未来永劫道明寺家は繁栄する。
その為には親のエゴイズムを息子に押し付ける。
あの男は怪物だ。上品な仮面を被った怪物。
そんな怪物の種から生まれた男は、悪魔の申し子だ。
無慈悲な男は、父親から受け継いだ冷酷さと非情さを際立たせていたが、そんな男とは決別する。もうあの頃の自分には戻るつもりはない。
自分は変わったのだ。司はあらためて思う。
自尊心が強く、自分自身が他人より優れた人間だと思い込まされていた若い男の傲岸な心は、この10年間で得たものなど何もなかった。
司は、つくしと短い恋愛経験の間、彼女のことを全てわかったつもりでいたが、結局のところ、何も理解してはいなかった。
類から聞かされるまで、何も知らなかった。だが類が口を開いたのも、司が彼女を監禁したからだ。もし、何もなければ類も教えはしなかったはずだ。
類が彼女を自分から遠ざけたのも、意図して行った訳ではない。そうせざるを得なかったからだ。それは彼女が自分の元から去った時と同じ、仕方が無かったとしか言えないことだったのだ。
自分の父親から守るために。
遠ざかっていた友人達にしてもそうだ。それは己の態度がそうさせた。
心を無くしていた男は、友人たちが何を言おうが耳に入ることはなかった。
自分にとっては必要だったはずの親友たちは、人ではないと言われた10年間が遠ざけてしまった。
自分が情けなかった。
そんな男は愛した女を傷つけ、身体にまで傷を負わせてしまった。
彼女はそれでも笑って許すことが出来る。
それが牧野つくしだと言われればそうなのかもしれない。
そして過去は過去と言い切り、明るく前向きに生きることが大切だと言った。
とは言え、心も身体も傷つけたのは、紛れもなく自分だ。
それならその傷を癒すことが必要だ。そしてその力があるのは誰だ?
決して自負する訳ではないが、それが出来るのも自分だ。
稀有なオーラを持つと言われる男が、そのオーラで愛する人の傷ついた心を癒すことが出来るなら、すぐにでもそうしてやりたいと思う。
だがその前に片づけなければならない問題がある。
遅かれ早かれこの問題のけりはつく。
それは自分の父親との問題。上品な仮面を被り、正面切って笑いながら相手の心臓にとどめを刺すことが平気で出来る男。
あの男は....NYにいる怪物だ。
「それにしてもおまえはプリンを食べてあいつに詫びたのか?」
沈黙が続く中、コーヒーをすする音だけがしていたが、口を開いたのは総二郎だ。
類の持ってきたプリンを食べることで、つくしに詫びるといったまるで罰ゲームのような行為を受け入れたかどうか知りたかったが、司の顔に浮かんだ痛みの出所は、別のものだと知っていた。
暫く日本を離れていた西門総二郎は、たまたま一緒にいた類の元にかかってきたあきらからの電話で、司と牧野つくしの間に起こっていた事態を知った。そのとき、いきなり聞かされたつくしが撃たれ重体だといった話しから、山荘に監禁していたことから始まり、遡って10年前本人も重傷を負い、両親が亡くなった事故の経緯まで類から聞かされた。そしてその事故は、司の父親である道明寺貴が関係していると知った。そして牧野つくしが全てのことを理解していると言われ、驚くと同時に、黙って10年をやり過ごしていた牧野という女の司を思う気持ちの大きさを知った。
「だいたいプリンだのケーキだのは茶の世界では対極にあるようなモンだな。俺にはあの甘さは受け入れ難い。和菓子の甘さとは全く違った分野だ」
総二郎は、司とつくしは茶の世界に例えるとまで言わないが、二人の立場があまりにも違い過ぎること、そしてそのことを司の両親が受け入れないと知っているが、今の司がそれ以上に複雑な思いを抱えていると分かっていた。
それは自分の父親が、好きな女性の父親を殺めるよう指示をし、その結果、彼女の両親が交通事故で亡くなることになったのではないかと言うことだ。
今はまだ疑惑の段階だが、限りなく黒に近いことはここにいる誰もが知っていた。
そして司の父親は、母親とは比べものにならないほど冷徹な人間だと知っている。
「それにしても、類のヤツはひねくれ坊主って言い方したらアレだが、司が甘い物が苦手だってことを知ってて、よりにもよってすげぇ甘いプリンを持って来るか?あいつのすることは絶対確信的行為以外何ものでもねぇぞ?」
あきらは自分の母親や妹たちの手前、プリンを食べたことがあるが、あの甘いデザートは男が口にするものではないと思っていた。そして上にかかった黒い何かが特に甘いことは知っている。
「あきら、司は昔から牧野のためならどんなことでもする男だったから食べたんじゃねえの?」
やたらと甘いと言われる卵色をした物体をあの道明寺司が食べたのか?
そのことが問題になること自体が不思議なことだが、司にとって牧野つくしは掌中の珠のような存在だ。そんな女から勧められれば食べたのかもしれないと思う二人の男。
だが今はプリンを食べたかどうかは二の次だ。
司の執務室に集まったのはあきらと総二郎。事の本質をはじめから知る類はいなかったが、あきらは執務デスクに座っている男に本題を切り出した。
「それにしてもあの頃、おまえの父親がやったことが公になってれば、贈賄側として国会へ証人喚問だな?そうなれば道明寺もどうなったか分かったものじゃねぇな?」
司の父親である貴が政治家、官僚に贈った上場する前の子会社の株式。
それを賄賂として受け取った大勢の政治家の中には、時の総理大臣をはじめ、各省庁の大臣他与党、保守政党の大物と呼ばれる人物が多数いた。
まさにそのことが公になれば、国政を揺るがす大規模な贈収賄事件となることは間違いなかった。そしてもし証拠が揃い、起訴されれば過去の判例からも確実に有罪判決を受けるはずだ。それがあの男にとって、そして道明寺という会社にとってどれだけの不利益を被ることになるか充分承知しているはずだ。だからこそ、つくしの父親が持っていた証拠となるUSBメモリを取り戻そうとしていたはずだ。
「古い話しだがケネディ大統領の父親は証券業界出身で、株で儲けて財を成した。それもインサイダー取引でだ。だが罪には問われなかった。あの頃の時代って言えばそうだろうが、今はそうは問屋が卸さねぇ・・・けどおまえの父親の件ももう時効だったな」
46歳で暗殺されたアメリカ大統領ジョン・F・ケネディの父親。
アメリカでケネディ家と言えば王室のないアメリカに於いての王族とまで言われるほどのステータスを持ち崇拝される家柄だ。そんな家柄の人間も少し前までは、ずる賢い方法で金儲けをしていた。
彼らはカトリックの国であるアイルランドからの移民で、アメリカにおいてWASP(White Anglo-Saxon Protestant)と呼ばれる白人エリート支配層ではなかったが、代を重ねるごとに影響力を持つ一族となっていた。そしてその一族が排出した大統領の父親は、インサイダー取引で財を築いたと言われていた。父親は剛腕な男だと言われ、財力に物を言わせ、息子たちの政界進出を強力にバックアップしたと言われている。
つまり政治家には金が必要だと言うことだ。だからこそ、道明寺から贈られた、確実に値上がりが見込まれる上場前子会社の株式も喜んでもらえたはずだ。
「それにしても賄賂の証拠になるようなデータを牧野の父親に握られたからって殺す・・・」
総二郎は言葉を呑み、最後まで言わなかった。
この場所なら誰に憚ることなく話しが出来る。だが、総二郎の言葉に答えるあきらも言葉を選んでいた。
「ああ・・どうやらそのことが原因であいつとあいつら家族は交通事故にあったらしい」
司の父親がつくしの父親に対し、何らかの行動を起こした疑惑がある。それがあの交通事故だ。だが証拠はない。あきらと総二郎の視線は、互いに目配せした。
「俺たちは別に迷宮入りした事件を調べる探偵じゃねぇけど、証拠があるならアレだよな・・・」
言葉を選び口にしたのが「アレ」。
もし証拠があれば、あの事故は単なる交通事故ではなく、殺人事件となり司の父親は殺人教唆をしたことになる。それも計画的な殺人事件だ。
だがその証拠はない。
それでも言葉を選びながら話す男たちは、幼い頃からの親友のことを考えてのことだ。
いくら不仲な親子とはいえ、自分の父親が刑事事件の被疑者になるかもしれないとすれば、いい気はしないはずだ。それに、もしそれが真実なら、企業イメージは地に落ちる。
牧野つくしとの交際を認めなかったことが、まさかこんなことになろうとは、誰も考えなかったはずだ。
司の父親が息子の交際相手として認めなかった娘の親に金を握らせ、そこからつくしの父親が司の父親と接点を持ち、道明寺にとって都合の悪い情報を手に入れた男は、その情報を元に金をゆすり取ろうとしたのではないか。
だがつくしの父親も既に亡くなっており、はっきりとした証拠はない。
「・・それにしても司の所の親父さんは、カマドの灰まで長男のものって考え方をするからな。財産は家のものであって、家を継いだものが全てを継承するって考え方だろ?ちょっと考え方が古いと思わねぇか?」
道明寺という名門の家を守ることが自分の務めと考えている父親は、戦後間もない頃まであった家督相続の考え方を受け継いでいる。長男が家を継ぎ、そして子孫を残し、次の世代へと受け継がせていくことを絶対としている。司が道明寺という家に生まれた以上、それは逃れることが出来ない宿命と言われていた。
「けど、茶道の世界もそうじゃねぇのかよ?おまえが西門流を継いだ時点で、おまえの家にある全てがおまえのもんだろ?大事な茶道具を家を出た兄貴に渡すなんてことはねぇよな?流石に茶釜の下の灰まで自分の家のものだんなんて考えはしねぇだろうけど、だいたい財閥だの旧家だの伝統的な家ってのは、どこもそんなもんだろ?ま、うちは母親を見れば分かると思うが美作には旧家だの伝統だのってのは関係ねぇから楽だな。それに類の物産も親父さんの考え方が違うよな?あの親父さんも花沢家の当主でワンマン的な立場だが、司の親父さんとはどこか違うんだよな?」
花沢物産も道明寺と同じく同族経営だ。
同族経営にはメリットがある。それは親兄弟が争わない限り、派閥抗争はない。
そして、一族間での経営陣の移行が円滑に行え、次期社長と思われる人間への教育も早い段階から行うことが出来る。だからこそ、司も類も早い段階から経営者としての教育を受けていた。
物産の親子関係は、知る限り問題はない。だが道明寺親子の場合、父親の取った行動により、財閥の将来を変える恐れがある。
「・・なあ、司。おまえ・・それでどうするんだ?」
あきらは手にしていたコーヒーを飲み干し、聞いた。
何をどうするか。
司はそれが自分の父親のことだと分かっている。
黙って聞いているだけで、何も答えない男は考えていた。
ビジネスに於いては、物事を断定的に割り切って判断していた。
だが、自分と父親との関係は、簡単に割り切れないとわかっている。
血の繋がりとは、時に厄介なものだということも知っている。
何しろ己の性格は、あの父親から受け継がれたものだと分かっているからだ。

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自分は変わったのだ。司はあらためて思う。
自尊心が強く、自分自身が他人より優れた人間だと思い込まされていた若い男の傲岸な心は、この10年間で得たものなど何もなかった。
司は、つくしと短い恋愛経験の間、彼女のことを全てわかったつもりでいたが、結局のところ、何も理解してはいなかった。
類から聞かされるまで、何も知らなかった。だが類が口を開いたのも、司が彼女を監禁したからだ。もし、何もなければ類も教えはしなかったはずだ。
類が彼女を自分から遠ざけたのも、意図して行った訳ではない。そうせざるを得なかったからだ。それは彼女が自分の元から去った時と同じ、仕方が無かったとしか言えないことだったのだ。
自分の父親から守るために。
遠ざかっていた友人達にしてもそうだ。それは己の態度がそうさせた。
心を無くしていた男は、友人たちが何を言おうが耳に入ることはなかった。
自分にとっては必要だったはずの親友たちは、人ではないと言われた10年間が遠ざけてしまった。
自分が情けなかった。
そんな男は愛した女を傷つけ、身体にまで傷を負わせてしまった。
彼女はそれでも笑って許すことが出来る。
それが牧野つくしだと言われればそうなのかもしれない。
そして過去は過去と言い切り、明るく前向きに生きることが大切だと言った。
とは言え、心も身体も傷つけたのは、紛れもなく自分だ。
それならその傷を癒すことが必要だ。そしてその力があるのは誰だ?
決して自負する訳ではないが、それが出来るのも自分だ。
稀有なオーラを持つと言われる男が、そのオーラで愛する人の傷ついた心を癒すことが出来るなら、すぐにでもそうしてやりたいと思う。
だがその前に片づけなければならない問題がある。
遅かれ早かれこの問題のけりはつく。
それは自分の父親との問題。上品な仮面を被り、正面切って笑いながら相手の心臓にとどめを刺すことが平気で出来る男。
あの男は....NYにいる怪物だ。
「それにしてもおまえはプリンを食べてあいつに詫びたのか?」
沈黙が続く中、コーヒーをすする音だけがしていたが、口を開いたのは総二郎だ。
類の持ってきたプリンを食べることで、つくしに詫びるといったまるで罰ゲームのような行為を受け入れたかどうか知りたかったが、司の顔に浮かんだ痛みの出所は、別のものだと知っていた。
暫く日本を離れていた西門総二郎は、たまたま一緒にいた類の元にかかってきたあきらからの電話で、司と牧野つくしの間に起こっていた事態を知った。そのとき、いきなり聞かされたつくしが撃たれ重体だといった話しから、山荘に監禁していたことから始まり、遡って10年前本人も重傷を負い、両親が亡くなった事故の経緯まで類から聞かされた。そしてその事故は、司の父親である道明寺貴が関係していると知った。そして牧野つくしが全てのことを理解していると言われ、驚くと同時に、黙って10年をやり過ごしていた牧野という女の司を思う気持ちの大きさを知った。
「だいたいプリンだのケーキだのは茶の世界では対極にあるようなモンだな。俺にはあの甘さは受け入れ難い。和菓子の甘さとは全く違った分野だ」
総二郎は、司とつくしは茶の世界に例えるとまで言わないが、二人の立場があまりにも違い過ぎること、そしてそのことを司の両親が受け入れないと知っているが、今の司がそれ以上に複雑な思いを抱えていると分かっていた。
それは自分の父親が、好きな女性の父親を殺めるよう指示をし、その結果、彼女の両親が交通事故で亡くなることになったのではないかと言うことだ。
今はまだ疑惑の段階だが、限りなく黒に近いことはここにいる誰もが知っていた。
そして司の父親は、母親とは比べものにならないほど冷徹な人間だと知っている。
「それにしても、類のヤツはひねくれ坊主って言い方したらアレだが、司が甘い物が苦手だってことを知ってて、よりにもよってすげぇ甘いプリンを持って来るか?あいつのすることは絶対確信的行為以外何ものでもねぇぞ?」
あきらは自分の母親や妹たちの手前、プリンを食べたことがあるが、あの甘いデザートは男が口にするものではないと思っていた。そして上にかかった黒い何かが特に甘いことは知っている。
「あきら、司は昔から牧野のためならどんなことでもする男だったから食べたんじゃねえの?」
やたらと甘いと言われる卵色をした物体をあの道明寺司が食べたのか?
そのことが問題になること自体が不思議なことだが、司にとって牧野つくしは掌中の珠のような存在だ。そんな女から勧められれば食べたのかもしれないと思う二人の男。
だが今はプリンを食べたかどうかは二の次だ。
司の執務室に集まったのはあきらと総二郎。事の本質をはじめから知る類はいなかったが、あきらは執務デスクに座っている男に本題を切り出した。
「それにしてもあの頃、おまえの父親がやったことが公になってれば、贈賄側として国会へ証人喚問だな?そうなれば道明寺もどうなったか分かったものじゃねぇな?」
司の父親である貴が政治家、官僚に贈った上場する前の子会社の株式。
それを賄賂として受け取った大勢の政治家の中には、時の総理大臣をはじめ、各省庁の大臣他与党、保守政党の大物と呼ばれる人物が多数いた。
まさにそのことが公になれば、国政を揺るがす大規模な贈収賄事件となることは間違いなかった。そしてもし証拠が揃い、起訴されれば過去の判例からも確実に有罪判決を受けるはずだ。それがあの男にとって、そして道明寺という会社にとってどれだけの不利益を被ることになるか充分承知しているはずだ。だからこそ、つくしの父親が持っていた証拠となるUSBメモリを取り戻そうとしていたはずだ。
「古い話しだがケネディ大統領の父親は証券業界出身で、株で儲けて財を成した。それもインサイダー取引でだ。だが罪には問われなかった。あの頃の時代って言えばそうだろうが、今はそうは問屋が卸さねぇ・・・けどおまえの父親の件ももう時効だったな」
46歳で暗殺されたアメリカ大統領ジョン・F・ケネディの父親。
アメリカでケネディ家と言えば王室のないアメリカに於いての王族とまで言われるほどのステータスを持ち崇拝される家柄だ。そんな家柄の人間も少し前までは、ずる賢い方法で金儲けをしていた。
彼らはカトリックの国であるアイルランドからの移民で、アメリカにおいてWASP(White Anglo-Saxon Protestant)と呼ばれる白人エリート支配層ではなかったが、代を重ねるごとに影響力を持つ一族となっていた。そしてその一族が排出した大統領の父親は、インサイダー取引で財を築いたと言われていた。父親は剛腕な男だと言われ、財力に物を言わせ、息子たちの政界進出を強力にバックアップしたと言われている。
つまり政治家には金が必要だと言うことだ。だからこそ、道明寺から贈られた、確実に値上がりが見込まれる上場前子会社の株式も喜んでもらえたはずだ。
「それにしても賄賂の証拠になるようなデータを牧野の父親に握られたからって殺す・・・」
総二郎は言葉を呑み、最後まで言わなかった。
この場所なら誰に憚ることなく話しが出来る。だが、総二郎の言葉に答えるあきらも言葉を選んでいた。
「ああ・・どうやらそのことが原因であいつとあいつら家族は交通事故にあったらしい」
司の父親がつくしの父親に対し、何らかの行動を起こした疑惑がある。それがあの交通事故だ。だが証拠はない。あきらと総二郎の視線は、互いに目配せした。
「俺たちは別に迷宮入りした事件を調べる探偵じゃねぇけど、証拠があるならアレだよな・・・」
言葉を選び口にしたのが「アレ」。
もし証拠があれば、あの事故は単なる交通事故ではなく、殺人事件となり司の父親は殺人教唆をしたことになる。それも計画的な殺人事件だ。
だがその証拠はない。
それでも言葉を選びながら話す男たちは、幼い頃からの親友のことを考えてのことだ。
いくら不仲な親子とはいえ、自分の父親が刑事事件の被疑者になるかもしれないとすれば、いい気はしないはずだ。それに、もしそれが真実なら、企業イメージは地に落ちる。
牧野つくしとの交際を認めなかったことが、まさかこんなことになろうとは、誰も考えなかったはずだ。
司の父親が息子の交際相手として認めなかった娘の親に金を握らせ、そこからつくしの父親が司の父親と接点を持ち、道明寺にとって都合の悪い情報を手に入れた男は、その情報を元に金をゆすり取ろうとしたのではないか。
だがつくしの父親も既に亡くなっており、はっきりとした証拠はない。
「・・それにしても司の所の親父さんは、カマドの灰まで長男のものって考え方をするからな。財産は家のものであって、家を継いだものが全てを継承するって考え方だろ?ちょっと考え方が古いと思わねぇか?」
道明寺という名門の家を守ることが自分の務めと考えている父親は、戦後間もない頃まであった家督相続の考え方を受け継いでいる。長男が家を継ぎ、そして子孫を残し、次の世代へと受け継がせていくことを絶対としている。司が道明寺という家に生まれた以上、それは逃れることが出来ない宿命と言われていた。
「けど、茶道の世界もそうじゃねぇのかよ?おまえが西門流を継いだ時点で、おまえの家にある全てがおまえのもんだろ?大事な茶道具を家を出た兄貴に渡すなんてことはねぇよな?流石に茶釜の下の灰まで自分の家のものだんなんて考えはしねぇだろうけど、だいたい財閥だの旧家だの伝統的な家ってのは、どこもそんなもんだろ?ま、うちは母親を見れば分かると思うが美作には旧家だの伝統だのってのは関係ねぇから楽だな。それに類の物産も親父さんの考え方が違うよな?あの親父さんも花沢家の当主でワンマン的な立場だが、司の親父さんとはどこか違うんだよな?」
花沢物産も道明寺と同じく同族経営だ。
同族経営にはメリットがある。それは親兄弟が争わない限り、派閥抗争はない。
そして、一族間での経営陣の移行が円滑に行え、次期社長と思われる人間への教育も早い段階から行うことが出来る。だからこそ、司も類も早い段階から経営者としての教育を受けていた。
物産の親子関係は、知る限り問題はない。だが道明寺親子の場合、父親の取った行動により、財閥の将来を変える恐れがある。
「・・なあ、司。おまえ・・それでどうするんだ?」
あきらは手にしていたコーヒーを飲み干し、聞いた。
何をどうするか。
司はそれが自分の父親のことだと分かっている。
黙って聞いているだけで、何も答えない男は考えていた。
ビジネスに於いては、物事を断定的に割り切って判断していた。
だが、自分と父親との関係は、簡単に割り切れないとわかっている。
血の繋がりとは、時に厄介なものだということも知っている。
何しろ己の性格は、あの父親から受け継がれたものだと分かっているからだ。

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す*ら様
司、本当にどうするんでしょうねぇ。
血の繋がりほど厄介なものはありません。
どんなことになっても親子ですからねぇ。
あまり無茶はしないと思いますが、今までが今までですから、色々とあることでしょう。
温かく見守ってやって下さい。
コメント有難うございました^^
司、本当にどうするんでしょうねぇ。
血の繋がりほど厄介なものはありません。
どんなことになっても親子ですからねぇ。
あまり無茶はしないと思いますが、今までが今までですから、色々とあることでしょう。
温かく見守ってやって下さい。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.05 20:33 | 編集

司×**OVE様
おはようございます^^
総二郎とあきらくん、二人揃って会いに来るのは凄く久しぶりではないでしょうか。
司くん、何を考えているのでしょうね・・
つくしちゃんに出会えたことで、彼は人間らしい感情を持てるようになりました。
これからは彼女が傍にいてくれると約束してくれたことが、彼にとってどれほどの力になることか・・。
精神的な支えといったものは、人を強くするはずです。
GW後半ですね。今年は身体を休める?(笑)リフレッシュのための休みとなりましたが、それでも人が大勢いる所へ出かけては疲れて帰って来る(笑)そんなお休みです。
司×**OVE様も、お友達と素敵な時間が過ごせたことと思いますが、いかがでしょうか?
朝起きる時間を気にしなくていい!(笑)ほんとうに素晴らしいですよね?
しかしながら、哀しいかな、体内時計が勝手にいつもの時間に目覚めてしまうといった不幸に見舞われています(笑)
そろそろそれでもいいのですが、あと少しだけ惰眠を貪りたいですね(笑)
いつもお心遣いありがとうございます。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
総二郎とあきらくん、二人揃って会いに来るのは凄く久しぶりではないでしょうか。
司くん、何を考えているのでしょうね・・
つくしちゃんに出会えたことで、彼は人間らしい感情を持てるようになりました。
これからは彼女が傍にいてくれると約束してくれたことが、彼にとってどれほどの力になることか・・。
精神的な支えといったものは、人を強くするはずです。
GW後半ですね。今年は身体を休める?(笑)リフレッシュのための休みとなりましたが、それでも人が大勢いる所へ出かけては疲れて帰って来る(笑)そんなお休みです。
司×**OVE様も、お友達と素敵な時間が過ごせたことと思いますが、いかがでしょうか?
朝起きる時間を気にしなくていい!(笑)ほんとうに素晴らしいですよね?
しかしながら、哀しいかな、体内時計が勝手にいつもの時間に目覚めてしまうといった不幸に見舞われています(笑)
そろそろそれでもいいのですが、あと少しだけ惰眠を貪りたいですね(笑)
いつもお心遣いありがとうございます。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.05 20:36 | 編集

マ**チ様
こんばんは^^
久し振りのこちらのお話し。司パパの恐ろしさは、どこから来るのでしょうね。
ロミオとジュリエット張りの悲恋が思い浮かぶ・・う~ん(笑)そうなると悲しいですねぇ。
そうなんです。ラストはもう決まっているんです。今はそこへ向けて書いている段階なのです。
恐らく変わることはないと思われます。
謎の男は二度失敗したから島流しになっているかも?(笑)そうかもしれませんね!
そして司パパ、何を考えていらっしゃるのでしょう・・・。
ワンちゃん!(笑)どうしてそのお名前になったのか、知りたいです。
そしてエピソードもまた是非お聞かせ下さい。長~くなっても大丈夫です!
GWですが人波に揉まれ疲れている本日です(笑)
マ**チ様も素敵なお休みをお過ごしくださいね。
夜更かし同盟、最近脱落気味です(笑)
コメント有難うございました^^
こんばんは^^
久し振りのこちらのお話し。司パパの恐ろしさは、どこから来るのでしょうね。
ロミオとジュリエット張りの悲恋が思い浮かぶ・・う~ん(笑)そうなると悲しいですねぇ。
そうなんです。ラストはもう決まっているんです。今はそこへ向けて書いている段階なのです。
恐らく変わることはないと思われます。
謎の男は二度失敗したから島流しになっているかも?(笑)そうかもしれませんね!
そして司パパ、何を考えていらっしゃるのでしょう・・・。
ワンちゃん!(笑)どうしてそのお名前になったのか、知りたいです。
そしてエピソードもまた是非お聞かせ下さい。長~くなっても大丈夫です!
GWですが人波に揉まれ疲れている本日です(笑)
マ**チ様も素敵なお休みをお過ごしくださいね。
夜更かし同盟、最近脱落気味です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.05 20:40 | 編集

このコメントは管理者の承認待ちです

pi**mix様
こんにちは^^
色々とお忙しい中、お読みいただきありがとうございました。
そして「時をこえて」ハマっていただき、ありがとうございました。
坊っちゃん猫にされたと思いましたか?(笑)
そして幽霊にまでされた!(笑) 酷いですよね、幽霊なんて。
確かに驚きますよね。でも坊っちゃん、あれはつくしちゃんの夢でしたからね?
大丈夫です、生きてます。結婚25年で仲良くしていましたのでご安心下さいませ。
Collectorの総二郎とあきらのプリン話し。
ホントにシリアス展開なのに、二人の会話はどこか「抜け」ているかもしれませんね?
坊っちゃんは何を考え、何をするのでしょうか。
親子ですから似ていることは、間違いないのですが、坊っちゃん腹を決めて父親と対決するのでしょうか。
>GW早く去れ!
もう終わりましたので、また明日から平穏な日々が訪れることをお祈りいたします。
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
色々とお忙しい中、お読みいただきありがとうございました。
そして「時をこえて」ハマっていただき、ありがとうございました。
坊っちゃん猫にされたと思いましたか?(笑)
そして幽霊にまでされた!(笑) 酷いですよね、幽霊なんて。
確かに驚きますよね。でも坊っちゃん、あれはつくしちゃんの夢でしたからね?
大丈夫です、生きてます。結婚25年で仲良くしていましたのでご安心下さいませ。
Collectorの総二郎とあきらのプリン話し。
ホントにシリアス展開なのに、二人の会話はどこか「抜け」ているかもしれませんね?
坊っちゃんは何を考え、何をするのでしょうか。
親子ですから似ていることは、間違いないのですが、坊っちゃん腹を決めて父親と対決するのでしょうか。
>GW早く去れ!
もう終わりましたので、また明日から平穏な日々が訪れることをお祈りいたします。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.07 17:11 | 編集
