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2018
12.17

理想の恋の見つけ方 47

「ところで司。二面性があるんじゃねぇかってお前が一人二役やって相手にしてる准教授とはどうなった?」

あきらは今から行くと言って美作商事と道明寺が共に投資を決めたペルーの銅鉱山開発の書類を手に執務室を訪ねたが、それは誰か別の人間が届けても良かった書類。
だがわざわざ口実を作ってまで訪れたのは、女に興味を持ったことが無かった男が自ら起こした行動に、『もしかするとその女がお前の運命の女かもしれねぇな』とあきら自身が口にした言葉を確かめたいという気持ちが働いたからだ。

二人とも女性経験は十分あり性欲もある。
それは30代の男として当たり前といえることで非難されることではない。
そして鍛えた肉体が性技に繋がっていることは当然で、どんな女も一度寝れば彼らの虜になり夢中になった。だが女がそうなればなるほど気持ちが醒めるのが早かった。
だから司が一人二役までしてその女の本質を知りたいと思うことが、あきらにすれば、もしかするとこれは、と思えたのだ。

つまりそれは恋をしたことがない男の初めての恋ではないかということだが、そのことについて話をしようにも、男はあきらの問いかけに返事もせず書類に目を通していた。
だから「おい司訊いてるのか?」と、あきらは何も答えない男に言ったが、やはり返事は無く、あきらには男が訊いてないと思え再び口を開こうとした。だが男は、「ああ、訊いてる。ちょっと待ってくれ」と言って手元の書類にサインを終えるとようやくあきらに顔を向けた。


「それで?あきら。お前がわざわざ書類を持ってここへ現れたのは、あの女の話が訊きたいからか?」

背中を椅子に預けた男の顔はいつもと同じ表情が固着していて、変化を期待していたあきらにすれば、少し残念な思いがしたがそれでも訊いていた。

「ああ。あれからどうなったかと思ってな」

「フン。その口の利き方は好奇心と興味が半々ってところか?」

「ああそうだ。それでその学者先生とはどうなった?お前が確かめたいと思った二面性はその女にあったのか?」

その問いかけに男は何も言わずに黙り込んだが、あきらはその態度に親友だからこそ感じられる何かを感じていたが、それは親友であり幼馴染みであるからこそ感じられる心の動きだ。

「なあ司。俺はあの時も言ったが、お前は女に興味を持ったことはなかった。それは俺たちの前にいたのはまがい物の女だったからだ」

「まがい物?」

「ああ。そうだ。けどお前の前に現れたその女がお前にとって本物の女ってことじゃねぇの?お前その女に何か感じるものがあったんだろ?だからその女をブレーンに加えたんだろ?」

司はつい先日高森開発の社長である高森隆三の誕生パーティーに牧野つくしをパートナーとして出席したことを話した。それは社長である母親からの命令で、ビジネスであることが強調されてはいたが、その実は女をブレーンに加えた息子が結婚することに望みを抱いたことがそうさせたと分かっていた。だから、逆にそのパーティーが女の本心を知ることが出来る機会だと同伴することに異を唱えなかった。

何しろ金持ちが大勢集まるパーティーというのは、それに出席する女達にとっては自分をアピールすることが出来る絶好のチャンスであり、人生の必需品と考える金持ちの男との出会いが期待出来る。だからいかに自分を美しく見せるかが女達の頭の中を占め他の女を値踏みするが、あのパーティーでその最たるものが高森の妻である真理子だったことが司にとってはバカの極みのように思えたが、牧野つくしと言えばパーティーに連れてこられたことを喜ぶこともなく、仕事だからといった態度を崩すことはなかった。

そしてパーティー会場にいる男達に目の色を変えることもなければ、誰かを興味深そうに見ることもなかった。
だから女の態度が変わることを期待していた司は、彼の隣で仕方なくとまでは言わないが、控えめな態度を崩さなかった女は男に興味がないのかと思った。
だがそれは違うと分かったのは、若林建設の専務の若林和彦が現れた時だ。
化粧室に行くと言い司の傍を離れた女が部屋に戻って来た時からその様子を見ていたが、若林和彦に対しての態度はそれまでとは違った。

そんな二人の関係はかつての家庭教師と教え子という関係だったが、和彦が女に好きだと言うと、言われた女は頬を赤らめてはいたが、その顔は満更でもないという顔ではなかった。
そして帰りの車の中でそのことについて訊いた時も、同じようにどこか困った表情を浮かべ、6歳年下の若林和彦には同じ年頃の女性の方が似合うと言い切った。

「なあ司。その学者先生だが、その先生は俺らの周りにいる女達とは違って自分の仕事に自信を持っているはずだ。だから男を作ることよりも研究が一番ってタイプの人間じゃねぇのか?俺らが考えているタイプの女とは全く別の次元にいる…..とまでは言わねぇが、学問一筋って女も稀にいるってことじゃねぇの?」

そしてあきらは、司が話した若林和彦のことを口にした。

「なあ俺たちは本物の恋愛をしたことがない。多分それは俺たちの周りに本物の恋愛をした人間がいないことが要因だ。だから俺たちは人の愛し方を知らないってことだ。だがな恋は人生の成長に必要だ。だから若林建設の専務が初恋だって言った学者先生に対する気持ちは今がどうであれ少年の頃の純粋な想いだ。その男が学者先生を好きだって言った言葉は嘘じゃないはずだ。それは俺やお前や総二郎には縁がない想いだが類なら分かるはずだ。あの男は子供の頃からずっと静が好きだった。あのピュアさがどこから来るのかって言われたら俺もわかんねぇけど、初恋って感情は永遠にそのまま。つまり大人になっても甘酸っぱさを残してるってことだ。それに男と女じゃ男の方がロマンチストだ。女達は恋をしていると言いながら現実を見極めるスピードは早い。つまり見極めれば簡単に別れを口にするのは女の方だ。だが男は違う。男と女のどっちが一途かと言えば断然男の方だ」

二人の親友であり幼馴染みの類は、幼い頃からずっと好きだった女性を追いパリへ追いかけて行ったことがあった。

「いいか司。人間の心ってのは不自由なものだ。頭で考えている事と心は別だ。それは身体と心が別っていう男の身勝手にも通じるところだが、お前がその学者先生に何を思うか知らねぇけど、それが分ったら俺にも教えてくれ。それから言っとくが恋は好奇心から始まるものだ。だからお前がその学者先生。牧野って准教授に好奇心を掻き立てられたってことは、それがお前の初恋かもしれねぇぞ?まあ、お前が恋に落ちることは無いんだろうが、それでも俺はお前が恋に落ちたところを見たいと期待するのは…..無理だよな。けど俺思うんだよ。心のどこかで待ってるんじゃねぇかって」

あきらは女と寝るが馴れ合わない司が自分の話をどこまで訊いているのかと思ったが、それはまるで親の心子知らずではないが、親友の心親友知らず、とでも言えばいいのか。
あきらはそこまで言って司が何か言うのを待った。

「何をだ?」

「だからその学者先生の女をだよ。話を訊く限りお前に色目を使う訳でもなし、連れて行かれたパーティーで金持ちの男を物色するでもなし、若い教え子に告白されても困惑する女。つまりその先生は男に対して何かを求めるってよりも、自分で切り開いていくってタイプの女だろ?恐らくそういったタイプの女は弱音も愚痴も一切吐かない。全てをありのままに受け入れるが常に前を向いて歩く。そんな女に巡り合えたお前はある意味運がいいって思うがな」




あきらは仲間の中で女に対しての気配りが一番出来ると言われているが、そのあきらが口にした、そんな女に巡り合えたお前は運がいい、の言葉は本心だというのか?
男の財産も容姿も無意味な物として気にかけない女というのが本当にいるとすれば、それが牧野つくしということか?
そしてあきらが口にした恋は好奇心から始まる、の言葉は牧野つくしが若林和彦に対しても使っていたが、今司が考えていることは、それらと同じだということか?

司は、あきらがじゃあな俺帰えるわ。何か進展があったら教えてくれ。と言って執務室を後にすると、話ついでのように持って来た書類に目を通し始めたが、今は銅鉱山への投資する数字の並びよりも牧野つくしの顔が脳裏に甦っていた。





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コメント
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dot 2018.12.17 06:12 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
今回はあきらが登場。そしてあきらは司の言動から「もしかしてお前初恋じゃねぇの?」ということになりました。
司は女は知っているけど恋は知りませんからね。
愛だの恋だのはガキのするもんだ。とでも思っていることでしょう。
でもそんな男も徐々に気持ちが動いていくはずです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.12.17 22:38 | 編集
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