つくしは司の執務室でのやり取りを思い返していた。
つい感情的になって言わなくてもいいことまで口にしてしまっていた。
あたしはニューヨークで道明寺に会って彼に惹かれた。
直感といってもいいのだろうか?
それはコーヒー代として10ドルを手渡されたときからだった。
返さなくていいと言われたけど次の日曜にまたここに来てほしいと頼んだ。
それからだった。日曜日になればあのコーヒースタンドへと足が向くようになり、同じ時間に顔を会わせるようになっていた。
そんなことが幾度かあったのち、待ち合わせては出かけて行くようになっていた。夕食をとりながら話したのはどこの出身なのか、どうしてこの街に住むことになったのか、仕事は何をしているのかというアメリカ人がパーティーで出会った初対面の人物に聞くようなごく一般的な内容だった。
つくしは正直に答えた。東京の出身で仕事の為にこの街に住むようになった。仕事については金融関係だとしか答えなかった。だがウォール街があるこの街に住む日本人で金融関係だと名乗れば仕事の内容についてはおおよその見当はつくはずだ。
特に自分が大きな会社の経営者ともなれば、相手が金融関係者だと知ればそれなりに興味を示すはずだ。
つくしはその時のことを思い出して顔をしかめた。
道明寺司の目的がなんだったとしても、あの男は自分の目論見を隠して近づいて来たんだとしか思えなかった。名前は偽名、仕事も嘘。唯一正直に言ったのは東京出身だと言うことだろう。
だんだんとあの男に惹かれていく自分がいたことに間違いはなかった。
漠然とした思いだったがあの頃の二人には人として大きな違いは無かったはずだ。
でもそれはあたしひとりがそう感じていただけだったのかもしれない。今となればあたしが感じていた漠然とした思いは、あの男が生まれ持った何かがそう感じさせていたのかもしれない。
あの男が道明寺の副社長だと分かってからはセントラルパークへは行くことがなくなった。
確かにあたしは道明寺司に惹かれていた。
あの男に惹かれたのはニューヨークに来てまだ誰ともつき合っていなかったから、と無理矢理こじつけた。それにその頃は仕事に一生懸命で男性と知り合う時間もチャンスも無かった。そんなときあの男と知り合ったから何かの運命を感じてしまっていたのかもしれない。
不思議だと思った。それまでは正直男性とつき合うくらいなら一人でいた方が楽だんなて考えているところもあったからだ。
でも道明寺との仲もあっけなく終わった。
今回道明寺HDがホワイトナイトとして敵対的な買収の妨害を買って出たのは、あたしに仕事を依頼するための判断材料だったと言われたじろいた。
それに仕事の能力ではなくあたしが欲しいと言われた。
あのとき振り返って見たあの男の目にはゆるぎない自信が感じられた。
その自信は何に対してなの?
その根拠のない自信がどこから来るのか聞きたかった。
まあ企業経営者なら自分に自信がなければ経営なんて出来ないことは確かだ。
あの日、道明寺司は顧客になってやると言ってきた。
その言葉どおりに道明寺HDから会社に正式な依頼があったと聞いた。
「牧野、良かったよな?道明寺HDが手を引いてくれて」
「ええ・・そうですね」
向かいの席に座る先輩社員の言葉につくしはパソコンのキーボードを打つ手を止めた。
道明寺HDがホワイトナイトを買って出ていた会社の友好的買収を取りやめたことは、つくしが交渉代理人を務めていた会社に優位に働いた。多くの株主からTOBへの応募があり経営権が必要となるだけの株式が集まった。
「これでやっとおまえも一人前か?」
「それ、どういう意味ですか?」
「あの道明寺が買収から手を引くなんて、どうしたんだろうな?おまえ何か道明寺が手を引くような情報でも持っているのか?」
「そんなものありません。ただの気まぐれなんじゃないですか?」
「あそこの副社長の」
本当の理由を知ったらつくしの目の前でコーヒーを噴き出しかねない。
あんな会社どうでもよかったけどあたしの能力を試す為にちょっかいを出して来ただなんて!あの男、ひとの苦労を何だと思ってるのよ?敵なら敵らしく最後まで戦いなさいよ?
今思い出しただけでも頭に来る。
「それに部長の話だと道明寺HDの道明寺副社長から直々にコンサルタント契約の依頼があったそうだ」
「凄いじゃないか牧野。あの道明寺司だぞ?」
「なんですか?あの道明寺司って?」
つくしは嫌な予感がした。
「おまえの仕事ぶりが気に入ったんだと」
「嫌われればよかった・・」小さな呟きだった。
「なんだって?」
「忌み嫌われればよかった・・」
「おまえ何言ってんだ?客に嫌われてどうすんだよ?」
男性は手にしていたコーヒーをぐっと飲み込むと、つくしの方へ身の乗り出すようにして来た。
「いいか牧野。コンサルタント契約がされただけで年間いくら金が入ってくると思ってんだ?取り扱う案件が無くても決まった金が入るなんて大変なことだぞ?」
「ただでさえ、他社と少ない案件の奪い合いなのに道明寺HDが顧客になるってんだから凄いことだぞ?大型の買収なんかやってくれたら相当な手数料だぞ?」
「うちのビジネスは手数料ビジネスだ。常に走り続けないと金にならないんだぞ?それが道明寺HDとコンサルタント契約をしてもらえるなんて大変なことだぞ?」
向かいの席の男性は一気に喋ってからふぅっと、ひと息つくと小さな声で呟いていた。
「でもなんでだろうな・・」
「何がですか?」
「担当は牧野つくしでとご指名だそうだ」

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あたしはニューヨークで道明寺に会って彼に惹かれた。
直感といってもいいのだろうか?
それはコーヒー代として10ドルを手渡されたときからだった。
返さなくていいと言われたけど次の日曜にまたここに来てほしいと頼んだ。
それからだった。日曜日になればあのコーヒースタンドへと足が向くようになり、同じ時間に顔を会わせるようになっていた。
そんなことが幾度かあったのち、待ち合わせては出かけて行くようになっていた。夕食をとりながら話したのはどこの出身なのか、どうしてこの街に住むことになったのか、仕事は何をしているのかというアメリカ人がパーティーで出会った初対面の人物に聞くようなごく一般的な内容だった。
つくしは正直に答えた。東京の出身で仕事の為にこの街に住むようになった。仕事については金融関係だとしか答えなかった。だがウォール街があるこの街に住む日本人で金融関係だと名乗れば仕事の内容についてはおおよその見当はつくはずだ。
特に自分が大きな会社の経営者ともなれば、相手が金融関係者だと知ればそれなりに興味を示すはずだ。
つくしはその時のことを思い出して顔をしかめた。
道明寺司の目的がなんだったとしても、あの男は自分の目論見を隠して近づいて来たんだとしか思えなかった。名前は偽名、仕事も嘘。唯一正直に言ったのは東京出身だと言うことだろう。
だんだんとあの男に惹かれていく自分がいたことに間違いはなかった。
漠然とした思いだったがあの頃の二人には人として大きな違いは無かったはずだ。
でもそれはあたしひとりがそう感じていただけだったのかもしれない。今となればあたしが感じていた漠然とした思いは、あの男が生まれ持った何かがそう感じさせていたのかもしれない。
あの男が道明寺の副社長だと分かってからはセントラルパークへは行くことがなくなった。
確かにあたしは道明寺司に惹かれていた。
あの男に惹かれたのはニューヨークに来てまだ誰ともつき合っていなかったから、と無理矢理こじつけた。それにその頃は仕事に一生懸命で男性と知り合う時間もチャンスも無かった。そんなときあの男と知り合ったから何かの運命を感じてしまっていたのかもしれない。
不思議だと思った。それまでは正直男性とつき合うくらいなら一人でいた方が楽だんなて考えているところもあったからだ。
でも道明寺との仲もあっけなく終わった。
今回道明寺HDがホワイトナイトとして敵対的な買収の妨害を買って出たのは、あたしに仕事を依頼するための判断材料だったと言われたじろいた。
それに仕事の能力ではなくあたしが欲しいと言われた。
あのとき振り返って見たあの男の目にはゆるぎない自信が感じられた。
その自信は何に対してなの?
その根拠のない自信がどこから来るのか聞きたかった。
まあ企業経営者なら自分に自信がなければ経営なんて出来ないことは確かだ。
あの日、道明寺司は顧客になってやると言ってきた。
その言葉どおりに道明寺HDから会社に正式な依頼があったと聞いた。
「牧野、良かったよな?道明寺HDが手を引いてくれて」
「ええ・・そうですね」
向かいの席に座る先輩社員の言葉につくしはパソコンのキーボードを打つ手を止めた。
道明寺HDがホワイトナイトを買って出ていた会社の友好的買収を取りやめたことは、つくしが交渉代理人を務めていた会社に優位に働いた。多くの株主からTOBへの応募があり経営権が必要となるだけの株式が集まった。
「これでやっとおまえも一人前か?」
「それ、どういう意味ですか?」
「あの道明寺が買収から手を引くなんて、どうしたんだろうな?おまえ何か道明寺が手を引くような情報でも持っているのか?」
「そんなものありません。ただの気まぐれなんじゃないですか?」
「あそこの副社長の」
本当の理由を知ったらつくしの目の前でコーヒーを噴き出しかねない。
あんな会社どうでもよかったけどあたしの能力を試す為にちょっかいを出して来ただなんて!あの男、ひとの苦労を何だと思ってるのよ?敵なら敵らしく最後まで戦いなさいよ?
今思い出しただけでも頭に来る。
「それに部長の話だと道明寺HDの道明寺副社長から直々にコンサルタント契約の依頼があったそうだ」
「凄いじゃないか牧野。あの道明寺司だぞ?」
「なんですか?あの道明寺司って?」
つくしは嫌な予感がした。
「おまえの仕事ぶりが気に入ったんだと」
「嫌われればよかった・・」小さな呟きだった。
「なんだって?」
「忌み嫌われればよかった・・」
「おまえ何言ってんだ?客に嫌われてどうすんだよ?」
男性は手にしていたコーヒーをぐっと飲み込むと、つくしの方へ身の乗り出すようにして来た。
「いいか牧野。コンサルタント契約がされただけで年間いくら金が入ってくると思ってんだ?取り扱う案件が無くても決まった金が入るなんて大変なことだぞ?」
「ただでさえ、他社と少ない案件の奪い合いなのに道明寺HDが顧客になるってんだから凄いことだぞ?大型の買収なんかやってくれたら相当な手数料だぞ?」
「うちのビジネスは手数料ビジネスだ。常に走り続けないと金にならないんだぞ?それが道明寺HDとコンサルタント契約をしてもらえるなんて大変なことだぞ?」
向かいの席の男性は一気に喋ってからふぅっと、ひと息つくと小さな声で呟いていた。
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コメント
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チビ**ママ様
金持ちの御曹司、司の妄想に大笑いして頂き有難うございました。
御曹司シリーズの司はエロ坊ちゃんです。
エロいのに何故かコメディを感じる・・はい。そうなんです。
エロコメディです。笑って楽しめるエロです(^^)
大人の恋~良いですか?ありがとうございます。
大人の2人の駆け引き・・これからだと思います。
司の頑張り次第です。こちらこそ、いつもお読み頂きありがとうございます。
コメント有難うございました^^
金持ちの御曹司、司の妄想に大笑いして頂き有難うございました。
御曹司シリーズの司はエロ坊ちゃんです。
エロいのに何故かコメディを感じる・・はい。そうなんです。
エロコメディです。笑って楽しめるエロです(^^)
大人の恋~良いですか?ありがとうございます。
大人の2人の駆け引き・・これからだと思います。
司の頑張り次第です。こちらこそ、いつもお読み頂きありがとうございます。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.05.15 21:24 | 編集

さと**ん様
司の勝負はこれからです。
つくしを手に入れるために、色々と手を尽くして頑張ってもらわなければと思います。
大人の恋の駆け引きが出来る・・はずです。
「あほか・・」そうなんです(^^)
こちらこそ、さと**ん様の豊富な二次知識を教えて頂けると有難いです。
こんな話、あんな話が聞きたいです。
コメント有難うございました^^
司の勝負はこれからです。
つくしを手に入れるために、色々と手を尽くして頑張ってもらわなければと思います。
大人の恋の駆け引きが出来る・・はずです。
「あほか・・」そうなんです(^^)
こちらこそ、さと**ん様の豊富な二次知識を教えて頂けると有難いです。
こんな話、あんな話が聞きたいです。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.05.15 21:40 | 編集
