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2019
09.17

金持ちの御曹司~受け止めて!この気持ち。~<後編>

部屋の中は明るかった。
つくしは目覚めたとき大きなベッドの真ん中に横たわっていたが、服は着ておらずバスローブを着ていた。
何故自分がこんな姿でここにいるのか。レコーディングを終えプロデューサーの道明寺司に飲みに行こうと誘われ、バーに着いてからジントニックを飲んだ後の記憶が無かった。

起き上がって顏にかかっていた髪を振り払い、バスローブをかき合わせ辺りを見回した。
そしてここがメープルの一室であることに気付いたのは、壁に掛けられている絵が印象的なもので見覚えのあるものだったからだ。

そうだ。つくしは以前この部屋に来たことがある。
それは道明寺司がこの部屋を自分の部屋として使用していて、打ち合わせで何度か訪れたことがあったからだ。

つくしを見出した道明寺司は、道明寺財閥の御曹司だが家業を継ぐことはなく音楽の道に入った。
それは御曹司のほんの気まぐれかと思われていたが、彼には音楽の才能があった。
そして俳優だと言われてもおかしくないその外見から女性にモテる男だった。
だから常に大勢の女性が彼の傍にいた。
そんな男のプロデューサーとしての才能は他の誰よりも秀でていて数多くの歌手を世に送り出した。
つくしは、その男に好きだと言われた。だが彼女は好きな人がいる。だから歌手を辞め、その人の傍にいたいと言った。
すると、好きだと言われ抱きしめられたが、つくしは彼の気持ちに気付いていた。
だが気付かないフリをしてきた。そうしなければ一緒に仕事をすることが出来なかったからだ。二人は仕事上の良きパートナー。そう思うようにしてきた。
だから気付いていたとはいえ、突然の告白にどう答えればいいのか分からず言葉に詰まった。たが彼は「分かった」と言って話はそれで終わった。
しかし、この状況からすれば話はそれで終わってはいなかったということになる。
バーでジントニックを飲んだ後のことは覚えていないということは、薬か何かが入った酒を飲まされたということになるが、これからどうすればいいのか。
ベッドに腰かけ考えていたが、逃げ出そうにも着ていた洋服は何処かへ持ち去られ着るものがない。

その時だった。
カチリと音がして扉が開き彼が入って来た。
そして後ろ手に扉を閉めると鍵をかけたのが分かった。

「気が付いたか?」

「気が付いたかって。こんなことしてどういうつもりなの?」

つくしはバスローブをかき合わせた姿勢で言った。

「どういうつもりか?」

「そうよ」

「つくし。俺はお前を諦めることが出来そうにない。それはお前の周りに大きな金が動いているからじゃない。その才能を終わらせることもだが、お前が俺の傍からいなくなることに耐えられそうにない。それに俺は本当にお前のことが好きだ。いや好き以上だ。愛してる。お前を放したくない」

司は言うと、着ている服を床に脱ぎ捨てながら彼女に近づいた。
そして驚いて司を見上げる大きな瞳をした女の頬に手を添え言った。

「俺はお前が欲しい。これまで出会ったどんなに才能豊かな歌手よりも、どんな美人の女優よりもお前の事が愛おしくてたまらない。歌手の代わりならいくらでもいる。女優の代わりもいくらでもいる。だが俺にはお前しか見えない。だから相手の男が誰であっても、その男にお前を渡すつもりはない」

司はつくしをベッドに押し倒すとローブを脱がせようとした。

「いや!道明寺!止めて!こんなことしないで!」

「暴れるな。暴れても無駄だ。男の力に女が敵うはずがない」

「違うの!道明寺!止めて!お願い訊いて!」

「何が違う?お前は俺じゃない男が好きなんだろ?」

「違うのよ!お願い訊いて!私が……私が好きなのはあなたなの!私が歌手を辞めて傍にいたいと思う人はあなたなの!」

「…..つくし」

司は押し倒した女の頬を流れる涙に気付いた。

「最近のあなたはどこか遠い眼をしてる。時々寂しそうな表情を浮かべてるわ。それはあなたのお姉さまが亡くなったことに関係あるんでしょ?あなたはお姉さまとは仲がよかった。それに私もお姉さまには大変よくしていただいた。お姉さまがお亡くなりになってからのあなたはひとりになったと思っているんでしょ?私はそんなあなたの傍にいたい。ひとりの女性としてあなたを支えたいの。だから歌手を辞めてあなたの傍であなたの仕事の支えになりたいの。だからいつかあなたに私の気持ちを伝えるつもりでいた。でも何か言おうにも言葉が見つからなかったの」

司は半年前に姉である椿を病気で亡くした。
そしてそれからの司は心の拠り所だった姉を亡くしたことで気持ちが沈むことがあった。

「つくし。お前、本当に俺のことが好きなのか?」

「ええ。好きよ。長い間歌手とプロデューサーとして過ごして来たけど、司のことが好きだった。ずっとあなたが好きだったわ」

「つくし……」

「司…..」

司はベッドに押し倒した女の髪に触れ、それから頬に手を触れた。
そして唇を重ねるため顏を近づけ_____


「支社長。それ以上お顔を書類に近づけるのはお止め下さい。そちらに欲しいのはサインであって唇ではございません」

司は西田の声に目を開いたが、目の前には手にしていた書類があった。

「あほう!こ、これは字が小さすぎて読めねえから顏を近づけただけだ!」

「そうですか。それではルーペをお持ちいたしましょうか?わたくしの私物ではございますがブルーライトがカットされている日本製で大変よく見えます。それから先日うっかりその上に腰を下ろしてしまいましたが壊れない優れものでございます」

司は西田の言葉を無視して書類を読むとサインをした。














「ねえ。海外事業本部の牧野さん。今までのど自慢大会出たことがなかったけど、彼女、上手いわね?」

「本当ね。あの伸びやかな声。凄いじゃない?それになりきってるって言うの?雰囲気までそっくりだったわ。もしかして優勝は彼女かもね?」

司は初めて社内対抗のど自慢大会の審査員として席に着いていた。
それは恋人が出場しているからだが、恋人からのど自慢大会に出ると訊かされ、どんなに多忙だろうとその日の夜はスケジュールを入れさせなかった。
そして社内行事とは言え本気の勝負。
だから恋人からは喉を労わりたいからと言って数日前からは愛し合うのも禁止となった。

会場は会社の近くのホールを貸し切り演奏はオーケストラによる生演奏。
司は恋人が心を込めて歌う曲を訊いていたが、『ブレーキランプ5回点滅。愛してるのサイン』という歌詞に、これからはそうしようと思った。

そして司会者が、「それでは最後の方です。どうぞ!」と言ってオーケストラが演奏を始めたのは、どこか悲しげなメロディー。
照明は少し暗めから徐々に明るくなり舞台の袖から出て来たのは、着物姿で日本髪を結った女性。その女性が『上野発の夜行列車おりた時から 青森駅は雪の中』と歌い始めて司は腰が抜けた。


「お、お袋!?」

舞台で恋に終止符を打った女の悲しみを歌うのは道明寺楓。
その時、以前秘書課の女性が話していた言葉が頭を過った。

『あの方にそんな暇ないわ』

『あの方は多忙を極めてるわ』

確かにあの方にそんな暇はない。
それにあの方は多忙を極めている。
そうだ。確か今朝はスイスにいたはずだ。
だがこの大会に出るために過密スケジュールをやり繰りして、わざわざスイスから来た。
そして大物演歌歌手並の堂々とした態度で歌う社長の登場に会場が息を呑んでいるのが分かった。
やがて天井から雪を表す白い紙がハラハラと舞い落ちて来たが、舞台中央で歌う女は冬の津軽海峡を越え北海道へ帰る女の気持ちを切々と歌った。
そして津軽海峡の冬景色を歌い上げると視線は見えるはずのない津軽半島の北の果てにある竜飛岬を見ていた。

「いやあ。まさか楓社長がいらっしゃるとは思いませんでしたが、今年の優勝は楓社長ですな」

司の隣にいる専務はそう言うと、「もちろん忖度などしておりません」と言葉を継いだが、他の審査員も同感だといった風に頷いた。













「ねえ。道明寺。まさかお母さまが参加されるとは思わなかったけど、お上手ね?」

司は帰りの車の中で恋人からそう言われ「そうか?」としか答えなかったが優勝したのは母親だった。
司は母親が歌を歌うのを初めて見た。
そして恋人の熱唱も。
つまり司は期せずして自分にとって大切な女性二人の本気の歌を訊いたことになるが、やはり恋人の方が上手いと思った。
だが思った。
もしかすると将来恋人も母親のように着物姿でああいった歌を歌うようになるのではないかということを。
だが司は嫌いではない。
人の心情を切々と歌い上げる母親の姿に何かを見たような気がしたからだ。

それは自分の気持ちを歌で表すということだが、司も自分の気持ちを受け止めて欲しいという思いからある歌を口ずさんだ。
だがそれは彼女だけに届けばいい歌声。
だから司は恋人の耳元に唇を寄せると、彼女のためだけに愛の歌を囁いていた。




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2019
09.16

金持ちの御曹司~受け止めて!この気持ち。~<前編>

神々しい横顔をした男がいる。
その男はまだ若く若さには自惚れが付きものだと言うが男の辞書に自惚れという文字はない。
だが世間はそれを自惚れと言うかもしれないが、男は世界中の誰もが認めるほどいい男だ。
だから、やはり自惚れという言葉は彼には当てはまらなかった。

そんな男が支社長を務める会社で毎年開催されるイベントがある。
それは社内対抗のど自慢大会。
大声で歌を歌うことでストレスを発散することが出来るが、のど自慢大会は日常からの解放であり、働き方改革のひとつで数年前から実施されていた。

大会は各部署の一番歌が上手い人間が出場するが、日曜の昼間に放送される某国営放送の番組とは違い、鐘が鳴ったら終わりではなく最後まで歌い切ることが出来る。
そして優勝者を出した部署に贈られるのは、支社長のポケットマネーからの金一封の百万円。その金をどう使おうと部署の自由。
だからどの部署も気合いを入れて歌い手を送り出すのだが、当然のことながらメイクも衣装もバッチリ。演出にも凝っていてシュレッダーの紙吹雪が舞い、銀テープが乱れ飛ぶ中、バックダンサーもいて本格的な舞台を見ることが出来た。

本気の仕事をする社員たちの本気ののど自慢大会。
そんな大会にある人物が出るという噂があるのだから誰もが驚いた。

「ねえ。あの噂本当だと思う?」

「う~ん。でも所詮噂でしょ?だってうちの会社の噂って噂の域を出たことがないでしょ?だから今回のその話も噂だと思うわ」

「そうよねえ……。それにあの方にそんな暇ないわよね?」

「そうよ。あの方は多忙を極めてるわ。だから社内対抗のど自慢大会に出るとは思えないわ」



最上階のフロアの片隅で交わされる重役付き秘書たちの話ぶりは落ち着いていた。
そしてその話を耳にした男は執務室に戻ると、先日恋人が作ってくれた自分の顏を模したクッキーを口に入れコーヒーを飲んだ。
必ず食べるようにと言われたクッキー。だから保存することなく毎日数枚ずつ食べていた。


多忙を極めるあの方と言われる人物の名前は道明寺司。
最上階の執務室が彼の職場であり、社内で見かけるチャンスは殆どなく、見かけるとすればビルの入口からエレベーターまで歩く短い距離。
そしてその男の声は魅惑のバリトンボイスと言われ、訊く者をうっとりさせる声をしているが、そんな男が社内対抗のど自慢大会に出る。そんな噂が社内に流れているが、そんなことは露ほども知らない男は、海外事業本部から牧野つくしが出場するという話を訊いて驚いた。

牧野がのど自慢大会で歌を歌う?
司はそんな話を本人の口からは訊いていない。
それに彼女が歌を歌っているところを見たこともなければ、訊いたこともない。
いや。料理をしながらの鼻歌なら訊いたことはあるがマイクを手に本格的に歌う姿を見たことがなかった。
だから上手いのか下手なのか分からなかった。
だが部の代表として出るからには上手いのだろう。

高校時代から付き合っている彼女が訊く歌は、いわゆる歌謡曲と呼ばれるものが多く、司が知らない歌手の曲も多かった。
だから司は彼女がどんな歌を歌うのか興味があった。
そこで司は彼女がもし歌手だったらと想像した。












真夜中のスタジオにいるのは人気歌手、牧野つくし。
そして司は敏腕と言われる音楽プロデューサーで、これまでも彼女の曲を数多く手掛けて来た。
司が彼女と出会ったのは新人歌手発掘のためのオーデション会場。
名前を呼ばれて入って来た時の第一印象は、化粧気もなく髪の毛を三つ編みにした地味でさえない子だと思った。
だが彼女の歌を訊いた瞬間、この子だと思った。
そしてオーデションを勝ち抜き、スポットライトを浴び歌う姿を見たとき間違いなくスターになると思ったが、ほどなくして司のプロデュースした曲を歌った彼女はすぐに売っ子の歌手になった。

それからは、まさにスターという言葉に相応しい活躍。
出す曲は全てミリオンセラー。
コンサートをすると決まればチケットは即完売。
それはまさに歌手として順風満帆な人生。
そして司はそんな彼女と共に曲作りをすることが楽しかった。





「今の音。もう一度プレイバックしてくれる?」

「どうした?まだ気になるところがあるのか?」

「ええ。ちょっとね」

「そうか。分かった。それで?どこから流す?」

「ダルセーニョからお願い」

司はその言葉に頷くと音を流した。
そして彼女はソファにもたれ目を閉じスタジオに流れる音に耳を傾けていた。

「ほら今の音。ちょっとキーが低いと思わない?だからもう一度取り直したいわ」

「そうか?俺にはこの音程が一番いいと思うが?」

「ダメよ。私の声はどうしても低くなりがちなの。だからもう一度お願い」

彼女はそう言ってガラスの向こう側に行くとヘッドフォンを付け、彼に向かって頷いた。
そして耳から流れる音楽に合わせ歌い始めたが、その歌声は訊く者の心を揺さぶるような切ない声をしていた。


司は彼女の声が好きだ。
これまで大勢の歌手を育てて来たが彼女ほど才能がある歌手はいないと思っていた。
だから彼女が望めばどんなことでもしてやるつもりでいた。
だがこのレコーディングを始める前、彼女から思いもしないことを告げられていた。
それは、このアルバムを最後に引退しようと思っているという言葉。
もちろん司は理由を訊いた。


「今、なんて言った?どうして歌手を辞める?君はスターだぞ?今、日本で一番売れている女性歌手だ。君はステージの上では輝いている。君の声は人の心を癒す。それなのに何故なんだ?」

「好きな人がいるの。だから歌手を辞めようと思うの。辞めてその人の傍にいたいの」

そんな彼女の言葉には歌手として大勢の人の前で歌うよりも、たったひとりの人の傍にいたいという思いが込められていた。
司は彼女の口から語られた言葉にショックを受けた。
何故なら彼はプロデューサーという立場だが彼女に恋をしていたから。
だから自分の恋は終わったことを知った。

言葉がもどかしい時というものがある。
だから司は彼女を抱きしめ言った。

「つくし。俺はお前のことが好きだ。初めはお前を単なる歌い手と見ていた。だが違う。いつの頃からかお前に恋をしている自分がいることに気付いた。だから俺がお前のために書いた曲は俺の気持ちが込められている」

「ええ。気付いていたわ。あなたの気持ちには……。だから私は___」

司は、それ以上の言葉を訊きたくなかった。
だから抱きしめていた腕を解くと背中を向けた。
そして「分かった」とだけ言ってレコーディングを始めようと言った。
だが心の中では彼女を奪った相手の男に対しての憎悪というものがあった。
そして同時に湧き上がったのは、彼女を他の男に渡したくはないという気持ちだった。




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2019
09.08

金持ちの御曹司~至高の幸せ~

「ねえ。萌え萌えの支社長ってどんな感じだと思う?」

「え!?支社長が萌え萌え?キャー。そんなの想像出来ないけど見て見たい!」

「そうでしょ?でも想像出来ないって言うのか。想像しちゃダメなのか。とにかく萌え萌えの支社長がそこにいるとすれば、あんたも行くでしょ?」

「うん。行く、行く、もちろん行くわよ!道明寺支社長がいるなら絶対に行くわ!あたしあの低くてセクシーでちょっと卑猥に聞こえる声で名前呼ばれたら失神しちゃうかも!」

「キャー。同じよ!同じ!あの声で香織って呼ばれたらあたし失禁しちゃうかも!あたしにとって支社長は神に近い存在よ!あたし支社長とデート出来るなら全財産投げ出してもいいわ!それにあたし毎日支社長に会えるように祈ってるの!でも偶然の出会いってないのよねえ。でもいつか支社長があたしの前に現れて『香織。俺と付き合ってくれ』って言ってくれるのを待ってるわ!」









後ろ姿に背徳感がありすぎる男は女子社員の会話に背を向けその場を離れたが、聞こえてくる声は何かを祈っているように聞こえた。
人を祈る気持ちにさせる男はもはや宗教家。
だが司は宗教家ではく企業家だ。

それにしても「もえもえ」って何だ?
それに行くってのはどういう意味だ?
司は女子社員の会話に出て来た「もえもえ」という言葉の意味が分からなかったが、思い浮かぶのは「燃え燃え」。

つまりあの女子社員が言っているのは、司が燃える男と言っているのだと思った。
何しろ司は熱い男と言われたことがある。だからその熱さで何かが燃えるという意味なら「もえもえ」を漢字に変換するなら「燃え燃え」で合っているはずだ。
いや。だがよく分からない言葉の意味を放置しておくのは良くない。
だから司は執務室に戻ると秘書に訊いた。

「おい、西田。お前『もえもえ』って言葉を知ってるか?」

「もえもえ…..ですか?」

「ああ。さっき若い女子社員が廊下で話してたんだが、さっぱり意味が分かんねぇ。それに行くと言ってたがどういう意味か分かるか?」

西田は支社長がまた社内を徘徊していたのかと思ったが、30分くらいなら業務に差し障りのない許容範囲内だと認めていた。
だから30分で大人しく戻ってきた男に多分こうだろうと思うことを言った。

「恐らくですが女子社員が言った『もえもえ』と言うのは、ある物や人物に対し、一方的に強い愛着心や情熱、欲望といった気持ちを抱くことです。ですから漢字にすると草冠に明暗を分けるの「明」を組み合わせて萌えという漢字になります。すなわち『萌え萌え』というのは、その愛着を抱く対象に酷く心を奪われている。盲目的に愛しているということでしょうか」



愛着心。
情熱。
欲望。
盲目的。

司は、その言葉の全てが、自分が恋人に対して抱く感情と同じだと思った。
けれど司と恋人との関係は一方的ではない。
二人は相思相愛であり立場は対等だ。
だが気になるのは行くと言うことだが、一体どこに行くというのか?

「それで西田。行くってのは、どういう意味だ?」

「はい。恐らくそれは萌えの対象がいる店に行くという意味ではないでしょうか」

その時、西田の頭を過ったのは少し前に流行ったメイドカフェという言葉。
だがその言葉を口に出すことはなかった。
何故なら話をしていたのは若い女子社員だというのだから、女性がメイドカフェに足しげく通うというよりも別の場所に行くのではないかと考えた。
つまりそれは彼女たちの萌えの対象となる男性がいるであろう場所と言えば____



「ホストクラブ?」

「はい。やはり妙齢の女性が店に行くとすればホストクラブではないでしょうか?ですが悪いことにホストクラブで働く男性に入れ上げるあまり身を持ち崩してしまう女性も大勢います。お気に入りの男性のために昼間の仕事が終わった後、夜の仕事を始める女性も多いと言います。それは高価な品物をプレゼントして男性の気を惹くためであったり、男性の売り上げに貢献したいということで店で金を使い、彼女たちをそういった方向へ向かわせてしまうということです」

司も接待で銀座のクラブで飲んだことがある。
だがそれはあくまでも仕事であり、女を同席させることを望まない。
だから司が受ける接待で女が隣に座ることはなかった。
そして司は女子社員が全財産を投げ出してもいいと言っていたことから、その話に「なるほどな」と言いって西田が執務室を出た後、椅子に身体をもたせ掛け、いつものように目を閉じた。













「Flower4」と言う店は新宿のネオンがひしめく一角にあった。
そこは新宿で一番カッコいいという男達がいる店だと言われ、連日大勢の女性客が訪れていた。
実際そこにいる4人の男達は見目麗しい花と言われている。
だから店の名前はFlower4。そして彼らはF4と呼ばれていた。
男達は一様にパーティーへ出るような正装をして女性たちをもてなしていた。
いや。実際にはもてなしてなどいない。ただ男達はそこにいるだけだ。

身に付けているのは高価な腕時計やカフスボタンや指輪。
毎日のように大勢の女性客が詰めかけ、自分へ好意を向けて欲しいと、彼らに贈り物を差し出していたが、彼らの中でも一番人気があるのは司だった。
そして司の視線は心臓を10回くらい叩かれたほどの破壊力を持ち、見つめられた女は腰砕けになると言われていた。


「ねえ司。来週はあたしの誕生日だからドンペリプラチナでシャンパンタワーをするわ!それから来月の司の誕生日にはリシャールでブランデータワーをするわ!」

ドンペリの中でも最高ランクのドンペリプラチナの店での1本の値段は100万。
バカラ社のクリスタルのボトルに入ったリシャールは最高級ブランデーで店での値段は1本250万円以上。
タワーにするために沢山のグラスが使われるが、女性はタワーを3つ作ると言った。
そのグラスを満たすための酒は1本や2本では済まない。つまりその女性が自分の誕生日と司の誕生日に使う金は1億を超えるのではと言われていた。

そして誕生日当日。

「ねえ司。あたし贈り物を持って来たの。これ司に使って欲しいの」

女性が差し出したのは、1千万は下らないと言われるスイス製の腕時計の箱。

「司!お誕生日おめでとう。これ受け取って」

と言って別の女性が差し出したのは跳ね馬のエンブレムの車の鍵で、店の前に止められている赤い車にはゴールドのリボンがかけられていた。
そして別の女性が差し出したのは最近売り出された高級マンションの権利書。
そこに書かれていたのは司の名前。他にも司のためなら金に糸目を付けないといった贈り物が彼の前に並べられた。

だが司は、そういったものに興味はない。
何故なら彼は道明寺財閥の御曹司で金は唸るほどあるからだ。
それなら何故そんな男がホストクラブにいるのか。
それは仲間のあきらに「おい。司。俺らでホストクラブを経営したらどれだけ客を集めることが出来るか興味はないか?いやな。うちの親父の会社。新宿のビルを手に入れたんだが、そこを壊して新しいビルを建てるまでの間。自由に使っていいぞって言われた。だから試しにやってみねぇか?」
と言って誘われたからであり本業が大学生の彼らにすれば、ホストクラブは女達がどれだけ自分達の為に金を使うかを競うゲームの場だ。

だが司はその街でひとりの女性に出会った。
女性は小さな花屋で働いている牧野つくし。
店が終った早朝、いつもなら迎えの車に乗るところだが、その日は違った。
ブラブラと歩いているとき、花屋の店先で段ボールの箱を開け、伝票をチェックしながら花の状態を調べている彼女を見かけた。
冷たい水に花を生け、水切りをする様子を見つめた。
そして司はその女性に一目ぼれをした。

そこは繁華街に近いという場所柄、売り花だけでなく、近隣の店へ花を生け込みに行くこともあった。
そして配達することもあり、開店前の司の店にも彼女が花を届けに来たことがあったが、赤いバラの花束は司宛のもの。
それをアレンジしたのが彼女だと思うと、いつもは花など捨ててしまう男も、その花を持ち帰り部屋に飾った。

司は彼女の彼氏になりたかった。
だから、きっかけを作ろうと毎日花屋に立ち寄った。
そして彼女と親しくなった。だが司は自分が大財閥の御曹司でホストをしていることは言わず、大学生で経営を学んでいるとだけ伝えた。

やがて親しくなった二人はデートをするようになった。
そのデートは彼女の希望に合わせ動物園や公園といったもので、司が普段暮らしている華やかな世界には縁のない場所ばかりだった。

そして今日も都内の公園でデートをした二人は、夕暮れ時になりその場を離れようとした。
その時、司はプレゼントを貰った。それは紙袋に入れられた彼女の手作りのクッキー。
だがそれを受け取った時、誰かが司の名前を呼んだ。

「司?司でしょ?」

名前を呼ばれた司が振り向いたそこにいたのは店の常連客。

「嘘!本当に司なの?後ろ姿が似てたからまさかと思ったけど。でもどうして司がこんな所にいるの?」

そう言った女は近づいて来ると司の前で立ち止まり彼を見上げ、甘えた口調で言った。

「ねえ。司。あたしこの前お店に行ったけどいなかったわよね?会えなくて凄く寂しかったんだから!でもいいわ。今度お店にいったらあたしの傍から離れないでよね?」

そして女は司の隣に立つつくしに値踏みするような視線を向けた。

「ねえ司。誰この女?」

と言うと司に視線を戻し、「まさか付き合ってるなんて言わないわよね?こんな地味でさえない女と」と言った。

司は悪態をつき女に黙れと言った。だが女は黙らなかった。
それは女が見た司のつくしに向けた視線に、自分には向けられたことがない真摯な態度が感じられたから。
だから女は、つくしに向かって言った。

「ねえあなた。どれだけ司につぎ込んだか知らないけど、司があなたのような女と本気で付き合うわけないでしょ?だって司は新宿のホストクラブで一番カッコいいって言われている男よ?そんな男があなたみたいな地味な女に本気になるはずないでしょ?」

とそこまで言った女は笑った。

司は隣に立つつくしの顏を見た。
目に入ったのは、不自然なほど青白い顏。そして噛みしめた唇。
それは明らかに動揺している姿で、彼女は司の傍から一歩退いた。
するとその様子を見た女は再び笑った。

「あら。早速あたしの言うことを理解してくれたのね?あなた物分かりがいいようだから、もうひとつ教えてあげる。司はね道明寺財閥の御曹司なの。だから本気にならない方がいいわよ。彼のような人間はね、遊びならどこの誰と付き合っても許されるけど未来は決まってるの。つまり結婚相手は決まってるってこと。だから本気なら傷付くのはあなたよ」

司はペラペラと余計なことを喋る女を無視してつくしに言った。

「違うんだ。この女の言うことを信じるな。俺はお前のことは本気だ」

するとそれを訊いた女は高笑いをして言った。

「司が本気?冗談でしょ?」

「うるさい!黙れ!お前は黙ってろ!」

司は女を殺してやりたいと思った。
だから、つくしから視線を外し女の方に一歩踏み出した。
だがその時、手に握られていた紙袋がそっと引き抜かれ司は振り向いた。

「牧野?」

「ゴメンね。あたしが作ったクッキー。きっと口に合わないと思う。だから返して?」

そして踵を返すと走って行った。

「待ってくれ!」

司は追いかけようとした。だが女が抱きつき司は追いかけることが出来なかった。
そして女の力は強く、司の脚に縋りつき、引きずられても離れようとしなかった。

「離せ!離れろ!このクソ女!」










「どなたがクソ女ですか?」

パッと目を開いた男の前にいるのは西田。
だが今の司は西田の言葉に答えるよりも先にすることがあった。
それは彼女が高校生の頃にくれたクッキーの存在を確かめること。

司はあの時のクッキーを食べることなく保存していた。
それは自宅の冷凍庫の中と、執務室の隣にある仮眠を取るための部屋の冷凍庫の中。
そこに慌てて向かうと冷凍庫を開けた。そして自分の顏をしたクッキーが存在していることに胸を撫で下ろした。

「よかった……。マジで焦った」

と呟いたところで背後にいた西田が、「支社長。そちらのクッキーですがいつまで保存されるおつもりですか?」と、明らかに呆れた口調で言ったが、司にすれば、このクッキーは初め貰った彼女からの誕生日プレゼントであり記念として永久保存するつもりでいた。
だがあの時、ひとつだけ類に食べられたことは悔いが残っていた。

「いつまでだっていいだろ?俺はこのクッキーを眺める度にあの頃のことが思い出される。だから食べるつもりはない」

「そうですか。それではこちらは必要ございませんか?」

と西田が差し出したのは小さな紙袋。

「何だ?それは?」

「はい。さきほど牧野様からお預かりしました。3時の差し入れとのことです」

司は西田の手から紙袋をひったくるように受け取ると中を見た。
するとそこには少し焦げ魚の匂いがする司の顏をしたクッキーがあった。

「こちらですが久し振りに実家に帰ったので家の魚焼きの網で焼いてみたとおっしゃっていました。それからご伝言がございます。『保存せずに食べるように』とのことです」




司は届けられたクッキーを食べようか食べまいか迷った。
それは自分の顏をしたクッキーを食べることに躊躇いがあるのではない。
迷っているのは彼女があの当時のことを思い出して作ってくれたクッキーに愛を感じ眺めていたい気分になっていたからだ。
それにあの時と同じ魚焼きの網で焼かれたものは貴重であり、その網によって付けられた焦げさえも愛おしいと思えたからだ。
だが保存せずに食べろと西田が強調したことから、彼女の強い思いを感じ食べることにした。


ひと口かじった。
甘かったが魚の匂いがした。
二口目をかじった。
卵とバターの味がしたが焦げが口に入った。
そして三口目を口に入れたが、髪の毛の部分は少しほろ苦いココアの味がした。

そんなクッキーに感じられるのは優しさと温もり。
司は、やはりこのクッキーには愛があると感じた。
そして幸せを感じた。
だが司が永久保存を決めた高校生だった彼女が作ったクッキーには愛はなかったはずだ。
先に惚れたのは司であり愛の大きさから言えば彼の方が大きかった。
そして誕生パーティーに招待され仕方なく作ったとも言えるクッキー。
だから、あの時のクッキーに練り込められたのは愛ではない。
それなら何かと言えば、まだ胸の中に浮かぶことさえなかった感情とでも言えばいいのか。
何しろあの頃の彼女は意地っ張りで素直に自分の気持ちを認めることがなかったのだから。
だがそれも愛おしさのひとつだったが、あの時のクッキーの味は複雑な感情の味がするはずだ。

司は西田が運んで来たコーヒーを口に運ぶと机の上に積まれた書類を手に取った。
そして二つ目のクッキーを口に入れたが、このクッキーは司にとって至高の味。
それを味わえる幸せを噛みしめながら書類に目を通し始めた。





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2019
06.18

金持ちの御曹司~愛という名の欲望~<後編>

世界には色々な形の愛がある。
そして恋煩いという病に取りつかれた男が取った行動は女を自分だけのものにすること。
金も地位も権力も。そして美貌も持つ男に振り向く女は多い。
だが司が欲しいのは目の前の女だけ。
だから司は目の前の女から目を離さなかった。




自分の肩までしかない華奢な身体。
艶のある黒髪と黒い大きな瞳。
薄い色の口紅を付けた唇。
初めて牧野つくしを見た時から身体が疼き、彼女を思い淫らなことを想像していた。

司の部屋の壁には牧野つくしの写真が何枚も貼られ、彼女が食品分析官の仕事用に会社で使っている白衣が司のベッドの上にあった。
それは会社のロッカーの中にあった医者が患者の診察をする時と同じ白衣。
その白衣は人の形に広げられ、裸になった司は白衣の腰の部分に尻を落とした姿勢で座り、彼女を思い悦楽の表情を浮かべ、自身の怒張したものを握り締め、上下に激しく擦ることを繰り返していた。
それは健康な男なら、していてもおかしくはない本能に従ってする行為だが、どんな女も手に入れることが出来ると言われる男の想いは、彼女だけに向けられていて他の女は欲しくはなかった。代用品で済ませるつもりはなく、白く吹き上げるものを注ぎ込みたいのは彼女の中だけ。それがこれから叶えられると思うと下半身の疼きが止められなかった。

司はすぐ目の前にいる女の香りを吸い込んだ。
それは今まで白衣から香っていた匂いとは別の匂い。
実際に匂う女の香りは優しい香りがした。
そしてこれから行われるあらゆる局面を想像した。
司の下に裸で横たわる女の白い肌を蹂躙する己の姿を。
深く突く度に喘ぎ声を上げる女の姿を。
大きく開かせた両脚の間の濡れて滑りやすくなった場所から香る匂いを吸い込み、そこを舐め吸い上げ最後に挿入する姿を。そして脚を開かせた女を上に跨らせ、下から激しく突き上げ可愛らしい胸が揺れる姿を眺めることを。

「牧野つくし。俺はお前が欲しい。お前の中に入りたい。だから大人しく俺を受け入れろ」

司は逃げようとする女を掴まえ寝室へ運び込みベッドの上へ寝かせると、素早くズボンと下着を脱いで豹を思わせる素早い身のこなしで女の上に跨った。そして身体をよじり弓なりになり逃げようとする女の身体を押さえつけた。

「い、いや…止めて。止めて下さい!」

「ダメだ。止めることは出来ない。俺はお前が欲しい」

司は抵抗する女の服を乱暴に脱がせ一瞬にして裸にした。そして両手をベッドの上にあったスカーフで縛り頭の上に縫い付け難なく女の身動きを封じた。

「ああ牧野.....なんて綺麗なんだ。俺は今までこんなに綺麗な裸を見たことがない。俺はお前が欲しくて仕事が手につかなかった。お前のことを考えるだけで硬く、熱くなって頭がおかしくなりそうだった」

そう言った男の身体の下半身は天に向かって真っすぐに屹立していて、今にも弾けそうに膨らんでいた。

「いや….嫌っ!止めて!道明寺副社長!私はあなたなんか欲しくな__」

司は、「欲しくない」の言葉を言わせなかった。
自分を否定する言葉を訊きたくなかった。だから容赦のないキスをして唇を塞いだ。
そして片手をきつく閉じられた脚の間に入れ、臆することなく指を1本奥へと挿し入れた。

「__!」

女は頭を左右に振り司の唇から逃れようとした。だが司はそうはさせなかった。
優しくない指は内側の敏感な襞を擦り湿らせ潤いを引き出そうとした。
そして徐々に潤いを増して来ると指を2本に増やし余すことなく探り始めた。
すると初めこそ歓迎しなかったそこは司の指に吸い付き締め付け甘い蜜を流し始めた。
だが司を受け入れるにはまだ狭い。だから司は唇を離し、広げられた脚の間に腰を据え、細い足首を掴み、膝を折り曲げ胸に当たるようにすると、隠されていた場所を目の前にさらけ出した。

「や、止めて!嫌っ!お願い離して!」

司の前にあるのはピンク色をした二枚貝が閉じられた姿。そこは開けられることを待っている鍵穴だった。そして鍵となってそこに入れたいのは己の高ぶり。

「止めて欲しいって?お前は嫌だと言っても身体は俺を求めて涎を流してる。見ろよコレを」

司は目の前の陰部を濡らす蜜を指先で掬い女の前に差し出した。

「いやらしいな。こんなに俺の指を濡らすんだからな」

それはサラサラとした水ではないヌメリを含んだ蜜。
そして彼女の羞恥を煽ると指先の残り香を嗅いだ。

「お前の匂いがする。だがこうした方がもっと匂いを感じることが出来る」

と言って目の前にさらけ出された蜜を流す場所に顔を近づけ唇を付けた。
すると華奢な身体が反り返った。だが唇を離しはしなかった。
それどころか折り曲げた膝を容赦なく押さえつけ、ゆっくりと時間をかけ濡れた舌でいたぶるように舐め、膨れた蕾を口に含み転がし攻めた。

「はぁ......あっ!…んぁあ!止めて…ダメ!….あっ!…あぁ…あああ!!」

司は頭の上で聞える声に舌を上下に滑らせピチャピチャと音を立てて舐め、襞の奥を味わうように舌を入れると、今度は引き出し蕾の先を舌先でチロチロと触れてから、息を吹きかけると唇で挟んだ。熱い息も愛撫そのもので繰り返される行為に大きく押し開かれた股は震え始めた。

「こんなことされたら正気じゃいられないって?いいぞ。それならもっとしてやるよ。俺はお前の正気を奪いたい。我を失った姿を見たい。俺が欲しいっていうお前の姿が見たい」

司はその言葉通り再び口を付けると巧に容赦なく甘美な攻めを続けたが、絶頂に導くことはしなかった。
それは相手に求めさせたいから。
だから欲しいというまで徹底的に攻めた。
舌を使い舐め回し、唇で挟み甘噛みをし、指で螺旋を描きながら奥まで入れ、内壁を擦り女の頭の中をカラッポにさせようとした。
それは熟練した舌の動き。細長くても力強い蛇の舌のような貪欲さで奥へ入ると執拗にいたぶり、牧野つくしのジュースを吸った。
そして司が触れている一点だけが知覚を感じるようにさせた。

「あ…だ、だめ…..」

だが本人の意志とは別にさっきまで何とか抵抗しようとしていた身体は司の舌を、唇を、指を受け入れたのが分かった。股の震えは痙攣となり足の指先がキュッと丸まったからだ。
それは感じている証拠。淡いピンク色に染まった身体はこれ以上ないほど熱を帯びていた。
だから司は顔を上げると女の蜜で濡れた唇を舐め、口元に笑みを浮かべた。

「欲しいか?」

司は今にもはち切れそうなほど昂ったものを握り、すっかり潤っている場所に当て先端で擦った。

「これが欲しいか?」

だが女は首を横に振った。
つまりそれは嫌だということ。
だが司はそれを認めることは出来なかった。
この女の全てを自分のものにしたい。俺のものだと主張したい。誰にも渡したくない。
だからここまで来て自分を否定する女を許さないという思いから、司は躊躇うことなく一気に根元まで貫いた。
すると女はアッと息を呑み、苦しそうに呻いた。そして痛い、止めてと言った。
だが女は手を縛られた状態で司を押しのけることも出来なければ彼を叩くことも出来なかった。

司は身動きできない女を突くのを止めなかった。
太くて長いものは身体を広げ、出入りを繰り返して容赦のないテクニックを使った。

「ああ、いい…..牧野….最高だ」

初めはゆっくりとしていた腰の振りも、やがて速く荒々しい動きに変わった。
そして腰を振るたびに滑りが良くなり、渇望が止めらない身体を満足させようと抽出を繰り返すが、なめらかさを増したそこは司を最奥まで引き込んだ。

「牧野…すげぇいい….お前のここは俺を咥え込んで喜んでる」

司は快楽の中に身を落とすと、速度を上げて腰を振った。
打ちつけるように腰をぶつけ、螺旋を描きドリルのように動いて突き立てることを止めなかった。

「ここはお前の鍵穴だ。どこを押せば快楽への扉が開くか俺だけが知っている。この穴に入ることが許されるのは俺だけだ。他の男はここに入ることは出来ないし許されない。お前の身体を味わうのは俺だけになる。それにお前の身体に残る俺の唇の痕と俺の匂いは他の男を寄せ付けることを許さない」

激しく突くたびに叫び声を上げる女は、司の大きさからなのか。苦しげな鋭い悲鳴を上げているが、司は自分と同じ感覚を味わって欲しいと、ぎりぎりのところまで抜くと今度はゆっくりと挿れた。

「大丈夫だ。お前もすぐによくなる」

司は、そう言って今度は優しくなだめながら腰を動かしたが女は涙を浮かべて言った。

「止めて….お願い…….初めてなの….」

その言葉に司は動きを止め女の顔を呆然と見た。
まさか今時いい年をした女が初めてだとは思わなかった。

「ああ…牧野。そうだったのか?お前、初めてだったのか?」

司の両手は女の腰から離れ彼女の頬を包んだ。それから縛っていたスカーフを解き、女の中に自身を入れたまま、力の抜けた身体を抱き起すとしっかりと抱いた。
抜かなかったのは、一度なかに入ったら抜け出すことが出来ないほど気持ちがよかったから。そして司はこの温もりを味わう初めての男だったことを知り、貴重な掘り出し物を見つけたことに気付いた。

「牧野。俺はお前を大切にする。だから俺の恋人になってくれ。一生大事にする。二度とこんなことはしない。だから俺の恋人になってくれ」

そして司は女が口を開く前に優しくキスをすると、涙をキスで拭きとった。











究極のエレガンスに言葉はいらないと言われるが、今の司は言葉を発することが躊躇われた。
いやそうではない。快感に打ち震えた男は言葉を発することが出来なかった。
最近の牧野絡みの夢は、いつも途中でぶった切られ完遂することが出来ないか、司にとって嬉しい展開ではないものが多かった。だからこの夢はある意味で男の征服欲を満たしてくれた。

だが今はそんなことで満足している場合ではない。
こんな夢を見ることになった問題を解決しなければならない。
それは司が勝手につくしの部屋の鍵を変えた件だ。
牧野はまだ怒っていて、口を利いてはくれない。
電話をかけてもいつも留守番電話になっていて出てくれない。
メールを送っても返事は来ない。
それに社内で見かけても無視される。

「俺はどうしたらいいんだ?」

その時だった。
執務室の扉をノックする音がした。

「失礼いたします。支社長。牧野様がお見えです」

西田の後ろから現れたのは司の最愛の人で喧嘩中の恋人。
その恋人は、司の傍まで来ると言った。

「ごめん。道明寺。私…言い過ぎたかも。道明寺は私のことを心配してくれたのよね?近くのマンションで空き巣被害があったって訊いて心配になったのよね?よく考えてみたら道明寺のしてくれたことは私の安全のためだもの。言い過ぎてゴメンね」

その言葉は司を天にも昇る気持ちにさせた。
まさに地獄から天国。天使が頭の上でファンファーレを鳴らし、くす玉が割られ中から鳩が飛び出した。
そして今、目の前にいるのは天使かと見紛うばかりのかわいい女。
司が悪いことをすれば悪いと怒るが、自分が悪いと思えば素直に謝るところは昔と変わらない司の恋人。
だから司も謝った。

「俺も勝手に鍵を変えちまって悪かったと思ってる」

「うん。そうよね。前もって言ってくれたら私も驚かなかったと思うけど、何も言われなかったし…..。だから出張から帰ったら鍵が開かないって驚くのは当たり前よね?」

恋人の言葉は正しい。だから司は立ち上ると、「そうだな。お前の言う通りだ。すまなかった」と言って彼女を抱きしめた。










百年先も愛を誓う。君は僕の全てと歌ったアイドルグループがいるが、司は百年どころか二百年先でも三百年先でも愛を誓える。いや未来を誓うというなら過去も語らなければならないはずだが、司は千年前から彼女を愛していたはずだ。
つまりそれは人生とは円を描いていて、人は死んでもまた再び同じ人生を繰り返すと言うドイツの哲学者ニーチェの永劫回帰を実践したということだが、二人は同じ土星人であり広い宇宙の中で二人が出会うことは初めから決められていて、ニーチェよりも遥かに昔から決まっていたに過ぎないと考えていた。
そして幸せだと改めて思うのは、現世に於いても無事めぐり逢い一緒に過ごせていること。
だから時に喧嘩をしても二人は離れることはない。
司はそれを最愛の人に伝えたいという思いで更に強くつくしを抱きしめた。



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2019
06.17

金持ちの御曹司~愛という名の欲望~<前編>

大人向けのお話です。
未成年者の方、またはそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
*******************************








眉間に皺を寄せた様子は苦悩を表しているように見えるが、実はそれは色気を表していると言われる男に親友は言った。

「なあ司。お前は何フェチだ?」

「総二郎。お前司に向かってそんなアホな質問をするな。こいつは牧野フェチに決まってんだろ?こいつは牧野って名前だけでも表情が確実に変わる。心持ちだが口角が下がって頬が緩む。でもって気持ちが落ち着かなくなってソワソワして牧野がそこに現れるんじゃねぇかって牧野の姿を探して目が泳ぐようになる。そうなると流石の西田秘書も手に負えなくなる。だから社内で野放しとまでは言わねぇが、30分くらいなら自由にさせてもらえる。その間に牧野を見つけて構ってもらう。そうでもしなきゃ司は仕事が手につかなくなるからな。まあ、牧野にしてみれば仕事中に突然司が現れるんだから迷惑かもしんねぇけど、そこは会社の為だ。諦めもついてるっての?これも仕事の一部だって受け入れてるって訳だ」

「ふ~ん。そうか。牧野は色々と大変なんだな」

「そうだぞ?社内恋愛ってのは色々とややこしいし、面倒なこともあるぞ?もしも社内恋愛で別れてみろ。男にしろ女にしろ二度と顔を見たくないと思えるようになった相手と嫌でも顔を合わせるんだ。だから社内恋愛のリスクは二人の関係が上手くいかなくなった時だ。まあそれでも付き合ってる時はスリルがあるよな?他人行儀な内線電話をかけてみたり、暗号のようなメールを送ってみたり、社内でこっそり待ち合わせをしたり、誰もいない会議室にシケ込んでドキドキして楽しいだろうよ。たださっきも言ったように二人の関係が楽しく続いている限りだぞ?」

あきらは総二郎を前に社内恋愛について語っているが、執務デスクでムスッとした顔をした男は、そんなあきらを睨んだ。

「あきら。お前何しに来たんだ?俺と牧野が喧嘩したことがそんなに嬉しいのか?」

「いや。それは違うぞ司。俺がここに来たのは、お前が落ち込んでんじゃねぇかと思って励ましに来た。何もお前の落ち込んだ姿を見たくて総二郎を誘った訳じゃない。な?総二郎?」

あきらはそうは言ったが、いつも偉そうな顔をしている親友の落ち込んでいる顔を見に来たことは当たっている。

「ああ。そうだぞ司。俺もあきらも忙しい中、お前を慰めに来た。でもなぁ。どうしてそんなことをしたんだ?」

そして総二郎もあきらから司が落ち込んでいると言われ、見に行ってみないかと言われ足取り軽く親友の誘いに乗った。

「どうしてって、あいつが喜ぶと思ったからだ」

「あのなあ司。お前何年牧野と恋人同士やってんだ?牧野はお前の過剰な保護は嫌いだろ?付き合うなら対等じゃなきゃ嫌だって女だったろ?それなのにそんな勝手なことしてあいつが喜ぶと思ったのか?あいつの部屋の鍵を勝手に変えるなんて」

そうは言われたが、司はただつくしのことが心配だったからそうした。
何しろつい最近恋人が住むマンションのすぐ近くのマンションに空き巣が入った。
だから女のひとり暮らしにどれだけ用心しても足りないことはない。たとえそこがオートロックでセキュリティがしっかりしているマンションだとしても用心に越したことはないはずだ。

それに司に言わせれば恋人が住むマンションのセキュリティは完璧ではない。
本当ならもっとセキュリティが行き届いた場所。つまり司と同じマンション。いや出来れば同じ部屋に住んで欲しい。何しろリビングは100坪あるのだから、恋人がどんなに沢山の荷物を持ち込んだとしても充分対応できるはずだ。
それに名字を一緒にすることに躊躇いがあるなら、せめて住所だけでも一緒にしたかった。

だが道徳心が強い女は結婚してない男女が同じ部屋に住むなどとんでもないと言う。
いや。それ以前に支社長である司とつくしが付き合っていることは秘密だ。
それに仮に司のマンションと同じマンションに住むとしたら、何故一介の社員の給料で支社長と同じ高級マンションに住むことが出来るのかという疑問が生じる。
だから同じマンションに住めないなら、せめて部屋の鍵だけでもとセキュリティが高いものに変えた。
そうしたら勝手なことをしないでと怒られた。
だが司に言わせれば部屋の鍵を交換したのはリスクマネジメントを取ったに過ぎなかった。
何しろ司は曲がりなりにも道明寺ホールディングスの日本支社長であり、道明寺財閥の後継者なのだから、リスクについての心得といったものは充分理解していた。

「おい。司。いいか。牧野って女は自立心が旺盛な女だ。昔あいつ言ったんだろ?私は守られる女じゃないって。だからお前は極力あいつの意志を尊重しているはずだ。とは言え犯罪に巻き込まれる前に予防策を取ることは悪いことじゃない。だからお前のしたことが全面的に悪いとは思わねぇけど、やっぱあいつにひと言いうべきだったろ?だって出張から帰ったら玄関の鍵が変わってたらそりゃ怒るだろ?あ。司、それともアレか?もしかしてあわよくば、これを機に一緒に住もうとか言うつもりでいたのか?」

司はあきらの言葉にそうか!その手があったかと膝を叩かないまでも思った。
鍵が開かないことで司を頼ってきた女を自分の部屋に連れ帰りそのまま閉じ込めてしまう。
それも強固な鍵のかかった部屋に閉じ込める。
そうすれば、いつも最愛の人と一緒にいることが出来る。それは実にいいアイデアだと思った。
そんなことを考えている司に、あきらと総二郎は、
「それにしても司の落ち込んだ姿を見たのは久し振りだったが、いいもの見た様な気がするわ。なんかストレス解消出来た気がするぜ、サンキュー司」
と言って執務室を出て行くと、司は人をストレス解消の対象にするなと思いながら椅子に背中を預けると目を閉じた。











「部屋の扉の鍵が開かなくなったというのは、あなたですか?」

究極の鍵師と呼ばれる男は、どんなに開けることが困難な扉も簡単に開けることが出来ると言われているが仕事を選ぶと言われていた。
そんな男は180センチをゆうに超える長身に黒い服に身を包み女の前に現れたが、その服装はまるで暗闇に紛れて仕事をすることが心地いいといった姿。
だが実際はその通りで男は夜しか仕事をしないと言われていた。
だから彼の腕が使われるのは、帰宅して家の鍵を紛失したことに気付き中に入れないといった住人が殆どだ。
そして料金は時と場合によって違った。つまり言い値ということになるが、男はそれでもよければ扉を開けるといったスタンスで仕事をしていた。

「みません。鍵が鍵穴に合わないんです。何故こんなことになったのか.....。朝家を出る時はちゃんと鍵をかけることが出来たんです。それなのにどうしてなのか訳がわからないんです。それにこの部屋の鍵は普通の鍵屋さんでは簡単には開けることが出来ないと言われていて、それであなたの事を知ってお願いしたんですが、開けることが出来ますか?」

それはセキュリティを重視したマンションが特別に設えた特殊な鍵。
その鍵が何故か鍵穴に挿し込むことが出来なくなっていた。

「ええ。私はどんな鍵も開けることが出来ます。ただし料金は高いですよ?」

女は夜中に鍵屋を呼ぶのは初めてであり、いったいいくら必要なのか分かなかったが、財布の中身を頭に思い浮かべながら「お願いします」と答えた。
すると、「分かりました。それではすぐに鍵を開けましょう」と言って男は鍵を開けるための道具を取り出し鍵穴に挿し込んだ。
そして耳を扉に近づけた。するとものの数秒で開錠されたのが分かった。

「開きましたよ」

「本当ですか?ありがとうございます!助かりました。それで…あの、お幾らになりますか?」

女はそう言って鞄から財布を取り出し料金を聞いた。

「料金ですか?」

「はい」

「料金は不要だ。金は必要ない」

女はその言葉に「えっ?」と怪訝な顔をした。
金は必要ないとはいったいどういう意味なのか?
考えていたその時、自分の前に立つ背の高い男の口元にうっすらと笑みが浮かんだのを見た。

「金は必要ないと言ったがその代わりお前が欲しい。牧野つくし。俺はお前に一目惚れをした。お前は気付かなかったが俺たちは会ったことがある。お前は道明寺グループの会社で働いているな?俺は副社長の道明寺司で鍵屋は趣味だ。俺は開かない鍵を開けるのが好きなだけだ。だがお前の部屋の鍵を変えたのは俺だ」

つくしは男が何を言っているのか、すぐに理解することが出来なかった。
だが男が言うように、つくしは道明寺グループの道明寺食品という会社で食品分析の仕事をしていた。
そして徐々に頭の中に浸透して来たのは、自分の部屋の開かない扉を開けた男性が親会社の副社長道明寺司で部屋の鍵を勝手に変えたのは自分だと言った。
そして「お前が欲しい」の意味に気付くと、たった今開けられた扉のドアノブを掴み部屋の中に逃げようとした。だがそれが間違いだった。
男はつくしの手を掴み、扉を開け、部屋の中に彼女を押し込み、素早い身のこなしで自身も中へ入ると後ろ手に鍵を閉めた。

「や、止めて!」

「何を止めるって?俺はまだ何もしてないが?」

司はククッと笑い着ていた黒の上着を脱ぎ、広く逞しい胸に張り付いていた黒のTシャツを脱ぐと床に放った。上半身裸になった男の鍛えられた肉体は世の女達を虜にすると言われる身体をしていたが、目の前の女は怯えた顔で彼を見ていた。

司は訪問した関連会社で見かけた牧野つくしに一目惚れをした。
彼が検査室のガラス窓の外を通っても、視線を向けることなく気取らない態度で仕事をしている彼女を見かけたとき恋に落ちた。
そして彼女が欲しいと思った。
だから自宅を調べると彼女が住むマンションを買い取り彼女がいない間に鍵を変えた。
つまり部屋の内部がどうなっているかも知っていた。

「や、止めて…..な、何をするつもり?」

「怖いのか?俺のことが?」

部屋の奥に逃げた女の前に立った男は、言いながらベルトのバックルを外した。
そして女が怯える姿にゾクリとするものを感じた。

「ああ…牧野。俺を怖がらないでくれ。俺はお前に一目惚れをした。だからお前が欲しい。俺はお前に触って悦びを感じたい。俺はお前の男になりたいだけだ」




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