「つくし!誕生日おめでとう!ねえ乾杯しようよ!ほらほら、グラス持って!」
「もう。滋さん止めてよ。ちっともおめでたくなんてないんだから!」
さらりと否定したつくしは友人達に誕生日を祝ってもらっていた。
落ち着いた雰囲気のあるラウンジの片隅にある広いソファに、なぜかまるで無理矢理詰め込まれたかのように肩を寄せ合って座る女3人。
その真ん中に座る女は、テーブルの上に並べてある皿からチーズをひと切れ手にすると口に入れていた。
「何言ってるんですか先輩!女はこれからですからね!酸いも甘いも嚙分けてこれからいい女目指して一直線じゃないですか!で、幾つになられたんでしたっけ?」
わざとらしく聞く女はつくしより年下の女。
「うわっ!桜子あんた酷いわ。わかってて言わせるんだから。それってセクハラよ?」
「別にわたしは悪意を持って言ってるわけじゃありませんから」
桜子は口の端に笑みを浮かべていた。
彼女得意の不適な笑みは見る者を不安な思いにさせる。何しろ女策士かマタ・ハリ(※)かと言われるほどにその気転と美貌を活用することを怠らない女だ。
「あんたに悪意があるかどうかなんて、あたし達にわかるはずないじゃない?ねえ?つくし?ほら、いいからグラス持ちなさいよ!」
滋はつくしにグラスを握らせると、二人の女性はつくしに向かってグラスを掲げ声を合わせた。
「ほら。いい?せーのっ、かんぱ~い!!」
とりあえずお決まりの乾杯を済ませたつくしは、自分の隣にいる友人に言った。
「33よ。33歳。それが悪い?」
「ええ。もちろん33歳なのはわかってます」
わかっていて言わせるのはこの友人の嫌味なのか?
桜子はさらに口の端を上げてほほ笑んだ。
「先輩はわたしよりひとつ年上なんですから。それよりいいですか?33歳って言ったら女の本厄ですからね?」
桜子はつくしの向う側に座る滋にも視線を向けると言った。
「滋さん!滋さんも先輩と同じなんですからね!いい加減お二人とも早く素敵な殿方を見つけて下さい?優紀さんなんてもうすぐ赤ちゃんが生まれるんですからね?それに厄年に子どもを産むと厄落としになるなんて言われている所もあるくらいですからね!・・と、言ってもお二人とも間に合いそうにありませんよね?」
33歳のうちに子どもを出産しろと言う話ならとてもではないが無理だ。
桜子の言葉にムッとした滋は身を乗り出して言った。
「なによ桜子!あんた自分だってひとつしか年が変わらないくせに!」
「あら、わたしはいつでも結婚出来ます。でも敢えてしないんです。出来ないんじゃなくて、しないんです。しない選択をしたんです。でもお二人はそうじゃありませんよね?」
一瞬言葉に詰まった滋は桜子に対抗するように言い放った。
「桜子、あんたねぇ。女の33なんて女性として最盛期じゃないの!今どきの30そこそこの女を掴まえて売れ残りみたいに言うのやめてよね?」
まるで女は30を境にしてあとは坂を下って行くような言い分に滋はムッとしていた。
だが桜子の口調にどれほど嫌味が含まれていても、それが決して好戦的でないことは知っていた。
「でもそうじゃないですか?まあ滋さんが努力してるのは認めますよ?それに滋さんクラスの人間がそう簡単にお相手を決めることが出来なのもわかります。なにしろ滋さんは大河原財閥のお嬢様で跡取りなんですから。お婿さんを取るんですよね?」
桜子はテーブルに置かれているボトルから新しい水割りを作ると滋に手渡した。
礼を言って受け取った滋はひと口飲むとソファにもたれかかった。
「今どき婿を取るってのもねぇ。そりゃ大河原の名前を残したいから、出来れば婿に来てくれる人がいいんだけどね」
「わかりました。滋さんは努力してるってことですよね?でも・・」
桜子と滋は自分たちの間に挟まれているつくしに視線を向けた。
「牧野先輩は努力とかしてませんよね?」
「そうだよ!つくしは全然してない!」
滋はすぐさま同意を示した。
まるで桜子の執拗な問いかけをかわすことが出来るとばかり、つくしに話しの鉾先を向けた。
そして二人の女の視線は自分たちの間に座ってグラスを煽る友人を見ていた。
「ちょっとつくし?聞いてる?あんたのことよ?」
つくしは親友たちの言葉は耳に入っていたが、答えるつもりはなかった。
恋なんてしなくても生きていける。そう思っていた。
「牧野先輩聞いてますか?いつも言いますけど男の人とつき合いたいとか考えないんですか?」
「そうだよ、つくし。あんた男に興味がないわけじゃないでしょ?ま、まさか女に興味があるなんて言わないでよね!あたしその気はないからね!」
滋は言うと自分の身を守るように胸の前で腕を交差して体を隠す仕草をした。
見た目ボーイッシュな親友の言い分につくしは笑った。
「滋さん!そんなことあるわけないでしょ?」
「それならどうして先輩は殿方とつき合うことを考えないんですか?」
桜子は見た目幼いが年上の親友には昔から親しみを抱いていて先輩と言う呼び名で呼んでいた。
「だ、だって・・男の人とつき合ってなにするのよ?」
「ちょっと、つくし。あんたそれ本気で言ってるの?決まってるじゃない!男と女なんだからすることなんて決まってるでしょ?逆に聞くけど男と女の間で何するのよ?」
滋の言葉に桜子も声を揃えた。
「先輩、いくらそっち方面に疎いからってそこまでカマトトぶると滑稽ですからね?それに先輩だってその年なんですから経験ありますよね?」
桜子の言葉に場が静まり返った。
つくしは手の中のグラスを見つめ、恐らく数秒後には言われる言葉を想像していた。
すると案の定思った通りの言葉を聞かされていた。
「やだ。さまか、あんたまだ処女なの?あの人とどうなったのよ?つき合ってたんでしょ?」
「先輩おつき合いを始めた人がいたんですか?」
つくしは確かにある男性とつき合いを始めた。ところが、そのことを自分で話す前に滋が口を挟んだ。
「桜子、つくしはね、会社の同僚とつき合い始めたのよ、確か・・3ヶ月前だったわよね?」
滋は視線を隣に座るつくしに向けた。
「に、2ヶ月前よ・・でも・・その・・」
つくしは言うと息を吐き、手にしていたグラスをテーブルに置いた。
女同士でいるということは、どうしてこうも明け透けにものを言うことが出来るのか。でもそれは仕方がなかった。お互いの私生活を秘密にしていたというわけでもなかったのだから、知られていても当然だった。
「えっ!もしかして先輩2ヶ月でもう別れたんです?」
年が一つ下の小悪魔女はずばり核心をついてきた。
「そ、そうよ。別れたわよ。悪い?」
つくしにとってはどうでもいい事実だったのでさっさと認めることにした。
「先輩!人は人生の中で出会う人の数ってのは決められているんですよ?もしかしたらその人が先輩の運命の人だったかもしれないのに、どうしてそんなに早く別れたんですか!それにもうこれ以上男性との出会いは見込めないかもしれないのに、どうするんですか!」
「そ、そんなこと言われても、どうしようもない・・」
桜子をやり込められる人間は今までいなかった。
そんな桜子からガミガミと説教をされているつくしは、なかなか口を挟むチャンスがなかったが、なんとか言葉を口にするチャンスを得ると反論したが、見事にやり込められる羽目になっていた。
「何がどうしようもないんですか!別に先輩がイケメン好きだとか、地位も名誉もお金もあるような人が好きだとかって言うなら出会いは限られますけど、大して選り好みもないのにどうしていつまでも彼氏が出来ないんですか!」
「ちょっと・・・桜子。あんた何もそこまで言わなくても。つくしだって一応ね、女なんだし色々あるわけで・・」
チラリとつくしに視線を投げかけた滋は桜子の言葉に押し黙った。
「滋さんはいいですよ?お綺麗ですし、お金もおありです。それに地位も名誉もあるわけですから、一人や二人男性を振ったところで、痛くも痒くもないでしょう。でも牧野先輩はそう言うわけにはいかないんです!御覧のとおり体型も幼いですし、顔は年の割にはまあ可愛いですよ。あたしとは比べものにはなりませんがね。でもこれから先の人生には先立つ物が必要ですからね。いくら先輩が必死で働いて小銭を溜めてマンションを買ったからと言って資産なんかたかが知れてます。この先の老後をどう考えているんです?ちゃんと考えてますか?」
まるで親が子に説教をしているような口ぶりに滋は笑いを堪えながら言った。
「ねえ、桜子。あんたの言い方じゃ、どっかの金持ちの男を掴まえて将来に備えろって言ってるように聞こえるんだけど?」
「別にわたしはそんな意味で言ってるんじゃありません。先輩はそんな小賢しい女じゃないってことはわたしがよく知ってますから。そんなことじゃなくて先輩は周りが言わなかったら男性とつき合うとか考えない人ですからね。そんなんじゃ女として生まれて来た意味がないじゃないですか!」
桜子は自分の熱弁に喉が渇いたのかグラスを煽っていた。
そのタイミングでつくしは口を挟んだ。
「あ、あのね、桜子。あたしは別に経済的余裕が欲しいとかじゃないの。だからそんなに・・」
すると桜子はここぞとばかりに息巻くと言った。
「いいですか?男女の仲なんて水物ですから流れに任せることも大切なんですよ!先輩のことだから、迫られて嫌だなんて言ったんでしょう?いつまでも白馬に乗った王子様が現れるのを待ってるとしたら大間違いですからね。あれはおとぎ話ですからね!王子様を待ってるうちにおばあちゃんになってしまいますからね!」
その通りだ。
わかってる。
つくしの隣にいる小悪魔女はずばり核心をついている。
だからと言って年を気にするあまり恋人探しを焦っているわけでもなかった。
それに2ヶ月とは言えつき合った男性がいたんだし、その人との付き合いが終わったからと言って早々に次の相手というほど、つくしのお尻は軽くなかった。
それに今は彼が欲しいという気持ちもなかった。だからあの男性との付き合いもどこか本気になれなくて、自分から交際するのを止めようと言い出す矢先に相手の男性からやっぱり牧野さんとじゃ恋愛するのは無理だと言われてしまっていた。
そのことを話そうとしたが、そんなつくしよりも先に滋が口を開いた。
「あのね、桜子。ちょっと落ち着いて。つくしは奥手だから男性が間近に迫ってくると緊張しちゃってダメなのよ。この子仕事じゃ男と渡り合うのは全然へっちゃらなのに、なぜかつき合うとなったら変に自分を殻に閉じ込めちゃうって言うのか、女として損してるのよ」
つくしは滋と桜子が自分のことを話している様子を黙って聞いていた。
二人の女性はつくしに男運が無いだの、薄幸だの、このままじゃ牧野つくしの人生はつまらないものに終わってしまうとばかりに言い合っていた。
本人以上に本人のことを心配してくれるのだから、話の内容は別として、親友というのはいいものだ。
すると突然二人は前屈みになり、つくしの膝越しにひそひそと声をひそめたかと思うと唐突に話しを切り、一人はつくしに手を差し伸べて彼女の手を握った。そしてもう一人はつくしの肩に手を置いていた。
「つくし。あたしたち別にあんたに変わって欲しいなんて思ってないからね!あんたにはいいところが沢山あるってことはあたし達が一番よく知ってるからね?それに真面目なところも、男に奥手なところも、それから無頓着なくらい男に興味がないところも。でもそんなつくしが好きだからね?」
「う、うん。ありがとう。それよりも二人ともどうしたの?急に?」
急に真面目なトーンで言葉が返されると、つくしはどうしたのかと訝しがった。
何やらおかしな空気が流れている。そう感じていた。まさかとは思うがこの二人はアルコールが回ってしまっておかしなことを仕出かすのではないかと考えずにはいられなかった。
つくしは滋に握られている手を引き抜こうとしたが無理だった。それに肩に置かれた桜子の手はずっしりと重かった。
逃げることは許さないわよとばかりの行為が意味するものはいったい何なのか?
二人の表情からただならぬ雰囲気が感じられた。
そして滋の口から語られたのは、
「あたしと桜子はそんなあんたに男を紹介することに決めたから安心してよね?つくし!」
だった。
(※)マタ・ハリ=オランダ人の踊り子で第一次世界大戦中に暗躍した女スパイと言われている。また世界で最も有名な女スパイとして知られ、現在でも女スパイの代名詞的存在として使われる。
新連載スタートです。またよろしくお願い致します。

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その真ん中に座る女は、テーブルの上に並べてある皿からチーズをひと切れ手にすると口に入れていた。
「何言ってるんですか先輩!女はこれからですからね!酸いも甘いも嚙分けてこれからいい女目指して一直線じゃないですか!で、幾つになられたんでしたっけ?」
わざとらしく聞く女はつくしより年下の女。
「うわっ!桜子あんた酷いわ。わかってて言わせるんだから。それってセクハラよ?」
「別にわたしは悪意を持って言ってるわけじゃありませんから」
桜子は口の端に笑みを浮かべていた。
彼女得意の不適な笑みは見る者を不安な思いにさせる。何しろ女策士かマタ・ハリ(※)かと言われるほどにその気転と美貌を活用することを怠らない女だ。
「あんたに悪意があるかどうかなんて、あたし達にわかるはずないじゃない?ねえ?つくし?ほら、いいからグラス持ちなさいよ!」
滋はつくしにグラスを握らせると、二人の女性はつくしに向かってグラスを掲げ声を合わせた。
「ほら。いい?せーのっ、かんぱ~い!!」
とりあえずお決まりの乾杯を済ませたつくしは、自分の隣にいる友人に言った。
「33よ。33歳。それが悪い?」
「ええ。もちろん33歳なのはわかってます」
わかっていて言わせるのはこの友人の嫌味なのか?
桜子はさらに口の端を上げてほほ笑んだ。
「先輩はわたしよりひとつ年上なんですから。それよりいいですか?33歳って言ったら女の本厄ですからね?」
桜子はつくしの向う側に座る滋にも視線を向けると言った。
「滋さん!滋さんも先輩と同じなんですからね!いい加減お二人とも早く素敵な殿方を見つけて下さい?優紀さんなんてもうすぐ赤ちゃんが生まれるんですからね?それに厄年に子どもを産むと厄落としになるなんて言われている所もあるくらいですからね!・・と、言ってもお二人とも間に合いそうにありませんよね?」
33歳のうちに子どもを出産しろと言う話ならとてもではないが無理だ。
桜子の言葉にムッとした滋は身を乗り出して言った。
「なによ桜子!あんた自分だってひとつしか年が変わらないくせに!」
「あら、わたしはいつでも結婚出来ます。でも敢えてしないんです。出来ないんじゃなくて、しないんです。しない選択をしたんです。でもお二人はそうじゃありませんよね?」
一瞬言葉に詰まった滋は桜子に対抗するように言い放った。
「桜子、あんたねぇ。女の33なんて女性として最盛期じゃないの!今どきの30そこそこの女を掴まえて売れ残りみたいに言うのやめてよね?」
まるで女は30を境にしてあとは坂を下って行くような言い分に滋はムッとしていた。
だが桜子の口調にどれほど嫌味が含まれていても、それが決して好戦的でないことは知っていた。
「でもそうじゃないですか?まあ滋さんが努力してるのは認めますよ?それに滋さんクラスの人間がそう簡単にお相手を決めることが出来なのもわかります。なにしろ滋さんは大河原財閥のお嬢様で跡取りなんですから。お婿さんを取るんですよね?」
桜子はテーブルに置かれているボトルから新しい水割りを作ると滋に手渡した。
礼を言って受け取った滋はひと口飲むとソファにもたれかかった。
「今どき婿を取るってのもねぇ。そりゃ大河原の名前を残したいから、出来れば婿に来てくれる人がいいんだけどね」
「わかりました。滋さんは努力してるってことですよね?でも・・」
桜子と滋は自分たちの間に挟まれているつくしに視線を向けた。
「牧野先輩は努力とかしてませんよね?」
「そうだよ!つくしは全然してない!」
滋はすぐさま同意を示した。
まるで桜子の執拗な問いかけをかわすことが出来るとばかり、つくしに話しの鉾先を向けた。
そして二人の女の視線は自分たちの間に座ってグラスを煽る友人を見ていた。
「ちょっとつくし?聞いてる?あんたのことよ?」
つくしは親友たちの言葉は耳に入っていたが、答えるつもりはなかった。
恋なんてしなくても生きていける。そう思っていた。
「牧野先輩聞いてますか?いつも言いますけど男の人とつき合いたいとか考えないんですか?」
「そうだよ、つくし。あんた男に興味がないわけじゃないでしょ?ま、まさか女に興味があるなんて言わないでよね!あたしその気はないからね!」
滋は言うと自分の身を守るように胸の前で腕を交差して体を隠す仕草をした。
見た目ボーイッシュな親友の言い分につくしは笑った。
「滋さん!そんなことあるわけないでしょ?」
「それならどうして先輩は殿方とつき合うことを考えないんですか?」
桜子は見た目幼いが年上の親友には昔から親しみを抱いていて先輩と言う呼び名で呼んでいた。
「だ、だって・・男の人とつき合ってなにするのよ?」
「ちょっと、つくし。あんたそれ本気で言ってるの?決まってるじゃない!男と女なんだからすることなんて決まってるでしょ?逆に聞くけど男と女の間で何するのよ?」
滋の言葉に桜子も声を揃えた。
「先輩、いくらそっち方面に疎いからってそこまでカマトトぶると滑稽ですからね?それに先輩だってその年なんですから経験ありますよね?」
桜子の言葉に場が静まり返った。
つくしは手の中のグラスを見つめ、恐らく数秒後には言われる言葉を想像していた。
すると案の定思った通りの言葉を聞かされていた。
「やだ。さまか、あんたまだ処女なの?あの人とどうなったのよ?つき合ってたんでしょ?」
「先輩おつき合いを始めた人がいたんですか?」
つくしは確かにある男性とつき合いを始めた。ところが、そのことを自分で話す前に滋が口を挟んだ。
「桜子、つくしはね、会社の同僚とつき合い始めたのよ、確か・・3ヶ月前だったわよね?」
滋は視線を隣に座るつくしに向けた。
「に、2ヶ月前よ・・でも・・その・・」
つくしは言うと息を吐き、手にしていたグラスをテーブルに置いた。
女同士でいるということは、どうしてこうも明け透けにものを言うことが出来るのか。でもそれは仕方がなかった。お互いの私生活を秘密にしていたというわけでもなかったのだから、知られていても当然だった。
「えっ!もしかして先輩2ヶ月でもう別れたんです?」
年が一つ下の小悪魔女はずばり核心をついてきた。
「そ、そうよ。別れたわよ。悪い?」
つくしにとってはどうでもいい事実だったのでさっさと認めることにした。
「先輩!人は人生の中で出会う人の数ってのは決められているんですよ?もしかしたらその人が先輩の運命の人だったかもしれないのに、どうしてそんなに早く別れたんですか!それにもうこれ以上男性との出会いは見込めないかもしれないのに、どうするんですか!」
「そ、そんなこと言われても、どうしようもない・・」
桜子をやり込められる人間は今までいなかった。
そんな桜子からガミガミと説教をされているつくしは、なかなか口を挟むチャンスがなかったが、なんとか言葉を口にするチャンスを得ると反論したが、見事にやり込められる羽目になっていた。
「何がどうしようもないんですか!別に先輩がイケメン好きだとか、地位も名誉もお金もあるような人が好きだとかって言うなら出会いは限られますけど、大して選り好みもないのにどうしていつまでも彼氏が出来ないんですか!」
「ちょっと・・・桜子。あんた何もそこまで言わなくても。つくしだって一応ね、女なんだし色々あるわけで・・」
チラリとつくしに視線を投げかけた滋は桜子の言葉に押し黙った。
「滋さんはいいですよ?お綺麗ですし、お金もおありです。それに地位も名誉もあるわけですから、一人や二人男性を振ったところで、痛くも痒くもないでしょう。でも牧野先輩はそう言うわけにはいかないんです!御覧のとおり体型も幼いですし、顔は年の割にはまあ可愛いですよ。あたしとは比べものにはなりませんがね。でもこれから先の人生には先立つ物が必要ですからね。いくら先輩が必死で働いて小銭を溜めてマンションを買ったからと言って資産なんかたかが知れてます。この先の老後をどう考えているんです?ちゃんと考えてますか?」
まるで親が子に説教をしているような口ぶりに滋は笑いを堪えながら言った。
「ねえ、桜子。あんたの言い方じゃ、どっかの金持ちの男を掴まえて将来に備えろって言ってるように聞こえるんだけど?」
「別にわたしはそんな意味で言ってるんじゃありません。先輩はそんな小賢しい女じゃないってことはわたしがよく知ってますから。そんなことじゃなくて先輩は周りが言わなかったら男性とつき合うとか考えない人ですからね。そんなんじゃ女として生まれて来た意味がないじゃないですか!」
桜子は自分の熱弁に喉が渇いたのかグラスを煽っていた。
そのタイミングでつくしは口を挟んだ。
「あ、あのね、桜子。あたしは別に経済的余裕が欲しいとかじゃないの。だからそんなに・・」
すると桜子はここぞとばかりに息巻くと言った。
「いいですか?男女の仲なんて水物ですから流れに任せることも大切なんですよ!先輩のことだから、迫られて嫌だなんて言ったんでしょう?いつまでも白馬に乗った王子様が現れるのを待ってるとしたら大間違いですからね。あれはおとぎ話ですからね!王子様を待ってるうちにおばあちゃんになってしまいますからね!」
その通りだ。
わかってる。
つくしの隣にいる小悪魔女はずばり核心をついている。
だからと言って年を気にするあまり恋人探しを焦っているわけでもなかった。
それに2ヶ月とは言えつき合った男性がいたんだし、その人との付き合いが終わったからと言って早々に次の相手というほど、つくしのお尻は軽くなかった。
それに今は彼が欲しいという気持ちもなかった。だからあの男性との付き合いもどこか本気になれなくて、自分から交際するのを止めようと言い出す矢先に相手の男性からやっぱり牧野さんとじゃ恋愛するのは無理だと言われてしまっていた。
そのことを話そうとしたが、そんなつくしよりも先に滋が口を開いた。
「あのね、桜子。ちょっと落ち着いて。つくしは奥手だから男性が間近に迫ってくると緊張しちゃってダメなのよ。この子仕事じゃ男と渡り合うのは全然へっちゃらなのに、なぜかつき合うとなったら変に自分を殻に閉じ込めちゃうって言うのか、女として損してるのよ」
つくしは滋と桜子が自分のことを話している様子を黙って聞いていた。
二人の女性はつくしに男運が無いだの、薄幸だの、このままじゃ牧野つくしの人生はつまらないものに終わってしまうとばかりに言い合っていた。
本人以上に本人のことを心配してくれるのだから、話の内容は別として、親友というのはいいものだ。
すると突然二人は前屈みになり、つくしの膝越しにひそひそと声をひそめたかと思うと唐突に話しを切り、一人はつくしに手を差し伸べて彼女の手を握った。そしてもう一人はつくしの肩に手を置いていた。
「つくし。あたしたち別にあんたに変わって欲しいなんて思ってないからね!あんたにはいいところが沢山あるってことはあたし達が一番よく知ってるからね?それに真面目なところも、男に奥手なところも、それから無頓着なくらい男に興味がないところも。でもそんなつくしが好きだからね?」
「う、うん。ありがとう。それよりも二人ともどうしたの?急に?」
急に真面目なトーンで言葉が返されると、つくしはどうしたのかと訝しがった。
何やらおかしな空気が流れている。そう感じていた。まさかとは思うがこの二人はアルコールが回ってしまっておかしなことを仕出かすのではないかと考えずにはいられなかった。
つくしは滋に握られている手を引き抜こうとしたが無理だった。それに肩に置かれた桜子の手はずっしりと重かった。
逃げることは許さないわよとばかりの行為が意味するものはいったい何なのか?
二人の表情からただならぬ雰囲気が感じられた。
そして滋の口から語られたのは、
「あたしと桜子はそんなあんたに男を紹介することに決めたから安心してよね?つくし!」
だった。
(※)マタ・ハリ=オランダ人の踊り子で第一次世界大戦中に暗躍した女スパイと言われている。また世界で最も有名な女スパイとして知られ、現在でも女スパイの代名詞的存在として使われる。
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子持**マ様
新しく連載をスタート致しました^^
今回の司くんはどんな感じで絡んで来るのでしょうねぇ。
恋する司となるのでしょうか!(笑)
どんな坊ちゃんなのでしょうねぇ・・(*^-^*)
またおつき合いを頂けるようなお話になるといいのですが・・
拍手コメント有難うございました^^
新しく連載をスタート致しました^^
今回の司くんはどんな感じで絡んで来るのでしょうねぇ。
恋する司となるのでしょうか!(笑)
どんな坊ちゃんなのでしょうねぇ・・(*^-^*)
またおつき合いを頂けるようなお話になるといいのですが・・
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2016.11.07 22:54 | 編集

み*み様
アラサー女3人の会話から始まりました(笑)
こんな会話も大人の女が3人揃うとありそうです。
今回の司はどんな彼なのでしょうねぇ(笑)
大人の二人のロマンス‥‥予定です^^
拍手コメント有難うございました^^
アラサー女3人の会話から始まりました(笑)
こんな会話も大人の女が3人揃うとありそうです。
今回の司はどんな彼なのでしょうねぇ(笑)
大人の二人のロマンス‥‥予定です^^
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2016.11.07 23:07 | 編集

さと**ん様
はい。厄年から始まる大人の恋♡です^^
33歳。
そうですねぇ。散々と語呂合わせをされますねぇ(笑)
そこを「燦々」と輝く恋に・・
お見事です!さすがさと**ん様!
輝く恋にして・・あげたいと思います^^
コメント有難うございました^^
はい。厄年から始まる大人の恋♡です^^
33歳。
そうですねぇ。散々と語呂合わせをされますねぇ(笑)
そこを「燦々」と輝く恋に・・
お見事です!さすがさと**ん様!
輝く恋にして・・あげたいと思います^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.11.07 23:18 | 編集

司×**OVE様
こんにちは^^
新連載スタートしました。
桜子。毒舌全開でしたね(笑)確かに桜子はつくし命なのに、どうしてああなのでしょうね?(笑)
愛情の裏返しなのでしょうが、つくしが落ち込むことを平気で口にしてますねぇ。
さて、こちらのアラサー女3人組の会話。面白かったですか?(笑)桜子の小悪魔発言炸裂でしたねぇ。
今回の司はどんな彼なのか・・いい男だと思いますよ?
日曜のエロ坊ちゃん。お休みしました。これから少し忙しくなりそうでして、そちら方面の頭が働きませんでした(笑)
「愛は果てしなく」の司はシリアスな彼ですので、御曹司の後だとギャップがあり過ぎですね?(笑)
笑って泣いてと忙しくして頂きありがとうございます。
またこちらのお話もおつき合い頂けるといいのですが・・
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
新連載スタートしました。
桜子。毒舌全開でしたね(笑)確かに桜子はつくし命なのに、どうしてああなのでしょうね?(笑)
愛情の裏返しなのでしょうが、つくしが落ち込むことを平気で口にしてますねぇ。
さて、こちらのアラサー女3人組の会話。面白かったですか?(笑)桜子の小悪魔発言炸裂でしたねぇ。
今回の司はどんな彼なのか・・いい男だと思いますよ?
日曜のエロ坊ちゃん。お休みしました。これから少し忙しくなりそうでして、そちら方面の頭が働きませんでした(笑)
「愛は果てしなく」の司はシリアスな彼ですので、御曹司の後だとギャップがあり過ぎですね?(笑)
笑って泣いてと忙しくして頂きありがとうございます。
またこちらのお話もおつき合い頂けるといいのですが・・
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.11.07 23:37 | 編集

マ**チ様
おおっ!今夜は早いではないですかっ!はっ!もしや同盟解散?|д゚)
新連載スタートしました^^アウトレットの皆さんもざわついている・・!!
そうです坊ちゃん。もちろんそうですよね?西田さん、どうして貴方まで名乗り出るんですか!(笑)
他の皆さんもお控え下さい。こちらのお話しの主役はあくまでも司とつくしですからね?
しかし、執務室でF3の皆さんも読んで下さっていたとは!光栄です。
彼らの会話はありそうですね?実に活発な会話に坊ちゃんもイライラしていらっしゃいましたね(笑)
そのイライラを解消して頂けるようなお話にしたいと思います。
アウトレットの皆様、いつもありがとうございます。皆さんに応援してもらえてアカシア蜂蜜も喜んでいます!
そしてマ**チ様、楽しいお話をありがとうございました^^アカシアも楽しんで頂けるように頑張ります!
コメント有難うございました^^
おおっ!今夜は早いではないですかっ!はっ!もしや同盟解散?|д゚)
新連載スタートしました^^アウトレットの皆さんもざわついている・・!!
そうです坊ちゃん。もちろんそうですよね?西田さん、どうして貴方まで名乗り出るんですか!(笑)
他の皆さんもお控え下さい。こちらのお話しの主役はあくまでも司とつくしですからね?
しかし、執務室でF3の皆さんも読んで下さっていたとは!光栄です。
彼らの会話はありそうですね?実に活発な会話に坊ちゃんもイライラしていらっしゃいましたね(笑)
そのイライラを解消して頂けるようなお話にしたいと思います。
アウトレットの皆様、いつもありがとうございます。皆さんに応援してもらえてアカシア蜂蜜も喜んでいます!
そしてマ**チ様、楽しいお話をありがとうございました^^アカシアも楽しんで頂けるように頑張ります!
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.11.07 23:54 | 編集

ぴ*様
アラサー女が3人集まれば、こんな会話もあることでしょう(笑)
桜子の毒舌全開となりましたねぇ。
一応大人の恋。ロマンスのお話なので楽しいと思います^^
拍手コメント有難うございました^^
アラサー女が3人集まれば、こんな会話もあることでしょう(笑)
桜子の毒舌全開となりましたねぇ。
一応大人の恋。ロマンスのお話なので楽しいと思います^^
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2016.11.08 00:01 | 編集
