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2016
06.15

大人の恋には嘘がある 25

「久しぶりだな。3年ぶりか?」

どこかで聞いたセリフだった。
そうだ、道明寺に再会したときも同じことを言われたっけ。
片手を軽く上げて挨拶をしてきたのはニューヨーク時代の同僚だった男性。

「澤田さん!」
「牧野、元気そうじゃないか?」
「え?澤田さん、どうして・・?ご出張ですか?」
「どうしてって聞いてないのか?」
澤田の視線は重森に向けられた。
「海外勤務はもう終わり。東京に戻してくれって頼んだんだよ」
「そうなんですか?え?でも・・」
重森にまあ腰かけなさいと言われ、つくしは澤田の隣の椅子に腰かけた。


つくしはどうして澤田が東京に帰ってきたのか、もったいないと思った。
澤田は都内の有名国立大学を卒業し、ハーバードビジネススクールでMBAを取得している。ニューヨークでもハーバードで培った人脈を生かして精力的に仕事をこなしていたし、
知識と経験に裏打ちされた的確な判断が出来る人で、賢いと呼ばれるようなタイプの人間だ。
それにつくしと違って任された仕事で失敗したことがなく優秀だ。
背も高く180センチくらいはあるはずで、誰が見てもハンサムと思える男性で世間が言う女が放っておかないと言われるような美丈夫だ。身に着けているものだって上品で良質でまさに投資価値があるような服装をしている。
つくしはよく知らないが澤田はニューヨークでも女性からモテたはずだ。


「澤田君は海外で仕事をしているのが性に合っているかと思っていたが、そろそろ日本が恋しくなったのか?」
「ええ。まあそうですね。それもあるんですが・・」
澤田はぎこちない返事をするとつくしへ視線を移した。
「なにか他にもあるのか?」
「国内の方が気が楽というか、心が和むというか。それに向うで任されていた仕事も片が付きましたし、そろそろかと思いまして」
「君の言うそろそろが何なのか気になるね」重森はつくしへ視線を移すと言葉を継いだ。
「そろそろってのは結婚を考えているってことなのか?」
男二人の視線はちらちらとつくしを見ては何かを確認しあっているようだ。

「部長、いきなりですね?ですがそれは相手があってのことですので、僕の考えだけでなんとかなると言うものではありませんから」

「ああ。確かにそのとおりだ」重森は頷いた。
「それに結婚ってのは本人だけの問題じゃないからな」

「僕も私生活をなげうって仕事ばかりするのも、そろそろ疲れてきましてね」
視線は相変わらずつくしに向けられたままだ。

「澤田君はまだ若いじゃないか。疲れるだなんて私くらいの年の人間が言うならまだしも、君、今いくつだ?」

「33です」

「なんだ、今が一番仕事に力が入る年じゃないか。たしか・・牧野君も同じくらいの年齢だったな?」
二人の視線がつくしに向けられた。

「え?あ、はいそうです」

二人が話している間に考えていたことは澤田さんが結婚を考えている相手は誰かということで占められていた。もしかしてニューヨーク時代の自分も知っている人なのだろうか?
つくしは澤田のひとつ下だ。だがつくしが入社したとき澤田はすでに海外勤務で東京にはおらず、顔を合わせたのはニューヨークへ赴任してからだ。もしかしてアメリカ人?
サンディとかルーシーとか?他に誰がいた?

「サンディもルーシーも違うよ」

「えっ?」

「牧野、呟いてた」
と笑いながら言いい
「相変らずなんだな、おまえは」と真顔で言った。

重森が、澤田とつくしの間にせわしなく視線を往復させ、何か言おうと口を開きかけたとき、ノックの音がした。

「失礼します。部長お話中のところ申し訳ないんですが・・」
入ってきた女性はちらちらと澤田を見ながら重森にメモを手渡した。

「さて、どうやら上からお呼びがかかったようだから行かなくては」
時計を見ながら重森が椅子から腰をあげた。

「重森部長、久しぶりの東京ですが、これからまたよろしくお願いします」
「ああ。澤田君が帰ってきてくれて助かるよ。なにしろうちは道明寺ホールディングスのコンサルタント業務を請け負ったんでね。君くらいの男じゃないと道明寺副社長に申し訳ないからね」

「え?あ、あの部長、澤田さんって道明寺ホールディングスの担当になるんですか?」

重森は澤田に目を向けたあとつくしに目を向けた。
「ああ。そうなんだよ。澤田君はこの度課長職で道明寺の担当になったんだ。牧野君は・・副社長専任だが・・」
重森は考え込むような顔になった。
「君を呼んだのは他でもない。今日は道明寺副社長のところへ行くんだよね?副社長のアポだが法人営業の方では取れそうにないんだよ。なにしろお忙しい方だから。だからね、悪いんだけど今日澤田君を一緒に連れて行って紹介してくれないか?」






***






司は男の顔を食い入るように見た。
「で、誰だよこの男は?」
「ど、道明寺副社長、こちらはこの度御社の担当になりました澤田です」
「道明寺副社長、はじめまして。この度、御社の担当になりました法人本部第二事業法人部の澤田と申します」

つくしは重森に頼まれ澤田を連れて司の執務室を訪ねたが、挨拶を済ませソファに腰かけた途端に恐ろしいほどの沈黙に見舞われた。
はじめて会う人間と打ち解けろとは言わないが、道明寺のこんなにもよそよそしい雰囲気ははじめてではないだろうか。

どういうわけか、二人の男は狭い檻の中に入れられた雄ライオンのように近距離で睨み、威嚇しあっているように見える。
一頭は大きな集団を率い、リーダーとして統率力があるライオンで、もう一頭は個人プレーが得意で群れをつくるのを嫌う孤高のライオンといった感じだ。どちらも自分に自信があり、攻撃力もあり瞬発力もある。
体が沈み込みそうになるソファに背筋をしゃんと伸ばして座っているだけでも大変なのに、身じろぎするとこの均衡が破れてしまい、牙を剥きだしにして襲いかかりそうな雰囲気だ。
今は動かないように全身の全神経を集中させていないといけないような気がしてきた。

それに今のあたしは二頭のライオンに挟まれて、どっちに逃げたら助かるのかと悩んでいる草原のガゼルのような気がする。
でもなんでこんな気にさせられるのかが分からない。

そんなとき、口を開いたのは澤田だった。

「牧野、道明寺さんって昔の恋人か?」
「ちょっ・・さ、澤田さん?何を急に言い出すんですか!」
つくしは慌てるあまり、ソファから滑り落ちそうになった。
思わず隣に座る澤田の顔をまじまじと見つめた。

「俺、おまえがニューヨークで道明寺さんと会ってたの知ってたよ」
「えっ?」

澤田の言葉に二人の関係は誰にも知られていなかったと思っていたのは、どうやら自分だけでもしかしたら社内の人間には知られているのかもしれないと考えた。
だからあたしが道明寺の専任になっても誰も驚きはしなかったのかと思い始めていた。
知られていないなんて思っていたのはあたしだけか・・

「道明寺さんもいくらうちの大口顧客だからと言って、牧野を担当にしてまでこいつのことが欲しいんですか?」
「それにビジネスに感情を持ち込むのを嫌うって評判のあなたが、こんなことをしてるなんて賢明とは言えませんね」
いったい澤田さんは何が言いたいの?
「澤田さん!違いますってそんなんじゃないですから。あたしは・・ただのコンサルタントで・・」




「牧野、黙ってろ」
今までじっと構えるように座っていた司が身じろぎした。
彼はソファに座ったまま、前へ乗り出すと澤田の視線をとらえた。
「おいおまえ、澤田って言ったな。黙って聞いてりゃさっきから言いたい放題言ってくれるな。はじめて会う相手に、それもおまえの会社の客に対してその言いぐさはなんだ?」
「牧野、もう一度聞くけど、道明寺さんって昔の恋人か?」
澤田は司を無視するとつくしに注意を戻した。
「おい!人が話してんのに無視すんじゃねぇよ!」
今にも立ち上がって澤田を殴りつけそうな勢いだ。
つくしはなんと答えればいいのかわからず、無言で小さく頷いた。
図らずも二人の関係を認めてしまったようだが、今の状況ではどう考えても司への思いの方が強かった。澤田がどうしてこんな騒動を起こすのか分からず困惑していた。

「おい、言っとくが昔じゃねぇよ!俺は今も昔もずっとこいつの恋人だ!」

「つい最近も俺と牧野は同じベッドで寝た仲だ!」








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コメント
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dot 2016.06.15 19:16 | 編集
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dot 2016.06.15 19:35 | 編集
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dot 2016.06.15 22:43 | 編集
co**y様
こんばんは^^
第二の男、澤田さんです。よろしくお願いします(笑)
坊ちゃんやっとつくしちゃんとおつき合い出来ると思ったら
ニューヨークからの男が・・手強いライバルとなるでしょうか。
いつもこんな時間に書いています。誤字脱字があったらごめんなさい。
目はショボショボしてます(笑)
ちょっと短いですが、続き取りあえず書きました。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.16 00:51 | 編集
サ*ラ様
孤高のライオン澤田さん。
坊ちゃんと同じニューヨーク帰りのいい男です。
自信満々男ですが、坊ちゃんも負けてません(笑)
でも言ってることが微妙に誇張されてます。
今も昔もずっとこいつの恋人・・じゃないし・・
同じベッドで寝た仲・・本当にねぇ。寝ただけだし・・
やっとおつき合い出来るかと思えばこれです。精神的な生転がしですよね。(笑)
頑張れ坊ちゃん!
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.16 00:57 | 編集
さと**ん様
澤田さん。司を前に怯みません。
自分に自信がある男のようです。
そして同じニューヨーク帰りのいい男(笑)
相手が道明寺HDの副社長でも、今までニューヨークで渡り合ってきた相手も大物のようで、司の立場はあまり気にしていないようです。ライオンとライオンに挟まれ、どうしたらいいの!状態のつくしガゼルです。
食べられる日は来るのでしょうか・・
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.16 01:03 | 編集
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