幸せの記憶と涙の記憶のどちらが多いと聞かれればなんと答えるだろう。
10年前彼女に恋をしたとき、まるで取り憑かれたように必死だったが、あの時は幸せだった。彼女に振り向いて欲しくて追いかけてばかりいた。おかしなことだが、振り向いてもらえなくとも幸せだった。恋に落ちた自分が滑稽だと思えることもあったが、それでも幸せだった。
幸せの定義が何であるのか分からないが、今考えるなら幸せの記憶が多いはずだ。
彼女に恋をするまで自分本位で生きてきた男は言葉の使い方を知らないこともあった。
故に、自分の気持ちを上手く伝えることが出来ずにいた。
恋をするといった今まで知らなかった感情が、男としての自分を思わぬ行動に駆り立てたことがあったが、柔らかな彼女の唇に触れたとき、大切にしたいと感じた。
だがいつまで待てばいいのかと、彼女の煮え切らない態度に永遠に待ち続けなければならないのか。そんな思いを持ち、彼女を忘れてしまおうとしたこともあった。
やがて恋に未熟な人間は、迷いのない心で彼女の気持ちを掴むことが出来た。
そしてやっと彼女の手を取ることが出来た。
だが、たった一度生涯をかけた恋は雨が降る夜、突然終焉を迎えた。
まさに突然降り出した雨のように。
心が見えなくなった瞬間だった。
愛が力尽きた瞬間だった。
力尽きる。まさにその言葉が正しいと今なら思える。
二人は努力した。恋を成就させようと確かに努力していた。
だからこそあの日、告げられた言葉は決して納得できるようなものではなく、まるで不当な扱いを受けた人間のように彼女を非難した。
あの日から流れた歳月は、遠ざかった日々は、互いの胸の中でどんな変化を遂げたのか。
くだらない世界だったNYでの生活。灰色の街での生活は限りなく黒い世界だ。
牧野つくしにとっては生きるのに一生懸命だった東京での生活。
だがそれは、それぞれがいるべき場所での生活だったはずだ。
俺には俺の・・
牧野つくしには牧野つくしの・・10年があった。
一人は憎しみを抱き、もう一人は自責の念に駆られる日々。
だが互いに他の人間を愛そうとはしなかった。
それが意味することは、何であるかと考えなくとも分かるはずだ。
振り返れば哀しい夜だったとしても、いつも記憶が巡るのはあの日ばかり。
あの哀しみが残ることで、逆に思いを強くしたのかもしれない。
思い出に変えることなくいつまでも記憶に残るようにと。
あの笑顔が見たい。
哀しみに負けないあの笑顔を。
真っ直ぐな瞳で見返すその姿を見たい。
あの頃のより愛している。その事に気付いたのは、いつだったのか。
あの頃へ戻ることは出来ないとしても、哀しかったあの雨の日の別れを、今は過去に捨て去って前を向くことが出来る。
もう迷いは何もない。
だが今、まさにこの瞬間、唯一愛した人が生死の境を彷徨っていた。
つくしが運び込まれたのは司の財閥が経営する病院。
今その病院で緊急オペが行われていた。
屋上のヘリポートには、連絡を受けた医師が待っており、すぐさまストレッチャーにつくしを移し、最新鋭の医療設備を備えた手術室へ移動した。
銃創患者を診る。
それはどう考えても事件性がある患者だ。医師は警察に届け出をするべきだと進言した。
だが司はそれを許さなかった。犯人は不明だが警察には話したくない。
恐らく、いや確実にこの狙撃は自分の父親の仕業だと思っていたからだ。これはあくまでも身内の揉め事のひとつ。反りの合わない父と子の確執だ。それに警察官僚の中には父親に近い人間もいる。興味本位の詮索などされたくない。だが今の道明寺財閥の総帥は司だ。これから老い消えていく人間と自分とでは、果たしてどちらの意向を汲むか。それは恐らく後者だ。
病院に箝口令を敷くことは簡単だ。何しろここは道明寺財閥の個人病院だ。経営トップの意向に沿わないわけにはいかなかった。
静まり返った病院の廊下にいるのは、身体中から血の匂いをさせる男。
手術室の前に立ち、その目は扉へと向けられていた。
司は血まみれのスーツを着替えることを拒んだ。
牧野つくしの血が染み込んだシャツとスーツは、脱げば処分されることが目に見えていたからだ。今の司はつくしに関するものなら、その血の一滴までも自分のものにしておきたかった。
流れた血ですら愛おしいと思えるようになった男がそこにいた。
緊急オペの名の通り一刻一秒を争うように進められるつくしの手術。撃たれたのは腹部だ。
出血はかなりの量で輸血が必要となるはずだ。銃創患者だと伝えた時点で輸血用B型の血液は血液センターから取り寄せていたが、もし足りないとなれば、自分の血を使うようにと司は申し出ていた。
「あきら!!」
長い廊下の最奥にある手術室に向かって走って来たのは類と総二郎。
あきらはこの場に呼び寄せるにふさわしい人間は類しかいないと連絡をとった。
そしてその時一緒にいたのが、ロンドンから帰国したばかりの総二郎だ。
「類!総二郎よく来てくれた!さっき電話で話したが牧野が司の山荘で狙撃された!」
あきらは二人の視線が、手術室の前で微動だにせず扉を見つめている男に向いたのを見た。
そして類は司の正面に回り込み、男の顔を強く殴った。
「類!!」
あきらと総二郎は驚き、名前を叫ぶ。
その瞬間のけ反るようによろめいた男は、それでも倒れることなく、その場に立っていた。
明るい陽射しが似合う男と夜の闇が似合う男が対峙する姿は、まるで天使と悪魔がひとつの命を巡り、その所有権を争っているかのように見えた。
「司!!いったいどういうことだ!説明しろ!」
普段温厚な青年と言われる男が怒鳴った。
そして低い声で〝くそっ″と毒づいた。
類の怒鳴り声と感情の高ぶりは滅多に見れるものではない。
対し、司は自分の激しい感情を表に出すことが多かった。だが親友と言われていた類にはそういった感情はないと思われていた。だから二人は一緒にいても喧嘩にならないのだと誰もが思っていた。
「やめろ!類!」
総二郎は司の胸倉を掴んだ類に言った。
「類、落ち着け!」
あきらは類がいつもには無い激しさで司に向かったことに驚きを隠せずにいた。
「これが落ち着いていられるか?あきら、わかってるよな!?おまえ知ってるよな?俺、話したよな?どうして牧野が俺の邸で暮らしていたか!司の父親絡みってこと知ってたよな!?こんなこと・・司の父親がやらせたに決まってるだろ?!」
強い調子で言う類は、つくしのひび割れた心を知っていた。出来ることなら自分がそのひび割れを直してやりたい。そう思ったこともあったが、類は初めからそれは無理だとわかっていた。牧野つくしの恋の寿命は長いと。ひとりの男性を思うその一途とも言える思いは、他の男を寄せ付けることはない。そう知っていた。
嫉妬をしない男は、つくしとは常識的な枠の中で共に時をやり過ごすことをしていた。
そしていつの日か、つくしの恋の寿命が尽きる前、必ず相手の男が現れると思っていた。
だが、その男がつくしにとって危険であることも知っていた。
「類!誰が牧野を撃ったかまだ何も分かってねぇんだ。軽はずみなことを言うのはよせ!」
「何が軽はずみだ!他に誰があいつを狙う?どこの誰が牧野を殺そうなんて考える?!」
「類!!止めろ!そんな言葉を口にするな!縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ。言葉は口から出た途端魂を持つんだ!言葉は生きもんだぞ?口に出すことでその通りになることもあるぞ!」
類は司の胸倉を掴んでいた手を床に叩きつける勢いで悔しげに離す。
類の顔からほんの30センチ程離れた距離にいる司は、黙って聞いていたが殴られた頬に手を当て、そして切れた唇の端に触れた。視線は類の顔を見ていたが、思考はその瞳にはない。だが何かに気付いたように司の目は流れ、類の目を見た。
「・・類・・」
まるで今やっと類の存在に気付いたような呟き。
もし今の司にナイフを持った男が近づいたとすれば、果たしてその男のナイフを避けることが出来ただろうか。足でその手を蹴り上げナイフを取り上げることが出来ただろうか。
「司!おまえ何やってんだよ!俺は・・俺はどんな形でも牧野がおまえと一緒にいるなら、おまえならあいつを守れるはずだと思ったから牧野がおまえの傍にいることを許した!
おまえが牧野の傍にいるなら大丈夫だと思った!それにおまえの心はもう昔のおまえじゃないことも知った!だから_」
類は司の執務室を訪ねたとき、司に言った。
司の父親のせいでつくしを自分の邸に住まわせていたと。
そして今、つくしが司と一緒にいることは知っていても、解放しろとは言わなかった。
今の司は力がある。だからつくしを守れると思った。だがそうはいかなかった。
感情的に他人と深く関わることが嫌いだった男は、牧野つくしが相手だとその感情を見せることがあった。そんな女は類にとって貴重な存在だった。
恋人ではない。だが友達とも違う稀有な存在。類は彼女の思考を読み取ることができ、彼女は類の孤独を理解した。そんな二人はひとつ屋根の下に暮らしていたとしても、男と女の関係になることはなく、ただの同居人だった。
「類、俺は・・・」
司が口を開いたそのとき、手術室の扉が開き、リノリウムの床にナースシューズの音がしてグリーンの手術着姿の女性が現れた。
「道明寺さん!B型の血液が不足する恐れがあります!協力して下さいますよね?!他にB型の方はいらっしゃいますか?!」
「俺、O型だ!O型ならどの血液型にも輸血出来るよな?」
総二郎は協力を申し出た。
「ええ・・出来ないことはありませんが条件によっては無理な場合もあります。それにこれはあくまでも予備的措置ですから。道明寺さん!急いで下さい!」
司は総二郎に対し首を横に振っていた。
「では道明寺さん!急いで下さい!」
彼女を、牧野つくしを連れて行かないでくれ。
やっと本当の意味で二人が顔を合わせることが出来た瞬間だった。
司は採血の間中、真っ白な壁を眺めていた。
時計の針の進みが遅く感じられ、時が長いと感じていた。
何をどう選択してこんなことになったのか。
今はそればかり考えていた。
そして目を閉じ、つくしの命が助かることを祈った。
今は、彼女の事以外何も考えられなかった。
つくしの笑顔、声、そして、愛してる、と言ってくれた事以外は、何も考えることが出来なかった。

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幸せの定義が何であるのか分からないが、今考えるなら幸せの記憶が多いはずだ。
彼女に恋をするまで自分本位で生きてきた男は言葉の使い方を知らないこともあった。
故に、自分の気持ちを上手く伝えることが出来ずにいた。
恋をするといった今まで知らなかった感情が、男としての自分を思わぬ行動に駆り立てたことがあったが、柔らかな彼女の唇に触れたとき、大切にしたいと感じた。
だがいつまで待てばいいのかと、彼女の煮え切らない態度に永遠に待ち続けなければならないのか。そんな思いを持ち、彼女を忘れてしまおうとしたこともあった。
やがて恋に未熟な人間は、迷いのない心で彼女の気持ちを掴むことが出来た。
そしてやっと彼女の手を取ることが出来た。
だが、たった一度生涯をかけた恋は雨が降る夜、突然終焉を迎えた。
まさに突然降り出した雨のように。
心が見えなくなった瞬間だった。
愛が力尽きた瞬間だった。
力尽きる。まさにその言葉が正しいと今なら思える。
二人は努力した。恋を成就させようと確かに努力していた。
だからこそあの日、告げられた言葉は決して納得できるようなものではなく、まるで不当な扱いを受けた人間のように彼女を非難した。
あの日から流れた歳月は、遠ざかった日々は、互いの胸の中でどんな変化を遂げたのか。
くだらない世界だったNYでの生活。灰色の街での生活は限りなく黒い世界だ。
牧野つくしにとっては生きるのに一生懸命だった東京での生活。
だがそれは、それぞれがいるべき場所での生活だったはずだ。
俺には俺の・・
牧野つくしには牧野つくしの・・10年があった。
一人は憎しみを抱き、もう一人は自責の念に駆られる日々。
だが互いに他の人間を愛そうとはしなかった。
それが意味することは、何であるかと考えなくとも分かるはずだ。
振り返れば哀しい夜だったとしても、いつも記憶が巡るのはあの日ばかり。
あの哀しみが残ることで、逆に思いを強くしたのかもしれない。
思い出に変えることなくいつまでも記憶に残るようにと。
あの笑顔が見たい。
哀しみに負けないあの笑顔を。
真っ直ぐな瞳で見返すその姿を見たい。
あの頃のより愛している。その事に気付いたのは、いつだったのか。
あの頃へ戻ることは出来ないとしても、哀しかったあの雨の日の別れを、今は過去に捨て去って前を向くことが出来る。
もう迷いは何もない。
だが今、まさにこの瞬間、唯一愛した人が生死の境を彷徨っていた。
つくしが運び込まれたのは司の財閥が経営する病院。
今その病院で緊急オペが行われていた。
屋上のヘリポートには、連絡を受けた医師が待っており、すぐさまストレッチャーにつくしを移し、最新鋭の医療設備を備えた手術室へ移動した。
銃創患者を診る。
それはどう考えても事件性がある患者だ。医師は警察に届け出をするべきだと進言した。
だが司はそれを許さなかった。犯人は不明だが警察には話したくない。
恐らく、いや確実にこの狙撃は自分の父親の仕業だと思っていたからだ。これはあくまでも身内の揉め事のひとつ。反りの合わない父と子の確執だ。それに警察官僚の中には父親に近い人間もいる。興味本位の詮索などされたくない。だが今の道明寺財閥の総帥は司だ。これから老い消えていく人間と自分とでは、果たしてどちらの意向を汲むか。それは恐らく後者だ。
病院に箝口令を敷くことは簡単だ。何しろここは道明寺財閥の個人病院だ。経営トップの意向に沿わないわけにはいかなかった。
静まり返った病院の廊下にいるのは、身体中から血の匂いをさせる男。
手術室の前に立ち、その目は扉へと向けられていた。
司は血まみれのスーツを着替えることを拒んだ。
牧野つくしの血が染み込んだシャツとスーツは、脱げば処分されることが目に見えていたからだ。今の司はつくしに関するものなら、その血の一滴までも自分のものにしておきたかった。
流れた血ですら愛おしいと思えるようになった男がそこにいた。
緊急オペの名の通り一刻一秒を争うように進められるつくしの手術。撃たれたのは腹部だ。
出血はかなりの量で輸血が必要となるはずだ。銃創患者だと伝えた時点で輸血用B型の血液は血液センターから取り寄せていたが、もし足りないとなれば、自分の血を使うようにと司は申し出ていた。
「あきら!!」
長い廊下の最奥にある手術室に向かって走って来たのは類と総二郎。
あきらはこの場に呼び寄せるにふさわしい人間は類しかいないと連絡をとった。
そしてその時一緒にいたのが、ロンドンから帰国したばかりの総二郎だ。
「類!総二郎よく来てくれた!さっき電話で話したが牧野が司の山荘で狙撃された!」
あきらは二人の視線が、手術室の前で微動だにせず扉を見つめている男に向いたのを見た。
そして類は司の正面に回り込み、男の顔を強く殴った。
「類!!」
あきらと総二郎は驚き、名前を叫ぶ。
その瞬間のけ反るようによろめいた男は、それでも倒れることなく、その場に立っていた。
明るい陽射しが似合う男と夜の闇が似合う男が対峙する姿は、まるで天使と悪魔がひとつの命を巡り、その所有権を争っているかのように見えた。
「司!!いったいどういうことだ!説明しろ!」
普段温厚な青年と言われる男が怒鳴った。
そして低い声で〝くそっ″と毒づいた。
類の怒鳴り声と感情の高ぶりは滅多に見れるものではない。
対し、司は自分の激しい感情を表に出すことが多かった。だが親友と言われていた類にはそういった感情はないと思われていた。だから二人は一緒にいても喧嘩にならないのだと誰もが思っていた。
「やめろ!類!」
総二郎は司の胸倉を掴んだ類に言った。
「類、落ち着け!」
あきらは類がいつもには無い激しさで司に向かったことに驚きを隠せずにいた。
「これが落ち着いていられるか?あきら、わかってるよな!?おまえ知ってるよな?俺、話したよな?どうして牧野が俺の邸で暮らしていたか!司の父親絡みってこと知ってたよな!?こんなこと・・司の父親がやらせたに決まってるだろ?!」
強い調子で言う類は、つくしのひび割れた心を知っていた。出来ることなら自分がそのひび割れを直してやりたい。そう思ったこともあったが、類は初めからそれは無理だとわかっていた。牧野つくしの恋の寿命は長いと。ひとりの男性を思うその一途とも言える思いは、他の男を寄せ付けることはない。そう知っていた。
嫉妬をしない男は、つくしとは常識的な枠の中で共に時をやり過ごすことをしていた。
そしていつの日か、つくしの恋の寿命が尽きる前、必ず相手の男が現れると思っていた。
だが、その男がつくしにとって危険であることも知っていた。
「類!誰が牧野を撃ったかまだ何も分かってねぇんだ。軽はずみなことを言うのはよせ!」
「何が軽はずみだ!他に誰があいつを狙う?どこの誰が牧野を殺そうなんて考える?!」
「類!!止めろ!そんな言葉を口にするな!縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ。言葉は口から出た途端魂を持つんだ!言葉は生きもんだぞ?口に出すことでその通りになることもあるぞ!」
類は司の胸倉を掴んでいた手を床に叩きつける勢いで悔しげに離す。
類の顔からほんの30センチ程離れた距離にいる司は、黙って聞いていたが殴られた頬に手を当て、そして切れた唇の端に触れた。視線は類の顔を見ていたが、思考はその瞳にはない。だが何かに気付いたように司の目は流れ、類の目を見た。
「・・類・・」
まるで今やっと類の存在に気付いたような呟き。
もし今の司にナイフを持った男が近づいたとすれば、果たしてその男のナイフを避けることが出来ただろうか。足でその手を蹴り上げナイフを取り上げることが出来ただろうか。
「司!おまえ何やってんだよ!俺は・・俺はどんな形でも牧野がおまえと一緒にいるなら、おまえならあいつを守れるはずだと思ったから牧野がおまえの傍にいることを許した!
おまえが牧野の傍にいるなら大丈夫だと思った!それにおまえの心はもう昔のおまえじゃないことも知った!だから_」
類は司の執務室を訪ねたとき、司に言った。
司の父親のせいでつくしを自分の邸に住まわせていたと。
そして今、つくしが司と一緒にいることは知っていても、解放しろとは言わなかった。
今の司は力がある。だからつくしを守れると思った。だがそうはいかなかった。
感情的に他人と深く関わることが嫌いだった男は、牧野つくしが相手だとその感情を見せることがあった。そんな女は類にとって貴重な存在だった。
恋人ではない。だが友達とも違う稀有な存在。類は彼女の思考を読み取ることができ、彼女は類の孤独を理解した。そんな二人はひとつ屋根の下に暮らしていたとしても、男と女の関係になることはなく、ただの同居人だった。
「類、俺は・・・」
司が口を開いたそのとき、手術室の扉が開き、リノリウムの床にナースシューズの音がしてグリーンの手術着姿の女性が現れた。
「道明寺さん!B型の血液が不足する恐れがあります!協力して下さいますよね?!他にB型の方はいらっしゃいますか?!」
「俺、O型だ!O型ならどの血液型にも輸血出来るよな?」
総二郎は協力を申し出た。
「ええ・・出来ないことはありませんが条件によっては無理な場合もあります。それにこれはあくまでも予備的措置ですから。道明寺さん!急いで下さい!」
司は総二郎に対し首を横に振っていた。
「では道明寺さん!急いで下さい!」
彼女を、牧野つくしを連れて行かないでくれ。
やっと本当の意味で二人が顔を合わせることが出来た瞬間だった。
司は採血の間中、真っ白な壁を眺めていた。
時計の針の進みが遅く感じられ、時が長いと感じていた。
何をどう選択してこんなことになったのか。
今はそればかり考えていた。
そして目を閉じ、つくしの命が助かることを祈った。
今は、彼女の事以外何も考えられなかった。
つくしの笑顔、声、そして、愛してる、と言ってくれた事以外は、何も考えることが出来なかった。

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悠*様
>司の更生・・
少しずつ昔の彼に近づいて来たような気がしませんか?
彼の人生は財閥のためにあったようなものですが、これからは変わってくるのでは・・
と思っています。
コメント有難うございました^^
>司の更生・・
少しずつ昔の彼に近づいて来たような気がしませんか?
彼の人生は財閥のためにあったようなものですが、これからは変わってくるのでは・・
と思っています。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.04.11 21:08 | 編集

25**yuko様
勿論幸せになってもらいたい気持ちはあります^^
彼の幸せはつくしと過ごした短い期間がベースです。
あの頃の気持ちを取り戻せば、人生も変わってくるのでは・・と思っています。
拍手コメント有難うございました^^
勿論幸せになってもらいたい気持ちはあります^^
彼の幸せはつくしと過ごした短い期間がベースです。
あの頃の気持ちを取り戻せば、人生も変わってくるのでは・・と思っています。
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2017.04.11 21:12 | 編集

す*ら様
おはようございます^^
>失うとき、初めて分かる・・
そうなんですよね・・
いつも自分の傍にいる人、そして当然のように思っていたことが、ある日突然失われるとき、初めて人生を振り返るといいますか、振り返るきっかけになると思います。今の司がまさにその状況ではないでしょうか・・
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
>失うとき、初めて分かる・・
そうなんですよね・・
いつも自分の傍にいる人、そして当然のように思っていたことが、ある日突然失われるとき、初めて人生を振り返るといいますか、振り返るきっかけになると思います。今の司がまさにその状況ではないでしょうか・・
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.04.11 21:14 | 編集

司×**OVE様
おはようございます^^
>類の怒りは計り知れない・・
普段感情を出さない彼も、つくしがあんなことになり、悔しい思いがあるでしょう。
決してつくしが司と元に戻ることに、ノーは言わないと思いますが、類にとってのつくしは精神的な繋がりを持てる人ですから、男女の仲を越え大切な人だと思います。
あきら君が当時の事情を色々と知っているので、後はあきら君にですね?(笑)
つくしちゃん、手術が無事に、そして早く終わりますように。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
>類の怒りは計り知れない・・
普段感情を出さない彼も、つくしがあんなことになり、悔しい思いがあるでしょう。
決してつくしが司と元に戻ることに、ノーは言わないと思いますが、類にとってのつくしは精神的な繋がりを持てる人ですから、男女の仲を越え大切な人だと思います。
あきら君が当時の事情を色々と知っているので、後はあきら君にですね?(笑)
つくしちゃん、手術が無事に、そして早く終わりますように。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.04.11 21:17 | 編集

pi**mix様
こんにちは^^
坊っちゃんとつくしちゃんが同じ血液型で良かったと思っています。
大切な人を失いたくないと、採血の最中も坊っちゃんは祈っています。
銃創患者は日本では珍しいと思います。ドクターXはもしかするとアメリカで治療経験があるかもしれませんね?
類と司、天使と悪魔でした。さて、F4が揃いました。これから先はどうなるんでしょう?
私も気になります。気になるなら早く書いてと言われそうですね?(笑)
そして妄想エロ坊っちゃんの御曹司。箸休めにされたエロ坊っちゃん。
妄想がcollectorチックでした。あちらのエロ坊っちゃんは、そんなことばかり妄想して、こちらの坊っちゃんはこんな坊っちゃんです(笑)どちらもお楽しみ頂けて嬉しいです。どうも有難うございます。
エロ坊っちゃん、年度末も終わり、これからつくしちゃんとのことを色々と妄想することでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
坊っちゃんとつくしちゃんが同じ血液型で良かったと思っています。
大切な人を失いたくないと、採血の最中も坊っちゃんは祈っています。
銃創患者は日本では珍しいと思います。ドクターXはもしかするとアメリカで治療経験があるかもしれませんね?
類と司、天使と悪魔でした。さて、F4が揃いました。これから先はどうなるんでしょう?
私も気になります。気になるなら早く書いてと言われそうですね?(笑)
そして妄想エロ坊っちゃんの御曹司。箸休めにされたエロ坊っちゃん。
妄想がcollectorチックでした。あちらのエロ坊っちゃんは、そんなことばかり妄想して、こちらの坊っちゃんはこんな坊っちゃんです(笑)どちらもお楽しみ頂けて嬉しいです。どうも有難うございます。
エロ坊っちゃん、年度末も終わり、これからつくしちゃんとのことを色々と妄想することでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.04.11 21:27 | 編集

マ**チ様
こんばんは^^
つくし!頑張れ!え?そうなんですか?お気持ち大変嬉しいです。ありがとうございます。
でも司が断るかもしれません・・・
「いや。断ってくれ。マ**チにはアウトレットで酷い目に合わされたからな。俺のことオモチャにしやがってひでぇ女だ!」
はい。類が司を殴りましたねぇ。やはり司の不甲斐なさに腹が立ったのかもしれません。
つくしの10年を色々見て来た類にしてみれば、「おまえは!」となってしまいました。
え?つくしが司を忘れる?(笑)そっちですか?そうなると確かに道明寺パパの思うつぼです。そしてあきらが・・・!!(笑)
久し振りの御曹司、筋金入りのエロ御曹司(笑)
本当ですね?側に西田さんがいて、呆れてため息をついている(笑)!
この司はいったいどうしちゃったんでしょうね?ラブライフは充実しているはずなのに、まだ妄想するという男。
どんだけつくしちゃんと致したいんでしょうか(^^;
しかし今回の御曹司は少し「collector」の司のような雰囲気が入ってしまいました。
いつもマ**チ様に大好きと言っていただき嬉しいです。
そして「collector」とのギャップがありすぎですよね?
御曹司、少し妄想も控え、仕事に邁進していましたが、決算を無事終えましたのでこれから益々妄想しそうですね?(笑)
普段つくしと激しい行為が出来ないので妄想で我慢しているような気がします(笑)
コメント有難うございました^^
こんばんは^^
つくし!頑張れ!え?そうなんですか?お気持ち大変嬉しいです。ありがとうございます。
でも司が断るかもしれません・・・
「いや。断ってくれ。マ**チにはアウトレットで酷い目に合わされたからな。俺のことオモチャにしやがってひでぇ女だ!」
はい。類が司を殴りましたねぇ。やはり司の不甲斐なさに腹が立ったのかもしれません。
つくしの10年を色々見て来た類にしてみれば、「おまえは!」となってしまいました。
え?つくしが司を忘れる?(笑)そっちですか?そうなると確かに道明寺パパの思うつぼです。そしてあきらが・・・!!(笑)
久し振りの御曹司、筋金入りのエロ御曹司(笑)
本当ですね?側に西田さんがいて、呆れてため息をついている(笑)!
この司はいったいどうしちゃったんでしょうね?ラブライフは充実しているはずなのに、まだ妄想するという男。
どんだけつくしちゃんと致したいんでしょうか(^^;
しかし今回の御曹司は少し「collector」の司のような雰囲気が入ってしまいました。
いつもマ**チ様に大好きと言っていただき嬉しいです。
そして「collector」とのギャップがありすぎですよね?
御曹司、少し妄想も控え、仕事に邁進していましたが、決算を無事終えましたのでこれから益々妄想しそうですね?(笑)
普段つくしと激しい行為が出来ないので妄想で我慢しているような気がします(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.04.11 21:35 | 編集
