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2022
03.07

金持ちの御曹司~業務命令~<後編>

司は酔いつぶれた女をベッドに降ろした。
そして服を脱がせると、女の身体を楽々と裏返し枕元に置かれているロープを掴んだ。
『しぼりたて生しょうゆ』が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまう男は、マンションの部屋にロープを用意していた。だから酔って寝てしまった女を自宅まで連れ帰ると、これまで自覚することがなかった自身の性的嗜好を満足させることにした。
だが相手が誰でもいいという訳ではない。
相手は好きな女でなければリビドーは満たされない。
そう。相手はエリアマネージャーの牧野つくしでなければならないのだ。彼女に対し支配的立場をとりたいのだ。彼女を愛の奴隷にしたいのだ。

司はうつ伏せになった女の胸の上と下を縛り上げたが、女は目を覚ますことなく黙ってされるがままだ。次に両腕を後ろ手に交差して手首を縛ったが、荒い繊維は柔らかな白い肌に痕を残すだろう。

司は、囚われの身になった女の尻を持ち上げ貫きたい。
冷血な獣のように無防備、いや、縄で縛られた女を無理矢理犯したい。
だが貫くのは後ろの穴にするか。それとも前の穴にするか。
どっちを責められるのが好きか本人に訊いてみてもいいが、どちらにしても、その姿はみだらな姿には変わりない。そしてその姿を想像する司の胸は、いやがうえにも高鳴り身体は欲望でうずき、痛いほど切望した。それに牧野つくしがこれまでどんなセックスを経験してきたか知らないが、とにかく司は柔らかい彼女の尻の奥まで思いっきり貫きたかった。
だがこうして縛っている今は、まだ早いと本能的に前に出ようとしている身体を抑えていた。
そして司は彼女とこうするため、拘束プレイではなく本格的な縛りを学んだ。その道のプロから指導を受けた。するとその道のプロは、「君は筋がいい。君は支配する側の人間だ。この世界でご主人様として働かないか。君なら大勢の女性を奴隷として持つことができる」と司を誘った。だが司が支配したいのは一人の女であり、その他大勢の女はどうでもよかった。だから断った。


「…..う….ん…..」

どうやらうつ伏せになった女は目が覚めたようだ。
そして身じろぎもせず視界に入った世界について考えているようだ。

「目が覚めたか?」

女はうつ伏せのまま首をそらせ声がした方を見たが、素っ裸の司の姿にギョッとした。
司は真冬でもパジャマを着ることなく全裸で寝る。だから女を縛っている間も裸でいたが、その間、欲望しるしは硬直して直角よりも高く上がっていた。
そして目覚めと同時に酔いも醒めた女は、一瞬ののち自分が裸で縛られていることに気付いたようだ。

「何これ……道明寺店長これは一体どういうこと?」

司は口角を微かに上げ笑った。
縛りの指導をしたその道のプロは、司の笑い声をみだらで官能的だと言った。
低音で深みのあるバリトンの声は女のアソコを濡らすと言った。
けれど女の黒い瞳は怒りで濡れた黒曜石のように光っている。
だが女は怒りながらも、その背筋は震えていた。それは恐怖を感じているからだ。

「どうもこうもない。俺は店の棚に並んだしょうゆの容器を見て以来、お前の縛られた姿を想像していた。だからこうしてお前を縛った」

「店の棚に並んだしょうゆの容器?…..いったい何のこと?意味が分からない。それに何なのこれは!どういうことなのか説明しなさい!」

エリアマネージャーとして司より立場が上の彼女は、背後から自分を見下ろす司に声を荒げ命令口調で言った。
だが司は『しぼりたて生しょうゆ』が『しばりたて生しょうゆ』に見え、その容器が縛られた牧野つくしの姿に置き換わることを説明するつもりはない。
それよりも今は、その妄想によって明らかになった自身の性的嗜好が満たされることが重要だ。
それは縛られた女との性交だが、それが暴走した妄想だとしても止めることは出来ない。
それに裸で偉そうに自分の立場を主張されても、その姿には権威もへったくれもない。
だから司はそんな女に「俺はお前が欲しい。だがただ欲しいんじゃない。俺はお前のことが好きだ。そして俺は縛られたお前を犯したくてたまらなかった。だから縛った」と言って牧野つくしの下半身を掴むと弓なりにもち上げた。すると女はシーツに顏を埋める形になったが、そこで自分の身に起こることが予測できたようだ。だから縛られたまま身体をよじる。

「いや…….止めて…….道明寺店長止めなさい!手を離して縄をほどいて!ほどきなさい!これは命令よ!」

司は女の言葉を無視した。
もう牧野つくしは司のもので、司の好きに出来る。だから興奮で身体じゅうが震えた。
それに女も裸で縛られていては強気でやり過ごすことは無理だ。
女に司を止めることは出来ない。
だから司はからかうように言った。

「命令?それは業務命令か?もしそうだとしても、今のお前は俺に命令は出来ない。何故ならお前はこれから俺に支配されるからだ。だから抵抗は時間の無駄だ。それに今俺とお前の間にあるのは俺の意志とお前の快楽だ」

司は言うと迷うことなく前の穴に自身を沈めた。
するとその瞬間、女は悲鳴を上げたが、司の下半身には快感が走った。
だからもっと深く女の中に入った。

「こうして___お前は__俺に支配されている__だから__お前は__俺からは逃げられない」

司が言葉を切るたび再び女の口から悲鳴が上がる。
それはひと言ごとに司の腰が突き出されるから。
湧き上がってくる欲望は女を激しく責めろと言っていた。

「ああっ!……やめてぇ……!!」

「止めない。それに抗っても無駄だ。俺はお前を離しはしない。お前は俺のものだ。俺はお前のことが好きだ。だから俺を拒むな。受け入れろ」

司は2時間近く女を責めた。
縛った身体を弄んだ。
それでも司の分身の昂りは治まらなかった。
いやむしろ、もっと女が欲しくなった。
だから「牧野…..牧野….. 」と女の名前を呼びながら腰を打ちつけていたが、そのとき司の耳に届いたのは「ほん!」という声。
そして次に耳に届いたのは「うおっほん!」という言葉。
だから目を開けたが、そこにいたのは秘書の西田で「うおっほん」とは秘書の不自然な咳だ。

「支社長。おやすみのところ申し訳ございません。先日取材を受けた雑誌が発売されることになり出版社から送られてまいりましたのでお持ちいたしました」

秘書はそう言って机の上に経済誌を置くと出て行った。

司は秘書の言った通り最近雑誌の取材を受けたが、質問の中に、「あなたの好きな食べ物は何ですか?」という項目があった。
司は取材でそう訊かれた時の答えは決まっていて「特にない」と答える。
だが本当はある。司の好きな食べ物はお好み焼き。
しかし「特にない」と答えるのは秘書から指示があったから。
何しろ男は世界的な企業の跡取りであり、道明寺財閥の御曹司。
そして世界中の美食を知ると言われる男。
そんな男の好きな食べ物が「お好み焼き」では司のイメージに合わない。
だから秘書から「特にない」と答えて欲しいと言われていた。

だが司は世間が自分をどう思おうと関係ない。
本当は声を大にして好きな食べ物は、お好み焼きだと言いたかった。
そして子供の頃、それを焼いてくれたのは姉だが、大人になった彼のために焼いてくれるのは恋人だ。
そして司は昨日、地方出張から戻ってきた彼女にお好み焼きを焼いてもらった。


「ねえ。あたしがいつも焼くお好み焼きって生地に具材を混ぜ込んで焼くでしょ?あれは関西風。でも今日これから焼くのは広島風お好み焼きよ。広島風は具材をひとつずつ重ねて焼く重ね焼きなの。大丈夫よ。あっちで教えてもらったからまかせて!」
と、恋人は自信満々に言ったが出来上がったのは思っていたものとは違ったようで、
「あれ?おかしいわね?なんだか違うわね」と笑った。

司は基本恋人が作ってくれた料理は何でも食べる。
多少の好き嫌いはあるが我慢する。
だからお好み焼きも恋人が焼いてくれるなら、関西風だろうが広島風だろうが関係ない。
そして、お好み焼きを食べ終えた男の歯に付くのは青のりだが、女性の誰もがその青のりになりたいと望むはずだ。だが世界ひろしと言えども、道明寺財閥の御曹司に向かって歯に青のりが付いていると指摘する人間はまずいない。
それは世の中には触れていいことと悪いことがあり、分別のある人間なら見て見ぬふりをする方が自分のためになることを知っているからだ。
しかし一人だけ指摘出来る人間がいる。
臆することなく真実を告げる人間がいる。
そう、牧野つくしだけが司の歯に付いた青のりを指摘することができる。
何しろ彼女は初めて会った時から真実だけを司に告げていた。


「ねえ。歯に青のり付いてるわ」

だから司はいつも言う。

「お前が取ってくれ」

それはキスで青のりを取ってくれという意味。
だから恋人は立ち上ると司の傍に来た。
そして彼の肩に手を置き少し顏を屈めると司の唇に唇を重ねた。


司はこうして昨日の夜の出来事を振り返ったが、それにしても何故恋人を縛るなどというおかしな夢を見たのか。
だがそこで思い出した。恋人の家には『しぼりたて生しょうゆ』と書かれた醤油の容器が置かれていたことを。そして恋人がその便利さを褒めていたことを。
だから恋人が褒めた醤油の容器が夢の中に現れたのだろう。
それに夢は幻覚。
だが夢は過去、現在、未来の状況を暗示するとも言われている。
と、なるとあの夢は未来の状況なのかもしれないが___
いや、それは絶対にないと司は首を横に振った。
だがもし彼女がそれを望むなら、冒険したいと思うなら、その願いを叶えるのが恋人である司の役目だ。
だから夢の中で経験した通り、その日に備え縛りを学ぶべきなのかもしれない。
そうだ。業務命令として、そうすることを望まれた時のために練習を積んでおく必要が……
だがそこまで考えた司は笑った。
そして「そんな必要はないな。あいつは今でも恥ずかしがり屋だ、それに俺のあいつへの気持は欲望だけじゃない。俺のあいつへの気持は愛と優しさだ」と呟くと溜まっている仕事を片付けるべく机に向かった。





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2022
02.28

金持ちの御曹司~業務命令~<中編>

「道明寺店長。本日はご同行、ありがとうございました」

「いえ。こちらこそ」

「それにしてもその変装。よくお似合いです」

「そうですか。どうもありがとうございます」

司はエリアマネージャーである彼女と近隣のライバル店のリサーチに出掛けていた。
だが眉目秀麗と言われる司の面はライバル店に割れている。それにその容貌はひと目を惹く。
実際店長の司は女性客に人気があり、店内を巡回すれば、「あの…おすすめ商品買いました」と声をかけられるほどで、『バイヤーおすすめの品』よりも『店長おすすめの品』というPOPが書かれている商品が飛ぶように売れていた。
だからライバル店のリサーチに出掛ける時は関係者に気付かれないように必ず変装をしていた。
そして今回の司は、うっすらとだが口髭を生やし、黒色のスーツに光沢のある紫がかったペールブルーのシャツを合わせ、茶色のアビエーターサングラスをかけ黒のコートを着ていたが、その姿はどう見ても関わりたくない人物。だからすれ違う人々は、一瞬司を見るが、すぐに視線を逸らし逃げるように去る。

そして彼女もいつものビジネススーツではなく、ラベンダー色のボーダーニットに上品な淡いピンクのパンツ。そしてベージュのコートを着ていたが、司は彼女のその姿を見たとき眩暈を覚えた。

かわいい__

そして唇には、いつもとは違う色が塗られていて、司の目はその唇に釘付けになった。
それに彼女のすぐ傍に立つと、彼女の匂いが鼻孔をくすぐった。
だからリサーチの間じゅう、その香りに頭がクラクラしていた。

「道明寺店長?どうかされましたか?もしかしてご気分でも悪いのでは?」

「いえ…..」

司の気分は上々だ。
そして気分と同じでズボンの中のモノも今にも勃ち上がりそうだった。

「そうですか?それならいいのですが少しお顔が赤いので熱があるのではないかと思いまして」

と言った彼女は「それでは今日のリサーチの報告書は後日お持ちします」と言って司の前から立ち去ろうとした。
だから司は「牧野さん。遅くなりましたね。もしよろしければこれからお食事でもいかがですか?」と食事に誘った。

時計の針は午後6時を回っていた。
すると彼女は司をじっと見て、「店長。お店に戻らなくてもいいのですか?」と言った。
店は夜9時まで営業している。だから彼女は司が店に戻ると思っているようだ。
だが司は、「今日は午後から休みを取っているので戻る必要はありません」と答えた。
すると彼女は一瞬だけ困惑した表情を浮かべ、司に向けていた視線を外した。
それは司の誘いを受けるかどうか考えているということ。何しろ今まで一緒に他店のリサーチに出掛けても、食事に誘われたことなどなかった。それに彼女が司の店の担当になって二年が経つが食事に誘われるのは初めてのこと。
だから余計に食事に誘った司の真意をはかっているのだろう。
だが彼女は視線を司に戻すと「居酒屋…….駅前の居酒屋に行きませんか?」と言った。





「山田!あの男!アラスカに転勤になればいいのよ!」

彼女は空腹が苦手で、お腹が減ると不機嫌になりやすい。だがお腹が満たされると機嫌が直ると言った。そう言った彼女は、だから自分は分かりやすい人間で単純だと言ったが、アルコールに対しては単純とは言えないようだ。

「道明寺店長、どう思います?あの部長あたしの仕事の仕方が気に入らないなら面と向かって言えばいいのに、社内メールでネチネチ言って来るの!本当にムカつく!あんな男アラスカの海でシャチに食べられればいいのよ!」

彼女が言った山田とは、彼女の上司で髪の毛がチリチリとうねっている小柄な男。
司もその男のことは知っているが、趣味は座布団運びとやらで、どうやら彼女とは反りが合わないようだ。だからアラスカに転勤になればいいと言ったが、生憎D&Yホールディングスはアラスカに店舗を構えてはいない。

そして彼女は不満げに鼻を鳴らしたが、まさか真面目だと思われていた彼女の口からシャチに食べられればいいという過激な言葉が訊けるとは思ってもみなかった。それにこれまでどちらかと言えば他人行儀だった彼女が、鼻と鼻がくっつきそうになるくらい顏を近づけてくるとは思いもしなかった。
そして、「ねえ、道明寺店長。今日はとことん飲みましょうよ!」と言うと手を挙げて、
「すみませーん!」と店員を呼ぶと「焼き鳥とジャーマンポテト下さい。あ、それからビールのおかわりもお願いします!」と言った。

司は酒に強い。
だからどんなに空のジョッキがテーブルに並んでも表情は変わらない。
だが彼女は運ばれてきたビールジョッキを口に運ぶと司に絡んできた。

「ちょっと!もっと飲みなさいよ!アンタ男でしょ?それともあたしのお酒が飲めないっていうの?あたし、エリアマネージャーですけど?」

漆黒の瞳は大胆不敵に輝きハラスメントまがいの言葉を口にした。
だが司は彼女にならハラスメントを受けてもいいと思った。
特にセクシャルなハラスメントは大歓迎。
鼻と鼻がくっつきそうになる以上に、もっと彼女に近づきたい。
だが目の前の女性は注文した焼き鳥とジャーマンポテトを口に運び、ビールのおかわりを飲み干すとテーブルの上に突っ伏した。



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2022
02.20

金持ちの御曹司~業務命令~<前編>

「ねえ里美。美味しいパンケーキを出すお店が新しくオープンしたらしいんだけど、食べにいかない?」

「パンケーキ?」

「うん。パンケーキ」

「マリトッツォじゃなくて?」

「うん。マリトッツォじゃなくてパンケーキ!」

「ねえ、なんか今更感があるんだけどパンケーキの流行はもう終わってるんじゃないの?」

「里美。今更も何も好きな物に流行は関係ないわ。あたしはただパンケーキが好きなだけ。だから一緒に…..ね?」

「そうねえ……最近食べてないし……」

「そうでしょ?最近食べてないでしょ?」

「うん。じゃあ久し振りに食べに行こうかな」

「ホント?じゃあ今度の土曜日。どう?」

「土曜?あ、ゴメン。土曜は用事があるの」

「じゃあ日曜は?」

「日曜だったらOKよ!それで場所はどこなの?」

「表参道よ」

「了解。表参道ね。じゃあ待ち合わせは….」







司は女性社員が立ち去った後の休憩室に足を踏み入れた。
そこにはいくつかの自販機が置かれていて、社員たちはここで飲み物を買っていた。
司は時々社内を巡ったあと、ここに来る。
何故ならここは彼女のフロアであり、もしかすると彼女がいるかもしれないからだ。
そして彼女がお気に入りのミルクティーを買っているかもしれないからだ。
だが、彼女はいなかった。
だから執務室に戻ったが、椅子に腰を下ろすと女性社員たちの会話を思い出していた。

司は甘いものが苦手だ。
だがパンケーキは食べたことがある。
それは恋人から「パンケーキが食べたいな」と呟かれたからだ。
だから邸のコックに作るように言ったことがある。
するとコックは恋人のために張り切ってパンケーキを焼いたが、そのとき恋人に「これフワフワで本当に美味しい。ほら。あんたもひと口食べてみて」と言われ、蜂蜜がかかっていない部分を、ひと口だけ食べたが、リコッタチーズがふんだんに使われたそれは、昔口にしたキャラメルパフェに比べれば甘さは感じられなかった。
そして司は、その時のことを思い出しながら目を閉じた。









司は10代で凄みを身に着けていた。
そして荒い声を立てずとも相手を射すくめる能力がある。
だから司が人前に立つと、そこにいる誰もが全集中で彼の言葉を訊く。

「我社はお客様第一主義に徹し、地域の皆様に愛されるスーパーを目指す。そのことをいつも心に止めて仕事をして欲しい」

司は紺色のジャケットを着て胸に名札を付けていた。
それはD&Yホールディングスと呼ばれる持ち株会社が、日本中に店舗を展開する総合スーパーの店長の制服。
司は30代前半の若さで全国一の床面積を持つ店の店長になった。
そして司が店長を務める店は、全店舗の中で一番の売り上げを誇る超優良店だが、彼は閉店後の店内で棚に並んだある商品を見つめていた。
それは醤油。その容器は司の鋭い視線に怯えることもなければ、後ろに下がることもなく静かにそこにあった。

司は最近ある問題を抱えていた。
それは空目、つまり見間違えをすることがあるということ。
何を見間違えてしまうのかといえば、醤油の容器に書かれた『しぼりたて生しょうゆ』の文字が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまうこと。
すると脳内に思い浮ぶのは縄で縛られた醤油の容器。
そして何故かその醤油の容器が、ある女性の姿に置き換わってしまうのだ。

そう。
司には好きな人がいる。
思いを寄せる人がいる。
その人はエリアマネージャーの牧野つくし。
彼女の仕事は本社の意向を店長である司に伝え、店の運営についてのアドバイスや業績管理をすることこと。それにライバル店の調査をするのも彼女の仕事だ。
そして彼女は司よりも年下だが立場は店長の司よりも上だ。

そんな彼女のルックスで司が一番好きなのは大きな黒い瞳。
話すとき、彼女はいつも真っ黒なその瞳で司を真正面から見つめるが、その瞳は美しい。
そして司はビジネススーツ姿の彼女しか見たことがないから、その下に隠された身体については、ひたすら妄想するしかないが、『しぼりたて生しょうゆ』の容器を見るたび、裸の彼女が縄で縛られた姿が脳内に浮かんでいた。




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2021
12.13

金持ちの御曹司~純愛ラプソディ~

「あたし。昨日きのこの山を買ったの」

「え?もしかしてあんた、きのこ派?」

「うん。軸のカリッとした食感が大好きなの!」

「へえ、そうなんだ。あたしは断然たけのこの里。子供の頃からあのサクサク感に手が止まらなくなるわ!」



司は恋人の部署を訪ねたが彼女に会えなかった。
そして執務室に戻る途中で女性社員の会話を耳にした。それは社員の中には、きのこ栽培の山や、たけのこを育てるための土地を持つ人間がいるということ。

司の会社の給料は他社よりも高いと言われている。
だから社員の中に、きのこを栽培するための山や、たけのこが取れる里山を所有している人間が居ても不思議ではない。それに社員が農業に興味を持つことは悪いことではない。
それは世界的にSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれるなか、山や畑を耕すことが食糧の供給や新たな雇用を生み出し、地域農業の発展や自然環境の保持に貢献することになるからだ。
そして道明寺ホールディングスも、明日の地球のためにSDGsを推進している。だから社員たちが環境問題に目を向け、里山に出掛けることは会社としても喜ばしいことだ。

司は執務室に戻るとスーツの上着を脱いだ。
そして椅子に腰掛けると、パソコンに向かい仕事をしようとした。
だがしかし、女性社員の言葉が気になっていた。
それは、きのこの軸はカリッとしているということ。きのこの軸はカリッとなどしておらず柔らかい。だから首を傾げた。それに、たけのこのサクサク感という言葉にも疑問を持った。
だがまあいい。司はたけのこに興味はない。それに司が食べた、たけのこ料理で美味いと思ったのは恋人が作ってくれた天ぷらくらいだ。

だがきのこについては一言ある。司が食べるきのこと言えばマツタケ。
そのマツタケを始めて恋人と一緒に食べたとき司の股間は焦げついた。
それは恋人がマツタケのカサの部分を口に入れるとき、まばゆい黒い瞳が物憂げなものに変わったからだ。そのとき司の頭の中に浮かんだのは、彼女が司の前に膝をつき、自身を口に含んだ姿。彼女の口が動くたび、司が持っているソレを味わっている彼女の姿が頭の中に広がり欲望が昂まってスラックスの中のものが疼くと、身体中が男性ホルモンでいっぱいになった。

そしてそれは少年時代に想像すらしなかった大人の光景。
そういった行為は好きな女以外とするつもりのなかった司は、一糸まとわぬ姿で、つまりあられもない姿で彼女がそういった行為をするところを想像すると、血がドクドクと打ちつけだし体温が急激に上がるのを感じた。そして、マツタケを食べ終わった恋人に「どうしたの?顏が赤いけど大丈夫?熱でもあるんじゃない?」と言われると「大丈夫だ。なんでもない」と答え、その光景を打ち消した。

それでも暫くはマツタケの大きな「カサ」。
その裏にある「ヒダ」。
そしてヒダの裏にある細かい「スジ」。
それを味わう恋人の姿が頭の中から離れなかった。
だが大人なった恋人は唇を司と溶け合わせ望みを叶えてくれた。
だから今は十代の青二才のような妄想は必要ない。
だがそれでも夢を見ることがある。












ホテルの部屋の扉を開けると、そこに若い女が立っていた。

「お客さん私を呼ぶのは初めてね?でも大丈夫。私たち、きっと素敵な時間が過ごせるわ」

女は司の隣をすり抜け部屋に入るとコートを脱いだ。
すると微かな香水の香りがした。それは今まで司が嗅いだことがない匂い。
そして胸が大きく開いたジャケットから白い肌を覗かせていたが、ジャケットの下にブラウスの類を着ていないことは一目で分かった。そしてピッタリとしたミニスカートから覗く足はストッキングを履いていなかった。

「私の名前はつくし。だからつくしって呼んで」

自分のことをつくしと呼べと言った女。だがそんなふざけた名前が本当の名前ではないことはすぐに分かった。それは濃い口紅やアイラインを塗った女がコールガールだからだ。
それに司は女を呼んだ覚えはない。
しかし女は当然といった顏でそこにいて、「それで?あなたは何が望み?何をして欲しいの?」と訊いた。

司は、これは罠ではないかと思った。
それは司が今日ここにいることを知っているのは、限られた人間だけだからだ。

司は明日の取締役会で道明寺ホールディングスの副社長に就任する。
だが、社長の息子である司が会社の跡を継ぐことを気に入らない人間が社内にいることは知っている。だから彼らは司を罠にかけ、スキャンダルを捏造し、マスコミに公表することで、その座から追い落そうとしているのだ。

司を罠にかけようとしているのは常務一派。
常務一派は会社の機密情報を持ち出しライバル企業に売った。
司はその情報を耳にすると証拠を掴んだ。そして明日の取締役会で証拠を突きつけるつもりだ。だから彼らはそれを阻止するために女を送り込んだのだ。

「ねえ?どうして欲しいの?」

女はそう言って司に近づき、ハイヒールを履いた片足を伸ばして司の爪先に触れると、なまめかしく微笑んだ。
司は正真正銘の男だが女には不自由していない。
それに女にもセックスに溺れたことはない。
だから女を部屋から追い出すのは簡単だ。
そして女が浮かべている微笑が仕事としての微笑みであり本心からの笑みでないことは分かっている。
それでも司は常務一派の手に乗るのも悪くないと思った。それは司の方が誘惑の手を使い慣れているからだ。だから女がどれくらいの手管を持っているのか。お手並み拝見といこうと思った。

司はにんまりとした。

「何でもするって?」

「ええ。あなたの望むことは何でも。だから何でも言って」

女は意味ありげに言うと、司の腕に手を伸ばし、爪で腕を撫で下ろした。











「ああ!」

つくしと名乗った女は裸になると背後から司の猛攻撃を受けて叫んでいた。
精力旺盛な男は女に息づかいを整える暇を与えなかった。
はじめは服を脱ぐことなく女にしゃぶらせるだけにしようと思った。
どんなやり方で司を楽しませてくれるのかお手並み拝見といこうと思った。
だが裸になった女が纏う香水とは違う匂いに、女の身体の奥深くにある子宮を手に入れたいと思った。過去に抱かれたどんな男よりも強烈に燃え上がらせたいと思った。

「ああ、お願い…….もっと…….もっとして…..」

司を求めて女が腰を突き出す。
だから司は容赦なく腰を打ちつけた。

「これが好きか?」

「ええ……好き…….」

「そうか。感じるか」

「ええ…….感じるわ……凄くいい…..」

「それならもっとしてやる」

司は更に激しく腰を打ちつけた。

「あッ!はあッ!__あ、あ、あ!…ああっん!ああ……」

司に突き上げられる度に女は喘ぎ顏をのけ反らす。
そして唸るか悶えることしか出来なかった。
だから司は腰を回しながら尚更激しく腰を振った。
強弱を付け、ゆっくりと、じらすように、深く突き上げた。
すると女は、もっと欲しいとみだらに腰をくねらせた。
司はそんな女の尻から手を離し身体を引いた。
女はそれが気に入らなかったようで不満の声を上げた。
そして司に向かって挑発的に腰を高く上げた。
それは司を誘惑する命を受けていたはずの女が男の獲物に変わった瞬間であり、獲物は司に喰われることを望んでいた。だから司は女の腹部から剃られることなくある豊かな黒毛に手を這わせると、脚の間に指を差し入れ性器をゆっくりともてあそんだが、貪欲な陰部はグッショリと濡れて司の指を深く呑み込み捉えた。

「もっと欲しいのか?」

司は女の中で指を回し感じやすい箇所を突いた。
すると愛液がさらに溢れた。

「ええ…..お願い…….」

「お願い?どんな願いだ?」

「どんなって…….あなたが欲しいの……」

「あなたが欲しい?それじゃ分かんねぇな」

司は背後から獲物になった女に冷たく言った。
そして女の右の尻を叩いた。

「言えよ。何が欲しいか。どこに何が欲しいか言うんだ。そうすりゃ今まで行ったことがないところにお前を連れていってやる。それからお嬢さん。物事はそううまくはいかないものだ。だからあんたをここに送り込んだ男に言うんだな。私は男を喜ばせるどころか、私の方が喜ばされました。快楽の奴隷になりましたってな」

すると女は言った。

「ええ…….分かった…..伝えるわ……だから……お願い。あなたの大きなモノを入れて!あなたのペニスを私のアヌスに入れて!」



おい!ちょっと待て!
いつの間にか寝ていた司は目を覚ましギョッとした。

司が恋人と愛し合うようになってから随分と経つが、そういった行為は経験したことがないが、こんな夢を見るということは恋人が司にアナル・セックスを求めているということなのか?

司は長い間、恋人とは純愛関係にあった。
それは日本とアメリカという遠距離恋愛であることもあったが、性に奥手だった恋人の気持を大切にしていたからだ。
だからふたりが結ばれたのは、司がアメリカで暮らすようになって2年後のクリスマス。
司は日本から会いに来た恋人と結ばれた。それ以来恋人と愛し合う中でオーラル・セックスは経験したことがあるが夢に見たようなセックスはしたことがない。
と、なると今見た夢は司の肩の一方に乗った悪魔のささやきに違いない。そしてもう片方の肩に乗った天使は止めることなく焦る司を見て笑っているはずだ。




「失礼いたします」

司は執務室に入ってきた西田の声に顏をそちらに向けた。

「支社長。お届けものがございます」

司は西田の言葉に片眉を上げた。
それは先を促す仕草。

「牧野様からこちらをどうぞとのことです」

疲れには甘い物がいいと言う恋人は、いつも差し入れをしてくれるが、西田が司の机の上に置いたのは、『きのこの山』と『たけのこの里』と書かれた小さな箱。

「西田。何だ。これは?」

「はい。こちらはチョコレート菓子でございます」

西田はそう言うと執務室を出て行った。
司は、きのこの山と書かれた箱を手に取ると開けた。
すると出てきたのは、カサがチョコレートで軸がクラッカーでできた、きのこの形をした菓子。
そしてもう一方の、たけのこの里と書かれた箱を開けると、チョコレートとビスケットでできた、たけのこの形をした菓子がある。
司は、そのとき少し前に耳にした女性社員たちの会話の内容が理解出来た。


「あたし。昨日きのこの山を買ったの」
「え?もしかしてあんた、きのこ派?」
「うん。軸のカリッとした食感が大好きなの!」
「そうなんだ。あたしは断然たけのこの里。子供の頃からあのサクサク感に手が止まらなくなるわ!」


司はまず、たけのこの形をした菓子をつまみ口に入れた。
するとチョコレートと一緒にサクサクとした食感を感じた。
そして同じように、きのこの形をした菓子をつまんだ。
だが口に入れる前にそれをじっと見た。
それは大きなカサも無ければ、その裏にあるはずのヒダも、そしてヒダの裏にある細かいスジも無い小さなきのこ。
その小さなきのこを恋人が食べる姿を想像しながら「俺のきのこは、こんなにちっちゃくねぇぞ」と呟いてから口に運んだ。そしてつい今しがた見た夢を振り返ったが、もし恋人が今まで行ったことがないところにどうしても行きたいと言うなら連れていくが、強引にことを運べばブン殴られることは分かっていた。

それにしても何故あんな夢を見たのか。
もしかすると、やはり恋人はソレを求めているのか。
だから司にこんな夢を見させたのか。
いや。それは違う。
恋人はそこまで性に奔放ではない。
だとすれば、これは自分の欲望なのか。

司は欲望やセックスが悪いとは思わない。
裸になって抱き合いたいと思うことを悪いとは思わない。
何故ならそれらは、身体の内側から溢れる相手を思う気持の表れだから。
それに心の思いを口で伝えると同時に身体で伝え合うことは恋人同士には必要だ。
それは命がけの恋をした相手となら尚更のことであり、二度と離したくないと思える相手と永遠に繋がっていたいという思いは純粋な愛だ。
だから司の恋人に対しての思いは常に純愛。
そうだ。ふたりの愛は純愛であり誰にも邪魔されることなく自由に愛し合うことができる狂詩曲(ラプソディ)だ。

司は再び小さなきのこをつまんだ。
そして今度はじっくりと見ることなく口に入れると「さてと。仕事に取り掛かるとするか」と言ってパソコンを叩き始めた。





「金持ちの御曹司」 こちらのお話が100作品目になります。
まさか100作も書くとは思いもしませんでしたが、これまで100作品にお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。
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2021
11.07

金持ちの御曹司~Make my day~<後編>

目覚めた司は病室にいた。
そして担当医である牧野つくしが来るのを待っていた。
だが現れたのは男の医者。
だから司は訊いた。

「牧野つくしはどうした?」

「牧野先生はフリーランスのドクター、つまりアルバイトで当医院の正式な医者ではありません」

「だからそれがどうした?」

司は鋭い目と口調で医者に言った。
すると訊かれた医者は言葉に詰まりながら答えた。

「は、はい。で、ですからアルバイトの牧野先生は昨日付けで病院を辞めました」

「病院を辞めた?」

「は、はい。契約期間はまだありましたが、急に辞めると言って……」

司はベッドから起き上がろうとした。
だが腹部の痛みに呻いた。

「道明寺支社長。手術したばかりのお身体です。暫くはご安静にお過ごし下さい」

「あほう。胆石は手術後二日目に退院できるんだろうが。それに翌々日には仕事に復帰出来るはずだ」

「いえ。実は…その…」

「実は?実はって何だ?はっきり言え!それにうだうだ言ってんじゃねえよ!」

司は病院を辞めたという彼女を一分一秒でも早く探しに行きたかった。
だから言い淀んでいる医師に話の先をせかした。

「はい。牧野先生は胆石だと言いましたが実は道明寺支社長のご病気は胆石ではなく肝臓に腫瘍がありました」

「肝臓に腫瘍?」

「はい。支社長に事実を話さなかったのは、秘書の方から秘密にして欲しいと言われたからです」

「秘書が?」

「はい。それに牧野先生も言わなくていいと言ったからです。
その代わり手術は絶対に成功させるからと言って……しかし我々としてはバイト風情に道明寺支社長の手術をさせる訳にはいかないと言ったのですが、支社長が承知されたので牧野先生に執刀してもらったのです」



***



司は退院すると彼女がいるという北陸の海の見える街を訪ねた。
牧野つくしはそこにある小さな病院で働いていた。

「牧野せんせー!お客さんですよー!」

待合室を掃除していた女性は窓の外に広がる畑に佇んでいる後姿の女を呼んだ。
そこにいる女は白衣ではなくジャージ姿で鍬を持ち立っていた。

「すみませんねぇ。先生の趣味は農作業で昼休みには作物の世話をしてるんですよ。それにもうすぐ小松菜を収穫するので牧野先生も生育状況を気にしているんですよ。先生!牧野せんせー!」

彼女は女性の呼び声に振り返えると、「なに?」と叫んだ。
「だからお客さんですってば!」と女性が言うと、「客って誰?」と叫んだ。
すると女性は、「誰って….ええっと…お客さん、お名前は?」と司に訊いた。
太陽の光りが降り注ぐ場所にいる女から、暗い建物の中にいる司の姿は見えない。
だから司は牧野つくしに向かって叫んだ。

「お前に腹を切られた男だ!」

すると畑にいる女は手にしていた鍬を投げ出し走り出した。
だから司は大急ぎで建物を出ると彼女の後を追った。

「あの女、相変らず逃げ足、早ぇな…..」

司は彼女を逃がす訳にはいかなかった。
何が何でも絶対に掴まえなければならなかった。
だから畑の中を走った。
途中ぬかるみに足を取られ転びそうになった。
危なく肥溜めにダイブするところだった。
だが、司は転ぶことなく体勢を立て直すと彼女を追った。
そして畑を抜け道に出たところで追いつくとジャージ姿の女の腕を掴んだ。
それは女神のドレスの裾を掴むのとは訳が違ったが、司にとって牧野つくしは女神。
そして女神というのは気まぐれなところがある。
だから己の手からすり抜けてしまわないように力を込めた。

「ちょっと!痛いじゃない!離してよ!」

「バカか。お前は。俺が離せと言われて、はい、分かりましたって素直に離す男だと思うか?」

司の言葉に彼女は答えなかった。

「牧野。俺は__」

「アンタ文句言いに来たのね」

「は?」

「だから文句言いに来たんでしょ?」

「一体俺が何に文句を言うって?」

司は彼女が言った文句の意味が分からなかった。

「何って…..」

「だから何だよ?」

「そ、それは…..」

「牧野。俺はお前に命を助けられたことを嬉しいと思う。本当の病名を隠していたことを責めるつもりはない。それに__」

司はスーツの上着を脱ぐと放った。
そしてワイシャツのボタンを外すと肌を晒した。

「俺はこの傷あとが永遠に残ることを望んでいる」

司の腹には傷が三つある。
ひとつ目は高校生の時に刺された傷あと。
その傷あとは肌になじむように薄くなっていた。
二つ目は牧野つくしが手術をした傷。今はまだ生々しいが、いずれひとつ目の傷と同じように薄くなるだろう。
そして三つ目の傷は手術した傷の近くに刻まれた小さな傷。
司はその傷が永遠に残ればいいと思っていた。

「牧野。お前の気持は分かった。俺は喜んでお前の気持を受け取る」

司の腹に刻まれている三つ目の傷とはローマ字で刻まれた彼女の名前。

「この字は消えない。消えないように刻んだはずだ。俺はそれが嬉しい。
それにこの文字を刻んだのは俺を他の女に渡さないってお前の意思表示だろ?
俺にお前を一生忘れさせないためだろ?だが安心しろ。俺はお前以外の女を抱くつもりはない。お前は俺の全てで俺にとって女は死ぬまでお前だけだ。だからここにお前の名前が刻まれていても全く問題はない」

司は自分が彼女を忘れても、彼女が司のことを思っていてくれたことが嬉しかった。
だから己の身体に彼女の名前が刻まれても何の問題もない。

「道明寺……」

「牧野…..」

司はつくしの顎を掴み顏を近づけた。

「俺はもう二度とお前を忘れない」















「支社長お止め下さい」

「…..あ?」

ソファに寝ている司を上から覗き込んでいるのは秘書の西田。
真面目な秘書の顏は時に能面のように見えることがあるが、今はまさにそれで司はそんな秘書の顏に手を当てていた。
だから慌てて手を離すとソファから飛び起きた。

「西田。なんでお前がここにいる?」

司は秘書を睨んだ。

「支社長お忘れですか?今夜12時に牧野様のお部屋に迎えに来てくれとおっしゃったのを」

そうだった。
本当なら司は今夜仕事を終えた後、ニューヨークに向かわなければならなかった。
だが今夜はどうしても彼女と一緒にいたかった。
何故なら今日の日はふたりの記念日だから。

__約束。ちゃんと守って。
__絶対に守ってね。
__守るよ。絶対に。

求められたのは鍋をする約束の履行。
その会話が交わされたのはニューヨークの空港。
退学届を出した司を追ってニューヨークに来た彼女。
だが感動の再会はなく、冷たく彼女を追い返す男に約束を果たして欲しいと言った。
そしてあの約束は大人になった今でも守られていて、ふたりはあの約束と同じ日に鍋をしていたが、今日がその日だった。
だから司は、ニューヨーク行きは日付が変わってからだと西田に言った。

「支社長。そろそろ飛行機のお時間ですので」

後ろ髪を引かれるとは正にこのこと。
何しろ鍋の後、不覚にも寝てしまった司は彼女との大切な時間を台無にしてしまったのだから。
だが彼女はそんな司に文句は言わなかった。

「道明寺。気をつけて行ってきてね。あたし、待ってるから」

あの時。ニューヨークの空港で彼女は言った。

__あたし、待ってるから。

待っている人がいる。
その人は最愛の人。
その人から待っていると言われれば無事に帰ってこなければならない。
だが、あの時のふたりに明日という言葉はなく別々の道を歩むことが決まっていた。
つまり、あの時の鍋はふたりにとって最初で最後の鍋になるはずだった。
しかし運命の歯車は別の道を用意していた。

一度は切れかけたふたりの絆。
だが見えない絆は切れることなく今も続いていた。
そしてこの絆はいずれ永遠の絆に変わる。
だからその日まで、いやその後も、Make my day、彼女は司を幸せな気持にしてくれるだろう。

「じゃあな。行ってくる。俺が戻るまでいい子にしてろよ」

司は彼女から渡された上着を着た。
そして最愛の人の唇にキスを落とすと部屋を出た。




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