司がこうしたパーティーに女性を伴い現れたことに多くの人間が驚きを隠せなかった。
なぜなら、チャリティーというその趣旨からすれば、配偶者や家族が同伴者に選ばれることが多い。しかし一緒に現れた人物は、家族でもなければ、ましてや配偶者でもない。
だが何より驚かれたのは、彼がクリスマスパーティーといったものに参加することだ。
今よりも若い頃、何度か参加したことがあったが、近年ではその姿を見かけることは殆どなかったこともあり、どういう風の吹き回しかと思うはずだ。
そして、今まで彼にエスコートされパーティーに現れた女性は限られた人数しかおらず、この場にいる女性たちにすれば、今日のお相手がどこの誰であるかといったことが重要になる。
だが、それをあからさまな態度で示す者はいない。だがチラチラと向けられる女性たちの視線は好奇心を隠せず、交わされる会話の中身は、司の隣にいる女性のことになっているはずだ。
『誰よ?あの女?』
『まさか。あの女が道明寺様の新しい恋人なの?』
『嘘!やだ。信じられない。背が低いしスタイルなんて全然よくないわよ?』
『・・・でもあのドレス。凄い豪華よね?』
『あれ、きっとNYブランドのドレスよ?500万はするわね?』
『違うわよ。1000万はするわ』
そんな会話が交わされているとしてもその言葉は正しいはずで、彼女が着ているドレスはシンプルだが一流品であることは一目瞭然だ。
ブルーの生地で作られた腰のラインをなだらかに見せる仕立ては、一流のデザイナーならではのテクニックが施され、小柄な彼女のほっそりとしたウエストラインをより際立たせていた。そして胸元は大胆にカットされ、デコルテにはダイヤのネックレスが輝いている。
黒い髪はカールされ、卵型の顔に華やかさを添える髪型にアレンジされ、唇は赤く塗られていた。そしてその装いは、いつもの彼女とは違い落ち着いて見えた。
つくしは、道明寺HD副社長の秘書に抜擢されたとき、相応しい身なりが必要だと西田から指示をされ、向かった先の店でそれ相応のドレスを用意していたが、もっとゴージャスなものをとNYから取り寄せられたのがこのドレスだ。そしてこのパーティーで彼女に着るように言ったのは、専務秘書の野上だ。
「牧野さん。副社長の秘書としてパーティーに参加するならこれくらいのドレスじゃなきゃ駄目よ。副社長の立場もあるけど何しろクリスマスパーティーよ?それにこのドレスは副社長がNYから取り寄せたドレスよ。着なくてどうするの?」
言い張る先輩秘書に歯向かうことなど出来ず、大人しく身に纏ったが、慣れないドレスをハイヒールの先で踏みつけそうになり、さりげなく裾を持ち上げることを繰り返したが、その都度隣で支えてくれる腕があった。
つくしは自然のまま、在りのままの自分で過ごそうと考える人間だ。
身構えるということはよくないと分かっている。
だが、最近どうしても副社長が傍に近づいてくると、構えてしまう自分がいた。
それは久美子から言われた
『副社長は、あんたのことが好きなのよ』
その言葉が頭を離れず、
『恋なんてものはある日突然なの』
の言葉が時に頭を過り、副社長を観察している自分がいた。
だが秘書という立場からすぐ傍にいるのが当たり前であり、観察するもなにも、目の前にいることが当たり前の人間をじっくりと見ること自体がおかしいのではないかと思われるはずだ。そして目が合うことがあるが、逸らすのはつくしの方だ。
そして今もあるはずのないドレスの皺を伸ばすといったことをしていた。
「どうした?緊張しているのか?」
「いえ・・はい。少しだけ」
つくしは副社長から緊張しているのかと訊かれ、正直に答えていた。
豪華なドレスを身に纏い、高価な装身具といったもの身に付ければ、誰だってそうなるはずだと思うが、副社長である男の世界ではそうでないことを知っている。
そして、実際に目にする華やかな世界は初めてであり、秘書である自分が果たして豪華なドレス姿でここにいることが正しいのかとさえ思うが、仕事の一環だと自分自身を納得させていた。
「お前でも緊張することがあるんだな?」
タキシードを着た男から、そんな言葉をかけられ、私はこんなパーティーに参加したことはありませんので、と口を開こうとしたが、そんな言葉を口にすれば、こんなパーティーじゃないなら他にどんなパーティーに参加したのかと訊かれても答えられないのだからその言葉を呑み込んだ。
仕事だけに突っ走り続けた女は、地味な人生を送っているのだから、隣にいる男が知りたいと思うようなことはないからだ。
だが仕事だけが生きがいという訳でもない。
それに肩肘を張って生きてきた訳でもない。
だが久美子は、男っ気がないのは、男を敬遠していると思われているからよ。だから誰もつくしには近寄らなかったのよ、と言う。
それなら、そんな女の態度の何が新堂巧の目に止まったのかが不思議だが、つくしは、新堂巧と付き合おうという気にはなれなかった。もちろん、いい人だと思う。だが何かが違う。
そしてそれを言葉にしろと言われても、言葉では言えない。ただ、違うとしか言葉が出なかった。だが毎日のように送られてくるメールに対しての返事も、同じ言葉の繰り返しであり、いつかはっきりと言わなければならない言葉があるのだが、どういう訳か言えずにいた。
そしてそれは、文字だけのやり取りではなく、直接会って言わなければならないと考えていた。
文字だけのやり取りといったものは、相手の顔が言えない、言葉のニュアンスが感じられないことから誤解を招くこともあり、言葉を選ばなければ今後の仕事に差し障ることにもなる。
何しろ相手は、業務提携先企業の専務であり、迂闊な態度を取れないことも関係していた。
それにしても、何故自分がこのパーティーに連れて来られたのか聞きたい気もするが、秘書であるつくしが聞ける立場にはない。
だから挨拶を受ける男の隣に立つ以外何もすることがないのだが、目の前に現れた新堂巧に気まずさを感じたのは、心にどこかやましい思いがあったからなのかもしれない。
「道明寺副社長。まさかここで道明寺副社長にお会いするとは思いもしませんでした。何しろあなたはパーティーがお嫌いだという噂がありますので、珍しいですね?」
「これは新堂専務。先日はどうも。その節はうちの牧野が大変お世話になりました」
形式的な挨拶を交わすのは、社交の場ではよく見られる姿であり、新堂巧の言葉は親しみが込められていた。だが、それに対し司は無表情で淡々とした口ぶりだ。
そして今の会話に棘を感じるのは、当人同士のはずだ。
だが巧は、司の隣に控えめに立つ女性が誰であるかに気付くと、着飾った姿にまぶしいものを見るように目を細めた。そして感慨を込めた調子で言った。
「牧野さん・・・。今日は一段とお美しいですね。私の誘いを断わられましたが、来るなら来るとおっしゃってくれてもよかったのに」
「ええ・・いえ・・」
つくしは、新堂巧からこのパーティーへ行かないかと誘われていたが断った。
そして理由をただ忙しいといった言葉で片づけていた。
それは断る理由を探すことが面倒だったからの返事であり、こうしてこのパーティーに来ることが決まる前の話だ。あの時、副社長のお供で来ることが分かっていれば、もっと別の言葉で断ることが出来たという思いが歯切れの悪い返事になっていた。
「それにしても牧野さん。そちらのドレスはあなたがお選びになられたのですか?ブルーはあなたにお似合いですね?もしかしてあなたはブルーがお好きですか?それでそのドレスをお選びになられたということですか?」
巧はつくしが着ているドレスを褒めた。
その口調は称賛であり、視線はにこやかで真っ直ぐに彼女を見つめ、司を見ることはない。
それは、あのバーで巧を無視するようにつくしを抱上げた司に対しての意趣返しとも言える返礼なのか。爽やかで邪気のないように見えても新堂巧も男だ。一瞬真顔になった男は、目の前の女性の口から語られる言葉を待っていた。
「あの、このドレスは_」
と、つくしが口を開いたとき、司が追手をかけるように口を開いた。
「このドレスは私が彼女のために選んだドレスです」

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今よりも若い頃、何度か参加したことがあったが、近年ではその姿を見かけることは殆どなかったこともあり、どういう風の吹き回しかと思うはずだ。
そして、今まで彼にエスコートされパーティーに現れた女性は限られた人数しかおらず、この場にいる女性たちにすれば、今日のお相手がどこの誰であるかといったことが重要になる。
だが、それをあからさまな態度で示す者はいない。だがチラチラと向けられる女性たちの視線は好奇心を隠せず、交わされる会話の中身は、司の隣にいる女性のことになっているはずだ。
『誰よ?あの女?』
『まさか。あの女が道明寺様の新しい恋人なの?』
『嘘!やだ。信じられない。背が低いしスタイルなんて全然よくないわよ?』
『・・・でもあのドレス。凄い豪華よね?』
『あれ、きっとNYブランドのドレスよ?500万はするわね?』
『違うわよ。1000万はするわ』
そんな会話が交わされているとしてもその言葉は正しいはずで、彼女が着ているドレスはシンプルだが一流品であることは一目瞭然だ。
ブルーの生地で作られた腰のラインをなだらかに見せる仕立ては、一流のデザイナーならではのテクニックが施され、小柄な彼女のほっそりとしたウエストラインをより際立たせていた。そして胸元は大胆にカットされ、デコルテにはダイヤのネックレスが輝いている。
黒い髪はカールされ、卵型の顔に華やかさを添える髪型にアレンジされ、唇は赤く塗られていた。そしてその装いは、いつもの彼女とは違い落ち着いて見えた。
つくしは、道明寺HD副社長の秘書に抜擢されたとき、相応しい身なりが必要だと西田から指示をされ、向かった先の店でそれ相応のドレスを用意していたが、もっとゴージャスなものをとNYから取り寄せられたのがこのドレスだ。そしてこのパーティーで彼女に着るように言ったのは、専務秘書の野上だ。
「牧野さん。副社長の秘書としてパーティーに参加するならこれくらいのドレスじゃなきゃ駄目よ。副社長の立場もあるけど何しろクリスマスパーティーよ?それにこのドレスは副社長がNYから取り寄せたドレスよ。着なくてどうするの?」
言い張る先輩秘書に歯向かうことなど出来ず、大人しく身に纏ったが、慣れないドレスをハイヒールの先で踏みつけそうになり、さりげなく裾を持ち上げることを繰り返したが、その都度隣で支えてくれる腕があった。
つくしは自然のまま、在りのままの自分で過ごそうと考える人間だ。
身構えるということはよくないと分かっている。
だが、最近どうしても副社長が傍に近づいてくると、構えてしまう自分がいた。
それは久美子から言われた
『副社長は、あんたのことが好きなのよ』
その言葉が頭を離れず、
『恋なんてものはある日突然なの』
の言葉が時に頭を過り、副社長を観察している自分がいた。
だが秘書という立場からすぐ傍にいるのが当たり前であり、観察するもなにも、目の前にいることが当たり前の人間をじっくりと見ること自体がおかしいのではないかと思われるはずだ。そして目が合うことがあるが、逸らすのはつくしの方だ。
そして今もあるはずのないドレスの皺を伸ばすといったことをしていた。
「どうした?緊張しているのか?」
「いえ・・はい。少しだけ」
つくしは副社長から緊張しているのかと訊かれ、正直に答えていた。
豪華なドレスを身に纏い、高価な装身具といったもの身に付ければ、誰だってそうなるはずだと思うが、副社長である男の世界ではそうでないことを知っている。
そして、実際に目にする華やかな世界は初めてであり、秘書である自分が果たして豪華なドレス姿でここにいることが正しいのかとさえ思うが、仕事の一環だと自分自身を納得させていた。
「お前でも緊張することがあるんだな?」
タキシードを着た男から、そんな言葉をかけられ、私はこんなパーティーに参加したことはありませんので、と口を開こうとしたが、そんな言葉を口にすれば、こんなパーティーじゃないなら他にどんなパーティーに参加したのかと訊かれても答えられないのだからその言葉を呑み込んだ。
仕事だけに突っ走り続けた女は、地味な人生を送っているのだから、隣にいる男が知りたいと思うようなことはないからだ。
だが仕事だけが生きがいという訳でもない。
それに肩肘を張って生きてきた訳でもない。
だが久美子は、男っ気がないのは、男を敬遠していると思われているからよ。だから誰もつくしには近寄らなかったのよ、と言う。
それなら、そんな女の態度の何が新堂巧の目に止まったのかが不思議だが、つくしは、新堂巧と付き合おうという気にはなれなかった。もちろん、いい人だと思う。だが何かが違う。
そしてそれを言葉にしろと言われても、言葉では言えない。ただ、違うとしか言葉が出なかった。だが毎日のように送られてくるメールに対しての返事も、同じ言葉の繰り返しであり、いつかはっきりと言わなければならない言葉があるのだが、どういう訳か言えずにいた。
そしてそれは、文字だけのやり取りではなく、直接会って言わなければならないと考えていた。
文字だけのやり取りといったものは、相手の顔が言えない、言葉のニュアンスが感じられないことから誤解を招くこともあり、言葉を選ばなければ今後の仕事に差し障ることにもなる。
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それにしても、何故自分がこのパーティーに連れて来られたのか聞きたい気もするが、秘書であるつくしが聞ける立場にはない。
だから挨拶を受ける男の隣に立つ以外何もすることがないのだが、目の前に現れた新堂巧に気まずさを感じたのは、心にどこかやましい思いがあったからなのかもしれない。
「道明寺副社長。まさかここで道明寺副社長にお会いするとは思いもしませんでした。何しろあなたはパーティーがお嫌いだという噂がありますので、珍しいですね?」
「これは新堂専務。先日はどうも。その節はうちの牧野が大変お世話になりました」
形式的な挨拶を交わすのは、社交の場ではよく見られる姿であり、新堂巧の言葉は親しみが込められていた。だが、それに対し司は無表情で淡々とした口ぶりだ。
そして今の会話に棘を感じるのは、当人同士のはずだ。
だが巧は、司の隣に控えめに立つ女性が誰であるかに気付くと、着飾った姿にまぶしいものを見るように目を細めた。そして感慨を込めた調子で言った。
「牧野さん・・・。今日は一段とお美しいですね。私の誘いを断わられましたが、来るなら来るとおっしゃってくれてもよかったのに」
「ええ・・いえ・・」
つくしは、新堂巧からこのパーティーへ行かないかと誘われていたが断った。
そして理由をただ忙しいといった言葉で片づけていた。
それは断る理由を探すことが面倒だったからの返事であり、こうしてこのパーティーに来ることが決まる前の話だ。あの時、副社長のお供で来ることが分かっていれば、もっと別の言葉で断ることが出来たという思いが歯切れの悪い返事になっていた。
「それにしても牧野さん。そちらのドレスはあなたがお選びになられたのですか?ブルーはあなたにお似合いですね?もしかしてあなたはブルーがお好きですか?それでそのドレスをお選びになられたということですか?」
巧はつくしが着ているドレスを褒めた。
その口調は称賛であり、視線はにこやかで真っ直ぐに彼女を見つめ、司を見ることはない。
それは、あのバーで巧を無視するようにつくしを抱上げた司に対しての意趣返しとも言える返礼なのか。爽やかで邪気のないように見えても新堂巧も男だ。一瞬真顔になった男は、目の前の女性の口から語られる言葉を待っていた。
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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
さあ、新堂巧と会いました(笑)
司。どうするんでしょうねぇ。そして新堂巧は?
女性が脈なしと分かったとしても、諦めの悪い男性もいますからねぇ(笑)
司の前でつくしが好きだと公言したくらいですから、温厚そうに見えて実は相当な自信家なのかもしれませんね?
二人の攻防戦‼静かな闘いの幕が切って落とされたのかもしれませんね?
お仕事お疲れ様でした^^
アカシアは一日前に納めさせていただきました。そして年賀状を書いていましたが遅いですね?(笑)
司*****E様もお仕事が終わられたとはいえ、明日もお忙しいご様子。
今年もあと二日ですが、色々頑張って下さい‼
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
さあ、新堂巧と会いました(笑)
司。どうするんでしょうねぇ。そして新堂巧は?
女性が脈なしと分かったとしても、諦めの悪い男性もいますからねぇ(笑)
司の前でつくしが好きだと公言したくらいですから、温厚そうに見えて実は相当な自信家なのかもしれませんね?
二人の攻防戦‼静かな闘いの幕が切って落とされたのかもしれませんね?
お仕事お疲れ様でした^^
アカシアは一日前に納めさせていただきました。そして年賀状を書いていましたが遅いですね?(笑)
司*****E様もお仕事が終わられたとはいえ、明日もお忙しいご様子。
今年もあと二日ですが、色々頑張って下さい‼
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.12.29 21:43 | 編集

H*様
いえいえ。こちらこそお忙しい中、お読み頂きありがとうございます。
さて、大人の男二人の静かな闘い。
どちらも本気ですが、つくしのことを忘れていませんか?(笑)
しかし、つくしが羨ましいです(笑)
拍手コメント有難うございました^^
いえいえ。こちらこそお忙しい中、お読み頂きありがとうございます。
さて、大人の男二人の静かな闘い。
どちらも本気ですが、つくしのことを忘れていませんか?(笑)
しかし、つくしが羨ましいです(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2017.12.29 21:54 | 編集
