二人の触れそうで触れることがない距離で言われた小さなかすり傷とは、右の骨盤の辺りから膝にかけて残るボートのスクリューによって負った傷。
だがそれはかすり傷というには大きすぎる傷で跡を残していた。
しかし、その傷がある場所がひと目に晒されることはない。
それでも恋人だった男性とはその傷が元で別れた。
そしてその時つくしは現実を受け入れた。
それは、いつかつくしのことを好きになってくれる男性がいたとしても、傷跡まで受け入れてくれる男性はいないということ。
当然だが男女の仲になれば身体を相手の前に無防備に晒し肌を触れ合わすことになる。
そのとき相手がどんな表情を浮かべるのか。嫌悪の顔か。それとも哀れみの顔か。
どちらにしても、そんな顔は見たくはなかった。
だから桜子が紹介してくる男性に対しても積極的になることはなかった。
そして思い出されるのは、どこか後ろめたそうに別れを告げたあの時の恋人の顔。
だからその顔を打ち消すように目を閉じた。そしてギュッと固く閉じ、そしてまた開くと小声で言った。
「小さなかすり傷なんかじゃない..…私の脚にあるのはかすり傷なんかじゃない。醜い傷跡だわ」
道明寺司は傷の全容を見たのではない。
だから見えるものが全てではないと言えるのだ。
そして、つくしの心の中に踏み込んでこようとする男に対し言葉よりも感情の方が先に立ったが、平静さを保つことが出来たのは、ここが博物館で周りにあるのは海の生物に関係する展示であり、自分のテリトリーとも言える場所だからこそ落ち着いた気持ちでいることが出来た。それでもやはり感情というのは時に抑えきれないこともある。
だからその思いが口を突いた。
「あなたに何が分かるって言うんですか?分かったような口を訊くのは止めて下さい。それにあなたのような容姿の人にそんなことを言われても心に響きません」
つくしの隣にいる長身の男の姿は、ルネッサンス期に作られた傷ひとつない聖者像に匹敵すると言われ、女性達の目を惹き付ける美貌を持っている。だからそんな人に身体に負った傷の何が分かるのかと言いたかった。
「それに私は_」
「いいか。牧野つくし」
司は牧野つくしが次の言葉を口にする前に言葉を挟んだ。
「これは今までも言ったことだが他人のフリをして電話をしていた俺に対し信頼をしろと言ってもそう簡単にはいかないことは分かっている。だが他の男がしたことで俺を批判的な目で見ることは腹が立つ。お前は俺が他の男がしたことと同じことをすると思っているようだがそれは違う」
司は牧野つくしの傷跡の全てを見たわけではないが、どんなに酷いと言われる傷跡でも気にすることはない。
それにどんな傷跡も消すことが出来る世界最高の腕を持つ美容整形外科医を知っている。
だがだからといって司が傷跡を消す手筈を整えてやると言ったとしても、消えない事実と向き合って生きて来た女はそのことを受け入れはしないはずだ。
そう思うのは、牧野つくしという女が自分の力で生きることが美徳だと考える女だと今では理解しているからだ。
合理的という言葉が相応しかった司の男女の付き合いは、言い換えれば会えばセックスをするだけの関係。
それに司が付き合って来た女達は潮時という言葉を理解していた。だから別れに際し面倒なことになったことはなかったが、中には一生遊んで暮らせるパスポートが欲しいという女もいて、そのパスポート欲しさに生まれ持った身体にメスを入れる女もいた。
つまり美しさというのは金で買えるということ。
そして美しさを金で買った女は、さも司のことを考えて美を手に入れたようなことを口にする。だが所詮それはツラの皮一枚の話であり、心の中が変わることはなければ私欲にまみれた女達の心の中に愛というものは存在しなかった。
心の傷と身体の傷。
今の医学のレベルからすれば身体の傷はどうにでもなる。
だが心の傷は身体に負った傷よりも深刻なダメージを与える。
それは軽薄な男によって傷つけられた心の傷。
それを癒すことが出来る男でなければ、牧野つくしを手にいれることは出来ない。
だがそれは今まで女に惚れたことがなかった司にとっては簡単なことではなかった。

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だがそれはかすり傷というには大きすぎる傷で跡を残していた。
しかし、その傷がある場所がひと目に晒されることはない。
それでも恋人だった男性とはその傷が元で別れた。
そしてその時つくしは現実を受け入れた。
それは、いつかつくしのことを好きになってくれる男性がいたとしても、傷跡まで受け入れてくれる男性はいないということ。
当然だが男女の仲になれば身体を相手の前に無防備に晒し肌を触れ合わすことになる。
そのとき相手がどんな表情を浮かべるのか。嫌悪の顔か。それとも哀れみの顔か。
どちらにしても、そんな顔は見たくはなかった。
だから桜子が紹介してくる男性に対しても積極的になることはなかった。
そして思い出されるのは、どこか後ろめたそうに別れを告げたあの時の恋人の顔。
だからその顔を打ち消すように目を閉じた。そしてギュッと固く閉じ、そしてまた開くと小声で言った。
「小さなかすり傷なんかじゃない..…私の脚にあるのはかすり傷なんかじゃない。醜い傷跡だわ」
道明寺司は傷の全容を見たのではない。
だから見えるものが全てではないと言えるのだ。
そして、つくしの心の中に踏み込んでこようとする男に対し言葉よりも感情の方が先に立ったが、平静さを保つことが出来たのは、ここが博物館で周りにあるのは海の生物に関係する展示であり、自分のテリトリーとも言える場所だからこそ落ち着いた気持ちでいることが出来た。それでもやはり感情というのは時に抑えきれないこともある。
だからその思いが口を突いた。
「あなたに何が分かるって言うんですか?分かったような口を訊くのは止めて下さい。それにあなたのような容姿の人にそんなことを言われても心に響きません」
つくしの隣にいる長身の男の姿は、ルネッサンス期に作られた傷ひとつない聖者像に匹敵すると言われ、女性達の目を惹き付ける美貌を持っている。だからそんな人に身体に負った傷の何が分かるのかと言いたかった。
「それに私は_」
「いいか。牧野つくし」
司は牧野つくしが次の言葉を口にする前に言葉を挟んだ。
「これは今までも言ったことだが他人のフリをして電話をしていた俺に対し信頼をしろと言ってもそう簡単にはいかないことは分かっている。だが他の男がしたことで俺を批判的な目で見ることは腹が立つ。お前は俺が他の男がしたことと同じことをすると思っているようだがそれは違う」
司は牧野つくしの傷跡の全てを見たわけではないが、どんなに酷いと言われる傷跡でも気にすることはない。
それにどんな傷跡も消すことが出来る世界最高の腕を持つ美容整形外科医を知っている。
だがだからといって司が傷跡を消す手筈を整えてやると言ったとしても、消えない事実と向き合って生きて来た女はそのことを受け入れはしないはずだ。
そう思うのは、牧野つくしという女が自分の力で生きることが美徳だと考える女だと今では理解しているからだ。
合理的という言葉が相応しかった司の男女の付き合いは、言い換えれば会えばセックスをするだけの関係。
それに司が付き合って来た女達は潮時という言葉を理解していた。だから別れに際し面倒なことになったことはなかったが、中には一生遊んで暮らせるパスポートが欲しいという女もいて、そのパスポート欲しさに生まれ持った身体にメスを入れる女もいた。
つまり美しさというのは金で買えるということ。
そして美しさを金で買った女は、さも司のことを考えて美を手に入れたようなことを口にする。だが所詮それはツラの皮一枚の話であり、心の中が変わることはなければ私欲にまみれた女達の心の中に愛というものは存在しなかった。
心の傷と身体の傷。
今の医学のレベルからすれば身体の傷はどうにでもなる。
だが心の傷は身体に負った傷よりも深刻なダメージを与える。
それは軽薄な男によって傷つけられた心の傷。
それを癒すことが出来る男でなければ、牧野つくしを手にいれることは出来ない。
だがそれは今まで女に惚れたことがなかった司にとっては簡単なことではなかった。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
脚の傷跡に囚われている女の頑なな心。
司はそれを解くことが出来るのでしょうか?
今のこの状態の司にしてみれば何かきっかけが欲しいといったところだと思いますが、どうなるのでしょう。
そしてつくしは司のことを信じることが出来るようになるのか。
そこが一番の問題ではないかと思われます(-_-;)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
脚の傷跡に囚われている女の頑なな心。
司はそれを解くことが出来るのでしょうか?
今のこの状態の司にしてみれば何かきっかけが欲しいといったところだと思いますが、どうなるのでしょう。
そしてつくしは司のことを信じることが出来るようになるのか。
そこが一番の問題ではないかと思われます(-_-;)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.05.24 22:42 | 編集
