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2021
02.08

金持ちの御曹司~絶体絶命~<後編>

司が手に取った写真に写っているのは司と類で女の姿はそこにない。

「おい。これ………」

司は言葉が出なかった。

「ああ。これには俺と司だけが写ってるね」

類はそう言ったが、ふたりは裸でベッドに横たわっていた。
そして類は、まるで重ねられたスプーンのように司の背後から身体を押し付けていた。

「おい…..なんだよこれは….」

「よく撮れてると思わないか?」

「よく撮れてるって、類、お前この写真…」

「これは司がアメリカで大学に通っていた頃、泊めてもらった時に撮ったんだ。どう?よく撮れてるだろ?」

類はセルフタイマーで撮ったというそれらの写真を見て微笑んだ。
だが司は微笑むことは出来なかった。
そして次に見た写真も裸のふたりが写っていた。
それは寝ている司の唇にキスをしている類の妖しくも美しい姿。

「俺さ。静香を追いかけてパリに行ったけど、向うで気付いたんだ。静香のことは姉のように思っていただけで、あれは恋じゃなかったって。それで日本に戻って来てから自分の本当の気持ちに気付いたんだ。俺が本当に恋をしているのは司だってね」

「類。お前……」

それは幼馴染みの親友から聞かされた驚愕発言で、あり得ない言葉。
だから司は言葉を継ぐ事が出来なかった。

「俺。昔から司が無防備に寝てる姿にムラムラしてた。それにお前が付けてるコロンの香りが鼻腔を満たすことに幸せを感じてた。でも俺は男で司は俺を友達としか見てくれない。それなら友達でもいいと思った。何しろ司は女が嫌いだったからね。だからいずれ家のために結婚しても、それは愛があるからじゃない。だから俺は司が結婚しても我慢できる自信があった。それにいずれ俺も花沢家のために結婚することになる。そうなったら司とは友達として一生傍にいようと思った。
でも牧野が現れて、女嫌いだったはずの司が牧野を好きになった。俺は司の幸せそうな顏を見て諦めようと思った。失恋の準備をした。だけど無理だった。俺は司のことを諦めることが出来なかった。牧野に取られたくなかった。だから牧野に恋を仕掛けた。でも牧野は司の方が好きだって…..。そしてふたりは結ばれた。だから今度こそ諦めることに決めた。ただの友達として司の傍に居ようって…….」

類は司と目を合わせたまま少し間を置いて言葉を継いだ。

「だけど司が牧野を日本に残してニューヨークで暮らし始めたとき、遠距離恋愛はいずれダメになると思った。案の定、ニューヨークで暮らし始めたお前と牧野は、すれ違いが増えた。そして喧嘩を繰り返すようなった。俺はあのとき司がビジネスと牧野のことで葛藤を抱えているのを知っていた。そうだよ。俺はお前の相談に乗りながら心の中でお前が牧野と別れることを望んでいた。
司。あの晩のこと。覚えてるだろ?俺がお前の元をと訪ねたとき俺たちは一晩中飲んだ。
酒に強いお前が酔わないことは分かってた。だから睡眠薬を混ぜた。それでお前がベッドで横になるって言ったとき、しめたと思った。お前が寝る時は裸なのは昔から変わってなくて、俺も服を脱いでベッドで横になったお前の隣に寝た。それでこの写真を撮った。それを携帯に保存していた。
もちろん他人が見ることがないように注意していた。でもこの前、ひとりで見ていたとき後ろに人の気配がして振り返ったらそこに牧野が立っていた。見られたんだよ。牧野に…..。だから牧野に伝えた。俺たちは付き合ってるんだってね。それで俺は今日ここに呼ばれたんだ。司が選ぶのはどっちの人間なのか。俺か牧野か。どっちを選ぶかカタを付けようって……. 司。俺の気持ちを分かって欲しい。俺の頭の中はあの日の司の顏が揺らいでは消えてゆくを繰り返している。司。俺は司の薬指に指輪を嵌めることは出来ない。でも俺はお前を抱きしめたい。俺は司と一緒になりたい」

「ちょっと待ってくれ…..」

司は類の口から何年も押さえつけていた感情を聞かされ言葉を失った。
そして衝撃的な写真に司の頭の中は混乱していた。
それでも、何とか気持ちを落ち着かせて言わなければならないのは、司は類とは付き合っていないということだ。
だからそれを言おうとした。
だがそこに恋人の声が響いた。

「類の気持ちはよく分かったわ。それにアタシは男同士で愛し合うことが悪いとは思わない。でも二股をかけられるのは許せない。だってアタシも類と同じくらい道明寺のことを愛しているの。だからこうなった以上、アタシと類のどちらを選ぶかはっきりカタを付けてもらいましょう。そして選ばれなかった方は潔く身を引く。類。それでいいわよね?」

司は恋人の身を引く、の言葉にギョッとした。
そして混乱していたが、今度こそ紛れもない自分の思いを恋人に伝えた。

「おい牧野。待て。お前何を言ってる?だいたい俺は類と付き合ってねえ!
それにお前と類のどちらを選ぶって、そんなのお前に決まってるだろうが!いいか?俺は男は愛せない。それに俺はお前以外の女は愛せない!」

司はそういったが類は諦めなかった。

「司….俺は男だけど誰よりも司のことを知っている。牧野よりも長い付き合いでお前が何をされれば喜ぶかもよく知っている。司。俺は互いの唇が潰れるくらいのキスをしたい。舌をからみ合わせたい。お前の口に拷問されたい。お返しにお前の首に痣の残るような激しいキスをしたい。お前のハンサムな顏が恍惚に苦悶する様子が見たい。お願いだ司。俺と生きてくれ!牧野を捨てて俺を選んでくれ!」

「類…..」

司は類の目に光るものを認めると言葉を詰まらせた。
するとその様子を見ていた恋人は言った。

「道明寺。今のアンタは躊躇いを感じている。アンタはアタシのことを選ぶっていいながら類のこと気にしてる。アタシと類との間で迷ってる…..」

「おい。バカなことを言うな。俺が言葉に詰まったのは、類が俺の幼馴染みで親友だからだ。
だからそんな類から胸の裡を伝えられて戸惑っただけだ!」

「いいえ。違うわ。アンタは迷ってるのよ……アタシと類との間で気持ちが揺れてるのよ」

と言った恋人は黙った。
そして暫くすると「やってられないわ!」と言って立ち上がって店の外に出ようとした。
だから司は慌てて後を追った。だが恋人は「アンタとはもうこれっきりよ!」と叫ぶと真っ赤なポルシェで司の前から去った。

そして残されたのは司と類。
自分と幼馴染みの親友。

「司…..牧野は俺のためにお前を諦めてくれたんだ。あいつ俺たちのために身を引いてくれたんだよ」

類は嬉しそうにほほ笑んだ。
そして司の手を握ると、きらきらし始めた目で司を見つめ「愛してるよ、司」と言って唇を重ねようとしていた。

「止めろ!類!離れろ!類!止めろ――――!!」

司は叫んで目を覚ました。
恋人がムラムラする男の仕草は何かを考えて見た夢は、何故か類が司にムラムラする夢。
それも類は司が無防備に寝ている姿にムラムラすると言った。

「気持ち悪りい……」

司は呟いた。だが夢は目が覚めた途端忘却の彼方に消えるものだ。
だから扉をノックする音に「入れ」と言って現れた西田にコーヒーを持ってくるように言った。









司は恋人と夢に出て来たのとは別のジャパニーズスタイルパブにいた。

「なあ。牧野。お前がムラムラする男の仕草って何だ?」

「ムラムラする男の仕草?何それ?おかしな事を聞くわね?」

「いいから答えてくれ」

「そうねえ…..ムラムラはしなかったけど映画の主人公の男性がメガネを外す仕草にキュンとしたことがあるわねえ。ほらメガネって顏の一部じゃない?それを外すってことは、その人の素の部分が見えるって言うの?その仕草がカッコ良かったの」

恋人の口から語られたのは、映画の主人公の男がメガネを外す仕草。
その姿にキュンとしたことがあると言った。
司の周りにいる人間で常にメガネをかけているのは秘書の西田しかいない。
だが、司は西田がメガネを外した姿を見たことがない。けれど、もし恋人が西田のメガネを外す仕草を見たからといってキュンとはしないだろう。
だが司自身がやってみる価値はある。
だからさっそくメガネを買うとかけてみた。
そして恋人の前で外してみせた。
すると恋人は言った。

「最高!道明寺!」

だがそれは笑いながらでありキュンなど全くしていないことは明らかだ。
だがそれでもよかった。
恋人が楽しければ、それでいい。
だが敢えて言った。

「なんだよ。その言い方。俺じゃ胸がときめかないって?」

「胸がときめくもなにも私は道明寺の全部にまいってるのに今更でしょ?」

司は恋人をキュンとさせることは出来なかった。
だが恋人は司をキュンとさせることが出来る。

「そうか。お前。俺の全部にまいってるか…..」

そう答えた司は恋人の言葉ひとつで幸せを感じることが出来る。
そして彼女はこの瞬間もその幸せを感じさせてくれた。

「うん。そうよ。だからメガネなんてかけなくてもいいの。道明寺はそのままが一番よ!」





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2021
02.07

金持ちの御曹司~絶体絶命~<前編>

「ねえ。貴子がムラムラする男の仕草って何?」

「え?ムラムラする男の仕草?ちょっと何よその質問。それにドキドキじゃなくてムラムラだなんて何でそんなこと訊くのよ?」

「うん。『an・nan』って雑誌あるじゃない?」

「『an・nan』?ああ。あれね?アイドルの裸とかセックスについての記事が載る雑誌ね?」

「そう。その雑誌なんだけどね、あなたがムラムラする男の仕草って何?って記事があったの。だから貴子に訊いてみようと思って。ちなみにあたしは、はにかんでほほ笑む姿かな?」

「はにかんでほほ笑む姿?」

「そうなの。普段は厳しい顔して仕事をする男が、あたしの前で照れ笑いする姿が最高!
もうそんなことされたらキュンとかドキドキを通り越してムラムラしてどうしようもなくなるわ!それで?貴子は男のどんな仕草にムラムラするの?」

「あたし?……..そうねぇ…….やっぱりアレかな?人差し指をネクタイの結び目に入れて徐々に緩めていく仕草かなぁ」

「なんだ。貴子って以外と普通なのね?」

「ふふふ….以外と普通だって言うけど、あたしがその姿を見たいと思う男は支社長よ。
あたしいつも想像するの。秘書になったあたしは夜遅くまで仕事をする支社長に書類を渡すために執務室に入るの。そうしたら支社長は人差し指をネクタイの結び目に入れて緩めようとしているの。そんな支社長にあたしは書類を渡すために近づいたところで引き寄せられるの。
それで『貴子。書類なんかいいからキスしてくれ』って言われて書類を取り上げられてキスされるの。それから支社長はあたしを抱き上げて応接ソファまで運ぶの。それであたしたちはそこで愛し合うの!!」

「きゃー!貴子ったらそんなこと考えてたの?でもあんたのその妄想。絶対に叶うことはないから!だけど夢見るのは勝手だもんね!」










司は緩んでいた靴紐を結び直そうと、しゃがんだところでエレベーター待ちの女子社員の会話を耳にした。
だからそのままの姿勢で柱の陰にいた。
そして貴子という女を恋人の牧野つくしに置き換えていた。
それはこれまでも何度も頭の中を過る恋人が秘書だったらという妄想。
もし恋人が秘書だったら、貴子が言う通り執務室の応接ソファに押し倒して身体中を舐め回したい。それに恋人が秘書だったら、こうして恋人の姿を求めて社内を歩き回ることはない。
朝から晩まで傍にいて耳元で愛を囁くことが出来る。肩を抱く事は出来なくても偶然を装って手を握ることは出来る。
だが現実は甘くない。司の秘書は西田という銀縁メガネの中年男。
朝から晩まで傍にいて、隙あらば執務室を抜け出そうとする司を掴まえる。
サインをしろと山のように書類を持ってくる。それに何故かいつも夢の途中に割り込んで来る。だがそれは良しとしなければならない。
何故なら時に西田の割り込みで命拾いをすることがあるからだ。

執務室に戻った司は貴子の言葉に興味を抱いた。それに気になった。
それは恋人が男のどんな仕草にムラムラするのかということ。
だが恋人は奥手だ。だからふたりが愛し合うとき積極的に求めるのは司の方だ。
それに恋人の方からベッドに誘われたことがない。
だが恋人もベッドに入れば司を求めていることに間違いはなく、愛し合えばふたりは熱く燃えた。
だがそうは言っても、やはり恋人が男のどんな仕草にムラムラするのか気になる。
司はそう思いながら目を閉じた。












司が夕暮れ迫る時間に恋人に呼び出されたのはジャパニーズスタイルパブ。
日本語で言えば居酒屋。
少しだけ高級な雰囲気のあるそこの個室で恋人から開口一番言われたのは、「一体どういうことなの?ちゃんと説明して!」

司はそう言われたが、彼女が何を言っているのか全く分からなかった。

「どういうことって何がどういうことだ?それに説明ってなんだよ?」

「何がどういうことよ!今更とぼけないでよ!アタシ全部知ってるんだからね!」

「おい待て…..とぼけるもなにも俺はとぼけてない。だから何でお前が怒っているかマジで分かんねぇ」

「アンタって男は……まだとぼける気?アタシが何も知らないと思ってそうやって逃げる気ね!」

司は恋人から物凄い剣幕でとぼけるな。全部知ってると言われたが、何のことかサッパリ分からなかった。

「牧野。ちょっと待て。全部知ってる?それに俺が逃げる?一体なんの話をしてるんだ?落ち着いてちゃんと分かるように話せ」

司は怒りで興奮している恋人を落ち着かせようとした。
だが恋人は落ち着くどころか信じられないような事を口にした。

「落ち着けですって?よくもそんなことが言えるわね……じゃあ言うわ。アンタ今まで二股かけてたんでしょ!」

「はあ?」

「はあ?何がはあよ!気の抜けた返事しないでよ!」

「気の抜けた返事って言うが、俺は二股なんかかけてない。それにお前以外に愛している女はいない!」

「そう……。白を切るつもりなのね。いいわ。アンタがその気なら証拠を見せてあげるわ!」

司は二股をしているという嫌疑をかけられた。
そしてその証拠を見せると言われたが、恋人オンリーの男に他に女などいるはずもなく、そんなものあるはずがない。だから恋人は何かを勘違いしているのだと思った。誤解だと思った。たまたま近くにいた女と写真を撮られたとかそんなものだと思った。
だから携帯電話を操作している恋人の名前を優しく呼んだ。だが睨まれた。
そしてもう一度「牧野……..」と呼び掛けたところでふたりの前に類が現れた。

「司……」

「類!おい。丁度よかった。牧野が俺が二股をかけているって誤解している。俺が牧野以外の女を愛せる訳がないのにだ!類。お前からも俺が浮気するような男じゃないって話してくれ。俺は牧野つくし一筋だってな!」

ジャパニーズスタイルパブに偶然現れた類。
恋人は類の話すことなら信じるはすだ。
何しろ恋人の言うところの魂の片割れという関係のふたり。
今でこそ、その関係を認めているが、初めはそんなことを言う恋人をバカじゃなかろうかと思った。そして類も牧野つくしとは友人以外の何ものでもないと言ったが、かつて司と類は彼女を巡って対立した経緯がある。
けれど、あれから類は司と恋人の友人として彼らの傍にいた。
そんな類はどこか哀しそうな顏をして司の前にいた。

「司。バレたなら仕方がないよ。牧野のためにも自分の気持ちを正直に伝えた方がいい」

司は自分の味方になってくれると思っていた類の口から出た思わぬ言葉に、この男何を言ってるんだと声を荒げた。

「類?お前何か知ってるのか?それに何を言ってる?バレるもなにも俺はこいつ以外に女はいない!それに二股どころか他の女には一切興味がない!第一お前は俺が女嫌いだったのを一番良く知ってるだろうが!それに正直もなにも俺の気持ちが牧野つくし以外に向いたことはない!」

「司。でも牧野は知ってるんだ。知ってしまったんだよ」

司は類が司が知らない何かを知っているように思えた。

「類?お前何言ってる?牧野が知ってるって…..」

「司。これ」

そう言った類はポケットの中から取り出した数枚の写真を司の前に置いた。

「これは…….」

司は一番上に置かれている写真を手に取った。

「ああ。この写真を見た牧野はお前が二股をかけていることを知ったんだ」




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2021
01.25

金持ちの御曹司~平熱大陸~<後編>

「お前か。彼女の夫というのは」

司は恋人の夫に会うためにローマに飛んだ。
そしてホテルの一室に男を呼び出した。

「ああ。そうだ。俺がツクシの夫だがアンタが道明寺司か。なるほど。ツクシもいい金づるを見つけてくれたものだ。アンタがツクシの傍についている以上、俺は金には困らん。何しろアンタは彼女の名誉を守るためなら幾らでも金を払うだろうからな」

司の恋人の別れようとしない夫はピアニストだと言った。
だがその風貌はピアニストというよりも、ただの酔っ払いだ。それに司が誰であるかを知っている上でのその態度は挑戦的だ。
だが司はその態度を無視して夫である男に言った。

「彼女と別れるならそれなりの金を払おう」

「へえ。それなりの金ねえ......」

「ああ」

「ふうん。それで?世界に名だたる財閥の後継者が払ってくれる金ってのは一体幾らだ?」

司は恋人をこの男から守るためなら幾らでも金を払うつもりでいた。
だが、こういった手合いは金を貰ったからといって大人しく引き下がりはしない。
だが敢えて訊いた。

「いくら欲しい?」

「そうだな。最低でも彼女が持っているヴァイオリンの値段以上の金が欲しい。知ってるだろ?彼女が大切にしてるヴァイオリンだ。あのヴァイオリンはストラディバリウスだ」

恋人が自分の命だというストラディバリウスはイタリアの楽器職人ストラディバリ父子が制作したヴァイオリン。
値段は高いものでは数十億円するものもあるが、恋人のヴァイオリンも数億円の価値がある。彼女はそれを財団や大学からの貸与ではなく個人で所有していた。

「アンタ。彼女があのヴァイオリンをどうやって手に入れたか知ってるか?」

司は男の質問に答えなかった。

「そうか。知らないか。それなら教えてやろう。あのヴァイオリンは俺の姉が持っていたものだ。アンタは俺のことを調べたはずだ。俺の家は今でこそ落ちぶれてはいるが貴族の家柄だ。そんな家に育った姉は小さな頃からヴァイオリンを習っていて父親はそんな姉のためにヴァイオリンを買った。それが今彼女が持っているヴァイオリンだ。だがどうして彼女が姉のヴァイオリンを持っているか?それは彼女が姉を殺して手に入れたからだ。彼女が俺のことをどう話したか知らないが、彼女は真面目そうに見えて悪女だ。俺に近づいて来たのも姉がストラディバリウスを持っていることを知ったからだ。ああ、だが彼女に姉がストラディバリウスを持っているのを話したのは俺だ。だから俺が悪い。いいか?彼女が俺と結婚したのはあのヴァイオリンを手に入れるためだ。彼女は俺と結婚すると姉を殺した。姉に毒入りのカルヴァドスを飲ませて殺したんだ!」

男はそこで言葉を切ると乾いた笑い声を上げた。

「どうだ?驚いたか?彼女は恐ろしい女だ。まるでボルジア家の人間のように野心家だ!道明寺さん。あんたも気を付けた方がいい。もし二人切りになって彼女からフランスのりんご酒を出されたら気を付けるんだな!」









「ありがとう。あなたのおかげであの人と別れることが出来たわ」

恋人はそう言って司の前にグラスを置いた。

「これは?」

「これ?これはカルヴァドス。フランスのりんご酒よ。どうぞ召し上がって」

司は恋人からそう言われたがグラスを手に取らなかった。
だが彼女は「乾杯」と言って自分のグラスを掲げると、琥珀色の液体を飲み干した。

「どうしたの?飲まないの?美味しわよ?」

そう言われた司はグラスを手に取ると恋人と同じように飲み干した。
すると恋人は司の目を真っ直ぐに見て言った。

「ねえ。大丈夫?なんだか顔色が悪いみたい」











聞こえますか。
聞こえますか。
私は今あなたの心に直接語り掛けています。
そして大切なことなので3回言いました。

「支社長。起きて下さい!今夜は牧野様とコンサートに行かれるのではありませんか?」

司は驚いたように目を剥いた。
そして西田を見た。そうだ。今日は恋人とコンサートに行く約束をしていたが、とんでもない夢を見た。

「支社長。お顔の色がいつもと違うようですが、ご体調が優れないのではありませんか?もしかして熱があるのではございませんか?」

「いや。大丈夫だ。熱はない。平熱だ」

「そうですか。それならよろしいのですが今夜のコンサートは牧野様が大変楽しみにされているコンサートです。何しろヴァイオリニストの早瀬太郎と言えば、ドキュメンタリー番組のテーマ曲が有名です。あの曲はわたくしも好きな曲です」

西田はそう言って「さあ。遅れます。お急ぎ下さい」と司を執務室から送り出した。








「今日のコンサート良かった!やっぱり凄いわねえ。早瀬太郎」

司のマンションに戻った恋人はコンサートのパンフレットを見て言ったが、司には気になることがあった。
それはヴァイオリンと言えば類の得意な楽器だからだ。
そして思うのは、もしかして恋人はまだ類のことが好きなのではないかということ。

「なあ」

「ん?何?」

「お前まだ類のこと好きなのか?」

「はあ?」

「いや、ヴァイオリンと言えば類だ。お前は高校生の頃、類のヴァイオリンが好きだと言った。だからあのヴァイオリニストのコンサートに行ったのは、まだ類のことが好きだから_」

「あのねえ、あの頃から何年経ってると思ってるのよ。いい?よく訊いて。私はあの番組が好きなの。それにあの曲が好きだから一度生で訊きたいと思ってたの!それに早瀬太郎は類には全然似てないし、髪の毛だけ言うならクルクル頭であんたに似てるし....もう…..本当にあんたって人はどこまでやきもち焼きなのよ…..」

司は恋人から早瀬太郎がテーマ曲を演奏している番組が好きだ。だから生で訊きたかったと言われた。
それなら自分もその番組とやらに出てやろうじゃないか。なんなら道明寺がその番組のスポンサーになってもいい。
人間密着ドキュメンタリー、『平熱大陸』いや、『情熱大陸』だったか?
司はいつかその番組に絶対に出てやると固く心に誓ったが、今情熱を注ぐ先は目の前で眉間に皺を寄せている女。

「牧野」

「何よ?え…..何?……あっ…..」

そして、その女は男に抱きかかえられると、大人しく寝室へ運ばれて行った。




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2021
01.24

金持ちの御曹司~平熱大陸~<前編>

鳥の世界ではよく訊くオスの方がメスよりも派手だという話。
その理由をひとことで言えばメスを惹き付けるため。
だからオスは派手な羽根を広げ、その美しさを必死にアピールする。それに派手さだけではなく立派な巣を作ってメスを引き寄せるオスもいる。だが鳥も種類が違えば美しさにも真新しい立派な巣にも興味がないメスもいる。
そして司が好きになった女はそういった女。煌びやかで華やかで裕福な男に興味がない。
だから出会った頃、司の求愛を無視して逃げた。だが、そんな女に壁ドンではなく床ドンしたのは高校生の頃だ。

そんな司は夢を見た。
それは今年初めて見た夢で、いわゆる初夢というものだが、どんなものかと言えば、それは_____




司が黒いシャツを着れば男前が2割増しになると言われるが、夢の中の司は黒いシャツを着てサングラスをかけている。
その姿は近寄り難く、目が合えば何をされるか分からない男に見えた。
そんな男がコンビニの入口にある新聞スタンドの前に立つと、挿してある全てのスポーツ新聞を抜き取りレジに持ち込んだ。

「150円が8部…..130円が10部……140円が15部……」

それにしても何故男はスポーツ新聞を買い漁っているのか。
それは自分の恋愛記事が写真付きで載っているからだ。

『道明寺財閥の御曹司。世界的なヴァイオリニストと熱愛中』

司は店員がレジを通している間、どうしてふたりのことがマスコミに漏れたのかを考えていた。
何しろふたりの交際を知るのはごく僅かの友人達で彼らは口が堅くマスコミに話すことは絶対にない。それにふたりが会うのは、厳重なセキュリティが施された道明寺が所有する建物の中であり、出入りは地下の駐車場からで外部の人間がその様子を見ることは出来ない。
だからこそ外部の人間が簡単に入ることが出来ない場所で撮られたこの写真はいったい誰が撮影したのか?

……………まさか彼女がみずからマスコミに話してふたりの姿を撮らせた?

いや。まさかそんなことはない。
彼女は有名なヴァイオリニストだがマスコミを嫌っている。
そして音楽以外のことはさして興味がないという女性だ。そんな彼女は司と出会ったとき彼が何者かを知らなかった。

司が彼女と出会ったのは使う予定だったジェットを母親に横取りされ、仕方なく民間機に乗ったとき。ファーストクラスの席の隣にいたのが彼女だ。
司は彼女の向こう側の席にヴァイオリンが置いてあるのを見た。それから彼女を見た。
すると彼女は、「このヴァイオリンは私の命と同じです。だから席が必要なの」と言って自分はヴァイオリニストだと言った。
だから司は彼女と別れたあと、彼女が出しているCDを探し購入し、ジャケットの彼女の顏を見つめながらヴァイオリンとオーケストラの演奏に耳を傾けた。



「9600円です」

「……….」

「あの?お客さま?お支払金額は9600円になります。袋はご入用ですか?」

と、店員に言われた司は黒いカードを渡し、「ああ」と言った。

司が交際している女の名前は吉村つくしと言う。
恵まれない育ち方をした彼女は絶対音感を持っていた。
その才能を小学校の音楽の教師によって見出されると、教師の恩師である有名な大学教授の元に預けられ養子となりヴァイオリンを習うことになった。そして国内のコンクールの賞を総なめにするとイタリアに留学し、世界的なヴァイオリニストとして活躍するようになった。

司は才能あふれる彼女のことが自慢だ。
それに世間にバレてもいいと思っている。
だが彼女は秘密にして欲しいと言った。だからこれまで秘密にしてきた。
だからこそ、彼女がみずからマスコミに話すとは思えなかった。

「どうしよう。何故あなたとの交際が分かったのかしら….」

司の恋人はそう言って慌てていた。
だが司はこうなったからには、ふたりの交際を堂々と世間に公表しようと言った。
けれど恋人は首を横に振った。

「だめよ。実はあなたには話してなかったけど私にはイタリア人の夫がいるの。ええ。そうよ、イタリアに留学していたとき知り合ったの。彼はピアニストなの」

司は恋人の口から語られる夫の話に耳を傾けた。
イタリア留学時代に知り合ったふたりは、同じ音楽家同士気が合った。
だから結婚したが破局は早かった。一年も持たなかった。

「一緒に暮らし始めてふたりが合わないことはすぐに分かった。だから別れて欲しいと言ったわ。でも彼は別れてくれなかった。それどころか私がヴァイオリニストとして世界中に名前が知られるようになると、結婚していることは秘密にしてやる。その代わりにお金を寄越せと言ってきたの。だからこうしてあなたのことが新聞に載った以上、きっと彼は他人の妻に手を出したと言ってあなたにお金を要求するわ。ごめんなさい。あなたに迷惑をかけることになって…..」

だが司は迷惑とは思わなかった。
むしろ、これをいい機会だと捉え、彼女と別れようとしない男に引導を渡してやるつもりでいた。




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2020
11.24

金持ちの御曹司~骨まで愛して~<後編>

司の眼下で動いているのは黒髪の小さな頭。
それは、ひざまづいた女が自分の腰に顏を押し付けている姿。
その黒髪に指を埋めて引き寄せたいと思いながら、そうすることを抑えているのは、「触らないで」と言われているから。

司は恋人が突然部屋を訪ねて来たことを喜んだ。だが恋人は酔っていて、部屋に入ると暑いと言ってスーツの上を脱ぎ、スカートを床に落としブラウスも脱いだ。
キャミソールを脱ぎ捨てブラのストラップを片方おろし、もう片方も同じようにおろした。
そして恋人はその姿で司の前に立つと膝をついたが、胸は誘うようにツンと突き出していた。それから司のスラックスに手を伸ばし、ベルトのバックルを緩め始めた。

恋人同士になって時間が経つふたり。
こうした行為に初めはぎこちなかった指先も今はそうではない。
だが恋人は性に奔放ではない。
女の自分から求めることは恥ずかしいことだという思いがある。
だから酔っているとは言え、今夜のこの行為は普段が普段だけに大胆な行為に思えた。
それに酔っているにしても口数が少ない。いや。少ない以前に殆ど喋ろうとしない。
心配になった司は「牧野?……どうした?」と訊いたが恋人は「黙って」と言ってスラックスのファスナーを下ろした。

「黙って」と言われても恋人の様子がいつもと違えば心配になる。だがそう思う男の中には、もうひとりの男がいて、いつもは控えめな恋人が進んで自分を求めているのだから、それを楽しめ。身を任せろと言う。
それは黒いブリーフの下で隆々とした姿を見せることを望んでいるペニスも同じで、もうひとりの男の言う通り楽しませてもらえと言っていた。
だから、ブリーフの上からフェザータッチで触れられ欲望が下半身を走り抜けた。
そして恋人はスラックスと一緒に下着を下ろしたが、膝立ちのまま目の前で願いを乞うように屹立したペニスをじっと見ているだけで触れようとはしない。
それは焦らしているのか。もしそうなら、まるで拷問だ。それに待たされているうちに走り抜けた欲望が膨らむ。それなら自ら腰を押し付けるか?それとも頭を引き寄せるか?
司は動かず恋人の行動を待っている。だが少しだけ髪に触れると恋人は、いざなわれたようにペニスを掴んだ。

待たされた分だけ硬度と質量を増した勃起したペニス。
恋人は顏を近づけていき、熱い息を吹きかけると口の中に含んだ。

「ああ…..」

思わず漏れた声。
その声に反応したように頭が上下に動き舌が動く。濡れた口の中は何度も司をキツク締め付けた身体の奥深くとは違う暖かさがある。司はそんな恋人の口で何度かいかされたことがある。
だから今夜も欲望の証を隅々まで味わってもらいたい。舌と唇で愛されたい。激しく吸われたい。

「つくし….」

責められているとき司の口を突くのは恋人の下の名前。
その恋人に馬乗りになられ、屈服させられることに歓びを感じることがある。
だから今夜も自分の身体の上で腰を持ち上げて下ろす上下運動をさせたい。自身がヌラヌラと出入りする様子を下から眺めたい。恍惚の表情を浮かべて身体をのけ反らす恋人を見たい。
だが最後は恋人の身体を組み敷いて激しく身体をぶつけるのは司だ。
けれど恋人は司を咥えたまま股間から離れようとしない。

「つくし?」

と名前を呼んだが頭を上げない。

「おい?」

顏を上げない恋人に司は再び声をかけた。
だが恋人はむさぼるように司のペニスを吸っていて、それは痛みを感じるほどだ。
これはおかしい。司は異変に気付いた。

「おい!つくし!どうした?」

その呼びかけにやっと顏を上げた恋人は言った。

「私。妊娠したの。だからカルシウムが必要なの。ミルクを飲まないとダメなの。だからあなたのミルクが欲しいの。全部ちょうだい?全部くれたら離してあげる。でもお腹の子はあなたの子供じゃないわ」

と言った恋人の顏に浮かんでいたのは冷たい笑顔。
そして恋人は再び司のペニスを咥えると、ちぎれるほど激しく吸い始めた。












「おい!司!起きろ!お前魚肉ソーセージ片手に居眠りか?いくらノックしても返事がねえから心配するじゃねえか」

と言って執務室に現れたのは西門総二郎。
目覚めた司は汗をかいていた。そして恐る恐る自分の股間に手を触れた。
大丈夫。ペニスはちゃんとある。それを確認して平静を取り戻した。

「ああ?ちょっと疲れててな」

「そうか。お前も忙しい男だからな。身体には気を付けろ。それにしてもお前が魚肉ソーセージを手にしている光景を目の当たりにするとは思わなかったが、もしかしてお前釣りの餌として買ったのか。俺も最近釣りを始めたんだが海老で鯛を釣るじゃねえけど、魚肉ソーセージでも結構いい獲物が釣れる。それで?いつ釣りに行くつもりだ?俺も一緒に行ってもいいか?」

司は釣りに出る予定はない。
それよりもおかしな夢を見たことで寝覚めが悪かった。

「いや。釣りの予定はない。それに俺は釣りに興味はない」

「そうか…..だとすれば、もしかしてお前、そのソーセージ見てイヤラシイことでも考えてたとか?」

総二郎はニヤリと笑った。

「イヤラシイこと?」

「ああ。牧野がこのソーセージを食べようとした時の顏だよ。女がコレを咥える顏は自分のモノを咥える顏と同じでイヤラシイかってことだよ」

「阿呆!俺のモノはこんなソーセージとは比べものにならないくらい立派だ!」














「ただいま、道明寺!」

「おう。お帰り。電話くれりゃあ駅まで迎えに行ってやったのに」

「え?近いんだからいいわよ。それよりこれお土産」

「サンキュー」

恋人は出張に出ると必ず司に土産を買って来る。
そしてふたりは土産を食べながら出張先での話をする。
そして今回の出張土産として恋人が司に差し出した箱に書かれているのは「パイ」の二文字。
だがその文字の前に書かれている三文字に首を傾げた。

「うなぎ…..パイ?」

「そう。これね、うなぎパイって言うパイなの。あんたは知らないと思うけどこれ結構有名なお菓子なの。それに私コレ大好きなの」

恋人はこういった地方の土産に詳しい。
そして今回の出張先は静岡。静岡といえばうなぎが有名だが、そのうなぎをパイにする?
つまりこの箱の中には黒光りをする長くクネクネとした魚類がパイに形を変えて入っている?
だがあの生き物はどんな姿でパイになったのか。パイで想像するのはアップルパイだ。だから生地の中にはリンゴのように切り分けたうなぎが入っているのか?
それとも、甘い菓子ではなく肉が詰められたミートパイやキッシュのようなものなのか。
そうだ。イギリス料理のキドニーパイは牛や羊の腎臓が詰められている。だからうなぎパイもうなぎが詰められているのだろう。
だが恋人がキドニーパイを好きだとは思えなかった。それに司もキドニーパイは苦手だ。
何しろモツの煮込みがパイ生地に包まれている料理はイギリスでも好き嫌いが別れる料理なのだから。だから司は訊くことにした。

「おい、牧野。お前本当にこのパイが好きなのか?」

「え?うん。このパイはね。パイはパイでもアップルパイみたいに中に包み込んだパイじゃなくて薄い焼き菓子なの。ナッツと蜂蜜がいい感じで使われていて、いくらでも食べることが出来るの」

と言われ、箱の中身は司が思っていたうなぎ版キドニーパイは消えた。
だがそう言われると「うなぎ」の存在がどこへ行ったのかが気になった。
だがその箱を眺めているうちに他のことも気になった。
それは『夜のお菓子』という文字。
そこで司はこの菓子には恋人からのメッセージが込められていることに気付いた。
恥ずかしがり屋の恋人は口には出さないが、今夜はこの菓子を食べてナニしようと言っていることに。

「なんだ。牧野。お前も好きだな。….ったくお前はどれだけ俺のことが好きなんだよ」

「え?え?何?何ちょっと!何やってんのよ!ちょっと!」

司はスーツの上着を脱いでカーディガンを着ようとしている恋人の服を脱がせ始めた。

「何ってナニして欲しいんだろ?だからお前。うなぎの菓子を買って来たんだろ?夜のお菓子って書いてあるってことは、これ食べて精力付けろって意味だろ?それにお前は魚肉ソーセージが好きでカルシウム不足なんだろ?」

「はあ?魚肉ソーセージ?何よそれ?あ!でも最近お弁当に入れてるわね?でもカルシウム不足って何よ?それにうなぎパイの夜のお菓子の意味はね__」

司はごちゃごちゃ言う恋人の口を唇で塞いだ。
そして出張で疲れているはずの恋人の身体を抱上げた男は、足裏のマッサージは後にすることにして、裸になると夢の中とは違い恋人に歓喜の声を上げさせていた。




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