FC2ブログ
2020
01.12

金持ちの御曹司~Don’t You Love Me?~

司の前に現れた女の名前は牧野つくし。
彼女は刑事専門弁護士であり、起訴されれば99.9パーセントの確立で有罪になると言われている日本の刑事事件に於いて無罪を勝ち取ることを諦めないと言われていて、別名0.1パーセントの確立に挑む女と呼ばれていた。
そんな女は真剣な顏で目の前にいる司を見ていたが、彼は道明寺ホールディングスの副社長。近々会社法違反(特別背任)容疑で東京地検特捜部に逮捕されると言われていたが、プライベートジェットでレバノンに逃亡しようとして逮捕された。

だが司は道明寺の資産を個人的に流用した覚えもなければ、会社に損害を与えてもいない。
それにレバノンに逃亡しようなど考えたこともない。
そして誰にも見つからないようにジェットに乗り込むため音響機器の箱に隠れていたと言われているが、箱に入って旅をしたいとは思わない。邸に滑走路を持つ男にそんな必要はない。
それに箱に隠れるという屈辱的なことをするくらいなら堂々と自分の足でジェットに乗り込んでやる。
だから自分の足でジェットに乗り込もうとしたが、邸に踏み込んで来た地検特捜部の捜査員に身柄を拘束され、こうして小菅にある東京拘置所に収監されたことから、アクリル板越しに弁護士の牧野つくしと面会をしていたが、司の服装はブリオーニのスーツに清潔な白いワイシャツでとても拘置所にいる人間には見えなかった。



「道明寺副社長。あなたは本当にレバノンに逃亡しようとしたのではないんですね?」

「ああ。俺はレバノンに逃亡しようとしたんじゃない。ただレバノンにいる友人のロルスカ・ゴーンにレバノン料理を食べに来ないかと誘われた。だから彼に会うために出掛けようとしただけだ」

司が口にした名前の男は、かつて日本に暮らしていた企業経営者だが、諸般の事情でこの国を出て祖国であるレバノンに渡っていた。

「ロルスカ・ゴーンさん?その方がお友達なんですね?それでそのお友達にレバノン料理を食べに来いと誘われたんですね?」

「ああ。そうだ。俺はただ美味いレバノン料理を食べに行こうと思っただけだ。それだけのことで何故捕まらなきゃならん」

と、司は言って牧野つくしの顏をじっと見つめたが、もし万が一司が捕まったら牧野つくしを弁護士として雇うと決めていた。
それは、彼女が0.1パーセントを諦めない女であると同時に勝訴請負人として名を馳せていることもだが、実は彼女は初恋相手だったからだ。

司は高校生の頃、彼女を好きになった。
だが彼の初恋は実らなかった。それはうっかり彼女の事だけを忘れ、他の女と結婚してしまったからだ。だが彼女のこと思い出すとすぐに妻となった女とは別れ、東大法学部を卒業して弁護士になっていた彼女にアプローチを始めた。
だが彼女は司に振り向いてはくれなかった。
そしてこうなった今も、あなたとのことは依頼人と弁護士という以外何とも思ってないと言った。だが司は、ふたりは依頼人と弁護士という間柄以上の関係があると思っている。
けれど、彼女の態度も言葉遣も木で鼻を括ったように冷たかった。
そして司の初恋の人はこう言った。

「道明寺副社長。あなたは自分に嫌疑かかっているというのに出国しようとしていた。それは逃げようとしていると思われても仕方がありません。だから検察はあなたの逮捕を早めました。でもご安心下さい。私があなたの弁護人になった以上、必ずあなたの無実を証明します。すぐに保釈されるように力を尽くします」

だから司は彼女に「よろしく頼む」と言った。

そしてそこから彼女は司が拘置所から出られるように手を尽くした。
裁判所と交渉を重ねた。
そして晴れて釈放を勝ち取ったが、保釈保証金は50億という日本での最高額。
だが50億など司にとってははした金。だからすぐに用意出来た。
それよりも保釈の条件の中に初恋の女性が、いや弁護士である彼女が司の傍にいて彼の行動を監視することとあった。だから司はそのことを心から喜んだ。
そして住まいも制限されていたが、そこは都内の一等地にある司のペントハウス。
そこに弁護士である彼女は度々足を運ぶようになった。

「牧野。コーヒーを淹れるから座ってくれ」

「ありがとうございます」

司は彼女が来るたびに自らコーヒーを淹れ彼女に勧めた。
そして今日もソファに腰を下ろした彼女の前にコーヒーを置くと、自身もコーヒーを手に彼女の前に座った。

「それでは今後についてですが__」

と言って彼女は司の方を見ることなく鞄から資料を取り出したが、彼女は司に対して他人行儀な話し方を止めなかった。
それが司には悲しかったし寂しかった。
せめてふたりだけの時は昔のように道明寺と呼び捨てにして欲しかった。
だが司は彼女を忘れ別の女性と結婚した。そのことをやはり彼女は許していないのか。
しかし、こうして司の弁護士となった彼女と過ごす時間が増えた今、話すこととが裁判に関してだけとはいえ、ふたりだけで過ごせる時間は嬉しかった。
そして合間を見ては自分の思いを伝えることを止めることはなかった。


「牧野。俺のこと。やっぱり許せないのか?」

「え?」

「だから、俺がお前を忘れて他の女と結婚しちまったことをだ。許してくれないんだな?」

司は資料を手にしている彼女の言葉を待った。
すると彼女は資料をガラスのテーブルに置くと言った。

「道明寺副社長。今はそういった話をする時ではありません。それにあなたは依頼人で私はあなたの弁護士です。私はあなたを無罪にするために戦う弁護士です。あなたが過去に誰と結婚していたとしても、そのことはこの裁判とは関係ありません」

司は彼女があくまでも弁護士として彼に接することが耐えられなかったが、それでもこうなったのは彼に原因がある。だから仕方がないと思っていた。だが自分の思いを口にした。

「そうか。やっぱり今でも俺のことが許せないんだな。けど俺は本当に悪かったと思ってる。
牧野。俺は今でもお前のことが好きだ。俺は今は刑事被告人だがお前が弁護してくれるから必ず勝てると信じている。それに俺は何も悪いことはしていない。お前を忘れちまったこと以外はな」

司はそう言ってから微動だにせず彼女の顏を見続けた。
そして彼女の心を読み取ろうとした。だが弁護士となった初恋の人は昔と違い表情からその心の裡を読むことは出来なかった。硬い表情を崩すことはなかった。
だが司は自分の思いを伝え続けることを止めなかった。

「俺はお前が俺の弁護を引き受けてくれたと知ったとき、お前がまだ俺のことを思ってくれてると思った。なあ。そうじゃないか?そうじゃなかったら俺の弁護を引き受けてはくれなかったはずだ」

司は立ち上ると、彼女の傍に行き、しゃがみ込んで彼女の手を取った。

「牧野。お前を忘れたことは本当に悪かったと思ってる。これからその償いをしたい。だから俺の傍にいてくれ。俺はお前を一生大切にする。お前のことを守る。これから先、俺はお前の傍にいて離れることはない。それは死がふたりを分かつまでずっと一緒にいるってことだ。だから牧野。この裁判が終ったら俺と結婚してくれ」

「道明寺……」

司は雄弁な彼女が言葉を詰まらせ、呼び捨てにしたことに思った。
高校生のあの頃は、まだ心の奥を開き合う関係ではなかった。
何しろまだ人間として未熟だった。だから言葉足らずなところがあった。
だが今は違う。年を重ね世間を知ったふたりは今では充分な大人だ。
だから今こそ胸襟を開く時だと思った。

「牧野。俺の思いを受け止めてくれないか?」

司はそう言って彼女をソファの上にゆっくりと押し倒すと「牧野。今こそ互いに胸襟を開く時だ」と言って彼女のブラウスのボタンに手をかけたが、その瞬間その手を払いのけられた。

「ちょっと道明寺あんた何する気なのよ?!」

「何するって胸襟を開いてんだが?」

「きょ、胸襟って、あんた胸襟の意味が分かってるの?」

「胸襟か?ああ。知ってる。俺を誰だと思ってるんだ?胸元の襟を開くって意味だろうが?だからこうして開いてる」

そう言った男は払いのけられた手を再び彼女の胸元にかけようとした。

「違うわよ!あんたの日本語がおかしいのは昔からだけど胸襟を開くってのは人の服を脱がせるって意味じゃないわよ!思っていることをすべて打ち明けるって意味よ!だから___んん!」

司はキスをして彼女の口を塞いだ。胸襟を開くの意味が違ったところで似たり寄ったりだと思った。だからブラウスのボタンを外すのを止めなかったが、それはせっかく目の前にいる初恋の人をここで逃がしてはなるものかという思い。だから手早く彼女の服を脱がせ、自分の服も脱ぎ捨てるとベッドに行く時間が惜しくて分厚い絨毯が敷かれた床の上に組み敷いた。

「牧野。牧野…..愛してる。お前のことを思い出してからは、拘置所でもお前の事ばかり考えてた」

そう言った男を初恋の人は潤んだ目で見上げていた。

「道明寺…..本当?本当にそうなの?」

「ああ。本当だ。寝ても覚めてもお前のことだけだ」

「司….」

司は下の名前で呼ばれたことで初恋の人を愛し始めたが、それは暴走する貨物列車のように勢いが止まらなかった。












「…..うじ?….みょうじ?ねえ道明寺ったら!」

「は?」

「は、じゃなくてボーっとしてどうしたの?調子でも悪いの?」

「いや。本当にこのニュースすげえなあっと思って見てた」

「そうよね。ホントに凄いわよね?箱に入ってプライベートジェットに乗り込んで出国するなんて映画みたい。この事件映画化されるんじゃないの?」

司の部屋でふたりが見ているのは、罪を犯したある企業の元会長が保釈中にプライベートジェットで国外に不法に出国したというニュースだが、それと重ねて司が頭の中で見ていたのは、弁護士となった恋人が罪を犯したと言われる司の元を訪れるというストーリー。
そして恋人の言葉ではないが、司は頭の中で流れていた映像を映画化したいと思った。
特にふたりが愛し合う場面は淫らで良かった。
たとえばそれはバスルームで愛し合うふたり。
司の足許にひざまずき彼のモノを咥える恋人。
獣のように後ろから恋人と交わる司の姿。
両脚を大きく開いて司にまたがった恋人が下から突き上げられるたびに小さくて可愛らしい胸を揺らす姿。

だが俳優は誰を使う?
司の役は誰がやる?
そして牧野つくしの役は誰が?
いや。ふたりの代わりに誰かがふたりを演じることなど出来はしない。
何しろふたりの愛は誰かが変わって与えることも、ましてや受け止めることも出来はしないのだから。

「牧野」

「ん?なに?」

「お前さ。俺のこと愛してるか?」

「え?なにどうしたの?突然そんなこと言って」

と答えた恋人は、また司がいつもの愛情確認をしていると思ったようだ。
だがいつも司は真剣だ。
だから今日もいつも以上に言葉に力が入っていた。

「突然じゃねえだろ。俺はいつもお前に愛してるって言ってる。だからお前が俺と同じ思いでいるか訊いてるだけだ。だからはっきり言ってくれ。俺を愛してるのか。愛してないのか」

すると恋人は笑ったが、それはいつも司に向ける笑みと同じ微笑み。

「ねえ道明寺。あたしはアンタに何かあったら全力でアンタを守る。アンタを信じる。アンタの傍を離れない。これは一生の思いよ。だってアンタと離れていた時、辛かったし寂しかったから」

かつてふたりは1万キロの距離を挟んで暮らしていた。
それはまるで非常勤の恋人であり、その時互いに感じた思いは寂しさ。
だから今のふたりは時間が許す限り共に過ごしていたが、それでも司はいつも様々な思いに焦らされていた。
だから言葉が訊きたかった。
司に力を与えてくれる言葉が。
どんな困難にも打ち勝つことが出来る言葉が。
それは「道明寺。愛してる」という言葉だが恋人はそんな司の想いを読み取ったように口を開いた。
そして彼がいつも訊きたいと望んでいる言葉を__

「道明寺、愛…ひて…」

「おい!お前なんでそこで噛むんだ?!」

司は怒った。だが恋人は声を立てて笑ってゴメン。噛んじゃったと言って謝った。
司はそんな彼女の手をつかんで立たせた。
そして抱き上げたが、その時の恋人の顏は笑ってはいなかった。
だから司は訊いた。

「Don’t you love me?」

 俺のこと、愛してないのか?と。

すると恋人は「Yes. I love you」

愛してる。と言って笑った。




にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト



Comment:2
2020
01.02

金持ちの御曹司~Prisoner~

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
そして今年の一作目。御曹司でございます。
少し長めに書きましたが、よろしければどうぞお読み下さいませ。
ただし、破廉恥な振る舞いをしていますのでご注意下さい。←え?いつものこと?
*************************************











「ねえ、真知子聞いてよ!」

「何?」

「あのね。あたし年末に何気なく見てたテレビ番組に支社長が出てるところを見たのよ!」

「ふーん。でも支社長がテレビに出るのは珍しくないでしょ?ニュース番組のインタビューとか。経済番組とか沢山出てるでしょ?だから別に珍しくないでしょ?」

「あのね、あたしが見たのはそういった類のじゃなくて、支社長がピアノを弾いている場面なのよ!」

「え?!ピアノを弾いてるところなの?!嘘!嘘!ちょっとそれ何の番組?教えてよ!あんた録画してないの?」

「それがさぁ。うちのレコーダーのハードディスク。妹が撮った歌番組に占領されてて空き容量が無かったのよ!よっぽどそれを消去して支社長のピアノを弾く姿を撮ろうと思ったけど、妹が絶対ダメって言うのよ。ほら今年で活動休止するアイドルグループが出てるからって、長い番組全部録画してるのよ?だから空き容量がなくて録画出来なかったのが悔しくて!」

「え~そうなのぉ?残念!それでどんな番組だったの?」

「それがね、その番組は空港の中に置かれているピアノを弾く人が主人公なの。
ほらよくあるじゃない。商店街とかにピアノが置かれてて、ご自由弾いて下さいって書いてあることが。あたしが見たのはそれの空港版。海外の空港なんだけど、空港のロビーに置かれたピアノに定点カメラが設置されていてね。そのカメラが映していたのが支社長なのよ!それにしても支社長がピアノを弾く姿って最高に素敵!スーツ姿の支社長が少しうつむいた姿勢で華麗にピアノを弾く。あたしあんな支社長の姿初めて見たけど益々支社長のファンになっちゃったわよ!それにあたし支社長が奏でるピアノの鍵盤になりたいって思ったわ!あのキレイな指であたしの身体を愛でてもらいたいわ!」









悪いが俺の指が愛でるのは牧野つくしの身体だけだ。
新年早々女子社員の立ち話を耳にした男は心の中で呟いたが、社員たちが話していたのは司が北欧を訪問した時のことだ。
いつもは空港に着けばプライベートジェット専用のラウンジに直行するのだが、あの日は恋人に頼まれた、その国らしさが感じられる土産を探し一般乗客が利用するターミナルに足を運んだ。そしてそこに置かれていたピアノが目に止まり鍵盤に触れた。
すると、指が勝手にメロディを奏で始めたが、曲はショパンの幻想即興曲だ。

司は英才教育を受けたが、その中にはピアノもあった。
だがだからといって得意という程のものではない。
けれど、みっちりと叩き込まれたピアノは趣味の範囲でという意味では充分聞くに堪えるはずだ。

そして弾き終えたとき、公共放送のプロデューサーで三津谷と名乗る男が近づいてきて名刺を差し出し、あなたがピアノを弾く様子を放送してもいいかと訊いてきた。だから構わないが?と答えたが、年末に放送されたとは知らなかった。
だが恐らく秘書に放送日の連絡はあったはずだ。そして秘書はその番組を録画しているはずだ。
だが司はそんなことはどうでもよかったし興味はない。
それなら今司が興味があるものはなにか。
それは福袋と言われるもの。
初売りで販売されるというその袋は、販売価格が決められはいるが、中には決められた価格よりも高価なものが入っていて特をすると言う。
だが司は袋に何が入っているか分からない状況で買い求めるというシステムに納得がいかなかった。それは必要ないものを買ってどうするというのかという思い。
だがあきらが言った。

「あれはな。中身が分かんねえからの楽しみがあるんだ」

そして詳しく聞けば、最近は中身がなんであるのか分かって買うというシステムが殆どだという。
それなら司も自分が望むものが入っている袋を探すことが出来るはずだ。
だがそれは販売などされていない司限定の福袋だが、司が福袋に入っていて嬉しいもの。
それは………


5位 牧野の等身大ポスター。
部屋に貼ってひたすら愛でる。そして花や飲み物や食べ物を供えて祈る。
何しろ牧野つくしは司にとって巫女であり宗教なのだから。
4位 牧野の顏のうちわ。
そのうちわで扇げばきっといい気持になれる。そして時々胸の前に掲げて「牧野最高!!」と叫んでみる。
そして片手には牧野の好きな青色のペンライトを捧げ持ち、牧野のポスターに向かって振る。
3位 牧野の唇の形が刺繍されたハンカチ。
仕事の途中でそっと取り出して唇に当ててみる。
そうすればいつでもどこでも牧野にキスしている気持ちになれる。
2位 牧野の香りが染み込んだタオル。
シャワーを浴びた後、そのタオルで身体を拭く。特に股間は念入りに。
そして1位は、言わずもがなで愛情。

5位から2位は金さえあればどうにでもなる。
だが1位の愛情は目に見えない。手に掴んで確かめることは出来ない。
いくら金を積んだところで手に入れることは出来ない。
そして司はそのことを身をもって知っている。
だからこそ彼女の愛情がいつも自分に向いていることを確かめたいと思う。
そう思う司は昨年の自分を振り返ったが、去年の司は煩悩の塊だった。
だが今年は違う。牧野と一緒に訊いた除夜の鐘で煩悩は清められたはずだ。
そうだ。違う。
今年の自分は去年までの自分とは違う。
だから執務室に戻ると、今日は定時で帰ると秘書に告げ溜まっていた書類を片付け会社を後にした。













美しさが無双と言われ、アルマーニも似合うが、華やかさと艶を演出するドルチェ&ガッバーナも似合うと言われるのは道明寺ホールディングスの跡取りだが、彼は母親からこの会社で勉強しろと言われ、系列会社のひとつであるタンポンやナプキンといった生理用品やオムツを製造する会社のサニタリー事業本部長を務めていた。

生理用品の会社だからといって女性だけが働いているのではない。
それに今の世の中は男女が平等に働くことが当たり前となっていることもあり、男の司が女性のために開発される製品を作る会社で本部長を務めることに差し障りなどあろうはずがない。
だから他の会社でならセクハラだと口にするにも憚られるようなことも、この会社ではそういったことはない。

「牧野。それでどうだった?使い心地は?」

司は会議室で部下の牧野つくしが試作段階で使用したナプキンの感想を訊いていた。

「はい。部長。こちらの使用感ですがサラッとした感じで肌触りは改良前のものと比べて良くなったと思います。それにこれは以前のものよりも薄くなりましたが吸水力も問題ありません。それにこの薄さならパンツスタイルでも外に響くことはありません」

牧野つくしは、司のひとつ年下でナプキンの研究開発をしている彼の部下に当たるが、実は司は彼女のことが好きだった。
出会いはスローモーション。階段を登っているとき上から落ちてきた彼女を受け止めたが、その瞬間恋の予感が甘く走った。心を鷲掴みされた。
今まで司の周りには大勢の女がいたが、こんな風に気持ちを揺さぶった女はいなかった。
だが司は事業本部長だ。上司と部下という関係上、彼女に自分の気持ちを伝えてはいなかった。
それは、伝えることによって彼女が気まずいと思う状況を作りたくなかったからだ。
だから司は彼女には興味がないといった態度をとっていた。
けれど、もう自分の気持ちに嘘をつくのは止めることにした。それは最近彼女が広報部長の花沢類に食事に誘われていることを知ったからだ。
だが彼女は誘いを断っている。しかし花沢類という男は策士だ。だからどんな手を使ってくるか分かったものではない。
そんなことから司は心の奥で焦りを感じていた。

「そうか。お前は会社に来る時はいつもパンツスーツだが色々と試してみたのか?」

「はい。一番多い日と言われる2日目ですが、私はその日、あえて白いパンツを履きましたが服が汚れることはありませんでした。それに長時間トイレに行くことが出来ない女性もいます。例えば接客業やサービス業の女性はなかなかトイレに行く時間がありません。我慢してしまうこともあります。そういった状況下での吸収性についても試してみましたが、一度吸水された経血が戻ってくることはありません。それに使用感はこれまでのものよりも格段に上です」

そう言った牧野つくしは、お手元に配布した資料をご覧くださいと言った。

「それから我社が開発した新素材ですが、肌が敏感だと言うモニターを集めて検証してみましたが、かぶれにくいという結果が出ています。ですがそれはあくまでもモニター基準です。それから肌に合う合わないは季節によるものもあると思われます。乾燥した肌の持ち主の場合の場合冬場になると自分の肌が乾燥することからデリケートな部分に痒みを生じることもあるようです。それからそれとは逆に夏には蒸れるといった状況もあると思われます。ですからどちらの状況にも対応でき、なおかつ漏れることがないようにしながらも通気性にも気を付ける必要があります」

「なるほど。それで牧野。お前の肌はかぶれやすい方なのか?」

司は目の前に置かれているナプキンに触れ肌触りを確かめた。

「いえ。私はそのようなことはありません。ですが私は量は多い方ですので吸収力の高さに重きを置いています。しかしこちらの新しいナプキンの吸収力はこれまでのナプキンの中で一番です。我社が自信を持ってお客様にお勧めできる商品です」

「そうか。お前は量が多い方なのか。それは大変だな」

「はい。ですから今までも頻繁に替えなければ不安でした。でもこちらは長時間でも大丈夫です」

司は仕事柄、女性の元を月に一度必ず訪れる生理について知っているが、その生理には個人差があり、女性が生理中も普段と変わらぬ顏で仕事をしていたとしても、実は生理痛で苦しんでいて、腹痛や頭痛や吐き気がするといった症状を抱えていることを知っている。
そして司は牧野つくしの生理周期を知っている。
彼女の生理周期は28日で、ほとんど狂うことはないと言う。
それに生理痛がそれほど酷くないということも。
だが何故司が彼女の生理周期を知ったのか。
それは過去の会議で、自ら今日は2日目ですが、と言って開発中のナプキンの使用感について述べたからだ。そして次の生理の時は別のナプキンを使ってみると言った。
そしてその日は、だいたいこの辺りですので会議はその日にお願いしますと言った。
そして実際、会議が行われた日は彼女の生理2日目だった。つまり牧野つくしの生理日は正確だということ。

そして司は、彼女の排卵日を知った。それは生理が始まっておよそ2週間後。
つまりいつ彼女を抱けば子供が出来るかを司は知っている。
司は彼女が、牧野つくしが欲しかった。
ただの上司と部下の関係ではなく、男と女の関係になりたかった。
そして結婚したかった。永遠に彼女を自分の傍に置いておきたかった。
だから既成事実を作ることを決めた。
それは彼女の排卵日を狙って彼女を誘い出すということ。
だから司はその日彼女を誘った。

「牧野。今日これからだが予定があるのか?」

「予定ですか?」

「ああ。お前が提出してくれたデーターで訊きたいことがあるんだが、どうだ?食事をしながら話を訊かせてくれないか?」

司はそう言って腕時計に目を落とした。
時刻は午後7時。研究室に残っていたのは彼女ひとり。だがそれはいつものこと。
牧野つくしは7時半頃まで会社に残ることが多い。それは上司である司だけが見ることが出来る勤怠管理システムから知っていた。

「ええ…..あの特に予定はないんですが….」と言った彼女は少し考えた後、「わかりました」と答えた。













「牧野。遠慮するな。ここは美味い肉を食わせてくれる店だ。しっかり喰え」

司がつくしを連れて来たのは、メープルの中にあるステーキハウス。
そこで料理長に最高の肉を出すように言った。
そして赤ワインを開けると彼女に勧めた。

「飲めよ。ここのワインは肉によく合うワインを揃えていて美味いぞ?」

つくしはそう言われ司が差し出したワイングラスに自分のグラスの縁を重ねた。
そしてグラスを傾け、ひと口飲むと口の中に広がるワインのまろやかさを感じていた。

「美味しい。部長。このワイン本当に美味しいですね?」

「そうだろ?このワインはお前が生まれた年のワインだ。美味いに決まってる」

「え?私が生まれた年のワインですか?でもどうしてそんなワインを?」

「どうしてか?それはこの年のワインは当たり年だからだ。だから飲んでくれ」

司はワインボトルを握ったまま、彼女に更にワインを勧め、グラスが空になるたびにおかわりを注いだ。すると食事が終わる事には彼女は酔っぱらっていた。
だから司は食事が終わり椅子から立ち上った彼女がふらつくと身体を支え、「大丈夫か」と言い心配をした。

「すみません、部長。いつもはワインを飲んでもこんなに酔うことはないんですが、今夜は飲み過ぎたようです。なんだか足に力が入らなくて…..」

「それは危険だ。酔った状態でお前ひとりを返すことは出来ない。ここはうちの会社の親会社が経営するホテルだ。部屋を用意しよう。少し休んでいけばいい」

司はそう言って牧野つくしの身体を気遣うように支えるとエレベーターホールへ向かった。
だが気遣っているように見えるのは素振りだけで、その顏には薄っすらとした笑みが浮かんでいた。


司は酔った彼女を最上階の自分の部屋の前に連れて行くと、鍵を開け彼女を中に押し込んだ。
そしてチャコールグレーのスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外すとソファの上へ放り投げた。
それから牧野つくしの身体を抱き上げ、ベッドルームへ運びキングサイズのベッドの上に自分の身体を浴びせかけるようにして押し倒したが、彼女の意識は朦朧としていた。

「……ん…..うん……」

「牧野……。牧野。好きだ。俺はお前のことが好きだ」

司は言いながら彼女の服を脱がせ始めたが、殆ど意識がない状況で抵抗はなかった。
だが意識が回復し抵抗したところで司の逞しい肉体を押し戻すことなど出来はしない。
そして司は意識のない牧野つくしを好きなように愛せることに倒錯した喜びを感じていた。
それは排卵日とされる日から彼女をこの部屋に閉じ込め、彼女のことを愛し、彼女の中に自分の種を注ぎ込み、子供が出来れば彼女は自分のものになるからだ。
だがそれは凶暴に女を抱きたいという気持ちとは違う。
ただ自分の中にある愛を与えたいという思い。そしてそれを受け取って欲しいという思い。
たとえそれが一方通行な愛だとしても、彼女に受け取って欲しかった。

「牧野…..好きだ。俺はお前が欲しい。欲しくて欲しくてたまらなかった」

司はつくしのブラウスを剥ぎ取り、ブラジャーを外し、顕わになった小さな胸に手を這わせ、頂きを口に含んだ。
だが彼女は目を閉じたままで、頭が微かに左右に揺れただけだ。

「ああ、牧野。お前はなんてかわいいんだ。俺はお前を一生大切にする。どこにもやらない。他の男になど渡すものか」

そのとき脳裡を過ったのは花沢類のことだったが、司は牧野つくしを裸にすると自身も裸になった。
そして華奢な腰を掴み、引き寄せて彼女の脚を開いて間に手を差し入れたが、そこは乾いていた。だが司が指を挿れ擦ると湿って来た。そして徐々に蜜が指を濡らし始めた。

司はそれから盛のついた雄になった。
自身の硬くなったモノを握り濡れた割れ目の中に入って突き上げることを始めたが、その瞬間。牧野つくしが意識を取り戻したのが分かった。

「ど、道明寺部長?」

第一声は、いったい自分に何が起きているのかわからないといった様子。
だがやがて自分の身体の上で自分を見下ろしている男が自分の中に入っていることに気付くと叫び声を上げてもがき始めた。

「いや――ぁ!止めて!出てって!私から出てって!」

だがつくしが目覚めたことに気付いた司は、彼女のどんな動きも押さえつけ、大きな身体でのしかかり手に力を込めた。

「嫌だ。俺はこれを止めるつもりもなければ、お前のナカから出ていくつもりはない。牧野。俺はお前を愛してるんだ。お前が階段の上から落ちて来た時、恋におちた。だから俺のものになってくれ。俺は世界中の全ての人間に向かってお前を愛していると言うことが出来る。牧野。俺を拒まないでくれ。受け入れてくれ」

汗ばんだ身体と掠れた声は、司の想いの強さを表していて、突き上げることを止めることもなければ、出て行くこともなかった。
むしろ、彼女が覚醒したことによって締め付けがキツクなった。だからさらに激しく突き上げ始めたが、彼女をシーツの上に縫い付けると中に精を放つまでこの行為を止めるつもりはなかった。

「ああ、牧野….」

司は苦しげに呻きながらも腰を振り、楔を打ち込むように身体を密着させた。
だが彼女は目に涙を浮かべなんとかして司から逃げようとしていた。

「道明寺部長!止めてぇ….」

「止めることは出来ねえ。それにお前を放すつもりもなければ、離れるつもりもない。俺はお前と結婚する。お前は俺の子供を産むんだ。牧野。お前は今が一番妊娠しやすいんだろ?俺はそれを知っている」

司は言うとニヤリと笑った、
長い間彼女を求め我慢していた身体は正直で、一度味わった牧野つくしの身体から出ていくことはしなかった。

「いや…..いやです。道明寺部長….止めて!いや!!お願い止めて―――!」

「どうしてだ?俺はお前のことを大切にする。絶対に幸せにする。お前に不自由はさせない」

司は言うと一意専心の表情を浮かべ牧野つくしの中に繰り返し突き進み、速度を上げた。
そして頂点を迎えると彼女の中に精をどっと注ぎ込んだ。

「いやぁ――――!!」











司はそこで目が覚めたが、そこは仕事を終えた男が向かった恋人の部屋のコタツの中。
タマからコタツで寝るのは気持ちいいと訊いていたが、コタツで恋人と鍋を食べた後、眠気に誘われ横になると寝ていた。
そして今年初めて見た夢は、司が部下の牧野つくしを手籠めにする夢だったが、いったい何のために除夜の鐘を訊いたんだ?これじゃあ去年と同じで煩悩丸出しだ。

だが司はニヤッと笑った。
そうだ。なかなか結婚してくれない女との結婚を早めるならこの手があると気付いたからだ。
恋人の排卵日を選んで避妊をすることなく彼女を愛せばいい。
そうすれば、恋人は妊娠して司と結婚することになるはずだ。

「道明寺?起きたの?」

恋人は司が起きた気配に洗い物をしている台所から声をかけてきた。

「ああ。メシ喰ったら眠くなって寝てた」

「コタツで寝るの気持ちいいでしょ?あたしもうっかり寝ちゃうことがあるわ。
あ、これからお風呂入るでしょ?でもあんたが寝る前に焚いてそのままだから、冷めてると思う。だから追い炊きしてね?」

「ああ。分かった」

司は起き上がると伸びをしたが、恋人の部屋に泊まるようになって知った追い炊きという機能。それは冷めた浴槽の湯を後から温め直すという機能だが、司の愛に追い炊き機能は必要ない。何しろ司の牧野つくしに対する思いは一瞬たりとも冷めることなく、いつも熱を持った状態で心の奥にあるからだ。
だから司は今すぐ彼女が欲しかった。


司は部屋を横切って台所で荒い物をしている恋人の背後に立った。

「なあ。牧野」

「ん?何?」

「片付けは後からでいいから風呂。一緒に入ろうぜ」

司は後ろから恋人が洗っていた皿を取り上げた。
そして恋人が驚いた顏をしているのを尻目に彼女を抱き上げたが、夢で見たような抵抗はなく、彼の首に両腕を回した恋人は身体を押し付けると「司」と小声で名前を呼んで首筋に唇を寄せた。
















永遠の繋がりを持つ間柄になりたい。
夢に出て来た男はそう考え無理矢理ことを運ぼうとしたが、司は恋人を傷つけたくないし、泣かせるつもりもない。それに司はそんな下劣なことをする男ではない。
だが高校生の頃、類と親しくしていた恋人の態度に心が砕かれ彼女を奪おうとした黒い歴史があった。
だがそれは思春期真っ只中の少年特有の切望と嫉妬がもたらした若気の至りであり今では笑い話だ。
それに、今の司はただ深く彼女を愛する男だ。
けれど、その愛が余りにも深すぎて激しく愛することもあった。
そしてその時思うのは、何があっても彼女を離すことはないということ。
だが離すことがないのではない。
黒く飢えた瞳をした男は彼女に囚われていた。
そうだ。
夢の中の自身が言ったと同じで初めて会った時から彼女に心を持って行かれた。
だから彼女から離れてしまえば自分がダメになることを本能で知っている。
それにふたりは出会うべくして出会った。それは運命。
そして抱き上げた小さな身体に熱いほどの温もりを感じるのは、彼女も司を愛しているから。

司は恋人をバスルームの入口で降ろした。
そして、彼女の顏を見つめながら彼だけに感じられる甘い香りを味わうため唇を寄せた。




にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
Comment:9
2019
12.22

金持ちの御曹司~Unstoppable~

8000万の特別仕様のロールスロイス、ファントムに乗って恋人を迎えに来た男の趣味は牧野で口癖は牧野。
ノーマキノ。ノーライフ。
つまり男にとって生きがいは牧野つくし。
そして、顔面偏差値が非常に高い男は恋人に対してだけ純粋と誠実を持ち合わせていると言われているが、男には世界の中心で愛を叫ぶ前にやらなきゃならないことがあった。

それは今日これから中山競馬場で行われる日本競馬の大一番と言われるレース、有馬記念に出る持ち馬を応援することだ。
レースの1着賞金は日本最高額の3億円。
だが司にとって3億ははした金でどうでもよかった。

馬は引退して北海道の牧場で余生を送る絶対女王と呼ばれていたツクシハニーと、黒い弾丸と呼ばれたツカサブラックの間に生まれた牝馬。
『天皇賞・秋』を断トツぶっちぎりのスピードで芝を駆け抜けて1着になった馬。
エリザベス女王の名を頂く最高の女性を決める闘いも勝った馬の名はチョコレートハニー。 
母馬の名前からのハニーと、黒鹿毛である身体の色がビターチョコレートを連想させるということからその名前を付けたのは司の恋人だが、馬はふたりにとって子供のような存在だ。

通算成績7戦6勝。
騎手は武富 豊。
レーススタイルは母馬であるツクシハニーに似て後方待機から追い上げるスタイル。
それは優れた瞬発力とスピードを持つチョコレートハニーらしい走りだが、パドックにいるチョコレートハニーは司と恋人に名前を呼ばれると首を上下させて近づいて来た。
そしてふたりを見つめ嬉しそうに鼻を鳴らした。

「チョコレートハニー。どうだ?今日の調子は?」

司が言うとチョコレートハニーは言葉が分かるとでもいうのか。
「とってもいいわ」とでも言うように嘶いた。

「そうか。調子がいいか。それなら今日のレースは間違いなくお前が優勝だ」

そして司は恋人と一緒にチョコレートハニーの鼻づらを撫でていたが、その時、後ろから名前を呼ばれ振り向いた。

「司。牧野」

声をかけてきたのは花沢類。

「え?花沢類どうしたの?」

「驚いた?実はさ。俺今年亡くなった伯父が所有していた馬を譲り受けて馬主になったんだけど、今日その馬が走るんだ」

類は今年になって馬主になった。
だがそれは本人が口にしたように類の亡くなった伯父が所有していた馬を譲り受けたに過ぎず、類は馬に興味がない男だ。
それでも、何故かこのレースには力を入れているように思えた。
そして類は司の隣に立つつくしに言った。

「牧野。このレースはうちの馬が勝つ。だからうちの馬が勝ったら表彰式では俺の隣に立って欲しいんだ。栄誉を俺と一緒に受けて欲しい」

類はそう言ってつくしを見つめたが、それを快く思わない司は類に詰め寄った。

「おい類!何アホなことを言ってる?牧野は俺のパートナーとしてここに来てるんだ。
それに今日勝つのはうちの馬だ。チョコレートハニーはツクシハニーとツカサブラックの間に出来た馬だ。つくしと俺の名前が付けられた馬の子供だ。お前のところのハナザワチャンプとは違う。それに何だよ。その名前は!たいして強くもねえのにチャンプだと?図々しいにもほどがある!」

司が言ったようにハナザワチャンプの今年の成績はチョコレートハニーよりも下であり、シーズンの成績はいいとは言えなかった。

「司のケチ。だって俺パートナーいなんだよ?だからうちの馬が勝ったら牧野貸してよ」

「ダメだ!ダメだ!絶対ダメだ!お前と牧野が一緒に並んでるところがテレビで放送されてみろ!世間は誤解するだろうが!」

それは、類の傍に立つ恋人が司ではなく類の恋人だと誤解されるということ。

「でもさ、司。牧野は気にしてないと思うよ。俺と牧野はただの友人であってそれ以上じゃないんだしさ。それからハナザワチャンプだけどこの名前は亡くなった伯父が気に入って付けた名前で俺が付けた名前じゃないよ。でもさ。俺ずっと思ってた。牧野の名前が付いたツクシハニーは性格もいい可愛らしい馬だったってね。けどツカサブラックって司が牧野に出会う前のお前の性格そのものだよね?ホント、司の性格は真っ黒だったから。俺マジでお前の将来を心配した。だって牧野に出会う前のお前は人ひとり殺しても平気な顔してそうだったからさ」

類は言うと、「ね?牧野?」と笑った。

「うるせえ!今がいいなら昔のことはどうでもいいんだよ!とにかく今日のこのレースはうちのチョコレートハニーが勝つに決まってる。だから牧野がお前の隣に立つことは絶対にない」

司は恋人に向かってほほ笑みを浮かべた類が気に入らなかった。
だからそのほほ笑みから恋人を守るように彼女の肩を抱き引き寄せた。

「そんなの分かんないだろ?勝負はやってみなきゃ分かんないんだよ、司」

「類。お前、随分と生意気な口を利くが、それは自信があるってことか?」

類は司に対して不遜な態度を取るが、それは余程自信があるということなのか。 

「うん。そうなんだ。実は自信があるだ。今年のハナザワチャンプだけど春は無理をせず秋に備えたローテーションを組んでた。だから春先はあまりレースに出さなかったけど、それは秋のレースに勝つため。それから冬もね。だから今日のレースはハナザワチャンプが1着だよ」

類はそう言って司からつくしに視線を向けた。

「ねえ。牧野。だからもし俺の馬が勝ったら表彰式。隣に並んでくれない?」

司は類の挑戦的な態度にやれるもんならやってみろという気になっていた。
だから、「いいだろう。ハナザワチャンプが勝ったら表彰式で牧野を隣に立たせてもいい」と言った。

そして司は恋人と貴賓室に戻りレースを観戦したが、その結果に呆然とした。
それは審議ランプが点灯したから。
やがて審議の結果が出たが、鼻差で1着がハナザワチャンプ。2着がチョコレートハニーという信じられない結果が出た。

「おい。嘘だろ?なんで類の馬が1着なんだ!もう一度よく確かめろ!審議しなおせ!」

司はそう訴えたが、いくら道明寺司の訴えでもこればかりは変わることがないレースの結果。
だから司の恋人は表彰式で類の隣に立ち祝福を受けていた。
そしてあろうことか類はつくしの肩を抱き、司会者から差し出されたマイクに向かって「隣にいる女性は高校生の頃から好きだった女性です。このレースでうちの馬が勝ったら思いを伝えようと思っていました。だからここで思いを伝えたいと思います。牧野。俺と結婚して?」と愛を叫んだ。

司は慌てた。
その言葉は本来あの場所で司が言うべき言葉。
そして表彰台の上で見つめ合うふたりの傍に駆け寄ろうとした。
だが警備員らに行く手を阻まれ二人の傍に近寄ることが出来なかった。
だからその場で叫んだ。

「牧野!離れろ!類から離れるんだ!それに類!この野郎!お前はまだ牧野のことが好きだったのか!?」

だが、そんな司の叫びを無視するように恋人は類の熱い口づけを受け入れ、
「花沢類…..。あたし嬉しい。喜んで結婚するわ。実はあたし道明寺より類のことが好きだったの」と言った。

「嘘だろ?牧野!何言ってんだ!お前は俺のことを好きだ。愛してるって言ったじゃねえか!」

「ごめんね、道明寺。あたし心の中に類のことがずっとあったの。だからあたしのことは忘れて?」

「嫌だ!俺はお前のことを忘れることは出来ねえ!俺はお前を愛してるんだ!牧野!
俺はお前がいないと生きていけない!お前のためならどんなことでも出来る!だから頼む!俺を捨てないでくれ!」

司は警備員に行く手を阻まれながら叫んだ。
けれど恋人は類と一緒にハナザワチャンプの優勝トロフィーを受け取った。
そして恋人は類が用意していた指輪を受け取っていたが、その光景はピサの斜塔の最上階で司が恋人に婚約指輪を嵌めた時の光景と同じに見えたが、それはまさに悪夢だ。

「牧野――――っ!!」














「道明寺?ねえ起きて?そろそろチョコレートハニーが走るわよ?」

「……..」

「大丈夫?ここのところ忙しかったから疲れたのね?寝不足なんじゃない?」

そう言われた司が眠りから目覚めた場所は競馬場の貴賓室のソファの上。
そこに類の姿はなく、いるのは恋人だけ。

「牧野……」

「ん?なに?」

司は恋人の顔をマジマジと見つめながら思った。
類に恋人を奪われるなんて、こんなおかしな夢を見るなら寝ない方がいい。
一生眠らなくてもいい。
幸せな不眠状態でいる方がよっぽどマシだ。

「牧野」

「だから何?」

「お前。類のことをどう思う?」

「はあ?何それ?」

「だから類のことをどう思うって訊いてる」

「道明寺…..。もういい加減にして!今まで何回それを訊いたのよ?あたしは花沢類のことは友達だと思ってる。それ以上の関係になることを望んだことはないわ」

恋人は呆れたように言ってから笑うと「コーヒー淹れるね?」と言って背を向けた。
司は彼女が言った通り類は友人であり、自分以外の男を愛しているとは思ってない。
けれども、時に彼女の愛を疑うではないが、心の奥に別の男がいるのではないかと在らぬ不安に襲われることがあった。
それは、彼女が男にモテるからだ。
司が世界中で唯一認めた女は大人になっていい女になった。だから時に会社の人間に食事に誘われたと訊けば、誘った男を海外に飛ばすことになるが、とにかく恋人はモテる女になった。だからいつも彼女のことが気になって仕方がなかった。

かつて司はどんなに無視されても、シカトされても自分よりも彼女を優先した。
そんな司は多くの女を祈る気持ちにさせるが、司が祈るのは彼女の幸せ。
だから司にとって牧野つくしは宗教。
そしてそんな男が一番好きなのは彼女が自分の前で笑っている姿だ。
彼女の笑顔が司の心を満たしてくれる。


「牧野。こっちに来い」

「え?」

司に呼ばれた恋人はコーヒーを淹れる手を止め振り返った。

「なに?コーヒーじゃないものがいいの?」

「コーヒーは後でいい。だからこっちに来い」

「だからって何でよ?」

「いいからこっちに来い」

「だから何でよ?」

「何でって理由がなかったら呼んだらダメか?俺はお前を抱きしめたい。お前にキスしたいんだ」

そう言った男は、いつもなら自分から恋人に近づいていた。
だが今はソファにいる司のもとへ彼女から近づいてきて欲しかった。
彼女から抱きしめて欲しかった。
彼女からキスをしてもらいたかった。
高校生の頃。司のマフラーに手をかけ引き寄せ、ぎこちなくキスした時のように。

恋人は暫くじっと彼を見ていた。
だが静かに近づいてくると、司が腰を下ろしているソファの前にしゃがんだ。
そしてゆっくりと唇を重ねた。












司は今年一年を振り返った。
今年も牧野最高で始まったが、牧野との絆を深め、牧野のヤバサを知り、牧野に愛を誓い、牧野への妄想が悪化し、牧野に振り回された一年だった。
いや。正確に言えば、司が勝手に牧野つくしに対する思いに振り回されたと言った方が正しかった。
そして年の最後は牧野フィーバーだ。
何しろ今日のレースは、牧野つくしと道明寺司の名前を頂いた馬が産んだ牝馬が1着になることは間違いないのだから。
そして来年も司が恋人を愛する気持ちはアンストッパブル。
それは、これから先も司が彼女を愛することを止めないということ。
だから言った。

「牧野。もう一回キスしてくれ」




にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
Comment:5
2019
11.09

金持ちの御曹司~叱られない男~

永遠の5歳と言う女の子が大人に向かって講釈を垂れる。
そんなテレビ番組があるが、その女の子の決め台詞は、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」。司は今までの人生でそんな言葉を言われたことはない。
それに司にそんな言葉を言おうと思う人間もいない。
何しろ司は道明寺財閥の後継者で、人が見る姿は引き締まった身体と凛々しい横顔に鋭い視線。それは近寄りがたい雰囲気を醸し出していて、ボーっとしているようには見えないからだ。
だがこの瞬間、5歳の女の子にそう言われてもおかしくないと感じていた。
それは今ここにある危機とでも言えばいいのか。この危機を乗り越えなければ恋人にそう言われるのではないかという思いがあった。










「ねえねえ道明寺。この卵。ゆで卵だと思う?それとも生卵だと思う?」

土曜日。
司は取引先の社長と予定していたゴルフが社長の愛人が自宅に乗り込んで来て修羅場になっているという先方の都合で流れると、その足で恋人のマンションを訪ねドライブに連れ出した。
その時恋人は、ドライブに行くなら弁当を作るからと言ったが時間がもったいないから弁当はいい。昼メシはどこかで食えばいいと言った。
すると恋人は、「待って!じゃあ昨日の夜ゆでた卵を持って行くから!」と言って冷蔵庫の中から卵を掴んできた。
それにしても何故ドライブに行くのに卵を持って出かける?
お前はゆで卵が好きな女だったか?
そう言いたかったが、恋人は時々突拍子もない行動を取る。だから気に留めることはなかった。
だが休憩を取ろうとサービスエリアに止めた車の中でハンカチに包まれた卵を差し出し言った。

「道明寺。あたしもしかして生卵を持って来たかもしれない。あたし卵はいつも冷蔵庫の卵ポケットに置くんだけどね。つい最近までパックから出さずにそのまま入れてたの。
でもそれを止めてパックから出して置くようにしたの。そうしたら今までだったらパックに入っていたら生卵だって分かったけど、出して並べるようにしたら、生卵とゆで卵がごちゃごちゃになってどれがゆで卵か分からなかくなったの。だからもしかするとこれ生卵かもしれない」

司は恋人が言った卵ポケットやパックと言われてもよく分からなかったが、結論として言えるのは、今恋人が手にしている卵が生卵ならとっくに割れているはずだということ。
だから心配そうな顏をしている恋人に言った。

「あのな。この卵が生なら、ここに来るまでの間に割れてお前の鞄の中は黄色い液体でドロドロになってるはずだ」

「そうよね。やっぱりそうよね?これゆで卵よね?」

司の言葉に、もしかすると生卵を掴んで来たのではないかと思っていた恋人はホッとした表情を浮かべた。

「ああ。ゆで卵だ。俺が言うんだから間違いない。俺が何か間違ったことを言ったことがあるか?」

その言葉に恋人は少しだけ考えたが、「じゃああたしちょっと手を洗って来るね。戻ってきたらこの卵を食べるから預かってくれる?」と言って卵を司に渡し車を降りた。








時々……いや。大人になっても相変わらずおっちょこちょいな所がある司の恋人。
だが司はその恋人が手を洗って来ると言って車を降りた途端、頭を過ったのはもしかすると…という思い。
それは、これはゆで卵だと言ったが、もしかすると生卵かもしれないということ。
だが自信を持ってゆで卵だと言い切った。
生卵ならとっくに割れていると言った。
けれど急に自分の言葉に自信が持てなくなった。
それに、もしこの卵が生卵だとすれば、恋人が卵の殻をむいた途端、黄色いドロリとした液体が彼女を汚すということになる。そして嘘つき!と言われることになるが、司は恋人に嘘をつきと呼ばれたくはない。司は恋人の前ではいい男でいたい。それは頼れる男だということだが、卵ひとつでその信頼を失うことは避けたかった。
だからスマホを取り出すと調べ始めた。
それは生卵とゆで卵を見分ける方法。そこに書かれていたのは、テーブルの上でコマを回すようにクルクルと回転させて止めて動き出すのが生卵。
だが車の中に回す場所などない。
そして他に書かれているのは見た目で判断。光りに透かして光りを通さないのがゆで卵。
だが確実性がない。
だから今司の手にある卵はゆで卵なのか。それとも生卵なのか。

そこで司はあきらに電話することにした。
あきらは人妻との付き合いが多い。
だから卵の見分け方を知っているはずだ。

「ああ。俺だ。お前、卵が生か茹でたものか見分ける方法を知ってるか?」

『はあ?卵がなんだって?』

「だから卵が生かそうでないかを見分ける方法だ!」

『司お前の話はいつもいきなりだが、なんでそんなことを訊く?』

「ああっ?!なんでもいいだろ!いいから早く教えろ。お前は生卵とゆで卵の違いを見分ける方法を知ってるか?」

『そんなこと知るかよ。それに卵ならテーブルの隅でもなんでもいいからぶつけてみれば分かることだろ?生なら殻が割れた途端黄色い液体が零れる。そうじゃないなら白身が覗く。ただそれだけのことだろ?』

あきらは呆れた様に言ったが、まさにその通りだ。
だが今の司が求めているのは、殻を割ることなく見分ける方法だ。

「あきら。俺が訊きたいのは、割ることなく見分ける方法だ。お前人妻と付き合ってんだろ?人妻なら料理くらいするだろうが!だから誰でもいい。人妻に電話して訊け!」

『あのなあ司。俺の付き合ってる人妻は自分で料理をすることはない。はっきり言って卵の茹で方すら知らん。だから俺の周りにいる女に訊くのは無駄だ。それに道明寺司ともあろう男が卵が生かそうじゃないかを確かめる方法を知ってどうすんだよ?』

ダメだ。
話になんねえ。
それに訊いても分からない人間といつまでも話をしていては時間が無駄になる。
こんなことをしている間に恋人は手を洗って戻って来る。
だから司は電話を切ると再びスマホの検索を始めようとしていたところで、電話が鳴ったが、それは恋人から。

『あ、道明寺。あのね、お手洗い終わったんだけどお土産とか見ていい?』

サービスエリアの土産物を見て回るのが好きという恋人。
だから司は卵問題を解決する時間が持てることを喜び「ああ。いいぞ。俺のことは気にするな。ゆっくり見てこい」と言った。そして電話を切ると再び検索を始めたが、指先は動画共有サービスのサイトに触れていた。

それは卵スプーンリレーの動画。
文字通りスプーンを使ってひとつの生卵をリレー方式で受け渡していくゲーム。
卵は重くないが、何故か渡す方も受け取る方もプルプルと手が震えて今にも落としそうになっていた。
司はそれを見ながら思った。
これがスプーンではなく他の手段ならもっと面白いのにと。
それは生卵を手や道具を使うことなく隣の人間に渡すというゲームだが、手を使わないということは、男なら顎の下に挟むが女なら胸の谷間に挟み、隣にいる人間に身体を密着させ受け取ってもらうことになる。
つまり生卵を恋人の胸の谷間に挟み、司はその卵を身体で受け取ることをする。
だが渡すものは生卵。もし割りでもすれば、それこそ洋服は黄色い液体に塗れることになる。
だから慎重さを要することになる。
そしてこのゲームの参加者は司と恋人のふたりだけ。
いつだったか。ポッキーゲームとやらで咥えた菓子を無視して唇を重ねたことがあったが、あれは子供じみた遊び。だがこれはスリルを伴う大人の遊び。
いやだが生卵じゃ色気もへったくれもない。
それなら何を挟んで渡す?
ドキドキしながらもエロさが感じられるもの。
それは_______







桃。

そうだ。甘くてジューシーな桃。
それなら卵と違って身体についても舐めることが出来る。
つい先日夢の中に出て来たのはマンゴーだったが桃も捨てがたい。
それにこれは無事に相手に受け渡すことや勝つことが目的じゃない。
ゲームと言う名でいかに相手の身体に密着することが出来るかを楽しむセクシーな戯れ。
そこで司は桃を使った受け渡しゲームの様子を想像した。







「いいか。牧野。このゲームに負けた方は相手チームの言う事を何でも訊くことになる。
俺たちの対戦するチームはあきらと人妻のチームだ。だから絶対に負けられない戦いだ。そのためにも練習が必要になる」

そう言った司の顎の下に挟まれているのは熟れ切った桃。
それを落とすことなく恋人に渡すにはどうすればいいか。
ルールはとにかく桃が床に落ちなければいい。
だから恋人の身体を引き寄せ密着させると、司と同じように顎で挟めるようにしようとした。
だが恋人は身体をひねって受け取ろうとしたとき足を滑らせ転びそうになった。
だから司は恋人を抱き、その身体を自分の上にして床に倒れこんだ。

「牧野。大丈夫か?」

「ええ。大丈夫。それに桃も無事よ。落ちてないわ。桃はあたし達の間にあるわ」

恋人が言った通り桃はふたりの間にある。
だがこの状況は司が抱きしめていることもあり、いつも小ぶりな胸が両側から寄せられて谷間が出来て桃はその谷間に収まっていた。

「そうか。桃も無事か。それなら練習を続けるか」

司は言うと恋人を抱きしめたまま身体を捻り彼女を自分の身体の下にした。
そして恋人の胸の谷間にある桃を押し上げて顎の下に挟もうとした。
だがそうするためには、顔を恋人の胸に押し付けることになるが、それは実に楽しくてやらしい行為だが、司は先日恋人から受け取ったメールを思い出していた。

それはかしこまった社内メールの文末に書かれた「やらしくお願いします」。
だがそれは「よろしくお願いします」を打ち間違えたに過ぎないと分かっているが、そのメールを受け取ったのが司だけで良かったと思った。
何しろ「やらしくお願いします」そんなメールが送られて来た男は、頼まれた以上送って来た女にやらしい事をするに決まってる。
だからこそ司は、送られてきた男の権利とばかりやらしい事を続けることにしたが、これから桃運びよりもっと露骨にやらしいことをするつもりだった。
そうだ。シルクのシャツが桃の汁で汚れても構わなかった。
裸になった身体に桃の果肉を擦り付け、スムージーのようになったとしても、ふたりして桃源郷に行くことが出来るならそれで___

その時だった。

「ごめんね、道明寺。遅くなっちゃった。ねえこれ見て。これここのサービスエリアの名物なんだって。試食したら凄く美味しかったから買っちゃった」

と言って助手席のドアが開き乗って来た恋人が見せてくれたのは何かの漬物。

「あ、それからこれもね?」

次に見せてくれたのはブルーベリージャム。

「ブルーベリーは目にいいから買っちゃった」

と言ったが、それならそれを喰って「よろしく」と「やらしく」を間違えないようにしてくれと言いたかったが、「さてと。ゆで卵食べなくちゃ。道明寺。それ頂戴?」と言われ司は慌てた。
預けられたこの卵が茹でたものか。それとも生なのかの結論を出せていないからだが、恋人は司がゆで卵だと言ったことを信じて卵の殻を剥こうとしていた。

「ま、牧野。ちょっと待て。お前なにもここで___」と言いかけたが時すでに遅し。
次の瞬間悲鳴が上がると思ったが悲鳴は上がらなかった。
そこには丁寧に卵の殻を剥く恋人の姿があって司はマジマジと卵を見つめたが、それに気付いた恋人は、「やだ。どうしたの?道明寺、もしかして卵食べたいの?それならそうと言えばいいのに。じゃあどうぞ。食べていいわよ?」
と言ってきれいに殻を剥いた卵を差し出したが、司はいや、そうじゃないんだと言いたかったが、微笑みを浮かべた恋人の手から卵を受け取った。
そして暫く卵を見つめ、それから恋人を見た。

「牧野」

「なに?どうかした?」

「これ、半分にしないか?」

「?」

「だから半分お前が食え。俺とお前はふたりでひとりだ。だからこの卵も半分お前にやる」

司は言うと卵を半分だけ食べた。
そして残りを差し出すと恋人が、「道明寺遠慮しなくてもいいのに。本当にいいの?」と言ってから食べる様子を見ていたが、「いいか。牧野。卵は生命の誕生や再生の象徴だ。それに今はごく当たり前に手に入る卵だが昔は贅沢なもので庶民は手に入れることが出来なかった。その卵を俺とお前は分け合って食べた。これから先も俺は何でもお前と分け合いたい。それは喜びも苦しみもってことだが、この卵は喜びのひとつだな。美味かったぞ、牧野」

と言って怪訝な顔をして司を見る恋人に笑ってみせたが、内心では卵が生じゃなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしていた。









大財閥の御曹司である男が恋人とゆで卵を分け合い食べる。
それは微笑ましい光景を通り越して何かの儀式かまじないに見えるかもしれない。
だがそうだとしてもいいじゃないか。
愛する人とは全てを分かち合いたいと思うのが司なのだから。
喜びも哀しみも。

そして快楽も。

「なあ牧野。ところでお前。桃。好きだろ?」

「も…..桃?」

「そうだ。桃だ」

「え?….うん…..嫌いじゃないけど」

だがそう言った女の言葉に若干の戸惑いがあるのは、司の顔に浮かんだ何かを読み取ったから。
そして司は恋人の戸惑いの表情に対し自身の顔に笑みを浮かべたが、その笑みが深まり、やがてそれが捕食者の笑みへと変わるのを感じていた。

「牧野…..」

「え?なに?」

恋人が助手席で身じろぎをしたのは、司が近づいて来たから。

「ちょっと待って!ま、待って!周りに人がいる!ちょっとここサービスエリア___!!」

周りに人がいようがサービスエリアだろうが、パーキングエリアだろうがキスをするのに場所は関係ない。キスはしたくなったらするもので遠慮なんかするものか。
それに卵を食べた後だとしても関係ない。
それにしても卵が生卵じゃなくてゆで卵で本当に良かった。
あの卵がゆで卵だったことで男としての威厳は保たれた。
何しろ男は威厳が肝心なのだから。

司は常に大局を見る。
それは企業の経営に係わる人間にとって必要なこと。
だから普段の司なら卵が生だろうが茹でたものであろうがどうでもいい。
だがそれに恋人が係わってくると全く違う。
何故なら恋人は司の全てで、司の世界は彼女を中心に回っているのだから。
それに司の人生ですべきことは決まっている。
そして今すべきことは、恋人を抱きしめてキスして愛してると言うこと。
だから唇を離すと言った。

「愛してる。牧野」と。




にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
Comment:6
2019
10.16

金持ちの御曹司~愛すべき男のハラスメント~<後編>

司は教師で牧野つくしは生徒。
当然だがどこの高校も教師と生徒の恋愛は禁止されている。
だから彼女が卒業するまで自分の気持ちを告げるつもりはなかった。
だが言ったことをなかったことにするつもりはない。
そして司は牧野つくしに自分の気持ちを告げたが、彼女からは何の言葉も返っては来なかった。だから思いを封印し教師と生徒として接することを決めると、歳月は緩やかに流れて行った。

練習はいつもグランドでラガーシャツを着た大勢の生徒が一緒だった。
だが今日の少女は学校指定のジャージに白いTシャツ。
そして司も同じようにジャージ姿。
司は牧野つくしにラグビーの個人指導をすることにした。
だから自宅に呼んだが、そこは世田谷の大豪邸。
広い庭にはテニスコートやバスケットコートがあるのは勿論、ラグビーのゴールポストも立っていた。
そんな司の邸で行われているのは、自室に用意されたホワイトボードを前にした講義で、司はペンをボードに走らせながら説明していた。



「タックルは体当たりで相手を倒すことが出来る。たが素早さも必要だ。
ただ、肩より上をタックルすることは違反だ。だから気を付けろ。でないとファウルを取られるからな。相手の身体の低い場所を狙え。相手の腰に絡み付くようにして押し倒せ。ゲームの流れを変えるナイスタックルを心掛けろ」

そう言った司はペンを置くと、

「よし。これから実践だ。牧野。低い位置から俺を狙え。俺が教師だからといって遠慮するな。タックルして俺を押し倒してみろ!」

司はそう言ってから「よし!来い!」と言って両手を広げ、つくしが体当たりして来るのを待った。
だが司の指導で素直で真面目でシャイな少女に戻った牧野つくしは、司に体当たりすることを躊躇っていた。

「道明寺先生。無理です。あたし不良だったけど男の人とそういった関係になったことがないんです。だから男の人に抱きつくのは無理です」

と真顔で言った少女は恥ずかしそうに頬を染めた。

「牧野。タックルは男に抱きつく行為じゃない。それに俺を男と思うな。俺のことは永林の大河原だと思え!英徳のライバル校の永林の大河原滋だ。あの生意気な女にタックルをするところを想像しろ!」

司はそう言って再び両手を広げ、つくしが体当たりしてくるのを待った。
だがやはり目の前の少女は恥ずかしそうにしていた。

「そうか。どうしても男の俺に体当たりすることは出来ないか?だがな。そんなことじゃああの女を倒すことは出来んぞ!だが出来ないというなら仕方がない。それなら俺がお前にタックルをしてやり方を教えるから身体で覚えるんだ。それからタックルは生身の身体でぶつかり合うプレーだ。中途半端なタックルをすれば相手に怪我をさせることになる。だから俺はお前に怪我をさせないために裸になる」

司はそう言ってジャージを脱ぎブリーフ姿になった。
そして服を脱いだ男が手にしているのは、テーブルの上に置かれていた果物かごの中から掴んだマンゴー。

「牧野。この楕円の形は少し小さいがラグビーボールの形に似ている。だからこれを使って練習する。お前はこのマンゴーをボールだと思って持て。絶対に俺に取られないようにしろ」

目の前の少女は、言われた通り赤いマンゴーを手にすると胸元に抱えた。

「よし。いいぞ。俺のタックルからそのマンゴーを守れ!」

司は言うと、つくしの足もと狙うようにタックルをした。
そして少女の身体を床に押し倒すと、いとも簡単にマンゴーを奪い取ったが、熟れている実が潰れると当然だが下にいる彼女のジャージとTシャツにマンゴーの汁がかかった。

「牧野大変だ!お前のジャージとTシャツにマンゴーの汁が付いた。悪かった。すぐに洗わせるから脱げ」

と言った司はつくしの着ているジャージとTシャツを脱がしにかかった。

「先生?!」

「牧野。大丈夫だ。安心しろ。このジャージとTシャツを洗濯するだけだ。何もしやしない」

だが司はTシャツを脱いだ牧野つくしの姿に少女ではなく女を感じた。
司は牧野つくしのことが好きだ。だが今は教師と生徒の間柄だ。だから自制していた。
けれど司の手についていたマンゴーのオレンジ色の汁が白い肌を伝う様子に、その身体についた濃厚な果汁を舐めたくなった。

いや、果汁だけではなく他のものも。

そしてそこにあるのは男としての欲望___






「せ、先生?!」

司は牧野つくしの身体を抱え上げると、部屋の奥にあるベッドへ運んだ。
そして着ていた下着を脱がせ自身のブリーフを脱ぎ捨てると、のしかかりマンゴーの汁が付いた肌に唇を寄せ舐め取った。

「あっ!」

司は牧野つくしに欲望を感じ激しいセックスがしたかった。
だから指先に付いたマンゴーの汁を胸の頂に擦りつけると、そこを口に含んだ。

「ああ!!先生!!ダメ…..あっ…ん…」

司は舌で乳首を舐め唇で挟み噛んだ。
胸の膨らみは小ぶりで控えめだがマンゴーの汁で甘かった。
だから片方の乳首からもう片方へと移動して舌と指でいたぶり続けると、あえぎ声をつのらせた少女は首を左右に激しく振りはじめ、もっとお願いと懇願した。
だから司は顏を上げ、濡れそぼった乳首の上でニヤリとした。

「牧野。俺が欲しいのか?」

だが少女は怖いのか。さっきとは別の意味で首を振った。
だから司は言った。

「お前は男と経験がないと言ったが、経験なんてこれから積めばいい。俺とな」

「先生…..」

少女の頬は、ほのかに朱色に染まった。
それは司が欲しいという意思表示。

「牧野…」

「先生。つくしって呼んで」

司はそう言われ微笑んだ。
そしてこれから起こることに期待をして名前を呼んだ。

「ああ。分かった。つくし__」

その時だった。
いきなり部屋の扉が開き、ズカズカと入って来たのは司の恩師である西田。

「道明寺!お前は何をやってんだ!お前は教師だろうが!それなのに教え子に手を出すとはどういうつもりだ!俺はお前をそんな風に教育した覚えはない!」

司は恩師のいきなりの登場に驚いた。
だから少女の身体に布団をかけてからベッドから降りたが、司の前に立つ西田は言った。

「俺は今からお前を殴る!」

「先生。違うんだ。俺たちは愛し合って__」

と言いかけたが、西田の右手の拳は司の頬を殴った。













「支社長。お目覚めですか?それにしてもそちらのマンゴーは甘く危険な香りがいたします」

司は右手を頬に添えたまま目が覚めた。
執務室の応接テーブルの上に置かれているのは宮崎から送られて来たマンゴー。
果物の女王だという果実は、恋人が好きだということから内緒で取り寄せ会社に送らせた。
そうしなければ、高いのに勿体ないと言うからだ。
だから自宅に帰るまでそこにあった。

「マンゴーの香りは精神を安定させ、リラックスさせる効果があると言われています。さぞやいい夢を見られたことでしょう」

と西田は言ったが、司は西田に殴られた夢を見たばかりで、どこが精神を安定させリラックスをさせるだと思った。
それにしてもまさか夢に西田が出てくるとは思わなかった。
何しろ今まで夢に西田が出て来たことなどなかったからだが、今までのこともあり言いたいことがあった。

「西田。お前はどうしていつもいいところで邪魔をする?お前は嫌がらせの名人か?」

そう言われた西田は何のことか全く分からないといった様子で、「そうですか。お役に立てて幸いでございます」と言って書類を置いて出ていったが、その書類は恋人のいる海外事業本部からの書類。
そこには牧野つくしの名前があって、司は思わずその文字を指でなぞっていた。

そして思った。
夢の跡をなぞることをするのではないが、今夜マンゴーを食べたあと、その甘い果汁を恋人の胸の頂で味わうのも悪くない。そしてその先にあるものを探検するのも悪くないと思った。
つまりふたりでマンゴーを使った独創的な愛し方をする。
そのひとつとして司の身体についたマンゴーの果汁を舐めてもらう。
だが舐めてもらうのは果汁だけでなく、他のものも。
そう思うと、これからの仕事も捗るような気がした。
そして夜が来るのが待ち遠しかった。



にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
Comment:4
back-to-top