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2019
11.09

金持ちの御曹司~叱られない男~

永遠の5歳と言う女の子が大人に向かって講釈を垂れる。
そんなテレビ番組があるが、その女の子の決め台詞は、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」。司は今までの人生でそんな言葉を言われたことはない。
それに司にそんな言葉を言おうと思う人間もいない。
何しろ司は道明寺財閥の後継者で、人が見る姿は引き締まった身体と凛々しい横顔に鋭い視線。それは近寄りがたい雰囲気を醸し出していて、ボーっとしているようには見えないからだ。
だがこの瞬間、5歳の女の子にそう言われてもおかしくないと感じていた。
それは今ここにある危機とでも言えばいいのか。この危機を乗り越えなければ恋人にそう言われるのではないかという思いがあった。










「ねえねえ道明寺。この卵。ゆで卵だと思う?それとも生卵だと思う?」

土曜日。
司は取引先の社長と予定していたゴルフが社長の愛人が自宅に乗り込んで来て修羅場になっているという先方の都合で流れると、その足で恋人のマンションを訪ねドライブに連れ出した。
その時恋人は、ドライブに行くなら弁当を作るからと言ったが時間がもったいないから弁当はいい。昼メシはどこかで食えばいいと言った。
すると恋人は、「待って!じゃあ昨日の夜ゆでた卵を持って行くから!」と言って冷蔵庫の中から卵を掴んできた。
それにしても何故ドライブに行くのに卵を持って出かける?
お前はゆで卵が好きな女だったか?
そう言いたかったが、恋人は時々突拍子もない行動を取る。だから気に留めることはなかった。
だが休憩を取ろうとサービスエリアに止めた車の中でハンカチに包まれた卵を差し出し言った。

「道明寺。あたしもしかして生卵を持って来たかもしれない。あたし卵はいつも冷蔵庫の卵ポケットに置くんだけどね。つい最近までパックから出さずにそのまま入れてたの。
でもそれを止めてパックから出して置くようにしたの。そうしたら今までだったらパックに入っていたら生卵だって分かったけど、出して並べるようにしたら、生卵とゆで卵がごちゃごちゃになってどれがゆで卵か分からなかくなったの。だからもしかするとこれ生卵かもしれない」

司は恋人が言った卵ポケットやパックと言われてもよく分からなかったが、結論として言えるのは、今恋人が手にしている卵が生卵ならとっくに割れているはずだということ。
だから心配そうな顏をしている恋人に言った。

「あのな。この卵が生なら、ここに来るまでの間に割れてお前の鞄の中は黄色い液体でドロドロになってるはずだ」

「そうよね。やっぱりそうよね?これゆで卵よね?」

司の言葉に、もしかすると生卵を掴んで来たのではないかと思っていた恋人はホッとした表情を浮かべた。

「ああ。ゆで卵だ。俺が言うんだから間違いない。俺が何か間違ったことを言ったことがあるか?」

その言葉に恋人は少しだけ考えたが、「じゃああたしちょっと手を洗って来るね。戻ってきたらこの卵を食べるから預かってくれる?」と言って卵を司に渡し車を降りた。








時々……いや。大人になっても相変わらずおっちょこちょいな所がある司の恋人。
だが司はその恋人が手を洗って来ると言って車を降りた途端、頭を過ったのはもしかすると…という思い。
それは、これはゆで卵だと言ったが、もしかすると生卵かもしれないということ。
だが自信を持ってゆで卵だと言い切った。
生卵ならとっくに割れていると言った。
けれど急に自分の言葉に自信が持てなくなった。
それに、もしこの卵が生卵だとすれば、恋人が卵の殻をむいた途端、黄色いドロリとした液体が彼女を汚すということになる。そして嘘つき!と言われることになるが、司は恋人に嘘をつきと呼ばれたくはない。司は恋人の前ではいい男でいたい。それは頼れる男だということだが、卵ひとつでその信頼を失うことは避けたかった。
だからスマホを取り出すと調べ始めた。
それは生卵とゆで卵を見分ける方法。そこに書かれていたのは、テーブルの上でコマを回すようにクルクルと回転させて止めて動き出すのが生卵。
だが車の中に回す場所などない。
そして他に書かれているのは見た目で判断。光りに透かして光りを通さないのがゆで卵。
だが確実性がない。
だから今司の手にある卵はゆで卵なのか。それとも生卵なのか。

そこで司はあきらに電話することにした。
あきらは人妻との付き合いが多い。
だから卵の見分け方を知っているはずだ。

「ああ。俺だ。お前、卵が生か茹でたものか見分ける方法を知ってるか?」

『はあ?卵がなんだって?』

「だから卵が生かそうでないかを見分ける方法だ!」

『司お前の話はいつもいきなりだが、なんでそんなことを訊く?』

「ああっ?!なんでもいいだろ!いいから早く教えろ。お前は生卵とゆで卵の違いを見分ける方法を知ってるか?」

『そんなこと知るかよ。それに卵ならテーブルの隅でもなんでもいいからぶつけてみれば分かることだろ?生なら殻が割れた途端黄色い液体が零れる。そうじゃないなら白身が覗く。ただそれだけのことだろ?』

あきらは呆れた様に言ったが、まさにその通りだ。
だが今の司が求めているのは、殻を割ることなく見分ける方法だ。

「あきら。俺が訊きたいのは、割ることなく見分ける方法だ。お前人妻と付き合ってんだろ?人妻なら料理くらいするだろうが!だから誰でもいい。人妻に電話して訊け!」

『あのなあ司。俺の付き合ってる人妻は自分で料理をすることはない。はっきり言って卵の茹で方すら知らん。だから俺の周りにいる女に訊くのは無駄だ。それに道明寺司ともあろう男が卵が生かそうじゃないかを確かめる方法を知ってどうすんだよ?』

ダメだ。
話になんねえ。
それに訊いても分からない人間といつまでも話をしていては時間が無駄になる。
こんなことをしている間に恋人は手を洗って戻って来る。
だから司は電話を切ると再びスマホの検索を始めようとしていたところで、電話が鳴ったが、それは恋人から。

『あ、道明寺。あのね、お手洗い終わったんだけどお土産とか見ていい?』

サービスエリアの土産物を見て回るのが好きという恋人。
だから司は卵問題を解決する時間が持てることを喜び「ああ。いいぞ。俺のことは気にするな。ゆっくり見てこい」と言った。そして電話を切ると再び検索を始めたが、指先は動画共有サービスのサイトに触れていた。

それは卵スプーンリレーの動画。
文字通りスプーンを使ってひとつの生卵をリレー方式で受け渡していくゲーム。
卵は重くないが、何故か渡す方も受け取る方もプルプルと手が震えて今にも落としそうになっていた。
司はそれを見ながら思った。
これがスプーンではなく他の手段ならもっと面白いのにと。
それは生卵を手や道具を使うことなく隣の人間に渡すというゲームだが、手を使わないということは、男なら顎の下に挟むが女なら胸の谷間に挟み、隣にいる人間に身体を密着させ受け取ってもらうことになる。
つまり生卵を恋人の胸の谷間に挟み、司はその卵を身体で受け取ることをする。
だが渡すものは生卵。もし割りでもすれば、それこそ洋服は黄色い液体に塗れることになる。
だから慎重さを要することになる。
そしてこのゲームの参加者は司と恋人のふたりだけ。
いつだったか。ポッキーゲームとやらで咥えた菓子を無視して唇を重ねたことがあったが、あれは子供じみた遊び。だがこれはスリルを伴う大人の遊び。
いやだが生卵じゃ色気もへったくれもない。
それなら何を挟んで渡す?
ドキドキしながらもエロさが感じられるもの。
それは_______







桃。

そうだ。甘くてジューシーな桃。
それなら卵と違って身体についても舐めることが出来る。
つい先日夢の中に出て来たのはマンゴーだったが桃も捨てがたい。
それにこれは無事に相手に受け渡すことや勝つことが目的じゃない。
ゲームと言う名でいかに相手の身体に密着することが出来るかを楽しむセクシーな戯れ。
そこで司は桃を使った受け渡しゲームの様子を想像した。







「いいか。牧野。このゲームに負けた方は相手チームの言う事を何でも訊くことになる。
俺たちの対戦するチームはあきらと人妻のチームだ。だから絶対に負けられない戦いだ。そのためにも練習が必要になる」

そう言った司の顎の下に挟まれているのは熟れ切った桃。
それを落とすことなく恋人に渡すにはどうすればいいか。
ルールはとにかく桃が床に落ちなければいい。
だから恋人の身体を引き寄せ密着させると、司と同じように顎で挟めるようにしようとした。
だが恋人は身体をひねって受け取ろうとしたとき足を滑らせ転びそうになった。
だから司は恋人を抱き、その身体を自分の上にして床に倒れこんだ。

「牧野。大丈夫か?」

「ええ。大丈夫。それに桃も無事よ。落ちてないわ。桃はあたし達の間にあるわ」

恋人が言った通り桃はふたりの間にある。
だがこの状況は司が抱きしめていることもあり、いつも小ぶりな胸が両側から寄せられて谷間が出来て桃はその谷間に収まっていた。

「そうか。桃も無事か。それなら練習を続けるか」

司は言うと恋人を抱きしめたまま身体を捻り彼女を自分の身体の下にした。
そして恋人の胸の谷間にある桃を押し上げて顎の下に挟もうとした。
だがそうするためには、顔を恋人の胸に押し付けることになるが、それは実に楽しくてやらしい行為だが、司は先日恋人から受け取ったメールを思い出していた。

それはかしこまった社内メールの文末に書かれた「やらしくお願いします」。
だがそれは「よろしくお願いします」を打ち間違えたに過ぎないと分かっているが、そのメールを受け取ったのが司だけで良かったと思った。
何しろ「やらしくお願いします」そんなメールが送られて来た男は、頼まれた以上送って来た女にやらしい事をするに決まってる。
だからこそ司は、送られてきた男の権利とばかりやらしい事を続けることにしたが、これから桃運びよりもっと露骨にやらしいことをするつもりだった。
そうだ。シルクのシャツが桃の汁で汚れても構わなかった。
裸になった身体に桃の果肉を擦り付け、スムージーのようになったとしても、ふたりして桃源郷に行くことが出来るならそれで___

その時だった。

「ごめんね、道明寺。遅くなっちゃった。ねえこれ見て。これここのサービスエリアの名物なんだって。試食したら凄く美味しかったから買っちゃった」

と言って助手席のドアが開き乗って来た恋人が見せてくれたのは何かの漬物。

「あ、それからこれもね?」

次に見せてくれたのはブルーベリージャム。

「ブルーベリーは目にいいから買っちゃった」

と言ったが、それならそれを喰って「よろしく」と「やらしく」を間違えないようにしてくれと言いたかったが、「さてと。ゆで卵食べなくちゃ。道明寺。それ頂戴?」と言われ司は慌てた。
預けられたこの卵が茹でたものか。それとも生なのかの結論を出せていないからだが、恋人は司がゆで卵だと言ったことを信じて卵の殻を剥こうとしていた。

「ま、牧野。ちょっと待て。お前なにもここで___」と言いかけたが時すでに遅し。
次の瞬間悲鳴が上がると思ったが悲鳴は上がらなかった。
そこには丁寧に卵の殻を剥く恋人の姿があって司はマジマジと卵を見つめたが、それに気付いた恋人は、「やだ。どうしたの?道明寺、もしかして卵食べたいの?それならそうと言えばいいのに。じゃあどうぞ。食べていいわよ?」
と言ってきれいに殻を剥いた卵を差し出したが、司はいや、そうじゃないんだと言いたかったが、微笑みを浮かべた恋人の手から卵を受け取った。
そして暫く卵を見つめ、それから恋人を見た。

「牧野」

「なに?どうかした?」

「これ、半分にしないか?」

「?」

「だから半分お前が食え。俺とお前はふたりでひとりだ。だからこの卵も半分お前にやる」

司は言うと卵を半分だけ食べた。
そして残りを差し出すと恋人が、「道明寺遠慮しなくてもいいのに。本当にいいの?」と言ってから食べる様子を見ていたが、「いいか。牧野。卵は生命の誕生や再生の象徴だ。それに今はごく当たり前に手に入る卵だが昔は贅沢なもので庶民は手に入れることが出来なかった。その卵を俺とお前は分け合って食べた。これから先も俺は何でもお前と分け合いたい。それは喜びも苦しみもってことだが、この卵は喜びのひとつだな。美味かったぞ、牧野」

と言って怪訝な顔をして司を見る恋人に笑ってみせたが、内心では卵が生じゃなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしていた。









大財閥の御曹司である男が恋人とゆで卵を分け合い食べる。
それは微笑ましい光景を通り越して何かの儀式かまじないに見えるかもしれない。
だがそうだとしてもいいじゃないか。
愛する人とは全てを分かち合いたいと思うのが司なのだから。
喜びも哀しみも。

そして快楽も。

「なあ牧野。ところでお前。桃。好きだろ?」

「も…..桃?」

「そうだ。桃だ」

「え?….うん…..嫌いじゃないけど」

だがそう言った女の言葉に若干の戸惑いがあるのは、司の顔に浮かんだ何かを読み取ったから。
そして司は恋人の戸惑いの表情に対し自身の顔に笑みを浮かべたが、その笑みが深まり、やがてそれが捕食者の笑みへと変わるのを感じていた。

「牧野…..」

「え?なに?」

恋人が助手席で身じろぎをしたのは、司が近づいて来たから。

「ちょっと待って!ま、待って!周りに人がいる!ちょっとここサービスエリア___!!」

周りに人がいようがサービスエリアだろうが、パーキングエリアだろうがキスをするのに場所は関係ない。キスはしたくなったらするもので遠慮なんかするものか。
それに卵を食べた後だとしても関係ない。
それにしても卵が生卵じゃなくてゆで卵で本当に良かった。
あの卵がゆで卵だったことで男としての威厳は保たれた。
何しろ男は威厳が肝心なのだから。

司は常に大局を見る。
それは企業の経営に係わる人間にとって必要なこと。
だから普段の司なら卵が生だろうが茹でたものであろうがどうでもいい。
だがそれに恋人が係わってくると全く違う。
何故なら恋人は司の全てで、司の世界は彼女を中心に回っているのだから。
それに司の人生ですべきことは決まっている。
そして今すべきことは、恋人を抱きしめてキスして愛してると言うこと。
だから唇を離すと言った。

「愛してる。牧野」と。




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2019
10.16

金持ちの御曹司~愛すべき男のハラスメント~<後編>

司は教師で牧野つくしは生徒。
当然だがどこの高校も教師と生徒の恋愛は禁止されている。
だから彼女が卒業するまで自分の気持ちを告げるつもりはなかった。
だが言ったことをなかったことにするつもりはない。
そして司は牧野つくしに自分の気持ちを告げたが、彼女からは何の言葉も返っては来なかった。だから思いを封印し教師と生徒として接することを決めると、歳月は緩やかに流れて行った。

練習はいつもグランドでラガーシャツを着た大勢の生徒が一緒だった。
だが今日の少女は学校指定のジャージに白いTシャツ。
そして司も同じようにジャージ姿。
司は牧野つくしにラグビーの個人指導をすることにした。
だから自宅に呼んだが、そこは世田谷の大豪邸。
広い庭にはテニスコートやバスケットコートがあるのは勿論、ラグビーのゴールポストも立っていた。
そんな司の邸で行われているのは、自室に用意されたホワイトボードを前にした講義で、司はペンをボードに走らせながら説明していた。



「タックルは体当たりで相手を倒すことが出来る。たが素早さも必要だ。
ただ、肩より上をタックルすることは違反だ。だから気を付けろ。でないとファウルを取られるからな。相手の身体の低い場所を狙え。相手の腰に絡み付くようにして押し倒せ。ゲームの流れを変えるナイスタックルを心掛けろ」

そう言った司はペンを置くと、

「よし。これから実践だ。牧野。低い位置から俺を狙え。俺が教師だからといって遠慮するな。タックルして俺を押し倒してみろ!」

司はそう言ってから「よし!来い!」と言って両手を広げ、つくしが体当たりして来るのを待った。
だが司の指導で素直で真面目でシャイな少女に戻った牧野つくしは、司に体当たりすることを躊躇っていた。

「道明寺先生。無理です。あたし不良だったけど男の人とそういった関係になったことがないんです。だから男の人に抱きつくのは無理です」

と真顔で言った少女は恥ずかしそうに頬を染めた。

「牧野。タックルは男に抱きつく行為じゃない。それに俺を男と思うな。俺のことは永林の大河原だと思え!英徳のライバル校の永林の大河原滋だ。あの生意気な女にタックルをするところを想像しろ!」

司はそう言って再び両手を広げ、つくしが体当たりしてくるのを待った。
だがやはり目の前の少女は恥ずかしそうにしていた。

「そうか。どうしても男の俺に体当たりすることは出来ないか?だがな。そんなことじゃああの女を倒すことは出来んぞ!だが出来ないというなら仕方がない。それなら俺がお前にタックルをしてやり方を教えるから身体で覚えるんだ。それからタックルは生身の身体でぶつかり合うプレーだ。中途半端なタックルをすれば相手に怪我をさせることになる。だから俺はお前に怪我をさせないために裸になる」

司はそう言ってジャージを脱ぎブリーフ姿になった。
そして服を脱いだ男が手にしているのは、テーブルの上に置かれていた果物かごの中から掴んだマンゴー。

「牧野。この楕円の形は少し小さいがラグビーボールの形に似ている。だからこれを使って練習する。お前はこのマンゴーをボールだと思って持て。絶対に俺に取られないようにしろ」

目の前の少女は、言われた通り赤いマンゴーを手にすると胸元に抱えた。

「よし。いいぞ。俺のタックルからそのマンゴーを守れ!」

司は言うと、つくしの足もと狙うようにタックルをした。
そして少女の身体を床に押し倒すと、いとも簡単にマンゴーを奪い取ったが、熟れている実が潰れると当然だが下にいる彼女のジャージとTシャツにマンゴーの汁がかかった。

「牧野大変だ!お前のジャージとTシャツにマンゴーの汁が付いた。悪かった。すぐに洗わせるから脱げ」

と言った司はつくしの着ているジャージとTシャツを脱がしにかかった。

「先生?!」

「牧野。大丈夫だ。安心しろ。このジャージとTシャツを洗濯するだけだ。何もしやしない」

だが司はTシャツを脱いだ牧野つくしの姿に少女ではなく女を感じた。
司は牧野つくしのことが好きだ。だが今は教師と生徒の間柄だ。だから自制していた。
けれど司の手についていたマンゴーのオレンジ色の汁が白い肌を伝う様子に、その身体についた濃厚な果汁を舐めたくなった。

いや、果汁だけではなく他のものも。

そしてそこにあるのは男としての欲望___






「せ、先生?!」

司は牧野つくしの身体を抱え上げると、部屋の奥にあるベッドへ運んだ。
そして着ていた下着を脱がせ自身のブリーフを脱ぎ捨てると、のしかかりマンゴーの汁が付いた肌に唇を寄せ舐め取った。

「あっ!」

司は牧野つくしに欲望を感じ激しいセックスがしたかった。
だから指先に付いたマンゴーの汁を胸の頂に擦りつけると、そこを口に含んだ。

「ああ!!先生!!ダメ…..あっ…ん…」

司は舌で乳首を舐め唇で挟み噛んだ。
胸の膨らみは小ぶりで控えめだがマンゴーの汁で甘かった。
だから片方の乳首からもう片方へと移動して舌と指でいたぶり続けると、あえぎ声をつのらせた少女は首を左右に激しく振りはじめ、もっとお願いと懇願した。
だから司は顏を上げ、濡れそぼった乳首の上でニヤリとした。

「牧野。俺が欲しいのか?」

だが少女は怖いのか。さっきとは別の意味で首を振った。
だから司は言った。

「お前は男と経験がないと言ったが、経験なんてこれから積めばいい。俺とな」

「先生…..」

少女の頬は、ほのかに朱色に染まった。
それは司が欲しいという意思表示。

「牧野…」

「先生。つくしって呼んで」

司はそう言われ微笑んだ。
そしてこれから起こることに期待をして名前を呼んだ。

「ああ。分かった。つくし__」

その時だった。
いきなり部屋の扉が開き、ズカズカと入って来たのは司の恩師である西田。

「道明寺!お前は何をやってんだ!お前は教師だろうが!それなのに教え子に手を出すとはどういうつもりだ!俺はお前をそんな風に教育した覚えはない!」

司は恩師のいきなりの登場に驚いた。
だから少女の身体に布団をかけてからベッドから降りたが、司の前に立つ西田は言った。

「俺は今からお前を殴る!」

「先生。違うんだ。俺たちは愛し合って__」

と言いかけたが、西田の右手の拳は司の頬を殴った。













「支社長。お目覚めですか?それにしてもそちらのマンゴーは甘く危険な香りがいたします」

司は右手を頬に添えたまま目が覚めた。
執務室の応接テーブルの上に置かれているのは宮崎から送られて来たマンゴー。
果物の女王だという果実は、恋人が好きだということから内緒で取り寄せ会社に送らせた。
そうしなければ、高いのに勿体ないと言うからだ。
だから自宅に帰るまでそこにあった。

「マンゴーの香りは精神を安定させ、リラックスさせる効果があると言われています。さぞやいい夢を見られたことでしょう」

と西田は言ったが、司は西田に殴られた夢を見たばかりで、どこが精神を安定させリラックスをさせるだと思った。
それにしてもまさか夢に西田が出てくるとは思わなかった。
何しろ今まで夢に西田が出て来たことなどなかったからだが、今までのこともあり言いたいことがあった。

「西田。お前はどうしていつもいいところで邪魔をする?お前は嫌がらせの名人か?」

そう言われた西田は何のことか全く分からないといった様子で、「そうですか。お役に立てて幸いでございます」と言って書類を置いて出ていったが、その書類は恋人のいる海外事業本部からの書類。
そこには牧野つくしの名前があって、司は思わずその文字を指でなぞっていた。

そして思った。
夢の跡をなぞることをするのではないが、今夜マンゴーを食べたあと、その甘い果汁を恋人の胸の頂で味わうのも悪くない。そしてその先にあるものを探検するのも悪くないと思った。
つまりふたりでマンゴーを使った独創的な愛し方をする。
そのひとつとして司の身体についたマンゴーの果汁を舐めてもらう。
だが舐めてもらうのは果汁だけでなく、他のものも。
そう思うと、これからの仕事も捗るような気がした。
そして夜が来るのが待ち遠しかった。



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2019
10.15

金持ちの御曹司~愛すべき男のハラスメント~<前編>

大人向けのお話です。
未成年者の方、またはそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
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男はメガネをかければ男前があがると言われるが、司がメガネをかければキャーキャー言われることは間違いない。
だが司の恋人はメガネをかけた男をまじまじと見つめ言った。

「なんだか賢そうに見えるんだけど」

だから司は言った。

「あのな。お前の日本語は間違ってる。賢そうに見えるじゃなくて俺は元々賢いんだよ!」

そしてメガネを外す様子は萌えの対象であることは言わずもがなで、そんな男が変わらぬ日常から抜け出すために必要としているのは豊かな想像力。
その想像力を鍛えることを日々している男は、恋人と一緒に過ごした休日を思い出していた。

ふたりは、4年ごとに開催されるラグビーワールドカップの日本大会で快進撃を続ける日本チームを応援するため横浜にいた。
そしてふたりが観戦した試合は、ふたりの声援、いや日本中の熱い声援を受けて見事な勝利を収めたが、それはジャージの胸に桜のエンブレムを付けていることから「ブレイブ・ブロッサムズ(Brave Blossoms)、勇猛な桜戦士」の愛称に恥じない素晴らしい試合だった。
そして司は、そこでラグビーの試合を初めて見た恋人がラグビーのファンになったと言ったことから想像力が働いた。












それは荒廃した英徳学園高等部を舞台に繰り広げられる学園ドラマ。








「道明寺先生。我が学園は資産家の子弟の教育をする歴史と伝統を誇る学園です。
ですが中には問題児もいます。そんな生徒の親は学園に対して多大な寄付をしています。
ですから退学させる訳にはいかないんです。我々はその生徒たちが卒業するまで何をする訳でもなく時間が経つのを待つしかないんです。そんな生徒たちの集まりが女子ラグビー部です。まあラグビー部といっても実体はないに等しいといいますか…..。
とにかくあの部は学園の問題児の中でも一番と言われる牧野つくしがいます。ですがあの子は元来頭の良い子で成績も優秀でした。初等部の頃はスチュワーデスになるのが夢だと言っていました。しかし両親が離婚して父親が新しい妻を迎えるとガラリと変わりました。それはまるで規則正しく積み上がっていた積み木をくずしたようなものです。恐らく義理の母親と合わないのでしょう。生活態度が乱れ、学園でも反抗的な態度を取るようになり他校の生徒と喧嘩をするようになり不良少女とよばれるようになりました。これ以上今のような状態が続くと我が学園としても非常に困るといいますか……とにかく手を焼いている次第です」

司は、かつて企業のラグビー部に所属し全日本代表選手に選ばれたことがあったが、引退後、高校教師として別の高校で体育の教師として働いていた。
だがある日、司はひとりの男と知り合った。その男は英徳学園の校長でラグビーの大ファンであることから、司が社会人ラグビーで活躍していたことを知っていて、その経歴を是非わが学園のラグビー部で発揮して欲しいと乞われ英徳学園へ赴任することになった。

英徳学園の女子ラグビー部は、牧野つくしが中等部にいた頃に立ち上げたという部。
校長は実体はないに等しいと言ったが、司は校長が言いたいことを理解していた。
それは、かつて自分もそういった学生時代があったからだ。

部活という名で部室を占領し、酒を飲み、タバコをふかしていた。
校内でバイクを乗り回し、置いてある消火器の中身を教室中にまき散らし、窓ガラスを叩き割り椅子や机を放り出した。
だがそんな司が更生し高校の体育教師になったのは、ある男と出会ったからだ。

その男の名前は西田。
何があっても表情を変えない、笑わない男は髪を後ろに撫で付け、メガネをかけ、荒廃を極めていた司のいる高校に赴任して来ると、ラグビー界では無名で廃部寸前だった部を愛と勇気と希望を持って僅かな年月で全国優勝を果たすまでに建て直した。
そして司は、その優勝を果たした時の部員のひとりだ。

あの頃の司は危険で凶暴と言われていた。
触れれば切れる刃物のような人間で、近寄ることが出来るのは、幼馴染みの男達だけだった。
そんな司が西田と出会うことがなければ、まともな人生を歩むことはなかっただろう。

そして司は牧野つくしという少女と接して知った。
それはかつての司と同じで危険で凶暴ではあるが、彼女は翼が折れたエンジェルでありその黒い瞳の奥には輝きが宿っていることを。
そしてその瞳には何事も遣り遂げるという意志の強さが感じられた。
だから司は牧野つくしという少女を立ち直らせることに決めた。
健全な心と身体を取り戻してやりたいと思った。
愛を口移しで伝えたいと思った。
いや、身体全体を使って伝えたいと思った。

「牧野。いいか?よく聞くんだ。この世の中には様々な悩みを抱えた人間が大勢いる。お前は新しく母親になった女性との関係が上手くいかないことから反抗的な態度を取るようになった。弟は母親と暮らし父親は新しく妻になった女性に夢中だ。だから俺はお前が寂しさからそんな態度を取るようになったと思っている。そうだろ牧野?違うか?いや、違わないはずだ。だがな、牧野。寂しいのはお前だけじゃない。それにお前は愛に飢えている。だがお前はひとりじゃない。俺はお前のことが好きだ。だから俺が愛を与えてやる!」




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2019
10.01

金持ちの御曹司~結婚したい男~<後編>

銀座の一流と言われるフランス料理店は司の馴染みの店。
二人は食事をしながら新作のブラジャーのマーケティングについての意見を交わしていた。
それは彼女が資料室で過去の広告について知りたがっていたということから始まったが、司の視線は美味そうに食事をする彼女の口元から、彼女の首。そしてそこから胸元へ降りると、やがて薄手のニットの膨らみの上で止ったが、彼女は司の視線に気付くことなくナイフで肉を切り分けていた。
だが何かを感じたのか。ナイフを動かす手を止め顔を上げ彼を見た。
だから司は慌てて口を開いた。

「牧野。それで今日もあのブラジャーを?」

「はい。もちろんです。『ときめくブラ』は私が会社に入る前から使用していました。
このブラは若い女性が一度は着けてみたいと思うブラです。それは寄せて上げる機能だけではありません。このブラには若い女性の感性を刺激するレースやリボン使いといったものがされています。女性は毎日使うものに対しては、ましてや身体に直接着けるものに対しては拘りがあります。私はこのブラが気に入っています。新作のときめくブラもきっと大勢の女性に受け入れられるはずです」

司は頷いたが、そこから先は新作のブラジャーのこともだが、クリスマスシーズンに発売を予定している赤いブラジャーについての話になった。
イタリアでは新年を迎えるにあたって赤い下着をつける習慣がある。
その起源は紀元前30年ごろ。初代ローマ皇帝アウグストゥスの時代にまで遡る。
その当時、赤は権力と健康と精神と富の象徴であり、良運をもたらす色だと信じられ、権力者たちのマントは赤く染められていた。
そういったことから、イタリアではクリスマスに赤い下着をプレゼントし合い、年末になると幸運を呼び寄せたいと願う人間は、老若男女問わずその下着を身につけて年越しをする。
その習慣が日本に根付くことはないにしても、日本でも還暦を迎えた男女は赤を祝いの色として用いていることもあり馴染みがない色ではない。
だから今年のクリスマスには赤い下着の販売に力を入れるのも悪くないということになった。
それに司は個人的に赤が好きということもあり、赤い下着をイメージするのは簡単だった。
そして食後のコーヒーが出される頃、訊きたかったことを口にした。

「牧野。お前は赤い下着を贈り合う相手がいるのか?」

「え?」

「だから恋人はいるのかって訊いてる」

「道明寺部長…..どうしたんですか?いきなりそんな…」

司は手にしていたカップをソーサーに置くと真剣な眼差しで彼女を見た。

「牧野。訊いてくれ。俺には恋人はいない。1年前に別れた。それはお前が俺の前に現れたからだ。俺はお前がうちの会社の面接に現れた時からお前のことが気になっていた。それ以来ずっとお前のことを見てきた。だからどうだ?俺と付き合ってみないか?いや。俺と真剣に付き合ってくれ」

「部長…..」

「牧野。俺のことが嫌いか?もしそうならはっきりそう言ってくれ。いや。今の発言は撤回する。嫌いだと言われても俺はお前を諦めるつもりはない。俺はお前のことが好きだ。
お前を初めて見た時、この女こそ自分が探していた女だと分かった。
つまりお前と出会ったことは運命だと思った。だがから俺のことを拒否しないでくれ。牧野。愛してるんだ」

司は手を伸ばしてテーブルの上で彼女の手を握り、そこからひたすら自分の思いを告白し続けたが、それはウエィターが閉店の時間でございますと言ってくるまで続いた。

そこから先はとんとん拍子に話が進んだ。
ふたりは付き合い始めてから半年後に結婚。
3人の子供に恵まれ幸せな家庭生活を送った。











おい?

ちょっと待て。

本当にこれでいいのか?


司は目覚めると辺りを見回したが、そこに西田の姿はなかった。
そしていつもと違う状況に心の中で首を傾げた。
それは随分と簡単にハッピーエンドを迎えたが、これでいいのかという思い。
何しろこれまで夢から目覚める時は必ず西田の咳払いや声が聞こえた。
それにあまりいいとは言えない状況で終わる夢ばかり見ていた。
それなのに今日はごく自然に目が覚めた。
それに夢の内容は悪くはない。だがこれまでのことが異常だったと思えばこの状況は普通だと言えるはずだ。

そうだ。今までの夢が突拍子のないものばかりだったのだ。
だが夢というのは得てしてそういうものだ。
だからこうして結婚するという結末を迎える夢を見るということは、もしかすると望みが叶う日が近いということか?
つまり正夢か?結婚したい男の願いが叶い、恋人と結婚する日が近いということか。
よし!それならその幸福を確実に味わうため夢にも出て来た赤いランジェリーを恋人に贈ろう。そして自分も恋人とお揃いの赤い下着をつけて年越しをする。
そしてこの幸せは魔法のニンジンジュースと呼ばれるジュースを飲んだことがもたらしたと感じた。
だから心の中で西田を褒めた。

だが恋にアクシデントは付きもの。
司は胸ポケットの震えを感じ携帯電話を取り出すと画面をタップした。
それは恋人からのメール。


『お疲れ道明寺。あのね、広報の糸島ちゃんが来年の春に結婚することになったの。あ、糸島ちゃんって私の同期のね。それでね、年末の冬期休暇に二人で独身さよならイタリア旅行することになったから。だから今年の年越しはイタリアで過ごすから一緒に過ごせなくてごめんね。』

人間は息をしている限り苦悩とわだかまりが交差する。
司は恋人の人間関係に口を挟むことはしてこなかった。
それに恋人が同期の友人と旅行をすることに不満はない。
だが何故それが年を跨いでなんだという思い。
でもそれは仕方がないと納得しなければならなかった。
彼女は仕事が忙しい。有給休暇取得もままならないことも理解している。
だから会社が休みになる年末しか長期旅行に行けないことも充分分かっている。
それでも、彼女が自分の誕生日を避け29日に出発するのは、司が誕生日を祝ってくれることを知っているから。そして彼女もそれを望んでいる。


司は、「仕方ねえな。牧野、行ってこい」と呟いてから『いいぞ。気を付けて行って来い』と返事を返した。
するとすぐに、『ありがとう。道明寺。お土産買ってくるからね?何がいい?』
と返事が来た。
だから、『赤い下着。お前もお揃いの赤いのを買え』と返した。
司は返事を待った。だが今度はすぐに返事がこなかったが、それは何故赤い下着かを考えているから。
やがて少し待ったところで返事が来た。

『分かった。赤い下着ね?』

『ああ。赤い下着だ。それもとびっきりセクシーなヤツ』

『了解。とびっきりセクシーなのを選んで帰るから楽しみに待ってて』






司は携帯を胸ポケットに入れると伸びをしてから書類を手に取った。
司は夢の続きを望んでいた。
結婚した牧野つくしと幸福な生活を送ることを。
だが結婚はゴールじゃない。結婚は始まりだ。
その始まりが少し遅れたところで大差はない。
司は彼女と結婚する以外考えられないのだから。
それに、ふたりの愛はずっと変わることはないのだから。




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2019
09.30

金持ちの御曹司~結婚したい男~<前編>

「そう言えば財務部の久保田。あいつ広報の糸島さんと結婚するらしい」

「おい、それ本当か?糸島さんが結婚だなんて嘘だろ?あ~!ちくしょう!俺は彼女のファンだってのに何で結婚するんだよ!」

「俺も糸島さんのファンだ。だからこの話を訊いた時ショックを受けた。彼女、会えばいつも優しく微笑んでくれたから、てっきり俺のことが好きだと思ってた。それなのによりにもよって久保田だよ。久保田!」

「クソッ。なんでアイツなんだよ?第一にアイツ俺ら同期の中じゃ一番地味な男だぞ?」

「ああ。確かにあいつは俺らの中じゃ一番地味だ。だが財務部だから数字に強い。頭の中にコンピュータがあるんじゃねえかってくらい計算が早い。飲みに行った時の勘定は電卓叩くよりあいつに訊いたほうが早い」

「知ってる。あいつはお前の言うとおりで数字に強い。けど俺はそんな久保田と糸島さんとが話しが合うとは思えねぇ。第一に女は数字に細かい男は嫌いなはずだ。だから糸島さんはあいつのどこが良かったんだ?」

「知るかよそんなこと。けど糸島さんが久保田と結婚することだけは間違いない。何でも式場を予約したってことだ」

「そうか….。式場を予約か…と、なると既にふたりは互いの両親の顔合わせも済ませた。結納も済ませたってことか。つまりその話は実に現実味を帯びてる….、覆すことは出来ないってことだ。……てか、なんでお前がそれを知ってる?」

「ああ。偶然だが訊いたんだ。彼女がランチに出掛けて海外事業本部の牧野さんと話しているところをな。いや、勿論俺は訊くつもりはなかった。けどたまたま同じ店で観葉植物を間に挟んだ状態で背中合わせに座っていた俺の耳に入っちまったんだから仕方がない」

「そうか…..それにしても糸島さん。ついに彼女も結婚かぁ。彼女、俺たちよりもふたつ年上だけど年上を感じさせない可愛いさがある。それに美人で清楚だ。クソッ!久保田が羨まし過ぎるぜ!ちくしょう….俺も誰かと結婚してぇよ!」









したい。
したい。
したい。
分かるぞ、その気持ち。

司は喫煙ルームに入る男性社員の後姿に心の中で頷いていた。
彼が恋人との結婚を意識したのは17歳の時。
出会いは高校の階段で恋人が上から落ちてきた。
いや、それは恋人の友人であって恋人は上から落ちてきたのではない。
恋人は普通に階段を降りてきて司に説教を垂れた。
そして紆余曲折を経て今に至るが、あれ以来彼女と結婚したいと願っているが、未だにその願いは叶えられずにいた。

それにしても結婚というのは、ある程度の時が経てば簡単に出来るものだと思っていたが、まさかここまで結婚できないとは思いもしなかった。
そして司という男は、世間から見れば何に関しても非常に満足する状況にいる男で、まさかそんな男が常日頃好きな女と結婚できないのではないかという不安と闘っているとは誰も思わないはずだ。

だからこんな思いをするなら、いっそのこと社内メールの一斉送信で牧野つくしは支社長の恋人だという噂を社内に蔓延させるかとも思う。
だがそんなことをすれば、二度と口を利いてくれなくなる恐れがある。
だからそれは止めた。

とにかく好きで好きでたまらないのは、海外事業本部でバリバリと仕事をする女。
彼女は大財閥の御曹司で世界一カッコいいと言われる男の恋人でありながら、その男と結婚する気があるのかないのか。
もしかすると結婚する気がない?
いや結婚願望自体がない?
大財閥の跡取りである男との結婚は、賑やかな姉がいたり、鉄のような母親がいて色々と面倒でする気がない?
それとも、この状況は長すぎた春というやつか?
そんな考えたくもないことが時に頭を過ることもある。
だがそれを強く否定する自分がいるが、決して彼女が結婚する気がないというのではない。
ただ、今は仕事に熱中するあまり結婚という二文字を忘れているに過ぎないと思っている。
だがそうなると司の中にモヤモヤとした何かが湧きだし心が絡まってしまうことがある。
そんなモヤモヤとした気持ちを抱えている時に秘書がデスクの上に置いたのは香り高いコーヒーではなくオレンジ色の液体。
司はそれを凝視すると秘書に言った。

「おい西田。何だこれは?」

「はい。こちらはニンジンジュースでございます」

司はグラスを見つめていたが、目の前に置かれたグラスの中身がニンジンジュースなのは分かった。だが訊きたいのは、何故いつものコーヒーの代わりにニンジンジュースがあるのかということだ。
そして頭を過ったのは、もしかするとこれは恋人の差し入れなのではないかということ。
だから司は期待を込めて西田に訊いた。

「西田。グラスの中身がニンジンジュースだってことは分かった。俺が訊きたいのは何でニンジンジュースがここにあるのかってことだ」

だが西田の口から出たのは司が期待していた言葉ではなかった。

「はい。こちらは今朝北海道から送られて来たニンジンジュースでございます。只今北海道はニンジン収穫の真っただ中です。その中から選りすぐりのニンジンをジュースにしたもので、あちらでは魔法のニンジンジュースと呼ばれているそうです。それを支社長に飲んでいただきたいと先日の社内対抗のど自慢大会に出場した札幌支店の人間が送ってきました。
ニンジンは緑黄色野菜の代表格であり年中手に入り栄養価も高い野菜ではありますが、それだけを食べるとなりますと馬以外難しいものがあります。ですがジュースにすることで簡単に口にすることができ栄養素を取り入れることが出来ます。
最近の支社長は夜の接待が続いております。それについては毎晩遅くまで仕事をしていただき感謝しておりますが先程の昼食も料亭での会食です。
いえ。決して料亭の料理が悪い。食生活が乱れているとは申しませんが高価なものばかり食べておりますと栄養のバランスが偏ることになります。
つまり今の支社長は偏食傾向にあります。ですからこちらのニンジンジュースをお飲みいただければと思います。
それから余談ではございますが、北海道の牧場で余生を送るツカサブラックとツクシハニーはこちらのニンジンが大好きだと申しておりました。と、いうことから馬主である支社長にも是非同じニンジンから作られたジュースをお飲みいただければあの二頭も喜ぶと思います」

ニンジンジュースは恋人からの差し入れではなかった。
だから司は滔々と持論を展開する西田に煩いとばかりに「ああ、分かった。もういい。飲めばいいんだろうが。飲めば」と言いうとオレンジ色の液体が入ったグラスを掴んだ。
そして西田が執務室を出て行くと、秘書の言うことも一理あると思った。
つい先日の健康診断でコレステロール値の上昇が見られる。もう少し野菜を積極的に召し上がって下さいと医師から言われたところだ。それにさっき料亭で食べた料理が少し胃にもたれているような気がしていた。だからジュースを飲み干すと書類に目を通す前に少し休もうと目を閉じた。














司は女性用下着製造販売会社で取締役『ときめくブラ』事業本部長を務めていた。
会社は女性の下着が専門だからといって女性だけが働いているのではない。
それに会社は男性だから女性だからといった区別はなく、男性の意見も女性の意見も尊重していた。
だから男の司が女性のための下着を作る会社で本部長を務めることに差し障りなどあろうはずがなく、むしろ若くてイケメンの取締役の司は女性社員から人気があった。
そして司は、『ときめくブラ』シリーズの新作のブラジャーについての会議に出席していたが、そこにいるひとりの女性のことが気になっていた。

その女性は牧野つくし。
1年前に転職して来て司の部下になった彼女は司よりひとつ年下の29歳。
年のわりには若く見え、黒い大きな瞳がキラキラと輝き白く透き通るような肌の持ち主だ。
司は、そんな彼女から試作品である新作のブラジャーの付け心地についての報告を訊いていた。

「ブラジャーは女性の身体を美しくメイクするものです。寄せて上げるブラジャーは今では当たり前の存在です。ですが繊細な女性の身体を優しく包むものでなければなりません。
下着は直接肌につけるものですから肌にストレスを与えるようなものではいけません。
その点こちらのブラジャーは世界の厳選された素材を使い、縫製は日本一の技術を誇る我社ならではのものです。つまり丁寧な日本の縫製技術は肌あたりが優しく感じられます。
そしてデザインも日本人女性が好む可愛らしさを踏まえつつもセクシーさが感じられます。
大人の女性の魅力といったものも、このブラジャーからは感じることが出来るはずです。
年頃の女性は恋人が自分の下着姿をどう思うかを気にしています。可愛く見える方がいいか。それともセクシーに見える方がいいか。相手によって使い分けることがあると思います。そういった時、こちらのブラジャーはどちらのシーンでも対応できるのではないでしょうか?」

司は彼女の発言に頷いた。
そして進行役が他の社員からの意見を取りまとめると、最後に司に会議のしめくくりを求め会議は終了した。





午後8時を少し過ぎた頃。
司は人けのない資料室で雑誌をめくっている彼女の後ろに立った。

「牧野」

「キャッ!ああ、びっくりした。もう、どうしたんですか部長?」

振り向いた彼女は心底驚いた様子で司を見た。

「ああ。資料室に明かりがついているのが見えたんでな。誰がいるのか気になって来てみたがお前か。どうした何か探し物か?」

「はい。過去の広告が気になって。それで訊けば過去にうちの商品が掲載された雑誌がここに保管してあるというので探していたところです」

「そうか。それで目あての記事は見つかったのか?」

「はい。でも今日はもう帰ります。資料は明日またゆっくり見ることにします」

彼女はそう言って腕時計に目を落とした。

「それなら牧野。これから食事に付き合ってくれ。どうせまだなんだろ?それにしても今日の会議だがまさかお前からあのブラジャーの付け心地についての報告を訊くとは思わなかった。だからその話もゆっくり訊きたい」

すると彼女は少し考え、「では鞄を取って来ます」と言って司の誘いに応じた。



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