「秘書になるということは、上司の癖を知ることも必要なの」
と、教えてくれた専務秘書の野上は専務付になって10年が経つという。
「牧野さん、長く仕えればそれだけ相手のことが理解出来るのは当然なの。
だからあなたもこれから副社長の傍にいれば、色々と分るようになってくると思うわ。
今日は朝一番のコーヒーに合格点が貰えたようだし、これから先が楽しみね?」
そう言われた初日。
副社長の秘書としてあなたにもっと合う洋服を揃えましょうと言われ、銀座のとある有名ブティックへと連れて行かれた。
決してつくしが着ている洋服が悪いというのではない。ただ、まだ若いのだから、その若さを生かし、もう少し色を加えることと、もっと仕立てのいいものにしましょうと言われ、その店で一番いいと言われるスーツを何着が買い入れた。
企業トップの秘書でいるということは、あなたもそれに近い立場でいるということよ。
だから身だしなみには人一倍気を遣わなければならないの。一流の人間の傍にいる人間は、一流のものを身に付けておく必要があるの。
先輩秘書から語られる言葉は、全てに重みがあり従わざるを得ない雰囲気にさせられ、気付けば思い悩む暇などなく物事が進んでいた。
そして費用は副社長が出すのだから気にしなくていいと言われ、あの男の指示なのだと知り、複雑な思いと共に正直ホッとしていた。
何故なら、世界的に名の知れた店のスーツの値段など知るのが恐ろしいからだ。
それに、そんなものを何着分も支払えと言われれば、まちがいなく貯金を切り崩さなければならないからだ。
そして、朝の迎えの事を話したとき、秘書としての仕事は、仕える相手が効率よく仕事が出来るようにすることであり、身の回りを補佐することではないと言われても、やはりそこはそう簡単に割り切れるものではないと言われた。
それは秘書室長である西田にも言われた話しだが、つくしもやはりそういうものなのかと再び納得した。
だからつくしは、こうして西田室長から教えられた通りの手順で、副社長である道明寺司の住む都内では最高級と呼ばれる高層マンションのペントハウスの扉の前に立つのだが、何度チャイムを鳴らしても返事がない。
室長の西田から、寝起きが悪いですので簡単に扉が開くことはありませんと言われていたが、まさか中で倒れているのではないか。
そんな思いが頭を過り、どうしたらいいものかと考えたが警察沙汰に出来るはずもなく、ひたすらチャイムを鳴らすしかないと結論付け、何度も押してみる。
と、同時に教えられている副社長の携帯電話へと電話をするが、呼び出し音がするだけで出る気配はない。
だが諦めるわけにはいかない。
それにお迎え初日だというのに、遅れるわけにはいかない。
それなのに副社長であるあの男は新人秘書に協力しようという気はないのだろうか?
室長は、何事にも初めがあるものです。大丈夫です。あなたならひとりでお迎えに行けますと言われたのは、銀座から戻り一日の業務が終る頃だった。そして、初日でお疲れでしょうからもう帰って頂いて結構ですからと言われ、早々に55階をあとにした。
そしてビルの外で大きく息を吐いた。だからその後の副社長の動向は知らない。
そして昨日は初日の疲れからいつもより早くベッドに入った。
確かに朝の迎えは、ただ迎えに行き、当日のスケジュールを伝えるだけだ。
だが車という密室の中で2人っきりになることになることに不安を覚えた。
何故なら、秘書になる前、執務室でセクハラ発言があったからだ。だがきっとこれからは、部下として敬意を払って接してくれるはずだと思い、あの時のことは、何かの間違いだと自身の中で不問に付すことに決めた。
そしてあの時のことがきっかけで副社長の秘書という大役を仰せつかり、こうして与えられた仕事をこなすべく、部屋の前でチャイムを鳴らしていた。だが、もう何回目のチャイムを押したのか分らなくなっていたが、内側から音がしてやっと扉が開かれた。
「道明寺副社長おはようございます。お迎えに_」
「・・・ったく朝からうるせぇな・・何度もしつこく鳴らしやがって」
と言って舌打ちと共に出て来た男は、長身な身体にバスローブ姿で髪は濡れていた。
そしてウエストに緩く撒かれたベルトは、指をかければ簡単に解けそうに垂れさがっていた。
ピンで留められた訳ではないのだが、つくしの足は床に貼りついたようになり動かなかった。そして視線は目の前に見える開けた胸に惹き付けられた。
男は、スーツを着た見た目がモデル以上だと言われていたが、背が高いからといって長身痩躯ではなく、ローブから覗く上半身は見事な逆三角形であり、筋肉がつき、鍛えられているのが分る。
ゴージャスでセクシー。
モデル以上の美貌。
抱かれたい男ナンバーワン。
道明寺司につけられたいくつもの常套句がつくしの頭の中を過る。
まさに今ここにいる男は、神によって命が吹き込まれた大理石の彫刻のような身体をしていた。
それにしても、いったいどうやってその完璧な身体を維持しているのか?
忙しいと言われる男だがスポーツジムにでも通っているのか?
いやそれよりも何故今この恰好でいるのか?
濡れた髪からしてシャワーを浴びたことは分かるが、出勤前の忙しい時間に呑気にシャワーを浴びている時間などないはずだ。
それでも考えられる理由がひとつある。
それは奥の部屋には女性がいるということだ。つまり一夜を明かした誰かがいて、朝しかシャワーを浴びる時間がなかったということだ。
だとすれば、もし裸の女性が目の前に現れたら秘書としてどうしたらいいのか。
見て見ぬふりをするのは当然だが、それより他に対処の仕方など知らない。
こんなことなら、副社長の部屋に女性がいた場合どういった対応を取ればいいのかと西田室長に確認すべきだったのかもしれない。
「・・まあいい。入れ。これから支度するところだったんだ。中で待ってろ」
だが女秘書が動かないことに男の声は不機嫌になる。
「牧野つくし!何してる!ボケっと突っ立てねぇでさっさと入れ!」
「は、はい!」
その身体に見惚れていた訳ではないが、考え事をしていたつくしの頭の上に怒声が降っていた。
男の後について歩いた長い廊下の先にある部屋は、見渡すほど広く、副社長室と同じ黒を基調に整えられており、重厚な黒い革張りのソファ、その前にはガラスのテーブルが置かれ、落ち着いた雰囲気があった。
そして、そこに座れと言われ腰かけたが、裸にバスローブ姿で立つ男を前に、落ち着けるはずがない。
何故なら、目の前で腕組みする男の顔は険悪で、つくしのことを恨みに満ちた目で見ているからだ。だがそんな目で見られる意味が分からない。
「ったく、なんでいつもより迎えが早い?」
「は?」
「だからなんでいつもより迎えの時間が早いって聞いてんだ!」
「いえ。いつもと同じ時間ですが?」
「・・・おまえの時計はどこの国を基準にしてる?」
「いったいどういう意味_」
と言いかけたつくしは、自分の腕時計の時刻が30分早いままになっていたことに気付いた。そして身体から血の気が引いて行くのが感じられた。
そうだ。遅れる訳にはいかないと、昨夜就寝前に時計を早めたのだが、それをすっかり忘れていた。
「申し訳ございません!腕時計の時間を早めにしていたのを戻すのを忘れていました・・」
と、つくしは立ち上って頭を下げたが、見えた男の足元に目が行き、身体の作りが完璧と言われる男は、足の爪の形さえ美しいことに気付く。
そして、その爪先から徐々に視線を上げたが、目が合った途端、きつく結ばれていた男の口元が緩んだような気がしたが、それはつくしがジロジロと見ていたことに気付いたからだ。
「まあいい。今日は初日だから許してやる。ところでお前はさっきから俺の身体をジロジロと見てるが、俺がこの恰好でいる理由はわかるよな?お前がいつもの時間よりも早く来過ぎたんだ。だからお前に何やってんだって目で見られる理由はねぇからな」
「・・はい」
と小さく答えた。
秘書は謙虚に礼儀正しく、仕える人間に忠誠を誓うではないが控えめな態度が求められることは十分理解している。だが決して奴隷ではない。だから言いたいことは言わせてもらうつもりだが、こんな単純な失敗をしているようでは、言いたいことがあったとしても言えそうにない。
「時間に遅れるよりはマシだが、あんまり早く迎えに来られても困る。俺は毎朝この時間にはシャワーを浴びてる。まあ、お前が俺と一緒にシャワーを浴びるってならこの時間に来ることは間違ってねぇけどな」
執務室でのセクハラ発言に続きこの発言。
つくしは副社長の性格が分かったような気がした。この男は絶対に女を甘く見ている。
いやそうではない。女性の秘書が嫌いだという噂は否定されたが、西田室長が自分の補佐として選んだつくしが気に入らないのかもしれない。何しろ人の印象を左右するという第一印象が悪かったのだから。だがもし気に入らないとしても、大人としての対応で乗り切ってみせる。そしていつかお前の淹れたコーヒーは美味いと言わせてみせる。
それから15分後、本来の迎えの時間。
司はネクタイを締め、上着を着ると、腕に時計を嵌めた。
今日から牧野つくしが朝の迎えに来ると分っていたが、まさかいつもよりも早い時間に来るとは思いもしなかった。
そして、うるさく鳴るチャイムにわざとゆっくり出た。
それも裸にバスローブ姿で。
だがその前はバスタオルを腰に巻いただけの姿で出てやろうかと思いもしたが、あまりにも刺激が強いだろうということで止めた。
扉が開かれた先にバスローブ姿の男を見た大きな瞳は、睫毛を瞬かせ、そしてあ然とした表情を浮かべていた。それから何を考えているのか知らないが、思考がくるくると目まぐるしく変わる様子が見て取れた。
思わず一緒にシャワーを浴びるかといった発言をしたが、その時の牧野つくしの表情は、
バカなこと言わないで下さい、と言わんばかりの険しい顔をしたが、その顔は真っ赤になっていた。
そして今は、玄関でかしこまった姿勢で主を待つ犬のようにおとなしくしているが、いちいち大袈裟な反応を繰り返す姿にからかい甲斐を感じ、これまで経験したことがないほど気分が高揚した。それは実利主義と言われる男が感じた初めての気持ちだ。
「それじゃあ行こうか。新人秘書。牧野つくし」
司がそう声をかけると、後ろをついて来る女は、負けるものですか!といった空気でヒールの音を響かせていた。

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「牧野さん、長く仕えればそれだけ相手のことが理解出来るのは当然なの。
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今日は朝一番のコーヒーに合格点が貰えたようだし、これから先が楽しみね?」
そう言われた初日。
副社長の秘書としてあなたにもっと合う洋服を揃えましょうと言われ、銀座のとある有名ブティックへと連れて行かれた。
決してつくしが着ている洋服が悪いというのではない。ただ、まだ若いのだから、その若さを生かし、もう少し色を加えることと、もっと仕立てのいいものにしましょうと言われ、その店で一番いいと言われるスーツを何着が買い入れた。
企業トップの秘書でいるということは、あなたもそれに近い立場でいるということよ。
だから身だしなみには人一倍気を遣わなければならないの。一流の人間の傍にいる人間は、一流のものを身に付けておく必要があるの。
先輩秘書から語られる言葉は、全てに重みがあり従わざるを得ない雰囲気にさせられ、気付けば思い悩む暇などなく物事が進んでいた。
そして費用は副社長が出すのだから気にしなくていいと言われ、あの男の指示なのだと知り、複雑な思いと共に正直ホッとしていた。
何故なら、世界的に名の知れた店のスーツの値段など知るのが恐ろしいからだ。
それに、そんなものを何着分も支払えと言われれば、まちがいなく貯金を切り崩さなければならないからだ。
そして、朝の迎えの事を話したとき、秘書としての仕事は、仕える相手が効率よく仕事が出来るようにすることであり、身の回りを補佐することではないと言われても、やはりそこはそう簡単に割り切れるものではないと言われた。
それは秘書室長である西田にも言われた話しだが、つくしもやはりそういうものなのかと再び納得した。
だからつくしは、こうして西田室長から教えられた通りの手順で、副社長である道明寺司の住む都内では最高級と呼ばれる高層マンションのペントハウスの扉の前に立つのだが、何度チャイムを鳴らしても返事がない。
室長の西田から、寝起きが悪いですので簡単に扉が開くことはありませんと言われていたが、まさか中で倒れているのではないか。
そんな思いが頭を過り、どうしたらいいものかと考えたが警察沙汰に出来るはずもなく、ひたすらチャイムを鳴らすしかないと結論付け、何度も押してみる。
と、同時に教えられている副社長の携帯電話へと電話をするが、呼び出し音がするだけで出る気配はない。
だが諦めるわけにはいかない。
それにお迎え初日だというのに、遅れるわけにはいかない。
それなのに副社長であるあの男は新人秘書に協力しようという気はないのだろうか?
室長は、何事にも初めがあるものです。大丈夫です。あなたならひとりでお迎えに行けますと言われたのは、銀座から戻り一日の業務が終る頃だった。そして、初日でお疲れでしょうからもう帰って頂いて結構ですからと言われ、早々に55階をあとにした。
そしてビルの外で大きく息を吐いた。だからその後の副社長の動向は知らない。
そして昨日は初日の疲れからいつもより早くベッドに入った。
確かに朝の迎えは、ただ迎えに行き、当日のスケジュールを伝えるだけだ。
だが車という密室の中で2人っきりになることになることに不安を覚えた。
何故なら、秘書になる前、執務室でセクハラ発言があったからだ。だがきっとこれからは、部下として敬意を払って接してくれるはずだと思い、あの時のことは、何かの間違いだと自身の中で不問に付すことに決めた。
そしてあの時のことがきっかけで副社長の秘書という大役を仰せつかり、こうして与えられた仕事をこなすべく、部屋の前でチャイムを鳴らしていた。だが、もう何回目のチャイムを押したのか分らなくなっていたが、内側から音がしてやっと扉が開かれた。
「道明寺副社長おはようございます。お迎えに_」
「・・・ったく朝からうるせぇな・・何度もしつこく鳴らしやがって」
と言って舌打ちと共に出て来た男は、長身な身体にバスローブ姿で髪は濡れていた。
そしてウエストに緩く撒かれたベルトは、指をかければ簡単に解けそうに垂れさがっていた。
ピンで留められた訳ではないのだが、つくしの足は床に貼りついたようになり動かなかった。そして視線は目の前に見える開けた胸に惹き付けられた。
男は、スーツを着た見た目がモデル以上だと言われていたが、背が高いからといって長身痩躯ではなく、ローブから覗く上半身は見事な逆三角形であり、筋肉がつき、鍛えられているのが分る。
ゴージャスでセクシー。
モデル以上の美貌。
抱かれたい男ナンバーワン。
道明寺司につけられたいくつもの常套句がつくしの頭の中を過る。
まさに今ここにいる男は、神によって命が吹き込まれた大理石の彫刻のような身体をしていた。
それにしても、いったいどうやってその完璧な身体を維持しているのか?
忙しいと言われる男だがスポーツジムにでも通っているのか?
いやそれよりも何故今この恰好でいるのか?
濡れた髪からしてシャワーを浴びたことは分かるが、出勤前の忙しい時間に呑気にシャワーを浴びている時間などないはずだ。
それでも考えられる理由がひとつある。
それは奥の部屋には女性がいるということだ。つまり一夜を明かした誰かがいて、朝しかシャワーを浴びる時間がなかったということだ。
だとすれば、もし裸の女性が目の前に現れたら秘書としてどうしたらいいのか。
見て見ぬふりをするのは当然だが、それより他に対処の仕方など知らない。
こんなことなら、副社長の部屋に女性がいた場合どういった対応を取ればいいのかと西田室長に確認すべきだったのかもしれない。
「・・まあいい。入れ。これから支度するところだったんだ。中で待ってろ」
だが女秘書が動かないことに男の声は不機嫌になる。
「牧野つくし!何してる!ボケっと突っ立てねぇでさっさと入れ!」
「は、はい!」
その身体に見惚れていた訳ではないが、考え事をしていたつくしの頭の上に怒声が降っていた。
男の後について歩いた長い廊下の先にある部屋は、見渡すほど広く、副社長室と同じ黒を基調に整えられており、重厚な黒い革張りのソファ、その前にはガラスのテーブルが置かれ、落ち着いた雰囲気があった。
そして、そこに座れと言われ腰かけたが、裸にバスローブ姿で立つ男を前に、落ち着けるはずがない。
何故なら、目の前で腕組みする男の顔は険悪で、つくしのことを恨みに満ちた目で見ているからだ。だがそんな目で見られる意味が分からない。
「ったく、なんでいつもより迎えが早い?」
「は?」
「だからなんでいつもより迎えの時間が早いって聞いてんだ!」
「いえ。いつもと同じ時間ですが?」
「・・・おまえの時計はどこの国を基準にしてる?」
「いったいどういう意味_」
と言いかけたつくしは、自分の腕時計の時刻が30分早いままになっていたことに気付いた。そして身体から血の気が引いて行くのが感じられた。
そうだ。遅れる訳にはいかないと、昨夜就寝前に時計を早めたのだが、それをすっかり忘れていた。
「申し訳ございません!腕時計の時間を早めにしていたのを戻すのを忘れていました・・」
と、つくしは立ち上って頭を下げたが、見えた男の足元に目が行き、身体の作りが完璧と言われる男は、足の爪の形さえ美しいことに気付く。
そして、その爪先から徐々に視線を上げたが、目が合った途端、きつく結ばれていた男の口元が緩んだような気がしたが、それはつくしがジロジロと見ていたことに気付いたからだ。
「まあいい。今日は初日だから許してやる。ところでお前はさっきから俺の身体をジロジロと見てるが、俺がこの恰好でいる理由はわかるよな?お前がいつもの時間よりも早く来過ぎたんだ。だからお前に何やってんだって目で見られる理由はねぇからな」
「・・はい」
と小さく答えた。
秘書は謙虚に礼儀正しく、仕える人間に忠誠を誓うではないが控えめな態度が求められることは十分理解している。だが決して奴隷ではない。だから言いたいことは言わせてもらうつもりだが、こんな単純な失敗をしているようでは、言いたいことがあったとしても言えそうにない。
「時間に遅れるよりはマシだが、あんまり早く迎えに来られても困る。俺は毎朝この時間にはシャワーを浴びてる。まあ、お前が俺と一緒にシャワーを浴びるってならこの時間に来ることは間違ってねぇけどな」
執務室でのセクハラ発言に続きこの発言。
つくしは副社長の性格が分かったような気がした。この男は絶対に女を甘く見ている。
いやそうではない。女性の秘書が嫌いだという噂は否定されたが、西田室長が自分の補佐として選んだつくしが気に入らないのかもしれない。何しろ人の印象を左右するという第一印象が悪かったのだから。だがもし気に入らないとしても、大人としての対応で乗り切ってみせる。そしていつかお前の淹れたコーヒーは美味いと言わせてみせる。
それから15分後、本来の迎えの時間。
司はネクタイを締め、上着を着ると、腕に時計を嵌めた。
今日から牧野つくしが朝の迎えに来ると分っていたが、まさかいつもよりも早い時間に来るとは思いもしなかった。
そして、うるさく鳴るチャイムにわざとゆっくり出た。
それも裸にバスローブ姿で。
だがその前はバスタオルを腰に巻いただけの姿で出てやろうかと思いもしたが、あまりにも刺激が強いだろうということで止めた。
扉が開かれた先にバスローブ姿の男を見た大きな瞳は、睫毛を瞬かせ、そしてあ然とした表情を浮かべていた。それから何を考えているのか知らないが、思考がくるくると目まぐるしく変わる様子が見て取れた。
思わず一緒にシャワーを浴びるかといった発言をしたが、その時の牧野つくしの表情は、
バカなこと言わないで下さい、と言わんばかりの険しい顔をしたが、その顔は真っ赤になっていた。
そして今は、玄関でかしこまった姿勢で主を待つ犬のようにおとなしくしているが、いちいち大袈裟な反応を繰り返す姿にからかい甲斐を感じ、これまで経験したことがないほど気分が高揚した。それは実利主義と言われる男が感じた初めての気持ちだ。
「それじゃあ行こうか。新人秘書。牧野つくし」
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k**員様
はじめまして。こんにちは^^
新人秘書牧野つくし。そんな彼女にひざまずいてヒールを履かせる副社長!
いいですね!(笑)
大人な余裕の男が今は楽しんでいますが、これから先どうなるのでしょうか?
胸きゅんが出てくるといいのですが。ご期待に添えられるかどうか・・(笑)
コメント有難うございました^^
はじめまして。こんにちは^^
新人秘書牧野つくし。そんな彼女にひざまずいてヒールを履かせる副社長!
いいですね!(笑)
大人な余裕の男が今は楽しんでいますが、これから先どうなるのでしょうか?
胸きゅんが出てくるといいのですが。ご期待に添えられるかどうか・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.11.24 21:20 | 編集

司*****E様
おはようございます^^
張り切ってよしやるぞ!と思ったら、お迎え初日から失敗してしまいました。
そしてそんな彼女にちょっとした意地悪をする男。
小学生が好きな女の子にちょっかいを出す(笑)
本当にそうですよね?いい歳した大人が!
そして今のところ翻弄されているのはつくしですね?
しかしこれから先は、先に恋におちた方が翻弄されるんですよね・・・。
雨の中での試合はいかがでしたか?
寒かったのではないかと思いますが、風邪などひいてはいらっしゃいませんか?
お母様、大変お疲れ様でした^^
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
張り切ってよしやるぞ!と思ったら、お迎え初日から失敗してしまいました。
そしてそんな彼女にちょっとした意地悪をする男。
小学生が好きな女の子にちょっかいを出す(笑)
本当にそうですよね?いい歳した大人が!
そして今のところ翻弄されているのはつくしですね?
しかしこれから先は、先に恋におちた方が翻弄されるんですよね・・・。
雨の中での試合はいかがでしたか?
寒かったのではないかと思いますが、風邪などひいてはいらっしゃいませんか?
お母様、大変お疲れ様でした^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.11.24 21:30 | 編集

H*様
高ビーな30代大人の司(≧▽≦)
そんな司が恋におちて少年の様につくしに振り回される!
いいですねぇ(笑)しかし残念ながら今は全くそのような気配はありませんねぇ(笑)
必死な大人の司を見ることが出来るのでしょうか?
拍手コメント有難うございました^^
高ビーな30代大人の司(≧▽≦)
そんな司が恋におちて少年の様につくしに振り回される!
いいですねぇ(笑)しかし残念ながら今は全くそのような気配はありませんねぇ(笑)
必死な大人の司を見ることが出来るのでしょうか?
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2017.11.24 21:35 | 編集

さ***ん様
つくし、初日から失敗をしました。
そして部屋の奥に女性がいるのかと対応を考える。
そんな女に怒声を浴びせる男。
「スチュワーデス物語」!はい。覚えています(笑)
「教官‼」
「松本、お前はドジでのろまな亀だ!」(≧▽≦)
頭の中をテーマ曲が流れました!
いやこれ御曹司で書きたい気分です(笑)
コメント有難うございました^^
つくし、初日から失敗をしました。
そして部屋の奥に女性がいるのかと対応を考える。
そんな女に怒声を浴びせる男。
「スチュワーデス物語」!はい。覚えています(笑)
「教官‼」
「松本、お前はドジでのろまな亀だ!」(≧▽≦)
頭の中をテーマ曲が流れました!
いやこれ御曹司で書きたい気分です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.11.24 21:47 | 編集

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司*****E様
こんばんは^^
おおっ!お天気が味方をしてくれたんですね?
そして試合結果もよかったですね?おめでとうございます。
御曹司を再読(笑)もうお恥ずかしいです。
どれもその時の勢いで書いているので、本当に自分でも何を書いたのか記憶が飛んでます。
「スチュワーデス物語」!懐かしいですよね?
そうなんです、何故かあのテーマ曲が流れ、頭の中を過る映像が‼
書けるといいのですが、明日は今のお話の続きと思い、只今執筆中です(笑)
コメント有難うございました^^
こんばんは^^
おおっ!お天気が味方をしてくれたんですね?
そして試合結果もよかったですね?おめでとうございます。
御曹司を再読(笑)もうお恥ずかしいです。
どれもその時の勢いで書いているので、本当に自分でも何を書いたのか記憶が飛んでます。
「スチュワーデス物語」!懐かしいですよね?
そうなんです、何故かあのテーマ曲が流れ、頭の中を過る映像が‼
書けるといいのですが、明日は今のお話の続きと思い、只今執筆中です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.11.24 22:54 | 編集
