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2020
05.25

金持ちの御曹司~甘い罰~<後編>

『罰を与えるわ』

恋人はそう言うと部屋を出て行ったが、その言葉に司の頬が緩んだのは、ある意味での期待感。
恋人に与えられる罰。それはいったいどんなものなのか。
だが司にはMっ気はない。それにどちらかと言えばSっ気の方が強い。
そしてそれは恋人に対してだけであり他の女とではそんな気が起きることはない。
それに、これから起こることは、どうせ恋人のすることだ。大した罰ではないと思っている。

たとえばそれは椅子に縛られ身動きの出来ない司の全身をくすぐるとか、司の身体的弱点である耳に息を吹きかけるといった可愛らしい類のものではないか。
だから恋人が部屋を出て行ったのは、フワフワとした毛がついた猫じゃらしのような棒を取りに行ったとか、そう類のもので間違っても鞭を手に戻ってくるなど考えもしない。
それにふたりの付き合いでイニシアチブを握っているのは自分だ。
だからどんなことでも司が本気で止めろと言えば止めるはずだ。

それにしても、こんな風に縛られるということは、恋人は無難なセックスじゃ物足りないのか。不満があるのか。もしかして激しい行為を望んでいるのか。恋人は縛られる行為に興味があるのか。だとすれば、司は男としての努力が足りないということになる。
それなら努力をしなければならない。と、なると、縛りのプロに教えを乞うべきか。
だが司の知り合いに縄師はいない。だが総二郎ならひとりくらい知り合いにいそうな気がする。

そうだ。確か….西門流の門下生にその世界では一流と言われる縄師の男がいると訊いたことがあった。なら早速総二郎に電話をしてその男を紹介してもらえばいい。
そしてネクタイや手錠を使う拘束プレイではなく本格的な『縛り』を習えばいい。
だが気を付けなければならないことがある。それは恋人は色白で跡がつきやすい。
だから縄で本格的な縛りをすれば、縄の文様がはっきりと残るはずだ。つまり外から見えやすい場所、たとえば手首についた縄の跡を隠すものを用意してやる必要がある。取りあえずリストバンドでもいいか?けれど恋人の美しい肌に傷をつけるのは罪だ。
それに小さいが美しく白い胸の下に縄の跡をつけるのは悪だ。
そう思いながらも、縛った恋人の身体をいいように弄ぶことを想像すると、自分が縛られていることを忘れ下半身が頭をもたげてくるのが感じられた。




「お待たせ。道明寺」

そう言って恋人が司の前に戻って来たとき手にしていたのは猫じゃらしでもなければ、鞭でもない7センチ四方の小さな袋。

「ねえ?これがなんだか分かる?」

恋人はそう言って司に袋を見せたが、中身が白い粉であることだけしか分からなかった。
だから「いや。さっぱり分かんねえ」と答えると恋人は不敵な笑みを浮かべた。

「ふふふ。これはね。殆どの人間は一度でもこの味を知れば虜になると言われている粉よ。これからこれをあなたに与えるわ。そうすればあなたはこの白い粉を求めて私の言うことを訊く。もう二度と私以外の女のところに行くことは出来なくなるわ」

「おい。まさか…牧野…お前、それは…」

司の前に立つ恋人はいつもとは違い妖艶に思えた。と同時にその微笑みは真冬の空に浮かぶ刃物のように薄い三日月のような冷たさも感じられた。

「そうよ、これは禁断の白い粉よ。もしくは伝説の白い粉とも言うわね?」

おい….ちょっと待て!
司は恋人の口から出た禁断の白い粉とか、伝説の白い粉という言葉に戦慄を覚えた。
これは夢だよな?俺の夢の中だよな?
司は高校生の頃、乱れた生活を送っていた。だが薬物に手を出したことはない。昔も今も薬物とは縁のない世界にいる。それなのに何故恋人が白い粉を手にしている?
まさか恋人は現実が辛くて、それから逃避するため白い粉に手を出したのか。
だがそれは戦慄のシナリオだ。ダメだ。たとえ夢の中でも恋人がそんなものに手を出していることは許されたことではない。
まさかとは思うが、もしかしてこの夢は予知夢か?恋人がイライラとしていたのは生理前ではなく禁断症状が出たのか?
もしそうなら目が覚めたら早々に恋人を問いただそう。そして何か悩みがあるなら俺に言え。道を誤ったとしても俺がついている。俺がお前を更生させてみせる。だからその白い粉を捨てろと言おう。
だがそれを恋人に言う前に、夢の中の恋人は小袋の上の部分を開き、片手で司の頭を自分の胸元に抱え込むと言った。

「道明寺。口を開けてこの粉を飲みなさい」

「い、嫌だ」司は小声で答えた。

「口を開けなさい!」

恋人が強く命じたが、司は口を開けなかった。
だが司は恋人の黒い瞳に見つめられると抵抗出来ない男で、それは夢の中でも変わらなかった。だから有無を言わさぬ瞳に言われるまま口を開けると、傾けられた小袋から零れ落ちてきた白い粉を口腔内に受け入れたが、それは口の中ですぐに溶けて消えた。

そして「これであなたもこの白い粉の虜。もうこの粉なしでは生きていけないわ。つまり私から離れては生きてはいけないということよ。道明寺、あなたは私のものよ。私だけのものよ」と言われ、恋人の顏を見つめながら縛られて強張っている腕から力が抜けていくのを感じていたが、これほどまで彼女に求められている自分は幸せなのか。だが果たしてこれでいいのかという思いを抱いたところで、「支社長。こちらの書類が最後になります」と言われ、はっと目を覚ました。

司は今回の夢ばかりは早く覚めて欲しかった。
だから西田が書類を手にデスクの前に立っている姿にホッとした。
そして西田が「お顔の色が悪いようですが、どうかなさいましたか?」と訊いたが「なんでもない」と言って深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。






心臓が激しく鼓動を繰り返し、額に冷や汗が浮かんでいるのが感じられた。
今日の夢はこれまで見たものとは違い害のある恐ろしい夢だった。
それにしても何故こんな夢を見たのか分からなかった。

そして翌日恋人からのメールに書かれていたのは、『昨日はごめん。下痢でお腹が痛くて仕事に集中できなくてイライラしてたの』の言葉。
だから司は心配で仕事が終わると恋人の家に駆け付けた。

「大丈夫か?」

「うん。ごめんね心配かけて。おととい朝作ったお味噌汁を冷蔵庫に入れるの忘れてて、夜帰って飲んだらお腹壊したの。でももう大丈夫だから。でも念のためにヨーグルトを食べていい菌を増やさなくちゃね」

そう言った恋人がヨーグルトと一緒にテーブルの上に置いたのは、白い粉が入った小さな袋。それはまさに夢で見たものと同じもの。
だから司は冷たい恐怖を感じ戦慄を覚えた。
そして恋人は司が白い粉をじっと見つめている様子に言った。

「ああ、これ?これは今では手に入らないのよ。まさに伝説の白い粉よ」

『伝説の白い粉』
司は恋人が夢の中と同じ言葉を言っていることに驚愕した。
やはりあれは正夢だったのか。それにしても恋人はいつから薬物を使うようになったのか。
だがこの際いつからかはどうでもいい。それよりも一刻も早く止めさせなければならない。
そうだ。すぐに入院させて薬を抜かなければならない。そのためには今、目の前に置かれているそれを取り除かなければならなかった。
だから司はテーブルの上に置かれた小袋を取り上げた。

「ちょっと!何するのよ!」

恋人は驚いた様子で言った。
そんな恋人に司は真剣な顏で激しく詰め寄った。

「牧野。何するのってこれは何だよ?伝説の白い粉って、いったいこれは何なんだよ!お前、いつからこんなものを__」

すると恋人はきょとんとした顏で司に言った。

「え?これ?これ今は付いてないけど昔はプレーンヨーグルトには必ず付いていた砂糖だけど道明寺知らないの?ああ、そうよね。知らないわよね。知らなくて当然よね。だってあんた自分でヨーグルト買ったことがないものね?あのね、昔のプレーンヨーグルトってもの凄く酸っぱくて、添付された砂糖をかけなきゃ食べれなかったの。特に子供はそう。プレーンヨーグルトなんて子供にとっては酸味ばかりで全然美味しくなかった。
でもうちはママがその砂糖を使わせてくれなくてね。お菓子が入れられていた缶の中に取っておいたのよ。それでその砂糖を料理に使ったりしてたの。でもあたしこの砂糖が大好きでね。子供の頃、時々缶の中からこっそり取り出して食べてたの。でも見つかると叱られたわ。だから我が家ではこの砂糖は禁断の白い粉とも呼ばれてたわ。
それがこの前実家に帰って台所の整理をしてたら大量に出て来たから少し貰って来たの。だから今は付いてないプレーンヨーグルトにかけて食べようと思ったの」

司はそう言われて手にした小袋を見た。
するとそこには、『砂糖』と書かれていて、『この砂糖はグラニュー糖を砕いて溶け易く顆粒状にしたものです。ヨーグルト以外にもおいしくお使いいただけます』とあった。

「これ、そこに書いている通りグラニュー糖だから普通のお砂糖と違って口の中でフワッと溶けてお菓子を食べてるみたいで美味しかったのよね。だからこれ、子供の頃の思い出のひとつなの」









司の夢に出て来た禁断の白い粉であり伝説の白い粉。
それは恋人が子供の頃に味わった思い出の甘さ。
だから司も舐めた。
するとやはり砂糖は砂糖だ。甘いそのひと袋を食べろと言われれば拷問だと言えた。
だがそれでもその甘さが恋人の唇から感じられるなら、それは受け入れられる甘さだ。
そして司は気になっていたことを訊いた。
それは三流週刊誌に載った記事について。
だが恋人は笑って言った。

「あのね、道明寺。もう何年あんたの彼女やってると思うの?あんなのデタラメに決まってる。週刊誌の記事なんてあたしは全く気にしてないからね」

司の恋人は彼のことを信じている。
そして恋人は嘘つきは嫌いだ。
だから司は恋人に嘘をつくことはない。

「でも週刊詩の記事が本当だったらこのひと袋全部あんたの口の中に流し込むからね」

それは夢の中でもあった同じ光景。
そして司が嘘をつけば甘い罰が待っているということになるが、今はその甘い罰が欲しかった。
だから司の唇は、ヨーグルトを食べた彼女の唇の甘さを求めてゆっくりと重ねられた。




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2020
05.24

金持ちの御曹司~甘い罰~<前編>

喉仏は男にだけあることからペニスの象徴と言われている。
だから喉仏を見れば、どんなモノを持っているか分かると言われるが司の喉仏は立派だ。
つまり司は男として過分とも言えるほど立派なモノを持っている。
そしてヒトは初め女であり女を男性化したものが男。それはヒトという生き物は胎児の頃は女だが、途中で男性ホルモンの刺激を受け男に変化したということであり、言うなれば男という生き物は、もともと女だったものを無理して男になった。
だから女の方が長生きなのは当たり前で、男が男らしくありつづけることは大変だということを世の中の女は理解してない。

だが司は愛しい人の前ではいつも一流の男でいたいと思っている。
それに司は男に生まれて良かったと思っている。
そうだ。もし女に生まれていたら最愛の人と甘い時間を過ごすことは出来なかった。
いや、女に生まれたとしても彼女の傍にいることは出来るが、男として生まれたからこそ味わうことが出来る喜びというものがあり、それを味わうことが出来る司は幸せだ。

だがある日。
そんな風に思う男に浮気疑惑が持ち上がった。

『道明寺財閥の御曹司。道明寺司氏が女性の腰に腕を回し親しそうにしていた』

それは週刊誌に載った写真。
いや。だがそれは何かの間違いであり親しいも何もない。
だって司はその女性が誰か知らないのだから。
それに、その写真がいつどこで撮られたものか全く心当たりがない。
写真の男は特徴的な髪型をしているが、探せば同じような髪型をした人間はいるはずだ。
そうだ。他人の空似じゃないか?現に昔、司に似た男が現れて恋人を惑わしたことがあった。

それにしても、これまでなら、そんな記事など気にしない恋人が何故か今回の記事に対しては厳しい態度で司に接してきた。
だから今夜会いたいと言うメールに返された返事は、

『誠に申し訳ありません。今夜は都合によりお会いすることは出来ません』

かしこまったメールの内容に書かれている文章を直訳すれば「今夜はノー」という意味だが、つまりそれは今夜彼女を抱けないということ。
それは、あの記事のせいなのか?いや、恋人はあの記事など何とも思ってない。あんな訳の分からない三流週刊誌の記事を信じるほど恋人はバカではない。
だから司は再びメールで訊いた。

『どのような都合でしょうか?』
『都合は都合です』
『都合の理由を明示下さい』
『今ここではお示し出来ません』
『何故でしょう。明確な理由がなければ受け入れることは出来ません』
『ですから今、ここではお示し出来ません』

司は、ここまで丁寧な言葉遣いで訊いた。
だがどれだけ丁寧に訊いたとしても会えない理由を答えてもらえそうになかった。
だから、こうじゃないかと思う理由を書いてみた。

『牧野?もしかして生理前か?もうすぐ始まるのか?』
『うるさいわね!ごちゃごちゃ言わないでよね?あたしにだって都合があるのよ!それにお腹が痛いのよ!!あたしは今、その痛みに耐えて仕事をしてるの!』
『・・・・・・』

司は怒られたが、文面から感じられたイライラとした雰囲気から、訊いた通り生理前なのだと理解した。
生理前の恋人は怒りっぽいこともあれば、イライラすることもある。それに些細なことにムキになることもあった。
だが司は大人だ。それに恋人との付き合いで色々と学んだ。
女という生き物は生理のとき、気持ちが塞ぐこともあれば、イライラとすることもある。
それを理解してやるのも恋人である司の役目だ。
どちらにしても、今夜恋人と会うことは出来ない。つまり早く仕事を終えても仕方がない。
それなら仕事でもするか。そう思った司は秘書に、「今夜は仕事をする。明日に回される書類でもいいから持って来い」と言って書類に目を通し始めたが、西田が持って来た書類は思いのほか多かった。
そして司はひと息つこうと目を閉じると夢を見た。









それは椅子に腰かけたまま縛られた男。
腕は後ろ手に縛られ、脚も椅子の足に縛り付けられていた。
そして目の前にいるのは恋人。
だが、その恋人は司が知っている恋人とは正反対の嫉妬深い女。

「道明寺。私を裏切ったわね?」

「裏切った?おい待て牧野!お前何か勘違いしてるんじゃないか?俺がお前を裏切る?そんなバカなことがあるか!俺はお前一筋だ!俺はお前を裏切ったことは一度もない!」

と言った司はこの状況から、もしかすると恋人は週刊誌に載った写真のことを言っているのだと思った。

「牧野。あの写真に写った男は俺じゃない。俺はあの女を知らない。本当だ、本当に知らない。そう言えば昔、国沢っていう俺によく似た男がいたよな?それと同じであれは俺に似た別の男だ。それに俺はお前以外の女の腰に腕を回すことは絶対にない!」

「よく言うわよ!高校生の頃、滋さんの身体に腕を回してキスしたじゃない!」

「あのな!あれはしたくてしたんじゃない!」

大河原滋は親の決めた婚約者として二人の前に現れ、司は自分を殺して滋と付き合いを決めたことがあった。

「それに海ちゃんとイチャイチャしてたじゃない!」

「それもしたくてしたんじゃない!あれは俺がお前のことを忘れたことをいいことにあの女が勝手にイチャイチャしていただけだ!」

司にとって最愛の人のことを忘れたことは大失態だが、いちいち昔のことを持ち出す恋人は、「まあいいわ」と言って唇に小さな笑みを浮かべていた。

「道明寺。あなたは私のことが好きだと言うけど、他の女と一緒にいたわ。それは許されることではないの。だからこれからあなたに罰を与えるわ」




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2020
05.03

金持ちの御曹司~遠慮無く愛したい~

殆どの人間は彼を見ればこう思う。
なんて鋭い視線を持つ男だろうと。
だが男は、すべての女性の目を楽しませる外見を持つと言われていて、誰もが男を見つめる。
そしてそんな男のフンという冷たい態度が唯一柔らかくなるのは、愛しい人を見つめるとき。その目線はセクシーに変わる。だが目線の先にいるのは平凡な女。

かつて男はものすごい圧でその女に交際を迫った。そして迫られた女は気付けばその男にお姫様抱っこされてベッドに運ばれていた。
つまり、なんだかんだ言っても二人がこうなることは運命であり宿命だと思うのは男の方。
だから男は、その女と早く結婚したくてたまらなかった。
だが、女の方はなかなか結婚してくれない。
それどころか、ふたりの交際は絶対秘密だと言って会社で抱きしめることも、キスすることも許してもらえなかった。けれど秘書に言わせればそんなことは当たり前だと言う。

「支社長。よろしいですか?ここは会社です。ビジネスの場です。牧野様を抱きしめるのも接吻するのも社外でなさって下さい。それに社内でそのようなことをなさって誰かに見られると大変なことになります」

西田はケチだ。
意地悪だ。
恋人を抱きしめるのもキスをするのも心の平穏を保つため、ビジネスを成功させるために必要なものだと分かってない。
つまり業務中であろうと恋人と一緒にいる時間はビジネスミーティングではなくデートのひとつ。それなのに、今日も今日とて司がロビーで見つけた恋人の傍に行こうと足を踏み出せば、西田のさして長くない足がスッと前に出され思わず転びそうになった。

「これは失礼いたしました。わたくしこう見えても足が長いものですから、うっかり支社長の、おみ足の邪魔をしてしまいました」

いいや。
西田の失礼いたしましたは、口先だけであり失礼などこれっぽっちも思ってない。
むしろしてやったりと思っているはずだ。

それにしても恋人は可愛い。
素敵だ。美人だ。輝いて見える。そしてその輝きは眩しいほどだ。
そんな恋人は帰り際、執務室に顏を覗かせ、「ゴメン。急なんだけど今夜同期入社の女子社員との女子会があるの」と言った。
そして「そういうことで遅くなるから。道明寺も4人で男子会したら?」と言われたが、類もあきらも総二郎も司のスケジュールに関係なく集まって来る。だから司に言わせれば男子会と名の付くものをわざわざ催す必要などない。
そして司は「楽しんでこい」と言って心よく恋人を女子会に送り出した。









総二郎はトイレから戻ってくると、ソファに腰を下ろした司の向かいに座ったが、彼はあきらから、「今夜司と飲むがお前も来ないか」と誘われ、行くと答えると、「じゃあ司の部屋で」と言われペントハウスに足を運んだ。

「そうか。今日牧野は女子会か」

「ああ。同期のなんとかちゃんと、なんとかちゃんと、なんとかちゃんと食事だとよ」

答えた司の口調はつまらなそうだ。

「お前なあ、なんとかちゃんと、なんとかちゃんって、ひとりくらい名前を覚えてやれよ。牧野にとって、そのなんとかちゃんってのは大切な友達のはずだ。それをなんとかちゃんじゃ、牧野はあたしの話を訊いてないの?って怒るぞ?」

総二郎は司がいつもの調子でいることを面白がって言った。
そしてあきらが誘ったのは総二郎だけではなく類もいた。
そんな類はあきらが誘ったとき開口一番、「なんだ。牧野来ないの?じゃあ行くの止めよっかな」と言ったが、少し考えると「やっぱり行くよ」と言った。

「でもさ。司にとって牧野以外は女じゃないんだから、なんとかちゃんでいいんじゃない?あ、でも実はなんとかちゃん中に男の名前があったりして。だって大河原滋だってさ、滋なんて名前。普通なら男の名前だと思うだろ?だから司が言った、なんとかちゃんの中に男がいるかもよ?そうだな、例えば薫。薫って名前、男でもいるしさ、なんとかちゃんの中に薫って男がいたりして」

類は真顔でそう言うと、「それに子供の言い訳じゃないけど、やたらと友達の名前を挙げて力説するときってやましいことがあるからだよね?やましいことを親に隠すために必要以上に喋るって言うよね?ねえ司。今日の牧野ってそんな感じじゃなかった?もしかして、なんとかちゃんは架空の女の名前かもしれないよ?」と言葉を継いだ。

「おい、類!司をからかうな!司で遊ぶな!」

あきらは、そう言って類を窘めたが、言われた男は意外なことに類に対して怒ることも慌てることもしなかった。

「類。お前、俺が焦ってあいつの女子会に駆け付ける。邪魔しに行くと思ったんだろ?お前はそれを見て楽しもうと思ったんだろうが残念だったな」

と、言った司は余裕の笑みを浮かべた。

「おい。司。余裕だな?その余裕はどこから来るんだ?もしかしてあいつに尾行を付けたのか?」

あきらはグラスを口に運んでそう聞いたが、恋人に対してだけ心配症になる男は、「いいや。そんなことはしてねえ」と平然と答えた。

かつて司は恋人が中学の同窓会を楽しんでいた時、嫉妬から恋人の友人に絡んで彼女に嫌われた。あれはまだ子供だった自分の浅はかな行動だった。そのこともあり、恋人が友人と楽しんでいる場所に出向いて邪魔をすることはしないと決めていた。
それに恋人は嘘をついて他の男に会いに行くような女ではない。
それに恋人はあからさまな警護を嫌う。
だが身の安全のため、それとは分からないように、さりげなく護衛を付けているが、危険が無いと思われれば誰とどこで会ったかということまで報告をさせていない。
つまり恋人のプライバシーに過度に踏み込むことはしていなかった。

「おい、司。それならその余裕はなんだよ?なんかいつものお前と違って気持悪りぃな」

総二郎もこれまでなら類の言葉に恋人の元へすっ飛んで行くはずの男のいつもと違う様子を不思議に思った。

「実はな……….」













「はぁ…..」

「ちょっと洋子。そんなに溜息ついても仕方ないでしょ?」

「だってせっかく彼氏候補が見つかったと思ったら、その人彼女がいたの。それも結婚間近らしくってさ。あ~もうショック。あたしがこれだって思う男って大体彼女がいるのよね。まあ、誰から見てもいい男ってそんなものなのよね。もしくはすでに人の物なのよね…」

洋子はそう言って赤ワインをひと口飲み、目の前の皿に箸を伸ばし鯛のカルパッチョを口に運んだ。

「はいはい。分かったわよ。だからその人のことはもういいじゃない。その人がダメでも次があるわよ。次が。それにあたしも真理子も、つくしも彼氏はいないけど楽しくやってるわよ?それにうちには日本中の独身女性の垂涎の的。道明寺支社長がいるじゃない?支社長独身だし支社長狙うのもいいかもよ?」

「あのね美穂。それは絶対に無理。支社長は独身だけど表に出てこないだけで絶対に彼女がいるわよ。それも深窓のご令嬢か大きな会社の社長令嬢。もしかするとどこかの国の貴族のご令嬢かもしれないけど、とにかくそういったお嬢様よ。間違ってもあたしたちみたいな会社員じゃないし、庶民じゃないわ。そうでしょ真理子?」

美穂と呼ばれた女はチーズプレートの中から、チーズをひとつ選んで口に入れ、真理子と呼ばれた女は白ワインを飲み干すと言った。

「確かに支社長はお金持ちで頭がよくて美貌の持ち主よ。それにゆくゆくは道明寺財閥のトップに立たれる方だわ。だからあたしたちのような下々の人間は相手にされないわ。
そうよ。あの方は雲の上の方ですもの。だから逆にあたしたちが手を触れることが許さる人間じゃないのよ。つまりあたしたちは下からあの美しいお顔を拝ませていただくだけよ。ねえつくし?」

つくしは自分の名前を呼んだ真理子に向かって「え?うん。そうね。あたしたちが道明寺支社長に相手にされることはないわよ」と答えたが今のこの会話の内容は好ましいものではなかった。

つくしは同期入社の洋子と美穂と真理子とイタリアンレストランにいて、洋子が彼氏候補を見つけたはいいが、その男性には結婚間近の恋人がいることが分かりショックを受けたという話を訊いていた。だがそこから話が支社長である自分の恋人のことになり、彼女たちにそのことを話していない自分が嘘をつかなければならないことに後ろめたさを感じ、なんとかしてこの会話を変えなければならないと感じていたが、つくしの思いとは裏腹に話題は変わりそうにない。それどころか終わりそうになかった。

「でもつくしは海外事業本部でしょ?支社長って時々つくしの事業部に現れるらしいじゃない?やっぱり海外事業本部って花形事業部だし、いいわよね。あたしなんて地味な総務だから支社長にお目にかかるチャンスは皆目無いわ。でも秘書の西田さんは来るわね。
そう言えば、支社長この前インドネシアに行ってたみたいだけど、つくしも同じ頃天然ガスの輸入の件でインドネシアに行ってたんじゃないの?つくし、向うで支社長と一緒にならなかったの?ホテルとか同じじゃなかったの?」

総務部の洋子は興味深そうに訊いてきた。
だからつくしも話を合わせるように言った。

「え?支社長もインドネシアに来てたの?全然知らなかった。それにあたしが支社長と同じホテルになる訳ないじゃない。相手はうちの会社のトップよ?そんな人とあたしが同じホテルになるはずないじゃない」

「まあね。確かに支社長とただの社員のつくしが同じホテルになることはないけど、もしよ。もし同じホテルに泊まったとして、そこでエレベーターの中で偶然出会って、同じ日本人ってこともだけど、私、道明寺の社員です、とかなんとか言ってつくしが支社長の目に止まれば玉の輿なのにね?あ~残念!つくしもったいなかったわね?」

「やあねえ洋子!そんな偶然ある訳ないじゃない。第一支社長はあたしみたいなチビなんかよりもっと背が高くてスラーっとしてる美人の方がお似合いでしょ?それにあたし庶民だし、そのへんに生えてる雑草だし、高級な男性と付き合えないわよ」

と答えたが、つくしが天然ガスの輸入交渉でインドネシアを訪問したとき、恋人があの国にいたことは知っている。そして実はあの国でデートをした。同じホテルに泊まった。同じベッドで寝た。朝食も一緒に食べた。
それにインドネシアはある意味でふたりにとって思い出のある国だ。
それは数年前のバレンタイン。あの国へ出張していたつくしを追いかけてきた恋人と一夜を過ごしたが、ちょっとしたイタズラ心で、眠っている恋人の手を手錠でベッドに繋いだまま帰国したことがあった。その時の恋人は素っ裸。誰にどうやって縛めを解いてもらったのかは教えてもらわなかったが、帰国した恋人はムッとしていた。

「ねえ、洋子。彼氏が出来なくてもあたし達には仕事があるじゃない!それに男なんて星の数ほどいるんだし、いつかまたどこかで素敵な人に巡り合えるわよ!それまで仕事頑張りましょうよ?ね?」

つくしはそう言って洋子を慰めた。
そして洋子もつくしの言葉に頷いた。

「そうね!あたし達には仕事があるわよね?」

「そうよ!それに洋子は素敵だもの。それからあたし、みんなに渡したいものがあって持ってきたの!インドネシアのお土産なんだけどね?インドネシアってマンデリンとかコーヒーが有名でしょ?だけど実は紅茶も美味しいの。だから皆にと思って、あ!」

あ!と言ったのは、隣の椅子の上に置いてあった鞄を取ろうしたとき、肘がテーブルの上に置かれているグラスに当たり倒れ水が零れてテーブルの上に広がったから。

「ご、ごめん!」

つくしは慌てて鞄の中からハンカチを取り出そうとした。

「大丈夫よ。つくし。すみません!何か拭くものお願いします!お水こぼしちゃって!」

洋子はそう言って店員にテーブルを拭くものを頼んだ。

つくしはいつも鞄をふたつ持ち歩いている。
ひとつは弁当箱や化粧ポーチが入っているトートバッグで、もうひとつが財布や貴重品が入れられている2ウェイのバッグ。それはショルダーバッグにもハンドバッグにもなる優れもの。
そして手に取ったのは2ウェイバッグの方。そこからハンカチを取り出してテーブルの上を拭いていた。だが何かおかしいと思った。それはハンカチにしては生地が硬いということ。指に湿り気が感じられないということ。つまりハンカチが水を吸っている感じがしないということ。それに3人の視線がハンカチを握ったつくしの手元にじっと注がれていて、それぞれの口をついた言葉はつくしの違和感を証明していた。

「ねえつくし。それ、ハンカチじゃないんじゃない?」

「それ、もしかしてネクタイじゃない?」

「それネクタイよね?」

つくしはそう言われ自分が握っている布を見た。
すると、それは光沢のある折柄が印象的なワインレッドのネクタイで見覚えがあった。
つまりそれは恋人のネクタイ。だが何故これがここにある?
そして3人の視線はネクタイからつくしの顏に移り彼女が何か言うのを待っていた。

「やだ!これネクタイじゃない?これ弟のネクタイよ!弟の進のよ!これあたしの弟の進のネクタイよ!なんでこんな所にあるのかな?あはは!」

つくしは笑いながら少しも水気を吸わなかったネクタイをそのままトートバッグに入れた。
そして今度こそはハンカチを取り出そうとバッグの中を見た。
すると、そこにハンカチは無く、その代わりあるはずの無い物がある。
それは見覚えのある車の鍵。ライター。シガレットケース。それに数枚の名刺。そこに記されている名前は見なくても分かる。そしてその名刺が床に落ちているのを見付けたが、それはハンカチだと思って取り出したネクタイと一緒にバッグから出たものだ。だから慌ててそれを拾ってバッグの中へ突っ込んだ。

「ねえ、つくし。さっきから思ってたんだけどね?なんだか凄く素敵な香りがするの。それもつくしのそのバッグから匂ってきてたような気がしてたの。だからつくしがバッグを開けた途端、ますます匂うんだけど、つくしは気にならない?」

だがそう言われても、少し前に風邪をひいた女は鼻が詰まっていて分からなかった。

「え?あたしちょうど今鼻が詰まってて匂いが分からなくて。そ、そんなに匂う?」

「うん。匂うわよ?なんだかとてもいい匂い。それも官能的って言うの?でも爽やかさもあってスパイシーだけど甘いの。これどこの香水なのか知らないけど、すごく高価なものに思えるの。つまり贅沢な香りってことだけど?それも弟さんのもの?」

つくしは嫌な予感がした。だからバッグの中身を取り出すことなく手を突っ込んで探った。
すると底に硬い小さな筒があるのを感じた。それはよくある香水のサンプル瓶で蓋は開いていた。

「うん!弟がね、どうしてだか知らないけど間違えてあたしのバッグに色々入れたみたいなの!」











「ちょっと道明寺!あたしのバッグに色々入れてどういうつもりなのよ!」

「あ、牧野。お帰り」

「よっ!牧野お疲れ」

「牧野。元気だったか?」

「類?それに西門さんと美作さんも?」

「そ。俺たちお前が司に言った通り男子会してたところ。で、司がお前のことで珍しく余裕こいてたからその余裕はどこから来るか訊いたところだ。なあ司?」

司はマンションのコンシェルジュから恋人がエントランスに着いたという知らせを受け、上がって来るのを待っていたが意外と早かったと思った。だが司の部屋は彼専用のエレベーターに乗るしかないのだから早くて当然だ。だが、もしかすると怒りがそのスピードを速めたのかもしれない。つまりそのくらい恋人は怒っているように思えた。

「牧野。お前がカッカしてる理由は分かるが、そんなに怒るな。司のイタズラは可愛いもんだ」

「西門さん。そう言うけどね?あたしのバッグの中に_」

「牧野。司は単に牧野が誰のものかはっきりさせたかっただけだ」

「美作さん。でもね_」

「牧野。司は猛獣だからさ。牧野が誰のものかマーキングしたかっただけだよ。それがたとえ女ばかりの集まりだとしても、司は牧野のことに関しては異常なくらい心配症だから許してやりなよ」

「類…..」

3人の男たちは何故つくしが怒っているのかを知っているとばかり言ったが、そこから代表者となって口を開いたのは総二郎だ。

「牧野。司はお前が浮気をするなんてことは思ってない。ただ女子会に行くって言っても、どこかの男どもに声を掛けられるんじゃねえかって思いがある。そのために自分の匂いをお前に纏わせたかったんだ。何しろ夜の街に現れる男たちは匂いに敏感だ。
つまり他の男の匂いがする女は分かる。その匂いから相手の男がどんな種類の男か分かる。
女が纏う香りが安っぽい香りなら、相手の男も大した男じゃないって分かる。だから手を出す男は多い。だが金がかかった匂いを纏った女の相手は、ただの男じゃないってことが分かる。それに司にはプロヴァンスにお抱え調香師がいる。そんな男は世界にふたつとない匂いを持つ男だ。つまり最高級の男だ。そんな男の匂いを纏った女に手を出したら大変なことになる。男はそれを本能で嗅ぎ分けるんだ。それに類が言った通りで司は猛獣だ。だからそんな男はお前のことが心配でマーキングしたかっただけだ。だから許してやれ」

そこまで言った総二郎は、「司良かったな。牧野は何事もなく無事に帰ってきた。それもお前の部屋に戻って来た。これほどお前にとっては嬉しいことはないはずだ。じゃあ俺たちはこれで帰るから、これからふたりでゆっくり話をしろ」
と言うと、あきらと類と飲み直しに行くわ。と言って部屋を出て行った。









「牧野。悪かった」

司はあやまった。
すると恋人は、「もういいわよ」と言った。
そして「いつ入れたのよ?」と言ったから「お前が執務室に来たとき。手を洗いたいって鞄を置いて行っただろ?あの時だ」と答えた。

「本当にもう。油断も隙もないんだから。それにもう怒ってないから。でもこのバッグお気に入りだったのに暫く使えないわよ。だってこの中すごく匂うんだもの」

と言ったから、司はすかさず言った。

「俺が新しいバッグを買ってやる」

だが恋人は断った。

「ダメよ。道明寺が選ぶバッグは滅茶苦茶高いバッグだもの。だからダメ!」

司の恋人は、自分が付き合っている相手がどれほどの金持ちか分かっているのか。いないのか。いや分かっているが、とにかく高い物を買うことに抵抗がある。だからこれまで司がプレゼントした中で素直に受け取ったのは、もっぱら食べ物と花。それ以外のものについては、余程のことがない限り受け取ることはない。だから訊いた。

「牧野。じゃあそのバッグと同じのを買ってやる。どこで買った?幾らだ?」

恋人は「え?」と大きな目を更に丸く見開いたが、司は「だから。そのバッグだ」と訊いた。
すると恋人は司の問いに少し戸惑ったが自慢げに言った。

「このバッグは五千円よ。あたしがこのバッグを買ったお店、店じまいするから半額セールやってたの。だから本当は一万円なの。それにこれ本革なのよ?凄いと思わない?それが五千円で買えたんだから凄いでしょ?」

司の恋人は物欲がない。もしかして物欲センサーが壊れているのかもしれない。
いや。そういったものは初めから備えてはいないと言った方が正しいだろう。
それにしても、まさか恋人が五千円のバッグを大切に使っているとは思いもしなかった。

そんな司の恋人は何事も一生懸命でどんなことにも誇らしいほど胸を張る。
そして司は道明寺という経営者一族の家に生まれたことから、無難な人生を送ることが出来ない男だが、そんな男を恋人に選んでくれた一生懸命な女が大好きだ。
いや。大好き以上に好きだ。
そして揺らぐことが無い価値観も。

「牧野。同じバッグは買えねえかもしれねえが、俺が五千円のバッグを探してやる。それと同じくらいお前が気に入るバッグを見つけてやる。お前が死ぬまで一生離したくないと思うバッグをな」

すると恋人は「ふふふっ」と笑って、「楽しみにしてるわ」と言ったが、それは見つけることが出来るなら見つけてごらんなさいよ、と言う宣戦布告。
だから司は何がなんでも五千円の素敵なバッグを見つけるつもりでいた。
だが見つけることが出来なければ、グッチでもヴィトンでもいい。五千円のバッグを作らせればいいだけの話だ。
そして司は自分を見上げる女を抱き上げると、その身体に遠慮無く自分の匂いを纏わせるため寝室へと運んで行った。



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2020
03.30

金持ちの御曹司~She’s So Good~<後編>

「….つくしか。面白い名前だ」

司は女の背後に立ち鏡の中で目を合わせるとクックッと笑った。
妖しい香りを漂わせるこの場所は男の部屋。
司は美容整形外科医として一流の腕を持つ男。
彼の元にはハリウッドの大女優はもちろん大物政治家まで大勢の人間が美しくなりたい、若返りたい。老いた姿を世間に見せたくないと訪れるが、彼らは容姿にコンプレックスがあるのではない。自分が醜いと悲観しているのではない。その姿には彼らなりの美しさや見た目の素晴らしさがあった。
それならなんのために司の元を訪れるのか。
それは隣の芝生は青いと同じで何でも他人のものはよく見えるということ。だから他人と自分を比較してより良いものが欲しいと司の元を訪れていた。

もっときれいになりたい。
もっと美しくなりたい。
若々しい姿でいたい。
ただ、それだけで自分の身体にメスを入れることを躊躇わない人間たち。
そして皆こう言う。


今以上に美しく作り替えて欲しいと__。


だから司は彼らの願いを叶えるが、それは一度でも身体にメスを入れた人間の尽きる事のない欲望。
顏の一部分を治せば、次はここを治して欲しい。ここの脂肪を取って、ここを大きくしてこの顏に合う身体を作って欲しいときりがない。
だが司は美容整形外科だ。だから彼らの望み通り手術台に乗った身体が麻酔で動かなくなれば銀色のメスを握る手は迷うことなく肉を切り骨を削る。
そして目覚めた彼らは間違いのない美しさを手に入れる。
だが出来上がった美しさは永遠のものではない。年を取ればその美しさは自然なものとは異なった形で老いて行く。そして彼らはまた司の元を訪れるが、それを悪いとは言わない。
何しろ美容整形は保険が適用されないことからの現金払い。
だから一流の美容整形外科と言われる男の洗練された腕に支払われる金額は大きかった。

そんな男は独身だが恋人はいない。それに愛人もいない。
だから男が純粋な気晴らしのために呼んだ女はコールガール。
とはいえ、その女は彼だけに用意された女。
身体に別の男の色が染み付いていない女。
男は低い声で女の名前を呼んだが、その声はセクシーで女を惹き付ける声をしていた。
そして経験を積んだ男の目が女の顏と身体をゆっくりと眺めまわしたが、それは美容整形外科医の目。
もしメスが入っていれば一目で分かる。見破ることが出来る。
だが司の前に立ち鏡を見ている女の顏にその痕跡はなったが、身体は服を脱ぐまで分からない。
つまり豊胸や脂肪吸引といったものをしている可能性はあるが、身体の線を強調しない、ゆったりとしたワンピースからその身体を推し量ることは出来なかった。
だが胸のふくらみが小さいことは見て取れた。

「服を脱げ」

そう言った司の唇の端がかすかに上を向いた。
女は言われた通り着ていたワンピースを脱いだが、下着はシンプルな白で飾り気が無かった。



司は裸になると女の身体を自分の身体で押すようにしてベッドに倒した。
男の指は長くて美しいと言われる指。
その指が女の乳首に触れ、下腹部へと滑ったが、目の前の身体にメスが入った痕跡はなく滑らかで美しい身体をしていたが、それはまさに無垢な純白といっていい身体だった。
そして処女だとういう女。

「お前。本当に初めてか?」

その言葉に女は小さく「え、ええ」と言ったがその声には戸惑いが感じられたが、もし処女が本当なら司が初めての男になる。だから緊張しているのか。
だが女の言葉を全て信じるほど司はバカではない。それに司は好きなだけ女に無理強い出来る。だから抱く前に無垢だという女に淫らなポーズを取らせてみたいと思った。
それは裸の女の身体など見慣れた男の奇妙な欲望だ。

司は女を抱き上げると風呂場に連れていった。
鏡の前に腰を据えると、両膝の上に女を座らせ、それからアスレチックジムに置かれている器具のように膝を大きく広げ薄い陰毛に隠れていたピンク色の性器を露出させたが、それは卑猥で淫靡な光景。
だから女は恥ずかしいのか。顏は紅潮し目は伏せられていた。

「なるほど。ここはそれほど使われてないように見える」

女の言葉が本当なら、そこはまだ誰も踏み入れたことがない純潔を示す薄い膜が張られている場所。目で見て確かめるには女の股の間に顏を突っ込むことになるが、そうするよりも鏡の前で自分のあられもない姿を見せる方が楽しそうだ。
だからその存在を確かめるため指を1本挿れた。

「ああっ!!」

声が上がると同時に開かれた大きな黒い瞳。
その瞳は揺れていて、指の先には処女の証と言われる膜が確かにあった。
だが処女膜は人の手によって再生することが出来る。だから本物の処女かどうか分からなかった。
けれど、今こうして鏡の前で男の手で開脚された姿は、快楽にふけった経験があるようには思えなかった。
それに司が指を挿れた瞬間、身体が強張り鏡の中の女の顏は歪んで指を締め付け、親指で神経が集まった小さな蕾を愛撫し、こすれば締め付けが強くなり更に身体が強張った。
そして漏れる喘ぎ声。

「ハアっ…」

「どうした?気持いいか?それならもっとしてやろうか?」

司は指を締め付ける場所の探索を始めたが、いっそのことこの指で膜を突き破ろうかと思うも、楽しみは後に取っておくではないが、感じやすい襞を指で弄び続けた。
するとこれまで強張っていた身体が弛緩してきたのが感じられた。

「….は…ああっ…」

指で中を掻き混ぜて抜くと同時に溢れた生あたたかい液体が手のひらまで流れ司を刺激した。
それは男のはっきりとした性欲の表れである硬くそそり立つペニス。
大きく膨らんだ亀頭。そしてその先端に光る雫。
それらが女を欲しいと言っていた。

「つくし。鏡を見ろ。ここを見ろ」

言うと女と鏡の中で目を合わせたが、広げられた足の間にあるそこは、ぬらぬらと光りピンクが艶めいていた。

「お前のここはこれから俺のものになる。ここを何度も俺が出入りしてお前は俺の女になる。今はピンクだが使えば使うほど濃くなる。つまりここは俺の色に染まってくる。
お前はきっとこれが好きになる。それからお前のここはうっ血したようになって俺を欲しがるようになる。挿れて欲しいと強請るようになる」

司は女の腰を持ち上げると、一気に素早くペニスを女の身体に収めながら座らせた。

「あぁぁ__っっ!」

膜が破られたと同時に上がる叫び声と反り返る背中。
だからその身体を掴み、容赦なく女の腰を上下させた。

「….は….あっ……あっ….」

膜の向こうにあるのは狭い胎内。
その最奥にある場所を目指し普段なら取らない体位で女を責めた。

「どうだ?感じるか?俺を感じるか?」

「…..ぁ…..っつあ….はぁぁ…….あん!ああっ!」

女は苦痛なのか。快楽なのか。
言葉にならない喘ぎ声を上げているが、司を包み込んだ胎内はねじ込まれた異物に纏わりつき濡らしていく。

「そうか。お前はこれが好きか?こうされるのが好きなんだな」

司は女の腰に手を掛け、もっと深く、さらに深く女の中へ入ろうと身体を持ち上げては引き下ろしていた。

「あっ!あっ!ん…..ああっ!」

女はすすり泣くような喘ぎ声を上げるだけで司の問いに答えることはなかったが、今は話すことも考えることも出来ないのだろう。それに鏡に映った女の顏は嫌いだとは言ってはいない。
だからもっと激しく突き上げたが、突き上げるたびに揺れる小さな胸の先端は固く尖り、脚の間から聞こえるヌチャヌチャとした水音は、一層湿り気を増しグチョグチョという音に変わった。

「ハァ….っああっ!」

「いいぞ。いい。お前の身体は俺に合うように作られてる」

事実司の身体は身体の奥から女を求める蠢きを止めることが出来なかった。
それに女の身体を持ち上げるたびに迸る液体が女のものか。それとも司のものか。そんなことはどうでもいいとペニスは飢えた獣のような凶暴さで女を突き上げ続けた。

「はぁ、ああっ!あっ!アッ、アッ!ああっ_____!」

女がイッたのが分かった。
だから司も女の悲鳴がのぼりつめたその先をのぼり、手を離すと女の顏に触れ、喘ぎ声を吸い取るように唇を重ねた。













「支社長」

司はその声に現実に引き戻されパッと瞳を開いた。
そして目の前に現れた秘書に毒づいたが、秘書は司の機嫌が良かろうが悪かろうが関係ないといった態度で言った。

「書類に目を通していただけたのでしょうか?」

「あ?ああ。全部見た」

「ありがとうございます」

秘書はそう言うと司の前に湯気の立つコーヒーを置いた。
だからそのコーヒーを口に運んだが、思った以上に熱く再び毒づいたが、秘書はそんな司に言った。

「ところで牧野様は最近ドイツ語教室に通い始めました」

「ドイツ語教室?」

それは初耳だった。

「はい。牧野様は仰いました。オリンピックが延期になったことでチャンスが出来た。この状況を前向きに捉えたいからドイツ語を習うことにしたと」

今年開催予定だったオリンピックが来年に延期になったことは周知の事実だが、何故秘書は司が知らない恋人の思いを知っている?

「牧野様は小川様が話す言葉を理解したい。出来ることなら言葉を習得して来年ボランティアとして参加したいと仰いました。
それから支社長が出張から戻られた時には少しでもドイツ語で会話が出来ればと毎日のように通われているそうです。何しろ支社長はドイツ語をお話になられますので、ご自分もと思われたようです。それに支社長を驚かそうと思われたようです」

隠し事が苦手な女の隠し事が言語学習だったことは確かに驚いた。

「それに我社は手厚い福利厚生があり自己啓発を社員に勧めております。
語学習得手当が年間30万。健康増進手当も年間3万まで補助が出ます。牧野様はその語学習得手当を申請されております。ちなみにその教室の教師はドイツ人女性で彼女のご自宅が教室となっております」

と言って秘書は書類を差し出したが、そこに書かれていた住所はあのマンションの住所。
それにしてもいつも冷静な秘書は司の頭の中までお見通しなのか。
恋人の素行を気にしている男に求めていた答えを示していた。
そして恋人が理解したいと言った小川様の小川というのはドイツ語では「バッハ」。
そこにはオリンピックを楽しみにしていた恋人の気持が見て取れた。

「ちなみに牧野様が学習を始めたのは支社長がドイツへご出張される少し前からですが、さすがティーン・オブ・ジャパンの準優勝者。集中力は素晴らしいものがあります」

その言葉に恋人が心ここにあらずといった状況だったのを理解した。
何しろ恋人はこうと決めたら、それを自分のものにすることに努力を惜しまない女なのだから。







今年東京で開催される予定だったオリンピックが諸般の事情で延期になったことは残念だが、来年の楽しみが出来たと思えばいい。
それにきっとその頃には延期されることになった理由も去り世界は落ち着いているはずだ。
そう思う司の健康法は好きな人に会って、その人の笑顔を見ること。
その人と一緒に食事をして笑い合うこと。
そして、心の免疫力を高めるのは恋人の存在。
彼女がいるだけで世の中のすべてのことがバラ色に見える。

「西田。アイツを迎えに行く。車を用意しろ」

だから会ったら言おう。

『 Ich libe dich 』(イッヒ リーベ ディッヒ)

ドイツ語で愛してると。



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2020
03.29

金持ちの御曹司~She’s So Good~<前編>

妄想に酔いしれる癖がある男。
彼は日本で最もサングラスが似合う男三人のうちの一人だと言われるが、そんな男が黒いメガネの奥からひとりの女性を見つめていた。

「怪しい」

「だから何が怪しいんだ?」

「何がって見りゃ分かるだろ?」

「いや。司。怪しいってどこが怪しいんだ?それにお前が言う怪しいってのは当てにならねえことが多いからな。だから何が怪しいか具体的に言え。それに俺に言わせりゃ俺らの方がよっぽど怪しいぞ」

あきらは親友から大変なことが起きた。すぐに来てくれてと言われ仕事が終わると親友の執務室に駆けつけるように立ち寄ったが、そこで昔テレビで見た刑事ドラマの刑事がかけるようなサングラスを渡され、行くぞと言われた。
それにしても、ド派手なカーアクションで有名な、なんとか軍団の団長のようにいきなりショットガンをぶっ放すようなことはしないだろうが、「いいか。俺たちの行動は極秘だ。だから俺のことはタカと呼べ。お前のことはユージと呼ぶ」と意味不明なことを言われた。
だが親友のジャケットの袖口から覗くダブルカフスの手が拳銃を持てば、まさに横浜を舞台にしていた、あぶないと言われた刑事のドラマのようだと思った。
だからあきらの脳裡に流れたのはそのドラマのオープニングの曲だった。

それにしても、日暮れにサングラスをかけたスーツ姿の男ふたりが女の後を付けるなど怪しいことこの上ない。それも地下鉄の階段を降りる女の後を追うサングラス姿の男など下手をすれば職務質問をされてもおかしくない状況だが、ホームに降りたふたりの男は女が電車に乗り込むと女とは別の車両に乗り込んだ。やがて女が3つ目の駅で降りると同じように降りた。
そして地上に出た女の後をつけたが、女は瀟洒なマンションに入った。

「おい。司。牧野はこのマンションに何の用があるんだ?」

ふたりの男が尾行していたのは司の恋人の牧野つくし。

「あきら....いや、ユージ。俺は司じゃない。タカだ。それにそれを俺に訊くな」

「訊くなって言われても、俺はお前にこうして連れ出されてここにいるんだ。だから何があったかくらいは教えてくれたっていいはずだ」

「あいつ、愛しの彼氏が2週間の出張から戻って来たってのにそっけない」

あきらは何事かと思ったが、やはりそんなことかと思った。
それにしてもこの男は何年たってもひとりの女に夢中で、その女のこととなるとビジネスそっちのけになるのだから周りにいる人間はたまったもんじゃないと思った。
だがあきらはそんな男とは幼馴染みで親友だ。だから男の思いに付き合うことにした。

「司…..じゃないタカ。牧野は元々ベタベタするのが苦手な女だ。だからそっけないのは性分だ」

そんな女は男に甘えるのが下手で物事を真剣に考え過ぎる。
だからある意味で優柔不断な面があった。そして恋に臆病な女だった。
そしてそんな女を好きになった男は周囲を気にすることなく真っ直ぐに女に向かっていく男。初めての恋になりふり構わない男。格差社会の頂点にいる男の恋路の過程には乗り越えなければならない苦難もあったが純粋だった。
そして男は未だに彼女のことになると目の色が変わる。

「けどな。あいつ、俺からの電話に出なかった。それにメールを送ったが返事がない。思えば出張に行く前、キスしてる時あいつは考え事をしていた。心ここにあらずで頭の中に俺以外のことがあった。だから俺を避けてるように思えてならねえ」

司は、そう言うと恋人が入っていったマンションのエントランスを見つめていたが、オートロックのマンションへの訪問は慣れた形の訪問に思えた。

「おい、牧野がお前を避けてるって言うが、お前まさか牧野が浮気をしてるとでも思ってるのか?だから俺たちは牧野を尾行したのか?」

あきらは親友の恋人の牧野つくしが浮気をしているということに、まさか。嘘だろ。という思いで言った。それにあの牧野つくしが司を裏切るとは思えなかった。

「俺は牧野が浮気するような女だとは思えねえ。電話に出なかったのもメールに返事がなかったのも携帯を家に忘れてきたからだ。それにキスしてる時、考え事をしていたのは歯が痛かったからでキスどころじゃなかったんじゃねえのか?きっと歯医者の予約しなきゃとか考えてたんだ。それからお前が避けてると感じたのは、きっとニンニク料理を食べた後で自分自身が臭かったから避けたんじゃねえのか?」

あきらは諭すではないが、司の気持ちをなだめるためにそう言ったが、言われた本人はマンションのエントランスを直視したままじっとしていた。

「それにな、司….いや、タカ。大丈夫だ。牧野はお前を裏切ってない。あいつはひとりの男と付き合いながら、他の男と付き合うような器用さはない。俺や総二郎と違ってあいつはお前と同じで二股は絶対無理だ」

とは言え高校生の頃。類と牧野が海辺でキスをしているところを見た男がいた。
そんなあきらの思考が伝わったかのように隣にいる男は「いや、だが類のことがある」と言ったが、あれは随分と昔の話で今はそんなことはない。
だが何故か男は恋人の不実を疑っていた。

「それでこれからどうする?このままここで牧野が出て来るのを待つのか?」

「いや。今日は帰る」

「おお。そうしろ。きっとこのマンションには牧野の友達が住んでて、もちろんその友達は女で、その友達に会うためにここに来たんだ。それにもしここでお前が待ってることをアイツが知ったら、あたしのことを尾行してたのって怒るぞ?だから帰ろう。そうだ。帰った方がいい」










司はあきらと別れると、やり残した仕事を片付けるため車を呼び会社に帰ったが、あきらを呼び出したのは、決定的な瞬間をひとりで目撃するのが怖かったからかもしれない。
それはどんなに金持ちだとしても、カッコいい男と言われても、彼の心を掴んで離さない唯一無二の女性が自分ではない他の男のことが好きということを知るのが怖かったから。
つまり強気だと言われる男も、こと恋人のことに関してだけは気弱になることがあるということだ。

そして広がる妄想が司を縛り付けた。
それは目の前に置かれたストローの袋。
それにしても何故ここにストローの袋がある?
そう言えば出掛ける前に野菜ジュースを持って来させたが、その時にストローが付けられていたことを思い出した。
そして思い出した。いつだったか。あきらはその袋をよじって人の型をふたつ作るとそれを重ね合わせた。
そしてニヤッと笑って「面白いものを見せてやるよ」と言うと重ねた人の形をした袋に水を垂らした。するとよじられた袋は水を含んで膨れ男と女が愛し合うように、くねり始めた。
あの時はそれを見て笑ったが、今ストローの袋でそんなものを作られたらテーブルごと破壊してしまうはずだ。

寝ても覚めても彼女が好き。
だから自分の知らない彼女の行動が胸を切り裂く。
彼女のことになると冷静さが失われ不安だけが心に残る。
そしてその不安が司を呑み込み良からぬ妄想が脳裡に浮かんだ。
それはストローの袋のようにあのマンションのどこかの部屋で男と女が重なる姿。
司の知らない男の背中になまめかし声を上げて爪を立てる恋人の姿。
汗ばんだ身体で男に抱かれている恋人の姿。

「冗談じゃねえぞ!」

司は声を荒げるとストローの袋をちぎってゴミ箱に捨てた。
そして良からぬ妄想を打ち消すため目を閉じた。



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