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2016
09.26

恋人までのディスタンス 37

今まで掲げられていた看板は『オフリミット』。立ち入り禁止の看板だった。
はじめての相手は夫がいいというタイプ。
男と深い関係になったことがないという女は、適齢を過ぎた処女だが知的で独立心が旺盛だ。
ハリネズミの様に針を身に纏っていた女は、今では複雑な動きを見せる台風のような女に見えてきた。

差し詰めまだどっちの方向に行けばいいのか迷っているといった感じだ。
それは俺と牧野つくしとの関係の行方だ。


そんな女はレストランの奥にある個室にいる。
一歩前に進むのにどれだけ時間がかかるのかというくらいの奥手の女。
だがそんな女の扱いにも慣れてきた。
自分の気持に素直になれ。と友人に言われてからの女は、二人で何かする時間というものを理解するようになっていた。そんな時間が増えてくれば、自ずと気安さというものが感じられるようになって来るから不思議だ。

自分の気持に素直になる。
そのためには時間も空間も必要だということだ。
だからレストランの個室を用意した。
俺とつき合うと言った牧野。
そう決めたのは松岡のことが解決した、ということもあったと言った。相変わらず素直じゃないその言い方に、そこがこいつらしいと思いながらその言葉を受け入れた。


「い、言っときますけどね?愛情とセックスは同義語じゃないの」

経験のない女の物言いにしては随分と大胆な発言だ。
どうしてこんな話しになったのか?それは愛情を感じた相手とならすぐに寝れるかというとこから始まっていた。初めは当たりさわりのない話しだったが、松岡の話しからこんな話題になっていた。

「まきの・・おまえはどうしてそんなに・・」

司はクッと笑うと仕方がないなという表情を浮かべた。
この女の突拍子もない発言にはいつも笑わされていたからだ。
いくらこの女が知ったようなことを言っても処女が何をと笑いたくなっていた。

「まあいい。おまえのそんな杓子定規な考えには慣れたが、男の〝好き〟と〝欲しい〟は別のものだからな。俺はおまえが好きだ。いいかそこを間違えるな?おれは色んな意味でおまえが好きだ。好きならその女の全てが欲しくなるのが男だ。それにつき合ってる相手と寝たいって思うのは、相手のことを知りたいってことがある。相手との距離を近づけたい。そう思うからだ」

30代の男女ともなれば、あけすけな話しも出来るというところが面白いところだ。
もちろん相手にもよるが、牧野が相手の場合はまるで恋愛の初心者講習会の様相だ。

「い、色んな意味ってどういう意味?」

つくしは今までこんなに男性を意識したことがなかったのだからわからなかった。
しかし相手は道明寺司だ。女なんていくらでも選べる男が色んな意味でというからには、他人には無い何かが自分にはあるのかと思わざるを得ない。それを面と向かって聞くのだからつくしにだって相当な勇気のいることだった。

「色んな意味か?」

司は女がずる賢いところや、噂話が好きな女は嫌いだ。
今、彼の目の前に座って美味そうにメシを食ってる女はそんな女ではない。
だから牧野つくしといるのが楽しかったし話しをするのが好きだった。
だがそれだけではないことは確かだ。

「俺は頭のいい女が好きだといったが、勉強が出来るとかそう言った意味じゃない。
俺もなんでおまえが好きなんだって自分でも考えたが、おまえは自分を隠すことはしない。だから考えていることがすぐに顔に出る」

それがいいことなのか、悪いことなのかと言われても困るが、裏表がない人間だということを認めていた。

司に近づいて来る人間は男女問わず皆下心がある。彼にとってそんな人間は鬱陶しいだけだ。金や権力というものは多くの人間を惹きつけるが、心が安らげるような人間に出会うことはなかった。どちらにしても魑魅魍魎がうごめくと言われるビジネスの世界で本心を見せるような人間は生き残れるはずもなく、如何に上手く仮面を被って生きて行くかが重要だ。だからこそ牧野つくしのように裏表のない人間に出会えたことはある意味司にとっての驚きだった。

「おまえは裏表のない人間だ。ただし、素直じゃねぇけど。初めの頃の俺たちの間にあるものは、男と女以外だとしたら、おまえの的外れな思い込みだけだったか?まあ、そんな的外れな結果で俺たちは知り合ったわけだが、これが俺とおまえの運命だと思わねぇか?運命には逆らえないって言うだろ?」

道明寺司は運命論者だったのか?

「言っとくが俺は真剣な関係を求めてる」

その口ぶりは真剣そのものだ。

「ただ、ひとつ言わせてもらえば、おまえの欠点は臆病だということだ。だけどそれはこの前の冒険でひとつ克服したんじゃないのか?」

まるでつくしの心を読み取ったかのような発言。
それはスカイダイビングだ。
危険だと言われる空のスポーツに挑戦してみた。
人は何か大きなことを成し遂げれば、そのことが自信となって自分に返ってくる。
つくしはスカイスポーツのひとつに挑戦したことで、どこか気持ちが吹っ切れていた。だからこうして道明寺と向き合うことに決めたはずだ。心境の変化とでもいうのだろうか。
あの空の旅は物の見方を変えたと同時に、自分にも新しい何かに挑戦できるんだという自信をつけさせてくれたはずだ。

「うん。空を飛んだとき、あたしにも新しい何かに挑戦できるんだってことがわかったの」

あの挑戦はつくし自身への挑戦だったはずだ。
つくし、あなたいつまで退屈な人生を送るの?
そんなことが頭を過ったからこそ選んだ冒険だろう。
新しいなにかに挑戦したい。そう考えたからだ。

「なあ。牧野。おまえの言う新しいってなんだ?今言った新しい言葉の定義を教えてくれないか?」
「あ、あたしの?」
「ああ。おまえの言う新しいってのは、いったいなんだ?」

司は言わせたかった。『新しい何か』がなんなのかを。
素直じゃない女には自ら口に出すことが必要だ。
新しい何かを自己認識をさせることこそ、これから先へ物事が進んで行くときに必要となるはずだ。

「あ、新しい?」
「そうだ。おまえの言う新しいの定義はなんなんだ?」


思えばいつからか、道明寺に対しては無防備だった。
いつも現実に立ち向かっていたから冒険なんてもう必要ないと思っていたけどもしかしたら、あたしの次の冒険になるかもしれない・・

新しい何かに挑戦できるかもしれない。

そう思ったつくしは、迷わなかった。

「あ、あたし。道明寺と恋がしたいの」







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コメント
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dot 2016.09.26 18:52 | 編集
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dot 2016.09.27 01:08 | 編集
子持**マ様
やっと二人の関係に進展が望めそうですね。
頑張れ坊っちゃん!!
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.27 01:25 | 編集
司×**OVE様
やっとつくしが司に堕ちてくれました!
本当に長かったですね(笑)ダイビングしたことで何かを吹っ切ったようですね。
どんな恋を始めてくれるのでしょうか?甘々の司の言葉。ぜひ言って頂きたいですね?(笑)
仕事中に顔が緩む(笑)・・そ、それは御曹司様のようです。
いつもお心遣いありがとうございます。1か月が経つのが早いですねぇ・・
月末ラストウィークです(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.09.27 01:34 | 編集
マ**チ様
「道明寺と恋がしたい」ついに言いました。その気になればすぐにでもOKですよねぇ。
ハリネズミの冒険は続くようですが、迷走台風のようなところもあるようです。
心の準備は整いましたが、体の準備は・・もうっ!(笑)それは御曹司です!(笑)
マ**チ様Ver.の3人の中でまともなのは司だけになってしまったようですが、暴走西田がどのようなことをするのかが、非常に楽しみです。確かに司の幸せ次第で道明寺HDの株価に影響が出て来るかもしれません。大きな会社ですから多方面に影響を与える恐れが・・・道明寺HDの株価。今はどれくらいでしょう・・(笑)本日アカシアも同盟参加中です!万歳!
ですが、そろそろおやすみなさいませ。コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.27 01:45 | 編集
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