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2020
12.01

Love Affair 26

『もう一度俺と恋愛をしてくれ』

あれから12年の歳月が流れ30代を迎えようとしている女は嵐のようだったふたりの恋愛をもう一度繰り返すつもりはない。だから「いやよ。あんたとの恋愛なんてもう二度といや」と言った。
その瞬間、司の胸に痛みが走った。その痛みは雨が降る夜に別れを告げられた時に感じた痛みと同じ。去って行く女を見つめながら、ひとり雨の中に佇んでいた司は打ちひしがれていたが、まさにあの時と同じ痛みがフラッシュバックした。

司の思いは伝わらなかった。
牧野つくしの心の入口は固く閉ざされたまま開かれることはなかった。
だが、わずかな沈黙の後、決意するように言ったのは、「でも結婚ならしてもいい」

司はとっさに意味が分からなかった。
自分の瞳を捉えた女の意図をはかりかねた。
だがひとつだけ言えるのは、女は昔と違って言いたいことははっきりと口にするということ。だから自分が何か言うよりも彼女に言いたいことがあるなら言ってもらおう。ここでやっとこれまで口にされることがなかった思いが語られるのではないかという思いから司は黙って彼女を見つめていた。
するとついさっきまでとは打って変わり落ち着いた口調で言った。

「あんたは私と恋愛したいって言ったわよね?でも私は昔と同じで甘えるのが苦手な女よ。
これまで仕事一辺倒で営業にいた時は男性からは可愛げがないって言われた。でも意地があった。それが何に対しての意地かって言われたら生きることへの意地。でもそれは死にたいとかいうことじゃない。ただ自分を忘れた男のことを忘れきれなかった女が何かを目標にしなければ倒れてしまうと気付いたとき、仕事に力を入れた。仕事を一生懸命していればいつか自分を忘れた男のことも忘れると思った。でもどうしてかな。簡単には忘れられなくて。それにいつかその人は自分の世界に返って来るって思ってた。
でも見合いをして結婚することになったって訊いたとき、最後の最後に自分の力で忘れられた女の記憶を呼び覚まそうとした。でもいくら身体を重ねてもダメだった」

司は話を訊きながら牧野つくしがどれほど自分のことを思っていてくれたのかを改めて知った。

「私って自分ではサバサバしてる性格だと思ってた。だけどそうじゃなかった。
あんたのことをしつこい男だって言ったけど、私も同じよね?だって12年もあんたのことが忘れられなかったんだもの。そんな私と恋愛したいって言うなら、その先にあるのは結婚になるわよ?それでもいいなら__」

司は牧野つくしが全てを言い終わらないうちに抱きしめていた。
それは消化しようとしていた司への思いが消えることなく留まってくれたことが嬉しかったから。そして彼女の口から語られたのは、誰にも言えなかった心の奥底にあった思いだ。

「お前のその提案。喜んで受け入れる。記憶が戻った時にも言ったはずだが俺はお前と結婚したい。俺の思いは12年前と変わってない。それにお前が甘えるのが苦手でもいい。俺が好きになった牧野つくしは男にベタベタするのが苦手な女だった。だがそんな女も可愛げがあった。それは俺だけが感じることが出来る可愛さで他人が知る必要なない。だがお前のどこが魅力的だと言われたら生意気なところだと言おう。俺がそう思える女は世界でただひとりお前だけだが、生意気で俺を困らせるところが愛おしいと思えるんだから俺は心底お前に惚れているってことだ」

司は抱きしめた女を更にきつく抱いた。
ふたりが付き合い始めた頃、対等な付き合いがしたいと言った女がいた。そして今のふたりは対等かと言えば、彼女を忘れた司の方が分が悪い。そんな男は大きなことは言えない立場だったが、牧野つくしを愛する熱量はあの頃と同じ。いや離れていた分だけ重量が増している。
そして司は彼女のためにしなければならないことがある。

「牧野。俺は定められたレールを踏み外すことが出来ない。けどそのレールを自分仕様に変えることは出来る。それに俺たちはもう子供じゃない。大人の男と女だ。母親とのことはケジメをつける。そして結婚を認めさせる。だから俺と結婚してくれ」

司はそこまで言うと、腕の中にいる女の顏が見たくて腕を緩めた。すると女は司を見上げたが、そこには少し前にはなかった穏やかな空気が感じられた。そして大きな目からは今しも涙がこぼれ落ちそうで、瞳はいつもよりも大きくなっている。

「ねえ、訊いて」

「何だ?」

「あんたが遠い世界から戻って来たら言おうと思ってたことがあるの」

遠い世界とはよく言ったものだ。
まさに司は別世界にいた。
そんな男が何か言われるとすれば、「どうして忘れたのよ。なんでもっと早く思い出さないのよ」と責められるだろうということ。
だが彼女の口から出たのは、それとは真逆の言葉。

「私の思い出が消えてしまわないうちに戻ってきてくれてありがとう」

それはもしかすると一生思い出さないかもしれないと覚悟していたという意味。
司はその言葉を訊いて、自分の腕の中にある温もりを何があっても二度と離すまいと決めた。




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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.12.02 15:36 | 編集
L**A(坊****愛)様
彼女のことを忘れたのは彼の責任ではありませんが、それでも坊っちゃん、つくしが許してくれたんですから、これからは誠心誠意彼女に尽くして下さいね。
まあこの坊っちゃんなら大丈夫そうですよね(笑)


アカシアdot 2020.12.03 21:14 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
大人のふたりですからねえ。
決まれば早いと思いますが、お母上はどう出るのでしょうか。
楓ママも年を取り少しは丸くなったかもしれませんね(笑)
アカシアdot 2020.12.03 21:24 | 編集
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