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2016
06.14

大人の恋には嘘がある 24

車を降りてドアが閉まったとき、つくしは何故かホッとしたかのように安堵のため息を漏らしていた。道明寺の顔は見なかった。見なかったというよりも、見ることが出来なかった。 
だが自分の顔は赤くなっていたに違いない。
あたしは道明寺が求めた答えに対してはっきりとした返事はしなかったが、理解してくれたんじゃないかと思っている。


絶対に諦めない男。


道明寺にはそんな言葉がぴったりだと思った。
そんな男に捕まってしまった・・まさにそうだろう。
あの男に捕まって逃げられる場所があるとは思えないと気づいた。
だがつくしの感情は司の感情のように単純だとは言えなかった。

だって相手は道明寺ホールディングスの副社長なんだから、つき合うにしても、はいそうですか、わかりました。
なんて単純に行くはずがない。男と女の間なんて単純に考えればいいなんて、それは道明寺だから言えるわけで、あたしなんかみたいな庶民があの男と同じレベルで物事を考えることは出来ない。
もし、きちんとつき合うなら、それなりに覚悟ってものが必要になる。
だがつくしは思わず笑ってしまった。
だってあんなにカッコいい男が、当然だが女にモテる男が見かけによらず真面目だと言うことにつくしの頬は緩んでいた。それはニューヨークでは決して見ることが無かった男の一面だ。

道明寺と一夜を過ごしてからこの週末までの間、忙しくてあいつのことをゆっくりと考える余裕がなかったが、週末を迎えて考えることと言えば道明寺のことで、まるであたしの頭の中に道明寺という種が撒かれてしまったようだった。
撒かれた種はちゃんと芽を出すのだろうか?
大きくなって花を咲かせるとか、実を結ぶとかするんだろうか?
そんなことを考えはじめている自分がいることに、つくしは気づかされた。





つくしの部門はビルのワンフロアを占めている。
どこの会社でもそうだろうが週明けの月曜は何かと忙しい。
メールだってメールボックスに沢山溜まっている。とてもではないが、タイトルだけでどれが重要かそうでないかを見極めることは出来ない。ゆえに、ひとつずつ開けていかなければならない。その作業も結構手間と時間がかかる。だが目を通しておかなければ困るのは自分だ。

土日の2日間で軽く50件を超えるメールが届いていることがある。
システム部門などは会社本体が休みの日に稼働していたりする関係で、メンテナンス関係のメールも多いが顧客先からの連絡も多い。土日に決断して月曜の朝一番に・・と言う連絡がそれにあたる。


そんなこともあり、いつもなら8時頃には出社しているが、月曜日だけは少し早めに出社することにしている。
エレベーターを降り、廊下を進みながらすれ違う同僚達に挨拶をした。

今日は道明寺のところに先週の取引残高のレポートとマーケット情報を持って行くことになっている。今はなんでもパソコンで情報を見ることが出来るが、道明寺は紙ベースでの提出を求める。
持って行ったところで内容なんて見もしないで、デスクの引き出しに収められているのは知っている。
そんなことをされれば、紙の情報はいったい何の意味があるのかと言いたいが、それはあたしに会うための口実だと言うことはわかっている。
あいつがあたしに会いたいが為にうちの会社をコンサルタントとして契約をしたってこともわかっている。
まったく公私混同も甚だしいとはこの事だと思ったが、副社長が言うことに反対なんてする人間があの会社にいるとは到底思えなかった。

でも、もっともらしい口実をつけてまであたしに会いたいと思ってくれる・・・

今日はホテルでの一件以来はじめて道明寺と会うけど、どんな顔をして会えばいいんだろう。


道明寺の首に腕をまわして引き寄せてキスをした・・


そんな記憶はどこにも無かったが、道明寺が嘘をついているとは思えなかった。
もう二度とあたしには嘘をつかないと誓ったんだから、きっとそうなんだろう。
あたしはその気になってキスをせがんでいたってことなのだろうか?
でも、裸同然の女に抱きつかれてキスされても、自分を自制することが出来るなんてある意味尊敬できる人間だ。




つくしが自分の席に着いたとき、向かいの席の男性から好奇心いっぱいの顔で見られているのを感じていた。何か話したいという雰囲気は感じられるが口にするのを躊躇っているようだった。が、意を決したかのように口を開きかけたとき、別の男性社員から声をかけられた。

「牧野、部長が会議室でおまえを待っているそうだ」
「部長ですか?」
「そう、重森部長」


重森部長はつくしがこの会社に入社した時にお世話になった人で、その当時はまだ課長だったが今は部長になっている。小太りであまり背が高くなく、黒縁のメガネをかけていて、つくしが入社した当時はいつも電話片手に部下の社員に指示を飛ばしていた。
時々相場の感想を独り言のように喋っていたが長年の経験からなのか、それとも勘なのか流れを読む力があった。

そんな重森部長の呟きはウォーレン・バフェット並の読みだと言われていた。
バフェットはアメリカ人の投資家で億万長者だが、重森部長はうちの会社のただの部長さんだ。でも、もし部長が投資家として生計を立てるなら、やっていけるんじゃないかと思う。
実はあの黒縁メガネに相場を読む力が隠されていているんじゃないか?なんて社内では
囁かれていた。

そんな部長からの呼び出しだなんて、やっぱりあたしは何かヘマをやらかしたの?
特に心あたりは無かったが、自分が気付かないだけで、なにか仕出かしたのかもしれない。
そんな思いから会議室の扉の外でぐずぐずしていたが、意を決してノックをした。



つくしはゆっくりと扉を開くと失礼致します。と一礼をして会議室に入った。


「おはよう。牧野君」
「おはようございます。重森部長」
「おはよう牧野」


えっ?


「久しぶりだな。3年ぶりか?」









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コメント
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dot 2016.06.14 19:37 | 編集
co**y様
こんばんは^^
ジョージ・ソロスも登場させようかと思いましたが止めました(笑)
この坊ちゃん辛抱強いですか?
そうですよね。番外編で坊ちゃん急遽帰国してプロポーズして断られても想定していましたと言う感じでしたよね。
あの坊ちゃんは大人になったということですよね?
大人坊ちゃんのお話ですのでタイトルも大人の恋~なんですが、三年ぶりに会う人。明日またお読み頂けると嬉しいです。
原作の坊ちゃんは色々あっても辛抱強い少年でしたよね。少年だけど、終わりの方では半分大人チックな考え方もしていましたので、こんな坊ちゃんでもいいでしょうか?拙宅は若くない司ばかりで申し訳ないです(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.15 00:24 | 編集
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