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2019
05.23

理想の恋の見つけ方 133

博物館の中は暑くもなければ寒くもない。
温度管理がされたこの場所に流れる風はないが、その代わりあるのは乾いた空気。
その乾いた空気の中に感じられる男の香りはつくしの鼻腔をくすぐっていた。

本来なら館内を一緒に見て回る義務はないはずだが、連れて来てもらっている以上あっちへ行ってなど言えるはずもなく、相手が離れていくことを待つしかなかったが、つくしの傍を離れない男は時々質問を投げかけてくる。
そしてそれを無視することは出来ない女は答えを返していたが、頭の中にあるのは、ついさっき言われた言葉だ。

それは、他の男がしたことで俺を批判的な目で見るな。
つまりそれは、世の中の全ての男が女の外見だけを重んじている訳ではないという意味だが、いくらそう言われても、あの当時付き合っていた恋人と別れて以来、誰とも付き合ったことがない女に男の気持ちなど分かるはずがなかった。

けれど道明寺司の指摘が間違っているとは言えないことも分かっている。
それは、世の中には目に見える見えないに関わらず大きな傷を抱えて生きている人間が大勢いて、彼らがそれぞれに人生に折り合いをつけて生きているということ。
しかし、誰がただの傷跡ではなく気味の悪い傷跡を喜んで見たいというのか。
それに、いつまでたっても消し去れない記憶というものが、心のどこかにあることは自分でも分かっていた。

それは、お前は深海の岩場に隠れたシーラカンスだと言った男の言葉を認めることになるが、言葉を返すことも話題をそらすことをしなかった女の脚の傷に、あれ以上触れようとしないのだから、少なくとも今のこの状態でいれるならそれでいいと思った。

何しろこうして一緒にいるのは今日だけだ。
明日からの予定は消えたが、これ以上この男と一緒に過ごすつもりはない。それにまた何か贈り物を寄越すなら、部屋番号は分かったのだからフロントに預け渡してもらうように言えばいいはずだ。

それにしても、今のつくしは一挙手一投足を見られているような気がしていた。
だが脚の傷のことを言われるまでは、そこまで気にしてはいなかった。それでも今は確実に気にしていた。
それに分かっている。自分が脚の傷を気にし過ぎていることも。
そして道明寺司という男を意識し過ぎていることも分かっている。
分かっていながら、分からないフリをしている自分がいることも知っている。
だから接し方を考えたが、どう接すればいいのか分からなかった。だが海洋生物学者である准教授としての立場なら対等に接することが出来た。だから博物館を一緒に巡ることに対し逡巡することはなかった。

けれど隣にいる男のつくしに対しての言葉は、今まで自分自身が見たくないと蓋をしていた感情に針を突き立てる。
そして針を突き立てられたその感情は人から否定されることが怖いという感情だ。
だが道明寺司はつくしの過去を否定しないと言った。
自分の前にあるのは常に現在で過去はどうでもいいと言った。

そう考えていたところで、後ろから声を掛けられた。
だがそれはつくしに対してではない。
その声は道明寺司の名前を呼んだ。



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コメント
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dot 2019.05.23 06:09 | 編集
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dot 2019.05.23 08:10 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
ずっと蓋をしていた気持を司によって呼び戻された!
確かに司が現れなければ。と思うところですね?
でもね、つくし!相手は道明寺司よ?恋をしなくてどうする?
さて。司に声をかけて来た人は誰なのか?
え?昔の彼女?さて誰でしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.05.24 22:58 | 編集
み***ん様
おはようございます^^
はい。つくしの心は揺れ動いています。
司によって考えざるを得ない状況にさせられる過去のこと。
そして蓋をしていた恋をするという気持ち。
そうなんです!司に対する防御線は細く細くなってきました。
そのことを自覚していますが認めたくない。
司よ!あともう少しだ!と思うのですが、さてここで声をかけてきたのは誰なのでしょうねぇ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.05.24 23:04 | 編集
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