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2022
08.13

金持ちの御曹司~背広の下のロックンロール~<後編>

司は用意された髭剃りを手にバスルームの背景幕の前にいた。
そしてカメラのレンズを見つめていた。
いや。カメラの向こうにいる女を見つめていた。

「ええっと、あなたの名前は__」

「道明寺司だ」

「では道明寺さん。あなたの状況は朝起きて下着を付けて髭を剃っているところよ」

と言った女はファインダーを覗いた。
だから司は言われた通り髭を剃るポーズを取った。
すると女はシャッターを切り始めた。

「なあ」

司は髭剃りを顎に当てたまま言った。

「なに?」

「あんたの名前は?」

「牧野よ」

「ちがう。下の名前だ」

「つくし。牧野つくしよ」

「つくし?変わった名前だな?」

「ええ。よく言われるわ。でも私は気に入ってるわ。つくしは雑草でどんなに踏まれてもへこたれない。何度踏まれても起き上がる植物。だから私も名前のつくしのように逞しく生きたいと思ってるの」

「へえ。それであんたカメラマンになってどれくらいだ?」

「このスタジオを構えたのは3年前よ。でもその前にアシスタントとして助手を務めていたわ」

「それで裸に近い男の身体を撮るのは初めてか?」

「そ、そんなことないわ。これまで何人もの裸に近い男性を撮影したわ。ええ何人もね」

と女は言ったが、その声には間違いなく嘘が感じられた。
女が言う裸に近い男性というのは、きっと赤ん坊だ。

「はい。髭剃りシーンは終了。次はワイシャツを着るところを撮るわ」

女はほっとした様子でカメラから離れた。
そしてハンガーラックに近づくと、その中から白いシャツを選んできて司に差し出した。
だが司はシャツを受け取らなかった。

「なあ。あんたは下着のアップの部分をメインで撮るって言ったよな?それなのに裸の俺に服を着させるってのはクライアントの希望と反対じゃあねえの?」
司はニヤリと笑った。
すると女は火照った頬をして、「わ、分かってるわよ。だけどものには順序ってものがあるわ。だからまず着衣を撮影して次に下着を撮るの。だから早くこれを着て!」と言ってシャツを押し付けたが、その様子からやはり女は裸に近い男に慣れていないようだ。
それにしても分かりやすい反応をする女だ。
そして司は自分を雑草と呼ぶ女に興味を惹かれた。

「ものには順序か…..」

司はシャツを受け取った。
だがすぐに脇に放り投げると前に出た。

「な、何?」

「分かってるんだろ?」

「何が?」

「俺があんたに惹かれてることだ。だってそうだろ?こんなピッタリのブリーフじゃ勃起は隠しようがないんだから」

司の興奮は髭を剃っているポーズを取っている時から隠しようがなかった。
そして女もそれを知っている。気付いていた。だができるだけ見ないようにしていた。

「それにあんたも俺に惹かれてる」

「ひ、惹かれてる?そんなことないわ!あなたの勘違いよ!」

「いや。そうだ。俺があんたに惹かれているのと同じで、あんたも俺に惹かれてる」

司はさらに前へ出た。
すると女は後ろに下がったが、そこにはテーブルがあった。
ほぼ裸の司は牧野つくしを追いつめた。

「ど、どうして私があなたに惹かれてるって言うのよ」

司は唇の片方の端を上げた。

「これだ」

司は牧野つくしを逃がさないように、彼女の身体を挟む形でテーブルに手を着くと唇を重ねた。
抵抗されることはなかった。だから一旦唇を離し、もう一度重ねた。
そして脈打つペニスを擦りつけ低く掠れた声で言った。

「牧野つくし。俺と付き合ってくれ」

司は牧野つくしと愛し合う光景を想像して更にペニスが硬くなるのを感じた。

「ダメ。あなたとは付き合えない」

司はこれまで女からの交際の申し込みを断ったことはあった。
だが断られたことはない。
それは女に交際を申し込むのは牧野つくしが初めてだから。
だから、これまで女にフラれた経験のない男はバッドで頭を殴られたような衝撃を受けた。

「何故だ?理由を教えてくれ」

司はどんな女も自分に従うのが当たり前だと思っていた。

「理由?あなたとは知り合ったばかりよ。お互いのことを全く知らないわ。だから付き合うことは出来ないわ」

「そんな理由か。それなら俺のことを知ってくれ。お前には俺の全てを知って欲しい。俺はお前に隠し事は一切しない。だから俺は全てをさらけ出す」

司はそう言うとヒョウ柄のブリーフに手を掛けた。
その瞬間、女は悲鳴を上げて司を突き飛ばした。

「それから言っとくけど私は自信過剰な男は嫌いなの。女は間違いなく自分を好きになる。どんな女も自分に身を投げ出してくるって思い上がっている男は大嫌いなの!それにひと前ですぐにパンツを脱ごうとする男とは付き合えないのよ!」

「待て!待てよ!」

司はスタジオを出て行こうとする女を追いかけた。
だが女の逃げ足は早く追いつくことが出来なかった。
だから司は叫んだ。

「俺はお前以外の女の前でパンツを脱ぐことはない!だから牧野!俺を棄てないでくれ!」










「支社長」

「………」

「支社長」

「………」

「支社長!」

司は西田の声に目を覚ました。

「パンツがどうのとおっしゃっていましたが、どうかされましたか?」

「いや…..なんでもない」

「そうですか。それならよろしいのですが、お薬が必要ならご用意いたしましょうか?」

「いや。必要ない」

司はそう言うと西田がデスクに置いていった封筒を手に取った。

それにしてもおかしな夢を見たものだ。
だがそれはデジャヴ。
恋人と知り合ったばかりの頃、自信過剰だと言われたことがある。
だがどんな女も自分に身を投げ出してくるなど考えたこともない。
それにひと前でパンツを脱いだことはない。
けれど彼女に乱暴しようとしたことがあった。
しかし司は見た目とは違って繊細なところがある男だ。
好きな女に泣かれれば気持が落ち込むし、嫌いと言われれば悲しい。
だからあのとき彼女に泣かれ、手に優しく力がこもった。

司は封筒の中身を取り出した。
出てきたのは姉の椿から送られてきたロスのホテルのブライダル部門のカタログ。

『あんたがモデルをしてくれたパンフレット。まだ倉庫の中にあったから送るわね。記念に持っておきなさい』

昔、姉に頼まれ恋人に内緒で撮った写真。
後ろ姿の司は白いタキシード姿で海を眺めていた。
司は己のその姿の隣にウエディングドレスを着た恋人の姿を思い描く。
恋人の手が司の腕に添えられ、ふたりでオーシャンブルーの海を眺めている姿を。
そしてふたりは靴を脱ぎ裸足になると、タキシードとウエディングドレスのまま砂浜に駆け出すのだ。
きらめきの先へと___

ネクタイを締め、革靴を履いていても、背広の下にあるのは恋人への熱い思い。
どこにいても、何をしていても片時も恋人の事を思わない時はない。
心は恋人だけに向けられていて他の女に興味はない。
そして恋人の前では自分を飾る必要がない。
だから心が裸になれるのは恋人の前だけだ。

「それにしてもあいつ。どこをうろついてる?」

司は呟いた。
そのとき携帯電話の短い着信音が鳴った。
それは恋人からのメッセージ。

『ねえ、10階の自販機コーナーに新しいアイスの自販機が入ったの!
道明寺が入れてくれたんでしょ?ありがとう!さっき期間限定のバニラを食べたけど、すごく美味しかった!』

司はしまったと思った。
そうだ。恋人から某アイスクリームメーカーのアイスを買うため、昼休みにコンビニまで走るという話を聞いたとき、そのメーカーの自販機を入れろと西田に言ったのだが、そのことをすっかり忘れていた。

司は膝を叩いた。そうだ。社内にある全てのアイスクリームの自販機を支社長室のある最上階のフロアに移動させればいい。そうすれば甘い物に目がない恋人は、このフロアに上がって来ることになる。つまり司は恋人の姿を求め社内を歩き回る必要が無くなるということだ。
だが社内を歩きまわることが無くなるのも少し寂しいような気がした。
それは、仕事をしている恋人の姿をそっと見つめる楽しみが失われるからだ。
だから自販機はそのままにすることにした。

司は西田を呼ぶと言った。

「悪いが10階の自販機コーナーにあるアイスの自販機から期間限定のバニラを買ってきてくれ」

恋人が美味いと言うものは、とりあえず食べてみるのが司だ。
それは恋人の思いを共有するためだが、実はそのせいで最近体重が1キロばかり増えた。
だがそんなことは大したことではない。何しろ歳月は過ぎ去るのみ。過ぎてから、しなかったことを悔いても間に合わないのだから。
それに躍動するリズムに合わせて踊れば体重はすぐ元に戻る。
だが、固くなった身体でロックを踊れと言われても身体は言うことを聞かない。
司は背広の上着を脱いだ。
そして軽く肩を回すと書類に目を通し始めた。




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2022
08.10

金持ちの御曹司~背広の下のロックンロール~<中編>

「くそったれめ」

司は言語道断の下着に毒づいた。が、再び箱の中に手を突っこみ、ヒョウ柄のブリーフを摘まみ上げるとニヤリと笑った。

「おもしろそうだ」

司は牧野という女がカメラマンとしてのキャリアがどれくらいあるのか分からなかったが、年は30歳くらい。そしてその女が裸に近い男に慣れてない。男のセクシーな姿に慣れてないと見た。
それは司が下着を手にしたとき、頬を赤らめたからだ。つまり女は平然を装ってはいたが、小さく存在感のなさすぎるブリーフとは名ばかりの布を司自身が満たした姿を想像して頬を赤らめたということ。だから司はこの撮影がおもしろくなりそうだと思った。




***




司は着替えを済ませるとハンガーラックに掛けられていたローブを羽織った。
そして廊下に出るとスタジオだと言われた隣の部屋の扉を開けたが、カメラマンの女は司に背中を向けカメラをいじっていて、司が部屋に入ってきたことに気付いていなかった。そしてそこに撮影を手伝う助手の存在はなかった。

司は女の後ろ姿を見つめた。
それからゆっくりと女に近づき真後ろに立った。
それは手を伸ばせば触れる近さだ。

「よう。着替えたぜ」

その声に女は振り返ったが、司がすぐ傍に立っていたことに驚いていた。

「ええっと、早かったのね?」

「ああ」

司は短く返事をして女を見つめた。
すると女は咳払いをして「シェービングは必要なかった?」と訊いた。だから「その必要はなかった」と答えたが、前だけを覆い尻の部分は布がない紐状のもの。つまりTバッグを身に着けるなら必要になるが、はなから履くつもりはなかった。だから必要ないと答えた。

「それじゃあ撮影に入りましょう。さっきも説明した通り今回は下着のアップがメインなの。だけど全身の写真も何枚か必要だから、まずそっちから撮影しましょう」

司はそこに立ってと言われ寝室の背景幕が下ろされた場所に立つとローブを脱ぎ捨てた。
身に着けているのは股間を覆うだけのヒョウ柄のブリーフ。
薄い布が引き締まった腰の低い位置を覆っていた。

「で?俺はどうすればいい?」
と言った司は両手を腰に当て見られるがままにしたが、それは溝を刻んでいる腹の筋肉を見せ付ける姿。その様子に女は顏を赤くした。そして30秒ほど黙った後で言った。

「ど、どうすれば?そ、そうね、それじゃあポーズをお願い」

「分かった。それで?どんなポーズを取ればいい?」

「ええっと、ここは寝室という設定だから、あなたは朝、目が覚めてベッドから起きたって感じかしら」

「朝、目覚めたところか?」

「ええ」

「そうか。だがそうなると問題がある」

司は真剣な顏で言った。

「何が問題なの?」

女は心配そうに訊いた。

「俺は夜寝るときは裸だ。だから朝目覚めた時も裸ってことだ。つまりあんたの言う設定なら俺は裸になる必要がある」

その言葉に女は真っ赤になった。
司は笑みが浮かぶのを隠し確信した。思った通りこのカメラマンは男の裸に慣れてないのだと。だから司は女がどぎまぎするのを楽しむことにした。
司はヒョウ柄のブリーフに手を掛けた。
すると女は「ちょっと待って!ぬ、脱がなくていいから!脱いじゃダメ!脱ぐ必要ないから!」と言ったが、その声はパニックめいた叫び声。

それに対し司の声は断固としていた。
「なんでだ?撮影とはいえある程度のリアルさは必要なはずだ。それに俺はプロのモデルじゃない。だから気持を入れるためには裸から_」

「設定を変えるわ!だから脱がなくていいの!ええっと……そうね、あなたはこれから仕事に行くビジネスマンでこれから出勤のためにワイシャツを着るところ。ワイシャツを着てネクタイを締めてスーツを着るの。その前の支度を….そうよ!髭を剃ろうとしているところを撮るわ!」

女はそう言うと背景幕を変えた。




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2022
08.08

金持ちの御曹司~背広の下のロックンロール~<前編>

「ねえ。このモデル。カッコいいと思わない?」

「そう?顏がクドイと思うんだけど」

「そんなことないわよ。この顏のどこがクドイのよ?」

「だってほら阿部寛っぽいじゃない?あの顏がクドクないって言うなら誰をクドイって言うのよ」

「確かに阿部寛はクドイと思うわよ?でもこのモデルは阿部寛ほどクドクないわよ」

「じゃあ誰レベルよ?」

「そうねえ…..北村一輝じゃない?」

「北村一輝?北村一輝も阿部寛も似たり寄ったりの顏の濃さだと思うけど?」

「そうかなあ…..でも言われてみれば確かにそうかも。あの二人どっちも濃厚。濃い顏してる!二人が並んでいるところを見たら胸やけするかもね。ねえ。それはそうと、うちの支社長もモデル並の顏とスタイルしてるわよね!」

「それを言うなら道明寺支社長はセクシーさとワイルドさを兼ね備えたイケメンよ!それに支社長の顏はクドイっていうのとは違うのよね。目鼻立ちがはっきりしてるけど、あの彫りの深さは品と美しさを備えているもの」

「うんうんその通り!それに道明寺支社長って脱いでも凄いんでしょ?ただでさえゴージャスなのに、さらに鍛え上げた肉体美の持ち主なんて、道明寺支社長の恋人が羨ましい!あたし硬い腹筋と彫刻のような胸に抱かれるなら1億円出してもいいわ!」

「1億円?なにあんた1億持ってるの?」

「まさか!でもそれくらい出しても価値があるってこと。ほんと。恋人が羨ましいわ!」











恋人は蟻と同じで甘いものが大好きだ。だからこの場所にいると思ったがアイスクリームの自動販売機が置かれているその場所に姿はなかった。
その代わりいたのは女子社員がふたり。だから彼女たちの会話に耳を傾けていたが、司は阿部寛という社員も北村一輝という社員も知らない。だが、どうやらクドイ顏をしたふたりの男は女性社員の間では有名らしい。だから執務室に戻ったら社員のデータを検索してみようと思った。

それにしても、何故女性社員は司の身体に興味があるのか。
確かに体脂肪6パーセントの司の身体は鍛え上げられている。だがそれを知っているのは恋人だけであり、他の女の前で裸になったことは一度もない。
それにこれから先も他の女の前で裸になるつもりはない。

そして司は過去に一度だけモデルをしたことがある。
あれは姉の頼み事。姉の椿は結婚してロスで暮らしているが、夫はホテルを経営している。
そのホテルのブライダル部門のカタログモデルなのだが、前からではなく後ろ姿の写真が欲しいと言われた。他ならぬ姉の頼みだ。それに後ろ姿だけならと引き受けたが、モデルを引き受けたことは恋人には内緒にした。

司は執務室に戻ると、社員名簿から顏がクドイと言う阿部寛と北村一輝を探した。だがそんな社員は見当たらなかった。その代わり目に止まったのは市村正親という部長職の男。何故か写真の下に趣味はミュージカル鑑賞と書かれていた。
そう言えば、つい最近、司は恋人と一緒にベトナムを舞台としたミュージカルを見たが、劇場で部長職の男に似た男を見かけたような気がする。
そしてあの日。舞台を見終えたふたりは、メープルで遅いディナーを取ると、最上階にある司の部屋で愛し合った。
そんなことを思い出しながら司は目を閉じた。













司は駐車場に車を止めると建物の3階に上がり部屋のチャイムを鳴らした。
すると中から女が出てきて司の全身を眺めた。
そして「あなたが代わりの人ね?私がカメラマンの牧野です」と言った。
司は親友の類に頼まれてこの部屋を訪ねたが、そこは牧野フォトスタジオ。
類はファッションモデルで今日はこのスタジオで撮影に臨むことになっていたが、急病で撮影に臨むことが出来ないからと司に代役を頼んできた。

「ゴメン。今朝起きたら熱が40℃近くあってフラフラで立っていられないんだ。だから悪いんだけど俺の代わりにスタジオに行ってくれない?セレクトショップの洋服のカタログ撮影だから、ちょっとポーズを取ればいいだけで簡単だよ。カメラマンには司が行くって連絡しとくから。それに司なら充分モデルとして勤まるから」

確かに司はこれまで何度もモデルにならないかと声を掛けられたことがある。
だが司は自分の姿を売り物にするつもりはなかった。
だが幼馴染みの親友がどうしても仕事に穴を開けることは出来ないから代役を頼むと言ってきた。だから引き受けたが、「じゃあさっそくお願いね」と言われて案内された場所に用意されていたのは、テーブルの上に乗った大きなダンボール箱。

「あなたが身に着けるは、あの箱の中に入っているわ。それから安心して。沢山あるけど全部じゃないから。あなたのサイズに合うものだけ選んでくれたらいいから。
それからこの会社の商品はバラエティに富んでいるから、あなたの好みで選んでもらって構わないわ」

司はそう言われ箱に近づくと蓋を開けたがギョッとした。
サイズが合うも無いもない。司が開けた箱の中にあるのは色とりどりの下着。
恐る恐る一枚だけ取り出したが、それはかろうじて股間を覆うだけのヒョウ柄のブリーフ。
そしてもう一枚取り出したが、それは生地が薄くハンカチほどの重さしかない紫色のブリーフ。さらにもう一枚取り出して見たが、それは前だけを覆い尻の部分は布がない紐状の赤いヒラヒラの物体。そしてその赤いヒラヒラの物体に絡まっているのは、メタリックブルーのメッシュのブリーフ。女性は箱の中はバラエティに富んでいると言ったが正にその通り。どれもこれも奇抜な物ばかりだ。いや、それ以前にこれは類の言ったモデルの仕事とは違う。

「くそっ。類の野郎……」

類は昔から確信犯的なところがあったが、熱を出して撮影に臨めないと言った仕事は、セレクトショップの洋服の撮影などではなく下着カタログのモデル。
そして恐らく類は本当は熱など出しておらず、ただ事務所が受けたこの仕事をこなしたくないから、熱が出たと言って司に代役を頼んできたのだ。

「それから撮影だけど、今回は下着のアップの部分をメインで撮るのでよろしくね。そうねえ…..枚数は20枚くらいかしら。つまり20種類の下着を選んで欲しいの」

司はそう言われてカメラマンの牧野という女をまじまじと見た。

「おい、ちょっと待ってくれ。アップって….それに20種類って…」

女の言う通りなら、司はあられもない下着を付けた局部をアップで20枚以上撮影されるということだ。それに間近でその部分をジロジロと見られるということだ。

「聞いてない?」

「聞いてないもなにも俺は今日来るはずだった男の代役で詳しい説明は何も受けてない!」

「あらそうなの?それなら説明するわ。今回は男性下着メーカーのカタログの撮影なの。
その会社はマネキンじゃなくて生身の男性に自社の下着を付けてもらって撮影することを望んでいるの。それに下着の撮影だってことはモデル事務所にも伝えてあるし、一番カッコいいモデルを寄越して欲しいって頼んだわ。だから花沢さんというモデルさんも下着の撮影だってことは知っていたはずよ?あなたも花沢さんと同じ事務所なのよね?だからてっきり聞いてると思ったんだけど?」

「いや。俺はあの男と同じ事務所のモデルじゃない。それどころかモデルじゃない。あの男のただの友人だ!」

司は叫んだが、女は司の顏を見つめ、それから頭から爪先まで眺めまわした。

「あらあなたモデルじゃないの?でもあなたもモデルが出来るくらい素敵よ。だから自信を持ってもいいわよ」

女はそう言うと次に部屋の隅を指さした。

「着替えはあのカーテンの後ろでしてね。それからシェービングが必要なら、バスルームに案内するから言ってね」

「シェービング?」

シェービングとは剃ることだが、まさか___

「ええ。ムダ毛の処理よ。写ったら困るもの。それからスタジオは隣の部屋よ。着替えが終ったら来てちょうだい」

「おい!ちょっと待て!俺はこの仕事を引き受けるとは言ってない!」

司はそう言ったが女は司を部屋に残すとバタンと扉を閉めた。




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2022
03.07

金持ちの御曹司~業務命令~<後編>

司は酔いつぶれた女をベッドに降ろした。
そして服を脱がせると、女の身体を楽々と裏返し枕元に置かれているロープを掴んだ。
『しぼりたて生しょうゆ』が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまう男は、マンションの部屋にロープを用意していた。だから酔って寝てしまった女を自宅まで連れ帰ると、これまで自覚することがなかった自身の性的嗜好を満足させることにした。
だが相手が誰でもいいという訳ではない。
相手は好きな女でなければリビドーは満たされない。
そう。相手はエリアマネージャーの牧野つくしでなければならないのだ。彼女に対し支配的立場をとりたいのだ。彼女を愛の奴隷にしたいのだ。

司はうつ伏せになった女の胸の上と下を縛り上げたが、女は目を覚ますことなく黙ってされるがままだ。次に両腕を後ろ手に交差して手首を縛ったが、荒い繊維は柔らかな白い肌に痕を残すだろう。

司は、囚われの身になった女の尻を持ち上げ貫きたい。
冷血な獣のように無防備、いや、縄で縛られた女を無理矢理犯したい。
だが貫くのは後ろの穴にするか。それとも前の穴にするか。
どっちを責められるのが好きか本人に訊いてみてもいいが、どちらにしても、その姿はみだらな姿には変わりない。そしてその姿を想像する司の胸は、いやがうえにも高鳴り身体は欲望でうずき、痛いほど切望した。それに牧野つくしがこれまでどんなセックスを経験してきたか知らないが、とにかく司は柔らかい彼女の尻の奥まで思いっきり貫きたかった。
だがこうして縛っている今は、まだ早いと本能的に前に出ようとしている身体を抑えていた。
そして司は彼女とこうするため、拘束プレイではなく本格的な縛りを学んだ。その道のプロから指導を受けた。するとその道のプロは、「君は筋がいい。君は支配する側の人間だ。この世界でご主人様として働かないか。君なら大勢の女性を奴隷として持つことができる」と司を誘った。だが司が支配したいのは一人の女であり、その他大勢の女はどうでもよかった。だから断った。


「…..う….ん…..」

どうやらうつ伏せになった女は目が覚めたようだ。
そして身じろぎもせず視界に入った世界について考えているようだ。

「目が覚めたか?」

女はうつ伏せのまま首をそらせ声がした方を見たが、素っ裸の司の姿にギョッとした。
司は真冬でもパジャマを着ることなく全裸で寝る。だから女を縛っている間も裸でいたが、その間、欲望しるしは硬直して直角よりも高く上がっていた。
そして目覚めと同時に酔いも醒めた女は、一瞬ののち自分が裸で縛られていることに気付いたようだ。

「何これ……道明寺店長これは一体どういうこと?」

司は口角を微かに上げ笑った。
縛りの指導をしたその道のプロは、司の笑い声をみだらで官能的だと言った。
低音で深みのあるバリトンの声は女のアソコを濡らすと言った。
けれど女の黒い瞳は怒りで濡れた黒曜石のように光っている。
だが女は怒りながらも、その背筋は震えていた。それは恐怖を感じているからだ。

「どうもこうもない。俺は店の棚に並んだしょうゆの容器を見て以来、お前の縛られた姿を想像していた。だからこうしてお前を縛った」

「店の棚に並んだしょうゆの容器?…..いったい何のこと?意味が分からない。それに何なのこれは!どういうことなのか説明しなさい!」

エリアマネージャーとして司より立場が上の彼女は、背後から自分を見下ろす司に声を荒げ命令口調で言った。
だが司は『しぼりたて生しょうゆ』が『しばりたて生しょうゆ』に見え、その容器が縛られた牧野つくしの姿に置き換わることを説明するつもりはない。
それよりも今は、その妄想によって明らかになった自身の性的嗜好が満たされることが重要だ。
それは縛られた女との性交だが、それが暴走した妄想だとしても止めることは出来ない。
それに裸で偉そうに自分の立場を主張されても、その姿には権威もへったくれもない。
だから司はそんな女に「俺はお前が欲しい。だがただ欲しいんじゃない。俺はお前のことが好きだ。そして俺は縛られたお前を犯したくてたまらなかった。だから縛った」と言って牧野つくしの下半身を掴むと弓なりにもち上げた。すると女はシーツに顏を埋める形になったが、そこで自分の身に起こることが予測できたようだ。だから縛られたまま身体をよじる。

「いや…….止めて…….道明寺店長止めなさい!手を離して縄をほどいて!ほどきなさい!これは命令よ!」

司は女の言葉を無視した。
もう牧野つくしは司のもので、司の好きに出来る。だから興奮で身体じゅうが震えた。
それに女も裸で縛られていては強気でやり過ごすことは無理だ。
女に司を止めることは出来ない。
だから司はからかうように言った。

「命令?それは業務命令か?もしそうだとしても、今のお前は俺に命令は出来ない。何故ならお前はこれから俺に支配されるからだ。だから抵抗は時間の無駄だ。それに今俺とお前の間にあるのは俺の意志とお前の快楽だ」

司は言うと迷うことなく前の穴に自身を沈めた。
するとその瞬間、女は悲鳴を上げたが、司の下半身には快感が走った。
だからもっと深く女の中に入った。

「こうして___お前は__俺に支配されている__だから__お前は__俺からは逃げられない」

司が言葉を切るたび再び女の口から悲鳴が上がる。
それはひと言ごとに司の腰が突き出されるから。
湧き上がってくる欲望は女を激しく責めろと言っていた。

「ああっ!……やめてぇ……!!」

「止めない。それに抗っても無駄だ。俺はお前を離しはしない。お前は俺のものだ。俺はお前のことが好きだ。だから俺を拒むな。受け入れろ」

司は2時間近く女を責めた。
縛った身体を弄んだ。
それでも司の分身の昂りは治まらなかった。
いやむしろ、もっと女が欲しくなった。
だから「牧野…..牧野….. 」と女の名前を呼びながら腰を打ちつけていたが、そのとき司の耳に届いたのは「ほん!」という声。
そして次に耳に届いたのは「うおっほん!」という言葉。
だから目を開けたが、そこにいたのは秘書の西田で「うおっほん」とは秘書の不自然な咳だ。

「支社長。おやすみのところ申し訳ございません。先日取材を受けた雑誌が発売されることになり出版社から送られてまいりましたのでお持ちいたしました」

秘書はそう言って机の上に経済誌を置くと出て行った。

司は秘書の言った通り最近雑誌の取材を受けたが、質問の中に、「あなたの好きな食べ物は何ですか?」という項目があった。
司は取材でそう訊かれた時の答えは決まっていて「特にない」と答える。
だが本当はある。司の好きな食べ物はお好み焼き。
しかし「特にない」と答えるのは秘書から指示があったから。
何しろ男は世界的な企業の跡取りであり、道明寺財閥の御曹司。
そして世界中の美食を知ると言われる男。
そんな男の好きな食べ物が「お好み焼き」では司のイメージに合わない。
だから秘書から「特にない」と答えて欲しいと言われていた。

だが司は世間が自分をどう思おうと関係ない。
本当は声を大にして好きな食べ物は、お好み焼きだと言いたかった。
そして子供の頃、それを焼いてくれたのは姉だが、大人になった彼のために焼いてくれるのは恋人だ。
そして司は昨日、地方出張から戻ってきた彼女にお好み焼きを焼いてもらった。


「ねえ。あたしがいつも焼くお好み焼きって生地に具材を混ぜ込んで焼くでしょ?あれは関西風。でも今日これから焼くのは広島風お好み焼きよ。広島風は具材をひとつずつ重ねて焼く重ね焼きなの。大丈夫よ。あっちで教えてもらったからまかせて!」
と、恋人は自信満々に言ったが出来上がったのは思っていたものとは違ったようで、
「あれ?おかしいわね?なんだか違うわね」と笑った。

司は基本恋人が作ってくれた料理は何でも食べる。
多少の好き嫌いはあるが我慢する。
だからお好み焼きも恋人が焼いてくれるなら、関西風だろうが広島風だろうが関係ない。
そして、お好み焼きを食べ終えた男の歯に付くのは青のりだが、女性の誰もがその青のりになりたいと望むはずだ。だが世界ひろしと言えども、道明寺財閥の御曹司に向かって歯に青のりが付いていると指摘する人間はまずいない。
それは世の中には触れていいことと悪いことがあり、分別のある人間なら見て見ぬふりをする方が自分のためになることを知っているからだ。
しかし一人だけ指摘出来る人間がいる。
臆することなく真実を告げる人間がいる。
そう、牧野つくしだけが司の歯に付いた青のりを指摘することができる。
何しろ彼女は初めて会った時から真実だけを司に告げていた。


「ねえ。歯に青のり付いてるわ」

だから司はいつも言う。

「お前が取ってくれ」

それはキスで青のりを取ってくれという意味。
だから恋人は立ち上ると司の傍に来た。
そして彼の肩に手を置き少し顏を屈めると司の唇に唇を重ねた。


司はこうして昨日の夜の出来事を振り返ったが、それにしても何故恋人を縛るなどというおかしな夢を見たのか。
だがそこで思い出した。恋人の家には『しぼりたて生しょうゆ』と書かれた醤油の容器が置かれていたことを。そして恋人がその便利さを褒めていたことを。
だから恋人が褒めた醤油の容器が夢の中に現れたのだろう。
それに夢は幻覚。
だが夢は過去、現在、未来の状況を暗示するとも言われている。
と、なるとあの夢は未来の状況なのかもしれないが___
いや、それは絶対にないと司は首を横に振った。
だがもし彼女がそれを望むなら、冒険したいと思うなら、その願いを叶えるのが恋人である司の役目だ。
だから夢の中で経験した通り、その日に備え縛りを学ぶべきなのかもしれない。
そうだ。業務命令として、そうすることを望まれた時のために練習を積んでおく必要が……
だがそこまで考えた司は笑った。
そして「そんな必要はないな。あいつは今でも恥ずかしがり屋だ、それに俺のあいつへの気持は欲望だけじゃない。俺のあいつへの気持は愛と優しさだ」と呟くと溜まっている仕事を片付けるべく机に向かった。





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2022
02.28

金持ちの御曹司~業務命令~<中編>

「道明寺店長。本日はご同行、ありがとうございました」

「いえ。こちらこそ」

「それにしてもその変装。よくお似合いです」

「そうですか。どうもありがとうございます」

司はエリアマネージャーである彼女と近隣のライバル店のリサーチに出掛けていた。
だが眉目秀麗と言われる司の面はライバル店に割れている。それにその容貌はひと目を惹く。
実際店長の司は女性客に人気があり、店内を巡回すれば、「あの…おすすめ商品買いました」と声をかけられるほどで、『バイヤーおすすめの品』よりも『店長おすすめの品』というPOPが書かれている商品が飛ぶように売れていた。
だからライバル店のリサーチに出掛ける時は関係者に気付かれないように必ず変装をしていた。
そして今回の司は、うっすらとだが口髭を生やし、黒色のスーツに光沢のある紫がかったペールブルーのシャツを合わせ、茶色のアビエーターサングラスをかけ黒のコートを着ていたが、その姿はどう見ても関わりたくない人物。だからすれ違う人々は、一瞬司を見るが、すぐに視線を逸らし逃げるように去る。

そして彼女もいつものビジネススーツではなく、ラベンダー色のボーダーニットに上品な淡いピンクのパンツ。そしてベージュのコートを着ていたが、司は彼女のその姿を見たとき眩暈を覚えた。

かわいい__

そして唇には、いつもとは違う色が塗られていて、司の目はその唇に釘付けになった。
それに彼女のすぐ傍に立つと、彼女の匂いが鼻孔をくすぐった。
だからリサーチの間じゅう、その香りに頭がクラクラしていた。

「道明寺店長?どうかされましたか?もしかしてご気分でも悪いのでは?」

「いえ…..」

司の気分は上々だ。
そして気分と同じでズボンの中のモノも今にも勃ち上がりそうだった。

「そうですか?それならいいのですが少しお顔が赤いので熱があるのではないかと思いまして」

と言った彼女は「それでは今日のリサーチの報告書は後日お持ちします」と言って司の前から立ち去ろうとした。
だから司は「牧野さん。遅くなりましたね。もしよろしければこれからお食事でもいかがですか?」と食事に誘った。

時計の針は午後6時を回っていた。
すると彼女は司をじっと見て、「店長。お店に戻らなくてもいいのですか?」と言った。
店は夜9時まで営業している。だから彼女は司が店に戻ると思っているようだ。
だが司は、「今日は午後から休みを取っているので戻る必要はありません」と答えた。
すると彼女は一瞬だけ困惑した表情を浮かべ、司に向けていた視線を外した。
それは司の誘いを受けるかどうか考えているということ。何しろ今まで一緒に他店のリサーチに出掛けても、食事に誘われたことなどなかった。それに彼女が司の店の担当になって二年が経つが食事に誘われるのは初めてのこと。
だから余計に食事に誘った司の真意をはかっているのだろう。
だが彼女は視線を司に戻すと「居酒屋…….駅前の居酒屋に行きませんか?」と言った。





「山田!あの男!アラスカに転勤になればいいのよ!」

彼女は空腹が苦手で、お腹が減ると不機嫌になりやすい。だがお腹が満たされると機嫌が直ると言った。そう言った彼女は、だから自分は分かりやすい人間で単純だと言ったが、アルコールに対しては単純とは言えないようだ。

「道明寺店長、どう思います?あの部長あたしの仕事の仕方が気に入らないなら面と向かって言えばいいのに、社内メールでネチネチ言って来るの!本当にムカつく!あんな男アラスカの海でシャチに食べられればいいのよ!」

彼女が言った山田とは、彼女の上司で髪の毛がチリチリとうねっている小柄な男。
司もその男のことは知っているが、趣味は座布団運びとやらで、どうやら彼女とは反りが合わないようだ。だからアラスカに転勤になればいいと言ったが、生憎D&Yホールディングスはアラスカに店舗を構えてはいない。

そして彼女は不満げに鼻を鳴らしたが、まさか真面目だと思われていた彼女の口からシャチに食べられればいいという過激な言葉が訊けるとは思ってもみなかった。それにこれまでどちらかと言えば他人行儀だった彼女が、鼻と鼻がくっつきそうになるくらい顏を近づけてくるとは思いもしなかった。
そして、「ねえ、道明寺店長。今日はとことん飲みましょうよ!」と言うと手を挙げて、
「すみませーん!」と店員を呼ぶと「焼き鳥とジャーマンポテト下さい。あ、それからビールのおかわりもお願いします!」と言った。

司は酒に強い。
だからどんなに空のジョッキがテーブルに並んでも表情は変わらない。
だが彼女は運ばれてきたビールジョッキを口に運ぶと司に絡んできた。

「ちょっと!もっと飲みなさいよ!アンタ男でしょ?それともあたしのお酒が飲めないっていうの?あたし、エリアマネージャーですけど?」

漆黒の瞳は大胆不敵に輝きハラスメントまがいの言葉を口にした。
だが司は彼女にならハラスメントを受けてもいいと思った。
特にセクシャルなハラスメントは大歓迎。
鼻と鼻がくっつきそうになる以上に、もっと彼女に近づきたい。
だが目の前の女性は注文した焼き鳥とジャーマンポテトを口に運び、ビールのおかわりを飲み干すとテーブルの上に突っ伏した。



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