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2015
12.01

まだ見ぬ恋人40

世の中で強固な考えがもっとも必要となるのは自分の母親と話し合うときだなんて世間広しと言えど、ごくまれなことだろう。
二人が到着したとき、世田谷の邸にいたのはニューヨークから帰国してきた司の母親だった。


つくしはどんな先入観も与えられたくなかったから司の母親について世間で言われている話しは信じていなかった。
たとえどんな母親だったとしても司を生んでくれた人だ。
そう思えば気持ちも楽になった。


が、この対面に対してもう少し慎重に行動するべきかもと思った。
もっと司の母親についてよく知ってからでも遅くはなかったのではないかと思いはじめていた。


正確な年齢は知らないがつくしの前に腰をかけているのは50代の女性だった。
ただし、ただの50代の女性ではない。
洗練されていて眼差しも鋭く隙が無い。
そして威厳のあるその佇まいは生まれ持ったものだろう。
この人はいつもこんな表情をしているのだろうか?
美しい人だけど、どこか冷たい感じを受ける人だった。
司の父親に代わって財閥を統率するアイアンレディと呼ばれる人。
この女性の強力なリーダーシップのもと、道明寺HDは躍進を続けている。


司と椿さんの母親・・・
一見して二人とこの母親のどこが似ているかと問われれば・・
三人とも気が強く信念を貫くところ?
貴族的な顔立ちで、二人の子供から想像するに髪の毛も豊かであろう。
その髪も今は上品に結い上げている。
司の髪は天然のウェーブがかかっているけど、椿さんはストレートだ。
母親はどちらなのだろう?
つくしはそんなことを考えている自分が可笑しかった。


「あなた・・牧野つくしさんとおっしゃいましたよね?」


司がつくしを紹介したとき、一瞬だが母親の顔に笑みが浮かんだような気がした。

司はすぐさま用件を切り出した。
「俺、こいつと結婚するから」

「ええ。知ってます。あなたがそのつもりでこちらの方とお付き合いをしているのは」

「俺はあんたが反対してもこいつと結婚するつもりだから」
司の口調はある覚悟を感じさせた。



母親はほほ笑むとこの対面の核心に触れてきた。
まわりくどい言い方をしないのは彼女の子供たちと同じだった。

「司、あなたこちらのお嬢さん・・つくしさんと結婚するつもりなら結婚には責任が伴うんだからきちんと手順を踏みなさい」
母親の手はテーブルから繊細な作りの磁器を持ち上げるとゆっくりと口元へと運んでいた。

「つくしさん、あなたも本当にそのつもりならわたくしに対してお話して頂けることがあるでしょ?」
母親の意外な言葉に司は面食らっていた。


つくしは司のほうを見やった。
「は、はい。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私、司さんとお付き合いをさせて頂いています」
司はつくしが自分の隣で母親と話しをしているのを聞いていて何事も変化するものだと思った。
だが、まさか自分の母親がつくしとの結婚に反対しなかったのには驚いていた。

今まで敢えて母親に会おうとしなかった。
子供のころから我が子に会いにくるということが無かった両親が今更どうだと思っていた。
ろくな会話もなくその両親から伝えられる言葉は使用人を通してだった。
学生時代の無軌道な自分から今の地位に着くまでのあいだも仕事のこと以外で顔を合わせることはほとんどなかった。
それがこうしてつくしを挟んで話しをしているのが不思議だった。
司がそんなことを考えている間も二人の会話はまだ続いていた。



帰宅する車のなかで二人とも無言だった。
世田谷の邸を出て車に乗りマンションに着くまでのあいだ、つくしだけが居眠りをしていた。
そして車がつくしのマンションに着いて司に起こされたとき、今日一日がやっと終わったと言う思いでほっとしていた。




*****




三人の男は興味津々の顔で飲み物を口にしていた。
「なあ、結局どうだったんだ?」
「そうだよ、話せよ」
「司、反対されたんだったら俺が牧野と結婚しようか?」
類のあてこすりは無視した。


司が三人の親友に語った話し。

あのお袋さんが司を捕まえて長々と説教をした。

なんでも、結婚には責任が伴うんだからきちんと手順を踏みなさい、とか・・
今更あなたに何をいったところでどうなるわけでもないでしょう、とか・・
まさかもう子供ができたなんてことはないでしょうね、とか・・
最後には好きな人と結婚したらいいわ。
つくしさん、こんな不出来な息子だけどお願いするわ。


三人は司の話しを黙って聞いていた。
それほど司の語るつくしと彼の母親との対面の結果に夢中になっていた。
なにしろあのお袋さんだ。
昔、息子の友人たちに向かって放った言葉。
脳みそが溶けて無くなるなんて発言をされたことを三人とも覚えていた。

そして今までならそんな母親の話しなんて一切聞く耳を持たなかった司が牧野つくしと一緒に雁首揃えたようにおとなしく話しを聞いていたのか?


司がつくしと自分の母親の対面について語って聞かせると
「拍子抜けしたね」と口を開いたのは類だった。
「もっと揉めたら面白かったのに」
「おい類!縁起でもないことを言うな!」
「どうして?だってそのほうが面白いでしょ?あきらだってそのほうが楽しいでしょ?」
「類!てめぇ人の恋愛で遊んでんじゃねぇぞ!」司はむっとして類を睨んだ。

「やめろよ類。司が昔みたいに狂猛な男になったらどうすんだよ!
そんなになったら手が付けられなくなるぞ!日本の経済はどうなるか考えろよ!」

「なるほどね・・そういうことか!」総二郎は声をあげて笑った。
「なにがそういうことなんだよ総二郎?」あきらは考えながら言った。

「つまり、司にこのまま安定した生活を送らせるためにつくしちゃんは猛獣の餌として与えられたってわけだ」

「それって・・餌というよりも牧野つくしは猛獣使いってこと?」類は首をかしげて聞いた。
「日本経済の発展のための餌かよ・・相変らず司のお袋さんって考えることがすげぇな・・
 現代版人身御供か?」あきらは呟いていた。


「それで、つくしちゃんはどうした?」
「ああ。あれからなんかすげぇ疲れたってベッドに倒れ込んでた」
「ババァがどう出るか分からなかったけどよ」と、司は続けた。
「正直なところ、驚いたってのが感想だな。」
と話しをしめくくっていた。
そしてそのとき、いつもなら自分の母親のことを厳しい表情で語る司の顔が少しだけ柔和に変化したのを友人たちは見逃さなかった。








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コメント
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dot 2015.12.01 07:35 | 編集
ka**i様
いつもお読み頂き有難うございます。
楓さんの優しいでしょ?(笑)
いい大人なんだから自分のことは自分でケジメをつけなさい!
と言う感じの楓さんでした。
お見合いしても相手をぶっ飛ばすような司ですから。
それに好きな人と一緒にさせた方が能力アップするのは間違いないと
思っていると思います。
やはり好きな人に傍にいてもらい支えてもらえることが
孤独だった彼の為になるとの親心でしょうか。
子離れの早い道明寺家ですから当然親離れも早いでしょうね。
コメント有難うございました(^^)


アカシアdot 2015.12.01 22:13 | 編集
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