司は今でもつくしを愛しているのか、それとも憎んでいるのか自分でもわからなかった。
ただ、こうして毎日朝を迎えるたびに思うことは、自分が自分でいるためにはつくしが必要だということだ。
司の心の中でつくしは昔のままだった。
いつも決して変わることなく、あのときが、あの日の姿で脳裏に甦る。
それは雨のなか、最後に背を向けて去って行く女の姿。
なぜ死人との別れに菊の花が飾られるのか?
薔薇が飾られた別れがあってもいいじゃないか?
真っ赤な薔薇で祭壇を埋め尽くす。
きっと薔薇が飾られた祭壇は充満する弔いの煙を少しは和らげてくれる。
巨大な祭壇と呼ばれる舞台が最後の花道とはな。
司は葬式が嫌いだった。
彼はそれでもしかたがなく葬儀に参列していた。
いっときとはいえ、時の権力者だった男の葬儀だけあって参列者の顔には目を見張るものがあった。
弔問外交だな。
そして、国政とは政治家と官僚との馴れ合いの世界。
だがこの葬儀の主役はその馴れ合いを嫌っていた。
馴れ合ってもらわなくては困るのは企業家で、そんな男は司にとっては迷惑な男だった。
なんのための政治献金だと思ってるんだ。
今の司には当時は無かった力があった。
彼は権力者でもあり実力者でもある。
彼の若さでその地位にのぼりつめたことを不思議に思う人間もいるだろう。
司の母親が、そして父親がそうであったように時の権力者への影響力を持つまでになっていた。
役人の首を替えるなんて簡単なことだ。
そんなことが出来るのも彼が道明寺司だからだ。
人目を引かずにはいられない男の姿は葬儀の場でも目立っていた。
余多の黒い喪服姿の人間がいる中でもこの男は人を惹きつけるオーラを持っている。
冷たい美貌の持ち主と呼ばれる男。
その男は大勢の弔問客のなかを進んでいく。
ちらちらと彼に向けられる視線は沢山あった。
そんななか、一人の喪服の男が司の傍へと近づいてきた。
「司、随分と早いお出ましだね」
類はそう言うと司の隣の席へと腰を下ろした。
「おまえこそ早いじゃねぇかよ、類」
司は類の皮肉を無視した。
「うん、混むのがいやだから。俺、ここ座ってもよかったんだよね?」
「フン」
「ねえ司、今日の主役は道明寺にとっては嫌な人間じゃなかった?」
「ああ。そうだったな。けど死んじまった人間どうこう言っても仕方ねぇ」
「ふーん。司も少し考え方が変わったんだね」
隣り合って座っている男は何の感情も見せずに言った。
「・・・なあ類。欲しかった物が手に入ったらどうする?」
司はそこまで言うと類の反応をうかがった。
「・・俺、欲しいものなんてないからわからないよ」
類は一瞬黙り込んだあと言った。
_____類
いつわりの友の口から紡ぎ出される言葉は______嘘だ。
つくしを見つけたとき、司は本能に導かれるように後をつけた。
女は彼の存在に気付いてはいなかった。
そして目的地はすぐにわかった。
司は携帯電話を取り出すと女の目的地にいる男に電話した。
呼び出し音が鳴り相手が出た。
「なに?」
そのひとことで類が答えた。
「俺だ」
「なんの用?」
「なあ類、俺がこっちに帰ってきてもう半年になる。一度くらいゆっくり会わないか?」
「悪いけどそういう気分じゃない」類が言った。
「今お前の家の前まで来てる」
「・・そう」
「で?俺と会うつもりはないのか?」
「なんの用?」類が再び聞いた。
「牧野のことで」
司はそこまで言うと類の反応をうかがった。
「・・・まきのって?」
「類、覚えてるか?俺が昔し好きだった女だ」
「・・そう言えば、そんな女がいたね・・で?」
「類、あの女どうしてるか知ってるか?」
「知らない。・・どうして俺にそんなこと聞くの?」
類の口調に含まれた何かに司は口を閉ざした。
「いや、なんでもない」
司はしばらく黙ったあと言った。
「もういいんだ」
司はそれだけいうと一方的に電話を切った。
牧野は類のところにいた。
あのとき類は俺が牧野を探しているのを知って黙っていた。
あの日の偽りの友の声が耳元で聞こえて来るようだった。
司の唇は冷笑に歪んだ。
俺が牧野を探していたとき、類は何も知らないふりをして俺から牧野を隠していた。
だから牧野がこんな運命をたどることになったのは類のせいだ。
類が欲しかったものは、俺が欲しかったもの・・・・同じ女だった。
今、ここにこうして隣に座る類は、牧野がどこでどうしているのか知っているのだろうか、と司は短く笑っていた。

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司の心の中でつくしは昔のままだった。
いつも決して変わることなく、あのときが、あの日の姿で脳裏に甦る。
それは雨のなか、最後に背を向けて去って行く女の姿。
なぜ死人との別れに菊の花が飾られるのか?
薔薇が飾られた別れがあってもいいじゃないか?
真っ赤な薔薇で祭壇を埋め尽くす。
きっと薔薇が飾られた祭壇は充満する弔いの煙を少しは和らげてくれる。
巨大な祭壇と呼ばれる舞台が最後の花道とはな。
司は葬式が嫌いだった。
彼はそれでもしかたがなく葬儀に参列していた。
いっときとはいえ、時の権力者だった男の葬儀だけあって参列者の顔には目を見張るものがあった。
弔問外交だな。
そして、国政とは政治家と官僚との馴れ合いの世界。
だがこの葬儀の主役はその馴れ合いを嫌っていた。
馴れ合ってもらわなくては困るのは企業家で、そんな男は司にとっては迷惑な男だった。
なんのための政治献金だと思ってるんだ。
今の司には当時は無かった力があった。
彼は権力者でもあり実力者でもある。
彼の若さでその地位にのぼりつめたことを不思議に思う人間もいるだろう。
司の母親が、そして父親がそうであったように時の権力者への影響力を持つまでになっていた。
役人の首を替えるなんて簡単なことだ。
そんなことが出来るのも彼が道明寺司だからだ。
人目を引かずにはいられない男の姿は葬儀の場でも目立っていた。
余多の黒い喪服姿の人間がいる中でもこの男は人を惹きつけるオーラを持っている。
冷たい美貌の持ち主と呼ばれる男。
その男は大勢の弔問客のなかを進んでいく。
ちらちらと彼に向けられる視線は沢山あった。
そんななか、一人の喪服の男が司の傍へと近づいてきた。
「司、随分と早いお出ましだね」
類はそう言うと司の隣の席へと腰を下ろした。
「おまえこそ早いじゃねぇかよ、類」
司は類の皮肉を無視した。
「うん、混むのがいやだから。俺、ここ座ってもよかったんだよね?」
「フン」
「ねえ司、今日の主役は道明寺にとっては嫌な人間じゃなかった?」
「ああ。そうだったな。けど死んじまった人間どうこう言っても仕方ねぇ」
「ふーん。司も少し考え方が変わったんだね」
隣り合って座っている男は何の感情も見せずに言った。
「・・・なあ類。欲しかった物が手に入ったらどうする?」
司はそこまで言うと類の反応をうかがった。
「・・俺、欲しいものなんてないからわからないよ」
類は一瞬黙り込んだあと言った。
_____類
いつわりの友の口から紡ぎ出される言葉は______嘘だ。
つくしを見つけたとき、司は本能に導かれるように後をつけた。
女は彼の存在に気付いてはいなかった。
そして目的地はすぐにわかった。
司は携帯電話を取り出すと女の目的地にいる男に電話した。
呼び出し音が鳴り相手が出た。
「なに?」
そのひとことで類が答えた。
「俺だ」
「なんの用?」
「なあ類、俺がこっちに帰ってきてもう半年になる。一度くらいゆっくり会わないか?」
「悪いけどそういう気分じゃない」類が言った。
「今お前の家の前まで来てる」
「・・そう」
「で?俺と会うつもりはないのか?」
「なんの用?」類が再び聞いた。
「牧野のことで」
司はそこまで言うと類の反応をうかがった。
「・・・まきのって?」
「類、覚えてるか?俺が昔し好きだった女だ」
「・・そう言えば、そんな女がいたね・・で?」
「類、あの女どうしてるか知ってるか?」
「知らない。・・どうして俺にそんなこと聞くの?」
類の口調に含まれた何かに司は口を閉ざした。
「いや、なんでもない」
司はしばらく黙ったあと言った。
「もういいんだ」
司はそれだけいうと一方的に電話を切った。
牧野は類のところにいた。
あのとき類は俺が牧野を探しているのを知って黙っていた。
あの日の偽りの友の声が耳元で聞こえて来るようだった。
司の唇は冷笑に歪んだ。
俺が牧野を探していたとき、類は何も知らないふりをして俺から牧野を隠していた。
だから牧野がこんな運命をたどることになったのは類のせいだ。
類が欲しかったものは、俺が欲しかったもの・・・・同じ女だった。
今、ここにこうして隣に座る類は、牧野がどこでどうしているのか知っているのだろうか、と司は短く笑っていた。

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ka**i様
大丈夫ですから!
仰る通り真意は別にあるんです。
ただ、今はそれが書けません。
類の行動には色々と事情があります。
このお話は暗い、重いですので読むのがちょっと・・
と思われるかもしれません。
が、二人が不幸で終わるなんてことはありません。
それだけはお約束します。
コメント有難うございました。
明るいお話も早くスタートしなくてはと思い始めました(^^)
大丈夫ですから!
仰る通り真意は別にあるんです。
ただ、今はそれが書けません。
類の行動には色々と事情があります。
このお話は暗い、重いですので読むのがちょっと・・
と思われるかもしれません。
が、二人が不幸で終わるなんてことはありません。
それだけはお約束します。
コメント有難うございました。
明るいお話も早くスタートしなくてはと思い始めました(^^)
アカシア
2015.12.08 23:53 | 編集

as***na様
いつもお読み頂き有難うございます。
狂気の司に驚喜されましたか!(笑)
でもね、書いていると暗くなりがちなのです(笑)
こんな司はどうなのかなぁ・・と思いながらも
財閥の後継者としての責務だけは果たしているようです。
心の闇は深いようです。
愛情が足りていません。早く愛を与えてあげたいと思いますが
色々とありそうです。←多分(笑)
コメント有難うございました(^^)
いつもお読み頂き有難うございます。
狂気の司に驚喜されましたか!(笑)
でもね、書いていると暗くなりがちなのです(笑)
こんな司はどうなのかなぁ・・と思いながらも
財閥の後継者としての責務だけは果たしているようです。
心の闇は深いようです。
愛情が足りていません。早く愛を与えてあげたいと思いますが
色々とありそうです。←多分(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2015.12.09 00:01 | 編集

お**A様
はじめまして。お疲れ様です(^^)
ご心配の件、大丈夫です。
拙宅の二人、司とつくしが結ばれることを前提に書いています。
困難があってもそこを乗り越え、支えてと思っています。
今は不幸だとしても二人が幸せを掴んでもらえないと私も哀しいです。(泣)
この司は狂気に走っていますが、明るいお話も近々スタートさせなければ
と思っています。
もしお心が苦しく感じられる様でしたらお読みにならない方がよろしいかもしれません。
ご無理なさいませんようにして下さいませ。
コメント有難うございました(^^)
はじめまして。お疲れ様です(^^)
ご心配の件、大丈夫です。
拙宅の二人、司とつくしが結ばれることを前提に書いています。
困難があってもそこを乗り越え、支えてと思っています。
今は不幸だとしても二人が幸せを掴んでもらえないと私も哀しいです。(泣)
この司は狂気に走っていますが、明るいお話も近々スタートさせなければ
と思っています。
もしお心が苦しく感じられる様でしたらお読みにならない方がよろしいかもしれません。
ご無理なさいませんようにして下さいませ。
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2015.12.09 00:12 | 編集

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赤****子様
はじめまして。こんにちは^^
パスワードのお問合せの件ですが、カテゴリ―の中に『パスワードのご案内』という記事がありますので、そちらをご覧下さいませ。
よろしくお願いいたします^^
はじめまして。こんにちは^^
パスワードのお問合せの件ですが、カテゴリ―の中に『パスワードのご案内』という記事がありますので、そちらをご覧下さいませ。
よろしくお願いいたします^^
アカシア
2018.06.22 21:39 | 編集
