いきなり花沢類に告白をされたつくしはどう答えたらいいものか悩んだ。
「なに?牧野さん今夜司が帰国してなにか予定でもあった?」
「あ、ありません・・けど・・」
類はその言葉に口元をほころばせ「じゃあ、コンサートいいよね?」
とつくしが一瞬躊躇したのを見逃さずにすかさず言った。
そして類は天使のほほ笑みを返した。
作為的なほほ笑みじゃない、自然なほほ笑みだ・・
この人は自分が女性にどんな影響を与えるのかわかっているのだろうか。とつくしは思った。
いつもは美貌の男性に会うと気圧されるつくしだったが、いつも道明寺さんといたせいか花沢類のそんなほほ笑みも彼自身の自然な態度に思えた。
この二人に出会って以来、つくしの生活は奇妙な様相を呈してきた。
今まで同時に二人の男性に告白を受けたことなんて無かった。
はぁ・・道明寺さんにしても花沢さんにしてもやっぱりこの二人は住む世界が違う・・。
つくしは王子様のこのほほ笑みって何スマイルって言うの?と考えた。
アルカイックスマイル?
ううん、違う!それじゃあ仏像だ。
花沢さんは仏像とは全然違う。
こんなにカッコいい仏像なんてあるわけない。
もしこんなに素敵な仏像があったら仏像マニアが放っておくわけがない。
道明寺HDも花沢物産も企業としては一流だ。
今回のこのコンサートだって花沢物産のメセナ事業のひとつだし、道明寺HDだって世間に対して企業としての説明責任を充分果たしている会社だ。
ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)って言うの?
貴族制度が残るイギリスでは当然のように言われる地位の高い人は他者に対して寛大に振る舞わなければならない。
企業トップや政治家はリーダーとしての地位と責任を負うという言葉。
道明寺さんだってちゃんとやってるわよ!
CSR(企業の社会的責任)だってちゃんとしてるわよ!
なのに!なによ、あの環境保護団体は!
環境に配慮しろだなんてあの刺そうとした人なんてあの場所にも住んでないんでしょ?
利害関係なんてなーんにもない・・
はぁ・・・企業のトップか・・・
そんな地位の高い人たちがどうして私なんかに興味をもったんだろう・・
「牧野さん?」
そう呼ばれたつくしは慌てて向かいの席に座る類に視線を戻した。
「あ、え?はい」
「どうしたのぼーっとして?」
「いえ、なんでもありません。あのヴァイオリニストの演奏凄かったですね!」
つくしはそう言うと目の前に置かれていたコーヒーに手を伸ばした。
コンサートのあと、花沢さんに食事をごちそうになった。
そして今はこうしてデザートを口にしている。
「これだけの規模のオーケストラを呼ぶなんて花沢さんの会社も凄いんですね!」
つくしは黒い瞳を輝かせて聞いた。
「そんなことないよ。だってこのオーケストラとうちは長い付き合いで伝統があるからね」
「さしずめお金よりも伝統の力ってことかな」
類はにこやかに答えた。
「ずっとまえにここの指揮者が渡欧したとき花沢ヨーロッパで後援していた時があってね。あ、知ってるよね?指揮者のこと?」
「はい、勿論。有名な方ですよね。炎のマエストロって呼ばれている方ですよね?」
つくしも大使館に勤務していたので文化交流事業に関係したこともある。
「当時あの国はまだ共産主義国で色んな面で大変だったからね・・・それにソビエトが崩壊してからの東ヨーロッパは色々と大変だったしね」
「牧野さんは東ヨーロッパの国には行ったことはある?」
「いいえ・・」
花沢さんってなんて優しそうに笑うんだろう・・・・
つくしは類がまたコンサートに誘ってくれたことに驚いていた。
だからと言ってそれ以上のなにかを期待しているわけではなかった。
と、言うよりも花沢さんに好きだって言われたことの方が驚いた。
今日だって断る理由が見つからなかったから来たんだけど・・・
「牧野さんはヴァイオリンは好き?」
「いえ・・そんなに詳しくはないんです・・・ただ、クラッシック音楽を聴いていると気持ちが落ち着くような気がします」
「そ、それに寝るにはちょうどいいかなって・・」
つくしは苦笑した。
「牧野さんって面白いよね」
つくしは口を開きかけて類の次の言葉に頬を赤らめた。
「今日も時々舟を漕いでいたものね?」
「えっ?ばれちゃいました?」
今度はつくしも心から笑い、いつしか花沢類との会話を楽しんでいた。
「牧野さんの笑った顔ってやっぱり好きだな。司もきっとそんな笑顔に惚れたのかな?」
類がクスッと笑った。
つくしは類の問いかけに言葉を詰まらせると手にしていたコーヒーを溢しそうになった。
「あ、あの・・・花沢さん・・・」
「俺ね、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が好きなんだ」
類はつくしが話し出そうとしたとき話しを遮るように話しだしていた。
「ねえ、司と一緒に仕事をしてみてどう?」
「し、仕事には厳しい方ですね。私なんて大使館に勤めていただけでまだまだ勉強不足です」
「そんなことないでしょ?だって牧野さんだってA国の官僚に顔なじみだって聞いたよ?
なんか牧野さんってフィクサーみたいだね?」
「そ、そんな。な、なに言ってるんですか!」
類はしばらく、口をつぐんだ。
やがて先ほどとは打って変わったような静かな声で話しをはじめた。
「ねえ牧野さん、変に取らないでほしいんだけど牧野さんのこと、どうこうしようと思って今日誘ったわけじゃないから」
「え?」
「ただね、今日司が帰国するんでしょ?だから牧野さんのこと誘ったんだ」
つくしは意味がわからないというふうに類を見た。
「あいつね・・昔おれが大切にしていたものを取ったんだ」
ますます意味がわからないつくしは怪訝な顔をした。
「だって司は今日帰国した絶対に牧野さんに会いに行くはず・・」
「だから牧野さんを家から遠ざけておきたかったんだ」
こうした展開になるとは予想もしていなかったつくしは聞いた。
「意味がわからないんですけど・・・」
「正直に言ってもいい?」
「は、はい」
「司のこと、からかってみたかったんだ。でね、ちょっとした仕返しかな」
「司には昔っから振り回されているからね」
「それに俺は恋人より友達って感じだよね?牧野さん」
類の口調は低くなり真剣なものに変わっていた。
「司のことが気になってるって顔に表れているよ?」
類はつくしの顔をまじまじと見つめている。
「会社では困った犬みたいな顔になってたし・・」
類が含み笑いをした。
「それにね、牧野さんとは恋人関係になるより友達関係でいた方がリラックスできるよ。
だから、俺のことは花沢さんじゃなくて類って呼んで」
つくしは自分がどんな顔しているのか分からなかったが想像したような困った状況にならなくて良かったと思い類に向かってにっこりとほほ笑んだ。
つくしは帰りの電車の中で心地よい揺れに身をまかせながら思い出していた。
思えば道明寺さんに好きだって言われてキスして・・・
彼に惹かれるなんて思ってもみなかったけど、彼が刺されそうになったとき、自分の気持ちに気がついた。
キスだってそう。彼が止めなかったら自分から求めていた・・
花沢・・・類にだってわかるくらいなんだもの・・
きっと私は彼が好き。
道明寺司が好きなんだ。

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そして類は天使のほほ笑みを返した。
作為的なほほ笑みじゃない、自然なほほ笑みだ・・
この人は自分が女性にどんな影響を与えるのかわかっているのだろうか。とつくしは思った。
いつもは美貌の男性に会うと気圧されるつくしだったが、いつも道明寺さんといたせいか花沢類のそんなほほ笑みも彼自身の自然な態度に思えた。
この二人に出会って以来、つくしの生活は奇妙な様相を呈してきた。
今まで同時に二人の男性に告白を受けたことなんて無かった。
はぁ・・道明寺さんにしても花沢さんにしてもやっぱりこの二人は住む世界が違う・・。
つくしは王子様のこのほほ笑みって何スマイルって言うの?と考えた。
アルカイックスマイル?
ううん、違う!それじゃあ仏像だ。
花沢さんは仏像とは全然違う。
こんなにカッコいい仏像なんてあるわけない。
もしこんなに素敵な仏像があったら仏像マニアが放っておくわけがない。
道明寺HDも花沢物産も企業としては一流だ。
今回のこのコンサートだって花沢物産のメセナ事業のひとつだし、道明寺HDだって世間に対して企業としての説明責任を充分果たしている会社だ。
ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)って言うの?
貴族制度が残るイギリスでは当然のように言われる地位の高い人は他者に対して寛大に振る舞わなければならない。
企業トップや政治家はリーダーとしての地位と責任を負うという言葉。
道明寺さんだってちゃんとやってるわよ!
CSR(企業の社会的責任)だってちゃんとしてるわよ!
なのに!なによ、あの環境保護団体は!
環境に配慮しろだなんてあの刺そうとした人なんてあの場所にも住んでないんでしょ?
利害関係なんてなーんにもない・・
はぁ・・・企業のトップか・・・
そんな地位の高い人たちがどうして私なんかに興味をもったんだろう・・
「牧野さん?」
そう呼ばれたつくしは慌てて向かいの席に座る類に視線を戻した。
「あ、え?はい」
「どうしたのぼーっとして?」
「いえ、なんでもありません。あのヴァイオリニストの演奏凄かったですね!」
つくしはそう言うと目の前に置かれていたコーヒーに手を伸ばした。
コンサートのあと、花沢さんに食事をごちそうになった。
そして今はこうしてデザートを口にしている。
「これだけの規模のオーケストラを呼ぶなんて花沢さんの会社も凄いんですね!」
つくしは黒い瞳を輝かせて聞いた。
「そんなことないよ。だってこのオーケストラとうちは長い付き合いで伝統があるからね」
「さしずめお金よりも伝統の力ってことかな」
類はにこやかに答えた。
「ずっとまえにここの指揮者が渡欧したとき花沢ヨーロッパで後援していた時があってね。あ、知ってるよね?指揮者のこと?」
「はい、勿論。有名な方ですよね。炎のマエストロって呼ばれている方ですよね?」
つくしも大使館に勤務していたので文化交流事業に関係したこともある。
「当時あの国はまだ共産主義国で色んな面で大変だったからね・・・それにソビエトが崩壊してからの東ヨーロッパは色々と大変だったしね」
「牧野さんは東ヨーロッパの国には行ったことはある?」
「いいえ・・」
花沢さんってなんて優しそうに笑うんだろう・・・・
つくしは類がまたコンサートに誘ってくれたことに驚いていた。
だからと言ってそれ以上のなにかを期待しているわけではなかった。
と、言うよりも花沢さんに好きだって言われたことの方が驚いた。
今日だって断る理由が見つからなかったから来たんだけど・・・
「牧野さんはヴァイオリンは好き?」
「いえ・・そんなに詳しくはないんです・・・ただ、クラッシック音楽を聴いていると気持ちが落ち着くような気がします」
「そ、それに寝るにはちょうどいいかなって・・」
つくしは苦笑した。
「牧野さんって面白いよね」
つくしは口を開きかけて類の次の言葉に頬を赤らめた。
「今日も時々舟を漕いでいたものね?」
「えっ?ばれちゃいました?」
今度はつくしも心から笑い、いつしか花沢類との会話を楽しんでいた。
「牧野さんの笑った顔ってやっぱり好きだな。司もきっとそんな笑顔に惚れたのかな?」
類がクスッと笑った。
つくしは類の問いかけに言葉を詰まらせると手にしていたコーヒーを溢しそうになった。
「あ、あの・・・花沢さん・・・」
「俺ね、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が好きなんだ」
類はつくしが話し出そうとしたとき話しを遮るように話しだしていた。
「ねえ、司と一緒に仕事をしてみてどう?」
「し、仕事には厳しい方ですね。私なんて大使館に勤めていただけでまだまだ勉強不足です」
「そんなことないでしょ?だって牧野さんだってA国の官僚に顔なじみだって聞いたよ?
なんか牧野さんってフィクサーみたいだね?」
「そ、そんな。な、なに言ってるんですか!」
類はしばらく、口をつぐんだ。
やがて先ほどとは打って変わったような静かな声で話しをはじめた。
「ねえ牧野さん、変に取らないでほしいんだけど牧野さんのこと、どうこうしようと思って今日誘ったわけじゃないから」
「え?」
「ただね、今日司が帰国するんでしょ?だから牧野さんのこと誘ったんだ」
つくしは意味がわからないというふうに類を見た。
「あいつね・・昔おれが大切にしていたものを取ったんだ」
ますます意味がわからないつくしは怪訝な顔をした。
「だって司は今日帰国した絶対に牧野さんに会いに行くはず・・」
「だから牧野さんを家から遠ざけておきたかったんだ」
こうした展開になるとは予想もしていなかったつくしは聞いた。
「意味がわからないんですけど・・・」
「正直に言ってもいい?」
「は、はい」
「司のこと、からかってみたかったんだ。でね、ちょっとした仕返しかな」
「司には昔っから振り回されているからね」
「それに俺は恋人より友達って感じだよね?牧野さん」
類の口調は低くなり真剣なものに変わっていた。
「司のことが気になってるって顔に表れているよ?」
類はつくしの顔をまじまじと見つめている。
「会社では困った犬みたいな顔になってたし・・」
類が含み笑いをした。
「それにね、牧野さんとは恋人関係になるより友達関係でいた方がリラックスできるよ。
だから、俺のことは花沢さんじゃなくて類って呼んで」
つくしは自分がどんな顔しているのか分からなかったが想像したような困った状況にならなくて良かったと思い類に向かってにっこりとほほ笑んだ。
つくしは帰りの電車の中で心地よい揺れに身をまかせながら思い出していた。
思えば道明寺さんに好きだって言われてキスして・・・
彼に惹かれるなんて思ってもみなかったけど、彼が刺されそうになったとき、自分の気持ちに気がついた。
キスだってそう。彼が止めなかったら自分から求めていた・・
花沢・・・類にだってわかるくらいなんだもの・・
きっと私は彼が好き。
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Comment:2
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます

k***i様
類くん、どうしてもこんなポジションになってしまいます。
司の事が好きなつくしを好きな類くんと言うキャラクターに
母性をくすぐるところがあるのではないでしょうか?
永遠の片思い・・
でも類がつくしと幸せになるのはダメなんですね?(笑)
やはりつくしは司のものなんですね?
えっ?類くんの結婚、そんなに遅くてもいいんですか?
確かに某様はまだまだイケていますので世間の皆様のショックは
計り知れないものがありましたね。
寂しいおじいちゃん類・・(笑)
大丈夫ですよ、きっと類には素敵なパートナーが現れます。
類の初恋は静さんで、次がつくし・・次に彼が魅かれるのはどんな女性なんでしょうね。
いえいえ、未来妄想は大切です。
エアラブと言うことで誰にも迷惑はかけませんのでOKです(笑)
コメント有難うございました。
類くん、どうしてもこんなポジションになってしまいます。
司の事が好きなつくしを好きな類くんと言うキャラクターに
母性をくすぐるところがあるのではないでしょうか?
永遠の片思い・・
でも類がつくしと幸せになるのはダメなんですね?(笑)
やはりつくしは司のものなんですね?
えっ?類くんの結婚、そんなに遅くてもいいんですか?
確かに某様はまだまだイケていますので世間の皆様のショックは
計り知れないものがありましたね。
寂しいおじいちゃん類・・(笑)
大丈夫ですよ、きっと類には素敵なパートナーが現れます。
類の初恋は静さんで、次がつくし・・次に彼が魅かれるのはどんな女性なんでしょうね。
いえいえ、未来妄想は大切です。
エアラブと言うことで誰にも迷惑はかけませんのでOKです(笑)
コメント有難うございました。
アカシア
2015.11.19 22:55 | 編集
