2017
12.27

金持ちの御曹司~Crazy For You~ 

神よりも金を持つという男がいる。
そしてそんな男は肉体的な美貌も持ち、コンプレックスという言葉の意味を知らないのではないかと言われている。

「おい、司。お前コンプレックスの意味が解るか?」
「なんだよ?あきら。いきなり」
「だからコンプレックスの意味だ」
「コンプレックス?コンプライアンスじゃねぇんだな?」

どこの会社もだが、不祥事を防ぐ目的もありコンプライアンス教育には重きを置いている。
何故ならコンプライアンス意識の向上は、業績向上にも繋がると考えているからだ。
だがあきらが司に訊いたのはコンプレックスの意味だ。

「ああ。コンプレックスだ。司、お前、この意味が分かるか?」
「・・ンなモン簡単だ。優越感とか劣等感とかって意味だろうが。なんでそんなことを聞く?」
「いや。ちょっと聞いてみただけだ。大した意味はない。けどお前には関係ない言葉だよな?何しろお前は人が羨むほどの金を持ち、見た目もすこぶるいい男だ。お前にはコンプレックスなんて言葉は意味がねぇよな?それにお前はコンプレックスよりコンプリートって言葉の方が似合ってるからな」

司はお疲れと言って執務室を訪れたあきらの話を黙って聞いていた。
バカ坊ちゃんと言われたのは遠い昔の話。18の時、父親の跡を継ぐことを決め過去は捨てた。今では無口でハンサムで冷酷で非情。ビジネスに於いては容赦がないと言われている。
そんな男は誰の手にも落ちない一筋縄ではいかない男と言われ、頭数だけで生きている大多数の人間には及ばないと言われている。
そして当然だがそんな男と同じ土俵で戦おうという男はおらず、男の前にはビジネス戦争で敗れた人間たちの屍だけが残されていた。

しかし、そんな司がひとつだけコンプリートしてないものがある。
ちなみにコンプリートの意味には、完全な。完成した。という意味があり、それはまさに男として完全な彼に相応しい言葉だが、高校生の頃、追いかけ回し、やっとの思いで振り向いてもらえた牧野つくしに対してはコンプリート出来ないでいる。
つまり制覇出来ないでいるということだ。

そんな男は愛しい女に対しては純情過ぎるほどの思いを持ち、深過ぎる愛情といったものを持つ。
だからあきらは時にそんな男の暴走を止めてやることも必要だと思っている。


「司、お前もう少し気をつけてやれよ?」
「何をだよ?」
「いや。だから・・・アレだ」
「アレ?アレってなんだよ?」
「だからお前あいつと愛し合う時は色々気を付けろってことだ」
「・・なんだよ、あきら。お前人のセックスに口を出すつもりか?」

司は言葉の語尾が上がり、表情は遠い昔、人ひとり殺しかねないと言われた頃の顔をしている。あきらはそんな司を恐れる訳ではないが、自分の身は大切だ。余計なことを口に出したばかりに、とばっちりを受けることだけは避けたい思いがある。だから慌てて否定した。

「誰がお前らのセックスに口なんか出すかよ!俺が言いたいのはな、キスするんなら気を付けろって言う意味だ」
「気を付けろ?・・意味が分かんねぇな。何を気を付けるってんだよ?お前、俺があいつとキスすることに反対するのか?・・・まさかお前・・牧野のことが好きなのか?!冗談じゃねぇぞ!お前親友面して実はあいつのことが好きなのか!?」
「あのな・・なんでそう話が飛躍するんだ?司。俺が言いたいのは、キスする時はもっと見えねぇ場所にしろって意味だ!」
「・・見えねぇ場所?」
「そうだ。お前、いくらあいつのうなじが綺麗だからって吸い付くのは止めろ」

うなじに吸い付く。
確かに吸い付いた。
つい先日のパーティーで髪をアップにしたアイツのうなじが艶めかしく、思わずキスをした。
そうしたらあいつの身体がブルッと震えたのを感じ、その場で欲情しそうになるところをグッと抑えなんとか堪えた。
だが会場がメープルだったことをこれ幸いに、パーティー終了後すぐに上の階にある部屋で散々貪ったが、見えるところにキスするなと言われたが止まらなかった。
その結果、酷く怒られた。

『もうどうするのよ・・こんなところに・・』

こんなところに。
の、ひとつがうなじだが、別に誰かに迷惑をかける訳じゃあるまいし。
と、思うのだが顏を真っ赤にした牧野はこう言った。

『は、恥ずかしいのよ。だって身体中に痕があるのよ?』

別にいいじゃねぇか。
それとも身体中に愛しい男からの口づけの痕があることが嫌だって言うのかよ。
・・ったくあいつはいつまでたっても男の愛情を受け取るのが下手だ。
まあそこがあいつの可愛らしいところだが。
けど、なんであきらがあいつのうなじに情熱の痕を見つけたのかが気になる。

「あきら。なんでお前あいつのうなじにキスマークがあることを知った?」
「知るもなにも髪をアップにすりゃ誰でもわかるだろ?パーティーでそんな髪型にしてりゃ丸見えだそ?いいか。司。牧野はそういった愛情表現は苦手だ。気を付けてやれ。まあ、とにかく、お前の持ち馬が勝ったのは嬉しいことだ。司、良かったな。ブラックの引退記念パーティーも盛況だったしあの馬もやっとのんびり出来るって喜んでいるはずだ。・・ってことで俺帰るわ。邪魔したな」

そんな言葉と共にあきらは執務室を後にした。


あきらの言うとおり、持ち馬が最近レースから引退した。
それはクリスマスイブの日。今年最後のG1レースである有馬記念。
馬の名前は「ツカサブラック」牡5歳。黒鹿毛の美しく雄大な馬体を持ち、スピードとスタミナのどちらも並外れた身体能力を持つ馬の引退レースは、優勝という有終の美を飾るに相応しいもの。芝2500メートル、10万人の大観衆のなか、最後の直線はぶっちぎりの早さで駆け抜け、影を踏ませることもなかった。

そんなツカサブラックは、すでにG1で6勝していたが、今回でG1最多タイの7勝目を勝ち取った。それは感動的なフィナーレ。引退の花道としては最高の舞台。
日本一になった馬は、まさに日本一の男に相応しいと言える。

そしてその馬主である司は、優勝馬であるツカサブラックとの記念写真が新聞紙面を飾っていることに笑顔を浮かべていた。
何故なら、そこには控えめだが一緒に牧野つくしも写っているからだ。

元々ツカサブラックは、つくしが飼おうといった馬。
すでにいたツクシハニーという牝馬に惚れた黒鹿毛の馬を見たつくしが、傍にいさせてやりたいといった思いで司に強請った馬だ。
その時、彼女に言われたのが「あんたに似てる」の言葉。そんなことから名前はツカサブラックに決まったという経緯がある。

だが確かにツカサブラックは司に似ていた。
心臓が強く、何があっても折れない心を持ち、メンタルが強い。
それは司が高校時代、どんなにアプローチしても、つくしに逃げられていたことを思い出させた。

そんなツカサブラックの引退後の生活は北海道の牧場で悠々自適の暮らし。そして傍にはツクシハニーがいるが、その名の通りハニーは牧野に似ている。
初めの頃、ツクシハニーにちょっかいを出すツカサブラックは彼女に嫌われていた。だがブラックの熱心な求愛にハニーも心を許し、受け入れた。
そしてその関係は、まさに自分達と同じだと司は常々思っていた。

「ツカサブラックも引退か・・。ちょっと残念な気もするがあいつの余生を考えればそれでいいのかもしれねぇな・・・それにしてもあいつはこれからツクシハニーとヤリ放題か」

司はそんなことを口にし、執務デスクの椅子で目を閉じ腕組みをすると、愛しい女との夢の中へ堕ちていた。









「・・もうこうなったらパイプカットするしかないわね・・」

司の耳に飛び込んで来たのは信じられない言葉。
そして彼の目の前に立つ女は司を見つめていた。

「お前・・な、なんだよ、その物騒な発言は!い、いきなり何を言い出すんだ!なんで俺がパイプカットしなきゃなんねぇんだよ!それに俺がパイプカットなんかしたらお前との子供が出来ねぇじゃねえかっ!」

「司は女にモテるものね・・ちやほやされていい気になって、その気になったら困るもの」

「アホか!俺がお前以外の女に興味があると思うのか!お前はどうかしてるぞ!俺が今まで他の女に目をくれたことがあったか?それとも何か?お前は俺が他の女とイチャついているところでも見たっていうのか!?」

「やっぱり心配なのよね。この前だって可愛い子に声をかけられて鼻の下が伸びてたもの」

「バカなことを言うな!俺は可愛い子は相手になんかしねぇ!それにいつも言ってるだろうが!俺はお前以外の女に興味はねぇんだよ!」

司は突然つくしの口から出たパイプカットという言葉に衝撃が走り総毛立っていた。
女は彼女だけで、彼女以外目もくれたことがない男に対してのその言葉に自分の愛情が足りなかったのかと、今までの毎日どんな態度を取ったのかと振り返ったが、身も心も全てを彼女に捧げている男としては、これ以上どんな態度を取ればいいのかと思わずにはいられなかった。
そしてつくしの真意を確かめようと、恐る恐る口を開く。

「なあ牧野・・お前マジで俺にパイプカットして欲しいのか?そんなことしたら俺たちの子供が出来ねぇだろ?」

司はじっとつくしを見つめるが彼女の目は真剣だ。
だが司も真剣だ。何故なら司は彼女を愛しているからだ。
彼女だけを愛していて他の女など全く興味がない。だから必死で訴える。

「なあ俺はお前以外の女に目を向けたことはねぇぞ?お前しか愛してない。一目会ったその日からお前だけだ。お前以外目に入らねぇ。それにお前と仕事で離れ離れになった時は辛くてメシも喉を通らねぇくらいだ。それでもなんとか口にして仕事に出て駆けずり回ってる有り様だぞ?そんな男が他の女に目をくれるはずがねぇだろ?お前は他の女と比べものにならないほどいい女だ。牧野。俺の目を見ろ。この真剣な目を!一点の曇もないこの澄んだ瞳を!」

「司はカッコいいし、お金持ちだしモテるから・・」

「牧野。いつも言ってるだろ?俺は外見や金に惹かれる女には興味がねぇ・・。俺はお前の何に惚れたか知ってるだろ?その飾り気の無さと誰に対しても態度が変わらないところだ。お前のその凛とした態度が俺の心を捉えたんだぞ?」

「それに、司はこの世の中で最高の男って呼ばれてるから、女性が放っておかないでしょ?だから心配なの」

司は自分が最高の男と呼ばれていることは知っている。
生まれ持った美貌は神の采配であり、家が金持ちなのはたまたまに過ぎない。
そして女性が放っておかないというのは、その言葉通りで司はどんな女からもモテる。だがそれは仕方がないことだ。しかし司は放っておいて欲しいと望んでいる。だからつくし以外の女が傍に寄ると途端に機嫌が悪くなることを彼の周りの人間は知っている。

「牧野。俺は他の女がどうだろうと、お前だけだ。お前以外何もいらない男だ。俺が跪くのはお前の前だけだ。もしそれでも足んねぇって言うなら五体投地も厭わねぇ・・。身体の全てをお前の為に投げ出すつもりでいる。それなのにそんな男の何を疑うっていうんだ。な、牧野?俺を信じろ。俺は他の女には目もくれない男だ」

「でもね、司。あんたが相手にしなくても、無理矢理ってこともあるでしょ?」

「む、無理矢理ってなんだよ?俺が女に襲われるとでも言うのか?そんなことある訳ねぇだろうが!」

馬鹿力と言われる司の自由を奪い無理矢理ヤルことが出来る女などこの世の中にいるはずがない。

「・・あたし、他の女があんたの子供を産むなんてことを考えたら悔しくて眠れないの。・・・だから手術を受けて。それに私、失敗しないので。私に切らせて?」

まるでどこかの女医のような事を言う牧野。
だが見れば白衣姿だ。
お前いつの間に医師免許を取ったんだ?

「ほら。大人しくして。痛くないようにするからね?まず麻酔をかけなきゃね?」

司は注射器を手に近づいて来るつくしから逃げようとしたが、身体の自由が全く利かず身動きが取れず何故か逃げられなかった。

そして・・・

司は自身の身体を見て驚いた。
その身が総毛立った理由も分かった。
事実、司の全身は毛に覆われていたからだ。
そして身体の自由が利かない理由も分かった。
何故なら司は馬の姿で顏にはホルターが付けられ、リードはしっかりと柱に繋がれ、どんなに暴れたとしても逃げることが出来ないような状態にされていた。
そんな状況に注射器を手にじりじりと迫ってくる牧野。
そしてまさに今、その手にしっかりと握られた注射器は司の首に突き立てられようとしていた。

「ツカサブラック。すぐ終わるからね?大丈夫よ?」

「や、止めろ!ま、牧野・・・止めてくれ・・俺はお前以外の女に興味はねぇって言ってるだろうが!た、頼む!パイプカットなんてことは止めてくれ!!」









厭な汗をかくというのは、こういうことを言うのだろう。
司は注射を打たれる寸前で目が覚めハアハアと荒い呼吸を繰り返していた。
そして思わず腰かけた姿勢で下半身を見たが、ファスナーが閉められていることにホッとした。何故ならもう少しで獣医師になったつくしにパイプカットをされるところだったからだ。

司はすぐに気を取り直すと立ち上がり、スーツの乱れを直し足早に執務室を出た。
それはまるで注射器を持ったつくしが迫ってくる夢の続きを見たくないからなのか。
それとも早く彼女に会いたいからか。
とにかくエレベーターの前に辿り着くと、ひとつしかない下ボタンを押し扉が開くと急いで足を踏み入れた。







世界一の女だけが道明寺司の傍にいることが出来ると言われているが、その世界一の女は、今日も仕事に邁進していた。
時計は夜8時半。残業中の女は、恋人の姿に驚いた顔をしたが、嫌な顏はしなかった。
それもそのはずだ。そのフロアにいる社員は彼女だけだからだ。

「あれ?どうしたの?もう終わったの?早いね?あたしももう終わったから支度するね」

一緒に帰ろうといった約束をしていたふたり。
今夜は珍しく司の方が早く仕事が終わり、執務室でつくしからの連絡を待っていたところだった。そしてそんな暇な時間が自身を愛馬ツカサブラックの姿に変え、パイプカットをされるという恐ろしい夢を見させた。

だが司はその時思った。
これはもしかするとツクシハニーの嫉妬ではないかと。
そうだ。競馬界のレジェンドとなったツカサブラックが種牡馬として利用されることを阻止するため、自分の男が他の女との間に子供を作ることを嫌がってあんな夢を見させたのだと感じていた。

しかし、女の嫉妬は恐ろしいと聞いてはいるが、まさか馬にまでそんな嫉妬があるとは思いもしなかった。
司は、ツクシハニーの気持ちもツカサブラックの気持ちも分っているつもりだ。
やっと愛しい女の元で過ごすことが出来るブラックを、種牡馬として他の女に種を提供する仕事をさせるつもりはない。それに司から見たあの馬は自分と同じで1人の女を幸せにする為だけに仕事をして来たと思えるからだ。そうだ。愛する女の為に身を粉にして働く男の見本のようなものだ。あいつは生涯獲得賞金もかなりの額であり、種牡馬として生計を立てる必要などない。

もし仮にだが司に他の女との間に子供が出来たとする。
いや。絶対にそんなことは無いが、もしそうなったとしたら、牧野はどうするのか?
勿論、激しく嫉妬をするはずだ。
いや。そうであって欲しい。
だから今こうして呑気に帰り支度をしている女が嫉妬に狂う姿を見たい気もするが、もしそうなれば自分より他人の幸せを願う女は笑顔でこう言うはずだ。

『道明寺、幸せになってね。それから奥さんと子供を大切にしてあげてね』

だがそんな言葉など聞きたくない。
司が妻にしたいのは、牧野つくしだけ。
子供を作りたいのも彼女とだけ。
そして幸せになりたいのも彼女とだけ。
他の女は誰も要らない。
そしてもちろん、他の女に興味はない。
だがそれは彼女も同じ。
二人はこれからもずっと一緒にいると決まっている。

「牧野。早く帰ろうぜ。・・・それから腹減っただろ?メシ食いに行こうぜ」

その言葉に嬉しそうに目を輝かす女は、今夜は何をご所望か?
ラーメンなら駅のガード下の来々軒。
カレーなら本格的なナンを出すインド人が経営するタージマハル。
ナンプラーの効いたタイ料理が食べたいならバンコク。
あの店のトムヤムクンとナマズ料理は本国にも負けない美味さがある。
そしてどの店も庶民的な味が売り物の店だ。

昔の司なら現地まで連れて行くのが当たり前だったが、今はどんな場所でも付き合う男は、随分と庶民の食べ物にも詳しくなり、彼女と食べる物ならどんなものでも美味いと思えるようになった。
そしてそれが、普段仕事が忙しい男の楽しみであり、ギスギスとしていた心が柔らかくなる瞬間だ。
そして彼女が美味そうに食べる姿を見るのが好きだ。
「美味いか?」と訊けば「うん。美味しいよ。アンタも食べる?」と言われれば喜んで彼女の箸を口に入れることが出来る。そして潔癖だと言われていた男の変わりように友人たちは驚くが、それが愛というものだ。


「お待たせ、道明寺」
「おう。じゃあ行くか?」
「うん!今日は何食べる?」
「お前の好きなものなら何でも」
「そう?じゃあねぇ・・・」

そう言って何を食べるか考え始めた女とは別に、司はその後のことを考えていた。
だが、がっつくのはみっともないといった思いから猛獣モードになるのはもう少し先だと我慢した。

そして近づいてきた女の肩に腕を回し、顔を傾けると優しくキスをした。





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今年の『金持ちの御曹司』は本日が最後です。
いつもお付き合いありがとうございます。(低頭)
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Comment:9
2017
11.26

金持ちの御曹司~Top Secret~

大人向けのお話です。
著しくイメージを損なう恐れがあります。
未成年者の方、またはそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
********************************










NYから東京までの距離は1万キロと少し。
時差は14時間。
サマータイムなら13時間。
司はNYでのビジネスを終え、東京へ戻るジェットの中にいた。


二人の間を隔てる距離も時間も彼の力なら克服することが出来る。
そうだ。そんなことを気にしていては、恋など出来ないからだ。

民間旅客機は高度1万メートルを飛ぶが、司が乗るプライベートジェットはそれより2~3千メートル高い所を飛ぶ。そこは空の混雑や天候を気にすることのない世界。
そして空気が薄いため、機体にかかる抵抗力が少なくなりスピードが速くなる世界。
だからその分早く目的地へ着く。そしてエアポケットの影響も少なく揺れも少ない。

だが司は、最近最新型のビジネスジェットを購入した。
そのジェットは高度1万メートルよりも5千メートル高い所を飛ぶことができる。
つまり今までのものよりもよりさらに飛行時間が短縮されるということだ。

そうなると、今までよりも早く彼女に会うことが出来るが、司にとってその時間が1分だろうが1時間だろうが彼女に会えない時間の長さは同じだ。
なぜなら、離れていることが問題だからだ。だが今までのジェットよりも飛行時間が短縮されることを喜ばないはずがない。

そしてそのジェットには、フル装備のキッチンやバーは勿論、衛星電話やインターネットも装備されており、地上との連絡に不便はない。そしてジェットはアメリカ空軍の技術と同じものが装備されており、赤外線カメラの視線での飛行が可能であり、濃霧であっても着陸できる。だからどんなに天候が悪かろうが必ず目的地を目指し着陸する。

一般庶民の感覚からすれば、とんでもない値段がするプライベートジェット。
だが司には値段など関係ない。
何故なら、司は道明寺財閥の御曹司であり金は唸るほどあるのだから。
それに、愛しい人に一秒でも早く会えるなら金など惜しくない。

そして、そんな男の乗るジェットには、女の客室乗務員はいない。
それは女に近くをうろうろされるのが嫌いだからだ。
だが愛しい人が客室乗務員ならまた話しは別だ。
しかし客室乗務員になるためには、訓練が必要となる。

もし、牧野つくしが客室乗務員として航空機で働くことを望むなら、是非自分の所有するジェットで働かせたい。
いや、他のジェットでなど働かせるものか。

だがその為には、保安要員としての厳しい訓練を受ける必要がある。

司はそんなことを思いながら、快適な空の旅の中、心地よい眠りに落ちていた。











羽田にある道明寺HDの子会社であり、日本を代表する航空会社である道明寺エアライン株式会社。
その会社は、最上のおもてなしと安全を提供する世界でもトップクラスの航空会社だ。
そして、毎年行われる世界の航空会社格付けランキングでは必ず上位3位までに入るのだが、今年は惜しくも4位だった。ちなみに1位は中東の航空会社だが、来年は必ず1位を奪取してやると社長は息巻いていた。


そんな会社の客室教育・訓練センターにひとりの女性がいた。
彼女の名前は牧野つくし。
難関と言われる試験を見事に突破し、念願が叶っての入社となった。


そしてそこに、顔に似合うのか似合わないのか分からないが、サディストと言われる教官がいた。


「牧野つくし!どうしてこんな簡単なことが覚えられない!せっかくお前に目をかけてやったのに、どうしてそれを無駄にする?」

つくしは、普段から教官である男から熱心な指導を受けていた。
そして客室乗務員としての厳しい訓練も残りわずかとなり、彼女は最終試験に臨み、合格するものだと思っていた。だが結果は不合格となった。


「ああっ!教官止めて下さい!」

客室乗務員の訓練生の制服を着た女が、ブラウスの前のボタンを外され、スカートは脱がされていた。
ブラウスの下はブラジャー、下半身はパンティと黒いハイヒールだけ。
そして、手錠をされた両手首は、背の高い磔台から垂れた鎖に繋がれ、やっと足が床に着く状態にされていた。

「止めることは出来ねぇな。何しろお前は俺が覚えろといったことを覚えてなかった。俺のお前に対する努力を無駄にした。だからお前はこれからお仕置きを受けるんだ」

訓練センターの地下には誰も知らない部屋がある。
その部屋の鍵を持つ男は教官である道明寺司。
彼は道明寺HDの御曹司であり、この訓練センターの教官を務めていた。
そこで教え子の中のひとりの女性に好意を持った。そして彼女を手に入れるため、わざと試験を落第させ、彼女を再教育だと言って呼び出した。

「牧野・・お前は俺の期待を裏切って不合格となった。だから罰を与える」

司はおもしろそうな声で言って、ブラウスを引き裂き、ブラジャーを引き千切り、パンティもむしり取った。そして全裸に黒のハイヒール姿にさせた。

「いやぁぁぁっ!教官!お願いです!止めて下さい!」

「ダメだ。牧野つくし。お前は478期生の中でも一番ダメな生徒だ。お前はドジでのろまな亀だ。だから俺がお前を別のやり方で一人前の立派な客室乗務員にしてやる!」

「・・いや・・止めて・・教官!止めて下さい!道明寺教官!」

「言ったろ?止めることは出来ねぇってな。何しろ一度決めたことは最後までやり通すのが俺のポリシーだ」

司の目の前にあるのは、色白で細やかな肌。
そして彼の手には乗馬用の鞭が握られ、裸になった白い肌の上を撫でるように滑った。
顎の先に触れると、首から肩へと下り、既に硬くなった胸の頂きに軽く触れ、そして腹の上を過ぎ、しっかりと閉じられていた太腿の上で止った。

「お前はこれから俺が教育をしてやる。だから脚を開け」

無理矢理捻じ込まれるようにして入れられた鞭の先。
それがゆっくりと股の付け根を前へ後ろへと擦ってゆく。

「あっ!あああっ!!止めて・・止めて下さい・・教官!」
「どうした?怖いのか?」

司の低い含み笑いが聞えた。

「いいか?牧野。何も怖がることはねぇぞ?俺がお前を調教してやる。楽しませてやる。まずは・・そうだな、ウォーミングアップってところからいくか?」

司のよこしまな手は、脚の間から鞭を抜くと、つくしに後ろを向かせ、彼女の尻にゆっくりと鞭を使い始めた。

ピシッ・・ピシッ・・

「ああっ!・・・やっ・・ああっ!」

「なんだ。鞭の先をこんなに濡らしやがって。お前止めてくれって言う割りには感じてたってわけか」

司は女の股の間で擦られた鞭の先が濡れ、革が色を変えていることに低く笑ったが、尻を打つ鞭を止めることはない。

「ああっ!・・ああっ!・・ああっ!」

「痛いか牧野?痛いんだろ?痛いっていえよ?そうでもないのか?そうか。お前はもっと強く打たれたいのか?・・いいだろう。お前が痛いっていうまで叩いてやる。俺はその世界では鞭使いの名人と言われた男だ。存分に楽しませてやる」

初めは手加減していた司の手も、やがて自身が興奮したのかリズムが変わり、激しく音がするように打ちつけ始めた。

バシッ・・バシッ・・

「あっ!あっ!止めて・・お願いっ!・・教官!道明寺教官お願い止めて!」

つくしは、ぶら下がるような形の身体に鞭を振るわれ、焼け付くような痛みを感じた。

「この鞭はな、俺の持ってる競走馬に使ってた鞭だ。今季限りで引退する馬だがな。いい馬だった。ツカサブラックって名前だが今日もこれから東京競馬場で走る。お前の調教が終ったら見に行く予定だ。そうだ。牧野。お前も連れてってやる。それにな、その馬の女の名前はツクシハニーって言ってな。お前と同じ名前だ。偶然だと思うか?いや違う。俺はお前をイメージしてその馬に名前を付けた。その馬も小股の切れ上がったいい女でな。ツカサブラックは種牡馬入りするがその牝馬以外とはヤリたがんねぇはずだ。まあ俺としては別にそれでいいと思ってる。何しろあいつら今まで我慢してたんだから、ヤリたいだけヤレばいい。それが馬主の愛情ってモンだ」

鞭はさらに激しくつくしの尻に振り下ろされた。

「ああっつ!」

「話が逸れちまったけど俺はお前を卒業させたくない。だけど大空を羽ばたきたいというお前の夢は叶えてやりたい。けどな。俺はお前が男の前でサービスをする姿は許せねぇ。だから俺がお前の夢は叶えてやる。いいか?再試験はない。俺専属の乗務員として俺のジェットに搭乗しろ。俺だけにサービスしろ。嫌か?けどな。嫌とは言わせねぇ」

その声はひとりの女を思うあまり、狂気に走った男の声。

「それにしても俺の印がお前の身体に付くのは最高だな。お前が苦痛に身をよじる姿を見るのは最高だ」

「ああっ!道明寺教官っ!止めて!」

ひと打ちごとに、赤味が増していく肌に司は己が興奮していくのが感じられた。
それは、今まで他の女とでは経験したことがなかった快感。
司はさらに激しく鞭を打ち下ろした。

「お願い!止めて!道明寺・・」

あまりの痛みなのか、女はついに男を呼び捨てにしたが、そんな男は、つくしを繋いでいた鎖を外し、手錠を外し、履いていたヒールを脱がせ、ベッドへ横たえ教官の制服をバサバサと脱ぎ捨てた。

そこに見えるのは、見事に割れた腹筋を持つセクシーな男の身体。
その身体でつくしの上へのしかかり、彼女の脚を大きく開かせると、秘口の濡れ具合を確かめるため、指を深く潜らせ内側の壁をなぞった。

「すげぇ濡れてる。・・こんなに濡らしやがって、お前は俺に鞭で打たれて感じたってことか?それにまだ溢れて来てるじゃねぇかよ」

男に鞭で打たれ、ぐったりとした女は口を開くことが出来ず、ハアハアと肩で息をしていた。
そして、つくしの下半身は、司の言葉通り、しとどに濡れていた。

「そうか。お前は俺に苛められるのが好きか?」

司はそう言ってククッと低く笑い、彼女の唇にキスをした。

「じゃあもっとこれからお前を苛めてやるよ」

既に膨れ上がった自身を女の秘口に当て、何も言わずいきなり全てを押し込んだが、微かな抵抗を感じ、女の口から漏れる悲鳴に自分が初めての男だと感じ歓びを感じた。そして女に痛みに取って代わる快感を得させようと繰り返し身体を動かし始めた。

「牧野っ、俺はお前のことが好きだ!絶対に離さねぇからな!こうやって・・お前を・・ベッドに・・一生縫い付けてやる!」

ひと言ごとに、ぐいっと腰を突き出し、速く、深く、激しく時間をかけ突き上げる行為を繰り返し、エロテックな水音を響かせながら二人の身体が繋がった部分に手を伸ばした。
そして黒いカールの奥にある突起を擦り上げながら腰を使い、硬く尖った肉棒を一番奥まで突き入れ、司の下で声を上げる女を責め続けた。

「ああっ!・・あ・・あ・・ああっ・・はっあっ!」

「なあ、俺に満たして欲しいんだろ?ん?どうした?もっと激しいのがいいのか?」

貫いて、愛撫して、キスをして、弱まることのない欲望に女の脚の間で腰を振った。
喘ぐばかりで何も言わない女に、一瞬だけ動きを止め聞いたが、自身が締め付けられることで返事を得たとばかりに、もう一度女の腰を引きよせ、女の全てを自分のものにし、誰にも渡さないように印を付けるため、さらに激しく腰を振り容赦なく責め立てる。

「ああっ!・・ああっ・・んっあっ! 」

そして身体を前に倒し、華奢な脚を今以上大きく開き、胸につくほど折り曲げさせ、片方の胸の先端に舌を走らせ、もう片方にも同じことをした。そしてその先端を強く噛んだ。

「ああっ!」

高い叫び声が上がり、その声に男の唇は先端を咥え、きつく吸っては再び噛み、舌先で舐めを繰り返しながら、指でもう片方の先端を摘まみ、転がし、潰した。
そうする度に上がる高い声を抑えるように、暴力的といっていいほど激しく口づけし、その唇を噛んだ。そして耳元で囁いた。

「欲しいか?・・俺が欲しいんだろ?欲しいって言え。俺はお前が欲しくて仕方がなかった!授業の間もいつもお前ばかり見ていた。だからお前を離したくねぇ・・いや離さねぇ!俺はお前と永遠にこうしていたい」

そうだ。初めて会った時から彼女のことが欲しかった。
教官と生徒というよりも、女として牧野つくしを見ていた。

そして司は誰よりも優秀であり、誰よりも金持ちだ。
もし女が逃げたとしたら、どんな手を使ってでも見つけ出し、この腕の中に取り戻せるだけの力がある。
そして今まで考えもしなかったが、本当に欲しいと思ったものへの所有欲は人一倍あると気付く。だから牧野つくしを手放すことなど絶対に出来ない。その代わり、全てを彼女に与えてやる。

「いけよ。快感を味わえ。この身体はお前のものだ。お前に与える為にある身体だ。だからお前の身体も俺にくれ・・それからその心もだ」

その言葉に彼女の身体が彼を締め付け、収縮すると、司は一層激しく腰を振り、部屋の中に身体と身体がぶつかり合うエロティックな音が大きく響く。たくましい男根が何度も激しく女の中に突き入れられ、凶暴とも言える激しさで女の全てを奪う。
そして絶頂を迎えた女の声を聞いて、司は歯を食いしばりながら一線を越えた。

「・・ぃ・・クッソッ・・・俺はお前が好きだ!お前は一生俺の傍にいろ!俺が一生お前を大切にしてやる・・絶対不幸にはしねぇ。・・だからずっと俺の傍にいてくれ!俺はお前を愛してる!」

その瞬間頭が白くスパークする。
強烈な快感が腰から背中に抜け、脳内に届く。
共に絶頂に達し、全てを彼女の中に放ち、暫く深く突き入れたものを抜くことをしなかった。そして唇に、頬に、額に口づけをした。
















「・・・司様?司様?間もなく着陸します」

司は西田の声で目が覚めた。

「東京か?」

「はい。あと15分です」

司が目を向けた窓の外は眩しい光りが降り注いでいた。
遠く1万キロの彼方から巨大なビジネスを動かす男が目指したのは極東の小さな国。
世界から見れば資源のない小さな島国だが、その島国は、世界でも稀に見る経済発展を遂げた国でもある。
そして、青い水平線の向うにあるのが、そんな小さな島国であったとしても、そこに愛しい人がいるなら、そこは司にとってのパラダイスだ。


司が見た今日の夢は、今までにないほど激しい夢だったが、少年の頃、彼女が欲しくて追いかけていた頃の自分に似ていた。
しかし随分と極悪な夢を見たものだと笑った。
彼女を鞭で打つなどもっての外であり、彼女の身体を傷つけるくらいなら、自分の身体が傷ついた方がいい。
いやだからと言って司が鞭で打たれるのが好きかと言えば、それは多分違う。
それに、どちらかと言えば、打たれるより打つ方が好きなはずだ。と笑ったが、それなら今見た夢は、潜在意識のなせる業だったのかもしれない。



若いころ、心があてどなく彷徨い虚ろな思いを抱えていた。
だがそんな思いを愛に変えてくれた人がいた。
その人に出会ってから人生がスタートした。
迷いのない大きな瞳が彼を導き、彼の心に人を愛する炎を灯した。
だがその炎は彼女だけに捧げる炎であって他の女の傍で燃えることは決してない。

だから今、彼は自身の燃える思いを彼女に届けたい。
それも今すぐに。
あんな夢を見たばかりに、彼女が欲しくて身体が燃えていた。

「司様。間もなく着陸いたしますのでベルトをお締め下さい」

「ああ。わかった」

客室乗務員の声に、司はもしこの男が牧野つくしだったら、とあらぬ思いを描いていた。
それは機内でのサービスの色々だ。
そんなことを考えれば顔に出たのだろうか。秘書の西田がひと言言った。

「牧野様がお迎えにお見えになられているそうです」と。

「そうか。わかった」

司はまさか今日彼女が来ているとは思わなかった。
だが、嬉しかった。彼女が来ていると聞いた瞬間、吹くはずのない風が吹いたような気がした。そしてそれは時計の針がNYから東京の時間へと変わった瞬間だ。

離れていた時間がどんなに短い時間だったとしても日は巡り、季節は巡る。
だがそんな巡る季節も彼女がいなければ意味がない。
そして時はいつも彼女と共にあるから、司はいつも彼女の傍にいたい。
何故なら彼女がいない世界は、時間の流れが信じられないほど遅く楽しくないから。
だが彼女に会った途端、遅いと感じられていた時間は一気に加速して、ときめきの世界へと動きだす。


そしてその世界はタラップを降りればすぐそこにある。


「道明寺!お帰り!」


と言って駆けて来る人の腕の中に。

そして「ただいま。牧野」と司は愛しい人を抱きしめた。



ただし、あんな夢を見たことは、絶対に秘密だ。






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2017
11.19

金持ちの御曹司~頭をよせて~

いつもに増して忙しい男。
彼の名前は道明寺司。
道明寺財閥の御曹司と呼ばれ、道明寺HD日本支社の支社長であり、牧野つくしの恋人。
そんな男がこんな夢を見た。






道明寺家は過去に何人もの有力政治家を輩出しており、司も選挙区である地元世田谷からトップ当選を果たしていた。
何故道明寺家は多くの政治家を輩出して来たのか。決して個人の野心の為ではない。
それは道明寺一族のためであり、財閥の利権といったものを考えたとき、家族の中に政治家がいることが望ましいからだ。


選挙には『地盤、看板、鞄』の三バンが必要だと言われているが、司の場合どれも完璧に満たしており、何の心配もないと言われていた。

ちなみに地盤は選挙区における支持者の組織。
看板は知名度。
そして鞄とは資金のことだ。

支持者組織は、道明寺司後援会という名称だが、実際は『道明寺司ファンクラブ』といった方が正しい。
ちなみに司が演説を行えば、老若男女問わず誰もが聞き入り魅了される。
それは一本調子ではなく、抑揚をつけた語りかけが聴衆の胸にひびき、心を打たれるからだ。
そして、そんな演説を聞いた人々から後援会への入会が後を絶たず、その知名度は彼を知らない人間がいるとは思えないほど幅広く知られていた。
さらに資金力に至っては文句なし。なにしろ彼のバックには道明寺という巨大財閥がついているのだから金の心配など無用だ。

だが政治の世界では、コンニャクと言えば100万のことだが、レンガと言えば1000万と言われており、議員に頼みごとがある有権者は、それを包んで持参すると言われている。
だが司の場合そんなものは必要としない。何故なら議員の資産公開ともなれば、驚くほどの数字が国民の目に触れるのだから政治献金など一切必要ない。

けれど、並外れた財力を手にする男にも悩みがあった。
晴れ渡った空の日曜日の午後。
世田谷の邸のテラスでイギリス式ハイティーの必需品であるスコーンにクロテッドクリームを塗った男は秘書に言った。

「おい西田。牧野・・・牧野つくしは、あの女はいったい何を考えてる?」

「牧野つくし様ですか?」

「ああ。そうだ。牧野つくしだ」

「司様が高校生の頃お付き合いされていた牧野つくし様ですね?」

「・・・・・」

司は言葉に詰まった。
そして、手にしているスコーンをじっと見つめた。

「仕方がございません。今のあの方は野党の国会議員なのですから、総理である司様に質問する権利がございます」

司は若くして党の副幹事長を務め、いくつかの大臣職を経験した後、党総裁となり内閣総理大臣の職を務めるまでになった。

「だからと言って、なんであいつは俺に対してああも反抗的な態度を取る?」

「ああもとおっしゃいますが、それはいったいどういったことを示していらっしゃるのでしょうか?」

「決まってんだろうが。あの態度だ。・・・その・・どうして俺にああも冷たい?」

「それは司様が牧野様のことをお忘れになったばかりに、男性不信になられたのではないでしょうか。何しろ牧野様のことを好きだと言って周りの迷惑を顧みることもなく追いかけ回した果てにお忘れになられたのですから、あのような態度に出られても当然ではないでしょうか?」

司は高校生の頃牧野つくしに恋をしたが、彼女のことをすっかり忘れてしまった過去がある。それは彼のせいではなく、当時の財閥の強引なビジネス手法が招いた悪夢だ。

「けど俺はあいつを思い出してからすぐに謝りに行ったじゃねぇか!」

そしてその後、記憶を取り戻し、彼女の元へ行ったが許してもらえなかった。

「しかし許されなかった・・。仕方ございません。牧野様は頑ななところがありますから、あの方の中では今だに司様のことは許せない・・ということでしょう」

西田にそう言われた司は、怒ったように下唇を尖らせたが、スコーンを口に入れ、ストレートのアールグレイを口に運んだ。

彼女の記憶を取り戻した司は、以来何度も彼女の元を訪れては求愛したが、相手にされなかった。
そして月日は流れ、司は40歳で内閣総理大臣となり、国会では野党議員となった牧野つくし先生に責められていた。だが、その責めも自分が彼女を忘れてしまったが為であり、甘んじて受けなければならないと思っていた。

今では氷のように冷たい女と言われる牧野つくし。
英徳学園高等部を卒業後、抜群の成績で東京大学法学部を卒業。
当時は大蔵省と呼ばれていた今の財務省に入省した。そして数々の要職を務め上級の国家公務員となった彼女は財務省を退官後、政治の世界に打って出た。
そして、司に対して厳しいと言われる質問ばかりする。







「総理!総理!質問にお答えください!西門流茶道会館を建設するにあたり、国有地が不当に安く売却されたようですが、これはあなたと家元の西門総二郎氏との関係からいわゆる忖度といったものが働いたのではないでしょうか?」

今現在国政を騒がせているひとつに、総理のお友達問題と呼ばれる案件があり、その案件の為に常任委員会とは別に特別委員会が開かれていた。
そして、にわかに脚光を浴びるようになった忖度(そんたく)という言葉は、相手の心を推し量り配慮することであり、流行語と呼ばれている。そしてこの言葉を総理に対し使ったのはつくしが最初だ。

司は彼女の質問に答えるため手を上げた。
何故なら発言する者は挙手をし、委員長に発言指名をされなければ発言出来ない決まりだからだ。

「道明寺内閣総理大臣」

「いいえ。そういったことは一切ございません。お考え過ぎではないでしょうか?」

司は立ち上ってマイクの前まで行き、発言した。
そしてまた席に戻った。

「そうですか。それでは再び総理にお聞きします。やはり西門総二郎氏が運営する西門学園が国家戦略特区と呼ばれる地域に大学を建設しようとしていますが、こちらの件をいかがお考えでしょうか?この大学は茶道文化を学び、その文化を海外に伝えるといったことを目的とすると言いますが、そのような大学が本当に必要なのでしょうか?今までこのような趣旨の大学の開学を認められたことはありません。それなのに文科省に許可されたのは不思議としか言いようがありません。これはやはりあなたのお友達である西門総二郎氏に対する忖度が働いたのではないでしょうか?もしくは総理のご発言の中に西門学園の開学を望むような趣旨があったのではないでしょうか?」

「道明寺内閣総理大臣」

手を上げ名前を呼ばれた司は再びマイクまで歩いて行き、発言した。

「牧野議員。それはお考え過ぎではないでしょうか?確かに私と西門氏は幼馴染みであり、親しい関係にありますが、政治とプライベートは全く関係ありません。彼と大学の開学について話しをしたことはございません」

司は愛おし女を見つめながら冷静に答えた。
今ではこうして国会議事堂の中でしか会えない彼女。
そしてすぐ傍に、あと数歩の場所に彼女がいると思うと気持ちがざわめいていた。

「道明寺総理。あなたは今ご自身が疑惑の総合商社と呼ばれていることをご存知ですか?」

だが二人の間に甘い会話が交わされることは決してなく、棘を含む話ばかりが繰り返される。

「牧野議員。道明寺は商社ではありません。商社なら美作商事か、花沢物産をあたって下さい」

「そういう意味ではありません!お友達と呼ばれる方々の仕事のために色々と便宜を図っているといった噂があるんです。現に海外で日本の資金援助で建設される水道事業に関しあなたは花沢物産系の会社を指名するような発言をしたといった話しがありますが、その件についてお答え下さい」

政治は駆け引きが必要だが、恋にも駆け引きが必要であり、こうした委員会や本会議での質問も恋の前戯と思えば楽しいのだが、長年の恋の宿敵。類の会社の名前があがった途端、司の顔に厳しさが浮かんでいた。

「牧野議員。逆にこちらからお伺したいですね?あなたは花沢物産社長の花沢類氏とはどういったご関係なのでしょう?花沢氏は既婚者です。そんな男性と親しげに過ごしているといった話しがありますが、それはどうご説明をして下さるのでしょうか?」

類と牧野つくしが親しげに道を歩いているという情報が耳に入り、司はすぐさま類に電話をした。すると、ああ、あれはなんでもないよ。旧友として久し振りに食事をしただけだよ。と笑って言われた。

だが類は既婚の身だが間もなく離婚するという。そうなると、司にとってはライバルとしか思えない。しかし類は彼にとって大親友であり幼馴染みだ。だから類の言葉を信じたい。
だが前科がある。

「道明寺総理。今は私のことではなく、あなたに対して私が質問する時間のはずですが、まあいいでしょう。あなたのご質問にお答えしましょう。彼とは10代の頃からの知り合いであり単なる友人です。ですから男と女の一線は超えてはいません」

「・・・ふん・・。そうか?一線は超えてないって?お前は昔南の島で俺に嘘をついて夜中にあいつと抱き合ってたことがあっただろうが。あん時と同じなら承知しねぇからな!」

突然変わった司の口調に委員会室がざわめいた。
そして委員長が総理の激変ぶりに慌てて口を挟んだが低い声で黙ってろと一蹴され、室内は水を打ったような静けさに包まれ、そんな中で二人の口論が始まった。
そして共に自分達が立っていた場所から歩みよりではないが、今では二人は50センチも離れない場所で顔を突き合わせ睨み合っているが、185センチの司に対しヒールの高い靴を履いているとしても、女の背は低く司が見下ろす形だ。

「ち、ちょっと!なっ、なに言ってるのよ!変な言いがかりをつけないでよ!」

「何が変な言いがかりだ!お前は夜中に俺がいる部屋から抜け出して他の男に会いに行く女だろうが!誰が眠れなくて散歩してただって?あのとき類と真夜中の密会ってやつでキスして抱き合ってただろうが!」

司は遠い昔のことが頭を過った。
それは、藤堂静への思いに悩んでいた類を抱きしめていた女の姿。

「そんな大昔の話持ち出さないでよ!それにど、どうしてあたしが今更類と抱き合わなきゃいけないのよ!類はね、あんたがあたしを忘れてからもずっとあたしのことを見守ってくれてたんだからね!言っときますけどね、あたしはね、あんたみたいに軽々しいことなんてしてません!」

「何が軽々しいんだよ!」

「何って軽々しいじゃない!あたしのことだけ忘れちゃって、別の女を傍に置いて・・なにが海よ!だいたいね、海だか山だか湖だか知らないけどね?あたしはあんたのことを忘れたことは一度もなかったわよ!今の今まで一度もね!」

「俺だってお前のことを思い出してからは、あんなことは一度もしたことはねぇぞ!それに何度も謝ったじゃねぇか!それなのに許そうとしねぇのはお前の方だろうが!」

「分かってるわよ!」

今は顔を真っ赤にして憤っている女の本音が語られた。
『あたしはあんたのことを忘れたことは一度も無かった』
その言葉がどれほど嬉しいか。
司は天にも昇る気持ちだ。

「分かってるんなら何が問題なんだよ?俺は独身。お前も独身。何の問題がある?それともアレか?与党と野党で政策の違う党の二人が一緒になることが問題なのか?そんなこと愛し合う二人の前には関係ねぇだろ?」

政治的な思考と愛の思考は違うはずだ。
事実政党を超えた愛は実在する。

「違うわよ・・もう時間が経ち過ぎてるのよ!・・それにあたしはもう40歳よ?あんたには、こんなおばさんじゃなくてもっと若い子がいいのよ・・」

「牧野・・・」

「なによ!言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃない!言いなさいよ!」

司より随分と小さい女は彼に向かってやたらと反論を繰り返すが、それは昔からであり、素直じゃないところは全く変わらない。だが、司も昔と変わらない一念の男であり、ここでこうして本音で会話が出来る以上簡単に諦める訳にはいかない。

「欲しかったんだろ?」

「何がよ!」

「だから俺が。いつまでも意地張って自分の気持ちを偽ってんじゃ人生楽しくねぇだろ?俺のことが今でも好きだって認めろよ。俺はお前以外の女なんて欲しくねぇからな。牧野、今も昔も俺にはお前だけだ」

50センチあった二人の間。
だが今はもうその距離はない。
それは、司の手が彼女の身体に回されると、力強く抱きしめていたからだ。
そして彼の胸の中で呟いている彼女の言葉を聞きた。

「・・・ばか。あんたなんか大嫌い」と。
だがそれが彼女なりの愛情表現だと分かっているから怒ることはない。
だから司は言った。「大嫌いで結構。俺はお前のことが大好きだ」と。
そしてこの様子はテレビで中継されており、全国民の知るところとなった。

道明寺総理。野党議員牧野つくしと熱愛発覚!
委員会中に抱き合う!
高校時代の恋人と復縁!
今後の国会運営に影響か?!
etc.etc.etc.・・・

そして中継をしていた国営放送は、中継の途中ですが番組を変更致します、とテロップが流れ『名曲アルバム』に切り替わり、クラッシックの名曲と共に、ヨーロッパの美しい風景が流れ始めた。
そして丁度その頃、総理である司がつくしに思いっきり激しいキスをしていた。












道明寺。と柔らかな声で呼びかけられ目が覚めた。
そして心配そうな顔で「大丈夫?」と聞かれた。

彼はベッドの中にいて、彼女は傍に置かれた椅子に腰かけていた。
そしてタオルが額に置かれていた。

司は目の前が真っ暗になり執務室で倒れた。
悪い病気ではという思いが頭を過ったが、医師には疲労と寝不足が重なったためでしょうと言われ安堵した。

健康には自信があるが、それでも忙しい日が続けば、体力が奪われる。
そして、そんな男を心配する愛しい人の顔は間近にあり、タオルを取り換えようと、頬に息が感じられた。


寝ている間に夢を見た。
何故か舞台が政治に関するものであり、そして二人は長い間離れ離れになっていた事を言い合っていた。
だが今の司の心は、彼女の顔を見た途端弾んだ。
西田がすぐに彼女に連絡をしたが、倒れた自分の元にすぐに駆けつけてくれ、傍にいてくれたことが嬉しくてたまらなかった。
何度も道明寺大丈夫?と呼ばれることが嬉しいと感じ、その度幸福に包まれ、さっき見た夢の名残りはここにないのだと胸を撫で下ろす。

そしてどうしたの?と聞かれ夢を見たと答えた。
二人が長い間離れ離れでいた夢を、と。
すると彼女は、あたしたちもう離れないって誓ったでしょ?と言って笑った。
「そうだな。これから先もずっと一緒にいてくれるんだよな?」と司は返した。
そして目蓋を閉じたが、暫くして取り換えられたタオルが額に置かれ、その冷たさに目を開くと、すぐそこに心配そうな顔があった。

司は彼女の小さな手を包み込むように掴んだ。
その手はタオルの冷たさ以上に冷えていた。だからその手が早く暖かさを取り戻すようにしっかりと包み込み、布団の中に引き込んだ。
そして目の前にあった唇に唇を重ね、彼女の頭を自分の胸の上に乗せ、滑らかな黒髪を撫で始めた。

「何も心配することねぇからな。俺はお前の傍にずっといてやるから」
と言って。





今の二人は、あの頃とは違い常に一緒にいることが当たり前となっているが、それはどちらかが一方的に相手を必要としているというのではない。
繋いだ手の暖かさが生きていく意味を教えてくれたのは彼女だが、互いが互いを必要としていて、永遠が互いの手の中にあるから一緒にいたいと思っている。
そしてそれは二人の間にある強い絆。
それをはっきりと認識したのは、無人島と思われていた島に拉致され、二人で夜を過ごした日だ。それまで司の周りにあったすべての孤独な夜が無くなった日であり、離れたくない。どこへも行かないでという言葉を告げられた日でもあった。
その言葉が男にとってどれだけ嬉しい言葉か。
あの日のことは一生忘れることはないと断言できる。
そして、頭をよせ合い互いの思いを伝えたが、頭をよせる事は、心をよせる事でもあり、互いの気持ちが近づく瞬間でもある。


そのとき、彼女が彼の胸から顔を上げ、司を見た。
その目はさっきまで感じられた不安の影は去り、柔らかな光りがあった。


司は頭をよせ、再び唇を重ね合わせたが、こうして頭をよせる相手がいることの幸せを噛みしめていた。

そしてこれからもっと幸せになろうな。と囁いた。





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2017
10.15

金持ちの御曹司~誘惑~

最近日系英国人の作家がノーベル文学賞を受賞したことが話題になったが、今日の司は珍しく時間が取れたこともあり、久し振りに読書でもするかといった気になっていた。

普段忙しい彼が、読書をする時間などあるはずもなく、読むといえば、経済新聞かビジネス雑誌といった分野になるのだが、秋の夜長、読書の秋。今回は文芸と呼ばれる本を読もうと思っていた。

世田谷の邸には、英国貴族の邸と見紛うばかり立派な図書室といったものがある。
そしてそこには、道明寺家代々の当主が世界各国から集めた貴重な初版本といったものがコレクションとして収められているが、『書籍』という物体を愛する、ビブリオフィリアと呼ばれる書籍愛好家からすれば、喉から手が出るほど欲しい本が並べられており、まさに垂涎の的といった図書室だ。

そして、そんな図書室には、世間で話題となった本も収めてあった。

司は書棚の前まで来ると、ズラリと並んだ蔵書の中から2冊の本を取り出した。
なぜ2冊なのか。何故なら上下巻に別れていたからだ。

そして司が手に取ったそれは、かつて日本経済新聞に連載されていた小説の本。
当時、経済新聞に連載するに内容が相応しくないのでは?といった意見もあったその小説。
それぞれ家庭を持つ中年の男女が不倫の末、心中するといった内容の小説。
それは、アダムとイブが蛇にそそのかされ、善悪の知恵の実を食べ、天国を追放されることを表す『失楽園』という名前のつけられた小説だった。

そう言えば、当時タマが、その新聞を読み終わったらタマに下さいまし。と言っていたのを思い出した。
そしてその小説は、その後映画になり、テレビドラマにもなったが、性的描写が生々しいことが話題になった。だが司は読んだことがなかった。

ただ、新聞の性質から、読者はビジネスマンが多く、ひと前で堂々とそういった小説が読めることが世の中年男性には有難かったといった話も聞いた。
何しろ、日本を代表する経済新聞だ。どこで広げていたとしても恥ずかしくない。
それにその小説だけを目当てに広げているとは誰も思わないはずだ。

そして不倫をしている男と女の気持ちが分るからと言って、その映画を見ろとやたらと熱心に勧めて来たのが、あきらだった。だが司は、不倫映画なんて俺とつくしの間には関係ねぇと一蹴した。
それに、もしそんな映画を見ていたことをつくしに知られると、恐ろしい誤解が生じるような気がしていたからだ。
そして、あきらがDVDを貸してやると言って置いて行ったが、何故かそのDVDは未だに司の部屋にある。ただ、そこにあると、つくしに見つかったとき、説明に苦慮することが分かっているだけに、早々にあきらに返そうと思っていた。




速読家の司は、あっという間に本を読み終えるとパタンと閉じた。
若い頃は読む気がしなかったその本。
だが何故か今は、妄想の翼が広げられたような気がしていた。
そして、あきらが熱心に勧めていた気持ちが分かったような気がしていた。

ひと言で言えば、いやらしい内容の小説。
大人の男女の性愛にスポットを当てた小説。
人妻を性に目覚めさせ、溺れさせるといった内容が書かれた小説。
そういった小説は、どちらかといえば隠れてこっそり読むことが主流だったあの頃。
それなのに、そんな内容の小説が堂々と読める経済新聞に掲載されていたことを考えれば、発行部数が飛躍的に伸びたはずだ。

そして、司の父親もその新聞を読んでいた。それならば、執務室で堂々と読んでいたのではないか。そんな思いが頭を過った。
だがそれは、司の父親だけではないはずだ。
名だたる企業トップも目を通すと言われる経済新聞だ。
真面目な顔をしたあの企業経営者も、あそこの堅物親父も、そんなことには一切興味がないといったジジイも、毎朝執務室に届けられる新聞を楽しみにしていたということになる。

そして司は思った。
たまには本を読むのもいいものだと。
そして、読んでみれば実に想像力に富んだ作品だと感じた。
ただそれは、ある一点だけに集中していた。

もし、司が主人公で、つくしが不倫相手の女だとすれば、といったことに。









「道明寺支社長。今回はインタビューに応じて下さってありがとうございます。記事は来月号から掲載されますので、原稿が出来上がり次第お持ちいたします」

つくしは、婦人雑誌の記者として道明寺HD日本支社長である道明寺司の取材に来ていた。
取材など殆ど受けたことがないと言われる司のインタビューの約束が取れたのは、まさに奇跡。司の気まぐれとしか言えないことだった。

取材は当初1日で終わる予定だったが、司の希望で1日では話足りないということになり、3日間という異例の取材となった。そして今日がその最終日だった。

「牧野さん。こちらこそ、今回はとても有意義な時間が持てたことを嬉しく思う。あなたは聞き上手だ。聞く力といったものをお持ちだ。そのうえお話をしていて楽しい。あなたならまた次のインタビューも受けたいと思っている」

「・・道明寺支社長。ありがとうございます。お世辞だとしても、出版社に勤める人間として大変光栄です」

「いや。世辞など言ったつもりはない。私は本当のことしか口に出さない男だ。不思議なことだが、あなたと話をしているとおおらかな気持ちになれる。・・それは、あなたの雰囲気がそうさせるのでしょう」

司はソファの真正面に腰を下ろしたつくしの瞳をじっと見つめた。
そして暫く黙ったあと、ゆっくりと口を開いた。

「・・こんなことを申し上げるべきではないと思いますが、私は一目見てあなたの事が気に入りました。いや、気に入ったなんて言葉では済まされない。好きになったといった言葉の方が正しいはすだ。だがご存知の通り私は結婚している。しかし妻といっても名ばかりだ。だから離婚するつもりだ」

「道明寺支社長・・でもそんなことが出来るはずがないわ・・だってあなたの奥様は・・大河原財閥のお嬢様です。とてもそんなことが出来るとは思えません」

「何故だ?」

司の声色が変わった。

「・・何故出来ない?・・俺は全てを捨ててもいいと思ってる。お前さえいてくれればそれでいい。俺たちがこうして再会したのは運命だ・・そうだろ、つくし。・・・俺は・・あの時・・家のため、財閥のため、お前を・・お前を捨てた・・だがこうして巡り会えたことは運命だ。なあ・・そうだろ?今の俺は何も躊躇うことなんてねぇんだ・・もう他人行儀は止めてくれ!」

「道明寺・・・」


二人は遠い昔、恋人同士だった。
だが、司は経営が傾いた道明寺の家を見捨てることが出来なかった。
だがそれは、家のためではない。世界中にいる何十万という従業員とその家族のため、彼は犠牲になった。それが企業経営者としての責任というものだから。

「つくし・・もう一度俺とやり直そう・・いや・・・やり直してくれ」

「ダメよ・・あたしは、牧野の名前で仕事をしてるけど結婚してる・・だから・・」

「ああ・・知ってる。お前が結婚したって話はあきらから聞いた。・・けど俺はお前のことが諦めきれなかった!」

「道明寺・・ダメよ・・今更そんな・・・」




だが二人は気持ちが抑えきれなかった。
その日から毎週のように会い、身体を重ねた。
場所は、都内のホテル。
伊豆の別荘。
軽井沢の別荘。
しかし、司が自分の車で迎えに来ることはなく、二人とも密会場所を一歩出れば赤の他人を装った。司は大企業の経営者。そしてつくしは名の知れた出版社で働く記者。そして共に家庭のある身。そんな二人がスキャンダルに巻き込まれる訳にはいかなかった。
だが二人は週に一度の関係だけでは耐えられなくなり、一分一秒たりとも離れたくないと思うようになっていた。

ずっと一緒にいたい。

離れたくない。

どこにも行かないで。

そんな思いが積み重なり、心の奥底へ暗い闇が広がるようになっていた。
そして司も、一秒たりともつくしから目が離せなかった。
白く柔らかな肌が他の男のものだとしても、それはもう過去のことだと。
今は二人がこうして一緒いることが当たり前のようになっていた。

やがて二人の関係が週刊誌に取り上げられるようになり、つくしは夫と離婚したが、司の妻は別れようとしなかった。それでも二人は迷うことなく互いの手を取った。



「・・つくし・・愛してる・・」

「つかさ・・」

「・・いいのか?本当に」

「ええ。構わないわ。あんたと一緒なら地獄でも行ける。だからお願い・・」

二人は見つめ合った。
司は、つくしの手にワイングラスを握らせ、それから自らもグラスを握った。
そして二人は全裸のまま乾杯をした。

「・・あんたと一緒に死ぬのは怖くないわ・・」

空腹の胃に沈殿していく毒を含む芳醇な香りのルビー色の液体が、大きな瞳を恍惚とした表情に変えていく。

「・・俺もだ。お前がいれば地獄も天国だろうよ」

空になったグラスが床に転がると、二人は長いキスを交わし、酔いが回ってきたつくしの身体は抱え込まれ、もう二度と離れたくないと身体を絡めながら愛し合った。
やがて身体の芯が収縮すると司を締め付け、危険で誇り高いと言われた男と、かつて彼の恋人だった女は共に絶頂を迎え、意識は眠りの膜に包まれていた。










「・・・つ・・さ・・つか・・・司!!」

「あ?」

「あじゃないでしょ?ちょっと何やってるのよ?いつまで待っても帰ってこないから、滋ちゃんが探しに来たのよ?ホントにもう・・何こんなところで寝てるのよ!」

と言われた司は、道明寺邸の中の図書室にあるカウチで眠っていた。
何故図書室に立ち寄ったか。それは滋が見せて欲しいといった『不思議の国のアリス』を書いた英国人のルイス・キャロル自身が手書きで挿絵を描いた世界に一冊しかない『地下の国のアリス』という本を探しに来たからだ。

それは、『不思議の国のアリス』原型となった物語だが、本は現在大英図書館にあり、展示されていると言われているが、それは偽物であり、司が子供の頃からここにある本が本物だと言われていた。
だがその本を手にとった途端、まさに不思議の国に誘われたように、眠りに落ちていた。



「ねえ。もしかしてアリスみたいに白いウサギを追っかけて夢の世界に旅立ってた?だって司は子供の頃、楓小母様からウサギのぬいぐるみをもらって大切にしてたって話、知ってるわよ?・・もしかして、今でも大切にしてるとか?」

ニヤニヤ笑いを浮かべた滋は訳知り顔で司の片腹を肘で突いた。

「アホか!そんなことあるわけねーだろうが!・・・疲れてたからちょっとウトウトしただけだ!・・おい、この本だろ?お前が見たがってた本!」

司は手元に置かれた古い一冊の本を滋に押し付けた。

「わあ~!ありがとう!まさかこの本が道明寺邸にあるなんて、イギリス人もびっくりよね?」

司に言わせれば、昔から突拍子もないことばかり思いつく滋の方が余程びっくりな存在だ。
やたらと変装したがる、といった趣味のある女の邸には、自前の劇団が持てるのではないかというほどの衣裳部屋なるものが存在するからだ。

それに、滋は不思議の国のアリスに出てくる、いたずら好きのチュシャ猫に思えて仕方がなかった。何しろ、今まで起きた騒動の原因の殆どに、滋が絡んでいることが多かったからだ。
その中でも一番大きなイタズラといえば、滋の島に拉致され、そこからつくしのことだけを忘れたことだ。

「ありがとう司!ほら、つくしが待ってるから行こうよ!」

滋は、司の手を引っ張った。

「・・・あれ?なあにこれ?」

だがそのとき、滋は司が横になっていたカウチの下に落ちていた本を拾い上げた。

「・・やだ・・この本アレじゃない!昔は流行った小説よね?不倫の男女がワインに毒を入れて飲んでセックスしてその最中絶頂を迎えたまま死ぬって話の本よね?」

その言葉に司は思わずピクリと身体が反応した。

「・・え?まさか、司。この本読んでたの?もしかして司、この本で想像してた?・・つくしと繋がったまま逝こうなんてさ!キャー!イヤラシ男!もしかして司って普段からこんなこと考えてるの?やだまさか仕事中もだとか言わないでよね?あ、後で西田さんに聞いてみよ。・・・それにしても本当に男ってなんでこんなくだらない話が思い付くのかな?こんなことやってみなさいよ!死後硬直で固まったら離れなくなるでしょ?・・あ、でもそうか。離れられなくなるからいいのか・・え~でも滋ちゃんは厭だな。だって裸よ?それも結合したままなんてどうやって運ぶのよ?」

司は、寝起きの頭に響く滋のカン高い声を片手で遮り立ち上がった。

「ああ、分かった。ごちゃごちゃ言うな。・・それに俺は繋がったままだろうが_」

ニヤニヤと笑う滋の顔は、まさに『不思議の国のアリス』に出て来るチュシャ猫そのものだ。

「やっぱり読んでたんでしょ?隠さなくてもいいからね?つくしには内緒にしてあげる。・・その代わり『地下の国のアリス』譲ってくれない?勿論タダだなんて言わないから。それにこの本がここにあっても宝の持ちぐされでしょ?こういった夢のある本は滋ちゃんが大切に保管しておいてあげるから!ねぇいいでしょ?」

司はその瞬間、滋に負けたと思った。
そして思った。滋のこの騒々しさを考えたとき、マジでこいつと結婚してなくてよかったと。








「ごめんね、つくし!司が本を探しに行って迷子になったのよ!って言うよりね、夢の世界で迷子になって_」

滋はそこまで言って黙り込んだ。
なぜなら、司にジロリと睨まれたからだ。

「?・・なに?滋さん?」

「え?うんうん・・何でもないの。そ、そろそろ帰るわね。司、今日はありがとう!この本、大切にするからね。じゃあね!つくし。あんたも色々と大変だと思うけど頑張ってね!」

「え?滋さん?まだ来たばかりじゃない?もう帰るって_」

「え?まあね!色々と司には夢があるみたいだから邪魔したら悪いと思ってね・・えっと・・そうそうあたしワイン持って来てたよね?それ二人で飲んで楽しんでね!」

滋はいたずらっぽい笑いを浮かべ、じゃあね!と言って帰っていった。

つくしは、来たと思えば、もう帰るといった滋の行動に目を丸くしていたが、司の表情にピンとくるものがあった。

「・・・ちょっと。滋さんに何か言ったの?」

「あ?・・俺は別に何も言ってねぇぞ?あいつが・・」

と、そこで司の頭の中には、あの小説の中にあった最後のシーンが過った。
繋がったまま逝ってしまった二人の姿が。

決して心中がいいことだとは、思わない。
けれど、あの二人が互いを離したくないと、死んでも繋がったままでいることを望んだ気持ちは理解出来た。なぜなら、司も逝くときは、二人一緒に離れることなく逝きたいからだ。

司はニヤッと笑い、滋が持参したワインを手に取った。
そしてキャビネットからワイングラスをひとつ取り、ソファに座ったつくしの手を取った。
これから二人での行為を考えると、臍のあたりがムズムズとし、司の妄想はあの小説の中の一場面へと変わっていた。

ベッドの上でワイングラスを傾け、恍惚の表情を浮かべた女の顔へ。

ただし、あまり飲ませると意識を飛ばす恐れがある。だから、口移しでひと口だけ飲ませ、いい気分にさせる程度にする。

そこでふと笑いがもれた。
セックスについては、未だに内気さを持つ女だが、少しだけ飲ませれば自分の欲求を示そうとする。ところが、次の瞬間には尻込みをし、恥ずかしがる。だが、そんな女が愛おしくてたまらない。

「つくし・・二人でワイン。楽しもうぜ」

つくしは、どこかしっくりと来ない思いがあったが、自分の手を握った大きな手の温かさに、

「ええ。いいわ」

と言った。
そして司が何を考えていようと、彼のことは信頼しているといった顔は、少し恥かしそうに微笑んでいた。






かつて寂しい夜があったとしても、今はもうそんな夜はない。
夜更けも、夜明けも、全ての時間が彼女と一緒で、太陽が昇れば永遠の時が訪れたように感じられる。
そして命がある限り彼女を愛することを止めない。
今があれば、明日を待つといったことをしなくてもいい。
柔らかな微笑みがあれば、それだけでいい。
だから、人生を自らの意志で終わらせることを選ぶことは決してない。

何故なら、世界が終りを迎える日まで、ずっと一緒にいると決めた二人だから。






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2017
09.24

金持ちの御曹司~Dancing Hero~

こちらのお話は、時代背景をご存知の方は、お分かりの部分もあると思いますが、
お分かりにならない方もいらっしゃると思います。
それでもよろしければどうぞ、のお話です。そして大人向けのお話です。
未成年者の方、もしくはそういったお話がお嫌いな方はお控え下さい。
************************************









無名の存在から突然脚光を浴びる男のことをシンデレラボーイと言う。
司の場合、生まれた時から財閥の跡取り息子として脚光を浴びていたのだから、その言葉は当て嵌まらないはずだ。
だが、どうしても言葉を当て嵌めろというなら、司の場合、銀のスプーンを咥えて生まれたゴールデンボーイということになる。
なにしろ司は生まれた時から唸るような金に囲まれていたのだから。

だが、ガラスの靴を履いたシンデレラと呼ばれていたのは、彼の愛しい人のことかもしれない。
ただ、王子に見初められたシンデレラは、一度は逃げたが、やがて王子に探し出され彼の元に嫁入りした。

辛い境遇に置かれている女を追いかける。
それはまさに司とつくしの事だといえる。
つまりシンデレラの物語というのは、牧野つくしの物語ということだ。
となると、必然的に王子様は司ということになる。

但し、司が自分自身で「俺は王子だ!」と言えば、「違うだろ!!」と、女の国会議員に怒鳴られるような気もするが、そんな議員なんぞ財閥の手にかかればすぐに失職することになる。
どちらにしても司は自分が王子様だろうが、王様だろうが、道明寺財閥の頂上にいることは間違いないのだから。



ところで最近、大阪の女子高生が踊るバブル時代を彷彿とさせるダンス動画がイケてるって話しを聞く。そう言えば司は若い頃、ナイトクラビング、なんて言葉を使っていた幼馴染みたちが、肩パットの入ったボディコン服で派手な扇子を持った女どもとディスコで踊っていたのを眺めていたこともあった。
だがあの頃、司は女に1ミクロンも興味はなかった。

そんなバブル時代、司はまだ高校生だったが、

「転がしてる?」

と言われれば、司にとっては車ではなく土地転がしのことだ。
あの頃、土地神話というものがあった。それはバブル景気に支えられ不動産価格は必ず値上がりするといった神話のような事態の事を言うのだが、財閥も転がされた土地を取得していたことがあった。だが土地転がしと言えば印象が悪い。だから財閥では転売された土地といった少し柔らかな言葉で言っていたと記憶している。

そしてアルマーニのダブルのスーツに先が尖った靴。
それが当たり前だったあの頃。携帯電話も「030」で始まり、通話先が一定距離以上離れた所になると「040」でかけ直せとアナウンスされていたと記憶している。





もし、牧野がバブル時代のOLだったら。

アッシーもメッシーも司なのは勿論だが、ミツグ君もキープ君も司だ。
言っとくが、アッシーと言ってもバブル当時、六本木のカローラと呼ばれたBMW3シリーズで迎えに行くことはない。司はリモ以外につくしを乗せることは絶対ない。
それも最高級クラスのリモだ。

そんな時、かかって来たあいつからの電話。

『しもしも?道明寺?』

「お、おう。牧野か?」

『今日19時からねるとんパーティーなの。でね、ケツカッチンだからお先にドロンしま~す』

「お、おい牧野っ?ま、待て!」

・・おい!冗談じゃねーぞ!
誰がねるとんパーティーになんか行かせるかよ!
それにあんなに仕事熱心だった牧野がお先にドロンってなんだよ!
それになんだよ!ケツカッチンってのは!
だいたい俺の牧野がそんな訳の分かんねぇ言葉なんか使うかよ!
クソっ!ダメだダメだ!
バブル時代のOL牧野は止めだ!


だがひとつ気になることがある。
それはキープ君という存在。
アッシーは脚になって車で送り迎えをする男。
メッシーは飯をご馳走する男。
ミツグ君は貢ぐ男。
けどキープ君の意味が今ひとつ理解出来ねぇ。
だから総二郎に聞いてみた。

「キープ君か?キープ君ってのはな、恋人や恋愛対象の本命じゃねぇってことだ。いいか、キープ君にされるってことは、男としてすげぇ情けねぇことだ。まあ、間違ってもお前がキープされる男になるなんてことはないから安心しろ。何しろお前はそのルックスに道明寺財閥の跡取り息子だ。女たちからすれば、本命も本命。大本命だ」

だが、そんな男をキープ君に出来る女がひとりいる。
世界広しと言えども、道明寺財閥の御曹司をキープ君に出来る女。
それが牧野つくしだ。
彼女がすることならなんでも許されるのが司の世界だ。
そして、彼女が舗道の割れ目で躓くことがないよう常に彼女の前を歩き、邪魔する人間は排除していくのが司の役目だ。

だがそんな司にとってキープは別の意味を持つ。
それは、セックスに於けるキープ力なら誰にも負けることはないと自信があるからだ。
テクニックは勿論だが持久力はオールナイト。
そうだ。このオールナイトで続けられることがまさに司のキープ力ということだ。
それにキープ力もだが硬さも自慢できる。
総二郎曰く、オリエンタルの男のアレは西洋人のアレより硬いらしく、その硬さに西洋人女は感激するらしい。
さすが茶の湯で世界を股に掛ける男のワールドワイドな女遍歴は馬鹿に出来ない。


だから、そのキープ力で牧野つくしの本命でいれば、お先にドロンなんて言わせねぇ。
ドロンどころか、永遠に俺の身体の下で喘がせ続けさせてやる!

そして、そこから先の世界に雑念が入り込む隙間はない。
なぜなら、司のつくしを愛する思いは全てを凌駕するからだ。
彼女を求め、喉が焼け付くような乾きを覚えるのは、高校生の頃から変わらない。
だが、剥き出しのあからさまな欲求といったものを表すようになったのは、社会人になってからだ。






「・・まきの・・どうだ?・・気持ちいいだろ?」

黒い長い髪の女とウェーブのかかった髪の男との愛の交歓。
二人の間に遮るものは何ひとつなく、司の身体の先端は暗く狭い場所で抽出を繰り返すが、ほとばしる力は、果てることはない。
そして時に腰を捻り上げながら奥深くを突いていた。

そんな男のあまりの激しさに、お願いもうイカせてと呟く女。そんな女から一端引き抜いた先端は、ヌメリを帯び、引き抜いた場所からはどろりとした液体が溢れ、シーツにシミを作った。
そして女が両脚を動かすごとに、益々溢れ出すどろりとした液体。

濡れてテラリと光る自らの怒張を掴んだ男は、つくしに対してだけ執拗だと言われるが、身体の動きまで執拗でいつまでも彼女を離そうとはしない。
それは持久力のなせる業なのか、それとも執着心のせいなのか。
司の腹には熱を持った塊があり、いつまでもつくしを欲しがるが、欲しがられた女はたまったものではない。
寝かせてもらえず、一晩中延々と啼かされ続け、今では水を欲していた。


かつて、檻の中に閉じ込められることを嫌った獣だった男は、つくしに対してだけは優しい男だが、今の司は別の男にすり替わったようにあの頃と同じ獣だ。
切れ長の目は怒りを湛え、まさに獣のように鋭い目つきに変わっていた。

「ねるとんパーティーとやらはどうだったんだよ?」

怒気を含んだ言葉と引き抜いた怒張の代わりに、両脚の間にぐいと差し込まれた長い指。
その指が中の襞を這い、再び溢れ始めたどろりとした液体を掻き混ぜ、もっと溢れ出させようと弄ぶ。

「ああっ!ど、どうって・・そんなの・・」

そして開かれた脚の間の中心にある小さな真珠の核は、司の指にいじられ、ひくひくと震えていた。

「なあ。いい男はいたか?・・いいか?おまえは俺だけの女だ。いつまでも俺が甘い顔してると思ったら大間違いだ。他の男に渡すつもりはねぇからな」

中で指先を曲げ、最奥の感じやすいと言われる部分をこれ以上ないほどきつく押し、快感のよがり声を上げさせ、司はその指先と言葉で彼女を煽っていく。

「見ろ。おまえのここは俺以外の男じゃ満足しないって言ってるぜ。もうグチョグチョ。どうすんだよ、こんなに俺の指をグチョグチョにして」

「あっ!あっ!あぁ・・はぁ!・・んんっ・・」

司はそそり立ったモノをそのままに、指でつくしの中を掻き回し、歓喜と嗚咽だけを上げさせた。

「そうか。喉が渇いて言葉が出ねぇって?そういやぁお前、水が欲しいって言ったよな。それならやるよ、水を」

不意に狂暴な衝動が身体の奥から湧き上がった司は指を引き抜き、つくしの胸に跨り彼女の口をこじ開け己の高まりを押し込んだ。

「グッ・・んっ!!!」

そして柔らかな喉の奥深くに先端を強く擦りつけ、腰を激しく打ちつけ始めた。
突然口の中をいっぱいにされ驚いた女は喘ぎ声も出せず、噎せ、ただ黒い瞳を大きく見開き、見上げることしか出来ずにいた。

「どうした?そんなに驚いた顔すんな。お前、俺のを咥えるのが好きだろ?それともアレか?俺のじゃ満足出来ねぇって?」

つくしは首を横に振ることも出来ず、その大きさに引き延ばされた唇と、高まりを押し込まれた口の中はいっぱいで喋ることなど出来るはずがない。
そんな女の口へ押し込まれた怒張が、早く深く抽出を繰り返し始めると、口腔内から溢れ出る唾液が顎を伝い流れ始めた。

「ほら。やるよ、水。欲しいんだろ?」

今の司は奉仕する優しい男ではなく、好きな女を服従させ乱暴に奪いたいといった思いに囚われ、どんな抵抗も許さない男だ。そんな男の鋭い目がすっと細められ、横たわったままのつくしの頭を掴み持ち上げると容赦なく喉の奥を突き始めた。

「・・どうだ?気に入ったか?」

気に入るも気に入らないもない。
呻き声も上げることが出来ないほどの大きさを口の中に押し込み、奪う行為は自慰と同じだが、今の男はそれを愉しんでいた。
そして一気に快感の高みに駆けのぼり、暖かくヌメル精液を女の口いっぱいに注ぎ込んだ。

「喉、乾いてんだろ?全部飲め」

そして、自身を引き抜き、女の口を手で塞ぎ、全てを喉の奥へと飲み込ませた。











「えーっと。司?」
「あ?」
「あ、じゃないでしょ?」
「・・・・」

司は一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
そして間抜けな返事を返していた。
だが直ぐに我に返り、辺りを見回した。
ここは、六本木のビルの中にある美術館。
つくしと一緒に展覧会を訪れていた。

「なに?さっきからひとりで笑って気持ち悪いわよ?」
「べ、別に笑ってなんかねぇよ!」
「え~でもそんなに顔を赤くしちゃって、なんか気持ち悪いわね?」
「あ、アホか。別に赤くなんてなってねぇぞ?こ、これは・・ここがっ・・だ、暖房が効き過ぎてんだ!・・・設定温度が高すぎんだよ!今度経団連のパーティーでこのビルの社長に会ったら地球温暖化を真面目に考えろと言ってやるつもりだ!」

確かに司なら『このビルの社長』にそんなことも言えるはずだ。
とは言え、つくしの言うとおり、司は顔もだが、身体も火照っていた。
それはあきらかに、彼が興奮した状態であることを示していた。
そのせいか、いきなりつくしが握っていた鞄を奪い取り、さりげなくズボンの前を隠した。






六本木という地名に遠い昔のバブル時代を思い出し、何故かボディコンに派手な扇子を持ったつくしの姿を想像してしまった司。
そしてそんなつくしの行動にヤキモチを焼いた。

しかし思った。やっぱりバブル時代より今の方がいい。
今の時代ならねるとんパーティーなんてものはない。
だがあの頃の景気の良さが再び訪れて欲しい思いもあるが、それは道明寺HD、そして当然だが、日本支社長である司の努力次第ということだ。



日本の景気を上げるため働く男。
学生時代、道明寺がどうなろうと構わないと言い放っていた自分がそんなことを思うとは。と笑みが零れていた。
だが、その笑みとは別に、鞄で隠したズボンの中は笑ってはいられない状態。

「つくし。これからメープルに行くぞ!」
「え?」
「だからメープルだ!」

司は片手につくしの鞄を持ち、もう片方の手でつくしの手を握ると、走り出していた。





バブルの頃、まだ高校生だった二人。
その恩恵を少しだけ味わったのは司だけだ。
まあ司にはバブルといった現象は関係ない話しではあったが。

それでも、今夜はつくしにあの当時の流行りの服を着させ、二人で盛り上がろうと思う。
そしてキャンドルライトを灯し、二人で踊り明かす。

ダンシングヒーローとヒロインとして。





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