「司!早く!遅れるわ!」
「心配するな。時間は充分ある」
司はネクタイを締めながら答えた。
「充分って言うけど、あの子の学校まで車で30分かかるのよ?それなのにあと35分しかないのよ!道が混んでたら間に合わないわ!」
妻は慌てていた。
そして司を急かしていた。
「安心しろ。ヘリで行けば5分だ」
「ヘリって….まさか学校までヘリで行くつもりなの?」
「ああ。そうだ」
「そうだって…..」
「英徳には俺が寄附したヘリポートがある。管理はうちの会社がしている。そこを利用して何が悪い?それにあのヘリポートは緊急事態に備えて作ったものだ。だからこの状況で利用するのは理にかなっているはずだ」
ネクタイを締め終えた司は、呆れた顏をしている妻を横目に真新しいスーツの上着に袖を通した。
司と妻の間には子供が三人いる。
上の二人は大学生の男の子で背丈は司と同じくらいある。
そして成長を続けている息子たちは、もしかすると自分を抜くのではないかと思うほどだが、息子に背丈を抜かれる父親の気持は、嬉しいようで寂しいとも言えた。
そして末の子供は妻によく似た女の子で初等部の5年生。
その子の授業参観に遅刻しそうになった司はヘリで妻と共に英徳へ向かったが、ヘリで子供の参観日に行く親が司くらいなものだとしても、それが許されるのが道明寺司という男だ。
そして司が英徳に寄附したのはヘリポートだけではない。
他にも体育館、屋内プール、図書館、パイプオルガンがある音楽ホール。それに生徒たちの休憩スペースであるラウンジを寄附してきたが、それは自分の母校であると同時に息子や娘が通っている学園だから。子供たちが学び舎としている場所は最高であって欲しいという思いから、最新の施設を寄附してきた。そしてこれから先も寄附をするつもりだが、次は娘が好きなプラネタリウムでも寄附するかと考えていた。
そんな司は先日、誕生日を迎えひとつ年を重ねた。
若い頃は盛大に行われた司の誕生パーティー。
だがいい年をした男は他人に誕生日を祝ってもらおうとは思わない。
その代わり家族だけでテーブルを囲み妻の手料理を食べることを楽しみにしていた。
だがその席で娘から言われたのは、
「ねえパパ。パパの誕生日が終ったら節分だけど今年も鬼はパパがするの?」
司の誕生日は1月31日。
その3日後の2月3日は節分の日。
鬼は外―っ!
福は内-っ!
その掛け声と同時に撒かれるのは大量の豆。
いや。撒くというよりは、ぶつけると言った方が正しい。
そして司は妻が用意した鬼の面を被り、子供たちから遠慮なく豆を投げられると、部屋の中を逃げ回り大袈裟に痛いと言って庭に逃げ出していた。
だがそれは息子たちが小さな頃の昔の話で、大学生の息子たちは豆まきに興味はない。
けれどまだ小学生の娘は豆まきを必要な行事だと考えている。
だから今でも節分の豆まきは道明寺家の恒例行事だ。
だが流石に女の子が投げる豆は男の子が投げる豆とは違って優しい。
それに女の子は執拗に鬼を追いかけ回すことはしない。
だから楽と言えば楽なのだが、司は今年、鬼の役を大学生の息子たちにさせようと思った。
すると二番目の息子は言った。
「え?節分の日?俺、その日からオーストラリアにいる楓さんの所に行くんだけど」
そうだった。
二番目の息子はホテル経営に興味を持っていて、その日から司の母親であり子供たちの祖母である楓に会いに行くことになっていた。そして楓と一緒に道明寺が計画をしているリゾートホテルの建設予定地の島を訪れることになっていた。
それならと一番目の息子に鬼の役をして欲しいと言った。
すると息子は言った。
「残念だけど父さん。僕は明日ニューヨークに戻らなきゃならない。試験前だからね」
そうだった。
一番上の息子はニューヨークの大学に通っていて、司の誕生日だからと試験前にもかかわらず日本に帰国していたのだ。
と、なると鬼の役をするのは____
「だから父さん。諦めて鬼になるんだね。それが父親の役目なんだからさ」
そして迎えた節分の日。
夕食を終えると妻は、「じゃあ、そろそろ…」と言って、福豆を入れた升を用意すると司を見た。
だから司はテーブルから離れると、輪ゴムを耳にかけ、紙で出来た鬼の面をかぶって振り向いた。
そして言った。
「悪い子はいねえか!」
「あのねぇ司。毎年そう言うけど、それは秋田のなまはげよ!それに悪いのは子供じゃなくて鬼の方でしょ?」
クスクス笑う妻の言葉は今更だ。
司は鬼のセリフなど考えたことはない。
だからこれまでの豆まきでも口にしてきたのは、秋田の男鹿半島出身の秘書に教えられた「悪い子はいねえか!」
すると娘は司に向かって「鬼は外―っ!」と言って豆を投げ始めたが、ぶつけられる豆が痛いと感じたのは気のせいではないはずだ。
去年は初等部4年生だった娘。
今年は5年生だが4月になれば6年生になる。
だから豆を投げる力が強くなっていたとしても不思議ではない。
そして父親である司が娘の成長を実感するのは、こうした些細なことから。
だから司の頬は鬼の面の下で自然と緩んでいた。
そして緩んだ顏で豆をぶつけてくる娘に「悪い子はいねえか!」と言ったが、妻も豆を投げ始めると、「悪い妻はいねえか!」と言って、「ガオーッ!」と両手を上げて襲いかかるふりをした。
すると娘と妻は「キャーッ!」と言って豆を大量にぶつけてきた。
いくら面をかぶっているとはいえ、それは紙の面。
ましてや顏全体を覆ってはおらず、直接顏にあたると痛い。
だから鬼の面をかぶった司は「降参だ」と言って部屋を出た。
すると部屋の中から娘の「やった!鬼退治成功!今度は福は内!」という声が聞えた。
昔、この家にも鬼がいた。
それは司のこと。
我儘な餓鬼は人を貶めて楽しんでいた。
だが今、この家に鬼はいない。
だから豆まきは「福は内」だけでいい。福を招き入れるだけでいい。
そう思う司は、これまでの自分の人生を8勝2敗だと思っているが、2敗の中にあるのは、男親は娘と妻に弱いということ。
だから2敗とは言っても本当の負けだとは思っていない。
「司…..」
妻に呼ばれた司は振り向いた。
するとそこにいる妻は、「ちょっと話があるんだけど」と言った。
だから鬼の面を外すと夫婦の寝室へ向かった。
そして妻から、「今年のバレンタインだけどね。あの子。パパ以外にもチョコレートを贈りたい男の子がいるそうなの。やっとあの子もバレンタインデビューよ!」と訊かされた司の顏はもしかすると鬼の形相をしているかもしれない。
娘に好きな男がいる。
娘に彼氏が出来る。
そのことを知った父親の顏というのは、皆同じはずだ。
司は道明寺の跡を継ぎ、結婚して子供をもうけた。
そして妻から女の子が生まれると訊いたとき、自分が将来どんな父親になるか全く想像がつかなかった。だが今は分かる。それは男親というのは、こと娘のことになると、ただひたすら心配性になるということ。
だから問題はそこなのだ。胃薬を飲むようなことはないとしても、もし娘が彼氏を連れてきたとき、司は冷静に対処出来るか自信がなかった。
たとえばその男が耳に穴を開けていたり、髪を金髪に染めていたり、未成年なのに堂々とタバコをふかし、大酒を喰らう男だったら、司の手はこぶしを握っているはずだ。そして握ったそのこぶしで男を殴っているはずだ。
だが妻は言った。
「ねえ、何を妄想しているか知らないいけど、司も大概悪いことしてたんだからね。
それにあの子はまだ小学生よ。それからあたしに似て奥手だから、好きな男の子がいても付き合うとかそんなことは考えてないわ。
それにあの子が連れてくる男の子は、きっと父親に似た優しい男の子。だから心配しなくても大丈夫よ。それよりほら、口開けて」
そう言われた司は言われるまま口を開けた。
すると放り込まれたのは豆。
そして「年の数だけ食べると幸せが訪れる福豆よ」と言われた司は次々に口に放り込まれる豆を噛みしめながら己の過去を振り返っていた。
司がかつていたのは色のない灰色の世界。
世界に色は無くモノトーンだった。
だが今の司が目にする世界には色が付いている。
それもカラフルな色が。
だからこの世界が楽しいと思えるようになった。
退屈でつまらないと思っていた人生が賑やかになった。
そうなったのは、ひとりの女性に出会ったから。
そして、これまでの自分の生き方が見栄っぱりであり、ただ強がっていただけだったと知ったのは、その女性を失いそうになったとき。交通事故にあった彼女は生死の境を彷徨った。
そのとき司は初めてひと前で泣いた。
今は司の妻になった彼女。ふたりは一生互いの傍に居ることを誓い合った。
そして今の司は、世界には楽しいことが沢山あることを知っている。
それは家族が出来たことから始まった。
だから家族みんなが幸せならそれでいいのだ。
たとえ娘に彼氏が出来ても………
だから眉間に寄せていた皺を緩め言った。
「あの子が父親の俺に似た優しい男を連れて来るだと?
ま、世界のどこを探しても俺よりあの子に優しい男がいるとは思えねえが、それなら楽しみに待つとするか」
と妻には言ったが、娘の彼氏になる男は世界最強の鬼と対峙する覚悟が必要だ。
だから司は再び眉根を思いっきり寄せ目を細めた。
その表情は彼女と知り合う前の司で、そんな司を見た人間は誰もが目を逸らしていた。
果たして娘の彼氏になる男は司のこの表情に耐えれるのか。目を逸らすことなく司を見ることが出来るのか。
「もう司ったら。そんな顏して…..いい?あの子はこれから色々難しい年ごろになるんだから、そんな顏してたら嫌われるわよ!それとも嫌われてもいいの?」
司は妻のその言葉にびっくりした顏になった。
そして娘に嫌われるなどとんでもないとばかり、おどけたすまし顔をして、「よし。それならこれはどうだ?」と言って司最高の笑顔を妻に向けた。
坊っちゃんお誕生日おめでとうございます!一日遅れとなりましたが、こちらはお誕生日記念のお話です。

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「心配するな。時間は充分ある」
司はネクタイを締めながら答えた。
「充分って言うけど、あの子の学校まで車で30分かかるのよ?それなのにあと35分しかないのよ!道が混んでたら間に合わないわ!」
妻は慌てていた。
そして司を急かしていた。
「安心しろ。ヘリで行けば5分だ」
「ヘリって….まさか学校までヘリで行くつもりなの?」
「ああ。そうだ」
「そうだって…..」
「英徳には俺が寄附したヘリポートがある。管理はうちの会社がしている。そこを利用して何が悪い?それにあのヘリポートは緊急事態に備えて作ったものだ。だからこの状況で利用するのは理にかなっているはずだ」
ネクタイを締め終えた司は、呆れた顏をしている妻を横目に真新しいスーツの上着に袖を通した。
司と妻の間には子供が三人いる。
上の二人は大学生の男の子で背丈は司と同じくらいある。
そして成長を続けている息子たちは、もしかすると自分を抜くのではないかと思うほどだが、息子に背丈を抜かれる父親の気持は、嬉しいようで寂しいとも言えた。
そして末の子供は妻によく似た女の子で初等部の5年生。
その子の授業参観に遅刻しそうになった司はヘリで妻と共に英徳へ向かったが、ヘリで子供の参観日に行く親が司くらいなものだとしても、それが許されるのが道明寺司という男だ。
そして司が英徳に寄附したのはヘリポートだけではない。
他にも体育館、屋内プール、図書館、パイプオルガンがある音楽ホール。それに生徒たちの休憩スペースであるラウンジを寄附してきたが、それは自分の母校であると同時に息子や娘が通っている学園だから。子供たちが学び舎としている場所は最高であって欲しいという思いから、最新の施設を寄附してきた。そしてこれから先も寄附をするつもりだが、次は娘が好きなプラネタリウムでも寄附するかと考えていた。
そんな司は先日、誕生日を迎えひとつ年を重ねた。
若い頃は盛大に行われた司の誕生パーティー。
だがいい年をした男は他人に誕生日を祝ってもらおうとは思わない。
その代わり家族だけでテーブルを囲み妻の手料理を食べることを楽しみにしていた。
だがその席で娘から言われたのは、
「ねえパパ。パパの誕生日が終ったら節分だけど今年も鬼はパパがするの?」
司の誕生日は1月31日。
その3日後の2月3日は節分の日。
鬼は外―っ!
福は内-っ!
その掛け声と同時に撒かれるのは大量の豆。
いや。撒くというよりは、ぶつけると言った方が正しい。
そして司は妻が用意した鬼の面を被り、子供たちから遠慮なく豆を投げられると、部屋の中を逃げ回り大袈裟に痛いと言って庭に逃げ出していた。
だがそれは息子たちが小さな頃の昔の話で、大学生の息子たちは豆まきに興味はない。
けれどまだ小学生の娘は豆まきを必要な行事だと考えている。
だから今でも節分の豆まきは道明寺家の恒例行事だ。
だが流石に女の子が投げる豆は男の子が投げる豆とは違って優しい。
それに女の子は執拗に鬼を追いかけ回すことはしない。
だから楽と言えば楽なのだが、司は今年、鬼の役を大学生の息子たちにさせようと思った。
すると二番目の息子は言った。
「え?節分の日?俺、その日からオーストラリアにいる楓さんの所に行くんだけど」
そうだった。
二番目の息子はホテル経営に興味を持っていて、その日から司の母親であり子供たちの祖母である楓に会いに行くことになっていた。そして楓と一緒に道明寺が計画をしているリゾートホテルの建設予定地の島を訪れることになっていた。
それならと一番目の息子に鬼の役をして欲しいと言った。
すると息子は言った。
「残念だけど父さん。僕は明日ニューヨークに戻らなきゃならない。試験前だからね」
そうだった。
一番上の息子はニューヨークの大学に通っていて、司の誕生日だからと試験前にもかかわらず日本に帰国していたのだ。
と、なると鬼の役をするのは____
「だから父さん。諦めて鬼になるんだね。それが父親の役目なんだからさ」
そして迎えた節分の日。
夕食を終えると妻は、「じゃあ、そろそろ…」と言って、福豆を入れた升を用意すると司を見た。
だから司はテーブルから離れると、輪ゴムを耳にかけ、紙で出来た鬼の面をかぶって振り向いた。
そして言った。
「悪い子はいねえか!」
「あのねぇ司。毎年そう言うけど、それは秋田のなまはげよ!それに悪いのは子供じゃなくて鬼の方でしょ?」
クスクス笑う妻の言葉は今更だ。
司は鬼のセリフなど考えたことはない。
だからこれまでの豆まきでも口にしてきたのは、秋田の男鹿半島出身の秘書に教えられた「悪い子はいねえか!」
すると娘は司に向かって「鬼は外―っ!」と言って豆を投げ始めたが、ぶつけられる豆が痛いと感じたのは気のせいではないはずだ。
去年は初等部4年生だった娘。
今年は5年生だが4月になれば6年生になる。
だから豆を投げる力が強くなっていたとしても不思議ではない。
そして父親である司が娘の成長を実感するのは、こうした些細なことから。
だから司の頬は鬼の面の下で自然と緩んでいた。
そして緩んだ顏で豆をぶつけてくる娘に「悪い子はいねえか!」と言ったが、妻も豆を投げ始めると、「悪い妻はいねえか!」と言って、「ガオーッ!」と両手を上げて襲いかかるふりをした。
すると娘と妻は「キャーッ!」と言って豆を大量にぶつけてきた。
いくら面をかぶっているとはいえ、それは紙の面。
ましてや顏全体を覆ってはおらず、直接顏にあたると痛い。
だから鬼の面をかぶった司は「降参だ」と言って部屋を出た。
すると部屋の中から娘の「やった!鬼退治成功!今度は福は内!」という声が聞えた。
昔、この家にも鬼がいた。
それは司のこと。
我儘な餓鬼は人を貶めて楽しんでいた。
だが今、この家に鬼はいない。
だから豆まきは「福は内」だけでいい。福を招き入れるだけでいい。
そう思う司は、これまでの自分の人生を8勝2敗だと思っているが、2敗の中にあるのは、男親は娘と妻に弱いということ。
だから2敗とは言っても本当の負けだとは思っていない。
「司…..」
妻に呼ばれた司は振り向いた。
するとそこにいる妻は、「ちょっと話があるんだけど」と言った。
だから鬼の面を外すと夫婦の寝室へ向かった。
そして妻から、「今年のバレンタインだけどね。あの子。パパ以外にもチョコレートを贈りたい男の子がいるそうなの。やっとあの子もバレンタインデビューよ!」と訊かされた司の顏はもしかすると鬼の形相をしているかもしれない。
娘に好きな男がいる。
娘に彼氏が出来る。
そのことを知った父親の顏というのは、皆同じはずだ。
司は道明寺の跡を継ぎ、結婚して子供をもうけた。
そして妻から女の子が生まれると訊いたとき、自分が将来どんな父親になるか全く想像がつかなかった。だが今は分かる。それは男親というのは、こと娘のことになると、ただひたすら心配性になるということ。
だから問題はそこなのだ。胃薬を飲むようなことはないとしても、もし娘が彼氏を連れてきたとき、司は冷静に対処出来るか自信がなかった。
たとえばその男が耳に穴を開けていたり、髪を金髪に染めていたり、未成年なのに堂々とタバコをふかし、大酒を喰らう男だったら、司の手はこぶしを握っているはずだ。そして握ったそのこぶしで男を殴っているはずだ。
だが妻は言った。
「ねえ、何を妄想しているか知らないいけど、司も大概悪いことしてたんだからね。
それにあの子はまだ小学生よ。それからあたしに似て奥手だから、好きな男の子がいても付き合うとかそんなことは考えてないわ。
それにあの子が連れてくる男の子は、きっと父親に似た優しい男の子。だから心配しなくても大丈夫よ。それよりほら、口開けて」
そう言われた司は言われるまま口を開けた。
すると放り込まれたのは豆。
そして「年の数だけ食べると幸せが訪れる福豆よ」と言われた司は次々に口に放り込まれる豆を噛みしめながら己の過去を振り返っていた。
司がかつていたのは色のない灰色の世界。
世界に色は無くモノトーンだった。
だが今の司が目にする世界には色が付いている。
それもカラフルな色が。
だからこの世界が楽しいと思えるようになった。
退屈でつまらないと思っていた人生が賑やかになった。
そうなったのは、ひとりの女性に出会ったから。
そして、これまでの自分の生き方が見栄っぱりであり、ただ強がっていただけだったと知ったのは、その女性を失いそうになったとき。交通事故にあった彼女は生死の境を彷徨った。
そのとき司は初めてひと前で泣いた。
今は司の妻になった彼女。ふたりは一生互いの傍に居ることを誓い合った。
そして今の司は、世界には楽しいことが沢山あることを知っている。
それは家族が出来たことから始まった。
だから家族みんなが幸せならそれでいいのだ。
たとえ娘に彼氏が出来ても………
だから眉間に寄せていた皺を緩め言った。
「あの子が父親の俺に似た優しい男を連れて来るだと?
ま、世界のどこを探しても俺よりあの子に優しい男がいるとは思えねえが、それなら楽しみに待つとするか」
と妻には言ったが、娘の彼氏になる男は世界最強の鬼と対峙する覚悟が必要だ。
だから司は再び眉根を思いっきり寄せ目を細めた。
その表情は彼女と知り合う前の司で、そんな司を見た人間は誰もが目を逸らしていた。
果たして娘の彼氏になる男は司のこの表情に耐えれるのか。目を逸らすことなく司を見ることが出来るのか。
「もう司ったら。そんな顏して…..いい?あの子はこれから色々難しい年ごろになるんだから、そんな顏してたら嫌われるわよ!それとも嫌われてもいいの?」
司は妻のその言葉にびっくりした顏になった。
そして娘に嫌われるなどとんでもないとばかり、おどけたすまし顔をして、「よし。それならこれはどうだ?」と言って司最高の笑顔を妻に向けた。
坊っちゃんお誕生日おめでとうございます!一日遅れとなりましたが、こちらはお誕生日記念のお話です。

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Comment:4
コメント
m様
楽しんでいただけで良かったです(≧▽≦)
楽しんでいただけで良かったです(≧▽≦)
アカシア
2022.02.06 20:50 | 編集

s**p様
節分の日。
アカシア家では恵方巻のみいただきました(^^;)
節分の日。
アカシア家では恵方巻のみいただきました(^^;)
アカシア
2022.02.06 20:54 | 編集

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ふ**ん様
誕生日を絡めた節分の話になってしまいましたが、楽しんでいただけて良かったです!
男鹿半島出身の秘書に教えられた掛け声は、なまはげの掛け声。
そして「悪い妻はいねぇが?」
確かに司に言われたらクスッとなるけど、他の男に言われたらムッとするかもですね(笑)
豆を口に入れられる司。エサやりじゃあるまいし!と思うもその姿を想像すると笑えますよね。
そして父親司は娘の彼氏を妄想して鬼の形相になる。
娘ちゃん。自分の父親がどんな人か分かっているといいのですが、未来の彼氏、ガンバレですね!
コメント有難うございました^^
誕生日を絡めた節分の話になってしまいましたが、楽しんでいただけて良かったです!
男鹿半島出身の秘書に教えられた掛け声は、なまはげの掛け声。
そして「悪い妻はいねぇが?」
確かに司に言われたらクスッとなるけど、他の男に言われたらムッとするかもですね(笑)
豆を口に入れられる司。エサやりじゃあるまいし!と思うもその姿を想像すると笑えますよね。
そして父親司は娘の彼氏を妄想して鬼の形相になる。
娘ちゃん。自分の父親がどんな人か分かっているといいのですが、未来の彼氏、ガンバレですね!
コメント有難うございました^^
アカシア
2022.02.13 21:59 | 編集
