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2017
07.04

吐息を感じて 前編~IL BACIO~ 

Category: 吐息を感じて
明かりを消し、窓を開け、都会の夜空を二人で感じたい。

そして風の流れを感じ、身を任せて欲しい。

今夜は__








「心配するな。誰も入って来ねぇから」

そう言った男は立ち上ると、扉の前まで行き、鍵をかけた。
それは世界を隔てる音。
二人だけの世界が外界と遮断された音。
そしてドアのこちら側は二人だけの楽園。

やっと二人切りになれたと司は、心の中で穏やかな笑みを浮かべた。
恋人同士になってもう何年も経つが、未だにひと前でのキスを嫌がる彼女に、大勢の人間の前で思いっきり派手なキスをしてグーで殴られた。
キスなんかじゃ済まねぇことだって数えきれないほどしている。そんな女にいい加減恥ずかしがるのを止めてくれと思うが、性分だから仕方がないと司は自分を納得させた。

そんな女に斜め45度下から見上げられ、道明寺が悪いんだからね。と言われ、懐かしさがグッと込み上げた。

キスをしても、抱きしめても、手を繋ぐことさえ恥ずかしがった彼女。
そんな女とのはじめてを懐かしく思い出し、フッと頬が緩んだ。





東の角部屋は月の光りが差し込んでいた。
そしてその光りが照らすのは、彫刻のように美しい顔。
白いシャツに黒のスラックス姿の男は、目の前にいる女性を見つめていた。
狂気じみた美しさを持つと言われる男は、自分の望むもの手に入れるまで随分と手をこまねいた。それは高校生の頃、初めて彼女にキスをしてから随分とたってからだった。

生まれたことが無意味だと感じた己の人生。
いつもひとりで過ごしてきた孤独な夜があった。
だが彼女を知ってから静まることのない思いを抱え過ごしていた。
17才の少年の留まることのない思いは、彼女を驚かせたが、分かって欲しかった。

この思いには意味があると。

虚無という名の島で暮らす男の元に流れついた彼女が乗った船。
彼女にとってそれは間違った場所に流れ着いた船だったかもしれない。
だが司にとってその船は、彼の元へ愛を運んで来てくれた。
彼女がいなければ今の自分はない。そう思える大切な人。
彼女と出会って人生が変わった。


他人に興味を抱くことなどなく、人生がどうなろうと、どうでもよかった。
人生に感傷的な思いなどなく、生きることなど無意味だと、愛の意味など知らなかった男が、彼女に出会い生まれ変わり、愛の意味を理解した。その瞬間自分がどれほどちっぽけな存在であるかを知った。
そして知ったのは、愛されることではなく愛すること。
それを彼女に示したいと望んだ。

たとえ愛の大きさが比例しなくとも、彼女を愛する気持ちを抑えることなど出来なかった。
他の誰にも負けないくらい大きな愛を彼女に与えたいと、これからの人生の全てを彼女に与えたいと望んだ。

そしてやっと手に入れた彼女の愛は、寄り添って触れ合って生きていくこと。
司とは異なる世界で生きて来た彼女が求めたのは、彼の心だけ。他に何も求めることはしなかった。

二人理想の恋を手に入れようとしたのではない。
二人はただ同じ時を過ごしたいと願っていただけ。
恋に優劣などないと信じた。
だが愛は激しくもあるが、哀しくもあった。

二人の間には多くの困難があった。降りしきる雨の向うに笑顔が消えた日もあった。それでも互いの思いが消えることはなかった。

誰よりも大切で、己の命よりも大切で愛しいと思える人。
今まで知らなかった人としての優しさを教えてくれた人。
彼女さえいればこの世界がどんな世界になろうとも構わなかった。


昼も夜もありったけの愛を与えたいと思う男の漆黒の双眸は、緩やかな眼差しで彼女を見つめていた。
それは、昏い沼に月の光りがあたり、輝くような色。
いつも、見るものを冷たくはねつけるその瞳も、今は彼女だけに向けられる優しさが感じられた。だがその瞳には、吸い込まれてしまいそうな暗闇が広がっていた。それは欲望の疼き。


主導権は司にあり、今すぐ欲しかった。

彼女の唇が。

右手の甲で彼女の頬を軽く撫で口づけをする。

「・・つくし、愛してる」

洗練されてはいるが、どこが野性的で有無を言わさぬ低い声は嘘をつくことはない。
情熱と激情といったものを持ち合わせる男は、呼吸と共に吐き出す言葉で甘美な至上の愛を語る。

二人の間の恋も愛も永遠だと_



司の唇は彼女の名前を囁き、愛を語るためだけにある。
だが言葉が要らないほど近く寄れば、口は別のことに使える。

それは__彼女の唇を味わうこと。
唇は、まるで摘み取られるのを待つ甘い果実。
その唇の甘さが冷めることがないよう、ずっと口づけ繋がっていたい。

その微笑みが消えることなく永遠に。


愛しい人に口づけを繰り返し、吐息がまざり合うほど近くにいれば、重なる唇があるなら、その身体も重ね合いたいと思うのが男と女の常。
首筋に口づけをし、その身体が震えるのを感じ、唇に歯と、舌で誘うように口づけを繰り返す。だがフッとその唇が薄い笑みで歪み、己の中の獣が目を覚ますのが感じられた。

ひと前では決して見せない内に秘めた激情を持つ男が、うっすらと微笑みを浮かべた口元に緩くカーブを描くときがあったとしても、目は冷たく決して笑ってはいない。それは冷たい狂気とも言える表情。そしてその冷たい表情は、切れ味が鋭いナイフ。
だがそれがひとたび愛しい女性に向けられたとき、誘惑の表情へと変わる。

司は大きな両手で彼女の頬を包み、再び唇を重ねた。
余計なことなど何も考えることなく重ねる唇と絡め合う舌。彼女が何を考えているかなど関係ない。ただ、その唇が欲しくて、彼女が欲しくて重ねた唇。
そして顔を上げたとき、彼の顔からは、冷たさは取り払われ、愛しい人を見つめる黒い双眸は、激しい愛情が溢れていた。

同じだけの愛を返して欲しいとは言わない。
その口が愛してると言わなくてもいい。
なぜなら、司の唇を受け入れたその唇が愛を語っていたから。

司は狂おしほどの口づけを繰り返し、両手を首に回して来た彼女を抱き上げ、ベッドへと横たえた。



*IL BACIO(イタリア語)=キス

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コメント
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dot 2017.07.04 07:25 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
そうですよねぇ。「Obsession」とは全く違う司くんですね?(笑)
こちらは前回お知らせで書かせていただいたセクシーな司です。
これで頭にあった3人は吐き出しました(笑)
高気圧な彼、真っ黒な彼、そしてこの彼です。
こちらは問題なくラブストーリーです(笑)
濃厚かどうかわかりませんが、pass付とさせて頂きました。
ちなみに、この3人のどの司がお好みですか?もしよろしければお教え下さい^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.07.04 22:02 | 編集
s**p様
え?濃厚でしたか?
え?明日の為にエアコンのフィルター掃除ですか?
それほど濃厚ではないと思いますが、pass付とさせて頂いております。
ところで、S**p様は新幹線ホームで待つ司と、真っ黒な司とこの司とでは、どの司がお好みですか?
もしよろしければお教え下さいませ^^
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.07.04 22:16 | 編集
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dot 2017.07.04 23:19 | 編集
司×**OVE様
こんばんは^^
早速のお返事有難うございます。
なるほど(笑)表の顔と裏の顔が同居しているんですね?
そしてダークな司のお話しが読みたい・・
もう一人頭の中にいるんですが・・・躊躇しています。
御曹司とダーク司・・キャラが違い過ぎますが、楽しんでいただけて嬉しです。
お返事有難うございました^^
アカシアdot 2017.07.04 23:35 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.07.05 00:26 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
サイコパスな司からいきなりこちらの司になり戸惑いましたか?(笑)
でもマ**チ様のお話の方がダークですよ!(笑)
そしてこちらのお話しは大人の展開です。
少し前のお知らせで書かせていただいた、頭にあった短編3話のうちの最後です。
尾道へつくしを迎えに行く司、黒い司、そしてこちらのセクシー司と書きましたが、マ**チ様は、どのお話がお好きですか?
もしよろしければ、お教え下さい。
え?なんと鞭を持つ司が出て来てイケナイ世界へ・・・
マ**チ様、それは悪魔の囁きに聞えました。
いいですねぇ(笑)その場面が頭に浮かびます。司、似合いそうです(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.07.05 21:52 | 編集
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