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2017
02.08

エンドロールはあなたと 59

結婚に向かない人間も世の中にいる。
その言葉をそっくりそのまま言われていたのが道明寺司だ。
アメリカの雑誌で″世界で最も結婚したい独身男性トップ10″に選ばれた男だったが、類が言ったように女に対しての興味は、自分の都合でセックスするときだけだった。

司の年齢からいえばそれなりの女の数がいたとしても、牧野つくしが相手だと、愛し合うたび新鮮で、新たな発見がある。それに相手が何を望んでいるかわかってしまうのだから、司はもしかすると自分はロマンチストなのかとこの年になって気づいた。



休日の朝、淹れ立てのコーヒーの匂いが迎えてくれるが、そんな場面にシャワーを浴びたばかりの俺が傍に近寄れば、
「そ、そんな格好でいられたら目のやり場に困るからなにか着てよ!」
と言われ、
「そんなってどんなんだよ?」
と、わざと聞いてやるが、そんなとき慌てて言う女が面白くてからかった。

「そ、そんなって、その・・」
「ああ。腰にタオルを巻いただけってことか?気になるのか?」
「気になるに決まってるじゃない。もしあたしがそんな格好したら気になるでしょ?」

言ったつくしは慌てて言葉を取り消した。
司の顔にニヤッとした笑みが浮かんだからだ。

「あ、今のは取り消し。気になる・・じゃなくて、ほら、言いたいことくらいわかるでしょ?」

もちろん、言いたいことはわかる。下着姿でうろうろされるのは嫌なはずだ、と言いたいのだろうが俺は一向に構わねぇ。

「いや。わかんねぇな。俺はつくしがパンティ1枚でうろうろしたって構わねぇ。なんなら裸でもいいぞ?」
「いいわけないでしょ!い、いいから早く何か着てよ!」

慌てる女が可笑しくて、もっと困らせてやろうかと思ったが、しぶしぶ着る物を取りに寝室まで戻った。
そんなとき、目に留まったのは類から土産だと貰ったTシャツ。
それを頭から被ってリビングに戻った。

「つくし、着たぞ」
「もう、司はいつも裸でウロウロするから目のやり場に――」

振り向いて俺を見たときのあいつの顔が可笑しくてこれがまた笑いを誘う。
でけぇ黒目をますます大きく見開き、真っ赤になるつくし。
今までこんなに笑わされたことはない。
俺がそのとき着ていたTシャツ
″俺のここはいつも臨戦態勢″
と、白い生地の胸に赤い文字で書かれ、大きな矢印が下を向いていた。

海外ではよくあるHなメッセージが書かれたTシャツ。
だだし、海外ではTシャツに書かれている文字は自己表現と捉えられる。つまり自分はこういう人間だと表現している。そしてその文字を読む人間は意外と多い。

英語でメッセージが書かれているものは、よく意味を理解して買わなければ、それを着た人間の品格が疑われることになる。もし、そのメッセージを目にした人間が不快に感じれば、注意されることもある。反対に面白いことが書かれていれば、いいね、と言ってもらえる。

類にしては、随分と洒落が効いている。あの男もああ見えて遊び心があるってことだ。
司はTシャツの裾を下へ引っ張って見せた。満面の笑みを浮かべ、自慢げに、そして誇らしげに。ちょうど矢印がその場所を指すように。

「類の土産だ。いいだろ?このTシャツ」

その瞬間、ペーパータオルの塊が飛んできたのを慌ててかわした。


そんなやり取りが可笑しくて、微笑ましいと思えること自体、自分が変わっていたと感じていた。一緒に過ごす時間が増え、静かに話したり、親密な時間に浸ったり、論議を戦わせることもあったが、平日、誰もいない部屋へ戻ることを寂しく感じてしまうまでになっていた。

人生のなかで誰かを真剣に好きになることは無いと思っていた。そんなことになれば、人生が不安定になってしまうと思ったからだ。恋をする。まずそんなことはない・・はずだった。
それなのに出会ってしまった運命の女。その女の前でなら決して世間には見せない硬い殻の下に隠されていた自分自身でいることが出来た。

互いに何も考えず、無防備な数秒間といえる時間があることがある。
口には出さなくても伝わる思いがあった。そんなとき、思わずキスをしたくなる。そんな衝動に駆られ、抱きしめると、ベッドへと運んでいた。


司はつくしの1日を24時間、完璧に把握しているわけではないが、大体のことは知っていた。今日はつくしが抱えていた仕事が終わる日だ。
その日が二人の関係がひとつの大きな一歩を踏み出す日だと知っていた。

つくしの会社を買収した司。
それは仕事に対しての意欲が旺盛な婚約者が、心置きなく仕事が出来るようにとの司の計らいだ。いわば司からの婚約記念のプレゼントなようなものだ。

そんな司に対し、つくしが渡したのは、以前司と視察に出かけたカリフォルニアで買ったコースター。レッドウッドの切り株を加工した簡単なものだ。

「あたしがあげられるのは、これしかないの」

あのとき、体調を崩した自分を看病してくれたお礼にと買ったはいいが渡せずにいた。と今更だけど、と手渡された。

高いものは買えないし、司はなんでも持っているから、と言葉を濁し、渡すのが遅くなってごめん。こんなものをプレゼントしてもらっても迷惑だと思ったから渡せなかったと言われた。たが、好きな人から貰えるものなら、どんな贈り物でも嬉しいものだ。今ではそのコースターは、こうして執務室のデスクの上に置かれ使われている。

物の価値は値段で決まるものではない。それは今では十分理解していた。
大企業のトップでも、執務室へ入れば、孫の描いた絵を額に入れ、大切に飾っている。そんな絵を「お孫さんが書かれましたか。お上手ですね」のひと言で普段は厳しい表情しか浮かべない人間も、優しい表情を浮かべた好々爺へと変わる。
それが彼らの心からのほほ笑みだと感じられるが、司もコースターに手を触れるだけで、あの日の事が思い出せれ、頬が緩んでいた。
こうしたちょっとしたことが、この先の人生の積み重ねとなっていくはずだ。

司は時計を見た。
そして立ち上った。

牧野つくしを迎えに行くために。





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コメント
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dot 2017.02.08 15:28 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司、なんだか楽しそうですね?
クールで冷静な男も、好きな人の前では実はこんな男なのかもしれません。
それは自分でも気づくことがなかった新しい一面でしょう(笑)
メッセージTシャツ。そうなんです。意味を知ったら驚くようなことが書かれていたりしますよね?
外国の方が、意味不明の漢字入りのTシャツを着ていることと同じです(笑)
つくしの仕事が一段落しました。
このつくしちゃんは幾つになっても恥ずかしがり屋さんです。
そんな彼女が司は愛おしのでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.08 23:34 | 編集
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dot 2017.02.09 00:21 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
類もユニークなお土産をくれましたが、そうですね、これは司と言うより、つくしをからかうためだったのかもしれませんね!
どんな女性かと思いつつ、持ち帰ったことでしょう(笑)
そうなんです。つくしの仕事が終わるということは、紺野くんごめんなさいになる日が来るということです。
紺野くん、今度こそワセリンは捨てて下さい。ゴメンね、紺野くん。
週も半ば過ぎましたね。今週もゴール目前となりました。
しかし、夜更かし同盟最近寝落ちしてます(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.09 22:13 | 編集
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