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2016
06.28

大人の恋には嘘がある 32

「牧野さんちょっと来て」
「えっ?あの・・なに?どうしたの?待って・・」

二人の女性が左右からつくしに襲いかかった。両側から腕をがっちりと掴まれ問答無用とばかり連れて来られた場所は休憩室。窓際にあるテーブルだ。

会社同士の交流会で道明寺司が牧野つくしにキスをした。
それも大勢の人間の前で派手に抱き合ったらしい。
翌日の会社はその話しで持ち切りだった。つくしの勤める会社からもあの交流会への参加者がいたらしく、いつの間にか広がっていた話。

二人の女性は目の前に座るつくしをまじまじと見つめている。ひとりは年上の女性で川本と言い、もうひとりはつくしと年が変わらない中原だ。
入社以来、気が合った中原とつくしは、よくここで一緒にコーヒーを飲んだりお昼を食べたりしていた。年上の川本からはつくしのチューター(指導者)として1年間仕事についての指導を受けた。が、やはり気が合ったのか親しくしていた。
そんな二人に掴まったつくしは逃げられないと諦めた。



「つくしってやっぱり道明寺さんとおつき合いしてたのね?」と中原は目を輝かせた。

「なんとなく社内で噂はあったから、どうなのかなって思ってたのよ?だってつくしのおかげでうちの会社って道明寺ホールディングスと契約してもらえたわけだし・・」
中原と川本は目を見かわした。

「ねえ?牧野さん。本当はどうなの?」

「そうよ、つくし教えなさいよ?いつの間にそんな関係になってたの?ねえ、道明寺さんってどんな人なの?やっぱり本物はかっこいいんでしょ?」と中原は息をはずませた。

「でも人は見かけによらないって言うの?まさか牧野さんがねぇ・・羨ましいわ。あの道明寺さんだなんて」年上の川本は目をとろんとさせている。

「あたし、年下でも全然構わないわ。でもうちには澤田さんって言うニューヨーク帰りのいい男もいるし・・どっちも捨てがたいわ・・」

「そう言えば・・昨日澤田さんも交流会には行ってたらしいわね?でもそんなことよりももっと凄いことがあるんですよ?つくしは知ってたの?つくしはニューヨークで澤田さんと仕事してたのよね?」
中原は身を乗り出して興奮したように言った。

「澤田さんって澤田ホールディングスの澤田さんだったんだって!驚いたわよね?でも澤田さんってどこか違うって思ってたけど、財閥の御曹司だなんて思ってもみなかった」

ここだけの話しですけどね、と前置きした中原は、耳を貸せと合図をするとひそひそ声で言葉を継いだ。

「澤田さんってゆくゆくは代議士のお父様の地盤を継いで選挙に出るらしいですよ?」

「えっ!じゃあ会社辞めちゃうの?」

「川上さん、声が大きいですっ!」

中原はシーッと言って人差し指を口に当てると休憩室を見まわした。他にも何人かの社員がコーヒー片手に談笑している姿があったが、誰も3人を見ている様子はなさそうだ。

「それよりも、今はつくしと道明寺さんの話しですってば!」
中原の視線がつくしに向けられた。

「ねえつくし、道明寺さんとは・・そういう関係なの?いつからつき合ってるの?結婚は考えてるの?」
中原と川上の表情はつくしが質問に答えるまでここからは帰さないからと言っていた。

矢継ぎ早の質問につくしはなんと答えればいいのか迷った。
しらを切るか、認めるか、はたまた何か理由を見つけて弁明するか。
どちらにしても、何か答えなければとても解放してもらえるとは思えなかった。
ただ質問されただけなのに、昨日のことを思い出して顔が赤らんだ。

「でも一度でいいから、道明寺さんに抱かれてみたいわ・・ねぇ牧野さん道明寺さんってどんな感じなの?」
川上の言葉に恥じらいもなく頷く中原。

「わたしも抱かれたい!道明寺さんの裸・・もう、川上さんやめて下さいよ?想像しちゃうじゃないですか?」

「ちょっと中原ちゃん!スーツの下の体なんて想像出来るの?裸よ?裸!でも胸板なんて厚くって触ると硬いに決まってるわ」
中原と川上は顔を輝かせながら話している。


「道明寺はいい体してる・・・」
中原と川上は口をつぐむと黙り込んだ。

つくしは二人の視線に戸惑った。

「・・・あたし・・何か言った?」
「・・・つくし・・あんた相変らず心の声が漏れてるんだけど・・」
「なに?何か言った?」
「う・・ん・・」
「なに?なんて言ったの?」
「うん・・道明寺さんいい体してるって・・」







****








交流会でのささやかな対決のあと、司は写真週刊誌に二人がキスをしている写真が載ったことを知った。
参加者の誰かが写した写真が流れ出ただろうと言うことは容易に推測出来た。
本来ならそんな写真は握りつぶし、週刊誌に載ることは絶対にないがわざと載せるように仕向けた。

牧野が自分のものだと世間に分からせるためになるなら、それでもいいと思っていたからだ。まあ、あいつは迷惑かもしれないが、いいじゃねぇかよ。この写真じゃ正直なところ顔はわかんねぇんだし、名前も出てない。司はかすかにほほ笑んでいた。冷静に写真を見ながらも顔は満足そうだ。この写真はひとりの男にだけわかりゃいいんだ、あの澤田だけにな。
それより思ったよりよく撮れている。スーツの襟をつかんでるところなんてあいつが俺を引き寄せてキスをねだっているように見える。
澤田をうまく片づけたと思ったが、あの男キスぐらいで諦めるかと言い放ってきた。
司は鼻で笑っていた。
牧野の気持ちは俺に向いてるってのに、あんな男に今さら何が出来るっていうんだ?

司はあのとき、つくしの腰に手を回し、余裕の足取りで会場を後にした。
背中に感じたのはあの男の悔しそうな視線だけだったはずだ。それにこの写真だ。
あの男には人の女に手を出そうだなんて考えは、いい加減にしろと言ってやったつもりだ。


「副社長。よろしいですか?」
西田の声が聞え、司は思考を切り替えた。

「なんだよ?」不機嫌そうに答えた。

「副社長、そんな目でわたくしを見ないで下さい」

「・・ったく、俺がどんな目でおまえを見ようが関係ねぇだろ?」

「それは仰るとおりなんですが、牧野様のことを考えていらっしゃると目つきがお優しくなられるようですのでお立場上、もう少し気を引き締めて頂きませんと示しがつきません」

「余計なお世話だ。いちいちおまえに言われたくねぇよ」
声は笑を含んでいた。

司はつくしと澤田智弘とのことを西田に話していた。週刊誌の件も西田に裏から手をまわして、大々的に載せるようにさせていた。
「まあ、好きな女性が出来た男はたいていそのようなものですが」
西田は言葉を切ると「ニューヨークから社長がいらっしゃるそうです」と、ビジネスライクに言い切った。

「社長が?」司がぐっと顎を引き締めた。

「はい」

「何しに来るって?」

「東京支社の御視察だそうです」








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コメント
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dot 2016.06.28 19:29 | 編集
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dot 2016.06.28 20:50 | 編集
co**y様
こんばんは^^
1R目は坊ちゃん勝ちのようです。
この楓さん、どんなお母様なのでしょう・・
司坊ちゃんと母親の関係はどうなっているのか。
これから明らかになる・・と思います。
イギリス・・どうするんでしょうね?と言いますか、何がしたいんだ!と言いたいです。
こんなことになるなら国民投票なんてしなきゃよかったと皆後悔しているようですね?
ええ、元はと言えばキャメロンさんが悪いんです。でも国民投票をすると公約したので仕方ないですよね?
不確定要素満載ですよね?どこに転がって行くのか分かりませんよね?
まさにあの国を代表するバンド、ロー*ング・ス*ーンズの名の如く転がって行きそうですね。
ウェールズは独立しても成り立つのかどうかと思いますが、そんなことになったらチャー*ズ皇太子の
お名前はプリンス・オブ・ウェールズではなくなるのでしょうか?
うーん、目が離せません(@_@。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.28 23:40 | 編集
chi***himu様
こんばんは^^
司くんの反撃、まずは彼の勝利だったと思います。
週刊誌にわざと載せてみるとか普段なら絶対しないようなことも、つくしちゃんを我が物にするためには手段として使いました。
取りあえず澤田を牽制してみたようです。この司は強気でストレートで自信家ですが、つくしちゃんには弱いようです。
惚れた女には弱いんですよね・・・なかなか手も出せないようですし・・思わず既成事実はまだだと言って後悔です。
澤田さん、まだ頑張ると思います!これで引き下がるようでは男じゃないです!←え?どっちの味方なのか・・(笑)
週半ばですねぇ。雨が降るなか出勤は大変ですよね。ええ、あと3日頑張りましょう!
こんなサイトでも楽しみにして頂けるなんて本当に嬉しいです。夜な夜な会いに来て下さいませ。
わたしもこの時間に夜な夜な書いてます(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.28 23:52 | 編集
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