったことは一切ございません。お考え過ぎではないでしょうか?」

司は立ち上ってマイクの前まで行き、発言した。
そしてまた席に戻った。

「そうですか。それでは再び総理にお聞きします。やはり西門総二郎氏が運営する西門学園が国家戦略特区と呼ばれる地域に大学を建設しようとしていますが、こちらの件をいかがお考えでしょうか?この大学は茶道文化を学び、その文化を海外に伝えるといったことを目的とすると言いますが、そのような大学が本当に必要なのでしょうか?今までこのような趣旨の大学の開学を認められたことはありません。それなのに文科省に許可されたのは不思議としか言いようがありません。これはやはりあなたのお友達である西門総二郎氏に対する忖度が働いたのではないでしょうか?もしくは総理のご発言の中に西門学園の開学を望むような趣旨があったのではないでしょうか?」

「道明寺内閣総理大臣」

手を上げ名前を呼ばれた司は再びマイクまで歩いて行き、発言した。

「牧野議員。それはお考え過ぎではないでしょうか?確かに私と西門氏は幼馴染みであり、親しい関係にありますが、政治とプライベートは全く関係ありません。彼と大学の開学について話しをしたことはございません」

司は愛おし女を見つめながら冷静に答えた。
今ではこうして国会議事堂の中でしか会えない彼女。
そしてすぐ傍に、あと数歩の場所に彼女がいると思うと気持ちがざわめいていた。

「道明寺総理。あなたは今ご自身が疑惑の総合商社と呼ばれていることをご存知ですか?」

だが二人の間に甘い会話が交わされることは決してなく、棘を含む話ばかりが繰り返される。

「牧野議員。道明寺は商社ではありません。商社なら美作商事か、花沢物産をあたって下さい」

「そういう意味ではありません!お友達と呼ばれる方々の仕事のために色々と便宜を図っているといった噂があるんです。現に海外で日本の資金援助で建設される水道事業に関しあなたは花沢物産系の会社を指名するような発言をしたといった話しがありますが、その件についてお答え下さい」

政治は駆け引きが必要だが、恋にも駆け引きが必要であり、こうした委員会や本会議での質問も恋の前戯と思えば楽しいのだが、長年の恋の宿敵。類の会社の名前があがった途端、司の顔に厳しさが浮かんでいた。

「牧野議員。逆にこちらからお伺したいですね?あなたは花沢物産社長の花沢類氏とはどういったご関係なのでしょう?花沢氏は既婚者です。そんな男性と親しげに過ごしているといった話しがありますが、それはどうご説明をして下さるのでしょうか?」

類と牧野つくしが親しげに道を歩いているという情報が耳に入り、司はすぐさま類に電話をした。すると、ああ、あれはなんでもないよ。旧友として久し振りに食事をしただけだよ。と笑って言われた。

だが類は既婚の身だが間もなく離婚するという。そうなると、司にとってはライバルとしか思えない。しかし類は彼にとって大親友であり幼馴染みだ。だから類の言葉を信じたい。
だが前科がある。

「道明寺総理。今は私のことではなく、あなたに対して私が質問する時間のはずですが、まあいいでしょう。あなたのご質問にお答えしましょう。彼とは10代の頃からの知り合いであり単なる友人です。ですから男と女の一線は超えてはいません」

「・・・ふん・・。そうか?一線は超えてないって?お前は昔南の島で俺に嘘をついて夜中にあいつと抱き合ってたことがあっただろうが。あん時と同じなら承知しねぇからな!」

突然変わった司の口調に委員会室がざわめいた。
そして委員長が総理の激変ぶりに慌てて口を挟んだが低い声で黙ってろと一蹴され、室内は水を打ったような静けさに包まれ、そんな中で二人の口論が始まった。
そして共に自分達が立っていた場所から歩みよりではないが、今では二人は50センチも離れない場所で顔を突き合わせ睨み合っているが、185センチの司に対しヒールの高い靴を履いているとしても、女の背は低く司が見下ろす形だ。

「ち、ちょっと!なっ、なに言ってるのよ!変な言いがかりをつけないでよ!」

「何が変な言いがかりだ!お前は夜中に俺がいる部屋から抜け出して他の男に会いに行く女だろうが!誰が眠れなくて散歩してただって?あのとき類と真夜中の密会ってやつでキスして抱き合ってただろうが!」

司は遠い昔のことが頭を過った。
それは、藤堂静への思いに悩んでいた類を抱きしめていた女の姿。

「そんな大昔の話持ち出さないでよ!それにど、どうしてあたしが今更類と抱き合わなきゃいけないのよ!類はね、あんたがあたしを忘れてからもずっとあたしのことを見守ってくれてたんだからね!言っときますけどね、あたしはね、あんたみたいに軽々しいことなんてしてません!」

「何が軽々しいんだよ!」

「何って軽々しいじゃない!あたしのことだけ忘れちゃって、別の女を傍に置いて・・なにが海よ!だいたいね、海だか山だか湖だか知らないけどね?あたしはあんたのことを忘れたことは一度もなかったわよ!今の今まで一度もね!」

「俺だってお前のことを思い出してからは、あんなことは一度もしたことはねぇぞ!それに何度も謝ったじゃねぇか!それなのに許そうとしねぇのはお前の方だろうが!」

「分かってるわよ!」

今は顔を真っ赤にして憤っている女の本音が語られた。
『あたしはあんたのことを忘れたことは一度も無かった』
その言葉がどれほど嬉しいか。
司は天にも昇る気持ちだ。

「分かってるんなら何が問題なんだよ?俺は独身。お前も独身。何の問題がある?それともアレか?与党と野党で政策の違う党の二人が一緒になることが問題なのか?そんなこと愛し合う二人の前には関係ねぇだろ?」

政治的な思考と愛の思考は違うはずだ。
事実政党を超えた愛は実在する。

「違うわよ・・もう時間が経ち過ぎてるのよ!・・それにあたしはもう40歳よ?あんたには、こんなおばさんじゃなくてもっと若い子がいいのよ・・」

「牧野・・・」

「なによ!言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃない!言いなさいよ!」

司より随分と小さい女は彼に向かってやたらと反論を繰り返すが、それは昔からであり、素直じゃないところは全く変わらない。だが、司も昔と変わらない一念の男であり、ここでこうして本音で会話が出来る以上簡単に諦める訳にはいかない。

「欲しかったんだろ?」

「何がよ!」

「だから俺が。いつまでも意地張って自分の気持ちを偽ってんじゃ人生楽しくねぇだろ?俺のことが今でも好きだって認めろよ。俺はお前以外の女なんて欲しくねぇからな。牧野、今も昔も俺にはお前だけだ」

50センチあった二人の間。
だが今はもうその距離はない。
それは、司の手が彼女の身体に回されると、力強く抱きしめていたからだ。
そして彼の胸の中で呟いている彼女の言葉を聞きた。

「・・・ばか。あんたなんか大嫌い」と。
だがそれが彼女なりの愛情表現だと分かっているから怒ることはない。
だから司は言った。「大嫌いで結構。俺はお前のことが大好きだ」と。
そしてこの様子はテレビで中継されており、全国民の知るところとなった。

道明寺総理。野党議員牧野つくしと熱愛発覚!
委員会中に抱き合う!
高校時代の恋人と復縁!
今後の国会運営に影響か?!
etc.etc.etc.・・・

そして中継をしていた国営放送は、中継の途中ですが番組を変更致します、とテロップが流れ『名曲アルバム』に切り替わり、クラッシックの名曲と共に、ヨーロッパの美しい風景が流れ始めた。
そして丁度その頃、総理である司がつくしに思いっきり激しいキスをしていた。












道明寺。と柔らかな声で呼びかけられ目が覚めた。
そして心配そうな顔で「大丈夫?」と聞かれた。

彼はベッドの中にいて、彼女は傍に置かれた椅子に腰かけていた。
そしてタオルが額に置かれていた。

司は目の前が真っ暗になり執務室で倒れた。
悪い病気ではという思いが頭を過ったが、医師には疲労と寝不足が重なったためでしょうと言われ安堵した。

健康には自信があるが、それでも忙しい日が続けば、体力が奪われる。
そして、そんな男を心配する愛しい人の顔は間近にあり、タオルを取り換えようと、頬に息が感じられた。


寝ている間に夢を見た。
何故か舞台が政治に関するものであり、そして二人は長い間離れ離れになっていた事を言い合っていた。
だが今の司の心は、彼女の顔を見た途端弾んだ。
西田がすぐに彼女に連絡をしたが、倒れた自分の元にすぐに駆けつけてくれ、傍にいてくれたことが嬉しくてたまらなかった。
何度も道明寺大丈夫?と呼ばれることが嬉しいと感じ、その度幸福に包まれ、さっき見た夢の名残りはここにないのだと胸を撫で下ろす。

そしてどうしたの?と聞かれ夢を見たと答えた。
二人が長い間離れ離れでいた夢を、と。
すると彼女は、あたしたちもう離れないって誓ったでしょ?と言って笑った。
「そうだな。これから先もずっと一緒にいてくれるんだよな?」と司は返した。
そして目蓋を閉じたが、暫くして取り換えられたタオルが額に置かれ、その冷たさに目を開くと、すぐそこに心配そうな顔があった。

司は彼女の小さな手を包み込むように掴んだ。
その手はタオルの冷たさ以上に冷えていた。だからその手が早く暖かさを取り戻すようにしっかりと包み込み、布団の中に引き込んだ。
そして目の前にあった唇に唇を重ね、彼女の頭を自分の胸の上に乗せ、滑らかな黒髪を撫で始めた。

「何も心配することねぇからな。俺はお前の傍にずっといてやるから」
と言って。





今の二人は、あの頃とは違い常に一緒にいることが当たり前となっているが、それはどちらかが一方的に相手を必要としているというのではない。
繋いだ手の暖かさが生きていく意味を教えてくれたのは彼女だが、互いが互いを必要としていて、永遠が互いの手の中にあるから一緒にいたいと思っている。
そしてそれは二人の間にある強い絆。
それをはっきりと認識したのは、無人島と思われていた島に拉致され、二人で夜を過ごした日だ。それまで司の周りにあったすべての孤独な夜が無くなった日であり、離れたくない。どこへも行かないでという言葉を告げられた日でもあった。
その言葉が男にとってどれだけ嬉しい言葉か。
あの日のことは一生忘れることはないと断言できる。
そして、頭をよせ合い互いの思いを伝えたが、頭をよせる事は、心をよせる事でもあり、互いの気持ちが近づく瞬間でもある。


そのとき、彼女が彼の胸から顔を上げ、司を見た。
その目はさっきまで感じられた不安の影は去り、柔らかな光りがあった。


司は頭をよせ、再び唇を重ね合わせたが、こうして頭をよせる相手がいることの幸せを噛みしめていた。

そしてこれからもっと幸せになろうな。と囁いた。





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2017
10.15

金持ちの御曹司~誘惑~

最近日系英国人の作家がノーベル文学賞を受賞したことが話題になったが、今日の司は珍しく時間が取れたこともあり、久し振りに読書でもするかといった気になっていた。

普段忙しい彼が、読書をする時間などあるはずもなく、読むといえば、経済新聞かビジネス雑誌といった分野になるのだが、秋の夜長、読書の秋。今回は文芸と呼ばれる本を読もうと思っていた。

世田谷の邸には、英国貴族の邸と見紛うばかり立派な図書室といったものがある。
そしてそこには、道明寺家代々の当主が世界各国から集めた貴重な初版本といったものがコレクションとして収められているが、『書籍』という物体を愛する、ビブリオフィリアと呼ばれる書籍愛好家からすれば、喉から手が出るほど欲しい本が並べられており、まさに垂涎の的といった図書室だ。

そして、そんな図書室には、世間で話題となった本も収めてあった。

司は書棚の前まで来ると、ズラリと並んだ蔵書の中から2冊の本を取り出した。
なぜ2冊なのか。何故なら上下巻に別れていたからだ。

そして司が手に取ったそれは、かつて日本経済新聞に連載されていた小説の本。
当時、経済新聞に連載するに内容が相応しくないのでは?といった意見もあったその小説。
それぞれ家庭を持つ中年の男女が不倫の末、心中するといった内容の小説。
それは、アダムとイブが蛇にそそのかされ、善悪の知恵の実を食べ、天国を追放されることを表す『失楽園』という名前のつけられた小説だった。

そう言えば、当時タマが、その新聞を読み終わったらタマに下さいまし。と言っていたのを思い出した。
そしてその小説は、その後映画になり、テレビドラマにもなったが、性的描写が生々しいことが話題になった。だが司は読んだことがなかった。

ただ、新聞の性質から、読者はビジネスマンが多く、ひと前で堂々とそういった小説が読めることが世の中年男性には有難かったといった話も聞いた。
何しろ、日本を代表する経済新聞だ。どこで広げていたとしても恥ずかしくない。
それにその小説だけを目当てに広げているとは誰も思わないはずだ。

そして不倫をしている男と女の気持ちが分るからと言って、その映画を見ろとやたらと熱心に勧めて来たのが、あきらだった。だが司は、不倫映画なんて俺とつくしの間には関係ねぇと一蹴した。
それに、もしそんな映画を見ていたことをつくしに知られると、恐ろしい誤解が生じるような気がしていたからだ。
そして、あきらがDVDを貸してやると言って置いて行ったが、何故かそのDVDは未だに司の部屋にある。ただ、そこにあると、つくしに見つかったとき、説明に苦慮することが分かっているだけに、早々にあきらに返そうと思っていた。




速読家の司は、あっという間に本を読み終えるとパタンと閉じた。
若い頃は読む気がしなかったその本。
だが何故か今は、妄想の翼が広げられたような気がしていた。
そして、あきらが熱心に勧めていた気持ちが分かったような気がしていた。

ひと言で言えば、いやらしい内容の小説。
大人の男女の性愛にスポットを当てた小説。
人妻を性に目覚めさせ、溺れさせるといった内容が書かれた小説。
そういった小説は、どちらかといえば隠れてこっそり読むことが主流だったあの頃。
それなのに、そんな内容の小説が堂々と読める経済新聞に掲載されていたことを考えれば、発行部数が飛躍的に伸びたはずだ。

そして、司の父親もその新聞を読んでいた。それならば、執務室で堂々と読んでいたのではないか。そんな思いが頭を過った。
だがそれは、司の父親だけではないはずだ。
名だたる企業トップも目を通すと言われる経済新聞だ。
真面目な顔をしたあの企業経営者も、あそこの堅物親父も、そんなことには一切興味がないといったジジイも、毎朝執務室に届けられる新聞を楽しみにしていたということになる。

そして司は思った。
たまには本を読むのもいいものだと。
そして、読んでみれば実に想像力に富んだ作品だと感じた。
ただそれは、ある一点だけに集中していた。

もし、司が主人公で、つくしが不倫相手の女だとすれば、といったことに。









「道明寺支社長。今回はインタビューに応じて下さってありがとうございます。記事は来月号から掲載されますので、原稿が出来上がり次第お持ちいたします」

つくしは、婦人雑誌の記者として道明寺HD日本支社長である道明寺司の取材に来ていた。
取材など殆ど受けたことがないと言われる司のインタビューの約束が取れたのは、まさに奇跡。司の気まぐれとしか言えないことだった。

取材は当初1日で終わる予定だったが、司の希望で1日では話足りないということになり、3日間という異例の取材となった。そして今日がその最終日だった。

「牧野さん。こちらこそ、今回はとても有意義な時間が持てたことを嬉しく思う。あなたは聞き上手だ。聞く力といったものをお持ちだ。そのうえお話をしていて楽しい。あなたならまた次のインタビューも受けたいと思っている」

「・・道明寺支社長。ありがとうございます。お世辞だとしても、出版社に勤める人間として大変光栄です」

「いや。世辞など言ったつもりはない。私は本当のことしか口に出さない男だ。不思議なことだが、あなたと話をしているとおおらかな気持ちになれる。・・それは、あなたの雰囲気がそうさせるのでしょう」

司はソファの真正面に腰を下ろしたつくしの瞳をじっと見つめた。
そして暫く黙ったあと、ゆっくりと口を開いた。

「・・こんなことを申し上げるべきではないと思いますが、私は一目見てあなたの事が気に入りました。いや、気に入ったなんて言葉では済まされない。好きになったといった言葉の方が正しいはすだ。だがご存知の通り私は結婚している。しかし妻といっても名ばかりだ。だから離婚するつもりだ」

「道明寺支社長・・でもそんなことが出来るはずがないわ・・だってあなたの奥様は・・大河原財閥のお嬢様です。とてもそんなことが出来るとは思えません」

「何故だ?」

司の声色が変わった。

「・・何故出来ない?・・俺は全てを捨ててもいいと思ってる。お前さえいてくれればそれでいい。俺たちがこうして再会したのは運命だ・・そうだろ、つくし。・・・俺は・・あの時・・家のため、財閥のため、お前を・・お前を捨てた・・だがこうして巡り会えたことは運命だ。なあ・・そうだろ?今の俺は何も躊躇うことなんてねぇんだ・・もう他人行儀は止めてくれ!」

「道明寺・・・」


二人は遠い昔、恋人同士だった。
だが、司は経営が傾いた道明寺の家を見捨てることが出来なかった。
だがそれは、家のためではない。世界中にいる何十万という従業員とその家族のため、彼は犠牲になった。それが企業経営者としての責任というものだから。

「つくし・・もう一度俺とやり直そう・・いや・・・やり直してくれ」

「ダメよ・・あたしは、牧野の名前で仕事をしてるけど結婚してる・・だから・・」

「ああ・・知ってる。お前が結婚したって話はあきらから聞いた。・・けど俺はお前のことが諦めきれなかった!」

「道明寺・・ダメよ・・今更そんな・・・」




だが二人は気持ちが抑えきれなかった。
その日から毎週のように会い、身体を重ねた。
場所は、都内のホテル。
伊豆の別荘。
軽井沢の別荘。
しかし、司が自分の車で迎えに来ることはなく、二人とも密会場所を一歩出れば赤の他人を装った。司は大企業の経営者。そしてつくしは名の知れた出版社で働く記者。そして共に家庭のある身。そんな二人がスキャンダルに巻き込まれる訳にはいかなかった。
だが二人は週に一度の関係だけでは耐えられなくなり、一分一秒たりとも離れたくないと思うようになっていた。

ずっと一緒にいたい。

離れたくない。

どこにも行かないで。

そんな思いが積み重なり、心の奥底へ暗い闇が広がるようになっていた。
そして司も、一秒たりともつくしから目が離せなかった。
白く柔らかな肌が他の男のものだとしても、それはもう過去のことだと。
今は二人がこうして一緒いることが当たり前のようになっていた。

やがて二人の関係が週刊誌に取り上げられるようになり、つくしは夫と離婚したが、司の妻は別れようとしなかった。それでも二人は迷うことなく互いの手を取った。



「・・つくし・・愛してる・・」

「つかさ・・」

「・・いいのか?本当に」

「ええ。構わないわ。あんたと一緒なら地獄でも行ける。だからお願い・・」

二人は見つめ合った。
司は、つくしの手にワイングラスを握らせ、それから自らもグラスを握った。
そして二人は全裸のまま乾杯をした。

「・・あんたと一緒に死ぬのは怖くないわ・・」

空腹の胃に沈殿していく毒を含む芳醇な香りのルビー色の液体が、大きな瞳を恍惚とした表情に変えていく。

「・・俺もだ。お前がいれば地獄も天国だろうよ」

空になったグラスが床に転がると、二人は長いキスを交わし、酔いが回ってきたつくしの身体は抱え込まれ、もう二度と離れたくないと身体を絡めながら愛し合った。
やがて身体の芯が収縮すると司を締め付け、危険で誇り高いと言われた男と、かつて彼の恋人だった女は共に絶頂を迎え、意識は眠りの膜に包まれていた。










「・・・つ・・さ・・つか・・・司!!」

「あ?」

「あじゃないでしょ?ちょっと何やってるのよ?いつまで待っても帰ってこないから、滋ちゃんが探しに来たのよ?ホントにもう・・何こんなところで寝てるのよ!」

と言われた司は、道明寺邸の中の図書室にあるカウチで眠っていた。
何故図書室に立ち寄ったか。それは滋が見せて欲しいといった『不思議の国のアリス』を書いた英国人のルイス・キャロル自身が手書きで挿絵を描いた世界に一冊しかない『地下の国のアリス』という本を探しに来たからだ。

それは、『不思議の国のアリス』原型となった物語だが、本は現在大英図書館にあり、展示されていると言われているが、それは偽物であり、司が子供の頃からここにある本が本物だと言われていた。
だがその本を手にとった途端、まさに不思議の国に誘われたように、眠りに落ちていた。



「ねえ。もしかしてアリスみたいに白いウサギを追っかけて夢の世界に旅立ってた?だって司は子供の頃、楓小母様からウサギのぬいぐるみをもらって大切にしてたって話、知ってるわよ?・・もしかして、今でも大切にしてるとか?」

ニヤニヤ笑いを浮かべた滋は訳知り顔で司の片腹を肘で突いた。

「アホか!そんなことあるわけねーだろうが!・・・疲れてたからちょっとウトウトしただけだ!・・おい、この本だろ?お前が見たがってた本!」

司は手元に置かれた古い一冊の本を滋に押し付けた。

「わあ~!ありがとう!まさかこの本が道明寺邸にあるなんて、イギリス人もびっくりよね?」

司に言わせれば、昔から突拍子もないことばかり思いつく滋の方が余程びっくりな存在だ。
やたらと変装したがる、といった趣味のある女の邸には、自前の劇団が持てるのではないかというほどの衣裳部屋なるものが存在するからだ。

それに、滋は不思議の国のアリスに出てくる、いたずら好きのチュシャ猫に思えて仕方がなかった。何しろ、今まで起きた騒動の原因の殆どに、滋が絡んでいることが多かったからだ。
その中でも一番大きなイタズラといえば、滋の島に拉致され、そこからつくしのことだけを忘れたことだ。

「ありがとう司!ほら、つくしが待ってるから行こうよ!」

滋は、司の手を引っ張った。

「・・・あれ?なあにこれ?」

だがそのとき、滋は司が横になっていたカウチの下に落ちていた本を拾い上げた。

「・・やだ・・この本アレじゃない!昔は流行った小説よね?不倫の男女がワインに毒を入れて飲んでセックスしてその最中絶頂を迎えたまま死ぬって話の本よね?」

その言葉に司は思わずピクリと身体が反応した。

「・・え?まさか、司。この本読んでたの?もしかして司、この本で想像してた?・・つくしと繋がったまま逝こうなんてさ!キャー!イヤラシ男!もしかして司って普段からこんなこと考えてるの?やだまさか仕事中もだとか言わないでよね?あ、後で西田さんに聞いてみよ。・・・それにしても本当に男ってなんでこんなくだらない話が思い付くのかな?こんなことやってみなさいよ!死後硬直で固まったら離れなくなるでしょ?・・あ、でもそうか。離れられなくなるからいいのか・・え~でも滋ちゃんは厭だな。だって裸よ?それも結合したままなんてどうやって運ぶのよ?」

司は、寝起きの頭に響く滋のカン高い声を片手で遮り立ち上がった。

「ああ、分かった。ごちゃごちゃ言うな。・・それに俺は繋がったままだろうが_」

ニヤニヤと笑う滋の顔は、まさに『不思議の国のアリス』に出て来るチュシャ猫そのものだ。

「やっぱり読んでたんでしょ?隠さなくてもいいからね?つくしには内緒にしてあげる。・・その代わり『地下の国のアリス』譲ってくれない?勿論タダだなんて言わないから。それにこの本がここにあっても宝の持ちぐされでしょ?こういった夢のある本は滋ちゃんが大切に保管しておいてあげるから!ねぇいいでしょ?」

司はその瞬間、滋に負けたと思った。
そして思った。滋のこの騒々しさを考えたとき、マジでこいつと結婚してなくてよかったと。








「ごめんね、つくし!司が本を探しに行って迷子になったのよ!って言うよりね、夢の世界で迷子になって_」

滋はそこまで言って黙り込んだ。
なぜなら、司にジロリと睨まれたからだ。

「?・・なに?滋さん?」

「え?うんうん・・何でもないの。そ、そろそろ帰るわね。司、今日はありがとう!この本、大切にするからね。じゃあね!つくし。あんたも色々と大変だと思うけど頑張ってね!」

「え?滋さん?まだ来たばかりじゃない?もう帰るって_」

「え?まあね!色々と司には夢があるみたいだから邪魔したら悪いと思ってね・・えっと・・そうそうあたしワイン持って来てたよね?それ二人で飲んで楽しんでね!」

滋はいたずらっぽい笑いを浮かべ、じゃあね!と言って帰っていった。

つくしは、来たと思えば、もう帰るといった滋の行動に目を丸くしていたが、司の表情にピンとくるものがあった。

「・・・ちょっと。滋さんに何か言ったの?」

「あ?・・俺は別に何も言ってねぇぞ?あいつが・・」

と、そこで司の頭の中には、あの小説の中にあった最後のシーンが過った。
繋がったまま逝ってしまった二人の姿が。

決して心中がいいことだとは、思わない。
けれど、あの二人が互いを離したくないと、死んでも繋がったままでいることを望んだ気持ちは理解出来た。なぜなら、司も逝くときは、二人一緒に離れることなく逝きたいからだ。

司はニヤッと笑い、滋が持参したワインを手に取った。
そしてキャビネットからワイングラスをひとつ取り、ソファに座ったつくしの手を取った。
これから二人での行為を考えると、臍のあたりがムズムズとし、司の妄想はあの小説の中の一場面へと変わっていた。

ベッドの上でワイングラスを傾け、恍惚の表情を浮かべた女の顔へ。

ただし、あまり飲ませると意識を飛ばす恐れがある。だから、口移しでひと口だけ飲ませ、いい気分にさせる程度にする。

そこでふと笑いがもれた。
セックスについては、未だに内気さを持つ女だが、少しだけ飲ませれば自分の欲求を示そうとする。ところが、次の瞬間には尻込みをし、恥ずかしがる。だが、そんな女が愛おしくてたまらない。

「つくし・・二人でワイン。楽しもうぜ」

つくしは、どこかしっくりと来ない思いがあったが、自分の手を握った大きな手の温かさに、

「ええ。いいわ」

と言った。
そして司が何を考えていようと、彼のことは信頼しているといった顔は、少し恥かしそうに微笑んでいた。






かつて寂しい夜があったとしても、今はもうそんな夜はない。
夜更けも、夜明けも、全ての時間が彼女と一緒で、太陽が昇れば永遠の時が訪れたように感じられる。
そして命がある限り彼女を愛することを止めない。
今があれば、明日を待つといったことをしなくてもいい。
柔らかな微笑みがあれば、それだけでいい。
だから、人生を自らの意志で終わらせることを選ぶことは決してない。

何故なら、世界が終りを迎える日まで、ずっと一緒にいると決めた二人だから。






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2017
09.24

金持ちの御曹司~Dancing Hero~

こちらのお話は、時代背景をご存知の方は、お分かりの部分もあると思いますが、
お分かりにならない方もいらっしゃると思います。
それでもよろしければどうぞ、のお話です。そして大人向けのお話です。
未成年者の方、もしくはそういったお話がお嫌いな方はお控え下さい。
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無名の存在から突然脚光を浴びる男のことをシンデレラボーイと言う。
司の場合、生まれた時から財閥の跡取り息子として脚光を浴びていたのだから、その言葉は当て嵌まらないはずだ。
だが、どうしても言葉を当て嵌めろというなら、司の場合、銀のスプーンを咥えて生まれたゴールデンボーイということになる。
なにしろ司は生まれた時から唸るような金に囲まれていたのだから。

だが、ガラスの靴を履いたシンデレラと呼ばれていたのは、彼の愛しい人のことかもしれない。
ただ、王子に見初められたシンデレラは、一度は逃げたが、やがて王子に探し出され彼の元に嫁入りした。

辛い境遇に置かれている女を追いかける。
それはまさに司とつくしの事だといえる。
つまりシンデレラの物語というのは、牧野つくしの物語ということだ。
となると、必然的に王子様は司ということになる。

但し、司が自分自身で「俺は王子だ!」と言えば、「違うだろ!!」と、女の国会議員に怒鳴られるような気もするが、そんな議員なんぞ財閥の手にかかればすぐに失職することになる。
どちらにしても司は自分が王子様だろうが、王様だろうが、道明寺財閥の頂上にいることは間違いないのだから。



ところで最近、大阪の女子高生が踊るバブル時代を彷彿とさせるダンス動画がイケてるって話しを聞く。そう言えば司は若い頃、ナイトクラビング、なんて言葉を使っていた幼馴染みたちが、肩パットの入ったボディコン服で派手な扇子を持った女どもとディスコで踊っていたのを眺めていたこともあった。
だがあの頃、司は女に1ミクロンも興味はなかった。

そんなバブル時代、司はまだ高校生だったが、

「転がしてる?」

と言われれば、司にとっては車ではなく土地転がしのことだ。
あの頃、土地神話というものがあった。それはバブル景気に支えられ不動産価格は必ず値上がりするといった神話のような事態の事を言うのだが、財閥も転がされた土地を取得していたことがあった。だが土地転がしと言えば印象が悪い。だから財閥では転売された土地といった少し柔らかな言葉で言っていたと記憶している。

そしてアルマーニのダブルのスーツに先が尖った靴。
それが当たり前だったあの頃。携帯電話も「030」で始まり、通話先が一定距離以上離れた所になると「040」でかけ直せとアナウンスされていたと記憶している。





もし、牧野がバブル時代のOLだったら。

アッシーもメッシーも司なのは勿論だが、ミツグ君もキープ君も司だ。
言っとくが、アッシーと言ってもバブル当時、六本木のカローラと呼ばれたBMW3シリーズで迎えに行くことはない。司はリモ以外につくしを乗せることは絶対ない。
それも最高級クラスのリモだ。

そんな時、かかって来たあいつからの電話。

『しもしも?道明寺?』

「お、おう。牧野か?」

『今日19時からねるとんパーティーなの。でね、ケツカッチンだからお先にドロンしま~す』

「お、おい牧野っ?ま、待て!」

・・おい!冗談じゃねーぞ!
誰がねるとんパーティーになんか行かせるかよ!
それにあんなに仕事熱心だった牧野がお先にドロンってなんだよ!
それになんだよ!ケツカッチンってのは!
だいたい俺の牧野がそんな訳の分かんねぇ言葉なんか使うかよ!
クソっ!ダメだダメだ!
バブル時代のOL牧野は止めだ!


だがひとつ気になることがある。
それはキープ君という存在。
アッシーは脚になって車で送り迎えをする男。
メッシーは飯をご馳走する男。
ミツグ君は貢ぐ男。
けどキープ君の意味が今ひとつ理解出来ねぇ。
だから総二郎に聞いてみた。

「キープ君か?キープ君ってのはな、恋人や恋愛対象の本命じゃねぇってことだ。いいか、キープ君にされるってことは、男としてすげぇ情けねぇことだ。まあ、間違ってもお前がキープされる男になるなんてことはないから安心しろ。何しろお前はそのルックスに道明寺財閥の跡取り息子だ。女たちからすれば、本命も本命。大本命だ」

だが、そんな男をキープ君に出来る女がひとりいる。
世界広しと言えども、道明寺財閥の御曹司をキープ君に出来る女。
それが牧野つくしだ。
彼女がすることならなんでも許されるのが司の世界だ。
そして、彼女が舗道の割れ目で躓くことがないよう常に彼女の前を歩き、邪魔する人間は排除していくのが司の役目だ。

だがそんな司にとってキープは別の意味を持つ。
それは、セックスに於けるキープ力なら誰にも負けることはないと自信があるからだ。
テクニックは勿論だが持久力はオールナイト。
そうだ。このオールナイトで続けられることがまさに司のキープ力ということだ。
それにキープ力もだが硬さも自慢できる。
総二郎曰く、オリエンタルの男のアレは西洋人のアレより硬いらしく、その硬さに西洋人女は感激するらしい。
さすが茶の湯で世界を股に掛ける男のワールドワイドな女遍歴は馬鹿に出来ない。


だから、そのキープ力で牧野つくしの本命でいれば、お先にドロンなんて言わせねぇ。
ドロンどころか、永遠に俺の身体の下で喘がせ続けさせてやる!

そして、そこから先の世界に雑念が入り込む隙間はない。
なぜなら、司のつくしを愛する思いは全てを凌駕するからだ。
彼女を求め、喉が焼け付くような乾きを覚えるのは、高校生の頃から変わらない。
だが、剥き出しのあからさまな欲求といったものを表すようになったのは、社会人になってからだ。






「・・まきの・・どうだ?・・気持ちいいだろ?」

黒い長い髪の女とウェーブのかかった髪の男との愛の交歓。
二人の間に遮るものは何ひとつなく、司の身体の先端は暗く狭い場所で抽出を繰り返すが、ほとばしる力は、果てることはない。
そして時に腰を捻り上げながら奥深くを突いていた。

そんな男のあまりの激しさに、お願いもうイカせてと呟く女。そんな女から一端引き抜いた先端は、ヌメリを帯び、引き抜いた場所からはどろりとした液体が溢れ、シーツにシミを作った。
そして女が両脚を動かすごとに、益々溢れ出すどろりとした液体。

濡れてテラリと光る自らの怒張を掴んだ男は、つくしに対してだけ執拗だと言われるが、身体の動きまで執拗でいつまでも彼女を離そうとはしない。
それは持久力のなせる業なのか、それとも執着心のせいなのか。
司の腹には熱を持った塊があり、いつまでもつくしを欲しがるが、欲しがられた女はたまったものではない。
寝かせてもらえず、一晩中延々と啼かされ続け、今では水を欲していた。


かつて、檻の中に閉じ込められることを嫌った獣だった男は、つくしに対してだけは優しい男だが、今の司は別の男にすり替わったようにあの頃と同じ獣だ。
切れ長の目は怒りを湛え、まさに獣のように鋭い目つきに変わっていた。

「ねるとんパーティーとやらはどうだったんだよ?」

怒気を含んだ言葉と引き抜いた怒張の代わりに、両脚の間にぐいと差し込まれた長い指。
その指が中の襞を這い、再び溢れ始めたどろりとした液体を掻き混ぜ、もっと溢れ出させようと弄ぶ。

「ああっ!ど、どうって・・そんなの・・」

そして開かれた脚の間の中心にある小さな真珠の核は、司の指にいじられ、ひくひくと震えていた。

「なあ。いい男はいたか?・・いいか?おまえは俺だけの女だ。いつまでも俺が甘い顔してると思ったら大間違いだ。他の男に渡すつもりはねぇからな」

中で指先を曲げ、最奥の感じやすいと言われる部分をこれ以上ないほどきつく押し、快感のよがり声を上げさせ、司はその指先と言葉で彼女を煽っていく。

「見ろ。おまえのここは俺以外の男じゃ満足しないって言ってるぜ。もうグチョグチョ。どうすんだよ、こんなに俺の指をグチョグチョにして」

「あっ!あっ!あぁ・・はぁ!・・んんっ・・」

司はそそり立ったモノをそのままに、指でつくしの中を掻き回し、歓喜と嗚咽だけを上げさせた。

「そうか。喉が渇いて言葉が出ねぇって?そういやぁお前、水が欲しいって言ったよな。それならやるよ、水を」

不意に狂暴な衝動が身体の奥から湧き上がった司は指を引き抜き、つくしの胸に跨り彼女の口をこじ開け己の高まりを押し込んだ。

「グッ・・んっ!!!」

そして柔らかな喉の奥深くに先端を強く擦りつけ、腰を激しく打ちつけ始めた。
突然口の中をいっぱいにされ驚いた女は喘ぎ声も出せず、噎せ、ただ黒い瞳を大きく見開き、見上げることしか出来ずにいた。

「どうした?そんなに驚いた顔すんな。お前、俺のを咥えるのが好きだろ?それともアレか?俺のじゃ満足出来ねぇって?」

つくしは首を横に振ることも出来ず、その大きさに引き延ばされた唇と、高まりを押し込まれた口の中はいっぱいで喋ることなど出来るはずがない。
そんな女の口へ押し込まれた怒張が、早く深く抽出を繰り返し始めると、口腔内から溢れ出る唾液が顎を伝い流れ始めた。

「ほら。やるよ、水。欲しいんだろ?」

今の司は奉仕する優しい男ではなく、好きな女を服従させ乱暴に奪いたいといった思いに囚われ、どんな抵抗も許さない男だ。そんな男の鋭い目がすっと細められ、横たわったままのつくしの頭を掴み持ち上げると容赦なく喉の奥を突き始めた。

「・・どうだ?気に入ったか?」

気に入るも気に入らないもない。
呻き声も上げることが出来ないほどの大きさを口の中に押し込み、奪う行為は自慰と同じだが、今の男はそれを愉しんでいた。
そして一気に快感の高みに駆けのぼり、暖かくヌメル精液を女の口いっぱいに注ぎ込んだ。

「喉、乾いてんだろ?全部飲め」

そして、自身を引き抜き、女の口を手で塞ぎ、全てを喉の奥へと飲み込ませた。











「えーっと。司?」
「あ?」
「あ、じゃないでしょ?」
「・・・・」

司は一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
そして間抜けな返事を返していた。
だが直ぐに我に返り、辺りを見回した。
ここは、六本木のビルの中にある美術館。
つくしと一緒に展覧会を訪れていた。

「なに?さっきからひとりで笑って気持ち悪いわよ?」
「べ、別に笑ってなんかねぇよ!」
「え~でもそんなに顔を赤くしちゃって、なんか気持ち悪いわね?」
「あ、アホか。別に赤くなんてなってねぇぞ?こ、これは・・ここがっ・・だ、暖房が効き過ぎてんだ!・・・設定温度が高すぎんだよ!今度経団連のパーティーでこのビルの社長に会ったら地球温暖化を真面目に考えろと言ってやるつもりだ!」

確かに司なら『このビルの社長』にそんなことも言えるはずだ。
とは言え、つくしの言うとおり、司は顔もだが、身体も火照っていた。
それはあきらかに、彼が興奮した状態であることを示していた。
そのせいか、いきなりつくしが握っていた鞄を奪い取り、さりげなくズボンの前を隠した。






六本木という地名に遠い昔のバブル時代を思い出し、何故かボディコンに派手な扇子を持ったつくしの姿を想像してしまった司。
そしてそんなつくしの行動にヤキモチを焼いた。

しかし思った。やっぱりバブル時代より今の方がいい。
今の時代ならねるとんパーティーなんてものはない。
だがあの頃の景気の良さが再び訪れて欲しい思いもあるが、それは道明寺HD、そして当然だが、日本支社長である司の努力次第ということだ。



日本の景気を上げるため働く男。
学生時代、道明寺がどうなろうと構わないと言い放っていた自分がそんなことを思うとは。と笑みが零れていた。
だが、その笑みとは別に、鞄で隠したズボンの中は笑ってはいられない状態。

「つくし。これからメープルに行くぞ!」
「え?」
「だからメープルだ!」

司は片手につくしの鞄を持ち、もう片方の手でつくしの手を握ると、走り出していた。





バブルの頃、まだ高校生だった二人。
その恩恵を少しだけ味わったのは司だけだ。
まあ司にはバブルといった現象は関係ない話しではあったが。

それでも、今夜はつくしにあの当時の流行りの服を着させ、二人で盛り上がろうと思う。
そしてキャンドルライトを灯し、二人で踊り明かす。

ダンシングヒーローとヒロインとして。





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2017
09.17

金持ちの御曹司~一炊の夢~

<一炊(いっすい)の夢>




容姿、財力、知力、パワーどれを取っても一般人の平均値より高いと言われている男。
彼は、ゾクゾクするほどの色気を持ち、クールでミステリアスな男と呼ばれていた。
だが男というのは、実は簡単に喜んでしまう生き物だ。
それが特に自分が愛して止まない女からの行為だとすれば、それこそ天にも昇る気持ちなのは間違いない。
そして、いつもは苦手な、あんなことや、こんなことをしてくれ、昇天させられていた。

そんな贅沢な夜を一週間前に過ごした男は、執務室の中で笑みを浮かべ次の週末を楽しみしていた。

だが退屈な金曜日があるとしよう。
それは週末だというのに司の大切な女性が傍にいないことが確定したからだ。
気象条件の悪化により、海外から帰国する彼女の飛行機が飛ばない。
そのことが明らかになったとき、司は空を怨んだ。


だが、こんな夢を見た。
それは、牧野つくしが結婚を承知してくれた夢。
まさに司にとっては願ってもない夢だ。
目が覚めたとき、それが正夢ならどんなにいいことかと願った。
そして誰かにその夢を語りたいと思った。

『聞いてくれ。牧野は俺と結婚すると言った!』

と大声で世間に向けて叫びたい。
しかし、叫ぶことは出来ず、執務室でじっと自分を見る秘書を前に、緩んだ頬を引き締め、冷たい態度で臨んでいた。

だが、司が少年の頃から彼の傍にいた男の眼鏡の奥の冷静な目が、司の本心を見抜けないはずがない。
けれど西田は、またいつものことだと態度を崩さなかった。
そして、そっとしておくに限ると思っていた。

だが、そんな西田の想いをよそに、司の頭には今朝見た夢が再現され、口元に自然と笑みが零れていた。

人は好きなことをして生きて行けるとは限らない。
生きるため、自分の人生に課せられた義務といったものを果たさなくてはならい。
今の司は、かつて嫌だと思っていた家業の経営を嫌だとは思っていなかった。
それは、牧野つくしが傍にいてくれるからであり、彼女が傍にいてくれる限り、世界はバラ色だ。

そんな司が見た夢とは。









「・・道明寺さん」
つくしが呼びかけた。
「どうしたらいいんでしょう・・・困ったわ」

司は、牧野つくしと付き合い始め2ヶ月が経っていた。
そしてレストランで食事中、困った様子で話し始めた彼女に聞いた。

「どうしたんです?」

「実は、お恥ずかしいお話なんですが実家の父が借金をしていて、その返済期限が明日なんです。でもそのお金が工面できなくて・・。どうしたらいいのか・・」

彼女は、表情を曇らせ、言葉を詰まらせた。
そして不安そうに司を見た。

「幾らいるんです?」

「・・大金なんです」

「だから幾らですか?」

「・・あの・・200万です」

遠慮がちに言ったつくしに、司は黙って何も言わず、彼女の目をじっと見た。
そして司は、莫大な資産を持つと言われる男に、遠慮がちに200万と口にする女の態度に笑い出しそうになるのをグッと堪え、随分と遠慮する女だと思っていた。

そして思った。
どうせなら1億くらい吹っ掛ければいいものを、と。

どんな女も望めば思いのままに出来ると言われる司が付き合っている牧野つくしは、一時の甘い夢を見させ金を巻き上げることを生業とする女性。
所謂、結婚詐欺師と呼ばれる女性だ。
それもまだ駆け出しの詐欺師。
そしてそんな彼女の司に対しての立場は、父親が借金をし、その金策に頭を抱える娘といった役どころだ。

二人が出会ったのは、友人の誕生パーティーであり、はじめから分かっていた。
と、言うよりも、友人から彼女が新米結婚詐欺師であり、司の持つ財産を狙っていると聞かされていた。
だが、司はそれでもいいと思っていた。
そんな彼女のはじめてのカモになることを決めたのは、司の方だ。
そして逆に司が彼女を罠にかけ、自分のものにしてやろうと思っていた。

しかし結婚詐欺師と言っても、自分の身体を使うことまで考えていないようで、付き合って2ヶ月だが、まだキスさえ躊躇いがちだ。そして、その態度から、まだ男を知らない女の初心さが伝わり、紛れもなく処女だといったことが感じられた。

司は唇の端を少しだけ歪めた。

「わかりました。それではこれからわたしの自宅まで行きましょう。現金ならいくらでも自宅の金庫にありますから」

200万程度なら自宅に行かずとも直ぐに渡せるが、それでは彼女を自分のモノにすることは出来ないと感じていた。
そして、考えた。果たして彼女は200万を手に入れたあと、どうやって逃げおおせるつもりでいるのかを。
そんな思いから、お手並み拝見といったところで、司はレストランを出ようとつくしを促した。





司の自宅は、マンションの最上階にあるペントハウスだ。
夜も更けた男の部屋へ来ることの意味を知らないはずがない。

照明が灯った廊下の先の扉を開け、部屋の中へ入るよう促したが、新米結婚詐欺師はどこか躊躇いがちな態度が見て取れた。

「さあ、つくしさん。ソファにかけてお待ち下さい。200万は直ぐにお持ちしましょう」

司はリビングのソファに所在なげに腰掛けた女を残し、ベッドルームへと足を向けた。
そうやってわざと彼女を一人にした。そして、広い部屋の中、彼女がひとりで何をするかと様子を見ることにした。

保安上の理由から部屋にはカメラが設置されており、内部の様子をベッドルームで見ることが出来た。
本当に金に汚い女なら、部屋の中を歩き回り、金になりそうなものを探そうとするはずだ。
実際、壁に掛けられた絵画は、億単位するような絵が飾られていた。
だが、彼女はソファに腰を降ろしたまま、動こうとはしなかった。むしろ、ここまで来たが、どうしたものかと考えているようだ。

それは、金を受け取れば、身体を担保として差し出さなければならないのでは、と悩んでいるように見えた。
だがそんな彼女の子供じみた芝居に付き合うのは、もう止めにした。

司は金を手にベッドルームを出た。
それから、リビングのソファに座る彼女の隣へと腰を降ろした。
そして、彼女が初めて手を染めようとする結婚詐欺と呼ばれる行為は、今夜が最初で最後であり、それ自体が成り立たないことを教えてやるつもりでいた。
司は、はじめは遊びのつもりだったが、2ヶ月付き合ううちに、本気で牧野つくしを好きになっていた。
彼女を好きになったのは、きらきらと光る大きな瞳に魅せられたからだ。

それに、結婚詐欺といった罪名は存在せず、世間でよく言われるその行為は、当事者のどちらかに少しでも恋愛感情があれば、見解の相違といったものであり、例え、金銭を取られ、高額な贈り物のやり取りがあったとしても、恋愛ではよくあることであり、相手が返せと言わなければ問題ないはずだ。

司は彼女の初めての男になり、最後の男になるつもりだと告げるつもりでいた。
それに200万などどうでもいい金だ。逆にその金で彼女を縛ることが出来るなら、安すぎるほどだ。

だが、そのとき、彼女の胸元に光るネックレスがブラウスの襟元から覗いているのが見えた。
そしてその瞬間、司の頭の中に、ひとりの女性の姿が浮かび上がった。
それは、彼が長い間、忘れていた女性の姿。そして、彼女を紹介した友人の言葉を思い出していた。

『彼女。過去に好きだった男に忘れられたんだよ。だから男を信用することが出来なくてね。可哀想な子なんだ。だから男を騙して捨てることを始めるそうだ』


忘れた男。
それが司自身であると気付いたのは言うまでもない。

それから司は、静かな気持ちで、彼女に記憶を取り戻したことを伝え、結婚して欲しいと伝えた。そして勿論返事は「はい」だった。




それが司の見た夢。

だがその夢は、彼があの時、記憶を取り戻さなければ、あり得たかもしれない未来と言えた。
そんな思いもあり、ただ喜んでいるだけの状況では無かったが、彼女が素直に結婚に応じてくれたことが嬉しかった。


 
そんな夢を見た二日後。
天候が回復し、彼女が乗った飛行機は、無事日本に到着した。
そして、司は、彼女を、つくしを迎えに空港まで足を運んでいた。






司が見たのは一炊の夢だ。
一炊の夢とは、人生の栄華は儚いといった意味を持つ。
しかし、夢の中の司は栄華を尽くした生活を送る男だった。
そんな男が、こうして彼女と巡り逢えたのは、運命だが、人生は儚いものだということも今では知っている。
それは、彼女の記憶を失った時の事を考えたとき、もし、永遠に記憶が戻らなければ、こうして抱きしめることが出来なかったということだ。
そして、考えていた。
儚いと言われる人生を、いかに有意義に過ごすかといったことを。





「ちょっと!ねえ、どうしたの?」

司はつくしを抱きしめると動物のように彼女の匂いを嗅いでいた。
その仕草がおかしくて、つくしは笑っていた。

「道明寺っ!・・やだ、ど、動物みたい・・止めて!!」

だが司は、自分が傷つけていたかもしれないつくしに動物の本能である行為をしているだけだ。傷口があるならその傷口を舐め、傷を癒してやるということを。
そして、彼女とこうして過ごせることが、奇跡みたいなものだということを、今更だが思っていた。

「ねえ?どうしたのよ、道明寺?何かあった?」

場所を車の中に変えても、相変わらずつくしを抱きしめ離さない男は、小さな声で、なんにもねぇよ、と呟いたが、こうして彼女の身体を抱きしめる幸せを噛みしめていた。



あり得たかもしれない未来が無かったことに感謝して。






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「金持ちの御曹司」50作品目となりました。
いつもこんな坊ちゃんにお付き合い頂き、有難うございます(低頭)
Comment:10
2017
08.06

金持ちの御曹司~Crazy In Love ~

大人向けのお話です。
未成年者の方。またはそういったお話が苦手な方はお控え下さい。
なお、イメージが著しく壊れる恐れがありますので、笑って許して下さる方のみどうぞ。
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「ねえ・・もしかして道明寺支社長ってゲイなんじゃないの?」
「うそ!」
「だってさぁ、支社長って女の噂って全然聞かないでしょ?」
「うん・・確かにそれは言える。あれだけのイケメン支社長に女の影がないなんて信じられないけど、絶対に彼女がいるわよ!」
「そうよ!支社長ってアメリカ暮らしが長かったんだから、アメリカに彼女がいるんじゃない?」
「確かにねぇ・・それも考えられるんだけど、それにしても全然噂にならないじゃない?それって変じゃない?それにパーティ―で取引先のご令嬢とか、美人女優とか、モデルとか支社長の周りに集まっても全然興味なし。むしろ、そんな女が自分の周りにいることが汚らわしいって感じなのよ?」
「それはやっぱりアレよ?アメリカにいる彼女のことを愛しているから相手にしないだけでしょ?」
「そうかなぁ・・」
「そうよ!」
「でもさ、あたし変な妄想しちゃった。支社長のご友人で花沢物産の専務がいるじゃない?」
「え?もしかして花沢類さん?」
「そう!支社長と花沢さんって実は・・・だったりして!ほら、長年の男同士の友情がいつの間にか愛情に変わってた・・なんて!」







俺が?
女に興味がない?

司はたまたま耳にしたその話に頷く部分もあった。
ご令嬢とか、美人女優とかモデルとか一切興味がないのは話しの通りだ。そんな女が傍にいることが汚らわしといった意見は正しい。それに愛しい牧野と出会うまで、低俗で薄汚く、すぐに泣く女なんぞ反吐が出るほど嫌いだった。

けれど、その先の会話に眉をひそめた。
なんで俺がゲイなんだ?
それにどうして俺が類とそんな関係に陥る必要がある?
俺の頭にあるのは牧野と早く結婚したい思いだけだ。
おまえら仕事中に変な妄想すんじゃねぇよ!
仕事中は仕事に集中しろ!!



司は支社長室に戻り、革張りの椅子にドカッと腰を下ろし、イタリア製の高価な靴に包まれた両脚をデスクの上へ乗せた。
そして上体をそらし、胸の前で腕を組み、目を閉じた。
頭の中を過るのはつくしとの結婚式の場面。
白いドレスを着た牧野と白いタキシードに身を包んだ俺。
教会を埋め尽くす沢山の花。オルガニストが演奏する結婚行進曲。
ヴァージンロードを歩いて来る牧野。
・・あいつもうヴァージンじゃねぇけど、そんなの関係ねぇよな?

そうだ。今、頭の中にあるのは俺と牧野の結婚式だ。
そのためには、まずは女の前にひざまずいてプロポーズをするのが男の俺の役目。
OKを貰えばそれから彼女の指に指輪を嵌める。
そして立ち上ってキスをする。
これでプロポーズは完了する。
実は今までそれに近いことは何度もやってる。
けどアイツまだ仕事したいだなんて言いやがるから結婚出来ないでいる。
こうなりゃいっそのことあの女、クビにしてやろうか。
・・けど、そんなことしたら口利いてもらえなくなるから止めとく。


ところで逆に女が男の前にひざまずいてヤルことを知ってるか?
フェ・・・。
今それを口にすれば、間違いなくこの場の空気が乱れるから止めとく。
言っとくがフェラガモでもフェンディでもフェラーリでもない。
けど、なんでよく似た言葉はどれもイタリア語だ?
それにカタカナにしてみれば、どれもこれも同じ文字数だ。
ああそうか。語源はラテン語の『Fellare』(吸う)から来てるからか?
・・おい、待て。フェラーリは『Ferrari』って書くが、なんかスペルまで似てねーか?
これじゃあフェラーリ見るたび牧野が俺の前にひざまずいてヤッてるところを想像しちまう。
そしてその瞬間、30秒も経たないうちにカチカチになるアレ。
口に咥えられるとあまりの気持ちよさにうめき声が上がるが、執務室でヤル時には声が漏れねぇようにしねぇと西田に気付かれる。
・・けどアレは男が無力になる瞬間だ。
何しろ男の身体の中で一番デリケートな部分を咥えられてる。
ヤッてもらう時はある意味で命を預けるようなもんだ。
万が一のことがあって、もしその部分がどうにかなっちまって使い物にならなくなったら大変だ。万が一のことか?そりゃ色々あるだろうが。
歯を立てるのは構わねぇけど、喰いちぎられるなんてことになったら男としての役目が終っちまう・・。
まあ牧野がそんなことするはずねぇけど?

それにしても、あの行為は自尊心がくすぐられる。
なにしろどんなに強気の女でも男の前にひざまずけば、男を崇め立てる姿勢になることは間違いないからだ。

そう言えば一度フェラーリの中で牧野にヤッてもらったことがあったが、今思えばあれは夢みてぇなことだったな。
フェラーリの中でフェラ。
それも運転中に牧野にごっくんしてもらった。
あん時はハンドルさばきを誤れば崖からダイブすんじゃねぇかって感じだな。
まさに昇天させられるってのはアノことだ。
けどフェラーリでフェラされながら昇天。
そんなことになったら笑い話になんねぇ・・。
・・それにしても、アイツはいつになったら俺と結婚してくれるんだ?







「・・司。俺はおまえを牧野に渡さないよ」
「類!」
司が閉じていた目を開いたとき、デスクの前にいたのは類。
「・・おまえ、いつの間に来たんだ?」
司はデスクの上から両脚を下ろし、類を見た。
「いつの間にって、司は寝てたから気づかなかっただけだよ。・・ねえ司、今俺が言ったこと聞こえたよね?」
「・・俺を牧野に渡さないって・・いったいどういうことだ・・。まさかおまえまだ牧野のことが好きなのか?」
学生時代、一時つくしを巡って二人が火花を散らしたことがあった。
「まさか・・違うよ。俺が好きなのは司だよ・・気づいてたんだろ?俺の気持ち」
類は呟き、司を食い入るように見つめながら近づいた。
「・・いったい何の話だ・・」
「司。聞こえただろ?俺は初等部の頃から司が好きだった。自分がゲイだってことはもう随分と前から気付いてたけど、そんな俺は長い間自分を否定し続けた・・。だけど司が牧野と結婚するって決めたって聞いてもう自分を抑えることは止めた・・。だから司、一度だけでいいから俺のものになって」

類はひざまずき、司のスラックスのベルトを掴み、バックルを外し、ファスナーを一気に引き下ろし、ボクサーブリーフの上から股間を愛撫した。そして、心得た手つきでブリーフをずらし、まだ柔らかさの残るペニスを引き出し、しごき始めた。やがて硬さが感じられると、口に咥え喉の奥深くまで一気に差し込んだ。そこまでの行為はあっという間の出来事。司は、何が起きているのかと気づいた時には、類のペースで物事は運ばれていた。

「る、類っ!」

司の口からむせぶように名前を呼ばれ、類は唇の愛撫を繰り返し、睾丸を手のひらでこすり、
そして頂きを吸い、舌を根元に向かってゆっくりと滑らせた。

「・・類・・止めろ・・止めてくれ・・」

だが類は止めようとしない。
司の前で床に膝をつき、唇でしゃぶる男は根元までしっかりと咥え、離そうとはしない。
ズズッと音を立て吸い上げ、先端を咥え、歯を立てた。そして充血した亀頭を弄びながら手のひらは睾丸を揉んでいた。

「る・・類ッ・・」

類の舌と唇は敏感な箇所を的確に攻め、完璧なリズムで強く吸った。
吸い上げられる力が強くなればなるほど、司は経験したことがない境地に入った。
飽くことを知らない類は、一段と熱がこもったように貪り、離そうとはしない。
そして、上から下へ、下から上へと舌を這わせ、手と口は貪欲に司を貪った。

「・・クッ・・」

司は頭がくらくらすると、太腿の間に埋もれた類の頭を掴み、無造作に見えながら、実は念入りにスタイリングされた髪に指を絡めた。それは、幼い頃から知る友のサラサラとした髪。
その髪が下腹部を擦り、やがてチュパチュパと音を立て始めた。

「・・クソッ・・る・・い・・」

類が吸うたび司は悶絶を繰り返し、頭が痺れ、やがて目の焦点が合わなくなり、全身が緊張し、腰が椅子から浮き上がり前へと突き出した。そして頭をのけぞらせた瞬間、身体に戦慄が走った。







司はパッと目を開いたとき、ハアハアとした息遣いと共に己の身に何が起きたのか自問自答した。そして慌てて下半身に目を落した。
大丈夫だ。スーツは乱れることなく、スラックスのファスナーも閉められていた。
だが、嫌な汗が額を流れていた。
百歩譲って夢だとしても、見たくない夢だ。まさに悪夢としか言いようがない。
いつもなら牧野の夢のはずだ。なんで今日は類が出て来るんだよ!
それもなんであいつが俺を咥えてんだよ!


寿命が10年は縮んだ気がした。

司は罰当たりな言葉を吐き、デスクに片肘をつき、ガクッと項垂れた。
その姿勢はロダンの彫刻『考える人』が更に大きな苦悩を与えられ、打ちひしがれているように見えた。

そんな司に扉を開け入ってきた秘書の西田が声をかけた。
「支社長。お顔の色が悪いようですが、どうかされましたか?」
どうかされたのかと聞かれても、男に股の間を咥えられていたと言えるはずがない。
「いや・・なんでもねぇ・・ちょっと・・心の病だ」

そうだ。これは心が病んでいるに違いない。
何しろ牧野と1週間も会ってない。
そして司はショックを受けていた。
類にあんなことをされた夢を見てしまったことを。

「そうですか・・。それでは我社が後援する『心と身体の健康のためのセミナー』についてですが、ご参加されるということでよろしいですね?」
「・・西田。誰が心と身体が病んでるって?」
「はい。先ほどちょっと心の病だとおっしゃいましたので」
「・・・・西田。悪いが暫くひとりにしてくれ」


司は、もしかすると、己の日頃の行いがあんな夢を見させたのかと思った。
だが、ここ何年も品行方正と言われていた。ガキの頃のように誰かを貶めるようなことはしていないはずだ。
だが少し時間が経ち、夢の衝撃が収まると、西田を怨んだ。
クソッ。西田の野郎。なんで今日に限って途中で止めに来ねぇんだよ!
最後までイッちまったじゃねぇか!


類の顔は暫く見たくねぇ。


まあいい。
今日は牧野が海外出張から戻ってくる日だ。
類を忘れるくらい思いっきり抱いてやる。










ドイツの詩人ゲーテが言った『忍耐は美徳』って言葉があるが、今の俺に忍耐なんて言葉は関係ない。だいたい忍耐なんて言葉は高校時代、牧野を追いかけ回した時に使い果たした。
それに彼氏と彼女の間で忍耐なんて言葉不要だろうが。
ついでに言っとくが、自制とか我慢とかって言葉も不要だ。
いや。待てよ?俺は今でも耐えてるところがあるような気がする。

司はマンションまでたどり着くと、出張先から帰ってるはずのつくしを探した。
「・・牧野?」
とベッドルームの中にいたその姿は、バスタオルを1枚身体に巻いた状態。
シャワーを浴び、そのまんまベッドに倒れこんだとしか考えられねぇ。
その証拠にすっかりおなじみになった俺と同じ香りが鼻腔に広がった。
おい牧野。その恰好でベッドに横になるってことは、俺を誘ってるとしか言えねぇってこと分かってんのか?
そのとき、うーんと呻いて身体の向きを変えた牧野。
「・・・・・」
けど起きる気配全くなし。
起きてくんねぇかな・・
こんな時試されるのが、自制とか我慢とか、やっぱり忍耐。
けど、据え膳食わぬは男の恥って言葉もあるし、こいつが裸にバスタオル1枚なんて俺を待ってたってことだろ?
牧野?いいよな?いいんだよな?いいっていってくれ!
ま、別に言わなくてもいいよな?
司はスーツを脱ぎ捨て、シャツを脱ぎ、全てを脱ぎ捨てベッドに乗り上げつくしを上から見下ろした。
そのときぱっと開かれた大きな瞳。
「・・・あれ?・・どうみょうじ?帰ったんだ・・お疲れさま・・」
半分寝ぼけた様子の牧野。
「ああ。ただいま」
「・・?あれ?なんで道明寺ハダカ?」
「なんでっておまえが裸で寝てるからだろうが」
「え?」
「おまえ、裸で俺を待っててくれたんだろ?そうだよな。何しろ1週間もご無沙汰だ。寂しいかったんだろ?」
「え?ええ?ちょっと待って!」
「何が待ってだよ?ホントは俺が欲しかったんだろ?遠慮するな。俺の身体は全部おまえのものだ」
「え?ちょっと!ま、待って、今起きたばっかりで・・やあぁっ・・ん・・ぁっ・・」







妄想に頼ることない本物の行為は、ふたりの魂の間で行われる行為。
それは、優しさと思いやりと愛だけが感じられる時間。
そして彼女に対する思いを深める時間。

本当は寂しかったのは俺。
それに欲しかったのは俺。
おまえがいないせいで、変な白昼夢見ちまうし、やっぱおまえが傍にいないと夢見が悪い。
ひとりで寝るなんて選択肢は今の俺には考えられない。
それにおまえをひとりにすることも出来ればしたくない。
俺とおまえで抱き合って、溶け合って、いっそのことひとつになってしまいたい。
ひとつになれば、いつも一緒にいれるだろ?

司は、自分が堪能したばかりに消耗し、ぐったりと横たわるつくしの髪をクシャリと撫でた。
それは黒く艶やかで潤いを感じられる豊かな髪。
指に絡めるのはこの黒髪以外考えられない。

そして覆う物がない身体に上掛けを引き寄せ、
眠るつくしに最高に甘い微笑みを見せ、唇にそっとキスをした。




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