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2018
09.16

金持ちの御曹司~Addicted To You~

見つめるだけでため息が出るほどの美男子が頭の中で何を考えているかなど分かるはずないのだが、妄想とは脳内でお産をすることだと誰かが言った。
だから司が日々頭の中で繰り広げることは、かなり大変なことであることは間違いないのだが、色々な事も慣れると耐性がつき、それが美味しく感じる劇薬のようなもので、彼の秘書はそんな男にも慣れていた。
だからいつものように頭の中で仕事以外のことを考えていたとしても、それはそれで必要悪として認めているようで、今も何かを考えている上司のことを気に止めることなく執務デスクに書類を置くと静かに出て行った。

そしてこの部屋の主は毎日ネットで今日の運勢を調べていた。
するとそこに書かれていたのは、『今日の水瓶座の一日は最高にハッピーです』の文字。
そして9月14日はメンズバレンタインデーと呼ばれる男性から女性に下着をプレゼントして積極的に愛を告白する日だったが、牧野つくしと知り合ってから毎日がバレンタインデーな男にとってそんなものは関係ないのだが、それでもそのイベントに乗ってやろうと思った。

恋人に下着をプレゼントする。
それは普通の男にとっては勇気がいることだが、司にしてみれば愛しい女の下着を選ぶことは当たり前のことであり、何も勇気が必要なことではない。
そう言えば昔。女性用下着のカタログを手にしていた司を見た恋人は、まるで変質者を見るような目で彼を見たことがあった。そして執務室から走って出て行ったことがあった。

だが突然見知らぬ男から下着を贈られるよりはマシなはずだ。
それに嫌な男からの下着のプレゼントは性的な嫌がらせだと言われること間違いない。
それに通販で彼女の下着を買う訳にはいかない。やはり自分自身の目で見ることが求められる。だがだからと言って自分の足でランジェリーショップに行くことは躊躇われた。だからランジェリーショップを世田谷の邸に呼び寄せた。そこでわき目もふらず、それこそ一心不乱に、熱心に選んだ。そして手触りは勿論のこと、縫製も入念にチェックした。
そして愛しい女に渡したが、それは司の下着とお揃いの紫のランジェリー。
箱を開けた女は一瞬戸惑ったが、照れながらもありがとう、と言って受け取った。
そしてそこから先は、恋人なら当然の夜を過ごした。



そんな週末が開けた月曜日。
西田が置いていった書類を手にした司は目を通していた。
その紙に書かれていたのは、チャリティーの文字。
道明寺ホールディングスは慈善活動に力を入れていた。だからチャリティーに反対があるはずがない。ただ、そこに書かれていた内容が問題なのだ。
それは経団連に名を連ねる企業の社長婦人たちが開催するチャリティーパーティーへの出席を求める内容。それも今夜。
そしてチャリティーの趣旨がどんなものかを確かめるため読み進めていくうちに、眉間に皺が寄った。
いや。趣旨が問題ではない。ただ、そのパーティーでオークションが行われ、その収益金が寄付されることになるが、問題はそのオークションだ。
オークションと言えば、何かを出品して一番高い値を付けた買い手に売却することだが、何を考えているのか。社長婦人たちは、あろうことか経団連に属する企業の独身経営者たちのうち、見目麗しい男たちをオークションにかけ、一番高い値をつけた落札者がその男たちと1日デートが出来るといった余興を考え付いた。
つまり司の元に届いた案内に書かれていたのは、彼にオークションに出品される男になれということだ。

司はこれまでの人生で大勢の女性から求められた。
それは幼い頃からだが、成長するにつれ女が傍にいることにイライラするようになった。
そしてそのイライラは周囲に向けられ、女に触れられることに嫌悪を感じるようになった。
だがそれは牧野つくしと出会ってから変わった。彼女にだけは触れられることを求めた。
そしてまたその逆で触ったりかわいがったりすることが好きになった。
だが他の女は別だ。そして今回その余興を考え付いたのは、自分の母親であり社長である楓とさして年齢の変わらない婦人たち。いやそれ以上で老婦人と言ってもいいはずだ。

確かに、今まで経団連のパーティーに出席するたび言われていた。

「道明寺さん。いつも素敵ね。あなたみたいな若くて素敵な男性とデート出来るなら夫とは別れてもいいわ」

「あら奥様。わたくしだって同じですわ。本当に道明寺さんは素敵。楓社長はあなたのような素敵な息子さんがいらしてさぞや自慢のことでしょう。本当にねぇ。わたくしがあと50歳若ければあなたと結婚したかったわ」

だからといってまさか司をオークションにかけ、競り落とそうと考えるとは思いもしなかった。それに今回のことはいくらチャリティーとはいえ、自分の身が危険に晒される。それがいいはずがない。
だがそこに書かれていたのは、『楓社長からはご了承を頂きました』の文字。
母親であり道明寺ホールディングスの社長である楓が、我が子をオークションにかけることを認めたというのだから、一体母親は何を考えているのかと問い問いただしたかった。
だからすぐさま電話をかけたが、

「いいじゃない。これはチャリティーよ。我慢なさい。業務命令よ。いやなら自分でなんとかなさい」

そうだ。それなら牧野つくしをオークションに参加させればいい。
金なら幾らでも出す。だから牧野つくしに自分を落札させればいい。
どちらにしても、香水の匂いがむんむんと立ち込める中、大勢の女たちの前でステージに立たされ、値踏みされではないが、向けられる視線は恐ろしいものがあるはずだ。
だから司はつくしに自分を落札させ、早々にステージから立ち去るつもりでいた。














「ねえ、ちょっとつくし。司がオークションにかけられるってどんな気持ち?」

滋はそう言って隣に立つつくしの脇腹を肘でつついた。

「うん。チャリティーだし、そのお金で子供たちが教育を受けることが出来るならいいと思うわ」

今夜のパーティーの趣旨は、経済的に恵まれないと言われる家庭の子供たちが教育を受ける権利を守るために催された。

「つくし。あんた呑気なこと言ってるけど、自分の彼氏が別の女とデートすることを認めるの?たとえチャリティーだとしても、あの男を1日自由に出来るのよ?落札された男は落札した女の言うことを訊くのよ?それでもいいの?」

「うん。でも食事に行ったり買い物に付き合ったりするくらいでしょ?」

つくしは会場にいる大勢の女性たちを見渡したが、ここにいるのは経団連に所属する企業の社長夫人や重役婦人で彼女たちの年齢は高かった。

「あんたねぇ。甘いわよ。ここにいるのは年寄りばかりじゃないのよ?見てよ。ほら。
あそこにいるのは若い女。パパのお金で司を買おうとしてるのよ。あの女なら1億だって平気で出すわよ。うんうん。それ以上も出すつもりでいる。それに見てよ。あの髪の毛ムラサキに染めてる女性。美容業界の大御所で70歳よ?彼女。司を落とす気でいるんだから何考えてるのかしらね。それに司が出ることをしぶしぶ認めたのは、つくしが落札してくれることが分ってるからよ。そうじゃなかったら絶対に参加しなかったわよ」

滋とつくしは、司に頼まれ彼を落札するため、大金を用意していた。というよりも、この金で自分を落札してくれと司から渡された。
そして二人は司の希望なのだから叶えてやるのが恋人の役目であり友人の役目だと心得ていた。

やがてオークションが始まり数人の若い企業経営者たちが落札され、ステージを去り、最後の目玉と言われる司の番がやって来たが、タキシードを着た司が登場すると黄色い歓声とため息と何とも言えない声が口々に漏れた。そして司会者が、

「こちらは道明寺ホールディングス日本支社支社長の道明寺司さんです。いくら出しても惜しくない男性です。本日の目玉です。こちらの男性と1日デートが出来る権利は誰のものに?!さあ皆さん!どうぞ値段をお示し下さい!」

と叫んだ途端、あちこちから手が上がり天文学的な数字が示された。
そしてその金額はどんどん上がり、まるで海外の有名画家が描いた絵画のような値段を付け始めた。

「まあねぇ。司とデートが出来る権利だもんねぇ。いくらお金が掛かっても欲しいわよねぇ。もしあたしがまだアイツのことが好きだったらこれくらいは平気で出してるわね。それにしても司のオークション。他の男達とは全然熱気が違うわよね。何しろ類くんも西門さんも美作さんもいないんだもん。F4が全員揃えば、それはそれで面白い催しだったと思うけど、うまい事逃げたわね。その分みんな司に集中してるから目の色が違うのよね!いや、ホント傍から見てると本当に面白いわ!それにあの司の顔見てよ!こっち睨んでるわよ!あたしたちが金額提示しないから怒ってる!あの顔見て!久し振りにアイツの青筋見たわ!でもそろそろアイツを落札してやらないと、本当にどこかの女に落札されちゃうわね。で、幾らにする?」

滋はそう言って隣に立つつくしを見た。

「…..滋さん。いいんじゃない?」

「え?何?」

「あのね滋さん。一度くらい他の女性とデートしてみるのもいいんじゃないかと思うの。それにこれはチャリティーでしょ?だから世の中のためにこのお金が使われるならいいと思うの」

「なに言ってんのよつくし?あんたがお金を払うってもそれは司のお金でしょ?
それにあんた自分の彼氏が他の女とデートしてもいいって言うの?それに見て見なさいよ!今一番高い値を付けてるのは、ムラサキの髪の毛のおばさんじゃなくてあの若い女よ?パパのお金を好き放題使うことが出来るあの女。司のことを狙ってるのよ。あんな女が司の傍にいてもいいの?いい訳ないでしょ?ほら、そろそろ落札してやらないと本気で怒るわよアイツ。でもさ。アイツが見世物になるってこんなに面白いとは思わなかったけどね」

滋はステージの上から自分達を睨む男に笑いながら大きく手を振ってみせたが、男は酷く恐ろしい顏になって彼女を睨んでいた。

「滋さん。だってこれはお母様から言われたことでしょ?それに道明寺が道明寺司として果たさなければならない義務だと思うの。お金のある人間が社会のためにお金を使うことはいいことでしょ?その為に少しくらい犠牲になるのは仕方がないと思うの。それに道明寺から預かったお金も寄付すればいいでしょ?」

「ちょっとつくし。アイツあんたに落札されると思ってるから出た訳で、もしそうじゃなかったら絶対に逃げてる。宇宙の果てまで逃げてるはずよ。だってたとえビジネスでも他の女と1日中一緒にいたことないでしょ?あたしは慣れてるっていうか、女として見てないから一緒にいてもいいみたいけど、他の女と1日中一緒にいることが耐えられると思うの?それにつくし、本当にいいの?」

そんな二人の会話をよそに、ステージの上では司会者が飛び交う金額に応えていた。

「さあ皆さん!道明寺さんと1日デートが出来る権利ですよ!一生に一度のチャンスです!もう二度とこのようなチャンスはありません!さあ。金額をおっしゃって下さい!」

すると女たちが口にする金額は益々跳ね上がり、天文学的な数字はさらに値を上げた。

「はい!それでは決定しました!道明寺さんとの1日デートする権利はそちらのご婦人に決定です!」






オークションが終り、控室の椅子に腰かけた司の前に現れたのは、ムラサキの髪の毛の女。

「司さん。よろしくね。私のことは順子って呼んで」

自分の母親とさして歳の変わらないその女性は香水の匂いをプンプンとさせ、彼の手を取ったが、濃厚過ぎるその匂いに吐き気を覚えそうになっていた。

「あらいいのよ、遠慮しなくても。順子って呼び捨てで。私、あなたとキス出来るなんて夢みたいよ。ほら。遠慮しなくてもいいのよ。キスしていいのよ」

首に派手なネックレスを巻き付けた年老いた女は、そう言って司に迫って来たが司は厭だった。自分の母親ほどの女とキスをするなんてとんでもない話だった。
だが女は司の手をしっかりと握り離そうとはしなかった。そして司はまるで金縛りにあったように身体が動かなかった。
そして何故か声も出なかった。

「まあ司さん。緊張しているのかしら?いいのよ。そんなに緊張しなくても。私がリラックスさせてあげるわ」

そう言った女は司のタキシードの上着を脱がせ、タイを外し、シャツのボタンをひとつひとつ外し、カマーバンドを慣れた手つきで外し床に落とした。
止めろ。止めてくれ。
この状況は何時だったが夢の中で類に迫られたことがあったが、あの時の状況と似ていた。
だが何故自分がこんな状況に追い込まれているのか分からなかった。

「あら素敵。あなたのこの若さは私には無いものだけど、今日一日は私のもの。ねえ司さん、キスして頂戴」

女はそう言って司の唇に真っ赤に塗られた唇を寄せて来た。
そして司に迫り来る顏はムラサキに染められた巻き毛に覆われていて、やがて唇に感じたのは、冷たい感触とぺちゃぺちゃという音。





ぺちゃぺちゃ?


「ワン!」

「あ~ごめんね司。順子ちゃん司のことが好きみたい。司ってよっぽど犬好きな顔してんのね。いやそうじゃないわよね。動物のメスは全部司のことが好きになるんだもの。ホント。霊長類最強のイケメンって司のことね!」

ソファで横になっていた司の身体の上に乗っていたのは、滋が連れて来ていた頭の毛をムラサキに染めたトイプードル。小さな犬は司の上で彼の顔を舐めていた。

「……滋。なんで会社に犬連れて来てんだよ!」

「え~。だって独りで車の中に残すのは虐待よ。それに順子ちゃん寂しがり屋だし、司のこと大好きだし。会わせてあげようと思ったのよ。それでさ。例のパーティーのことだけど、どうする?やっぱりあたしが司を落札しようか?だってチャリティーだからつくしは絶対に落札しないわよ。でも本当は司が他の女とデートすることは厭だと思うの。でも言えないのよね。あの子は人助けになることなら喜んで犠牲になる子だから」

そうだ。
司もそれを分かっているから滋に頼んだ。
そして司は滋に金を預けると言ったが、必要ない。私も寄付したいから寄付するのであって、司がオークションにかけられるという名目で寄付することが面白いと言った。

そして勿論司も金を出すつもりだ。
人の役に立つことをしたい。
まさか自分がそんなことを思うようになるとは思わなかったが、それが企業経営者の義務だと考えられるようになっていた。

「でさ。あたしが司を落札したら、司とデートする権利はつくしにプレゼントするから、その日はつくしの言うことを訊くのよ?つくしが司を落札したことになるんだからね。まあねぇ。そうは言っても司のことだから文句なしにつくしの言うことは訊くんだろうけど。その日一日は、文字通り犬になってつくしの言いうことを何でも訊いてあげること。あの子。ああ見えて色々と無理してることもあるんだからね?」

「ああ分かってるつもりだ」

司は滋が言いたいことを理解していた。
今では週刊誌に書かれることは滅多にないが、それでも司について根も葉もないことが書かれることがあった。それはどこかの企業のご令嬢と付き合っている。一緒に歩いているところを見たといった話から、婚約したといった話が書かれることがあった。
だがそれは全てが嘘であり、週刊誌が書くことは全部デタラメなのだが、彼女を傷つける事もあった。だからその埋め合わせをするための1日が欲しかった。

「ほら。じゃあさっさと準備しなさい。急なことだけどパーティーは今夜よ。でもつくしの準備は出来てるから心配しないで。うちの車の中で待ってるから拾ってあげて。それから、西田さんがギリギリまで知らせなかったのは、司が逃げると困るからなんだけどね!
それから司がつくし以外の女性とたとえチャリティーだとしても一緒に過ごすことが出来ないってことは小母様もご存知よ!それから今夜はドーンと寄付するから心配しないで!だから司はつくしのものだからね!」







寄付をするという行為は売名行為だと言われ、日本に根付かないと言われているが、大河原も道明寺も違う。何しろどちらの会社も今更名前を売る必要がない知名度を持つ企業だから寄付することに名前を伏せることはない。むしろ名前を出し、他の企業からの寄付を煽るではないが、寄付をすることが偽善だという考え方を無くさせようとしていた。

それにかつて日本にはボランティアという概念が無かった頃があった。
だが今ではボランティアという言葉はごく当たり前のように使われるようになった。
アメリカでは幼い頃からボランティアをすることが当たり前だと教育を受ける。
それは大切なことはみんなでやっていくべきだの精神からだが、司はその教育をアメリカ人の英語教師から訊かされたことがあった。だがその頃は偽善だと思っていたが今は違う。一人で出来ないことも大勢の人間が集まれば違うということを知っている。

そして他者には寛容であれと教えてくれたのは牧野つくしだ。
心が広くて他人の言動を受け入れる。だがそれが仇になったこともあったが、概ね上手くいっているのは、彼女の人徳がそうさせるのだ。

そんな女に夢中になって早ン年。
夢中というよりも中毒だ。そしてこの中毒を緩和する薬は無い。
だが無くて結構。緩和される必要ない。
永遠に牧野つくしに夢中でいたい。中毒でいたい。
そんな男は執務室の扉を開けると彼女が待つ車に向かって廊下を走り出していた。




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2018
09.09

金持ちの御曹司~日曜日の恋人~

大人向けのお話です。
未成年者の方。またはそのようなお話がお嫌いな方はお控え下さい。
*******************************








黒のスーツに銀ブチのメガネ。
髪はビジネスマンの典型的な髪型である七三分け。
だが癖のある髪は言う事を訊かず、ストレートにされていた。
そしてその姿は一見するとやり手の証券マンのように見えるが、それはオーラを消そうとした司の姿。だがそんなことで簡単に彼の存在が消えることはないのだから、無駄な努力と言ってもいいはずだ。
そんな司の姿を見た愛しい女は、「西田さんみたい」と言って笑った。

司は何も好きでこんな恰好をしているのではない。
だがたまには秘書の気持になって物事を考えることも必要だと言ったのは、愛しい女だからこんな恰好をしたのだ。
そしてこれは自己暗示をかける為であり、自分が秘書ならどんな行動をとるかということを考えたら、このスタイルになった。だが愛しい女には笑われ、本物の西田には怪訝な顔をされ、髪はすぐにいつものスタイルに戻した。とは言え癖の強い髪がストレートな状態でいるのは数時間なのだから、あとはメガネを外すだけでよかった。


先週の日曜は取引先の重役とのゴルフに行った。
そしてさっさと終わるつもりでいたが、相手重役が下手クソでバンカー(砂が敷き詰められた窪み)に入れるは、池ポチャ(池に打ち込む)するわ、オービー(コースを外れる)を連発するわと散々な腕前で思ったよりも時間がかかりイライラした。

そしてその状況に、これはゴルフ以外のことを考えた方がいいと、つくしのことを考えていた。
それは、つくしがキャディーバッグを抱え18ホールを付いてまわる姿。
キャディーの仕事と言えばクラブをきれいにし、汗をかけばタオルを渡し、乱れた芝を直すといったことが仕事。だがそれだけでは楽しみがない。
もし牧野つくしがキャディーだったら。











「フォアー!!!」

球がそっちへ飛んで行くから気を付けてという意味で叫ばれるフォアの掛け声。
司の場合ヘマはしないのだが今回は特別。何しろ牧野つくしがキャディーとなれば、コースを外れ彼女と球を探すため林の中に入りたかったからわざとミスショットをした。
そして林の中ですることはと言えば___






「…..おかしいですね。球は確かこの辺りに落ちたはずなんですが…」

「ああ。そうだな。確かこの辺りに飛んだと思ったが、見当たらねぇな」

実は司は直ぐに球を見つけていた。だがそれをそっとポケットの中に入れ何食わぬ顔で球を探すフリしていた。

「まさか鳥が咥えていったとは思えませんが、もしかするとどこかの穴に落ちたのかもしれませんね?」

「穴?」

「ええ。この林の中にはモグラやウサギのような穴掘り動物がいますから彼らが掘った穴に落ちたのかもしれませんね?」

司は動物の掘った穴などどうでもよかった。
同じ穴なら別の穴の方が気になっていた。
それは自分の前で腰をかがめて白い小さな球を探す女の後ろ姿にムラムラとしているからだ。
そしてゴルフ場のキャディーと言えば、年を取った女といったイメージがあるが彼女は新米キャディーと訊いている。
それなら新米キャディーにキャディーとしての仕事を教えてやろうと思った。

「牧野さん。ボールはあの木の辺りに飛んだのかもしれない。あの辺りを探してみないか?」

「え?ええ….そうですね。もしかするとあの辺りに飛んだのかもしれませんね」

司がそう言うと女は大きな木の根元の辺りを探し始めたが、腰を司に突き出した格好は男の欲望をそそった。目の前の腰は彼の両手に余る細さだが司を受け入れるには十分で、まるで司に掴んで欲しいと言っているように思え荒々しい欲求が湧きあがっていた。
だから司は女の背後に立った。
そして腰に腕を回し素早い動きで細い身体を縋るような形で目の前の木に押し付けた。

「道明寺さん?!どうしたんですか?!」

いきなり木に向かって身体を押し付けられた女は自分の身に起きていることが直ぐに理解できないのか。それとも司が何かするとは思っていないのか。慌てた様子はなかった。

「牧野さん。俺は牧野つくしが欲しい。ここでお前が欲しい。あんな親父どもとゴルフをするよりお前を抱き合いたい。はじめて見た瞬間からお前が欲しかった」

女の耳元に顔を寄せた男はそう言って逞しい身体を彼女に押し付けた。

「なっ…何をおっしゃってるんですか?!ど、道明寺さん?!」

司に身体を押し付けられ後ろを振り返ることが出来ない女は、木に向かって喋るしかなかったが、やっと自分が置かれた状況が理解出来たのか。身体をよじって逃げようとした。
だが司から全身を使って木に押し付けられた女は身動きが取れなかった。
そして押し付けた司の身体はいきり立っていて、下半身は彼女を求めていた。

「分かってるはずだ。それに何をって決まってんだろ?」

司は女が着ているキャディーのピンク色の制服のウエストがゴムになったズボンに手をかけ下着と共に引きずり下ろし、さらけ出されたまろやかな白い双方に喉がゴクリと鳴るとしっかりと腰を掴んだ。そして自身の腰を動かし硬くそそり立った部分を押し当てた。

「止めて!駄目です。こんなこと…..プレイの途中です!それに誰か探しに来ます!」

「プレイなんぞ後でいい。それよりこっちのプレイが先だ。それに心配するな。あの親父どもは探しになんか来ねぇよ」

「駄目です!道明寺さん!止めて下さい。こんなこと__はぁ….アッん!」

ゴルフ場の林の中。下半身を裸にされ木に縋る形で腰を後ろに突き出した女は、強い力で囚われ逃げたくても逃げられず、太腿の間に司の指が入れられ柔らかく敏感な場所を上下に撫でると濡れはじめた。そして更に奥へ指を入れると、短い悲鳴と共に柔らかな肉の襞が男の指を締め付けた。

「駄目なものか。感じてるじゃねぇか」

司はからかうように言うと、指を抜き、今度は二本の指を挿し入れ緩急を付け抜き差しを始めた。すると濡れたそこは二人の耳にも十分届くほどの音を立て始めた。

「ほら見ろ。どんどん濡れて来る。お前のここは俺が欲しいって言ってる。俺もお前が欲しくてゴルフどころじゃなかった。だから今すぐお前が欲しい。お前を味わいたい。お前の中に入りたい。お前を堪能させてくれ」

司は言いながら女の中が十分潤ったことを確認すると、指を抜き、細い腰を掴み、突き出された柔らかな双方にキスをした。
そしてズボンのファスナーを下ろし、前を寛げると一気に身を奥へと沈め腰を強く動かしていた。

「ああっ!……あッん!……ぁあ!」

「どうした?感じてるんだろ?言えよ…..いいって。もっとしてって」

司はそう言って女の濡れた奥深くに根元まで埋めながら、激しく腰を振りペニスを突き立てたが、それは独占欲の表れであり渇望。もっとという言葉が訊きたいのは我を忘れた女の姿が見たいという表れ。そして身体の奥から湧き上がるのは、この女は自分のものだという思い。
だから女に与えたいというよりは、全てを搾り取りたい。この身体から流れ出るものは全て司のもので、交わった瞬間から彼女を手放すことは出来ないと感じた。

「ああっ!ダメ…止めて…」

だが司は止めることなど出来なかった。
頭をのけ反らせ激しく突いては貫き、うめき声を上げ彼女の名前を呼んだ。

「クソッ….そんなに締め付けんな…」



「そうですか。スィングする時は左脇を締めろと言われているんですが、締め付け過ぎも良くありませんか?」

「………..」

「いえね。私はいつも言われるんですよ。左脇を締めろって。でも道明寺さんに言わせれば締め付け過ぎは良くないんでしょうか?いやぁ。それにしてもゴルフは奥が深いですな。はははっ!」


ゴルフのプレイの途中で別のプレイを考えた男は、相手の余りの下手さに辟易していた。
そしてプレイは長引き、結果として別荘で待たせていたつくしの元へ辿り着いたのは陽が傾いた頃だった。





***






最近の司は牧野つくしが勧めるものなら一応なんでも口にすることに決めていた。
それは、彼女が心を込めて作ってくれた料理もだが、社員食堂では本日のお勧めランチを食べると言う彼女の行動に触発されたというのもあり、時に社員食堂の料理を執務室へ運ばせていた。

そして最近牧野が嵌っているという食べ物はサバ缶。
もともと庶民の魚で比較的安価で手に入るその魚が好きだと言っていた牧野。
いざという時のために置いてあるというが、ドコサヘキサエン酸、通称DHAが健康にいいとテレビでやっていたという理由もあった。
最近ではサバ缶がツナ缶の売り上げを抜いたのよ。と言っていたが、司の家で缶詰料理が出て来たことはなく、缶詰は缶詰でありサバ缶ツナ缶と言われてもピンと来なかった。
そしてサバ缶にも色々と種類があるらしく、中にはサバカレーという代物もあるらしい。
だが司は食べたいとは思わなかった。それにカレーは本場インドのカレーと決めていた。

酒も笑いも百薬の長と呼ばれるが、スパイスも身体にいいと言われている。
特に辛いものは血流を良くし身体を暖めると言われ、取りすぎは良くないが適度な刺激ならいいと言われている。
司は刺激されるのは好きだ。特に牧野つくしのことを考えるといつも刺激的なことが頭を過るが、いいところで邪魔されるのが常だ。
現にゴルフ場で頭を過った刺激的な光景も、重役ジジイに邪魔された。

それにしても、牧野がそんなにサバが好きだとは知らなかった。
それなら水産事業を専門にする会社を買収してもいいと思う。
そこでサバの水揚げを専門に行う部門に集中的に投資をするという手もある。

そしてつい先日偶然類に会い牧野が最近サバ缶に嵌っていると話をしたが、

「フランス語でサバって元気かって意味だけど牧野この前俺に会ったときサバって言うからサバって答えたけど、あれ意味が違った?」

そんなことを類は言ったが、類のことはどうでもいい。それに類は他人の話を訊いているようで訊いていなかったり、またその逆もありで自分が興味のないことには極力体力を使わない男だ。そして類は、あいつの目の前でぺちゃくちゃと小さな口を動かし、それに身振り手振りが付く牧野の姿を眺めているだけでいいのだから、サバだろうがツナだろうが関係ないはずだ。

そして司は、伊豆の港で上がったばかりの新鮮な魚を目の前に嬉しそうな顔をしている女に満足だった。
それに修善寺の別荘の夜はこれからだ。
魚を堪能した女を堪能する。それが今夜の司の楽しみで日曜日の恋人は司にとって眩しい恋人。彼女がいるから明日からも頑張れる。
だって愛している人は、いつも彼のことを思ってくれているから。

「ねえ。これ凄く美味しんだけど。食べてみる?」

と言って笑った顔が彼にとってのパワー。
その笑顔がいつまでも彼に向けられることが望み。
そして司の口元に運ばれるのは伊豆らしく金目鯛の煮付け。

「ああ。喰わせてくれ」

と言ったが近づいて来た箸を避けた。
それは彼女にキスをしたくなったから。
そして司は身を乗り出しキスをすると、煮付けを口にしたが美味かった。
今までどちらかと言えば、魚の煮付けは苦手だった。だが今では美味しいと感じられるようになったが、それは愛しい女の影響なのか。それともそれは年を取ったせいなのか?
だがそれはどちらにしても、好きでもないものを、好きなふりをしない男の本心だった。





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2018
09.02

金持ちの御曹司~OL KILLER~

牧野つくしのことで心がいつも忙しい男は、その目線だけでOLをメロメロにすると言われていた。
そんな男も高校生の頃は殺傷能力を感じさせる表情が浮かんでいたことがあった。
だが今の男は、癒される男を目指していたが、それはもちろん牧野つくし限定だ。
そしてそんな男は、廊下の曲がり角で女性社員の会話を耳に挟んだ。


「ねえ、うちの会社って大きすぎて社員旅行がないけど、もし支社長が社員旅行に行ったとしたら、どんな宴会芸をすると思う?」

「やだ。何言ってんのよ。支社長が芸なんかすると思う?それって無茶ぶりもいいところよ。だいだい支社長が社員旅行なんかに行く訳ないじゃない」

「やっぱりそう思う?」

「そうよ、だってよくある温泉地に支社長がいると仮定して、そこで露天風呂に浸かってる姿を想像してみなさいよ?もうそれだけでテンション上がるわよ?だって社員の誰も支社長の裸を見たことがないんだもの。そりゃあもうそのお身体拝見じゃないけど間違いなく殺到するわね。それに旅館の浴衣を着た支社長の姿なんてもうレア過ぎて、倒れる社員続出すること間違いないわよ?」

「確かに!支社長の浴衣姿!もうヨダレものよね?なんかさぁ、胸なんて肌けちゃって、おみ足が裾から見える姿もだけど、腰に巻いた帯がスルって解かれたら….下着付けてなくって…..キャー!」

「ちょっと声が大きいってば!でもさ、噂では支社長の下着はパープルかヒョウ柄って話しだけど、あんたが悲鳴を上げたくなるのも分かるわよ。だって確実に鼻血ものだもの!」



司はその話しを訊きながら温泉と言われ思い浮かんだのは、高校時代。
滋に連れて行かれた大河原家の別荘。だがあれにはいい思い出がなかった。何しろ好きでもない滋にのしかかられ求められた。
そして後で話しを訊けば類と牧野が同じ布団で寝たが何もなかったという。そんな二人の関係に頭を捻ったのは司だけではなかった。だが二人の関係が間違いなくプラトニックだったのは、身をもって証明されたが、とにかく温泉というものには、あれから行ったことがなかった。

「温泉か…..」

執務室へ戻った司は、そう言えば修善寺の別荘には露天風呂があったことを思い出していた。
これからの季節。涼しくなれば二人で露天風呂に入り、星の煌めきを眺めるつくしを後ろから抱きしめ、いい雰囲気になってきたところでそのまま繋がる。そして湯の温かさ以上に身体を燃え上がらせ一気に昇天......。
だがそれは余りにも平凡だ。
もっとドラマティックな何かが欲しい。








「道明寺様。お湯加減はいかがでしょうか?」

「ああ。いいね。丁度いいよ」

「そうですか。それはよろしゅうございました。では浴衣はこちらに置かせていただきますので、どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ」

「申し訳ないんだが確かそこにシェービングクリームとカミソリがあるはずだが、取ってくれないか。いや。中で剃ろうと思ったんだが持って入るのを忘れてしまってね」

そこは、伊豆の山奥に一軒だけある小さな温泉旅館。
母屋を中心に露天風呂付の離れが四つ広い庭に点在していて、隣の離れまでかなりの距離があった。そしてそれぞれの離れは、孟宗竹に取り囲まれ一見してそこに建物があるとは思えない作りになっていた。

そして隠れ家的存在のそこは、部屋の数からしても宿泊客は一日四組しかないのだが、知る人ぞ知る場所と言われていた。
そんな宿を訪れるのは、芸能人カップルや何らかの理由でひと目に触れたくない男女。いわゆる不倫カップルや静かに執筆活動に励む作家。そして企業のトップや政治家が訪れることもあるという。

司がここを訪れたのは、修善寺の別荘が改築中で使えなかったから。
そして初めてここを訪れた司は、用意されていた浴衣の丈が短いことに気付き、変えてくれないかと電話をして風呂に入った。そして新しい浴衣が届けられたようだが髭剃り道具を持って入ることを忘れていた。


「カミソリですか?少々お待ち下さいませ」

そして露天風呂に繋がる掃き出し窓を開け現れたのは、仲居ではなく宿に着いた時挨拶に現れた女将だったが、可愛い人だと感じた。今まで恋をしたことがない男の前に現れた女性は彼の好みのタイプだった。そしてその女性が現れたことに、胸をズキンと走るものがあった。


「道明寺様。浴衣の件では大変失礼いたしました。一番大きなサイズにお取替えさせていただきました。それからカミソリはこちらでよろしかったですか?」

湯に浸かった司に差し出されたカミソリは、使い切りカミソリではなく、理容室で使われているような本格的なカスタム使用と呼ばれるオーダーもの。髭が濃いと言われる男の髭剃りは、電動シェイバーでは剃り残しが感じられ満足がいかなかった。だからオーダーで自分の肌に合う髭剃り用カミソリを作らせていた。

「ああ。すまないね」

と答えた男は、カミソリを受け取るため湯から手を出したが、掴んだのは彼女の手だった。
そしてカミソリはカランと音を立て御影石が敷き詰められた床に落ちた。

「女将さん。私は先ほどあなたにお会いした瞬間。あなたを好きになりました。それにあなたとはどこかで会ったことがあるような気がする。とても初めてお会いしたとは思えない。女将さん。あなたはマキノさんと仰いましたよね?マキノさん。以前私と会ったことはありませんか?」

司は今から15年前。高校3年生の頃、暴漢に刺され意識不明の重体に陥った。
以来、記憶の一部を失った特殊な記憶喪失患者だと言われていたが、本人は失われた記憶があるとは思ってもいなかった。
だがそんな男の前に現れたマキノという女性が彼の記憶の奥深くにいる誰かの姿に似ているように感じていた。だが彼女が一体誰なのか。何故司の記憶の奥深くにいるのか分からなかった。そして今の思いは、マキノという女将に好意を抱いているということ。
つまり彼女が欲しかった。彼女の中に入れば、温もりを感じれば失われた記憶と言われるものを取り戻すことが出来るような気がしていた。

「…..道明寺…..さん」

司は小さく呟かれた自分の名前に掴んでいた彼女の手をギュッと握った。
そして立ち上ると、裸の司に驚いた様子で見つめる彼女を抱上げ素早く部屋の中に運び、畳の部屋とは別の部屋に設えられたベッドの上へ下ろし、濡れた身体からポタポタと雫を垂らしながら彼女の身体を跨いだ。


「女将さん。いやマキノさん。私はあなたが好きだ。あなたとは会ったことがあるような気がする。だが思い出せない…私たちは過去に会ったことがあるはずだ。それはあなたの中に入れば分かるような気がする。私はあなたを知っている気がする。いや気じゃない。知っているはずだ。あなたとはどこかで会っている。それが遠い過去のことならそれを思い出したい」

司は女将の着物の袂に手を差し入れようとした。

「駄目です!止めて下さい!私はお客様とそのようなことは致しません!道明寺様!止めて下さい」
組敷いた女は激しく抵抗し、目から涙が零れた。
「私は結婚しています。夫のいる身です。たとえ過去にあなたと何かあったとしても今はもう関係ない.....」

「結婚している?誰とだ?誰と結婚している?相手は誰だ?今過去と言ったよな?俺とお前は過去に接点があったんだな?お前は俺を知っているんだな?なあそうなんだろ?」

彼女の口から結婚しているという言葉が出た途端。司はカッとなった。
そして思わず彼女の首に手をかけ、強く締め付けていた。

「一体誰だ?誰と結婚している?この宿の亭主か?」

司は言いながら更に強く締め付けた。
すると、やめてと言って苦しそうに顔を歪め司の腕を掴んでいた白い手が、ぱたんとシーツの上に落ちた。
そして乱れた着物の袂から覗いた白い肌の上に輝いているネックレスが目に止まった。
それを見た瞬間。司は手を離した。そして狂ったように叫んでいだ。
それは彼が15年前に彼女に贈ったものだった。







「おい!なんで俺があいつを殺すんだよ!いや。殺してなんかねぇぞ!ただ気絶しただけだ!それになんで俺が15年もあいつを忘れてんだよ!ンな訳あるわけねーだろうが!」

司は目覚めた瞬間、冷や汗をかいていた。
そして自分を罵ると、頭を激しく執務デスクに打ちつけたい思いでいた。
暑さで脳みそが腐ったんじゃないかと本気で思った。
そして西田を呼び、どうかした頭を冷やすため言った。

「西田!バケツ一杯に氷を入れて持って来い!」









司は執務室の窓から灰色の空を見上げていた。
そして今司が考えるのは、明日雨が降ればいいのに、ということだ。
日曜はいつもつくしとデートすると決めているが、忙しい司はそうそうデートをすることは出来なかった。
何故なら明日の司は伊豆で取引先の重役とゴルフの約束があった。
緑の芝の上で小さな球を打つスポーツに、しぶしぶといった形だが参加せざるを得ないのは、ゴルフは大人の付き合いであり、重役のたしなみだからだ。

だが行きたくなかった。つくしと一緒に過ごしたかった。
それに小球をクラブ(打棒)で打ち、ホール(穴)に入れるなら、つくしとヤッてる方が良かった。

それにしても何故あんな恐ろしい夢を見たのか。
もしかするとあの夢はゴルフに負けたくない取引先の重役が見させたものなのか。
そんなことを考える男は、彼女にメロメロだ。

「クソッ。いっそのことすっぽかすか?仮病でも使うか」

いや。だがそんなことをすればつくしに怒られることは間違いない。

「約束を破るということは、嘘をつくことと同じくらい信頼を損なう行為なのよ」と言って。

そうだ。それなら彼女も一緒に伊豆に行けばいい。
司のゴルフが終るまで修善寺の別荘でのんびり過ごせばいい。
そして当初頭を過った思いを実行すればいい。
それは満天の星を見上げながら露天風呂に浸かり、身体がいい感じで温もったとき、後ろから抱きしめていた身体を持ち上げてこちらを向かせ、ゆっくりと繋がること。
いや。後ろからだったか?ま、どっちでもいいか。
とにかく明日の司は、支社長としての義務を果たし、牧野つくしとデートすることに決めた。
そして会社では落ち着いてみえるがアゲアゲが基本の男は、マイナス思考をとっとと捨てると彼女に電話をした。


「牧野?俺だ。____ああ。分かってる。ゴルフだろ?行くよ、行く。すっぽかさねぇから。それより温泉の話。明日真面目にゴルフに行くからお前は別荘で待っててくれ。___ん?そうだ。ゴルフはさっさと終わらせる。俺が本気出せば全部ホールインワンだ。____ああ。任せろ。18ホールなんてあっという間に終わらせてやるよ」

ボールをより正確に目的地に飛ばすことが出来る人間が勝者となるスポーツ。
バスケも得意だがゴルフも得意な男は、スポーツは誰にも負けない自信があった。
そしてスポーツ以上に得意なのは愛する人を文字通り全身全霊で愛することだ。

フランスでは愛し合った後に落ちる短くて深い満ち足りた睡眠を「プチ・モール」(la petite mort)というが、それは「小さな死」という意味。
そしてOLキラーと呼ばれる男が、その小さな死を一緒に迎えたい相手は牧野つくしだけ。
愛する人と迎えるトロトロとした柔らかな眠りは何度でも経験したい眠り。
だから明日のゴルフは何がなんでも早々に終わらせて、彼女の温かい腕の中に飛び込んでやると誓っていた。





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2018
06.24

金持ちの御曹司~Between the Sheets~

大人向けのお話です。
なお、こちらのお話しは著しくイメージを損なう恐れがあります。
未成年者の方、またそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
******************************









妖美な大人な男が時折見せるキラキラとした表情というのは、傍からみて微笑ましい思いがする。それは司がひとりの女性のことを思い、自分の世界に深く浸っている時に見せる表情。
だがそれを見ることが出来るのは、秘書か彼の友人だけなのだが、彼らも時にマジかそれは。と言ったこともある。

そしてそんな男にエロ可愛いとエロかっこいい。どっちの言葉がいいかと問えば、それは牧野つくし次第と答えるはずだ。だが司はエロかっこいいと言う言葉が気に入っていた。


跨ってもいいか?
挟んでもいいか?
動いてもいいか?
この言葉だけ訊けば何を想像する?

絡まってもいいか?
舐めてもいいか?
奥深くなってもいいか?
この言葉だけでイキそうになるのはどんな痴態を想像する?
そしてピストン運動、上下運動という言葉に反応するのは誰だ?

もちろんその言葉の全ては牧野つくしに向けられていて、二人だけの甘い夜といったものが司の望みを叶えてくれる。
だがその甘い夜の行為に入ろうとする時間。深夜枠で放送されるドラマに牧野は嵌っていた。

女というのはテレビドラマが好きだ。
だがそんなものは架空の物語であり絵空事だ。
どうせドラマにするなら自分たちの高校時代の事を物語にしたものを見る方が余程楽しいはずだ。だが二人にとっては、楽しいだけじゃない事もあった。


そしてあいつが嵌っているドラマとは。
主人公は30代の男が二人と50代の男がひとり。
年齢的に言っておっさんと呼ばれる年齢の男達が繰り広げる恋愛ドラマは、30代の男と50代の男が30代の男を取り合う話だ。
つまりそれは、男同士の恋愛を描いた話。

司は生まれながらの性に囚われない生き方を世間がとやかく言うことではないと思っている。それは出自にも言えることであり、金持ちであろうが、貧乏だろうが、家柄がなんであろうと恋をした者同士の気持がひとつになればそれでいいはずだ。

それにニューヨークではごく当たり前に受け入れられていたことであり、年に一度LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の祭典といったものもあり、彼らのシンボルである虹色の旗が掲げられ声高に愛を叫ぶが、恋愛はどんな形でもあり得るものだと思っていた。
だから司はそんなドラマを嫌悪することはない。それにつくしが楽しみにしているドラマなら、そのドラマが終るまで待つつもりでいた。
だが深夜枠の1時間は長い。疲れが溜まっていた男は、ソファでいとしい女の隣に座りウトウトしはじめていた。








司は世田谷の邸の東の角部屋にいた。
だがさっきまでそこにいたはずのつくしはおらず、手あたり次第に彼女を探して扉を開けて歩いていた。

司は世田谷の邸にどれ程の部屋があるのか知らなかった。
そして邸の中には入り組んだ迷路のような場所もあり、もしかするとつくしは迷子になったのではないかと思った。

「牧野!どこにいる?」

そう言いながら部屋の扉を開けて歩いたが、つくしは見つからなかった。
そして暫く探し歩いたが、やはり見つからず角部屋に戻り扉を開けた。
するとそこには総二郎とあきらがソファに座っていた。

「何だ。お前らか。どうした何か用か?」

「なんだよ。用がなきゃ来ちゃ駄目か?」

総二郎はそう言って立ち上った。
するとあきらも同じように立ち上がった。

「なあ。司。俺たちお前に大事な話がある。それは牧野にも関係することだ」

「なんだよ。大事な話ってのは。それに牧野に関係あるってどう言うことだ?それより牧野を見なかったか?あいつさっきまでここにいたんだが、部屋を出て行ったきり戻ってこねぇ。だから探しに行ったんだがお前ら見なかったか?」

「ああ、牧野ならここに戻って来たが、帰ってもらった」

「そうだ。牧野には悪いと思ったがこんな話し。あいつは訊きたくねぇだろうと思ってな」

司は怪訝な顔して二人を見たが、親友二人がつくしに訊かせたくない話しというなら、重要な話のはずだ。何か大変なことが起こったのか。もしかするとここにいない類の身に何かが起きたのか。そうなるとつくしの耳には入れたくない話もあるのだろう。何しろ類とつくしは心の友だと言っているくらいで、類の立ち位置は司とはまた別の次元の話になる。
そしてそのことを司も認めていた。だから類の身に何かあったとすれば、つくしが傷付く事になるから二人はつくしを帰らせたのか。そんな思いから司は訊いた。

「おい。まさか類に何かあったのか?」

「いや。類は元気だ。あいつはパリで元気に暮らしてる」

「そうか。ならいい。それなら牧野を帰らせるって何があった?」

司は真剣な表情を浮かべた二人に訊いた。

「…..実はな、司」

と、まず口を開いたのは総二郎だ。

「俺とあきらはお前について話し合った。話すべきか話さないでこのままで行くべきかをな」

そして次に口を開いたのはあきらだ。

「司。俺と総二郎は長い間考えた。そこで紳士協定を結んだ。お前の幸せのためなら俺たちは犠牲になっても仕方がないってな。けどな。やっぱいざお前が牧野と結婚するとなると気持ちがざわつくんだ」

そこであきらは総二郎に視線を向け、二人の男は目を合わせた。視線は保たれたが、やがて二人は頷き合うと視線は司に向けられた。

「司、よく訊いてくれ。実はな。俺とあきらは昔からお前のことが好きだった。類も同じだったはずだ。けどあいつはお前と牧野の幸せを望んだ。だからパリで暮らすことに決めた。
パリの空の下でお前の幸せを祈ると言って身を引いた。けど、俺たちはやっぱ諦めきれねぇ」

「俺も総二郎と同じだ。お前を諦めることは出来そうにない。俺がマダムに走ったのは、母親と妹たちのせいだってことになってるが、実はお前のせいだ。お前のその冷たさが俺を不倫に走らせた。俺は子供の頃からお前に会うと心臓がドキドキして脈が速くなった。それにお前が女嫌いなのは、男が好きなのかと思ったこともあった。けど牧野に会ってお前は変わった。お前覚えてるか?高校生の頃、俺たち仲間で南の島へ行ったとき、俺がお前にカクテルを作って渡したのを。あのカクテルの名前はビトゥイーン・ザ・シーツだ。ベッドに入ってって意味で牧野に渡せって言ったが、本当はお前に飲ませたかった。あのカクテルは俺の気持だったんだ」

あきらの目には苦痛が宿っていた。
そして切々と訴える言葉には司に対する深い思いが溢れていた。

「俺もだ。俺は大勢の女と一期一会だと言って会っていたが、それはお前への気持を誤魔化すためだ。本気の恋はしない。女遊びはお前のことを忘れるためだ。どんなに美しいと言われる女を抱いてもお前の代わりにはならねぇんだよ…..司。俺が愛した唯一の人間は……司。お前だ。お前だけだ」

あきらと総二郎は、それぞれに自分たちの思いを告げた。
つまり二人は幼い頃から司を愛していたということだ。
そして総二郎は司に迫った。

「司。牧野と結婚するのは仕方がない。お前の心にはあいつしかいないってことも分ってる。けどその前にお前を抱かせてくれ。一度だけでいい。そうすれば俺もあきらもお前を諦めることが出来る」

総二郎はそう言うと、あきらと一緒に司の左右の腕を掴んだ。

「おい!止めろ!お前ら何考えてる!どうかしたんじゃねぇのか!離せ!おい!」

「悪いな司。俺たちの思いを受け止めてもらいたい。だからこうするしかないんだ」

あきらは言うとポケットからハンカチを取り出し司の口を塞いだ。









「さすが司だな。薬を含ませたハンカチくらいじゃ完全に意識飛ばすことは出来ねぇな」

「ああ。そうだな。コイツの意識を飛ばせるのは牧野だけだ。悔しいが俺たちじゃ司の意識を持ってくことは無理だ」

だが意識が朦朧としている男は力が抜けた身体を二人の男に抱えられると、ベッドへ運ばれた。

「…..ああ、司」
あきらが呻く。
「俺はどれだけお前のここにキスしたかったか….」
あきらは開いたシャツの襟元から覗くまっすぐで美しい鎖骨に唇を寄せた。

「あきら。俺だって司のこの胸にどれだけキスがしたかったか」

総二郎は司のシャツのボタンを外し胸の上部の輝く肌に唇を寄せた。

二人の男はそれぞれ魅力的で総二郎が凄腕プレイボーイと呼ばれる反面、あきらは癒し系マダムキラーと呼ばれていた。そしてそれぞれ得意な分野があるが、あきらのセックスは自分の満足よりも相手の満足を優先し、総二郎は自分も楽しみ相手にも楽しむことを求めた。
そんな二人が、いや類もいれて三人の男は幼い頃から一人の男を間に火花を散らしていたことを司は知らなかった。
そして類がいなくなった今、ふたりの男は一緒に司の胸を愛撫していた。

「….おい、やめろ二人とも….」

司は朦朧とした意識の中、なんとか声を上げた。

「嫌だ。俺はお前が牧野と結婚する前にどうしてもお前を愛したい。司。牧野には絶対に言わない。これは俺たちだけの秘密だ。もちろん類にも言わない。だから安心しろ」

あきらは言うと司の鎖骨に再びキスをした。
そしてふたりは人形の服を脱がすように司の服を脱がせた。シャツを取り、ベルトのバックルを外し、ファスナーを下ろし、ズボンを脱がせた。そして二人は裸になり司の黒のボクサーブリーフを脱がせると、あきらが司のペニスを軽く握った。そして手を上下に動かした。

「司。覚えてるか。まだ牧野と何も無かった頃。お前はこんな立派なモノを持っていたのに宝の持ち腐れだって言われたことを。けどな。俺はあの頃宝の持ち腐れでもいいと思っていた。本当はこれがどこかの女を喜ばせることになる前に俺を喜ばせて欲しかった」

「俺はお前を引き裂きたかった。お前のアヌスを俺でいっぱいにしたかった。女に突っ込むよりもお前の中に入れたかった」

総二郎は睾丸を弄びながらかすれた声で言った。

「ああ…司。お前の宝はこんなにデカい。これが俺に突っ込まれるところを何度想像したことか」

あきらは自分の手で大きくした司のペニスに興奮して呻いた。
そしてかがみこんで、自らの口で司の亀頭を咥えこんだ。

「…..う….っ…やめろ….あきら….」

だが司は薬のせいで身体の自由が効かず、あきらに腰をベッドに押さえつけられた姿勢で、短い黒髪が下半身で動いているのを眺めることしか出来なかった。
そしてあきらは、男だからこそ分かる弱点というものを上手く突いていた。先端だけを舐めたと思えば、喉の奥深くまで呑み込み舌先を何度も往復させ、根元から唇を滑らせ吸う。
そしてわざと音を訊かせるようにしながら、ゆっくりと執拗な動きを繰り返す。その度に司の腰が持ち上がりそうになり呻き声が上がる。

「…はっ….」

そして総二郎は、司の頭の後ろに回り上半身が動かないように肩を抑えていた。

「司。お前は牧野と幸せになればいい。けどその前に俺たちを幸せにしてくれ。一度だけでいい。二度目があるとは思ってない。だから今夜を俺たちにくれ。な?司?感じてくれ俺たちの愛を。お前に対する俺たちの愛は永遠だ。お前が恍惚に呻く顏が見たい。ただそれだけだ」

言うと総二郎は司に顔を近づけると唇に唇を寄せた。

「うっ….総二郎、や….めろっ!…..なに考えてんだお前ら…..どうかしちまったんじゃねぇのか!…..クソッ….あきら….やめろ…..やめてくれ!」

「あきら!もっと舌を使え!司がイキそうだ。お前のテクニックでイカせてやれ!」

総二郎はあきらに叫んだ。
その瞬間、あきらの動きは激しくなり、司の口は大きく開き、呼吸が早くなり、全身の筋肉がこわばった。
そしてその瞬間、司は歯を食いしばりながらイッた。












「うわっ!止めろ!なんだよこれは!」

司は一気に覚醒した。
気付けば、ソファの上でつくしの膝に頭を乗せていて、見上げればつくしは眠っていた。
そしてテレビの画面はとっくに消されていたが、悪夢を見たとしか言えなかった。
それにしてもまさか総二郎とあきらに襲われる夢を見ようとは思いもしなかった。
嫌な汗が額から流れたが、夢であって良かったという思いがまずあった。そして自分が今いる場所は、司のマンションのリビングのソファの上であること。そしてつくしの膝枕でいることにホッとしていた。

「….あれ司?目が覚めたの?」

そう言ってつくしは目を擦り、ぼんやりとした顔で司を見下ろした。

「ああ。なんかすげぇ厭な夢を見た」

「ほんとだ。汗びっしょりだね?熱とかないよね?」

と言って司の額に小さな掌を乗せた。

「うん。大丈夫みたい。それで厭な夢ってどんな夢だったの?」

そっと言いながら、小さな手がやさしく頭を撫でた。

「いや…..よく覚えてねぇけどとにかく厭な夢だった」

どんな夢がよく覚えているが、とてもではないがあきらと総二郎に襲われたなど話せる内容ではなかった。だからよく覚えてないと言ったが、目がわずかに泳いだことは間違いない。
そしてあんな夢を見たのは、見ていた男同士の恋愛ドラマの影響が大きかったのか。だがつくしは夢ってそんなものなのよね。目覚めるとすぐに忘れるものなのよね。と言って笑っていた。

そして口直しという訳ではないが、悪い夢を追い払うためには、いい夢を見ることが必要だ。
司はつくしを抱上げるとベッドルームへ向かったが、首に手を回してくる女は恥ずかしそうに頬を染めていたが、幾つになっても、何度愛し合っても頬を染める姿は、高校生の頃と変わらず愛おしかった。
そして上目遣いに見上げる姿は、彼女の得意な表情。
その表情に息が出来ないほどの愛を感じる。そして息が出来ないほどの愛とは、息継ぎが出来ない水泳のような状態を言う。
だが司は泳ぐのは得意だ。だから息が出来ないほどの愛はいくらでも続けることが出来る。
延々と牧野つくしという大海原を泳いでいたいと思う。

そして司はそれほどつくしを愛しているから、彼女を見るたび呼吸が早まる。
彼女だけに向けられる剥き出しの欲望は性的欲望。

「ねえ?それで本当はどんな夢見たの?あたしが覚えてるって訊いたら目が泳いでた。だから覚えてるんでしょ?ねえ。教えてよ?」

「言わねぇよ」

「そっか。言わねぇじゃなくて、言えねぇでしょ?あ!まさかイヤラシイ夢見てたんじゃないでしょうね?だから汗かいてたとか?」

「へぇ。訊きたいわけ?お前もしかして俺の夢にヤキモチやいてるのか?」

「ま、まさか。そんなことないわよ。夢を見るのは自由だもの。どんな夢をみようと構わないわよ?….でもそれにあたしが出てたら嬉しいけどね?」

「お前出てたぞ?でもさっさといなくなった。いつの間にか消えてた。言っとくけどな。俺の夢に出て来るんなら責任を持って最後まで出てろ。中途半端な登場の仕方をするな」

「そんなこと言われても….だって司の夢だもん。あたしの意志は関係なく出てるんだから、最後まで出て欲しかったら司がそう願わなきゃ出てられないでしょ?」

それはもっともな言い分で、どちらにしても愛しい人とは夢の中でも一緒にいたいと思う男は、我儘だがそれが司という男だ。
だからつくしも分かったもので、そんな男の態度にも馴れたものだ。
そしてベッドの上では素直になる女は、愛し合った後は恥ずかしそうにシーツの間に潜り込む。
その姿がまた愛おしくて何度でも愛し合いたいと思う。
つまり一晩中ということになり、翌日は身体中にキスマークを付けた姿でいるということだ。だが司も慣れたもので、明日が何曜日かということは頭に入れている。
そして明日は日曜日だということで遠慮するつもりはなかった。

耳を甘噛みして、首にキスをする。
つくしの身体はブルっと震えた。
そこから後は二人の間に愛してる以外意味のある言葉は交わされなかった。





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2018
06.17

金持ちの御曹司~禁断は蜜の味~

愛の才能は人一倍あると自負する男は、いつ鍛えているのかいい身体をしている。
そして裸にネクタイが似合うと言われる男は、社員たちの前に立つ時は当然スーツだが、見ている女性社員たちからすれば、脱がないストリップダンサーのように見えて仕方がない。
なぜなら、その立ち姿だけでセクシーだと言われるからだ。

そして彼女たちは想像する。
セクシーな支社長がスーツを脱ぎ、ネクタイを外し、シャツを脱ぎ捨て黒のブリーフではなく、Gストリング、いわゆる「ひもパン」と言われる卑猥な下着姿のストリップダンサーになって自分だけのためにセクシーなダンスを踊ってくれることを。
一輪の真っ赤なバラを差し出してくれることを。
そしてそのバラの花びらを裸になった自分の身体の上に散らしてくれるのを。
だがそれは女性社員たちの妄想であり司の妄想ではない。

だがセクシーという言葉は、まさに司のために用意された言葉だが、そんな男はどこまでも果てしなく妄想の世界に堕落していきたいと考えている。
しかし普段その世界は司の心の中の奥深くに仕舞われた箱の中にだけ収められているのだが、時々その思いが表に溢れ出てしまうことがある。そして運が悪いことに、そういった時に限って西田がそこにいる。ついこの前は、西田の手を握ってしまうという考えられない失態を犯してしまった。だがまだ唇でなかっただけよしとしよう。
もしその手を引き寄せていたらと思うとゾッとした。


ところで司の好きな食べ物のひとつにお好み焼きがある。
お好み焼きにも種類があると知ったのは、ここ数年の話。
関西風、広島風と色々とあるらしいが、司の知るお好み焼きとは、いわゆる混ぜ焼きと言われるもので、生地となる小麦粉を溶いたものにみじん切りにしたキャベツを混ぜ、豚肉やイカやエビといったものから好きな具材を入れて焼くものだ。
そんなお好み焼きを知ったきっかけは幼い頃、姉に連れられて行った縁日の屋台だった。

だがお好み焼きは単価の安い食べ物であり、司は貧乏人の食べ物だとバカにしていた。
しかし実はそれが食べたくて仕方がなかった。だから姉に食べたいと強請った。
すると姉はお好み焼きの作り方を学び、弟のために焼いてくれるようになった。
だが大人になり、お好み焼きから離れた生活を送っていたが、なんとつくしが司のためにお好み焼きを焼いてくれるという。
それは司が何気なく漏らした「お好み焼きが食べたい」のひと言によって叶えられることになった。

子供の頃よく食べたお好み焼きは姉が焼いてくれた。
そして大人になって食べるお好み焼きは恋人が焼いてくれる。
だから司はお好み焼きを焼くため専用の鉄板をマンションのキッチンに用意させようとしたが、ホットプレートがあればいいと言われ笑われた。だがそのホットプレートが何であるか分からなかったが、急いで使用人に買いに行かせた。


そして想像していた。
牧野つくしがお好み焼き屋で働く姿を。










「いらっしゃい山本さん!お久しぶりですね?暫くお見えにならないからどうしたのかと思っていたんですよ?」

「ああ。ちょっと海外出張だったからな」

「そうですか。山本さんは大きな会社で働いてらっしゃるんですよね。お忙しいですよね」

「いや。それほどでもないが、まあ色々あるな」

司が道明寺ホールディングス日本支社近くにある細い路地の奥に、牧野つくしの切り盛りするお好み焼き屋を見つけたのは偶然だった。
この地域は司の会社によって再開発が予定されていて、近いうちに買収交渉にかかることになっていた。そしていずれこの場所は更地になり大きなビルが建つ。
その前に地上55階から見下ろす世界がどんなものなのか見てみたいといった気になり、ふらりと路地に足を向けた。
そしてその路地で見つけたのが、お好み焼きと書かれた色褪せた暖簾と、やはり同じように色褪せソースの名前が書かれたのぼり旗。

その時思い出したのは、子供の頃、姉と縁日に出掛け、そこで見かけたお好み焼きに興味を抱いたこと。そして姉が弟のためにお好み焼きを焼いてくれたこと。そんな懐かしい想い出とソースの匂いに釣られ引き戸を開けると、そこは5、6人も入ればいっぱいになるカウンターだけの店。そしてそこが白い大きなエプロンにソースのシミを付けた牧野つくしと出会った場所だった。





「ねえ。山本さん知ってたら教えて欲しいんですけど、道明寺支社長さんってどんな人なんですか?ここの土地を買いたいっていうあの会社。道明寺ホールディングスってどんな会社なんですか?あたし、この場所が気に入ってるんです。この店は両親が残してくれた店だし、出来ればここにいたいんです。でも無理ですよね…」

司はこの店の暖簾をくぐり、牧野つくしに会った途端恋におちた。
彼女が焼くお好み焼きの美味さに惚れた。
そして司は本当の名前は名乗らずこの店の常連になった。
何故なら道明寺と名乗れば、この場所を再開発しようとしている男が自分だと分かる。だから山本と名乗っていた。そして彼女からこの場所が道明寺ホールディングスに買収されることについての悩みを打ち明けられていた。この店は両親が残してくれた店だが、土地は借地であり、地上げが始まれば出て行かなければならなくなることを。

「そうだな。多分無理だ。あの会社は大きな会社だ。この辺り一体は買収されてビルが立つらしい。再開発されて生まれ変わることになるだろうな」

「そうですか。やっぱり無理ですよね…..」

「ああ。ちょっと難しいだろうな。けど物は考えようだ。ここじゃなくても移転先でもっと大勢の人間が集まれるいい店にすればいいんじゃないのか?」


司がこの店に通うようになり知ったことがある。
それは、この店は小さなコミュニティのような場所であり、ふらりと訪れる客は皆この場所を憩いの場所のように感じている。
そしてその場所を再開発で取り壊すことは、牧野つくしの人柄を知れば知るほど罪悪感に苛まれた。だが会社が決めたことを変えることは出来ない。ビジネスはビジネスだ。だから司は無理だと言った。だが考えていることがあった。

司は彼女に恋人になって欲しいと言うつもりでいた。そして恋人になった彼女の店を司が出してやるつもりでいた。
それも広く綺麗な場所に彼女が望むような店を用意してやろうと考えていた。
そして今日はその話しをするためにここを訪れていた。恋人になって欲しいと伝え、そして自分が誰であるか打ち明けるつもりでいた。そして分かってもらうつもりでいた。名前を隠したのは、先入観で自分のことを見て欲しくなかったからだと。

「牧野さん俺は……」

と司が声を掛けた時だった。
店の引き戸が開き、入ってきたのは司の秘書の男だった。

「道明寺支社長。こんなところにいらっしゃったんですか。お探ししたんですよ。いつもお昼になると行き先も言わずにお出かけになられるので心配しておりました。それからニューヨークから社長がお見えです。支社長を探していらっしゃいます。すぐに社の方へお戻り下さい」

司は突然現れ不用意な発言をした秘書を睨んだ。
だが時すでに遅し。牧野つくしは、司が山本という名前ではなく、道明寺という名前で呼ばれたことに怪訝な顔をすると彼が何者かということに気付いた。

「….山本さん、あなたは……」

「すまない。俺の名前は山本じゃない。道明寺だ。道明寺ホールディングス日本支社の支社長だ。この場所を再開発しようとしているのは俺の会社だ。俺だ。でも決して騙そうとしたんじゃない」

「酷いわ….騙したのね。あなたは名前を偽ってここに通って、ここを離れたくないって言うあたしを笑ってたのね。….あなたを信用して色々話したのに…あなたは心の中ではこんな古臭い店なんてさっさと畳んで出て行けって思ってたのね!….もう二度とここへ来ないで!あなたの顔なんてもう二度と見たくない!」

司はそう言われたあの日から、つくしの店を訪れることはなかった。
それから時は流れ、牧野つくしの店があった場所を含め、再開発予定地はすべて更地になった。
そして司はあの日以来彼女に会う事はなかった。







「おい!なんでこんな悲しい結末になるんだよ!」

「…..支社長。何が悲しい結末でしょうか?加藤君が説明されていることに何か問題でもあるのでしょうか?」

「……………」

司は会議室で会議中だ。
それも近々発表される某駅前再開発プロジェクトについて概要の説明を担当者の加藤から受けていた。そして再開発にあたり、そこに以前からあった店は、希望すれば新しいビルの中にテナントとして受け入れるといった話になっていて、開発業者と地権者との話し合いも円満に解決していた。だから何も問題はないはずだと西田の目は告げていた。だが、不用意な発言をして、つくしからもう二度と来ないでと言われることになったのは、秘書のせいだと恨んだが頭の中が会議室から遥か彼方にあったなど言えなかった。











「あ。お帰り道明寺!お疲れ様。お好み焼き。これから焼くからね」

司がマンションに帰ったとき、部屋にはあの光景と同じ白い大きなエプロン姿のつくしがいて、ホットプレートを前に焼く準備は出来たとばかり彼の帰宅を待っていた。

「ねえ、それで何を入れようか迷ったんだけどね。道明寺に訊いてからってことで、色々と揃えてるからね?ええっと….豚肉。イカ。タコ。海老。あ、牡蠣も用意してるの。ねえ何がいい?全部入れる?」

「お前は何が入れたい?」
「え?」
「だからお前は何を入れて欲しい?言ってみろ。何を入れて欲しんだ?」
「何をって….」
「だから俺に何を入れて欲しいんだ?」
「やだ、道明寺。何言ってるのよ。道明寺が食べたいものを入れるから言ってくれないと….」
「俺はイカでもタコでも海老でもなくお前が喰いたい。お前以外のものは喰いたくねぇ。それに入れるんじゃなくて入れたい。…..お前のナカに」 

司はつくしを貫きたくなっていた。
悲しい結末で終わってしまった白昼夢を打ち消すために一刻でも早くつくしが欲しかった。
だから彼女の身体を抱き上げると、ベッドルームへ運んだ。
そしてつくしも、そんな司の思いに応えるように彼の首に腕を回し身体を寄せた。



無垢な処女から情熱的な恋人へ贈られた愛。
二人が初めての時を迎えてからもう何年も経っているが、愛し合う時は素直になる彼女。
知り合った頃は満足なキスの経験もなく、長く熱いキスをしたら息をするのを忘れたと言ったこともあった。
だが二人の身体は互いと愛を交すように作られていて、身も心も奪われる歓びといったものを知った。そして純粋さと優しさと情熱に包まれるのが二人の愛のかたち。
だから司が両手で彼女の腰を掴み、息が荒く乱れ、ひとつに結ばれた身体を激しく、もっと激しく動かしたとしても、そこにあるのは深い絆だ。
そして司がつくしと一緒に頂点を極める瞬間は、女が彼の肩に爪を立てるとき。
そのとき、司は激しく腰を振り、女がイク瞬間を五感で掴み、神経の末端まで快感の波に包まれたことを知ると己を解き放つ。そして顎を彼女のなだらかな首筋にうずめて目を閉じ、それから二人は激しかった呼吸が収まるまでじっとしている。
すると柔らかな小さな手が司の髪の毛を優しく撫でてくれる。その瞬間が彼にとって何よりも幸せな時間だが、やがて彼女の口から出た言葉に司は笑った。

「ねえ…..お好み焼き…どうするの?焼くの?焼かないの?」

食べ物を粗末にすることを嫌う女の言葉は、実に彼女らしいと思う。
だから女の気持を尊重する男は、喜んで彼女が焼いてくれるお好み焼きを食べるつもりだ。

「ああ。焼いてくれ。運動して腹減ったしな。お前が焼いてくれるお好み焼きが食べたい」

すると嬉しそうに笑う女がいた。








司は翌日機嫌よく出社した。
そしてポケットの中に入れている口紅に指先で触れた。
それは、昨日司の部屋に泊ったつくしが忘れていった口紅で渡そうと持参していた。
だがポケットに手をいれ、口紅に触れた途端ふと思った。
この口紅は司が海外出張に出たとき、彼女に似合うと思い土産として買って帰ったもので、ふんだんに蜜ろうが使われている。
高いプレゼントは受け取らない女も口紅ならと今では愛用していて、その口紅を塗った女とキスをすることは司にとってこの上ない幸せな瞬間だ。

だが暫く会えないとその唇が恋しくなる。キスしたいと思う。
司は、もしかしてこの口紅はつくしの唇の匂いがするのではないかと思った。
だから口紅を取り出し蓋を開けた。
そして捻じってみた。
するとそこにつくしがいつも塗っているピンク色が現れたが、それを暫くじっと見つめた。
そして匂いを嗅いだ。
それは甘い香りがして、つくしの唇から感じる甘さを感じた。
だからつい口紅を自分の唇に少しだけ塗ったがそれは禁断の行為。
それから暫くぼんやりと口紅を眺めていたが、明日からはニューヨーク出張で、この口紅を持って行けば、つくしとキスした気分になれることに気付いた。

この口紅はあいつの唇を彩る色であり、あいつの唇を味わっている感覚が味わえる。
そうだ。この口紅を返すのは止めよう。その代わり帰国の時は大量に買うことにしよう。
そして、そのうちの幾つかを自分用に持っていればいい。但し、一度あいつの唇に触れさせてからだ。

そんなことを考えているとき、ドアをノックする音がした。
司はついいつもの調子で「入れ」と言ったが自分が口紅を塗っていたことを失念していた。
そして慌ててハンカチで口紅を拭おうとした。だが時すでに遅し。西田に見られてしまっていた。






人生は楽しい。
人を愛することは楽しい。
ビバ人生。
現実に引き戻されると嫌なことは多々あれど、それはそれでいいじゃないか。
司にとって牧野つくしが彼の人生で彼女さえいればそれで十分。
視線、仕草、熱い体温。司のその全てが一人の女性だけに向けられていた。
彼女以外は女じゃない。
それに彼女以外欲しくない。
そう思う男は西田の冷たい視線も余裕でスルーすると書類を受け取った。
だがひと言言った。

「あいつには言うなよ」

その時の西田は、いつもと変わらぬ鉄面皮だった。
そして言った。

「ええ。分かっております。男はまず一番に大切な人のことを考えることが必要です。
それに男はズボンのチャックを壊すことが成長の証ですから」

司は西田の言葉に片方の眉を吊り上げた。
そして分かった風なことを言う男が出て行くと、手にしていた口紅を再びポケットに入れたが、さっき唇に塗ったのは冗談であって二度とすることはない。
ただ男は受難に打ち勝つためのお守りとして、彼女の口紅をポケットの中に忍ばせておきたいと思っただけだ。
何しろ司が牧野つくしに差し出しているのは、前人未到の純愛なのだから。





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