「健一…….」
とっさに顔がこわばった相手は、大学時代付き合っていた経済学部の男性。
そして過去に二度しかない恋愛経験の中のひとつである三田健一との交際は、彼が二股を掛けていたことが分かり別れた。そんな相手とまさか15年振りに会うことになるとは思いもしなかった。
「やっぱりそうだ。お前牧野だろ?牧野つくしだろ?」
あの頃。彼女になって欲しいとバイト先にまで来るようになった健一のしつこさに曖昧に頷き付き合うようになったが、今でもあの頃と同じで健一は人のこちら側に押し入ろうとする強さが感じられた。同い年で180センチ程ある男が健康的に日焼けしているのは、何かスポーツでもやっているからだろうか。焼けた肌に白い歯が目立っていた。
「それにしても、まさかこんなところで牧野に会うとは思わなかったな」
それはつくしが言いたいセリフだ。
三田健一がどうしてこんなところをウロウロしているのか。別れてから健一のことは全く関知しないが、相変らずテンションが高い話し方はあの頃と同じだ。
今思えばぺらぺらとよくしゃべる男だった。そしてしゃべることで相手を自分のペースに巻き込んでいくやり方をしていた。大学生だったつくしは、そんな健一のペースに巻き込まれるようにして付き合い始めたと言ってもいい。
だが今は違う。三田健一のように薄っぺらい男の口の軽さに乗せられることはない。
「懐かしいな。今どうしてるんだ?俺広告代理店に勤めてるんだ。一応これでも係長。お前もしかしてこの近所に住んでるのか?そうだろ?その恰好は普段着だよな?」
住んでいるとしても答えたくない。言いたくはない。
それにつくしがどんな格好をしていたとしても関係ないはずだ。
そしてあの当時と同じで健一の方が喋り、つくしは口を挟むことはなかったが、何も答えないつくしを健一は気に留めてはいないようだ。
「なあ、牧野。時間があるならこれからその辺でコーヒーでも飲まないか?こうして久し振りに会えたんだ。昔の懐かしい話でもしないか?学生時代付き合ってたよしみで。なあ、いいだろ?」
健一の言葉は馴れ馴れしく、そして「よしみ」という言葉がつくしの癇にさわった。
自分が学生時代に付き合った女だとしても、騙して裏切ったことは忘れたのか。
つくしは、健一の調子のよさに対し、不信感しか覚えなかった。
それに今更別れた女とコーヒーを飲んで何を話したいというのか。仮にあの頃のことは悪かったと言われたとしても何も感じないはずだ。それは、あの頃の自分自身が受け身だったからだ。言い寄られて付き合い始めたからだ。それに今ならあの頃、どうしてあなたと付き合おうと思ったのか分からないと言える。
そこでようやくつくしは返事をした。
「嫌よ。私これから人と会うの。だから時間はないわ」
偶然がもたらした出会いは仕方ないとしても、これ以上健一と一緒にいたくない。
今はもうあの頃の受動的な自分ではない。だからはっきりとした言葉で意志を示した。
「それに私はあなたとする懐かしい話はないわ」
思いのほか出た冷たい声に健一は怯んだ様子を見せた。
そして健一は、自分の思惑通りに物事が進まないと苛立ちを見せるが、それはたった一瞬で、すぐにいつもの調子を取り戻した。
「そんなこと言うなよ。そんなに時間を取らせるつもりはないからさ。なあ、少しくらいならいいだろ?」
健一はスーパーの入口に向かって歩き出したつくしの隣に並んだ。
だがつくしは健一の方を見ることもなければ、足早に店の中に入ろうとした。
「おい待てよ。逃げんなよ?逃げることないだろ?」
健一はつくしの腕を掴もうとした。だがつくしはそうはさせなかった。
「触らないでくれる?もし触ったら声を上げるわ」
周りには人がいて、二人の会話が耳に入る人間もいるはずだ。
声を上げられて困るのは健一だ。
そしてもし健一が遠い昔を思い出し、何か言ったとしても、あなたとのお付き合いは青春の1ページであり、あの頃に戻りたいとは思いませんと言うつもりだ。
そして二人の間に感じられる緊迫した雰囲気は、しかし後ろからの声に破られた。
「お困りかしら?私で出来ることがあればお手伝いしましょうか?」
その声は、女性が男性に絡まれていると思って声をかけてくれたのだろうか。
つくしは声がした後ろを振り返った。
そこにいたのは長い黒髪に綺麗な顔をした若い女性。
白いワンピースに白いミュールを履いた足の爪先には深紅が塗られていて、背の高さはつくしよりも10センチは高いはずだ。つまりミュールの高さを加えれば15センチは高い。
そんな女性から見下ろされるように言葉をかけられたが、見覚えのある顔だと思った。
「あら。どこかでお見かけした顔だと思えば、牧野つくしさんね?こんなところでお会いするなんて偶然ね?」
ついさっきまで三田健一が独壇場としていたのを奪った女性は、つくしの会社のロビーに現れた女性。
「….あなたは_」
「私?光栄だわ。私のこと覚えていてくれたのね?私は白石隆信の妻よ」

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とっさに顔がこわばった相手は、大学時代付き合っていた経済学部の男性。
そして過去に二度しかない恋愛経験の中のひとつである三田健一との交際は、彼が二股を掛けていたことが分かり別れた。そんな相手とまさか15年振りに会うことになるとは思いもしなかった。
「やっぱりそうだ。お前牧野だろ?牧野つくしだろ?」
あの頃。彼女になって欲しいとバイト先にまで来るようになった健一のしつこさに曖昧に頷き付き合うようになったが、今でもあの頃と同じで健一は人のこちら側に押し入ろうとする強さが感じられた。同い年で180センチ程ある男が健康的に日焼けしているのは、何かスポーツでもやっているからだろうか。焼けた肌に白い歯が目立っていた。
「それにしても、まさかこんなところで牧野に会うとは思わなかったな」
それはつくしが言いたいセリフだ。
三田健一がどうしてこんなところをウロウロしているのか。別れてから健一のことは全く関知しないが、相変らずテンションが高い話し方はあの頃と同じだ。
今思えばぺらぺらとよくしゃべる男だった。そしてしゃべることで相手を自分のペースに巻き込んでいくやり方をしていた。大学生だったつくしは、そんな健一のペースに巻き込まれるようにして付き合い始めたと言ってもいい。
だが今は違う。三田健一のように薄っぺらい男の口の軽さに乗せられることはない。
「懐かしいな。今どうしてるんだ?俺広告代理店に勤めてるんだ。一応これでも係長。お前もしかしてこの近所に住んでるのか?そうだろ?その恰好は普段着だよな?」
住んでいるとしても答えたくない。言いたくはない。
それにつくしがどんな格好をしていたとしても関係ないはずだ。
そしてあの当時と同じで健一の方が喋り、つくしは口を挟むことはなかったが、何も答えないつくしを健一は気に留めてはいないようだ。
「なあ、牧野。時間があるならこれからその辺でコーヒーでも飲まないか?こうして久し振りに会えたんだ。昔の懐かしい話でもしないか?学生時代付き合ってたよしみで。なあ、いいだろ?」
健一の言葉は馴れ馴れしく、そして「よしみ」という言葉がつくしの癇にさわった。
自分が学生時代に付き合った女だとしても、騙して裏切ったことは忘れたのか。
つくしは、健一の調子のよさに対し、不信感しか覚えなかった。
それに今更別れた女とコーヒーを飲んで何を話したいというのか。仮にあの頃のことは悪かったと言われたとしても何も感じないはずだ。それは、あの頃の自分自身が受け身だったからだ。言い寄られて付き合い始めたからだ。それに今ならあの頃、どうしてあなたと付き合おうと思ったのか分からないと言える。
そこでようやくつくしは返事をした。
「嫌よ。私これから人と会うの。だから時間はないわ」
偶然がもたらした出会いは仕方ないとしても、これ以上健一と一緒にいたくない。
今はもうあの頃の受動的な自分ではない。だからはっきりとした言葉で意志を示した。
「それに私はあなたとする懐かしい話はないわ」
思いのほか出た冷たい声に健一は怯んだ様子を見せた。
そして健一は、自分の思惑通りに物事が進まないと苛立ちを見せるが、それはたった一瞬で、すぐにいつもの調子を取り戻した。
「そんなこと言うなよ。そんなに時間を取らせるつもりはないからさ。なあ、少しくらいならいいだろ?」
健一はスーパーの入口に向かって歩き出したつくしの隣に並んだ。
だがつくしは健一の方を見ることもなければ、足早に店の中に入ろうとした。
「おい待てよ。逃げんなよ?逃げることないだろ?」
健一はつくしの腕を掴もうとした。だがつくしはそうはさせなかった。
「触らないでくれる?もし触ったら声を上げるわ」
周りには人がいて、二人の会話が耳に入る人間もいるはずだ。
声を上げられて困るのは健一だ。
そしてもし健一が遠い昔を思い出し、何か言ったとしても、あなたとのお付き合いは青春の1ページであり、あの頃に戻りたいとは思いませんと言うつもりだ。
そして二人の間に感じられる緊迫した雰囲気は、しかし後ろからの声に破られた。
「お困りかしら?私で出来ることがあればお手伝いしましょうか?」
その声は、女性が男性に絡まれていると思って声をかけてくれたのだろうか。
つくしは声がした後ろを振り返った。
そこにいたのは長い黒髪に綺麗な顔をした若い女性。
白いワンピースに白いミュールを履いた足の爪先には深紅が塗られていて、背の高さはつくしよりも10センチは高いはずだ。つまりミュールの高さを加えれば15センチは高い。
そんな女性から見下ろされるように言葉をかけられたが、見覚えのある顔だと思った。
「あら。どこかでお見かけした顔だと思えば、牧野つくしさんね?こんなところでお会いするなんて偶然ね?」
ついさっきまで三田健一が独壇場としていたのを奪った女性は、つくしの会社のロビーに現れた女性。
「….あなたは_」
「私?光栄だわ。私のこと覚えていてくれたのね?私は白石隆信の妻よ」

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司*****E様
声をかけて来たのは、昔の彼。
会いたくないでしょうね。会いたくなかったはずです。
受動的な恋愛をしていた恋のひとつ。
今となってはどうしてこの人を?と疑問が浮かぶ相手でした。
そして次に声をかけてきたのは、美奈です!(@_@。
ここ数年の気象状況は異常だと思えるほど雨が集中的に降りますね?
自然から逃げることは出来ず、今回のようなことは、どこで起きてもおかしくはないことですので、準備だけはしておきたいと思います。
そして暑さが厳しいですね!
毎年思います。脳みそ溶けてる?(笑)と。
司*****E様もお身体おご自愛くださいませ。
コメント有難うございました^^
声をかけて来たのは、昔の彼。
会いたくないでしょうね。会いたくなかったはずです。
受動的な恋愛をしていた恋のひとつ。
今となってはどうしてこの人を?と疑問が浮かぶ相手でした。
そして次に声をかけてきたのは、美奈です!(@_@。
ここ数年の気象状況は異常だと思えるほど雨が集中的に降りますね?
自然から逃げることは出来ず、今回のようなことは、どこで起きてもおかしくはないことですので、準備だけはしておきたいと思います。
そして暑さが厳しいですね!
毎年思います。脳みそ溶けてる?(笑)と。
司*****E様もお身体おご自愛くださいませ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.07.11 23:07 | 編集

金**様
愚かな姪とバカな中年男の叔父ですね?
椿の娘でありながら愚かなことをする姪。
その姪可愛さから盲目になった叔父。
そして管理人や昔の男が出て来た。彼らはどう絡むのか?
実りのない恋愛を30代の女に課す男に意地悪したいですか?同じ気持ちです^^
しかし、司との結婚を望まない女に彼はどうするのでしょう。
今の彼の気持は付き合う前とは変わっていますがどうするのでしょうね、司。
コメント有難うございました^^
愚かな姪とバカな中年男の叔父ですね?
椿の娘でありながら愚かなことをする姪。
その姪可愛さから盲目になった叔父。
そして管理人や昔の男が出て来た。彼らはどう絡むのか?
実りのない恋愛を30代の女に課す男に意地悪したいですか?同じ気持ちです^^
しかし、司との結婚を望まない女に彼はどうするのでしょう。
今の彼の気持は付き合う前とは変わっていますがどうするのでしょうね、司。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.07.11 23:22 | 編集

ア*******ク様
こんにちは^^
さて、司はこの場面に駆け付けるのか。
そして駆け付けるとすれば間に合うのか?
高飛車な美奈と大人のつくし。二人これからどんな話しをするのかしないのか?
いつも色々と想像していただき、楽しませていただいています。
拍手コメント有難うございました^^
こんにちは^^
さて、司はこの場面に駆け付けるのか。
そして駆け付けるとすれば間に合うのか?
高飛車な美奈と大人のつくし。二人これからどんな話しをするのかしないのか?
いつも色々と想像していただき、楽しませていただいています。
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2018.07.11 23:32 | 編集
