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2019
01.28

理想の恋の見つけ方 69

4階の書庫の扉は開いていた。

「さむっ…」

ひんやりとした空気が感じられる部屋へ一歩入り壁にある照明のスイッチを入れた。
そこは3階にあった書庫が移動した場所で、以前2階で使われていた書架が、ひと一人がやっと通れるほどの間隔で並んでいて視界がいいとは言えなかった。そしてそこは、並べられている古い本が放つ独特の匂いが立ち込めていた。

つくしは書架の間を見て回ることにすると、ゆっくりと歩き始めたがカラスの気配はなかった。それなら鳴き声だと思った声は気のせいなのか。だが確かに4階から音が聞こえた。
それなら何か別の音だったと言うことか。だとすれば一体何の音だったのかということになるが、もしかして誰かいるのか。
だがそうだとすれば電気もつけない暗闇に一体誰がということになるが、何かが動く気配は感じられなかった。
それでも、つくしは念のため声を出してみた。

「誰かいますか?」

返事はなかった。
つい今まで暗闇だったのだから誰もいないのが当然だが、それでも何かに追いかけられるような視線が感じられた。
そして空間の中で感じられるのは寒さから感じられるキリキリとした空気。
だがそれは書庫という本に囲まれた場所で感じられるものではないはずだ。

何かがおかしい。そう思った瞬間、背後に感じられる気配があった。だが振り向いたがそこには誰もいなかった。それならたった今感じた気配はカラスの鳴き声が聞こえたのと同じで気のせいなのか。カラスの鳴き声は空耳だったのか。
だとすれば耳が悪くなったのか。だが自分では耳が悪いとは思えなかったが、自覚症状がなくてもそういったことは十分あり得る。
そしてそれはそれで問題だが、今は図書館での探し物は終えたのだから、書庫から出ることにした。

ここにカラスがいないことは確認した。それに誰もいなかった。

「さむっ…。本ばかりで人気のない場所だもの。寒くて当然よね」

あえてひとり言を言うのは、たった今感じた気配を打ち消すためだ。
だがそう口にした途端、部屋の電気が突然消えた。







***







すっかり日が暮れた東京の夜は厚い雲に覆われ、みぞれ交じりの雨が車の窓を洗い流すのを見ていた。
司は1万キロ離れたニューヨークから羽田に着くと牧野つくしの大学に寄ることにした。
だがジェットは予定よりも羽田に着く時間が遅れた。
それは悪天候のため空港上空を30分近く旋回した後、ようやく羽田に到着したからだが、時計の針は7時を回っていた。だから今の時間はもう大学にいないかもしれない。

彼女が知る固定電話の番号は常に転送されるため、どこにいたとしても必ず繋がる。
昨日受けた電話は、東京では午後10時だとしても時差の関係でニューヨークは午前8時。
だがビジネスの時間にはまだ早く、いつも彼女が決めている30分の時間を取ることは可能だった。

司は自分が演じ始めた男になり切ることが厭だとは思わなかった。
メープルから牧野つくしに中華料理を届けさせ、彼女の話を訊きながら相槌を打つ。
それを楽しいと思えたのは、浮気をする妻を見て快楽を得る夫である高森隆三のそれとは全く違う。
それに牧野つくしに話したことが、彼女に合わるため真実の半分だとしても、傷つけているのではない。それは相手の心の裡を知るために必要なことだ。

急速に接近したと言える夜の電話の男と牧野つくし。
杉村と名乗った男と長谷川と名乗ることを決めた女は、偽名とは言え名前を持つことで何かが変わった。
そして司が求めているのは、自分への遠慮がなくなってくれること。それこそが牧野つくしの剥き出しの感情であるからだ。

だが道明寺司としての男は牧野つくしから遠い場所にいた。
それは物理的ではなく心の問題。杉村である司へ見せる態度は好意的で、道明寺司に見せる態度とは全く違った。
もし杉村が会おうと言ったらどうするのか。
だがふたりが電話で会話を始めるにあたりルールを決めた。それは、司の方からは電話をしないということ。だがそのルールは破った。そしてもうひとつは、会わないということ。
そのことが牧野つくしの心を軽くしているとすれば、会うことを拒否するのか。それとも杉村が強く会おうと言い含めれば会うだろうか。

司は今では耳慣れた彼女の声を訊いた途端、自分自身の脈が普段よりも早く打つことを知っていた。
そして今の司は、彼自身がどんな女にも裏表があることを証明するため牧野つくしに仕掛けた誘惑の罠に自らが嵌ったと感じていた。

だが牧野つくしには確かに裏表がある。
それは『私にとって男性と親しくすることは勇気がいること』
その言葉の意味を知れば、誰とも付き合うつもりはないという言葉の意味を理解することが出来るはずだ。
司は拒否されると分かっていても、これまで自分の人生にはいなかったタイプの女に会いたかった。




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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2019.01.28 06:01 | 編集
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dot 2019.01.28 12:33 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
書庫や倉庫といった所はひんやりとした所が多いですよね。
そして物があり過ぎて暗いんです(笑)
ペーパーレス化が進んでいるとは言え「資料室」というものはあるんですよねぇ(笑)そして紙は重いんです。
そんな場所で突然電気が消されると「えっ!」と思いますが、これは停電なのか。それとも故意なのでしょうかねぇ。

>彼らももう適齢期...
そうですね。色々と考えることはあると思います。
そして決断を受け入れた彼らも、彼らなにり我が身のことを考えたと思います。
でもファンの方を大切に考える彼らの姿勢は素晴らしいですね?
坊ちゃん。大人におなりになって!(泣)
今後の活躍を期待したいですね!^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.28 22:57 | 編集
イ**マ様
サスペンスチックな展開(≧▽≦)
確かにそうですねぇ。
ドキドキハラハラしますか?
書庫で何か起きるのか。それとも起きないのか。どうでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.28 23:07 | 編集
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